説明

昇華型熱転写プリンタ

【課題】 サーマルヘッドの放熱不足による印画面への影響、ヘッドの焦げ付きといった不具合の発生を抑えて、熱転写プリンタの印刷速度の高速化への適応性を高める。
【解決手段】 サーマルヘッド5とプラテンローラ3との間にインクリボン50及び受像紙100を挟み込み、サーマルヘッド5の熱によりインクリボン5上のインクを昇華させて受像紙100に転写する昇華型熱転写プリンタにおいて、インクリボン50の巻き取り力がサーマルヘッド5に作用していない状態で、サーマルヘッド5の発熱部5aの頂点5bをプラテンローラ3の頂点3aにおける法線NLよりもインクリボン50の巻き取り側にずらして設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華転写方式により画像を印刷する熱転写プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の昇華型熱転写プリンタにおいては、メディア(受像紙及びインクリボン)の熱伝達速度との関連において印画速度が十分に遅く、一つのラインの印画を終えた後に次のラインの印画に対応してヘッドが発熱する迄の間に、サーマルヘッドに蓄えられた余分な熱を放熱させることが比較的容易であった。このため、熱転写プリンタの機械設計においては、印画シワの発生防止などに注意すればよく、ヘッド位置については印画面にざらつきが発生しない程度に注意を払えば十分であった。
【0003】
しかし、最近は印画速度の高速化が著しく、これに伴って印画速度がメディアの熱伝達速度からみて限界に近付いている。特に1cmあたり0.24秒よりも速く印画を行うプリンタではこの状況が顕著に現れ始める。同様に、サーマルヘッドと、インクリボンの背面層、すなわちインクリボンのサーマルヘッドと接する層との間の摩擦係数も、印画速度の高速化に伴って低減することが求められている。
【0004】
熱転写プリンタにおける背面層とサーマルヘッドとの摩擦はいわゆる境界潤滑の理論に従う問題であり、よりすべる背面層を得るためには、よりもろい材料にて背面層を形成することが好ましい。つまり、背面層がサーマルヘッドに削り取られながらすべるように背面層を設計することが求められる。しかしながら、そのような設計では、背面層から微妙に削り取られた成分が蓄熱成分として働くため、サーマルヘッドの放熱不足による印画面への影響(いわゆる色尾引き)が悪化するおそれがある。色尾引きとは、サーマルヘッドの余熱により、受像紙上で印画が行われるべき領域に後続する部分に、印画データでは印画が指示されていないにも拘わらずインクが転写される現象である。また、削りとられた背面層の成分がサーマルヘッドに蓄積された場合、印画時におけるサーマルヘッドの発熱によって蓄積物が焦げ付きを起こし、それによりサーマルヘッドの寿命が短縮されるおそれがある。このような問題を背面層の設計のみで解決しようとすると、インクリボンの開発障壁は非常に高くなる。
【0005】
ところで、従来の熱転写プリンタにおいて、サーマルヘッドとプラテンローラとの位置関係は、サーマルヘッドの発熱部がその頂点においてプラテンローラと接するように設計されている。上述した問題点との関連においてサーマルヘッドとプラテンローラとの位置関係を検討した例はこれまで見当たらない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、プリンタの機械設計を改良することにより、サーマルヘッドの放熱不足による印画面への影響、ヘッドの焦げ付きといった不具合の発生を抑えて印刷速度の高速化への適応性を高めることができ、高速印画適性適性を備えたインクリボン背面層の開発に対しての障壁を低減することが可能な熱転写プリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サーマルヘッド(5)とプラテンローラ(3)との間にインクリボン(50)及び受像紙(100)を挟み込み、前記サーマルヘッドの熱により前記インクリボン上のインクを昇華させて前記受像紙に転写する昇華型熱転写プリンタにおいて、前記インクリボンの巻き取り力が前記サーマルヘッドに作用していない状態で、前記サーマルヘッドの発熱部(5a)の頂点(5b)が前記プラテンローラの頂点(3a)における法線(NL)よりも前記インクリボンの巻き取り側にずれていることにより、上述した課題を解決する。
【0008】
熱転写プリンタにおいては、印画時にプラテンローラ及びサーマルヘッドの両者にメディアの送り方向への力が加わる。プラテンローラは自らが回転することによって送り方向への力を逃がすことができるが、サーマルヘッドは送り方向の力を逃がすことができないのでインクリボンの巻き取り側に幾らか変位する。仮に、インクリボンの巻き取り力が作用していない状態においてサーマルヘッドの発熱部の頂点がプラテンローラの頂点における法線上に位置している場合、印画時にはサーマルヘッドがそのプラテンローラの頂点から巻き取り側に相対的に変位する。このような変位が生じると、サーマルヘッドを当初の設定通りにメディアに当てておくことができず、サーマルヘッドからメディアへの熱伝達が損なわれてサーマルヘッドの放熱効率が低下する。
【0009】
これに対して、本発明の熱転写プリンタによれば、サーマルヘッドの発熱部の頂点がプラテンローラの頂点における法線よりもインクリボンの巻き取り側に予めずらして配置されているので、そのずれた状態を基準としてサーマルヘッドとプラテンローラとの間に適切な接触圧をかけておけば、インクリボンの巻き取り力でサーマルヘッドが巻き取り側に変位した場合でも、メディアに対してサーマルヘッドを十分に接触させてサーマルヘッドからメディアへ効率よく熱を逃がすことができる。この結果、放熱不足に起因する印画品質の低下、ヘッドの焦げ付きといった不具合の発生が抑制される。また、サーマルヘッドの放熱効率を十分に確保することができるので、高速印画適性を備えたインクリボン背面層の開発に対する障壁も下げることができる。
【0010】
本発明の好ましい一形態においては、前記インクリボン(50)の巻き取り力が前記サーマルヘッド(5)に作用していない状態で、前記サーマルヘッドと前記プラテンローラ(3)との間に作用する接触圧が4〜10N/cmの範囲に設定される。接触圧を4N/cm以上に確保すれば、インクリボンの巻き取り側にサーマルヘッドが変位してもメディアとサーマルヘッドとを十分に接触させて放熱効率の低下を抑えることができる。他方、接触圧を10N/cm以下に制限すれば、サーマルヘッドとインクリボン背面層との過剰な圧力下における摩擦を回避してインクリボン背面層の剥がれの発生頻度を大幅に低下させ、背面成分の蓄熱作用に起因する印画面への悪影響、サーマルヘッドへの背面成分の蓄積といった不具合をより確実に抑えることができる。ここでいう接触圧はサーマルヘッドとプラテンローラとが線接触していると考えた場合の接触部分における単位長さ当りの荷重である。すなわち、上記の数値範囲は、荷重の負荷に伴うプラテンローラの変形を無視したときの理想的な状態を基準とした接触圧の好適範囲を示している。
【0011】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0012】
以上に説明したように、本発明によれば、印画時にインクリボンの巻き取り力がサーマルヘッドに作用してもサーマルヘッドをメディアに十分に接触させてサーマルヘッドからメディアへ効率よく熱を逃がすことができるので、放熱不足に起因する印画品質の低下、ヘッドの焦げ付きといった不具合の発生を抑えるとともに、高速印画適性を備えたインクリボン背面層の開発に対する障壁を引き下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(a)及び図1(b)は、本発明の一形態に係る熱転写プリンタ1の概要を示す。図1(a)は側面図、図1(b)は上面図である。プリンタ1は、受像紙(印画物)100にインクリボン50のインクを熱転写して画像を形成する昇華型熱転写プリンタとして構成されている。受像紙100は、例えばローラ状に巻かれた状態でプリンタ1に取り付けられ、印画に必要な量だけローラから引き出される。インクリボン50は基材シート上にイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色材層と、オーバープリント(OP)層とが送り方向yの逆方向に沿って順に設けられた周知の構成を有している。
【0014】
プリンタ1は、受像紙100を支持しつつ搬送するプラテンローラ3と、未使用のインクリボン50が巻かれた巻き出しローラ4と、巻き出しローラ4から繰り出されたインクリボン50を加熱するサーマルヘッド5と、サーマルヘッド5により加熱されたインクリボン50を巻き取る巻き取りローラ6とを備えている。プラテンローラ3、巻き出しローラ4、サーマルヘッド5、巻き取りローラ6は、送り方向yと直交するように配置されており、受像紙100の全幅に亘って延びている。
【0015】
図2はサーマルヘッド5とプラテンローラ3との接触位置付近の拡大図である。但し、図2における寸法比は説明のために誇張されており、現実の寸法比とは必ずしも一致しない。図2に示すように、サーマルヘッド5はインクリボン50に熱を加えるための発熱部5aを有している。発熱部5aはプラテンローラ3に向って弧状(図では円弧状)に突出する断面形状を有している。その発熱部5aの頂点5b、すなわちプラテンローラ3に向かって最も突出してインクリボン50及び受像紙100に対する加圧の中心となる位置は、インクリボン50の巻き取り力Fyがサーマルヘッド5に作用していない状態、換言すればインクリボン50の巻き取りを停止させた状態で、プラテンローラ3の頂点3aにおける法線NL(中心Cpと頂点3aとを結んで得られる直線)よりもインクリボン50の巻き取り側にずれている。なお、ここでいう巻き取り側とは、法線NLを境としてインクリボン50及び受像紙100が送り出される側を意味する。
【0016】
以上のようにサーマルヘッド5を配置した場合には、発熱部5aの頂点5bを法線NL上に配置した場合と比較して、印画時にインクリボン50の巻き取り力Fyでサーマルヘッド5が巻き取り側に変位しても発熱部5aを十分な圧力でメディアに接触させておくことができる。これにより、一ラインの印画が完了した後、次のラインの印画のために発熱部5aが発熱する前に、発熱部5aに蓄えられた余分な熱をインクリボン50及び受像紙100に逃がして色尾引き等の発生を抑えることができる。
【0017】
プラテンローラ3の頂点3aにおける法線NLと直交する方向(図1の送り方向yに相当)における頂点3a、5b間のずれ量Δyは、印画時におけるサーマルヘッド5の変位、その変位に伴う接触状態の変化等に応じて適宜に定めてよいが、なるべくは0.1〜0.9mmの範囲に設定することが好ましく、さらには0.2〜0.8mmの範囲に設定すればより好ましい。インクリボン50の巻き取りを停止させた状態を基準として、プラテンローラ3とサーマルヘッド5との間の接触圧(印圧)は4〜10N/cmの範囲に設定されている。接触圧をこの範囲に設定する利点は上述した通りである。
【0018】
本発明は以上の形態に限らず、種々の形態にて実施してよい。例えばサーマルヘッドの発熱部は円弧状に湾曲する断面形状を有するものに限らず、メディアに対する加圧の中心としての頂点を有する限りは適宜の断面形状のものでよい。インクリボンはオーバープリント層を有しないものでもよいし、単色の色材層のみが設けられたものでもよい。受像紙は紙基材によるものに限定されず、フィルム基材によるものも受像紙の概念に含まれる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。熱転写プリンタのサーマルヘッドの頂点とプラテンローラの頂点とのずれ量Δy(図2)を適宜に変化させて印画を行ったときの色尾引き、及び印画物の濃淡ムラの発生を評価した。実験条件は以下の通りである。
【0020】
(1)プリンタの仕様及び設定値
・印画ライン速度:0.1〜2.0ms/line(300dpi換算)範囲で可変とし、実験では1.0ms/lineに設定した。
・サーマルヘッドに対する印加電圧のパルスデューティ:0〜96%の範囲内で可変とし、実験では85%に設定した。
・サーマルヘッドの電源:35V−20Vの変圧器を使用した。実験では27Vに設定した。
・サーマルヘッド:東芝ホクト電子株式会社製サーマルプリントヘッドF3598、主走査方向解像度301dpi、抵抗値5212Ω
・プラテンローラ直径:16mm
・プラテンローラの幅:165mm
【0021】
(2)印圧
サーマルヘッドの印画ライン方向(プラテンローラの軸線方向)に離間した2箇所に小型圧縮型ロードセルLM−50GA(共和電業株式会社製)をそれぞれ配置し、これらのロードセルを介してサーマルヘッドをプラテンローラに押し当て、印画時の印圧として測定した。2つのロードセルの圧力合計値をプラテン幅165mmで割った値が上述した4〜10N/cmの範囲に入るように印圧を調整した。
【0022】
(3)印画時のサーマルヘッド温度
貼り付け型熱電対ST−50(M.S.エンジニアリング株式会社製)を用いてサーマルヘッド側面の金属部分の温度を測定した。実験では、この金属部分の温度が30.0°Cの時に印画を開始した。
【0023】
(4)サーマルヘッドの位置
マイクロメータを用いてサーマルヘッドの巻き取り方向における位置を確認した。マイクロメータの最小目盛りは0.04mmである。初期調整では、印画面に色ムラ(カスレ)が発生する左右ロードセルの測定値の最大値と最小値を見積もり、ロードセルの測定値がそれらの最大値と最小値との中間の値となる位置をΔy=0とした。
【0024】
(5)インクリボン、受像紙
オリンパス株式会社製の昇華転写プリンタP−400用のインクリボンと受像紙を使用した。
【0025】
(6)印画パターン
印画開始位置から受像紙の送り方向に5cmの範囲を100%ベタ印刷し、続く5cmを50%ベタ印刷した。
【0026】
以上の条件で実験したときのずれ量Δyと印画物上の色尾引き量及び濃度を評価した結果を下表に示す。なお、色尾引き量に関しては、100%ベタ印刷部分の最後部からの色尾引き部分の受像紙送り方向長さを計測し、色尾引き量が0〜1mmの範囲を○、1〜5mmの範囲を△、5mm以上の場合を×でそれぞれ示した。また、濃度ムラについては目視により評価し、正常に印画できている場合を○、目視で濃度ムラが観察されたものを×でそれぞれ示している。ずれ量Δyの負の値は、サーマルヘッドの頂点をプラテンローラの頂点よりもインクリボンの巻き出し側にずらしていることを示している。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1〜6と比較例1、2との対比によれば、ずれ量Δyが正、すなわちサーマルヘッドの頂点をプラテンローラの頂点よりもインクリボンの巻き取り側にずらした本発明の実施例1〜6において、色尾引き量を低減し、あるいは濃度ムラの発生を防止できることが確認された。また、実施例1〜5と実施例6との比較によれば、印圧を4〜10N/cmに設定した場合には色尾引き量をさらに確実に低減できることが確認された。さらに、実施例1〜4によれば、色尾引き量の減少を図りつつ濃度ムラの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一形態に係る熱転写プリンタの概略構成を示す図。
【図2】図1のプリンタにおけるサーマルヘッドとプラテンローラとの接触位置付近の拡大図。
【符号の説明】
【0030】
1 熱転写プリンタ
3 プラテンローラ
3a プラテンローラの頂点
4 巻き出しローラ
5 サーマルヘッド
5a サーマルヘッドの発熱部
5b 発熱部の頂点
6 巻き取りローラ
50 インクリボン
100 受像紙
NL プラテンローラの法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマルヘッドとプラテンローラとの間にインクリボン及び受像紙を挟み込み、前記サーマルヘッドの熱により前記インクリボン上のインクを昇華させて前記受像紙に転写する昇華型熱転写プリンタにおいて、前記インクリボンの巻き取り力が前記サーマルヘッドに作用していない状態で、前記サーマルヘッドの発熱部の頂点が前記プラテンローラの前記サーマルヘッドの頂点における法線よりも前記インクリボンの巻き取り側にずれていることを特徴とする昇華型熱転写プリンタ。
【請求項2】
前記インクリボンの巻き取り力が前記サーマルヘッドに作用していない状態で、前記サーマルヘッドと前記プラテンローラとの間に作用する接触圧が4〜10N/cmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の昇華型熱転写プリンタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−239924(P2006−239924A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55765(P2005−55765)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】