説明

易崩壊型ポリマーミセル組成物

【課題】薬物を安定して内包し、かつ、適切に放出し得るポリマーミセル組成物、および該ポリマーミセル組成物を用いた医薬組成物を提供すること。
【解決手段】疎水性ポリマー鎖セグメント12と親水性ポリマー鎖セグメント11とを有するブロックコポリマーを含有し、複数の該ブロックコポリマーが該疎水性ポリマー鎖セグメント12を内側に向けると共に該親水性ポリマー鎖セグメント11を外側に向けた状態で放射状に配置され、該ブロックコポリマーとして、HDL20と親和性を有するブロックコポリマー10を含有しており、該親和性に起因するHDL20の付着によって該HDL20と親和性を有するブロックコポリマー10の脱離が誘導され、該脱離によって隙間が形成されることにより、内包されるべき薬物50の放出が促進される、ポリマーミセル組成物;および、該ポリマーミセル組成物と該ポリマーミセル組成物に内包された薬物とを含有する、医薬組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーミセル組成物および該ポリマーミセル組成物を用いた医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントを有するブロックコポリマーを薬物担体として用いること、および該コポリマーが形成するポリマーミセルに一定の薬物を封入する方法が知られている(例えば、特許文献1または2)。また、水難溶性薬物を封入した均質なポリマーミセルを含有する組成物およびその調製方法も知られている(特許文献3)。
【0003】
具体的には、特許文献1または2には、予め水性媒体中でブロックコポリマーのミセルを形成しておき、これらのミセル溶液に薬物を加え、場合によって加熱や超音波処理下で混合撹拌することによって、薬物をミセル内に封入する方法が記載されている。また、特許文献3には、ブロックコポリマーと薬物を水混和性の極性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等)に溶解し、次いで水に対して透析することにより、薬物が封入されたポリマーミセルを調製する方法が記載されている。
【0004】
上記の従来技術によれば、薬物のキャリヤーとしてポリマーミセルを使用することに薬物の徐放化を含む各種の利点が存在することがわかる。しかしながら、従来のポリマーミセルによれば、薬物がミセル内に非常に安定して内包されることにより、薬物の適切な放出が阻害され、放出速度が所望の速度よりも遅くなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−107565号公報
【特許文献2】米国特許第5,449,513号明細書
【特許文献3】特開平11−335267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、薬物を安定して内包し、かつ、適切に放出し得るポリマーミセル組成物、および該ポリマーミセル組成物を用いた医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ポリマーミセル組成物が提供される。該ポリマーミセル組成物は、疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーを含有し、複数の該ブロックコポリマーが該疎水性ポリマー鎖セグメントを内側に向けると共に該親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けた状態で放射状に配置された、ポリマーミセル組成物であって、該ブロックコポリマーとして、HDLと親和性を有するブロックコポリマーを含有しており、該親和性に起因するHDLの付着によって該HDLと親和性を有するブロックコポリマーの脱離が誘導され、該脱離によって隙間が形成されることにより、内包されるべき薬物の放出が促進される。
本発明の別の局面によれば、医薬組成物が提供される。該医薬組成物は、ポリマーミセル組成物と該ポリマーミセル組成物に内包された薬物とを含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬物を安定して内包し、かつ、適切に放出し得るポリマーミセル組成物、および該ポリマーミセル組成物を用いた医薬組成物が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のポリマーミセル組成物とリポタンパクとの相互作用を説明する概念図である。
【図2】各リポタンパク画分中のポリマー含有量の比を表すグラフである。
【図3】G−CSFの血漿中濃度時間推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0011】
A.ポリマーミセル組成物
本発明のポリマーミセル組成物は、疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーを含有し、複数の該ブロックコポリマーは、該疎水性ポリマー鎖セグメントを内側に向けると共に該親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けた状態で放射状に配置されており、該ブロックコポリマーとして、HDL(高比重リポタンパク)と親和性を有するブロックコポリマー(以下、「HDL親和性ブロックコポリマー」と称する場合がある)を含有している。本発明のポリマーミセル組成物によれば、該親和性に起因するHDLの付着によってHDL親和性ブロックコポリマーの脱離が誘導され、該脱離によって隙間が形成されることにより、内包されるべき薬物の放出が促進される。ここで、HDLの付着は、HDLの存在下(例えば、血漿中)でポリマーミセル組成物をインキュベートした後にHDL画分を精製した場合に、該HDL画分にブロックコポリマーが存在すること等によって確認することができる。なお、本発明において、「疎水性ポリマー鎖セグメント」および「親水性ポリマー鎖セグメント」はそれぞれ、これらの2つのセグメントを有する複数のブロックコポリマーが、水性媒体中で、上記の状態で配置されたミセルを形成し得る限り、任意の適切な疎水性度および親水性度であり得る。上記水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液等の水性緩衝液が挙げられる。また、内包されるべき薬物については、B項において詳述する。
【0012】
本発明において、ポリマーミセル組成物からの薬物の放出が促進される理由は、次のように推測される。図1(A)に示すように、血中において、約10nmという小さい平均粒径を有するHDL20は、親水性ポリマー鎖セグメント11と疎水性ポリマー鎖セグメント12とを有するHDL親和性ブロックコポリマー10を含有するポリマーミセルの内側(疎水性ポリマー鎖セグメント領域)にまで容易に侵入することができる。ここで、HDL親和性ブロックコポリマー10は、そのHDL親和性に起因して、疎水性ポリマー鎖セグメント領域まで侵入してきたHDL20と相互作用し、HDL20が付着することによって、ポリマーミセルから優先的に脱離する。その結果、ポリマーミセル構造に隙間が形成され、内包された薬物50が放出されやすくなり、また、ポリマーミセルの崩壊が起こりやすくなるので、薬物50の放出が促進される。一方、図1(B)に示すように、約26nmという比較的大きい平均粒径を有するLDL(低比重リポタンパク)30や、それ以上の粒径を有するVLDL(超低比重リポタンパク)40は、ポリマーミセルの内側にまで侵入しにくい。そのため、ブロックコポリマー10がこれらのリポタンパクと相互作用しにくく、ポリマーミセルから脱離しにくい。その結果、ポリマーミセル構造が維持されて、薬物50の放出を促進することが困難になる。
【0013】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントは、代表的には、ポリアミノ酸からなり、該ポリアミノ酸は、アミノ酸の側鎖に環式構造を有する疎水性基が導入された疎水性誘導体由来の繰り返し単位を含有する。該環式構造を有するアミノ酸の疎水性誘導体は、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸の疎水性誘導体であり、該酸性アミノ酸側鎖のカルボキシル基に環式構造を有する疎水性基が導入され得る。
【0014】
上記環式構造を有する疎水性基としては、特に限定されず、単環式構造を有する基であってもよく、多環式構造を有する基であってもよい。本発明においては、例えば、芳香族基、脂環式基、ステロールの残基が用いられ得、好ましくはC〜C16の環状構造を有するアルキル基、C〜C20のアリール基、C〜C20のアラルキル基、およびステロールの残基が用いられ得る。なお、本発明において、ステロールとは、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環(C1728)をベースとする天然、半合成または合成の化合物、さらにはそれらの誘導体を意味する。例えば、天然のステロールとしては、コレステロール、コレスタノール、ジヒドロコレステロール、コール酸、カンペステロール、シストステロール等が挙げられ、その半合成または合成の化合物としては、これら天然物の例えば、合成前駆体(必要により、存在する場合には、一定の官能基、ヒドロキシ基の一部もしくは全部が当該技術分野で既知のヒドロキシ保護基により保護されているか、またはカルボキシル基がカルボキシル保護により保護されている化合物を包含する)であることができる。また、ステロール誘導体とは、本発明の目的に悪影響を及ぼさない範囲内で、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環にC〜C12アルキル基、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子等が導入されていてもよく、該環系は飽和または部分不飽和であることができること等を意味する。
【0015】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントは、本発明の効果が得られる範囲において、上記環式構造を有するアミノ酸の疎水性誘導体由来の繰り返し単位に加えて、他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位としては、任意の適切な繰り返し単位が採用され得る。好ましい他の繰り返し単位としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、および該酸性アミノ酸にC〜C16の未置換もしくは置換された直鎖または分岐アルキル基が導入された疎水性誘導体由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0016】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントを構成する全繰り返し単位(100モル%)に対する上記環式構造を有するアミノ酸の疎水性誘導体由来の繰り返し単位の含有量は、好ましくは10〜100モル%、さらに好ましくは20〜80モル%である。このような含有量であれば、HDLとの親和性に優れたブロックコポリマーが得られ得る。
【0017】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの親水性ポリマー鎖セグメントとしては、任意の適切な親水性ポリマーが採用され得る。該親水性ポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリサッカライド、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリアミノ酸、ポリ(リンゴ酸)、またはこれらの誘導体が挙げられる。ポリサッカライドの具体例としては、デンプン、デキストラン、フルクタン、ガラクタン等が挙げられる。これらのなかでも、ポリ(エチレングリコール)は、末端に種々の官能基を有する末端反応性ポリエチレングリコールが市販されており、また、種々の分子量のものが市販されており、容易に入手できることから、好ましく用いられ得る。
【0018】
上記HDL親和性ブロックコポリマーにおいて、上記親水性ポリマー鎖セグメントと疎水性ポリマー鎖セグメントとは、任意の適切な連結基によって連結されている。該連結基としては、エステル結合、アミド結合、イミノ基、炭素−炭素結合、エーテル結合等が挙げられる。また、上記疎水性ポリマー鎖セグメントの親水性ポリマー鎖セグメント側末端とは反対側の末端および/または上記親水性ポリマー鎖セグメントの疎水性ポリマー鎖セグメント側末端とは反対側の末端には、ポリマーミセルの形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の適切な修飾がなされ得る。
【0019】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの好ましい具体例は、以下の一般式(I)および(II)で表され得る。本発明のポリマーミセル組成物は、2種類以上のHDL親和性ブロックコポリマーを含有していてもよい。
【化1】


上記各式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または保護されていてもよい官能基で置換されたもしくは未置換の低級アルキル基を表し;
は水素原子、飽和もしくは不飽和のC〜C29脂肪族カルボニル基またはアリールカルボニル基を表し;
は水酸基、飽和もしくは不飽和のC〜C30脂肪族オキシ基またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し;
は−O−または−NH−を表し;
は、水素原子、未置換またはアミノ基もしくはカルボキシル基で置換されたC〜C16の環状構造を有するアルキル基、C〜C20のアリール基、C〜C20のアラルキル基あるいはステリル基を表し;
およびRは、それぞれ独立して、メチレン基またはエチレン基を表し;
nは10〜2500の整数であり;
xは10〜300となる整数であり;
mは0〜300となる整数であり(但し、mが1以上である場合、繰り返し数がxである繰り返し単位と繰り返し数がmである繰り返し単位との結合順は任意であり、Rは1つのブロックコポリマー内の各繰り返し単位において各々独立に選択され、ランダムに存在するが、R全体の10%以上は、未置換またはアミノ基もしくはカルボキシル基で置換されたC〜C16の環状構造を有するアルキル基、C〜C20のアリール基、C〜C20のアラルキル基、およびステリル基から各々独立に選択される);
は−NH−、−O−、−O−Z−NH−、−CO−、−CH−、−O−Z−S−Z−および−OCO−Z−NH−(ここで、Zは独立してC〜Cアルキレン基である。)からなる群より選ばれる連結基を表し;
が−OCO−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−(ここで、ZはC〜Cアルキレン基である。)から選択される連結基を表す。
【0020】
上記C〜C20のアリール基およびC〜C20のアラルキル基としては、好ましくはフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、およびフェネチル基、さらに好ましくはベンジル基が挙げられる。また、上記ステリル基が由来するステロールとしては、好ましくはコレステロール、コレスタノール、およびジヒドロキシコレステロール、さらに好ましくはコレステロールが挙げられる。
【0021】
上記nは、好ましくは10〜1000、さらに好ましくは20〜600、特に好ましくは50〜500である。上記xおよびmはそれぞれ、好ましくは20〜200、さらに好ましくは30〜100である。
【0022】
上記保護されていてもよい官能基としては、ヒドロキシル基、アセタール、ケタール、アルデヒド、糖残基、マレイミド基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、活性エステル等が挙げられる。RおよびRが保護されていてもよい官能基で置換された低級アルキル基を表す場合の親水性ポリマー鎖セグメントは、例えば、WO96/33233、WO96/32434、WO97/06202に記載の方法に従うことができる。低級アルキル基とは、炭素数が例えば7個以下、好ましくは4個以下の直鎖または分枝鎖アルキル基を意味し、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル基等が含まれる。
【0023】
HDL親和性ブロックコポリマーは、例えば、親水性ポリマー鎖を有するポリマーおよびポリアミノ酸鎖を有するポリマーをそのまま、または必要により分子量分布を狭くするように精製した後、公知の方法によりカップリングすることによって得られ得る。一般式(I)のブロックコポリマーについては、例えば、Rを付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成した後、成長末端側にアミノ基を導入し、そのアミノ末端からβ−ベンジル−L−アスパルテート、γ−ベンジル−L−グルタメート等の保護されたアミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させることによっても形成できる。
【0024】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの製造方法の具体例を以下に説明する。片末端が保護され、もう一方の末端がアミノ基であるポリエチレングリコール、例えば、MeO−PEG−CHCHCH−NHを開始剤として、脱水された有機溶媒中で、N−カルボキシ−β−ベンジル−L−アスパルギン酸無水物(BLA−NCA)、または、N−カルボキシ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸無水物(BLG−NCA)を所望の重合度(アミノ酸ユニット数)となるように添加し、反応させることにより、ポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸ベンジルエステル、または、ポリエチレングリコール−コ−ポリグルタミン酸ベンジルエステルが得られ得る。さらに、得られたブロックコポリマーの末端をアセチルクロライドまたは無水酢酸によりアセチル化した後、アルカリ加水分解によりベンジル基を除去してポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸またはポリエチレングリコール−コ−ポリグルタミン酸とした後、有機溶媒中で、所望のエステル化率となるようにベンジルアルコールを添加し、N−N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N−N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)等の縮合剤の存在下で反応させることより、部分的にベンジルエステルを有するブロックコポリマーが得られ得る。
【0025】
さらに、例えば、上記ベンジルアルコールの代わりに、コレステロールを反応させれば、ポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸コレステロールエステル、ポリエチレングリコール−コ−ポリグルタミン酸コレステロールエステルが得られ得る。
【0026】
上記HDL親和性ブロックコポリマーの製造方法の別の具体例としては、アミド結合により疎水性側鎖を導入する方法が挙げられる。該製造方法においては、上記と同様にしてポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸ベンジルエステル、または、ポリエチレングリコール−コ−ポリグルタミン酸ベンジルエステルの末端をアセチル化する。次いで、アルカリ加水分解によりベンジル基を除去し、生成したカルボキシル基にアミノ基を有する疎水性側鎖を反応させるか、または、ポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸ベンジルエステルもしくはポリエチレングリコール−コ−ポリグルタミン酸ベンジルエステルと一級アミンを有する化合物とを反応させ、アミノリシスを利用してエステル結合からアミド結合へ変換する。これにより、アミド結合により疎水性側鎖を導入することができる。さらに、はじめに所望のアミド化率になるように有機溶媒中で1−オクチルアミン等の一級アミンをポリエチレングリコール−コ−ポリアスパラギン酸ベンジルエステルに添加して一定時間反応させた後、未変換のベンジルエステルに対して大過剰量の1,8−ジアミノオクタン等を加えることにより、疎水性基の末端がアミノ基で置換された疎水性側鎖とアミノ基で置換されていない疎水性側鎖とが混在するポリ(アミノ酸誘導体)セグメントにすることもできる。
【0027】
1つの実施形態において、上記HDL親和性ブロックコポリマーは、そのHDLとの親和性に起因して、下記のようにして決定されるHDL移行率が30%以上であり得る。HDL親和性ブロックコポリマーのHDL移行率は、好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上である。
【0028】
[HDL移行率の決定方法]
ブロックコポリマーをリゾチーム内包ポリマーミセルとし、血漿中で37℃、24時間インキュベートした後、各リポタンパク画分を精製および回収する。回収されたVLDL、LDL、HDL、および残渣の各画分中のブロックコポリマー濃度を測定する。次いで、各画分中の容量およびブロックコポリマー濃度に基づいて、各画分中のブロックコポリマーの含有量(重量基準)を算出する。得られた値を下記式に代入し、HDL移行率を決定する。
HDL移行率(%)=HDL画分中のブロックコポリマー含有量/各画分中のブロックコポリマー含有量の合計×100
【0029】
上記方法によってHDL移行率を決定する際、HDL親和性ブロックコポリマーは、好ましくは他のリポタンパク画分中(ただし、カイロミクロン画分を除く)、HDL画分に最も多く存在する。すなわち、VLDL、LDL、HDL、および残渣の各画分中のHDL親和性ブロックコポリマー含有量の中では、HDL画分中の含有量が最も多いことが好ましい。
【0030】
本発明のポリマーミセル組成物は、必要に応じて、上記疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーとして、LDL、VLDL等のHDL以外のリポタンパクと親和性を有するブロックコポリマー(以下、「HDL非親和性ブロックコポリマー」と称する場合がある)をさらに含有し得る。HDL非親和性ブロックコポリマーは、HDL以外のリポタンパクがポリマーミセルの内側にまで侵入しにくいことに起因して、ポリマーミセルからの優先的な脱離が生じにくいので、本発明のポリマーミセル組成物が該ブロックコポリマーを含有する場合には、HDL親和性ブロックコポリマーのみを含有する場合に比べて隙間の形成が抑制され、その結果、薬物の放出促進効果が抑制され得る。したがって、HDL非親和性ブロックコポリマーの含有量を調整することにより、薬物の放出速度を制御することができる。すなわち、本発明によれば、従来は付与することが困難であった易崩壊性を有するポリマーミセルを得ることができ、さらには、その崩壊速度を制御することも容易となる。
【0031】
上記HDL非親和性ブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントは、代表的には、アミノ酸の側鎖に直鎖または分岐構造を有する疎水性基が導入された疎水性誘導体を繰り返し単位として含有するポリアミノ酸からなる。該アミノ酸の疎水性誘導体は、好ましくは酸性アミノ酸、さらに好ましくはアスパラギン酸および/またはグルタミン酸の疎水性誘導体である。
【0032】
上記直鎖または分岐構造を有する疎水性基としては、特に限定されず、例えば、C〜C18の未置換もしくは置換された直鎖または分岐アルキル基、C〜C18の未置換もしくは置換された直鎖または分岐アルケニル基、およびC〜C18の未置換もしくは置換された直鎖または分岐アルキニル基等が挙げられ、好ましくはC〜C18の未置換もしくは置換された直鎖または分岐アルキル基が挙げられる。
【0033】
上記HDL非親和性ブロックコポリマーの親水性ポリマー鎖セグメントとしては、HDL親和性ブロックコポリマーの親水性ポリマー鎖セグメントと同様の親水性ポリマーが採用され得る。また、HDL非親和性ブロックコポリマーの親水性ポリマー鎖セグメントおよび疎水性ポリマー鎖セグメントの末端修飾ならびにこれらのセグメントの連結については、HDL親和性ブロックコポリマーに関して記載した通りである。
【0034】
上記HDL非親和性ブロックコポリマーの好ましい具体例は、以下の一般式(III)および(IV)で表され得る。
【化2】


上記各式中、RおよびR11は、それぞれ独立して、水素原子または保護されていてもよい官能基で置換されたもしくは未置換の低級アルキル基を表し;
10は水素原子、飽和もしくは不飽和のC〜C29脂肪族カルボニル基またはアリールカルボニル基を表し;
12は水酸基、飽和もしくは不飽和のC〜C30脂肪族オキシ基またはアリール−低級アルキルオキシ基を表し;
13は−O−または−NH−を表し;
14は、水素原子あるいは未置換もしくはアミノ基またはカルボキシル基で置換された直鎖または分岐のC〜C18アルキル基を表し;
15およびR16は、それぞれ独立して、メチレン基またはエチレン基を表し;
pは10〜2500の整数であり;
qは10〜300となる整数であり;
rは0〜300となる整数であり(但し、rが1以上である場合、繰り返し数がqである繰り返し単位と繰り返し数がrである繰り返し単位との結合順は任意であり、R14は1つのブロックコポリマー内の各アミノ酸ユニットにおいて各々独立に選択され、ランダムに存在するが、R14が水素である場合はR14全体の40%以下である);
は−NH−、−O−、−O−Z−NH−、−CO−、−CH−、−O−Z−S−Z−および−OCO−Z−NH−(ここで、Zは独立してC〜Cアルキレン基である。)からなる群より選ばれる連結基を表し;
が−OCO−Z−CO−および−NHCO−Z−CO−(ここで、ZはC〜Cアルキレン基である。)から選択される連結基を表す。
【0035】
上記pは、好ましくは10〜1000、さらに好ましくは20〜600、特に好ましくは50〜500である。上記qおよびrはそれぞれ、好ましくは20〜200、さらに好ましくは30〜100である。
【0036】
上記保護されていてもよい官能基としては、式(I)および(II)に関して記載した通りである。
【0037】
1つの実施形態において、HDL非親和性ブロックコポリマーのHDL移行率は、30%未満であり得、好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。
【0038】
本発明のポリマーミセル組成物中のHDL非親和性ブロックコポリマーに対するHDL親和性ブロックコポリマーの含有量比(HDL親和性ブロックコポリマー:HDL非親和性ブロックコポリマー、重量比)は、ポリマーミセル組成物の用途、各ブロックコポリマーのHDL移行率等に応じて適切に設定され得る。該含有量比(HDL親和性ブロックコポリマー:HDL非親和性ブロックコポリマー、重量比)は、例えば、1:99〜100:0であり得、好ましくは1:99〜99:1である。HDL親和性ブロックコポリマーの含有量比を大きくすることにより、ポリマーミセルの崩壊を誘起して、薬物の放出を促進することができる。また、該含有量比を小さくすることにより、ポリマーミセルの崩壊およびそれに伴う薬物の放出を抑制することができる。
【0039】
B.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、上記A項に記載のポリマーミセル組成物と該ポリマーミセル組成物に内包された薬物とを含有する。上記のとおり、本発明のポリマーミセル組成物は内包すべき薬物の放出を促進し得るので、本発明の医薬組成物は、直接投与する場合よりも薬物を徐放することができ、かつ、適切な放出を実現し得る。
【0040】
上記薬物としては、本発明のポリマーミセル組成物に内包され得るものであれば、任意の適切な薬物が用いられ得る。該薬物の一例としては、水溶性の生理活性ポリペプチドおよびタンパク質が挙げられる。これらの分子量は、好ましくは1,500以上であり、さらに好ましくは2,000以上である。好ましい生理活性ポリペプチドおよびタンパク質の例としては、インターフェロンα、β、γ、エリスロポエチン、G−CSF、成長ホルモン、インターロイキン類、腫瘍壊死因子、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、肝細胞増殖因子、TGF−βスーパーファミリー、EGF、FGF、IGF−I等が挙げられる。また、その活性が損なわれない限り、例示した上記タンパク質の誘導体、例えば、1つ以上のアミノ酸を置換、付加、削除したものも用いられ得る。
【0041】
上記薬物の別の例としては、水に対する溶解度が100μg/mL以下である水難溶性薬物が挙げられる。該水難溶性薬物の例としては、パクリタキセル、トポテカン、カンプトテシン、シスプラチン、塩酸ダウノルビシン、メトトレキサート、マイトマイシンC、ドセタキセル、硫酸ビンクレスチン、および、これらの誘導体等からなる制癌剤、アンホテリシンB、ナイスタチン等のポリエン系抗生物質、プロスタグランジン類およびそれらの誘導体等の脂溶性薬物が挙げられる。
【0042】
内包される薬物の量は、医薬組成物の用途等に応じて適切に設定され得る。薬物の使用量は、ポリマーミセル組成物中の全ブロックコポリマーに対して、一般的には0.01〜50重量、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0043】
薬物を内包したポリマーミセルの粒子径は、生体に投与できるサイズであれば特に限定されない。該粒子径は、10μm以下が好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。特に、静脈内投与で用いる場合は、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。必要に応じて、医薬組成物を含有する水性溶液を所望の孔径の親水性フィルターで濾過することにより、所望の粒子径を有する医薬組成物を得ることができる。
【0044】
本発明の医薬組成物の製造方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、上記ブロックコポリマーを有機溶媒に溶解する。必要に応じて、得られた溶液を風乾、例えば窒素気流雰囲気下でフィルム状に乾固し、さらに必要であれば減圧下で乾固することで有機溶媒を除去してもよい。このようにして処理したブロックコポリマーに、内包すべき薬物の溶液を添加し、混合する。次いで、得られた混合液から薬物を内包させながらポリマーミセルを形成させる。
【0045】
上記有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の非水混和性有機溶媒、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等の水混和性有機溶媒、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0046】
1つの好ましい実施形態において、医薬組成物の形成は、上記ブロックコポリマーと薬物との混合液を攪拌することで行うことができる。好ましくは、ポリマーミセルの形成は超音波等のエネルギーをかけて行う。超音波を使用する場合、例えばバイオディスラプター(日本精機製作所製)を用い、レベル4にて、氷冷しながら行うことができる。照射時間は薬物が変性しない限り特に限定されないが、例えば、1秒間欠、5秒〜10分間、好ましくは5秒〜2分間照射することによって行うことができる。
【0047】
別の好ましい実施形態において、医薬組成物の形成は、乳鉢等を用いて乾燥状態のブロックコポリマーを均一の粉体とし、そこへ粉末の薬物または少量の溶液に溶解した薬物を添加した後に穏やかに混合し、適した緩衝液を添加して2〜24時間、4℃で撹拌し、氷冷しながら超音波処理することによっても行うことができる。
【0048】
さらに別の好ましい実施形態において、医薬組成物の形成は、ブロックコポリマーへ適した緩衝液を添加し、上記と同様に超音波処理して空ミセルを調製し、そこへ同じ緩衝液に溶解した薬物、または、当該緩衝液で希釈した薬物を添加し、スターラーで穏やかに撹拌するか静置することによっても行うことができる。この際の撹拌時間や静置する時間は2時間から5日間が好ましく、温度は4℃から30℃、特に好ましくは4℃である。この方法は、薬物が生理活性ポリペプチドやタンパク質である場合に、これらを超音波処理せずに済むので、生理活性ポリペプチドやタンパク質の安定性の観点から有利である。上記緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、クエン酸緩衝液、Tris緩衝液、TAPS緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。
【0049】
本発明の医薬組成物の生体への投与方法としては、任意の適切な投与方法が選択され得る。例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、関節内投与、腹腔内投与、眼内投与等が挙げられる。必要に応じて、医薬組成物の水溶液に糖類および/またはポリエチレングリコールを加えてから除菌濾過し、その後、生体に投与してもよい。使用される糖類としては、マルトース、トレハロース、キシリトール、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトース、マンニトールおよびデキストリン等が好ましく挙げられる。また、使用されるポリエチレングリコールとしては、分子量が約1000〜約35000のものが挙げられる。このようなポリエチレングリコールは、例えば、商品名「マクロゴール1000」、「マクロゴール1540」、「マクロゴール4000」、「マクロゴール6000」、「マクロゴール20000」、および、「マクロゴール35000」(いずれも三洋化成社製)等として市販されている。
【0050】
C.医薬組成物の薬物放出速度を制御する方法
本発明の医薬組成物の薬物放出速度を制御する方法は、上記B項に記載の医薬組成物において、該ポリマーミセル組成物中の全ブロックコポリマーに対するHDL親和性ブロックコポリマーの含有量比を変化させることを含む。HDL親和性ブロックコポリマーは、ポリマーミセルからの薬物の放出を促進する効果を発揮し得るので、その含有量比を変化させることにより、ポリマーミセルからの薬物の放出速度を制御することができる。
【0051】
具体的には、ポリマーミセル組成物中の全ブロックコポリマーに対するHDL親和性ブロックコポリマーの含有量比を大きくすることにより、薬物放出速度を速くすることができ、一方、該含有量比を小さくすることにより、薬物放出速度を遅くすることができる。全ブロックコポリマーに対するHDL親和性ブロックコポリマーの含有量比(HDL親和性ブロックコポリマー含有量/全ブロックコポリマー含有量、重量比)は、例えば、0/100を超えて100/100以下、好ましくは1/100〜100/100の範囲で所望される薬物の放出速度に応じて適切に設定され得る。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、以下においては、例えば、ブロックコポリマーの親水性ポリマー鎖セグメントが平均分子量10,000のPEG鎖からなり、疎水性ポリマー鎖セグメントが平均40残基のポリアミノ酸鎖からなり、該ポリアミノ酸鎖の側鎖へのベンジル基の導入率が約65%である場合、ブロックコポリマーの後に、(10−40、65%Bn)と表記する。同様に、ポリアミノ酸鎖の側鎖に導入される疎水基がオクチル基またはコレステリル基である場合はそれぞれ、ブロックコポリマーの後に、(10−40、65%C8)または(10−40、65%Chol)と表記する。ここで、疎水性基の導入率が約65%とは、62〜68%を含む意味である。
【0053】
[参考例1]リゾチーム内包ポリマーミセルの調製
ブロックコポリマーとして、下記の一般式(V)および表1に記載のブロックコポリマーを用いた。各ブロックコポリマーをバイアルに秤量し、ポリマー濃度が5mg/mLになるよう精製水を加え、4℃にて一晩激しく攪拌した。該ポリマー溶液をバイオディスラプター(日本精機製作所製、High Power Unit)を用いて超音波照射(氷浴中、Low、1秒間欠、10分)し、次いで、0.22μmメンブレンフィルター処理した。これにより、5mg/mLのポリマー濃度の空ミセル溶液を得た。各空ミセル溶液(0.6mL)に、ポリマーに対して5%(w/w)になるよう1mg/mLのリゾチーム溶液(0.15mL)、200mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6)、および精製水を加え、最終的に3mg/mLのポリマー濃度、0.15mg/mLのリゾチーム濃度、20mM リン酸ナトリウム緩衝液の組成になるよう、またpH6となるよう0.1N HClで調整した。この溶液を2、3度転倒撹拌した後、4℃にて一晩静置した。このように調製したリゾチーム内包ミセルは‐80℃にて保存し、用時に室温で融解して用いた。
【0054】
【化3】

上記式中、グルタミン酸ユニットとその疎水性誘導体ユニットとの結合順は任意であり、1つのブロックコポリマー内においてランダムに存在する。
【0055】
【表1】

【0056】
[参考例2]HDL移行率
参考例1で調製したリゾチーム内包ポリマーミセルを用いて、各ブロックコポリマーのHDL移行率を求めた。具体的な実験方法は、次のとおりである。雄性Wistarラットから8週齢時にヘパリン採血し、遠心後−80℃で保存していたラット血漿810μLに対し、リゾチーム内包ポリマーミセルを90μL加え、37℃で24時間インキュベーションした(リゾチーム最終濃度:15μg/mL、ポリマー最終濃度:300μg/mL)。次いで、http://www.axis−shield−density−gradient−media.com/CD2009/macromol/M07.pdfからダウンロード可能なAxis−Shield Density Gradient Media社のプロトコールに従って、商品名「OptimaMAX」(Beckman社製)を用いて45,000rpm(約100,000g)、15分、4℃の条件で超遠心した(Rotar:MLA−130、Centrifuge tube:肉厚ポリアロマーチューブ)。次いで、最上層のカイロミクロン画分を取り除き、その後、商品名「(登録商標)Optiprep」(Axis−shield社製)を血漿の1/4容になるように、血漿720μLに対して180μL添加および混合し、85,000rpm(約350,000g)、3時間、16℃の条件で超遠心した。超遠心の際、0.85%(w/v) NaCl/10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を用いてバランス調整した。超遠心後、VLDL、LDL、HDLおよび残渣(Other)の画分を回収し、PEG−ELISAキット(Life Diagnostics社製)を用い、各画分中のブロックコポリマー濃度を測定した。得られたポリマー濃度および各画分の容量に基づいて、各画分中のブロックコポリマーの含有量およびその割合(すなわち、各画分へのブロックコポリマーの移行率)を算出した。結果を図2に示す。
【0057】
図2から分かるとおり、PEG−pGlu(10−40、60%Bn)、および、PEG−pGlu(10−40、30%Chol)はともに、HDL移行率が50%以上であり、高いHDL親和性を示した。一方、PEG−pGlu(10−40、60%C8)、PEG−pGlu(10−40、60%C12)、および、PEG−pGlu(10−40、60%C16)はいずれも、HDL移行率が20%未満であり、HDLよりもLDLやVLDL等の他のリポタンパクとより高い親和性を示した。
【0058】
[実施例1]G−CSF内包ポリマーミセルのラット静脈内投与試験
(1)PEG−pGlu(10−40、30%Chol)
ブロックコポリマーとして、PEG−pGlu(10−40、30%Chol)を用いた。該ブロックコポリマーをバイアルに秤量し、ポリマー濃度が2mg/mLになるよう20mM MES Buffer(pH5)を加え、4℃にて一晩激しく攪拌した。該ポリマー溶液をバイオディスラプター(日本精機製作所製、High Power Unit)を用いて超音波照射(氷浴中、Low、1秒間欠、10分)し、次いで、0.22μmメンブレンフィルター処理した。これにより、2mg/mLのポリマー濃度の空ミセル溶液を得た。得られた空ミセル溶液(6mL)に、ポリマーに対して5%(w/w)になるよう300μg/mLのG−CSF溶液(2mL)を加え、転倒撹拌して4℃にて一晩静置した。その後、商品名「(登録商標)Amicon Ultra」(ミリポア社製、カットオフ分子量:100,000)による限外ろ過にて精製および濃縮し、媒体を10%(w/w)スクロース水溶液に置換した。回収したG−CSF内包ポリマーミセルは‐80℃にて保存し、用時に室温で融解して用いた。
【0059】
上記で得られたG−CSF内包ポリマーミセル溶液を雄性Wistarラットに尾静脈内投与した。投与量は、100μg/kg体重であり、サンプル数は3(n=3)であった。投与後5分、1時間、6時間、1日、2日、および、3日にエーテル麻酔下で頸静脈からヘパリン処理したシリンジを用いて採血し、血漿中のG−CSF濃度をG−CSF−ELISAキット(RayBiotech社製)を用いて測定した。
【0060】
(2)PEG−pGlu(10−40、60%C8)
ブロックコポリマーとして、PEG−pGlu(10−40、60%C8)を用いたこと、および、サンプル数を9(n=9)としたこと以外は上記(1)と同様にして、G−CSF内包ポリマーミセルを調製し、該G−CSF内包ポリマーミセルをラットに投与してG−CSFの血漿中濃度推移を調べた。
【0061】
(3)混合ポリマーミセル
PEG−pGlu(10−40、30%Chol)とPEG−pGlu(10−40、60%C8)とを等量ずつ秤量し、両ポリマーをジクロロメタンに溶解し、完全に均一化した。その後、溶媒を留去してフィルムを得た。その後、常法に従ってポリマーに対し5%(w/w)となるようにG−CSFを仕込んで、G−CSF内包ポリマーミセルを調製した。次いで、上記(1)と同様にして、該G−CSF内包ポリマーミセルをラットに投与してG−CSFの血漿中濃度推移を調べた。
【0062】
(4)G−CSF直接投与
G−CSF内包ポリマーミセル溶液の代わりに、G−CSF溶液(100μg/mL)を用いたこと、および、サンプル数を5(n=5)としたこと以外は上記(1)と同様にして、G−CSFをラットに投与してその血漿中濃度推移を調べた。
【0063】
上記実施例1の結果(average±SD)を図3に示す。なお、(1)と(2)との結果に基づき、PEG−pGlu(10−40、30%Chol)とPEG−pGlu(10−40、60%C8)との混合ポリマーミセル(1:1)の場合の血漿中濃度推移を計算し、得られた値を理論値として図3に示した。
【0064】
図3からわかるとおり、G−CSFをポリマーミセルに内包することなく直接投与すると、G−CSFは非常に速やかに分解または代謝され、血漿中の滞留時間は極めて短い。また、G−CSFをポリマーミセルに内包して投与すると、G−CSFが徐放され、血漿中の滞留時間が長くなる。ここで、ポリマーミセルがHDL親和性ブロックコポリマーを含有する場合は、そうでない場合に比べてG−CSFの放出が促進されることがわかる。また、PEG−pGlu(10−40、30%Chol)とPEG−pGlu(10−40、60%C8)とを1:1で含有するポリマーミセルに関しては、G−CSFの血漿中濃度の実験値が理論値よりも顕著に低かった。このことから、リポタンパクとの親和性が異なる複数のブロックコポリマーを混合する場合には、何らかの作用が働き、ポリマー混合比から予期されない薬物の放出形態をとることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリマーミセル組成物および医薬組成物は、製薬、医療等の分野で好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0066】
10 HDLと親和性を有するブロックコポリマー
11 親水性ポリマー鎖セグメント
12 疎水性ポリマー鎖セグメント
20 HDL
30 LDL
40 VLDL
50 薬物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー鎖セグメントと親水性ポリマー鎖セグメントとを有するブロックコポリマーを含有し、複数の該ブロックコポリマーが該疎水性ポリマー鎖セグメントを内側に向けると共に該親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けた状態で放射状に配置された、ポリマーミセル組成物であって、
該ブロックコポリマーとして、HDLと親和性を有するブロックコポリマーを含有しており、該親和性に起因するHDLの付着によって該HDLと親和性を有するブロックコポリマーの脱離が誘導され、該脱離によって隙間が形成されることにより、内包されるべき薬物の放出が促進される、ポリマーミセル組成物。
【請求項2】
前記HDLと親和性を有するブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントが、アミノ酸の疎水性誘導体由来の繰り返し単位を含有するポリアミノ酸からなり、該アミノ酸の疎水性誘導体がアミノ酸の側鎖に環式構造を有する疎水性基が導入された誘導体である、請求項1に記載のポリマーミセル組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸の疎水性誘導体が、アスパラギン酸およびグルタミン酸から選択される酸性アミノ酸の誘導体である、請求項2に記載のポリマーミセル組成物。
【請求項4】
リゾチームを内包させて、血漿中で37℃、24時間インキュベートした後に求めたHDL画分中の前記HDLと親和性を有するブロックコポリマー含有量が、他のリポタンパク画分(ただし、カイロミクロン画分を除く)中の含有量よりも多い、請求項1から3のいずれかに記載のポリマーミセル組成物。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーとして、HDL以外のリポタンパクと親和性を有するブロックコポリマーをさらに含有し、これにより、前記隙間を小さくして、内包されるべき薬物の放出の促進を抑制する、請求項1から4のいずれかに記載のポリマーミセル組成物。
【請求項6】
前記HDL以外のリポタンパクと親和性を有するブロックコポリマーの疎水性ポリマー鎖セグメントが、アミノ酸の疎水性誘導体由来の繰り返し単位を含有するポリアミノ酸からなり、該アミノ酸の疎水性誘導体がアミノ酸の側鎖に直鎖または分岐構造を有する疎水性基が導入された誘導体である、請求項5に記載のポリマーミセル組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のポリマーミセル組成物と該ポリマーミセル組成物に内包された薬物とを含有する、医薬組成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−162452(P2011−162452A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24323(P2010−24323)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(597144679)ナノキャリア株式会社 (8)
【復代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
【Fターム(参考)】