説明

日射量演算方法及び装置

【課題】 アメダス等の気象データを用いて、水平直達日射量及び水平散乱日射量の時別値の月、旬、半旬平均値を推定する。
【解決手段】 大気透過率Pを多重回帰式:P=αL+βR+γQ+δによって求め、直達日射量を、DH=I*Pcosec(h)*sin(h)によって求める。散乱日射量は、SH=I*(1−Kd/Kds)*sin(h)によって求める。但し、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、P:大気透過率、である。無次元指標Kdは、Kd=DH/(I*sin(h))によって求め、無次元指標Kdsは、Kds=Kd+aKd(1−Kd)によって求める。abcは定数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象データを利用して直達及び散乱日射量を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日射は、土木、建築、環境等の産業において、非常に大きな影響を及ぼす気象要因である。特に、農業生産とは非常に深い関係があり、作物の生育設備や収量の予測、そして栽培施設内の環境調節、制御等に必要な情報である。従って、任意の地点における日射量分布図は、様々な産業に大きく貢献するため、必要性が大きい。
【0003】
1kmメッシュよりも詳細な日射量分布図を作成するには、太陽位置、周辺地形、及び、直達及び散乱日射量の情報が必要である。直達及び散乱日射量は、実際の観測により求める方法と推定計算によって求める方法がある。
【0004】
実際の観測により求める方法は、経済的負担や人的負担が大きいだけでなく、他の地点にて利用することができない欠点がある。従って、直達及び散乱日射量を推定する方法が望ましい。
【0005】
直達及び散乱日射量の推定計算には、任意に地点における日射率データが必要であるが、それは、アメダス等による気象データとして入手可能である。
【0006】
【非特許文献1】天気25(5),61-75, 1978吉田作松・篠木誓一:「日本における月平均全天日射量およびその年々の変動度のマップの作成」
【非特許文献2】Agricultural Meteorology 19, 243-252, 1978Rietveld, M.R.:”A new method for estimating the regression coefficients in the formula relating solar radiation to sunshine”
【非特許文献3】Solar Energy 23, 169-173, 1979Iqbal:”Correlation of average diffuse and beam radiation with hours of bright sunshine”
【非特許文献4】Solar Energy 19, 477-491, 1977Bugler, J.W.:”The determination of hourly insolation on an inclined plane using a diffuse irradiance model based on hourly measured global horizontal insolation”
【非特許文献5】日本建築学会論文報告集第330号,96-108. 1983渡辺俊行・浦野良美・林徹夫:「水平面全天日射量の直山分離と斜面日射量の推定」
【非特許文献6】Agricutural and Forest Meteorology 40, 233-249, 1987Flint, A. L. and Childs, S.W.:”Calculation of solar radiation in mountainous terrain”
【非特許文献7】Agricutural and Forest Meteorology, 95, 169-185, 1999Roderick, M. L.:2Estimating the diffuse component from daily and monthly measurements of global radiation”
【非特許文献8】Ecological Modelling, 129, 113-118, 2000Antonic, O., Marki, A., Krizan, J.:”A global model for monthly mean hourly direct solar radiation”
【非特許文献9】農業土木学会論文集 183,41-46, 1996紙井泰典・近森邦英・丸山利輔:「時間全天日射量からの散乱日射量の推定」
【非特許文献10】農業気象,41(3), 247-255, 1985清野豁・内島善兵衛:「複雑地形地(阿蘇カルデラ)における太陽放射資源量の評価」
【特許文献1】特開昭62-043588 天気計
【特許文献2】実開昭60-134187 日照パターン自動作成更新装置
【特許文献3】特開昭56-094149 太陽エネルギーの予測装置
【特許文献4】特開昭56-094148 太陽エネルギーの予測方法およびその装置
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、アメダス等からの日射率データを用いて全天日射量の月平均値を推定する研究(非特許文献1、2)は、幾つかなされている。また、日照率や雲量等のデータから、月平均日積算日射量を直達及び散乱日射に分離する研究(非特許文献3)も行われている。全天日射量の時別値による直達及び散乱日射の推定(非特許文献4〜9)も試みられている。更に、月平均直達及び散乱日射量の日変化曲線を観測値より導き、時角毎の直達及び散乱日射量の月平均値を推定する式(非特許文献10)も提案されている。
【0008】
従来の研究は、全天日射量、水蒸気圧、そして、大気中のオゾン量のデータ等が必要である。しかしながら、これらのデータを得るために、任意地点における長期の観測が必要となり、また、特別な機材や技術が必要である。
【0009】
アメダスの観測項目のように、比較的容易に入手可能な気象データを用いた推定手法も提案されているが、それらは、月平均値の推定であり、月よりも短い期間の日射量の推定手法は開発されていない。しかし、実際に日射量を用いた農地の生産量の推定や、ハウスや建築物等の設置位置の決定等においては、月よりも短い期間での日射量の推定が必要である。
【0010】
本発明の目的は、入手が比較的容易なアメダス等の気象データを用いて、水平面直達日射量及び水平面散乱日射量の時別値の月、旬、半旬平均値を推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、大気透過率Pを(2)式によって求め、それを用いて、直達日射量DHを(1)の推定式によって求める。無次元指標Kdを(4)式によって求め、それを用いて、無次元指標Kdsを(6)式によって求める。2つの無次元指標Kd、Kdsを(3)式に代入して、散乱日射量SHを求める。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、水平面直達日射量及び水平面散乱日射量の時別値の月、旬、半旬平均値が得られるから、任意地点の日射量を簡便に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
先ず、本発明の概念を説明する。直達日射量DHを求める式は既知であり、次のように表される。
DH=I*Pcosec(h)*sin(h) (1)
ここで、DH:水平面直達日射量、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、P:大気透過率、である。
大気圏外日射量I及び太陽高度角hは気象データから得られるから、大気透過率Pが得られれば、直達日射量DHが求められる。
【0014】
そこで、本発明者は、次のように、大気透過率Pを目的変数、日照時間、降水量、水平面大気外日射量の時別値を説明変数とする多重回帰式を発案した。
P=αL+βR+γQ+δ (2)
ここで、α、β、γ:偏回帰係数、δ:定数、L:時別日射率、R:降水量(mm/h)、Q:水平面大気外日射量(MJ/mh)である。
【0015】
更に、本発明者は、次のように、散乱日射量SHの演算式を発案した。
SH=I*(1−Kd/Kds)*sin(h) (3)
ここで、SH:水平面散乱日射量、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、Kd、Kds:無次元指標、である。尚、無次元指標Kd、Kdsは、非特許文献4にて提案されたものであり、次式で表される。
【0016】
Kd=DH/(I*sin(h)) (4)
Kds=DH/{(I*sin(h))−SH}
=Kd*{1−SH/(I*sin(h))}−1 (5)
【0017】
(4)式において、直達日射量DHは(1)式から求められ、大気圏外日射量I及び太陽高度角hは気象データから得られるから、無次元指標Kdを算出することはできる。従って、(3)式において、無次元指標Kdsが得られれば、散乱日射量SHを求めることができる。
【0018】
(5)式よりKdsはKdの関数である。そこで、本発明者は、KdとKdsの観測値データを用いて、リニア最小二乗法により次の推定式を作成した。
【0019】
Kds=Kd+aKd(1−Kd) (6)
ここで、a、b、c:定数である。潮岬気象台の1991〜2000年のデータから大気透過率Pの回帰係数α、β、γ及び無次元指標Kdsの係数a、b、cを求めた結果は次のとおりである。尚、rは重相関係数である。
【0020】
月平均値
P=0.5879L−0.02104R−0.1360Q+0.5099 (r=0.6883)
Kds=Kd+1.4326Kd1.5733(1−Kd)1.6208 (r=0.8928)
【0021】
旬平均値
P=0.5596L−0.01403R−0.1244Q+0.4873 (r=0.6655)
Kds=Kd+0.8597Kd1.3160(1−Kd)1.0695 (r=0.9087)
【0022】
半旬平均値
P=0.5288L−0.01473R−0.1206Q+0.4903 (r=0.6525)
Kds=Kd+0.7696Kd1.2455(1−Kd)0.9281 (r=0.9087)
【0023】
こうして大気透過率Pと無次元指標Kdsが求められるから、(1)(3)の式より、直達日射量DHと散乱日射量SHが求められる。直達日射量DHと散乱日射量SHの演算結果の例を図5、図6及び図7に示す。
【0024】
本発明によれば、アメダス等の気象データから直達日射量DHと散乱日射量SHが求められる。直達日射量DH及び散乱日射量SHと周辺地形の数値情報から、任意の地域の日射量分布図を作成することができる。従って、地域の日射環境の評価を容易に行うことができる。この日射量分布図は、多様な地形を有する中山間地域において、栽培施設の設置位置の選定及び作業作物の評価、更には、地域計画への活用が期待される。
【0025】
本発明によれば、ハウスばかりでなく、様々な施設の建設候補地の熱環境評価を簡単に行うことができる。従って、様々な施設の建設地の選定の要因の1つとして、熱環境を採用することができる。また、太陽電池を設置する場合、その地点にて得られる電力計算にも本発明を利用することができる。
【0026】
次に、本発明の実施例を説明する。図1に示すように本発明はコンピュータ装置によって実現することができる。コンピュータ装置は、本体1、表示装置2、及び、入力装置3を有する。本体1は、典型的には、CPU、メモリ、ハードデスク等を含む。
【0027】
図2は、本発明による日射量演算装置の構成例を示す図である。本例の日射量演算装置は、αβγ演算部11、大気透過率演算式設定部12、大気透過率演算部13、直達日射量演算部14、無次元指標Kd演算部15、abc演算部16、無次元指標Kds演算式設定部17、無次元指標Kds演算部18、及び、散乱日射量演算部19を有する。本例の日射量演算装置は、図1に示したコンピュータ装置によって構成されてよいが、コンピュータ装置によって読み取り可能なプログラムとして構成してよい。
【0028】
図3を参照して、本発明による日射量演算装置によって直達日射量DHを演算する処理を説明する。ステップS101にて、αβγ演算部11は、(2)式の、偏回帰係数α、β、γ及び定数δを演算する。偏回帰係数α、β、γ及び定数δの演算は、上述のように、気象データを用いる。ステップS102にて、大気透過率演算式設定部12は、ステップS101にて求めた偏回帰係数α、β、γ及び定数δを(2)式に代入して、大気透過率演算式を設定する。ステップS103にて、大気透過率演算部13は、偏回帰係数α、β、γ及び定数δが設定された(2)式を使用して、大気透過率Pの値を求める。ステップS104にて、直達日射量演算部14は、(1)式を使用して、直達日射量DHを求める。大気圏外日射量I、及び、太陽高度角hは気象データから得られる。大気透過率PはステップS103にて求めた。これらのパラメータ値I、h、Pを(1)式に代入することによって、直達日射量DHが得られる。
【0029】
図4を参照して、本発明による日射量演算装置によって散乱日射量SHを演算する処理を説明する。ステップS201にて、abc演算部16は、(6)式の、定数a、b、cを演算する。定数a、b、cの演算は、上述のように、気象データを用いる。ステップS202にて、無次元指標Kds演算式設定部17は、ステップS201にて求めた定数a、b、cを(6)式に代入して、無次元指標Kds演算式を設定する。
【0030】
ステップS203にて、無次元指標Kd演算部15は、(4)式を使用して、無次元指標Kdの値を求める。ステップS204にて、無次元指標Kds演算部18は、定数a、b、cが設定された(6)式を使用して、無次元指標Kdsを求める。ステップS205にて、散乱日射量演算部19は、(3)式を使用して、散乱日射量SHを求める。大気圏外日射量I、及び、太陽高度角hは気象データから得られる。無次元指標KdはステップS203にて求めた。無次元指標KdsはステップS204にて求めた。これらのパラメータ値I、h、Kd、Kdsを(3)式に代入することによって、散乱日射量SHが得られる。
【0031】
以上、本発明の例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲にて様々な変更が可能であることは当業者に容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を実現するための装置の例を示す図である。
【図2】本発明による日射量演算装置の構成例を示す図である。
【図3】本発明による日射量演算方法によって直達日射量を演算する処理を示す図である。
【図4】本発明による日射量演算方法によって散乱日射量を演算する処理を示す図である。
【図5】本発明による計算方法によって月平均日積算日射量の計算例を示す図である。
【図6】本発明による計算方法によって旬平均日積算日射量の計算例を示す図である。
【図7】本発明による計算方法によって半旬平均日積算日射量の計算例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…コンピュータ装置本体、2…表示装置、3…入力装置、11…αβγ演算部、12…大気透過率演算式設定部、13…大気透過率演算部、14…直達日射量演算部、15…無次元指標Kd演算部、16…abc演算部、17…無次元指標Kds演算式設定部、18…無次元指標Kds演算部、19…散乱日射量演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気透過率Pを目的変数、時別日射率L、降水量R、及び、水平面大気外日射量Qを説明変数とし、α、β、γを偏回帰係数、δを定数とする多重回帰式:P=αL+βR+γQ+δにおいて、上記偏回帰係数α、β、γ及び定数δを演算する偏回帰係数及び定数演算ステップと、
上記偏回帰係数及び定数演算ステップにて求めた上記偏回帰係数α、β、γ及び定数δの値を上記多重回帰式に代入して大気透過率P演算式を設定する大気透過率P演算式設定ステップと、
上記大気透過率P演算式を用いて大気透過率Pの値を演算する大気透過率演算ステップと、
上記大気透過率Pを変数とする次の演算式を使用して水平面直達日射量DHを演算する水平面直達日射量演算ステップと、
を有する日射量演算方法。
DH=I*Pcosec(h)*sin(h)
ここで、DH:水平面直達日射量、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、P:大気透過率、である。
【請求項2】
請求項1記載の日射量演算方法において、
上記直達日射量DHを変数とする演算式:Kd=DH/(I*sin(h))を用いて第1無次元指標Kdを演算する第1無次元指標Kd演算ステップと、
上記第1無次元指標Kdを変数、a、b、cを定数とする第2無次元指標Kds演算式:Kds=Kd+aKd(1−Kd)において、上記定数a、b、cを演算する定数演算ステップと、
上記定数演算ステップにて求めた上記定数a、b、cを上記第2無次元指標Kds演算式に代入して第2無次元指標Kds演算式を設定する第2無次元指標Kds演算式設定ステップと、
上記第2無次元指標Kds演算式に上記第1無次元指標Kd演算ステップにて演算した第1無次元指標Kdを代入して第2無次元指標Kdsを演算する第2無次元指標Kds演算ステップと、
上記第1無次元指標Kdと上記第2無次元指標Kdsを変数とする次の演算式を使用して水平面散乱日射量SHを演算する水平面散乱日射量演算ステップと、
を有する日射量演算方法。
SH=I*(1−Kd/Kds)*sin(h)
ここで、SH:水平面散乱日射量、I:大気圏外日射量、Kd、Kds:第1及び第2無次元指標、である。
【請求項3】
請求項1、2のいずれか1項記載の日射量演算方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータに読み取り可能なプログラム。
【請求項4】
大気透過率Pを目的変数、時別日射率L、降水量R、及び、水平面大気外日射量Qを説明変数とし、α、β、γを偏回帰係数、δを定数とする多重回帰式:P=αL+βR+γQ+δにおいて、上記偏回帰係数α、β、γ及び定数δを演算するαβγ演算部と、上記αβγ演算部にて演算した上記偏回帰係数α、β、γ及び定数δの値を上記多重回帰式に代入して大気透過率P演算式を設定する大気透過率P演算式設定部と、上記大気透過率P演算式を用いて大気透過率Pの値を演算する大気透過率演算部と、直達日射量DHを次の推定式:DH=I*Pcosec(h)*sin(h)(ここで、DH:水平面直達日射量、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、P:大気透過率、である。)によって求める水平面直達日射量演算部と、第1無次元指標Kdを変数、a、b、cを定数とする第2無次元指標Kdsを求める演算式:Kds=Kd+aKd(1−Kd)において、上記定数a、b、cを演算するabc演算部と、
上記abc演算部にて求めた上記定数a、b、cを上記演算式に代入して第2無次元指標Kds演算式を設定する第2無次元指標Kds演算式設部と、第1無次元指標Kdを演算式:Kd=DH/(I*sin(h))(ここで」、DH:水平面直達日射量、I:大気圏外日射量、h:太陽高度角、である。)によって求める第1無次元指標Kd演算部と、上記第2無次元指標Kds演算式に上記第1無次元指標Kd演算部にて求めた第1無次元指標Kdを代入して第2無次元指標Kdsを演算する第2無次元指標Kds演算部と、上記第1無次元指標Kd演算部にて求めた第1無次元指標Kd及び上記第2無次元指標Kds演算部で求めた第2無次元指標Kdsを用いて、散乱日射量SHを推定式:SH=I*(1−Kd/Kds)*sin(h)(ここに、SH:水平面散乱日射量、I:大気圏外日射量、Kd、Kds:第1及び第2無次元指標、である。)によって求める散乱日射量SH演算部と、を有する日射量演算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−234591(P2006−234591A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49950(P2005−49950)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物:農業環境工学関連4学会2004年合同大会 講演要旨集 発表日:平成16年9月6日 講演場所:福岡国際会議場 講演番号:B109
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)