説明

易崩壊性組成物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フィルム溶融成形時の延展性に優れた易崩壊性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に合成高分子は高度の材料特性をそなえ加工性に優れしかも安価であるため、あらゆる分野で広く利用されている。しかしその成形品はかさ高く、自らの耐久性のため投棄あるいは埋め立てしても自然に崩壊せず、また焼却すれば発熱量が高いため、焼却設備をいためるなど、最近プラスチック廃棄物の処理法が問題となっている。そのため光あるいは微生物などによって、部分的に分解させることにより、該プラスチック廃棄物のかさ高さを減少させ、廃棄物の処理設備あるいは埋め立て地を有効に利用する研究がなされてきた。
【0003】中でも、比較的安価でかつ完全な生物分解性を有する澱粉を易崩壊性付与剤として、熱可塑性樹脂にブレンドすることにより、生物崩壊性を有する、熱可塑性樹脂組成物に関する研究は盛んにおこなわれている(特開平2−14228号、同3−31333号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこれらの組成物は、易崩壊性が充分でなく、また成形する場合の延展性に問題があり、薄いフィルムが得られない。
【0005】しかして本発明の目的は、易崩壊性に優れた、しかもフィルム成形時の延展性の優れた組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、エチレン含有量3〜24モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)および多糖類からなる組成物を提供することによって達成される。
【0007】本発明において、エチレン含量3〜24モル%のEVOHを用いた場合、該EVOHと様々な多糖類との組成物は、使用に耐え得る機械的強度、並びにフィルム成形時すぐれた延展性を示し、使用後廃棄物として土中に埋め立てた場合、すみやかにその形状、機械的強度を消失するという易崩壊性を有している。
【0008】EVOHの生物による易崩壊性に関しては日経ニューマテリアル1990年3月26日号に一部記載があるし、またEVOHと天然物である澱粉よりなる樹脂組成物に関しては、特開平2−14228および特開平3−31333に記載がある。しかしながら従来当業界にて常識的に用いられてきたEVOHのエチレン含有量は25モル%以上であり、またこれらの刊行物または公報には本発明で特定しているような低エチレン含有量のEVOHを使用することの具体的な実施例はない。また上記公報のうち特開平3−31333にはエチレン含有量10〜90重量%(モル%に換算すると14.9〜93.4モル%)のEVOHの記載はあるが、とくにエチレン含有量が25モル%より小さいEVOHが易崩壊性に優れているとの記載はない。さらに本発明者らの追試の結果、従来より用いられてきたエチレン含有量25モル%以上のEVOHは本発明に記載のEVOHに比べ崩壊性が著しく低下することがわかった。このことは後述する比較例からも明らかである。
【0009】本発明においてEVOHのエチレン含有量としては3〜24モル%であることが重要であり、好ましくは3〜20モル%、さらに好ましくは3〜14モル%、最適には5〜12モル%である。エチレン含有量が24モル%を越えると本発明の目的とするフィルム成形時の延展性が得られないし、また易崩壊性も十分でない。一方3モル%を下回るとフィルムとして成形したとき実用に耐え得る十分な強度が得られないし、また易崩壊性も十分でない。
【0010】EVOHのビニルエステル成分のけん化度としては50%以上であることが好ましい。また熱安定性の観点からは80%以上、さらには90%以上であることが好ましい。けん化度が50%を下回ると熱安定性が低下し成形時に多量のゲルが発生するため外観が好ましくない。また熱水可溶性の観点からは、けん化度50〜95%、さらには60〜95%であることが好ましい。またEVOHとはエチレンとビニルエステルとの共重合体けん化物であり、ここでビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表例としてあげられるが、他の脂肪酸ビニルエステル(例ピバリン酸ビニルエステル)なども使用できる。さらにEVOHには本発明の目的が阻害されない範囲で、プロピレン等の炭素数3以上のオレフィン、(メタ)アクリル酸、ビニルシラン系化合物(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、ビニルピロリドン系化合物などの第三成分を共重合することは自由である。また末端および/または側鎖に炭素数が4〜50のアルキル基を有するEVOH、水酸基の一部が酸化されているEVOH、脂肪酸ポリエステルがグラフトされているEVOH、末端にイオン性基(カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、アンモニウム基など)を有するEVOHも例示される。またEVOHの固有粘度[溶剤 水/フェノール 15/85(重量比),30℃]は0.05〜0.2リットル/g、好ましくは、0.07〜0.15リットル/gである。
【0011】本発明に使用されるEVOHは熱水可溶性であることがEVOHの易崩壊性を促進させる効果がありとくに好ましい。ここで熱水可溶性とは95℃の熱水中に1分間浸漬したとき、実質的に完全に溶解する性質を意味する。またEVOHは熱可塑性であることが、溶融成形が可能であることから好ましい。
【0012】本発明のEVOHと多糖類の各成分の配合量はEVOH1〜99重量部および多糖類99〜1重量部である。EVOHが1重量部以下、あるいは多糖類が99重量部を越えると、廃棄物として投棄後、微生物による十分な易崩壊性樹脂が得られない。好適な配合量としてはEVOH10〜90重量部、多糖類90〜10重量部である。
【0013】本発明において用いられる多糖類としては、澱粉、セルロール、キチン、キトサン、ヘミセルロース、ペクチン、プルラン、寒天、アルギン酸、カラギーナン、デキストランなどがあげられるが、これらのうち澱粉が成形性、崩壊性の点で好ましい。澱粉としては、とうもろこし、馬鈴薯などの生澱粉、これらに物理的あるいは化学的処置を施した化工澱粉(テキストリン、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉など)などが用いられる。
【0014】本発明の組成物は、後述する実施例からも明らかなように、従来のエチレン含量の高いEVOHを澱粉に配合した組成物にくらべ、フィルムの延展性が優れている。
【0015】また本発明の組成物には、樹脂の成形加工性、可とう性をさらに増すために、他の添加剤、たとえば、水、グリセリンなどの可塑剤を加えることは自由である。可塑剤の例としてはポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、1,3−および1.4−ブタンジオール、1,2−プロピレングリコール、ソルビトール、ε−カプロラクタム、尿素、トルエンスルホン酸アミド、ラウリルアミド、アセトアミド、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、水などから選ばれる1種あるいは2種以上が混合して用いられる。好適にはグリセリン、水、尿素などが用いられる。
【0016】さらに本発明の組成物には発明の効果が阻害されない範囲で充填剤(タルク、クレー、マイカ、セルロース繊維、PVA繊維など)、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、植物油、着色剤などをブレンドすることも自由である。
【0017】本発明の組成物を得るための各成分の配合手段としては、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサー等が用いられる。
【0018】本発明の組成物は周知の押出機、射出成形機、プレス機などをもちいて任意の成形物(例:フィルム、シート、各種容器、各種射出成形品)を得ることができるし、または得られたフィルムを延伸することによりスプリットヤーンとし、これを織物または編物とすることもできる。
【0019】成形物の例としては特に制限はないが、ある期間使用したのち、廃棄される成形物、たとえば食品容器としてのカップ、ボトル、トレー、農業用資材としてのシート、くい、根おおい(マルチフィルム)、プランター、農薬・肥料・土壌改良剤等の容器あるいはキャリヤー材料、日用品として結束ひも、子供用のおもちゃ、ゴミ箱、工業用としてのクッション材、パッキン、各種コンテナー、コロストミーバッグなどがあげられる。
【0020】また該成形品を使用した後、廃棄する場合には一般のゴミと同様のゴミ集積地に投棄した直後より崩壊がはじまるが、土中の微生物による崩壊の効果を高めるために土中への埋め立てによる処理方法が好適である。
【0021】本発明においては、上記組成物層を少なくとも一層有する多層体として使用することもできる。多層体とする場合の他の層としては、生分解性樹脂層または光分解性樹脂層であることが好ましい。ここで生分解性樹脂層としては、タンパク質(ゼラチン、コラーゲン)、ポリペプチド、ポリエステル(ポリアジペート、ポリラクトン、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステルアミド)、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリスチレン、さらには多糖類(澱粉、セルロース、キチン、キトサンなど)を含有する熱可塑性樹脂{ポリオレフィン(ポリエチレンなど)、ポリスチレン、ビニルアルコール系樹脂(エチレン含有量25〜65モル%のEVOHなど)、エチレン−アクリル酸共重合体などの熱可塑性樹脂に多糖類を配合したものから得られるフィルムまたはシートが代表的なものとしてあげられる。また光分解性樹脂層としてはエチレンと一酸化炭素との共重合体、メチルビニルケトンとエチレン、スチレン、塩化ビニル、メチルアクリレートなどとの共重合体、光分解性マスターバッチ(ポリエチレンにメチルビニルケトンと少量のメチルスチレンをグラフト重合したもの)を配合した各種熱可塑性樹脂から得られるフィルムまたはシートが代表的なものとしてあげられる。また、他の層としては、セルロース系の紙、不織布、網などもあげらられる。
【0022】上記他の層は本発明の組成物層の片面、または両面に設けることができるし、また他の層の両面に本発明の組成物層を設けることもできる。これらの多層体を製造する場合には、必要に応じ接着剤、好ましくは生分解性接着剤を使用することができる。
【0023】接着剤としてはポリウレタン系樹脂、スターチ系樹脂およびこれらを含有してなる不飽和カルボン酸又はその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体[ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(SLDPE)}、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、またはエチレンエステル)共重合体]にグラフトしたものがもちいられる。これらの接着剤は層間接着剤として、あるいは組成物層あるいは他層に配合して使用される。
【0024】多層体を得る方法としては、押出ラミネート法、ドライラミネート法、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出パイプ成形法、共射出成形法、溶液コート法などがあげられる。以下、実施例にてより詳細な説明を行うが、これにより本発明はなんら限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
実施例1本発明のEVOH単品の易崩壊性を検討した。エチレン含有量7モル%、けん化度99.7%のEVOHを水/プロパノール混合溶液を溶媒として濃度10重量%のEVOH溶液を得た。該溶液を温度75℃に調整した回転ドラム上に塗布することにより溶媒を蒸発させ厚さ15μの均一なフィルムを得た。
【0026】該フィルムを15×100mmに切り出し、95℃に調整した熱水中に1分間浸漬し、熱水溶解性を調べた。結果を第1に示す。なお熱水溶解性は下記のように3段階で評価した。
○・・・完全に溶解する△・・・膨潤し、ばらばらになる×・・・不変
【0027】該フィルムを0.2g切り出し、これを予め滅菌したポリビニルアルコール(PVA)0.3%含有液体培地100ミリリットル(ml)に浸漬した。本培地にあらかじめPVA0.3%含有液体培地にて3日間振とうし増殖させたPVA分解性菌液1ミリリットル(ml)を植菌し、途中PHを7〜7.5に調整しながら2週間振とうし、該フィルムの重量変化を下式より求め表1に示した。なお振とう条件は120rpm(30℃)である。
【0028】


重量は、フィルムを20℃、50%RH下に48時間放置後に測定した値である。
【0029】なお、上記PVA0.3%含有液体培養地(PH=7.5)の組成は次の通りである。
PVA(重合度1700、けん化度99.9%) 0.3%NH4NO3 0.1%KH2PO4 0.02%K2HPO4 0.1%MgSO4・7H2O 0.02%NaCl 0.01%NaCl2・2H2O 0.01%FeSO4・7H2O 0.001%Peptone 0.005%Y.ext. 0.005%ピロロキノリンキノン 1μg/ml
【0030】実施例2〜3および比較例1〜4表1に示す以外は実施例1と同じ条件で実施した。結果を表1に示す。
【0031】実施例4エチレン含有量10モル%、けん化度90%のEVOH30重量部ととうもろこし澱粉70重量部、可塑剤としてグリセリン20重量部および水20重量部をブレンドし、スクリュー直径40mm、L/D=26のフルフライト型スクリューを有する一軸押出機を用いて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたペレットダイより押出機温度180℃にてストランドと化し、引き続きペレタイザーを用いてペレットと化した。
【0032】該ペレットは上記押出機に550mm幅、リップ開度0.3mmのコートハンガーダイを取り付けた製膜装置より押出し、直径800mmのキャストドラムを有する引取装置にてフィルムと化した。この時該引取装置のキャストドラム回転数を順次増速することにより得られるフィルムの膜厚は薄くなり、さらに増速することによりやがて破断に至り、それ以上薄いフィルムは得られなくなる。この破断点におけるフィルムの厚さを測定し、延展性として表2に示す。
【0033】また上記製膜装置にて製膜した100μの均一なフィルムをサンプル幅15mm、長さ150mmに切り出し、引っ張り試験機にてチャック間隔50mm、引っ張り速度500mm/minにて、破断時の強度および伸度を測定した。結果を表2に示す。
【0034】易崩壊性に関しては該フィルムを土壌中(表層下5〜10cm)に埋設し、3ケ月後の該フィルムの状態を次の4段階で評価し、結果を表2に示す。
A・・・ひどく損傷B・・・かなり損傷C・・・やや損傷D・・・不変
【0035】実施例5〜6および比較例5〜6表2に示す以外は実施例4と同じ条件で実施した。結果を表2に示す。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
【発明の効果】本発明の組成物は易崩壊性が優れており、フィルム成形時の延展性が優れている。さらに本発明の組成物から得られる成形物は使用後廃棄物として土中に埋め立てた場合、微生物により速やかに崩壊をうけ、その形状、強度などが消失する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチレン含有量3〜24モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体および多糖類からなる易崩壊性組成物。
【請求項2】 エチレン−ビニルアルコール共重合体が熱水可溶性である請求項1記載の易崩壊性組成物。
【請求項3】 エチレン−ビニルアルコール共重合体が熱可塑性である請求項1または2に記載の易崩壊性組成物。

【特許番号】特許第3009272号(P3009272)
【登録日】平成11年12月3日(1999.12.3)
【発行日】平成12年2月14日(2000.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−277347
【出願日】平成3年9月27日(1991.9.27)
【公開番号】特開平5−86226
【公開日】平成5年4月6日(1993.4.6)
【審査請求日】平成10年3月27日(1998.3.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【参考文献】
【文献】特開 平3−31333(JP,A)
【文献】特開 平2−14228(JP,A)
【文献】特開 昭54−16576(JP,A)