説明

有刺放電線及びこれを用いた湿式電気集塵機

【課題】 湿式電気集塵機に使用される、強い放電電流を効率良く流すことが可能な簡易な構造の有刺放電線を提供する。
【解決手段】 線状の通電線11と、両端が鋭利なL形に屈曲した刺線12a、12bとからなる有刺放電線10であって、通電線11の一端から他端に亘って刺線12a、12bが1対ずつ好適には30〜60mmの間隔で等間隔に設けられている。各刺線12a、12bの屈曲部から先端までの長さは5〜30mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い放電電流値で集塵操作を行う高性能電気集塵機に用いる有刺放電線に関し、特に四角筒型集塵極を有する湿式電気集塵機に用いる有刺放電線に関する。
【背景技術】
【0002】
ダストを含有しているガス(以降、含塵ガスと称する)の集塵に用いられる湿式電気集塵機は、一般的に、2枚の平板型や、円筒状、角筒状などの筒型からなる滑らかな表面を有する集塵極と、この集塵極内に設けられた線状の放電線から構成されている。この電気集塵機で集塵操作を行う際、放電線側に負の高電圧が印加されると、接地されている集塵極側との間の電位差の上昇に伴って放電線側から旺盛なコロナ放電が発生し、放電線と集塵極との間の集塵空間が負イオンと電子によって満たされる。
【0003】
この集塵空間に含塵ガスを導入すると、含塵ガス中のダストやミストは負に帯電し、静電凝集作用を伴いながらクーロン力により集塵極に向って移動し、集塵極上に付着する。付着したダストやミストは、集塵極で負の電荷を失い、自重及び集塵極に供給される洗浄水により集塵極から剥離して落下する。集塵極の下方にはホッパーが設けられており、落下したダストやミストはここで集められた後、機外へ排出される。
【0004】
このような、電気集塵機の集塵率ηの推定式として、以下のDeutschの式がよく用いられる。
【0005】
[数式1]
η=1−exp(−kωA/Q)
【0006】
ここで、kωは見掛粒子移動速度(m/s)、Aは有効集塵面積(集塵極面積の総和m)、Qは処理ガス流量(m/s)である。
【0007】
また、集塵率ηに影響を与える粒子移動速度ωは次の式で示される。
【0008】
[数式2]
ω=Dp・Eo・Er・φ/12πμ
【0009】
ここで、Dpは粒子直径(μm)、Eoは放電線近傍の電界強度、Erは放電線中心から距離r離れた位置での電界強度、φは誘電係数、μはガスの粘性係数である。数式2は、電界強度が粒子移動速度に影響を与えることを示しており、数式1と併せて考えると、高い電圧を印加して強い放電電流を流すことが電気集塵機の性能向上につながることが分る。
【0010】
このため、放電線には、強い放電電流を流すことを目的として、図1の(a)〜(d)に示すような、長手方向に直交する断面形状が丸形、角形、又は星形の単線や、刺付撚り線など様々な形状のものが用いられている。また、これらを改良した網状刺式又は刺板式の有刺放電線が用いられることもある。例えば、特許文献1には、支持パイプと該支持パイプによって支持された網状刺部とを有し、網状刺部は複数のバンドからなるバンド群を備え、各バンドの外方に分岐突片からなる放電部分が形成された網状刺式の有刺放電線が開示されている。また、特許文献2には、鉛製星形線に複数の鉛製刺板を等ピッチで溶接により取付けた刺板式の有刺放電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−110950号公報
【特許文献2】実願平8−1473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の有刺放電線は材料の使用量が多くなるため、耐食性に優れた鉛、チタン等の高価な材料を必要とする湿式電気集塵機ではコスト高になるという問題がある。また、特許文献2の有刺放電線では2方向にしか刺がないため、四角筒型集塵極に用いた場合は均一な電界分布が得られず、放電特性が悪い、即ち、電流が効率良く流れないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記した問題点に鑑み、湿式電気集塵機において強い放電電流を効率良く流すことができる簡易な構造の有刺放電線を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明が提供する湿式電気集塵機用の有刺放電線は、線状の通電線と、両端が鋭利なL形に屈曲した刺線とからなり、通電線の一端から他端に亘って刺線が1対ずつ等間隔に設けられていることを特徴としている。
【0015】
上記本発明の湿式電気集塵機用の有刺放電線においては、刺線が30〜60mmの間隔で1対ずつ等間隔に設けられていることが好ましい。また、刺線の屈曲部から先端までの長さが5〜30mmであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の湿式電気集塵機は、前記有刺放電線が湿式電気集塵機の四角筒型集塵極内に設置されていることを特徴としている。この場合、各対の刺線の先端がそれぞれ四角筒型集塵極の4隅を向くように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構造で、強い放電電流を効率良く流すことができるので、低コストで湿式電気集塵機の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の種々の放電線を示す概略の斜視図である。
【図2】本発明の一具体例の有刺放電線の概略の(a)平面図、(b)正面図及び(c)側面図である。
【図3】本発明の有刺放電線がそれぞれ取り付けられている複数の四角筒型集塵極を示す斜視図である。
【図4】図2の有刺放電線と四角筒型集塵極との位置関係を示した概要図である。
【図5】テスト機の四角筒型集塵極を示す斜視図である。
【図6】エアーロードテストに使用した比較例の有刺放電線の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の有刺放電線の一具体例を説明する。図2に示すように、本発明の一具体例の有刺放電線10は、線状の通電線11と、この通電線11の一端から他端に亘って1対ずつ設けられた複数の刺線対12とからなる。通電線11は、その長手方向に直交する断面形状が、丸形、角形等のいかなる形状であってもよいが、星形が好ましく、6つの頂点を有する星形であって、隣接する頂点の間が凹状に湾曲しているものがより好ましい。
【0020】
複数の刺線対12は、通電線11の長手方向に沿って1対ずつ等間隔に設けられている。隣接する刺線対12同士の間隔は、30〜60mmが好ましい。その理由は、隣接する刺線対12同士の取り付け間隔を狭めると浮遊微粒子の帯電効率が上がり、集塵機の集塵性能が向上するが、所定の間隔よりも狭めてしまうと、刺線から発する放電電流が隣接する刺線対12同士で干渉し合い、放電線1本当たりの放電電流は少なくなるため、結果的に集塵性能が劣化してしまうからである。つまり、上記間隔が30〜60mmの時に最適な集塵性能を得ることができる。
【0021】
各刺線対12は、両端が鋭利であってL形に屈曲した2本の刺線12a、12bから構成される。放電を行うこれら刺線12a、12bは、細ければ細いほどコロナの発生が容易となり望ましいため、本発明の一具体例では、刺線12a、12bに直径3mm程度の刺線を用いている。これら2本の刺線12a、12bが、通電線11を挟んで対向するように、通電線11の両側面にそれぞれ固着している。
【0022】
固着方法は特に限定されないが、溶接によって取り付けるのが好ましい。これにより、品質面でのばらつきの少ない丈夫な有刺放電線10を簡易に量産することができる。尚、刺線が細いと溶接時に変形する恐れがあるが、先ず刺線の略中央部を曲げてL形にし、このL形刺線の略中央部に形成されている屈曲部を通電線11に溶接することによって、変形を抑えつつ複数の刺線対12を均一な形状にそろえることができる。また、刺線12a、12bと通電線11との取り付けは、通電線11の前述した凹状に湾曲している部分に刺線12a、12bの屈曲部の凸状に湾曲している部分を合わせるようにして固着させるのが好ましい。
【0023】
各刺線12a、12bの屈曲部から先端までの長さは、5〜30mmが好ましい。その理由は、5mmより短いと放電電流が少なくなり、30mmより長いと火花放電開始電圧が低くなるからである。
【0024】
上記の有刺放電線10が、湿式電気集塵機に備わった1個又は複数個の集塵極内に設置される。集塵極には種々の形状を用いることができるが、四角筒型形状がより好ましい。また、1つの集塵極には1本の有刺放電線10が設置されることが望ましい。これにより、四角筒型の集塵極の中心部に有刺放電線10を配置した場合は、有刺放電線10と集塵極との間の集塵空間において、均一な電界分布を得ることができ、強い放電電流を流すことができる。尚、四角筒型の集塵極は従来の平板型集塵極に比べ高強度であり、熱影響等による変形がほとんど発生しないため高性能を長期間維持できるという特徴も有している。
【0025】
図3には、一具体例として9個の四角筒型集塵極20が示されており、中央の四角筒型集塵極20を除いて各々有刺放電線10が1本ずつ設けられている。これら9個の四角筒型集塵極20の上方には上部グリッド21が設置されており、このグリッド21には各四角筒型集塵極20の中央部に対応する位置にフックが取り付けられている。このフックに各有刺放電線10の上端部に設けられた環状部材が引っ掛けられている。
【0026】
各有刺放電線10の下端部にはウェイト22が取り付けられており、更に、これらウェイトは、9個の四角筒型集塵極20の下方に位置する下部グリッド23に支持されている。これにより、各有刺放電線10の個別の揺動が抑制される。尚、中央の四角筒型集塵極20の空間中心部には当該下部グリッド23の荷重に耐えるように線径の太いロッド24が設けられているが、これに代えて有刺放電線10を設けても良い。
【0027】
有刺放電線10を四角筒型集塵極20の空間中心部に設置する場合は、更に図4に示すように、各刺線対12において、2本の刺線12a、12bの4つの先端がそれぞれ四角筒型集塵極20の4隅を向いていることが好ましい。また、刺線12a、12bの屈曲部から先端までの直線部は、通電線11の長手方向に直交する面に平行であって且つ通電線11を中心として放射状に延びていることがより好ましい。これにより集塵空間Sでの電界分布Dが有刺放電線10を中心として対称になり、より強い放電電流を流すことが可能になる。
【実施例】
【0028】
[実施例]
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。両端が鋭利な刺線をL形に屈曲し、屈曲部同士対向するように、断面星形形状の太さ9mmの通電線に50mmの間隔で1対ずつ溶接して、図2に示すような本発明の実施例の有刺放電線10を作製した。尚、有刺放電線10の材質はPb、1本の有刺放電線10の有効長さは3mとした。
【0029】
この有刺放電線10を4個の四角筒型集塵極20(縦350mm×横350mm)を有するテスト機に取り付けて、エアーロードテストを行った。尚、図5に示すように、4個の四角筒型集塵極20のうちの2個には1本ずつ有刺放電線10を吊り下げ、残りの2個には1本ずつロッド24を取り付け、これら4本の下端部を、下部グリッド23aに取り付けた。また、電源容量は80kV×20mAとした。
【0030】
[比較例1]
上記実施例の有刺放電線10の代わりに、図6(a)に示すようなTi及びPdからなる刺付撚り線を使用した以外は上記実施例と同様にしてエアーロードテストを行った。尚、この刺付撚り線は、2mm径の線2本からなる撚り線に、両端が鋭利な刺線を、2本ずつ50mm間隔で取り付けたものである。
【0031】
[比較例2]
上記実施例の有刺放電線10の代わりに、図6(b)に示すようなPbからなる刺板付き星形線を使用した以外は上記実施例と同様にしてエアーロードテストを行った。尚、この通電線には実施例と同様のものを用い、その長手方向に沿って刺板を1枚ずつ50mm間隔で取り付けた。
【0032】
これらのエアーロードテストの結果を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1から分かるように、実施例の有刺放電線10は、比較例1、2の刺付撚り線及び刺板付き星形線に比べて、それぞれ1.2倍以上及び1.4倍以上の放電電流が流れた。
【符号の説明】
【0035】
10 有刺放電線
11 通電線
12 刺線対
12a、12b 刺線
20 四角筒型集塵極
S 集塵空間
D 電界分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式電気集塵機に用いる有刺放電線であって、線状の通電線と、両端が鋭利なL形に屈曲した刺線とからなり、通電線の一端から他端に亘って刺線が1対ずつ等間隔に設けられていることを特徴とする湿式電気集塵機用の有刺放電線。
【請求項2】
前記刺線は、30〜60mmの間隔で1対ずつ等間隔に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の湿式電気集塵機用の有刺放電線。
【請求項3】
前記刺線は、屈曲部から先端までの長さが5〜30mmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の湿式電気集塵機用の有刺放電線。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の前記有刺放電線が、湿式電気集塵機の四角筒型集塵極内に設置されていることを特徴とする湿式電気集塵機。
【請求項5】
前記1対の刺線の先端がそれぞれ四角筒型集塵極の4隅を向くように配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の湿式電気集塵機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−188221(P2010−188221A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32253(P2009−32253)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(596032177)住友金属鉱山エンジニアリング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】