説明

最終処分場埋立地の早期安定化方法

【課題】 廃棄物処分場における廃棄物を酸化剤によって安定化促進(ケミカルオキシデーション)する効果を向上させることができる最終処分場埋立地の早期安定化方法を提供する。
【解決手段】 最終処分場埋立地の廃棄物層6に酸化剤注入系12を通して所定薬剤量の酸化剤を注入して難分解性有機物の分解を促進するものであり、酸化剤を注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、酸化剤の自己分解を抑制する助剤を助剤注入系13を通して所定薬剤量で注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は最終処分場埋立地の早期安定化方法に関し、処分場廃止の阻害要因である難分解性有機物を酸化剤により分解して安定化を促進するケミカルオキシデーションの技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、最終処分場埋立地において採用事例の多い準好気性埋立工法は、グリ石と有孔管からなる浸出水集排水管とそれに接続する立渠(空気抜)を埋立廃棄物層の底部に設けるものである。この工法は、埋立廃棄物層から出る浸出水を、浸出水集排水管を通して速やかに埋立系外へ排水することにより、埋立廃棄物層に浸出水を滞水(内部貯留)させないものであり、浸出水集排水管および立渠を通して空気を埋立地内部へ取り込んで、埋立廃棄物層内を準好気的に保つものである。この空気の取り込みは、埋立廃棄物の温度と外気温との温度差により自然に生じる負圧による吸引であり、吸気、排気のために機械的な動力を要しない。しかし、廃棄物層のどの位置から吸引が行われているかは不明であり、廃棄物層の密度や締め固め具合に透過性が大きく影響される。
【0003】
ところで、閉鎖(埋立終了)した後の最終処分場は、「一般廃棄物の最終処分及び産業廃棄物の最終処分に係る技術上の基準を定める命令」で定められた最終処分場の廃止基準を満たすことによって廃止させることができる。
【0004】
しかし、浸出水に係る廃止基準は、維持管理計画に定められた排水基準となっており、これは浸出水処理の高度化傾向にある昨今としては極めて厳しい基準となっている。このため、閉鎖から廃止まで長期にわたる場合が多く、その間の維持管理費の増大や跡地利用の制限等の問題が顕在化している。そればかりか、一部処分場については半永久的に廃止できないといった状況も生じている。
【0005】
このため、廃棄物層に酸化剤を注入し、廃棄物層内の難分解性有機物を分解し、廃棄物層からの浸出水質を早期に処理水質目標値まで低減・安定化させる技術がある。
例えば、特許文献1に記載するものは、浸出水を還流する埋立廃棄物層において有害物質を変化させる反応液循環式準好気性埋立処分方法であり、埋立廃棄物層の浸出水を集排水管で集水し、集排水管から排出する浸出水を浸出水調整槽に貯留し、浸出水調整槽に貯留する浸出水を散水手段の供給ポンプ、送水管、散水口で埋立廃棄物層に還流するものであって、浸出水調整槽に薬剤として酸化剤、塩基、微生物培地を形成する養分、溶媒、キレート剤の少なくとも何れかを供給し、埋立廃棄物層に還流する浸出水に伴って前記薬剤を埋立廃棄物層に供給するものである。
【0006】
また、特許文献2に記載するものは、廃棄物処分場における廃棄物の早期安定化促進剤であり、廃棄物中に、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸カリウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩素のうち少なくとも何れかひとつを含む安定化促進剤を供給し、廃棄物に対して、酸化又は分解若しくはその両方の処理を行うものである。
【特許文献1】特開2004−351239号公報
【特許文献2】特開2004−337675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した構成において、酸化剤と廃棄物に含まれる金属等が反応することで、酸化剤が無駄に消費されてしまう問題がある。また、酸化剤の分解速度が速いと、酸化剤によって発生したガスが廃棄物粒子間に充満してしまい、水(酸化剤)自体の透過性を妨げ、水が流れないようになる問題があった。
【0008】
本発明は上記した課題を解決するものであり、廃棄物処分場における廃棄物を酸化剤によって安定化促進(ケミカルオキシデーション)する効果を向上させることができる最終処分場埋立地の早期安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の最終処分場埋立地の早期安定化方法は、最終処分場埋立地の廃棄物層に所定薬剤量の酸化剤を注入して難分解性有機物の分解を促進するものであり、酸化剤を注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、酸化剤の自己分解を抑制する助剤およびpH調整剤の少なくとも何れか一方を所定薬剤量で注入するものである。
【0010】
また、廃棄物層から発生する酸素ガス濃度を測定し、廃棄物層に注入する薬剤量を酸素ガス濃度の測定値に基づいて制御するものである。
上記した構成において、pH調整剤としての「酸」とは「水素イオンHを放出する物質」のことであり、化合物中に「H」をもつ塩酸、硫酸、炭酸、カルボン酸などで、水中でイオン化し、Hを放出する。
【0011】
酸と反対の作用を示すpH調整剤としての「塩基(アルカリ)」とは「水素イオンHを受け取る物質」のことであり、水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、水酸化カルシウムCa(OH)、水酸化バリウムBa(OH)、アンモニアNH、水酸化マグネシウムMg(OH)、水酸化アルミニウムAl(OH)、水酸化鉄(III)Fe(OH)などであり、これらは水中でイオン化し、OHを放出する。
【0012】
この酸と塩基が反応して得られる物質である「塩」は、その組み合わせによって緩衝液となり、緩衝液は、多少の酸・塩基を添加してもpHを一定に保つ作用(緩衝作用)をもつものであり、りん酸(ナトリウム)緩衝溶液、酒石酸(ナトリウム)緩衝溶液、くえん酸(ナトリウム)緩衝溶液、酒石酸(ナトリウム)緩衝溶液、酢酸(ナトリウム)緩衝溶液、(酢酸)エタノールアミン緩衝溶液、ほう酸(カリウム)緩衝溶液等がある。このうち、本発明では、pHを酸性に保つことが必要であることから、pHを7以下に保つ作用のある緩衝液をpH調整剤として使用する。
【0013】
また、廃棄物に含まれる焼却灰は塩基性であり、これを中和しかつ酸性にするためには当然「酸」が必要になる。
上述した酸・塩基に対し、酸化・還元の定義はいろいろあるが、ここでは「酸化とは、電子を失うこと」であり、「還元とは、電子を得ること」であり、「酸・塩基」では水素イオン「H」の授受反応であるのに対し、「酸化・還元」では電子「e」の授受反応である。
【0014】
したがって、酸化剤とは相手から電子を奪って相手を酸化させて、その電子を受け取って自身は還元されるものであり、逆に、還元剤とは相手に電子を与えて還元させて、自身は電子を失って酸化されるものである。
【0015】
酸化剤としては以下のものがある。
過マンガン酸カリウム(MnO+8H+5e→Mn2+4HO)
過酸化水素(H+2H+2e→2HO)
次亜塩素酸ナトリウム(ClO+2H+2e→Cl+HO)
過炭酸ナトリウムならびに過硫酸ナトリウム(反応式は後に記載する)
還元剤としては以下のものがある。
シュウ酸(C→2CO+2H+2e
ヨウ化カリウム(2I→I+2e
硫化鉄(II)(Fe→Fe+e
本発明において酸化剤にHを用いる場合に、その反応相手である難分解性有機物をCとすれば、その反応は以下のようになる。
CO+mH+me
m/2H+mH+me→2H
+m/2H→nCO+2H
つまり、Hが酸化剤として働き、難分解性有機物が酸化される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、最終処分場埋立地の廃棄物層に酸化剤を注入することにより、難分解性有機物の分解を促進して浸出水中のCODおよび窒素の低減を図り、浸出水質の安定化促進を行う。
【0017】
この際に、過酸化水素等を酸化剤として注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、助剤およびpH調整剤を注入することにより、酸化剤の自己分解を抑制し、酸化剤と難分解性有機物との反応率を高める。
【0018】
廃棄物層中には金属が存在するのでアルカリ側ほどに酸化剤の自己分解速度が速くなる。このため、例えば、pH調整剤として塩酸、硫酸、硝酸等を注入し、廃棄物層内のpHを酸性(pH7以下、望ましくはpH4.5)に調整し、酸化剤の自己分解速度を抑制することにより無駄に消費される酸化剤の薬剤量を減じることができる。
【0019】
また、酸化剤の自己分解によって生じるガスが廃棄物粒子間に充満すると酸化剤の透過性を阻害する原因となるが、酸化剤の自己分解を抑制してガスの発生量を低減することで廃棄物層における酸化剤の透過性を良好な状態に維持でき、酸化剤と難分解性有機物との反応率を高めることができる。
【0020】
また、炭酸イオンは酸化剤を浪費するスカベンジャーとして作用するが、廃棄物層内のpHを酸性に調整することにより、炭酸イオン濃度を低減して浪費される酸化剤の薬剤量を低減することができる。
【0021】
また、助剤として例えばリン酸を注入することにより、リン酸のpH緩衝能、金属封鎖作用、固体粒子分散作用によって、廃棄物層内のpHを酸性に調整する以上に、無駄に消費される酸化剤の薬剤量を減らすことができる。
【0022】
ところで、注入する助剤およびpH調整剤の薬剤量が必要量に対して少なければ、酸化剤(H)の浪費(2H→2HO+O)が多くなって、酸化剤による難分解性有機物の分解が期待できない。また、注入する助剤およびpH調整剤の薬剤量が必要量に対して多ければ、酸化剤(H)の浪費を抑制できるが、過剰分の助剤およびpH調整剤が無駄になって処理コストが高くなる。
【0023】
このため、廃棄物層から発生する酸素ガス濃度を測定し、廃棄物層に注入する薬剤量を酸素ガス濃度の測定値に基づいて制御し、酸素ガス濃度を所定値以下に維持することにより、廃棄物層へ注入する助剤およびpH調整剤、ならびに酸化剤の薬剤量を適切な量に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、最終処分場埋立地は、堤体1をなす貯留構造物によって周囲と遮断しており、底部に遮水工2と集排水管3を施工して雨水が浸出水として周囲の地中に漏出することを防止し、浸出水を処理施設に導くものである。
【0025】
集排水管3は堤体1を貫通してポンプピット4に連通しており、ポンプピット4には浸出水を排出する排水ポンプ5を配置している。集排水管3は周囲にグリ石を配置した有孔管からなり、埋立地に降った雨水は廃棄物層6を通って集排水管3に流入し、集排水管3を通ってポンプピット4に流れ出る。ポンプピット4では排水ポンプ5によって浸出水を排出し、集排水管3の開口が液面上に露出するように液位を維持する。排水ポンプ5で排出する浸出水は、調整槽7から水処理施設8を経て放流する。
【0026】
廃棄物層6には集排水管3に接続する立渠(空気抜)9と、グリ石を積層してなる薬剤注入井10と、廃棄物層6で発生するガスを測定するための測定穴11とを設けている。
薬剤注入井10には酸化剤を注入する酸化剤注入系12と、助剤を注入する助剤注入系13を接続しており、酸化剤注入系12の注入ポンプ14および助剤注入系13の注入ポンプ15が制御ラインを介して制御装置16に接続されている。本実施の形態において酸化剤は過酸化水素水溶液であり、助剤はリン酸水溶液である。
【0027】
測定穴11には酸素濃度計17およびガス吸引ポンプ18を介装したガス吸引系19が接続しており、酸素濃度計17が制御装置16に接続している。
以下、上記した構成における作用を説明する。準好気性埋立地においては、廃棄物を微生物による生物反応によって分解し、この生物処理に必要な空気を集排水管3を通して土中に通気する。
【0028】
埋立地に降った雨水は廃棄物層6を通って集排水管3に流入し、集排水管3を通ってポンプピット4に流れ出る。ポンプピット4では排水ポンプ5によって浸出水を排出し、集排水管3の開口が液面上に露出するように液位を維持する。排水ポンプ5で排出する浸出水は、調整槽7から水処理施設8を経て放流する。
【0029】
埋立地における浸出水の水量水質は、埋立ごみ質、降雨等の気象条件、埋立構造、埋立地の規模、集水面積の大小、埋立期間、ごみ埋立経過時間等により異なり、焼却残渣や不燃ごみを埋め立てる場合には、無機物が多いのでこれらに由来するSS、塩類(Ca、Cl等)、重金属(Pb、Hg、Cd等)、ダイオキシン類が含まれる。また、焼却残渣中や不燃ごみ中に有機物(生物易分解性有機物、生物難分解性有機物)が多い場合は、BOD,COD,T−N,NH4+−N等が比較的高濃度になる。
【0030】
この最終処分場埋立地を早期安定化するために、酸化剤注入系12によって廃棄物層6に所定薬剤量の酸化剤(H)を注入して難分解性有機物の分解を促進し、浸出水中のCODおよび窒素の低減を図り、浸出水質の安定化促進を行う。
【0031】
この際に、廃棄物層6には金属が存在するのでアルカリ側ほどに酸化剤の自己分解速度が速くなる。このため、酸化剤を注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、助剤注入系13によって助剤(リン酸)を所定薬剤量で注入する。
【0032】
この助剤として例えばリン酸を注入することにより、リン酸のpH緩衝能、金属封鎖作用、固体粒子分散作用によって、酸化剤の自己分解を抑制し、酸化剤と難分解性有機物との反応率を高め、無駄に消費される酸化剤の薬剤量を減らすことができる。
【0033】
また、酸化剤の自己分解によって生じるガスが廃棄物粒子間に充満すると酸化剤の透過性を阻害する原因となるが、酸化剤の自己分解を抑制してガスの発生量を低減することで廃棄物層における酸化剤の透過性を良好な状態に維持でき、酸化剤と難分解性有機物との反応率を高めることができる。
【0034】
ところで、注入する助剤の薬剤量が必要量に対して少なければ、酸化剤(H)の浪費(2H→2HO+O)が多くなって、酸化剤による難分解性有機物の分解が期待できない。また、注入する助剤の薬剤量が必要量に対して多ければ、酸化剤(H)の浪費を抑制できるが、過剰分の助剤が無駄になって処理コストが高くなる。
【0035】
このため、廃棄物層6から発生する酸素ガス濃度を測定し、廃棄物層6に注入する薬剤量を酸素ガス濃度の測定値に基づいて制御する。酸素ガス濃度の測定は、廃棄物層6から測定穴11に噴出する噴出ガスに含まれた酸素ガスの濃度を検出して行う。ガス吸引ポンプ18を駆動し、ガス吸引系19を通して測定穴11の噴出ガスを吸引し、吸引した噴出ガスに含まれた酸素ガスの濃度を酸素濃度計17において測定する。
【0036】
制御装置16は、測定により得られた酸素ガス濃度の測定値を制御指標として注入ポンプ14、15の駆動を制御し、酸素ガス濃度が30%以下を維持するように、廃棄物層6へ注入する助剤ならびに酸化剤の薬剤量を適切な量に制御する。
【0037】
図2は、廃棄物層6の地中の酸素ガス濃度の時間変化を示すものである。カーブaで示すように、薬剤として酸化剤のみを注入する場合には、酸化剤添加開始時T1から酸化剤添加停止時T2までの間において酸素ガス濃度が酸化剤の添加に伴って高濃度となって一定時間後にピークに達し、酸化剤(H)の浪費(2H→2HO+O)が多くなる傾向が認められる。
【0038】
カーブbで示すように、酸化剤とともに助剤を注入(無制御)する場合には、酸化剤添加開始時T1から酸化剤添加停止時T2までの間において全体的に酸素ガス濃度の上昇を抑制でき、酸化剤(H)の浪費が少なくなる傾向が認められるが、酸素ガス濃度の上昇傾向から判断して酸化剤の添加に伴って酸化剤(H)の浪費が増加する傾向にあると認められる。
【0039】
カーブcで示すように、酸素ガス濃度の変化を廃棄物層6に注入する助剤の薬剤量を酸素ガス濃度に基づいて制御する場合には、酸化剤添加開始時T1には助剤の注入量が少なくもしくは添加しないので酸素ガス濃度が上昇傾向となるが、酸素ガス濃度の高まりに伴って助剤の注入量を増加させた時T3を境に酸素ガス濃度の上昇が抑制され、酸化剤(H)の浪費を抑制できる。酸素ガス濃度が低下傾向に転じた時T4に助剤の注入量を減少させ、酸素ガス濃度の低下傾向が増した時T5にさらに助剤の注入量を減少させ、酸素ガス濃度が所定値以下となった時T6に助剤の注入を停止する。
【0040】
本実施の形態では、薬剤注入井10に助剤注入系13を接続しているが、図3に示すように、注入ポンプ21を介装したpH調整剤注入系22を接続し、酸化剤を注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、pH調整剤注入系22によって助剤(リン酸)を所定薬剤量で注入することも可能である。この場合にも、廃棄物層6から発生する酸素ガス濃度を測定し、制御装置16が測定により得られた酸素ガス濃度の測定値を制御指標として注入ポンプ14、21の駆動を制御することにより、酸素ガス濃度が30%以下を維持するように、廃棄物層6へ注入するpH調整剤ならびに酸化剤の薬剤量を適切な量に制御する。
【0041】
このpH調整剤としては塩酸、硫酸、硝酸等を注入し、廃棄物層6のpHを酸性(pH6以下、望ましくはpH4.5)に調整することにより、酸化剤の自己分解速度を抑制するして無駄に消費される酸化剤の薬剤量を減じる。
【0042】
また、炭酸イオンは酸化剤を浪費するスカベンジャーとして作用するが、廃棄物層6のpHを酸性に調整することにより、炭酸イオン濃度を低減して浪費される酸化剤の薬剤量を低減することができる。
【0043】
また、図4に示すように、助剤注入系13とpH調整剤注入系22を併設することも可能である。この場合にも、廃棄物層6から発生する酸素ガス濃度を測定し、制御装置16が測定により得られた酸素ガス濃度の測定値を制御指標として注入ポンプ14、15、21の駆動を制御することにより、酸素ガス濃度が所定値以下を維持するように、廃棄物層6へ注入する助剤、pH調整剤ならびに酸化剤の薬剤量を適切な量に制御する。
【0044】
この構成によれば、先に述べた助剤およびpH調整剤の作用効果が相乗的に発揮され、酸化剤の無駄な消費量を適切に制御することができる。
上述した実施の形態では酸化剤として過酸化水素を例示したが、酸化剤としては、過炭酸ナトリウム、過硫酸ナトリウムを使用することもできる。この場合には以下の反応式となる。
【0045】
過炭酸ナトリウムは以下の反応により酸化剤として作用する。
Na+HO→NaCO+CO+H‥‥‥(1)
+2H+2e→2HO‥‥‥(2)
2−+2e→2CO2−‥‥‥(3)
反応式(1)、(2)が主反応である。
【0046】
過硫酸ナトリウム以下の反応により酸化剤として作用する。
Na+2HO→2NaHSO+H‥‥‥(4)
+2H+2e→2HO‥‥‥(5)
2−+2e→2SO2−‥‥‥(6)
反応式(4)、(5)が主反応である。
【0047】
自己分解時には、反応式(1)、(2)および(4)、(5)で生成する過酸化水素が自己分解して酸素が発生する。
実施例
図5から図7において、模擬埋立層31、32、33はW1000mm×L1000mmの鋼板槽に埋立廃棄物を0.5m入れたものであり、模擬埋立層31、32、33の最下部は100mm厚の砂利層であり、廃棄物層の最上部は100mm厚の真砂土による覆土層である。
【0048】
鋼板槽の下面は、φ5mm穴のパンチングプレートになっており、浸出水を集排水できる構造となっている。埋立廃棄物として、焼却灰65%、不燃廃棄物30%、下水汚泥5%を用いた。この3つの槽に水道水供給管34を通してそれぞれ約10L/日で3ヶ月間散水した。
【0049】
その後に、図5に示すNo.1の模擬埋立層31においては、薬剤供給系35を通して酸化剤として1%H水溶液を1L/hrで30時間添加した。図6に示すNo.2の模擬埋立層32においては、薬剤供給系36を通して酸化剤としての1%Hと助剤としての1%リン酸の混合水溶液を1L/hrで30時間添加した。図7に示すNo.3の模擬埋立層33においては、薬剤供給系37を通して酸化剤として1%H水溶液を1L/hrで30時間添加し、その間に助剤として1%リン酸水溶液を制御装置41で制御しながら薬剤供給系38を通して添加した。
【0050】
各模擬埋立層31、32、33において、ガス吸引ポンプ39を用いて0.1L/minで廃棄物層内のガスを吸引し、その酸素濃度を酸素濃度計40でモニタリングした。No.3の模擬埋立層33における助剤の添加の制御方法は、酸化剤を添加した直後から単位時間当たりの酸素濃度変化量(ΔOconc./Δt)が小さくなるように助剤(リン酸水溶液)の添加量を増減させ、酸素濃度変化量(ΔOconc./Δt)が0以下になった時点で助剤の添加を停止させた。
【0051】
図8に各模擬埋立層31、32、33における酸素濃度の時間変化を示す。図8に示すように、No.1の模擬埋立層31では廃棄物層内の酸素ガス濃度が約90%とに達し、No.2の模擬埋立層32、No.3の模擬埋立層33では約60%となった。総酸素ガス発生量はNo.1の模擬埋立層31が最も多く、酸化剤のHを浪費して酸素ガスを多量に発生させたことが認められる。
【0052】
No.2の模擬埋立層32、No.3の模擬埋立層33では、総酸素ガス発生量がNo.1の模擬埋立層31より少なく、No.3の模擬埋立層33が最も少なくなった。すなわち、助剤を添加することで酸化剤の浪費が抑制され、さらに助剤の添加量を制御することで酸化剤の浪費をより一層抑制できることが認められる。
【0053】
図9に助剤の消費率を示す。No.2の模擬埋立層32とNo.3の模擬埋立層33で助剤の消費量を比較すると、No.2の模擬埋立層32での消費量を100%とした場合、No.3の模擬埋立層33での助剤の消費量は75%となった。すなわち、助剤の添加量を制御することで、助剤の添加量を低減できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態における最終処分場埋立地の早期安定化方法を示す模式図
【図2】最終処分場埋立地の酸素ガス濃度の時間変化を示すグラフ図
【図3】本発明の他の実施の形態における最終処分場埋立地の早期安定化方法を示す模式図
【図4】本発明の他の実施の形態における最終処分場埋立地の早期安定化方法を示す模式図
【図5】本発明の実施例におけるNo.1模擬埋立層の構成を示す模式図
【図6】本発明の実施例におけるNo.2模擬埋立層の構成を示す模式図
【図7】本発明の実施例におけるNo.3模擬埋立層の構成を示す模式図
【図8】No.1から3までの模擬埋立層における酸素濃度の時間変化を示すグラフ図
【図9】No.2とNo.3の模擬埋立層における助剤の消費率を示すグラフ図
【符号の説明】
【0055】
1 堤体
2 遮水工
3 集排水管
4 ポンプピット
5 排水ポンプ
6 廃棄物層
7 調整槽
8 水処理施設
9 立渠(空気抜)
10 薬剤注入井
11 測定穴
12 酸化剤注入系
13 助剤注入系
14、15、21 注入ポンプ
16 制御装置
17 酸素濃度計
18 ガス吸引ポンプ
19 ガス吸引系
22 pH調整剤注入系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終処分場埋立地の廃棄物層に所定薬剤量の酸化剤を注入して難分解性有機物の分解を促進するものであり、酸化剤を注入する前に、または酸化剤の注入と同時に、酸化剤の自己分解を抑制する助剤およびpH調整剤の少なくとも何れか一方を所定薬剤量で注入することを特徴とする最終処分場埋立地の早期安定化方法。
【請求項2】
廃棄物層から発生する酸素ガス濃度を測定し、廃棄物層に注入する薬剤量を酸素ガス濃度の測定値に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の最終処分場埋立地の早期安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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