説明

曇点を有する高分子組成物

【課題】曇点を有する新規高分子組成物を提供する。
【解決手段】ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類を含む組成物であって、水溶液が曇点を有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曇点を有する高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子又は高分子組成物の中には、その溶液を昇温していくと白濁してくる曇点現象を示すものがあり、その温度を曇点という。
【0003】
曇点を有する高分子又は高分子組成物としては、フッ化アルキルメタクリレートを主成分とする重合体とフッ化ビニリデン共重合体との混合物(特許文献1)、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミドのようなN−置換(メタ)アクリルアミド類やN−ビニルカプロラクタムのようなビニルアミド類等を原料に得られる重合体(特許文献2)などが知られており、これらは、温度表示材料、温度センサー、遮光材料等の用途に用いることができる。
【0004】
一方、ポリビニルピロリドン等のポリビニルラクタム類、及びポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン類は、単独では曇点現象を示さない。特許文献3には、ポリビニルピロリドン等のポリビニルラクタム類は、水溶液中でポリエチレンイミンによって架橋化され、ゲル化すると記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−51548号公報
【特許文献2】特開2005−68353号公報
【特許文献3】国際公開第01/53359号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、曇点を有する新規高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類を含む組成物であって、水溶液が曇点を有する組成物。
(2)ポリビニルラクタム類のK値が40〜120である前記(1)に記載の組成物。
(3)ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比が10:1〜1:100である前記(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)水を含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比が10:1〜1:100である前記(4)に記載の組成物。
(6)ポリビニルラクタム類がポリビニルピロリドンである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)ポリアルキレンイミン類がポリエチレンイミンである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量が500〜100,000である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液とを混合して得られる前記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、水とを混合して得られる前記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、曇点を有する新規高分子組成物を提供することができる。本発明の組成物は、水系で曇点現象を示すので安全性が高く、また濁りの変化の幅が狭く、更に、ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との割合を変えることにより容易に曇点を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いるポリビニルラクタム類とは、N−ビニルラクタムをモノマー原料の主成分とする重合体をいう。モノマー原料の主成分となるN−ビニルラクタムとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニル−7−メチル−ε−カプロラクタムが挙げられる。これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。中でもN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。
【0010】
ポリビニルラクタム類の原料となるモノマーとしてN−ビニルラクタム以外のモノマーも含まれていてよく、具体的には酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルエステル共重合体、ビニルイミダゾール、1−ブテンや1−ドデセンや1−ヘキサデセンや1−エイコセンや1−トリアコンテン等のα−オレフィン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルエステル及びその4級塩やN,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びその4級塩等のアミノ基(及びその4級塩)含有不飽和モノマー等が使用可能であり、これらの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのN−ビニルラクタム以外のモノマーの使用量はN−ビニルラクタムに対して、モル比で、好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.2以下である。
【0011】
本発明において、ポリビニルラクタム類は、曇点を明確に発現させるのに好適で、分解やゲル化等の副反応を起こさない点で、ホモポリマーの場合には、K値が40〜120であることが好ましく、50〜100であることが更に好ましく、60〜90であることが最も好ましく、コポリマーの場合には、平均質量分子量が1万〜500万あることが好ましく、5万〜300万であることが更に好ましく、10万〜200万であることが最も好ましい。
【0012】
ポリビニルラクタム類のK値は、分子量と相関する粘性特性値であり、ポリビニルラクタム類を水に1質量%の濃度で溶解させ、その溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー(Fikentscher)の式:
(logηrel)/C=〔(75Ko)/(1+1.5KoC)〕+Ko
K=1000Ko
(但し、Cは、溶液100ml中のポリビニルラクタム類のg数を示し、ηrelは、水に対する溶液の相対粘度を示す。)
から計算することができ、K値が高いほど、分子量が高いといえる。
【0013】
K値が40〜120であるポリビニルラクタム類は、メチル基やブチル基、フェニル基等を末端に有する開始剤、例えば、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)に代表されるアゾ系の開始剤等を用いて重合することにより製造することができる。
【0014】
一方、過酸化水素等の開始剤を用いると、ポリマー末端は前記のアルキル基等にならない場合があり、カルボン酸末端であればポリアルキレンイミン類のアミノ基と作用してゲル化が起こりうる。更には、過酸化水素では連鎖移動が起き易いために、ポリビニルラクタム類のK値は総じて40未満のものになりやすい。
【0015】
また、K値が40〜120であるポリビニルラクタム類としては、例えば、(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90(K値:90)、ポリビニルピロリドンK−85(K値:85)等の粉体製品;(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90W(K値:90)、ポリビニルピロリドンK−85W(K値:85)等の水溶液製品が市販されているので、これらを用いることができる。
【0016】
ポリビニルラクタム類の平均質量分子量は、ポリスチレンを標準物質としてGPCで測定することができる。
【0017】
本発明に用いるポリアルキレンイミン類としては、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等を常法により重合して得られる単独重合体の他、前記アルキレンイミンの2種以上を混合して得られる、例えば、エチレンイミンとプロピレンイミンとの混合物からなる共重合体を用いることができる。これらの中でも、ポリエチレンイミンを用いることが好ましい。
【0018】
前記ポリアルキレンイミン類は、分岐状のものであってもよい。分岐状ポリアルキレンイミン類の場合、その中に存在する第一アミン、第二アミン、及び第三アミンのうち、第三アミンの割合が1〜50モル%であることが好ましく、5〜45モル%であることが更に好ましく、10〜40モル%であることが更に好ましい。分岐状ポリアルキレンイミン類中に存在する第三アミンの割合は、NMR分析等により測定することができる。
【0019】
前記ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量は、取扱いの容易さ、及び安全性の点で、500〜100,000であることが好ましく、1,000〜90,000であることが更に好ましく、5,000〜80,000であることが最も好ましい。
【0020】
平均質量分子量が500〜100,000であるポリアルキレンイミン類としては、例えば、(株)日本触媒製のエポミンTMP−1000(平均質量分子量:約70,000)、エポミンTMSP−200(平均質量分子量:約10,000)、エポミンTMSP−018(平均質量分子量:約1,800)、エポミンTMSP−012(平均質量分子量:約1,200)、エポミンTMSP−006(平均質量分子量:約600)が市販されているので、これらを用いることができる。
【0021】
ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比は、曇点が明確に発現する点で、10:1〜1:100であることが好ましく、5:1〜1:50であることが更に好ましく、1:1〜1:10であることが最も好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、水を含んでもよく、この場合、ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比は、曇点が明確に発現し、取扱いが容易である点で、10:1〜1:100であることが好ましく、5:1〜1:20であることが更に好ましい。本発明の組成物を水溶液として用いる場合には、当該水溶液の粘度は、好ましくは1〜100,000mPa・s/25℃、更に好ましくは10〜10,000mPa・s/25℃、最も好ましくは50〜5,000mPa・s/25℃である。
【0023】
本発明の組成物には、ポリビニルラクタム類、ポリアルキレンイミン類及び水のほかに、他の成分を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができるが、このような他の成分の配合量の合計は、ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、必要に応じて更に水及び/又は他の成分とを混合することにより得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
以下において、各物性値は次のようにして求めた。
(K値の測定)
ポリビニルラクタム類を水に1質量%の濃度で溶解させ、その溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー(Fikentscher)の式:
(logηrel)/C=〔(75Ko)/(1+1.5KoC)〕+Ko
K=1000Ko
(但し、Cは、溶液100ml中のポリビニルラクタム類のg数を示し、ηrelは、水に対する溶液の相対粘度を示す。)
から計算した。
【0027】
(ポリエチレンイミンの平均質量分子量)
プルランを標準物質としてGPCで測定した。
(粘度の測定)
200mlのトールビーカーに該当サンプル150gを加え、B型粘度計(25℃、ローター番号2、回転数60rpm、芝浦システム株式会社製、VDA型)で60秒間測定したときの値を読み取り、5回測定した平均値をその粘度とした。
(曇点の測定)
JIS K2269に記載の方法に従い、製品の該当混合比にて測定した。
【0028】
(実施例1〜3及び比較例1〜4)
(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90W(K値:90;20質量%水溶液製品)は水で2倍に希釈してポリビニルピロリドンの10質量%水溶液として用いた。
(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−30W(K値:30;30質量%水溶液製品)は水で3倍に希釈してポリビニルピロリドンの10質量%水溶液として用いた。
(株)日本触媒製のエポミンTMP−1000(ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液製品)はそのまま用いた。
【0029】
また、(株)日本触媒製のエポミンTMSP−200(ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約10,000)の非希釈製品)は水で4倍に希釈してポリエチレンイミンの25質量%水溶液として用いた。
【0030】
前記のポリビニルピロリドン水溶液とポリエチレンイミン水溶液を表1に示す割合で混合した。
【0031】
【表1】

【0032】
温度を低温から上昇させて、混合物の外観を観察したところ、3℃(冷蔵庫中)では、すべての混合物が無色透明であり、22℃(室温)では、実施例2の混合物が白濁し、比較例1の混合物がゲル化し、60℃では、実施例1〜3の混合物が白濁した。実施例3及び比較例1〜4の混合物については80℃でも観察したが、60℃のときと比較して外観に変化は認められなかった。
【0033】
いずれのポリビニルピロリドン水溶液及びポリエチレンイミン水溶液も、単独ではいずれの温度でも白濁は観察されなかった。
【0034】
(実施例4)
(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90W(K値:90;20質量%水溶液製品)を用いて調製したポリビニルピロリドンの10質量%水溶液と、ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液((株)日本触媒製のエポミンTMP−1000)との質量比を1:1、1:2、1:3、1:10と変えて混合物の粘度を各5回測定し、それぞれの単独水溶液の粘度とともに、平均値を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示された結果から、ポリエチレンイミン鎖の間にポリビニルピロリドンが入り込んで粘度が低下し、その結果、親和性が低下し、曇点現象が生じているものと推定される。
【0037】
ポリビニルピロリドン(K値:90)の10質量%水溶液とポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液との質量比が1:10の場合でも、22℃(室温)以上で白濁が観察された。
【0038】
(実施例5)
(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90W(K値:90;20質量%水溶液製品)を用いて調製したポリビニルピロリドンの10質量%水溶液と、ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液((株)日本触媒製のエポミンTMP−1000)との質量比を1:1、1:2と変えて混合物の濁り始めの温度(曇点)及び完全に濁った温度を各3回測定し、濁り始めの温度(曇点)及びその平均値を表3に示し、曇点の感度(濁り始めの温度(曇点)/完全に濁った温度)を表4に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
表4から、本発明の組成物は、非常に狭い範囲で濁りの変化が生じるため、温度センサーの材料として優れた特性を有することがわかる。
【0042】
(実施例6)
以上の実施例において、曇点現象が確認されたサンプル、例えば、(株)日本触媒製のポリビニルピロリドンK−90W(K値:90;20質量%水溶液製品)を用いて調製したポリビニルピロリドンの10質量%水溶液と、ポリエチレンイミン(平均質量分子量:約70,000)の30質量%水溶液((株)日本触媒製のエポミンTMP−1000)とを質量比1:2で混合して得られた混合物を偏光顕微鏡で観察したところ、濁りが生じている状態で液晶(液体と結晶(固体)の中間にある物質の状態)が観察された。濁りのない透明な状態では液晶は観察されなかった。
【0043】
また、ポリビニルピロリドン水溶液又はポリエチレンイミン水溶液のそれぞれ単独では液晶は観察されなかった。
【0044】
以上のことから、本発明の組成物は液晶表示材料として使用できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の組成物は、曇点現象を示し、温度表示材料、温度センサー、遮光材料、液晶表示材料等の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類を含む組成物であって、水溶液が曇点を有する組成物。
【請求項2】
ポリビニルラクタム類のK値が40〜120である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ポリビニルラクタム類とポリアルキレンイミン類との質量比が10:1〜1:100である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
水を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリビニルラクタム類及びポリアルキレンイミン類の合計量と水との質量比が10:1〜1:100である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ポリビニルラクタム類がポリビニルピロリドンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリアルキレンイミン類がポリエチレンイミンである請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ポリアルキレンイミン類の平均質量分子量が500〜100,000である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液とを混合して得られる請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ポリビニルラクタム類又はその水溶液と、ポリアルキレンイミン類又はその水溶液と、水とを混合して得られる請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。