説明

晶析と後接続された蒸留との組み合わせによる、含有される全ての有用成分を回収するための、ラウリンラクタムを含有する物質流の後処理法

【課題】以下の境界条件:後処理プロセスにおけるラウリンラクタムの早期分離、必要不可欠の熱分離工程の数の減少による生成物の熱負荷の減少、必要不可欠のプロセス温度の低下による熱負荷の減少、物質流中に含有される全ての有用物質の回収、目的生成物/出発材料および溶媒とは異なる成分の分離および排出、を満たすラウリンラクタムの後処理法を開発する。
【解決手段】ラウリンラクタムを含有する物質流を、含有される全ての成分の回収のために後処理する方法において、合成から生じる、ラウリンラクタムおよび更なる成分を含有する物質流をまず冷却することで、選択的に溶液冷却晶析によって、ラウリンラクタムの溶解限度のみを超え、かつラウリンラクタムを適切に晶析し、かつ後接続された固液分離において母液から分離し、引き続き該母液を多段階の蒸留シーケンスに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留および晶析の一体化された接続によってラウリンラクタムを精製する方法に関する。晶析は、この場合、溶液晶析または融液晶析として行ってよい。後処理されるべき物質流は、目的成分のラウリンラクタム以外に、ラウリンラクタムとは異なる少なくとも1つの低沸性または高沸性の成分を含有する。晶析の際に分離されるラウリンラクタムは、すでに>99%の純度を有する。
【背景技術】
【0002】
ラウリンラクタムの精製は、通常、多段階の蒸留により行われ、その際、より高い沸点およびより低い沸点を有する副成分がラウリンラクタムから分離される。蒸留には、ラウリンラクタムの高い沸点に基づき、真空が適用されなければならない。各蒸発工程における混合物の熱負荷は、一部で有用物質の熱分解につながる。これは全体の収率の減少につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry Cyclododecanol,Cyclododecanone,and Laurolactam Thomas Schiffer and Georg Oenbrink Jahr 2005 Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,Weinheim 10.1002/14356007.a08_201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明による方法の課題は、以下の境界条件を満たす、請求項中に記載される後処理法を開発することにある:
・後処理プロセスにおけるラウリンラクタムの早期分離
・必要不可欠の熱分離工程の数の減少による生成物の熱負荷の減少
・必要不可欠のプロセス温度の低下による熱負荷の減少
・物質流中に含有される全ての有用物質、例えば出発材料および/または溶媒の回収
・目的生成物/出発材料および溶媒とは異なる成分の分離および排出
【課題を解決するための手段】
【0005】
該課題は、請求項(これらは、その際、明細書の一部として見られるべきである)に記載の方法によって解決された。
【0006】
特許請求されるのは、ラウリンラクタムを含有する物質流を、含有される全ての成分の回収のために後処理する方法において、合成から生じる、ラウリンラクタムおよび更なる成分を含有する物質流をまず冷却することで、溶液冷却晶析によって選択的にラウリンラクタムの溶解限度のみを超え、かつラウリンラクタムを適切に晶出し、かつ後接続された固液分離において母液から分離し、引き続き該母液を多段階の蒸留シーケンスに供給することを特徴とする方法である。
【0007】
晶析は、溶液晶析として、溶液冷却晶析またはフラッシュ冷却晶析として行ってよい。
【0008】
ラウリンラクタムおよびこれとは異なる成分から成る物質流のために、請求項に記載の以下の精製シーケンスが見出された。例示的に、該方法は、添付している以下の物質流の構成を有するフローチャート(図1)に基づいて記載される:
LB−低沸点物
LM−溶媒
MB1−中沸点物フラクション1
CDON−合成の反応物としてのシクロドデカノン
MB2−中沸点物フラクション2
HB−高沸点物
LL−ラウリンラクタム
【0009】
該フローチャート(図1)は、例示的なものに過ぎず、かつ該方法を限定するべきものではない。合成シーケンスから生じ、かつラウリンラクタム、溶媒、CDONおよびこれらとは異なる成分から成る物質流1は、ラウリンラクタム、溶媒、CDONおよびこれらとは異なる成分からなる母液返送流15と、主としてラウリンラクタムを含有する蒸発装置Kの留分22と一緒に、少なくとも75℃、好ましくは少なくとも80℃、および特に有利には少なくとも85℃の温度でフラッシュ冷却晶析Aに供給される。該フラッシュ冷却晶析Aにおいて低下された真空が、相応する気液平衡(Siedegleichgewicht)を調整する。入口流と沸点との温度差から得られる熱量Qは、易揮発性分の蒸発および該気液平衡に応じた温度低下をもたらす。該効果が重なり合うことによって、ラウリンラクタムの溶解限度を超え、かつラウリンラクタムが晶出する。晶析装置出口では、最大70℃、好ましくはそれ未満の温度に、有利には、約65℃の温度に調整される。懸濁液2は、フラッシュ冷却晶析Aから固液分離Bに送られる。この中で該懸濁液は、母液5と、主としてラウリンラクタム4を含有する固体とに分離される。湿潤固体4から、凝縮された、主として溶媒を含有する留分3により、付着している副成分が除去される。生ずる母液と負荷された洗浄液とは合一されて流5となる。
【0010】
部分流15が、収率上昇および固体含量の調整のために再びフラッシュ冷却晶析Aに入れられる。
【0011】
洗浄された湿潤固体4は、溶融ユニットCに供給される。該溶融ユニットCは、ラウリンラクタムの融点より高い温度で運転される。溶融流6は、フラッシュ段階Dに供給される。該フラッシュ段階の頂部で、蒸気流24が取り出され、かつ、蒸留による精製シーケンス(この箇所では、これ以上記載されない)に供給される。規格通りのラウリンラクタムから成る塔底流8が取り出され、かつ該方法を抜け出す。
【0012】
流16および24は、シーケンスI、JおよびKから成る蒸留による溶媒分離および副成分分離に供給される。
【0013】
詳細な説明
晶析Aは、いわゆるフラッシュ冷却晶析として行われる。これは、供給流1+15+22に含まれる熱量Qが、溶媒3の部分蒸発に使用されることを意味する。該溶媒の蒸発が生じるように、該供給流の蒸気圧に応じて相応する圧力、ひいては相応する晶析装置内部温度が調整される。該溶媒3の適切な蒸発および該溶液の冷却によって、ラウリンラクタムの溶解限度を超え、かつ晶出する。効果的な接続によって、晶析に必要な過飽和度は、適度な水準に調整されることができる。蒸発冷却により、晶析装置内で完全に直接熱交換が省かれ、熱伝達する面のスケール形成は著しく減少され得る。相応する熱量の排出は、塔頂凝縮器を介して行われる。
【0014】
晶析の際に流2の中に生ずる固体は、後接続された固液分離Bによって母液5から分離される。付着している母液を固体表面から取り除くために、これは相応する洗浄液で洗浄される。該固体の洗浄のために、ラウリンラクタムの低い溶解度を有する種々の洗浄液が特定され得た。理想的には、すでにプロセスにおいて存在し、付着している成分を溶解し、かつ相応して後処理されることのできる洗浄液が使用されるべきである。この際、とりわけ晶析工程Aにおいて分離される溶媒3が可能な洗浄剤として特定され得た。
【0015】
湿潤晶析物4から、引き続く乾燥工程CおよびDにおいて付着している洗浄剤が除去されなければならない。ラウリンラクタムを溶融装置Cにおいて溶融し、かつ慣例のフラッシュ蒸発装置Dを介して溶媒24から分離することが装置的に好ましいことがわかった。この際、技術知識から、ラウリンラクタムの連行物が妨げられ得ないことは公知である。該連行物は、取り付けられた熱交換器面を覆うこととなり、かつ、それゆえ当業者に公知の特別な凝縮器系が流24のために必要となる。該凝縮系については、該流24が該方法を抜け出すことから、この箇所で詳述されない。
【0016】
取り付けられた中沸点物分離IおよびJは、隔壁塔として導入して行ってよく、その利点は当業者に十分公知である。該塔I/Jの頂部では、より低い沸点を有する該中沸点物17が、含有される有用生成物CDONとして取り出される。該塔I/J内部で取り付けられた隔壁によって、該塔の底部では、残りのラウリンラクタムが、含有される高沸点物と共に流21を介して取り出される。含有されるCDONおよびCDONとしてより高い沸点を有する中沸点物は、それぞれ許容規格限界内で2つの側方排出部19を介して供給部とは反対の該隔壁塔の側で取り出されることができる。
【0017】
ラウリンラクタムおよび高沸点物に富んだ塔底生成物21は、中沸点物−蒸留I/Jから高沸点物の分離のために更なる後処理工程Kに供給される。これは、当業者に十分公知の高粘性流体用の蒸発装置から成る。この際、該高沸点成分は塔底流23を介して排出される。元は該中沸点物蒸留I/Jの塔底生成物中に存在するラウリンラクタムの大部分を含有する凝縮蒸気22は、収率上昇のために後処理シーケンスに返送される。その際、晶析Aへの返送が行われる。
【0018】
ラウリンラクタムの後処理および含有される有用成分、例えば溶媒および反応物の回収に関する請求項に記載の提示された方法は、従来の蒸留方法と比べて以下の利点を有している:
・有用物質の大部分(80%より大きい、好ましくは85%より大きいおよび特に有利には90%より大きい)を、晶析を介して物質流の冷却によってのみ分離することができる。
・製造されるラウリンラクタムの主部分が、熱による負荷または分解を生じる可能性のある高温の分離工程を通過しない。
・高沸点割合(ラウリンラクタム)の減少によって、隔壁塔の底部温度を適度な温度水準で運転することができる。
・晶析および蒸留とからの組み合わせは、必要とされる熱分離操作の数を最小限に減少させる。
・ラウリンラクタムの僅かな熱負荷によって、ラウリンラクタムからなる重合体の形成が減少し、使用物質ファクターが後処理シーケンスにより改善される。
・晶析の際に分離されるラウリンラクタムは、>99%の純度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ラウリンラクタムの精製シーケンスを示す図
【実施例】
【0020】
35℃の内部温度および3.2Lの流体容量部を有する攪拌式の導管晶析装置中に、ラウリンラクタムが含まれる物質流を1.5kg/hで90℃の温度にて流入させる。該晶析装置の圧力レベルは、約0.05バール(絶対)である。該物質流は、ラウリンラクタム(LL)20質量%以外に、溶媒(LM)77.5質量%およびLLおよびLMとは異なる副成分2.5質量%を含有する。供給される該物質流を、溶媒の沸点圧より高いフィード圧で、該晶析装置に断面狭小部を介して供給する。該物質流が該流体容量部に入ると同時に、等エンタルピー量、約0.25kg/hの溶媒が蒸発する。必要とされる蒸発エンタルピーは、流体系から温度低下によって除去される。該溶媒の蒸発によって、該系のLLは過飽和になる。該過飽和度は、存在する固体表面での適切な結晶成長によって低下する。液固相の平均滞留時間は約2.5hである。作製された懸濁液約1.25kgを、バッチ式に10分間のサイクルで取り出す。
【0021】
該懸濁液を、通常用いられる実験室用フィルター遠心分離機に供する。この際、母液(約0.85kg/h)を固体の湿潤性の目的生成物(約0.4kg/h)固体のラウリンラクタムから分離する。生成物品質を高めるために、該固体を低温(好ましくは65℃より小さい温度を有する)の溶媒(約0.4kg/h)で洗浄する。
【0022】
これにより、該固体表面の洗浄が達成され、それによって不所望な副成分が取り除かれる。該湿潤固体を、乾燥キャビネット中で真空下(100ミリバール)で90℃にて乾燥させる。乾燥を行った後、0.275kg/hの固体が残留する。これはラウリンラクタム91.7%の収率に相当する。
【0023】
該液体母液の精製には、実験室中での調節を要しなかった。なぜなら、原則的に"慣例の"プロセスからの接続が公知だからである。
Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry
Cyclododecanol,Cyclododecanone,and Laurolactam
Thomas Schiffer and Georg Oenbrink
Jahr 2005 Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.KGaA,Weinheim 10.1002/14356007.a08_201
【0024】
溶媒選択
提示した方法のために、有利には溶媒としてヒドロクメンが使用される。しかし代替的に、次に列挙される溶媒も使用してよい。この際、様々な成分または成分の混合物、例えばヒドロクメン(HC)、シクロドデカノン(CDON)、シクロドデカトリエン(CDT)、トルエン、シクロヘプタン、シクロオクタン(COA)、シクロノナン、シクロデカン、シクロドデカン、ビニルシクロヘキサン(VCH)またはエチルシクロヘキサン(ECH)、ジメチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサンを使用してよい。
【0025】
更に、列挙した溶媒の組み合わせも可能である。なぜなら、この場合、共晶法、つまり、該混合物の融点低下を好ましくは利用することができるからである。溶液媒体(異なる溶媒の混合物)の融点の低下は、装置コストを減少させる。なぜなら、コストの掛かるトレース加熱を省くことができるからである。
【符号の説明】
【0026】
1 物質流、 2 懸濁液、 3 主として溶媒を含有する留分、 4 ラウリンラクタムを含有する湿性固体、 5 母液、 6 溶融流、 8 塔底流、 15 母液返送流、 16 流、 17 中沸点物、 18 流、 19 側方排出流、 21 流、 22 蒸発装置Kの留分、 23 塔底流、 A フラッシュ冷却晶析、 B 固液分離、 C 溶融ユニット、 D フラッシュ段階、 I 中沸点物分離、 J 中沸点物分離、 K 蒸発装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリンラクタムを含有する物質流を、含有される全ての成分の回収のために後処理する方法において、合成から生じる、ラウリンラクタムおよび更なる成分を含有する物質流をまず冷却することで、選択的に溶液冷却晶析によってラウリンラクタムの溶解限度のみを超え、かつラウリンラクタムを適切に晶出し、かつ後接続された固液分離において母液から分離し、引き続き該母液を多段階の蒸留シーケンスに供給することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記晶析を溶液晶析として行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶液晶析を溶液冷却晶析として行うことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記溶液冷却晶析をフラッシュ冷却晶析として行うことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
80%より高いラウリンラクタムを、すでに前記晶析の際に分離することを特徴とする、請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項6】
前記晶析の際に分離されたラウリンラクタムを、付着している母液の除去のために洗浄液で洗浄することを特徴とする、請求項1、2、3、4または5記載の方法。
【請求項7】
前記晶析の際に分離されたラウリンラクタムを、付着している母液の除去のためにヒドロクメンで洗浄することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
洗浄液として、ヒドロクメン(HC)、シクロドデカノン(CDON)、シクロドデカトリエン(CDT)、トルエン、シクロヘプタン、シクロオクタン(COA)、シクロノナン、シクロデカン、シクロドデカン、ビニルシクロヘキサン(VCH)またはエチルシクロヘキサン(ECH)、ジメチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサンまたはこれらの混合物を使用してよいことを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記晶析の際に分離されたラウリンラクタムを乾燥工程に供することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記溶液冷却晶析の際に分離されたラウリンラクタムが、すでに>99%の純度を有することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記蒸留を前記晶析前に実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記合成から生じる、ラウリンラクタムおよび更なる成分を含有する物質流を、蒸留による分離シーケンスに供給し、その際、含有される低沸点物を溶媒と塔頂部を介して留出し、とりわけラウリンラクタムを含有する低沸点物塔の塔底物を溶液晶析に供給することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記溶液晶析を溶液冷却晶析として行うことを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記溶液冷却晶析をフラッシュ冷却晶析として行うことを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記合成から生じる、ラウリンラクタムおよび更なる成分を含有する物質流を、まず温度上昇のために熱交換器に導き、次いでフラッシュ容器中で放圧し、引き続き蒸気相を蒸留による分離シーケンスに供給し、とりわけラウリンラクタムを含有する高沸点フラクションを、ラウリンラクタムの主部分を含有するフラッシュ段階と一緒に、融液晶析に供給することを特徴とする、請求項11記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105723(P2011−105723A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260584(P2010−260584)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany