説明

有害物質捕捉剤、並びに、その散布装置及び散布方法

【課題】 ウイルスなどの有害物質(20)を捕捉でき、しかも、安価で手軽に使用できる有害物質捕捉剤(10)を提供する。
【解決手段】 有害物質捕捉剤(10)は、有害物質(20)との接触によりその有害物質(20)を捕捉する生体表面付着型のものである。有害物質捕捉剤(10)は、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻、外陰部等の粘膜表面や気道上皮表面や角膜表面などに付着させることで、有害物質(20)との接触によりその有害物質(20)を捕捉する生体表面付着型の有害物質捕捉剤(10)、並びに、その散布装置(30)及び散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に対するウイルスの感染を予防する方法には種々のものがある。
【0003】
特許文献1には、人間および動物宿主において創傷、火傷または生体材料から派生する感染を予防する方法であって、微生物付着および生体膜形成前に宿主防御機制による食菌作用または殺菌に備えて微生物を先行食菌作用にかけるに十分な量の免疫グロブリン組成物を前記創傷、火傷または生体材料に直接に塗布する過程を含む方法が開示されている。そして、この発明の組成物はとくに感染の予防に適用できる、と記載されている。
【特許文献1】特表平8−508240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インフルエンザウイルスに感染するのを予防する方法として、マスクを着用すること、手洗いやうがいをすることを主として挙げることができる。しかしながら、マスクの着用の場合、飛沫を一時的に止めたとしても、飛沫核となったウイルス粒子を通過させてしまうのを阻止することはできない。また、手洗いやうがいをする場合、ウイルスが粘膜に付着した直後に行わなければ効果がなく、タイミングを逸すれば経口や経粘膜的にウイルスに感染して発病してしまうことになる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ウイルスなどの有害物質(20)を捕捉でき、しかも、安価で手軽に使用できる有害物質捕捉剤(10)、並びに、その散布装置(30)及び散布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明は、有害物質(20)との接触によりその有害物質(20)を捕捉する生体表面付着型の有害物質捕捉剤(10)であって、
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を含有することを特徴とする。
【0007】
このような有害物質捕捉剤(10)であれば、有害物質(20)が付着するような部位に塗布したり、或いは、吹きつけたりして予め表面付着させておくことにより、有害物質(20)を鶏卵抗体(11)によって捕捉するので、有害物質(20)による感染の高い予防効果を得ることができる。また、仮に有害物質(20)が付着しても、この有害物質捕捉剤(10)を有害物質(20)の付着部位に表面付着させることにより、有害物質(20)を鶏卵抗体(11)によって捕捉するので、有害物質(20)が付着した後の感染の高い予防効果を得ることができる。しかも、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)が用いられているので安価であり、注射するものではなく生体表面付着型のものであるので塗布やうがいなど手軽に使用することができる。
【0008】
本発明の有害物質捕捉剤(10)は、上記鶏卵抗体(11)を溶媒に溶解させた液体状のものであっても、また、粉体状のものであってもよい。
【0009】
粉体状の場合、その粒径が2〜10μmであることが望ましい。吸入したウイルス等の有害物質(20)は上気道(40)に付着することが多いが、有害物質捕捉剤(10)の粒径が2〜10μmであると、それが上気道(40)に滞留するので、有害物質(20)の捕捉が効果的に営まれることとなる。
【0010】
ここで、本発明の有害物質捕捉剤(10)によって捕捉する有害物質(20)は、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲンである。
【0011】
本発明の有害物質捕捉剤(10)は、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を溶媒に溶解させた液体状のものの場合、散布装置(30)により粒径2〜10μmの液滴にして霧状に噴射するようにすればよく、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を含有する粒径2〜10μmの粉体状のものの場合、散布装置(30)によりそれを霧状に噴射するようにすればよい。
【0012】
このように有害物質捕捉剤(10)を散布すれば、上記したように、有害物質捕捉剤(10)が上気道(40)に滞留するので、有害物質(20)の捕捉が効果的に営まれることとなる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、有害物質(20)が付着するような部位に予め表面付着させておくことにより、有害物質(20)による感染の高い予防効果を得ることができる。また、仮に有害物質(20)が付着しても、この有害物質捕捉剤(10)を有害物質(20)の付着部位に表面付着させることにより、有害物質(20)が付着した後の感染の高い予防効果を得ることができる。しかも、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)が用いられているので安価であり、注射するものではなく生体表面付着型のものであるので塗布やうがいなど手軽に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
第1実施形態に係る有害物質捕捉剤(10)は、有害物質捕捉成分としての鶏卵抗体(11)を水などの溶媒に溶解させた液体状のものである。この有害物質捕捉剤(10)は、鶏卵抗体(11)の濃度が0.01〜23質量%(好ましくは、0.5〜8質量%)であり、例えば溶液1ml中に約10mg程度の鶏卵抗体(11)を含有したものである。
【0016】
図1は、鶏卵抗体(11)を示す。
【0017】
鶏卵抗体(11)は、特定の有害物質(20)(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。鶏卵抗体(11)のY字状の分子形態の一対の枝部分をFab(11a)、幹部分をFc(11b)といい、これらのうち、Fab(11a)の部分で有害物質(20)を捕捉する。
【0018】
鶏卵抗体(11)の種類は、捕捉しうる有害物質(20)の種類に対応する。鶏卵抗体(11)により捕捉される有害物質(20)としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス属、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌を挙げることができる。カビとしては、例えば、酵母、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムを挙げることができる。ウイルスとしては、飛沫が5μm以下で空気感染する水痘ウイルスや麻疹ウイルス、飛沫が5μmより大きくて飛沫感染するインフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、接触感染するヘルペスウイルスを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン(ダニ分解物)、カビ胞子、ネコアレルゲン(ペットのふけ)を挙げることができる。これらのうち細菌及びカビについては、鶏卵抗体(11)により不活化されないものの、高い吸着効果により静菌するのに対し、ウイルス及びアレルゲンについては、殺菌・不活化される。
【0019】
鶏卵抗体(11)は、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を生ませ、その卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉体から精製することで製造することができる。つまり、鶏卵抗体(11)は、容易で且つ大量の製造が可能である。
【0020】
有害物質捕捉剤(10)には、その他に添加物として、グリセリン、エタノール、ポリソルベート80、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸、1−メントール、ハッカ油などが含有されていてもよい。
【0021】
この有害物質捕捉剤(10)は、溶媒である水、或いは、それにその他の添加物を溶解させた溶液に鶏卵抗体(11)を溶解させることにより製造することができ、図2に示すように、携帯型の噴霧装置(散布装置)(30)のタンクに充填されて用いられる。噴霧装置(30)は、液体状の有害物質捕捉剤(10)を粒径2〜10μmの液滴にして霧状に噴射する液体噴霧用のものであって、その形式は特に限定されるものではなく、例えば、加圧空気により噴霧させるタイプ、超音波により噴霧させるタイプ、振動により噴霧させるタイプ、回転円盤の回転により噴霧させるタイプ、静電気により噴霧させるタイプを挙げることができるが、どのようなタイプのものであってもよい。
【0022】
使用に際しては、噴霧装置(30)により、口腔、鼻腔、目、或いは、外陰部に、有害物質捕捉剤(10)を粒径2〜10μmの液滴にして霧状に噴射する。これにより、有害物質捕捉剤(10)が口腔、鼻腔、目、或いは、外陰部の粘膜に表面付着し、そこに付着していたウイルス等の有害物質(20)、或いは、外部から侵入してきた有害物質(20)を捕捉する。また、体内に侵入したウイルス等の有害物質(20)は上気道(40)に付着することが多いが、口腔や鼻腔に噴射された有害物質捕捉剤(10)は、粒径が2〜10μmであるので、上気道(40)に達してそこに滞留し、そこで有害物質(20)を捕捉する。
【0023】
以上のような有害物質捕捉剤(10)であれば、例えば、電車に乗る前や人混みに入る前などの有害物質(20)に感染するリスクのある場所に行くときに、有害物質(20)が付着するような部位に予め表面付着させておくことにより、有害物質(20)を鶏卵抗体(11)によって捕捉するので、有害物質(20)による感染の高い予防効果を得ることができる。
【0024】
また、例えば、風邪をひいている人の咳を吸い込んでしまった直後のように、仮に有害物質(20)が付着しても、この有害物質捕捉剤(10)を有害物質(20)の付着部位に表面付着させることにより、有害物質(20)を鶏卵抗体(11)によって捕捉するので、有害物質(20)が付着した後の感染の高い予防効果を得ることができる。
【0025】
さらに、有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)が用いられているので安価であり、注射するものではなく生体表面付着型のものであり、口腔、鼻腔、目、或いは、外陰部に噴霧装置(30)で噴射するだけというように手軽に使用することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、液体状である有害物質捕捉剤(10)を噴霧装置(30)で噴射して使用するようにしたが、特にこれに限定されず、うがい剤として使用することもできる。
【0027】
(実施形態2)
第2実施形態に係る有害物質捕捉剤(10)は、有害物質捕捉成分としての鶏卵抗体(11)を含有した粒径が2〜10μmの粉体状のものである。この有害物質捕捉剤(10)は、鶏卵抗体(11)が賦形剤、pH調節剤及び張化剤に煉り込まれたものであって、鶏卵抗体(11)の濃度が0.01〜23質量%(好ましくは、0.5〜8質量%)であり、例えば凍結乾燥状態のもの1g中に約10mg程度の鶏卵抗体(11)を含有したものである。
【0028】
鶏卵抗体(11)の構成は、実施形態1と同一である。
【0029】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0030】
pH調節剤としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸などが挙げられる。
【0031】
張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
【0032】
この有害物質捕捉剤(10)は、鶏卵抗体(11)、賦形剤、pH調整剤、及び、張化剤をそれぞれ秤量した後に、それらを練合し、そして、それを造粒、整粒及び混合することにより製造することができ、携帯型の散布装置(30)のタンクに充填されて用いられる。散布装置(30)は、粒径2〜10μmの粉体状の有害物質捕捉剤(10)を霧状に噴射する粉体噴霧用のものであって、その形式は特に限定されるものではない。
【0033】
使用に際しては、図2に示すように、散布装置(30)により、口腔、鼻腔、目、或いは、外陰部に、粒径2〜10μmの粉体状の有害物質捕捉剤(10)を霧状に噴射する。これにより、有害物質捕捉剤(10)が口腔、鼻腔、目、或いは、外陰部の粘膜に表面付着し、そこに付着していたウイルス等の有害物質(20)、或いは、外部から侵入してきた有害物質(20)を捕捉する。また、体内に侵入したウイルス等の有害物質(20)は上気道(40)に付着することが多いが、口腔や鼻腔に噴射された有害物質捕捉剤(10)は、粒径が2〜10μmであるので、上気道(40)に達してそこに滞留し、そこで有害物質(20)を捕捉する。なお、鶏卵抗体(11)は、水分の存在下でのみ活性となるが、この場合、体内の水分によって活性化される。
【0034】
作用効果は、実施形態1と同一である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、有害物質(20)との接触によりその有害物質(20)を捕捉する生体表面付着型の有害物質捕捉剤(10)、並びに、その散布装置(30)及び散布方法に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】鶏卵抗体(11)の模式的な図である。
【図2】有害物質(20)の除去方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
(10) 有害物質捕捉剤
(11) 鶏卵抗体
(11a) Fab
(11b) Fc
(20) 有害物質
(30) 噴霧装置,散布装置
(40) 上気道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害物質(20)との接触によりその有害物質(20)を捕捉する生体表面付着型の有害物質捕捉剤(10)であって、
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を含有することを特徴とする有害物質捕捉剤。
【請求項2】
請求項1に記載された有害物質捕捉剤(10)において、
上記鶏卵抗体(11)を溶媒に溶解させた液体状であることを特徴とする有害物質捕捉剤。
【請求項3】
請求項1に記載された有害物質捕捉剤(10)において、
粉体状であることを特徴とする有害物質捕捉剤。
【請求項4】
請求項3に記載された有害物質捕捉剤(10)において、
粒径が2〜10μmであることを特徴とする有害物質捕捉剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された有害物質捕捉剤(10)において、
上記有害物質(20)が細菌、カビ、ウイルス及びアレルゲンのうちから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする有害物質捕捉剤。
【請求項6】
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を溶媒に溶解させた液体状の有害物質捕捉剤(10)を、粒径2〜10μmの液滴にして霧状に噴射することを特徴とする有害物質捕捉剤(10)の散布装置。
【請求項7】
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を含有する粒径2〜10μmの粉体状の有害物質捕捉剤(10)を霧状に噴射することを特徴とする有害物質捕捉剤(10)の散布装置。
【請求項8】
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を溶媒に溶解させた液体状の有害物質捕捉剤(10)を、粒径2〜10μmの液滴にして霧状に噴射することを特徴とする有害物質捕捉剤(10)の散布方法。
【請求項9】
有害物質捕捉成分として鶏卵抗体(11)を含有する粒径2〜10μmの粉体状の有害物質捕捉剤(10)を霧状に噴射することを特徴とする有害物質捕捉剤(10)の散布方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−63019(P2006−63019A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247800(P2004−247800)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】