説明

有害物質除去材及び有害物質除去方法

本発明は、細菌やウイルスなどの微生物由来の有害物質を効率的に捕捉し、速やかに不活性化して人体に対する影響を最小限に抑えるとともに、力学物性や使用環境(特に湿度)による寸法変化等の影響を受けにくく信頼性の高い有害物質除去材を提供することを解決すべき課題とした。本発明は、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、担体が、カルボニル基および/またはエーテル基を含有する少なくとも1種類のポリマーからなり、かつ20℃の水に対する体積膨潤度が1.1%以上10%未満の繊維で構成されることを特徴とする有害物質除去材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を付与した繊維からなる有害物質除去材、及びそれを用いた有害物質除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌、カビ又はウイルスなどが原因となる感染症が社会問題になっており、例えば、病院内や、公共施設などの一般的な公共的な場所での大量感染が懸念されている。特に病院内での感染は、抗生物質の乱用などからMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の発生を招く原因となることもある。
【0003】
このことに関し、最近の建築物では全室にダクトを設け、このダクトを通じてエアーコンディショナーにより空気を循環させて建物全体の室温等を調整している。そのため、このエアーコンディショナーを介して施設内を浮遊する細菌、カビ又はウイルスなどが施設全体に拡散することが多い。従って、特にこのような空気を媒体とした感染ルートを遮断することが有効であると考えられるようになってきている。すなわち、エアーコンディショナーや空気清浄機などの空気流通部に目の細かいフィルターを設けて、細菌、カビ、ウイルス又はこれらの媒体として空気中の微細浮遊物(ダスト等)をこのフィルターに吸着させることが挙げられる。あるいは、酸化チタンや強酸性の滅菌ゾーンをそこに設けて、ここを通過する細菌、カビ又はウイルスなどを不活性化して除去することが挙げられる。
【0004】
しかしながら、吸着による除去では有害物質が細菌やウイルス等であった場合、一度フィルターに捕集された細菌が脱離し再び活性化し、人体に影響を与える可能性がある。また、有害物質を酸化チタンや強酸性の滅菌ゾーンを通過させて不活性化する方法では、不活性化にある程度時間がかかり、その効果も必ずしも十分でないことが問題視されていた。
【0005】
この問題を解決するために、抗原抗体反応を利用して有害物質を不活性化する方式が提案されてきている。例えば、従来使用されていた高価なモノクローナル抗体等ではなく、比較的安価な鶏卵抗体(例えば、特許第3840978号)を用い、公定水分率7%以上である繊維を担体とした方法が開示されている(特許第3642340号、及びダイキン工業株式会社、空気清浄機製品カタログ 06−11、14ページ)。
【0006】
抗体の活性を維持するためには繊維近傍の湿度環境の制御が必須で、セルロース系繊維など高吸湿性材料が利用されている。しかし、実際には、セルロース系繊維の含有量が多いと繊維自体が脆くなり、フィルター加工工程や使用時の外力の影響を受け、破壊しやすくなる。フィルターの基材破壊は除去したい対象の漏洩を意味し機能欠陥に結びつくことはいうまでもない。合わせて、高親水性繊維は吸湿による体積増加やそれに伴う歪を生じやすい。従って、構造破壊やフィルター孔径の変化がもたらされる。その結果、除去効率の低下や性能信頼性低下を招くという問題があった。
【0007】
以上のような状況から、これらの問題を解決できる、抗体の活性を維持するための適度な親水性と、力学物性や環境(特に湿度)による寸法変化等の影響を受けにくい新しい繊維材料の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の有害物質除去材の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、細菌やウイルスなどの微生物由来の有害物質を効率的に捕捉し、速やかに不活性化して人体に対する影響を最小限に抑えるとともに、力学物性や使用環境(特に湿度)による寸法変化等の影響を受けにくく信頼性の高い有害物質除去材を提供することを解決すべき課題とした。また、本発明は、当該有害物質除去材を用いた効率的な有害物質除去方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、本発明者らは、カルボニル基および/またはエーテル基を含有する少なくとも1種類のポリマーからなり、かつ20℃の水に対する体積膨潤度が1.1%以上10%未満の繊維で構成される担体に抗体を担持させることによって、有害物質を効率的に捕捉し、速やかに不活性化して人体に対する影響を最小限に抑えることが可能で、かつ力学物性や使用環境(特に湿度)による寸法変化等の影響を受けにくく信頼性の高い有害物質除去材を提供できることを見出した。これにより、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、担体が、カルボニル基および/またはエーテル基を含有する少なくとも1種類のポリマーからなり、かつ20℃の水に対する体積膨潤度が1.1%以上10%未満の繊維で構成されることを特徴とする有害物質除去材が提供される。
【0011】
好ましくは、上記ポリマーは、セルロースエステル、ビニロン、アクリル系、又はポリウレタンである。
好ましくは、上記セルロースエステルがセルロースアシレートである。
【0012】
好ましくは、上記ポリマーは、ポリアミドである。
好ましくは、上記ポリアミドは、ナイロン6、ナイロン66、又はポリアクリルアミドである。
【0013】
好ましくは、上記担体を構成する繊維の公定水分率は1%以上7%未満である。
好ましくは、上記担体を構成する繊維の表面に平均径50nm以上1μm以下の空孔状もしくは突起状の立体構造を有する。
好ましくは、上記担体を構成する繊維は、乾燥時伸度が25%以上である。
【0014】
好ましくは、上記担体を構成する繊維同士が部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している。
好ましくは、上記担体を構成する繊維の繊維径は100nm以下である。
好ましくは、上記抗体は鶏卵抗体である。
【0015】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の有害物質除去材を用いて、気相中あるいは液相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1〜4ならびに比較例1で用いた紡糸装置を示す。
【図2】図2は、実施例5、6で用いた電界紡糸装置を示す。
【符号の説明】
【0017】
1はポリマー溶液、2はギヤポンプ、3はフィルター、4はノズル、5は紡糸筒、6は空気、7は引取ローラー、8はテーブル、11は電源装置、12はシリンジ、13はニードル、14はコレクター、15はポリマー溶液、16はナノファイバーを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の有害物質除去材は、抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、前記担体がセルロースエステル、ポリアミド、ビニロン、アクリル系、ポリウレタンのうち、少なくとも1種類を主成分とするポリマーからなり、かつ20℃の水に対する体積膨潤度が1.1%以上10%未満の繊維で構成されているものである。この除去材は、十分な力学強度を有し、使用環境(特に湿度)による寸度変化等の影響を受けにくい。また、担持する抗体活性を維持するための水分が保持できる。従って、気相下における有害物質除去についても抗原抗体反応を安定して利用することができる。また、抗体は、特異的な有害物質を捕捉するため、有害物質に特異的な該当抗体を選択することにより有害物質を高精度で除去することができる。更に、有害物質の種類によっては、抗体自身がその有害物質の殺菌・不活性化する機能を有している。その場合には、有害物質の殺菌・不活性化の技術を組み合わせる必要がない。しかも、有害物質除去材は単独で有害物質の除去を行うことができる。
【0019】
担体を形成する主たる材料としては、セルロースエステル、ビニロン、アクリル系、ポリウレタンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を主成分とする繊維が好ましい。また、担体を形成する主たる材料としては、ポリアミドを主成分とする繊維も好ましい。本発明でいう主成分とは、全繊維中の質量分率にして25%以上を構成する成分であることを指す。
【0020】
本発明におけるセルロースエステルとは、セルロースの水酸基を有機酸でエステル化することにより得られるセルロース誘導体を指す。エステル化に用いる有機酸は、例えば酢酸・プロピオン酸・酪酸などの脂肪カルボン酸、安息香酸・サリチル酸などの芳香族カルボン酸などがある。これらは単独もしくは併用したものであってもよい。セルロースの水酸基のエステル基置換率について特に制限はないが、60%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明における担体を形成する主たる材料の群のなかでは、セルロースアシレート繊維が望ましい。セルロースアシレートは、セルロースの水酸基を構成する水素原子の一部または全部がアシル基で置換されているセルロースエステルを指す。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、およびブチリル基など挙げられる。構造としては、これらの基は1種のみが置換されていてもよいし、2種以上のアシル基が混合置換されていてもよい。アシル基置換度の総和は、好ましくは2.0〜3.0であり、より好ましくは2.1〜2.8であり、特に好ましくは2.2〜2.7である。なかでも、この置換度を満たすセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、又はセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好ましく、セルロースアセテートであることが最も好ましい。一般にセルロースアシレートは、エステル化度によって溶剤が異なることが知られている。あらかじめエステル化率の高いセルロースアシレートで担体を作製したのちに、その担体にアルカリ加水分解処理等を行って表面を親水化してもよい。
【0022】
セルロースアシレート繊維のみでも十分に実用的な有害物質除去材料を形成することが可能である。しかし、強度や寸度安定性をさらに向上させる等の目的で、ポリエステル系繊維・ポリオレフィン系繊維・ポリアミド系繊維・アクリル系繊維等との混紡繊維により担体を形成してもよい。混紡繊維を用いる場合には、セルロースアシレート繊維の質量分率は50%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明における担体を形成する主たる材料の群のなかでは、ポリアミド繊維であることも望ましい。
【0024】
本発明におけるポリアミドとは、化学構造単位にアミド結合を有する線状高分子からなる繊維を指す。
【0025】
ポリアミドの中でも、エチレンジアミン、1−メチルエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸との結合体である直鎖型脂肪族ポリアミドが好ましい。特に、ナイロン66が好ましい。
【0026】
前記のジアミンおよびジカルボン酸以外にも、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸等を単独または共重合成分として用いた脂肪族ポリアミドを用いることもできる。特に、ε−カプロラクタムの単独使用で製造されるナイロン6が好ましい。
【0027】
これらの他に、原料の脂肪族ジアミンとして一部または全部をシクロヘキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1、4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ジアミンを用いた脂肪族ポリアミド、および/または、ジカルボン酸として一部または全部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸を用いた脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0028】
更に、上記ポリアミドの例としては、脂肪族パラキシリレンジアミン(PXDA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの芳香族ジアミン、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を部分的な原料として用いて、吸水性の低減や弾性率向上を実現したポリアミドも含まれる。また、ポリアクリル酸アミド、ポリ(N−メチルアクリル酸アミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリル酸アミド)などのような側鎖にアミド結合を有するポリマーを使用してもよい。
【0029】
ポリアミドの中で最も好ましいのは、ナイロン66またはナイロン6である。アミド結合に由来する適度な吸湿性、適度な長さの長鎖脂肪酸からなる分子鎖を繊維軸配向させやすく比較的延伸性が高いこと、融解熱が高く熱容量が大きいことから動力学的にも速度論的にも溶融しにくい(耐溶融性)、長鎖脂肪鎖からなる分子鎖の可とう性や、(アミド結合間の水素結合形成のために)フィブリル化やキンクバンドが生じにくい性質、すなわち繰返し屈伸性など、本発明の担体として好ましい性能を活用することができるためである。
【0030】
化学構造単位中のアミド結合が、主鎖ではなく側鎖に有するポリアミドも好ましく用いることができる。その具体例としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N‘−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N−ヘキシルアクリルアミド)などのポリアクリルアミドを挙げることができる。一般に側鎖にアミド結合を有するポリマーは親水性が高く膨潤・変形しやすい。従って、ゲル化現象を利用して物理架橋ポリマーを形成させたり、アルキル基を導入させたりするなどの方法によりポリマーを疎水化することが好ましい。
【0031】
同様に強度や寸度安定性を向上させる目的で、担体を金属・高分子材料・セラミックス等の他の適切な構造材料により補強してもよい。これらの補強材は、有害物質除去材料を供給する側面の実質的な最表面以外の部分(例えば、該側面の反対面や芯材に用いる等)に用いることが望ましい。
【0032】
本発明におけるビニロンとは、ビニルアルコール単位を65質量%以上含む線状高分子からなり、温度20℃湿度65%の環境に1週間以上放置した後の水分率が7%未満である繊維を指す。ビニルアルコールの水酸基をホルマール化したものであってもよい。また、水酸基をホウ酸架橋したポリマーや、公知のアルカリ紡糸法や冷却ゲル紡糸法などの方法により耐水化処理が施された非ホルマール化繊維であってもよい。上記繊維には、ビニルアルコール単位以外の成分としてはエチレン鎖、酢酸ビニル鎖などが含まれていてもよい。しかし、ビニルアルコール担体から形成される繊維であることが好ましい。さらに、冷却ゲル紡糸による非ホルマール化繊維であることが最も望ましい。その理由は、非ホルマール化繊維は、均質で高配向度・高結晶化度を有するため、優れた機械的特性と信頼性が得られるからである。
【0033】
ビニロンは一般に、他の繊維に対して、高強度、高弾性率、適度な親水性、耐候性、耐薬品性、接着性などに優れている。本発明の担体としてこれらの好ましい性能を活用することができる。
【0034】
本発明におけるアクリル系とは、アクリロニトリル基の繰返し単位が質量比で40%以上含む繊維を指す。その具体例としては、アクリロニトリルのホモポリマーや、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性モノマーとアクリルニトリルのコポリマー、ビニルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸などのアニオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマー、あるいは、ビニルピリジン、メチルビニルピリジンなどのカチオン性モノマーとアクリロニトリルのコポリマーなどがある。
【0035】
アクリル系の繊維は一般に、有機系湿式紡糸法で製造することが多い。この方法では、紡糸原液が凝固浴中で凝固糸を形成するときに、凝固剤である水がノズルより紡出される紡糸原液中に浸入する一方で、紡糸溶剤が紡出した原液から外部に拡散する。このとき、水と有機溶剤(DMF、DMAcなど)が相互拡散することで重合体が析出して無数の空洞が網目状につながった構造をもつ凝固糸条が形成される。また、この糸は、凝固過程で溶剤が凝固浴中に拡散することによる体積収縮により形成される繊維断面の変形や表面のマクロフィブリル構造形成による凹凸形成が特徴である。これらの微細構造は本発明で使用する担体の構造としては、比表面積向上や抗体担持のし易さの点で好ましい。
【0036】
本発明で用いるアクリル系繊維は、原料ポリマーの組成や紡糸法、製造工程内の後処理条件などにより変動する。しかし、一般に、適度な親水性、耐候性が高い、かさ高い繊維が得られやすいという利点がある。
【0037】
本発明で用いるポリウレタンは、単量体相互の結合部分または基本となる基材重合体相互の結合部分が主としてウレタン結合による線状合成高分子からなる繊維を指す。ポリウレタンセグメントを質量比で85%以上含むことが望ましい。低融点で柔らかい分子量数千までのソフトセグメントと、剛直性で凝集力の高い高融点のハードセグメントからなるセグメント化ポリウレタンのブロック共重合であることが望ましい。ソフトセグメントとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルを使用することができる。ハードセグメントとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネートなどで形成されるウレタン基を用いることができる。ポリウレタンは一般に高い弾性を示すのが特徴である。また、両セグメントの化学構造や分布など高分子鎖の一時構造の違いや、製糸条件の違いなどからくる二次構造の違いによって異なるが、よく伸びる、伸縮回復力が高い、ゴム材料に比べて老化しにくい・細い繊維が得られるなどの特徴がある。従って、ポリウレタンを本発明の担体として用いた場合には、これらの性質を活用することができる。
【0038】
また、本発明者は、水分による寸法変化の影響を受けにくいことが本発明の要件のひとつであることを見出した。即ち、本発明で用いる担体を構成する繊維の20℃の水に対する体積膨潤度は1.1%以上10%未満であり、好ましくは1.1%以上8%未満であり、特に好ましくは1.1%以上6%未満であり、最も好ましくは1.1%以上5%未満である。なお、本発明における20℃の水に対する繊維の体積膨潤度とは、乾燥状態の試料を20℃の純水に1時間浸漬する前後の繊維の密度を測定することによって得られる体積膨潤度をさす。このような値は、密度勾配管法(JIS−K7112)により得られる。
【0039】
担体を構成する繊維の機械的物性ならびに寸法安定性については、乾燥時伸度が25%以上であることが好ましい。ここで乾燥時伸度とは、十分に長い時間かけて乾燥した繊維の20℃における引張試験における破断伸度をさす。一般に乾燥時伸度が10%以上の繊維が、製布等の加工のために好ましい。フィルター加工及び実用時の破壊(ろ過効率の低下につながる)を防止するには、伸度は25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが最も好ましい。
【0040】
担体を構成する繊維の公定水分率は、1.0%以上7.0%未満であることが好ましく、3.0%以上6.5%未満であることがより好ましく、5.0%以上6.5%未満であることが最も好ましい。本領域の公定水分率において、担持した抗体の活性の発現と、担体の機械的強度、剛性、使用環境(特に湿度)に対する寸法安定性が得られる。また、得られるフィルターは、高い性能と信頼性を示すことができる。
【0041】
なお、ここで言う水分率とは公定水分率のことである。公定水分率とは繊維を20℃、相対湿度65%の環境下に長時間放置したときに繊維に含まれる水分率のことを指す。また、繊維が他の繊維との混紡繊維の場合には、その混紡繊維全体の公定水分率を指すものとする。
【0042】
担体を構成する繊維の表面は、数十ナノメートルから数マイクロメートルスケールの微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹凸の形状は、繊維方向と平行方向に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよいし、繊維方向と垂直すなわち軸に対して同心円状に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよい。これらの溝状あるいは筋状の立体形状は、繊維方向と平行方向、繊維方向と垂直方向、又はこのような平行方向と垂直方向の間の方向の任意の角度で形成されたものが、任意の比率、密度で存在してもよい。公知のセルロースアセテート繊維の紡糸法で得られる試料には、表層のスキン層形成と溶剤乾燥に伴うスキン層の陥没により、繊維断面が不定形の菊型を形成することが知られている。好ましい形態では、この凹凸は本発明において使用される。
【0043】
ナノメートルからマイクロメートルの大きさの上記の微細な凹凸構造は、空孔状および/または突起状であってもよい。平均径にして50nmから1μmの空孔または突起であることが好ましい。これらの空孔や突起は、例えば溶液のキャビテーションや微細分散質を分散させた溶液(例えば硫酸バリウム粒子を分散させたスラリーとの混合)を利用するなどの方法により紡糸工程で形成させたり、アシル基の加水分解や表面酸化処理など方法(例えばアルカリ水溶液により繊維表面をセルロース化したのち、酵素処理によりミクロクレーターを発現させたりするなど)により後工程によって形成させたりすることができる。
【0044】
本発明の有害物質除去材に用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。なお、本発明の平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
【0045】
本発明に用いられる繊維の作製法としては、溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸、湿乾式紡糸など一般的な製造法や、物理的処理(例えば超高圧ホモジナイザーによる強力な機械的せん断処理)によって繊維を微細化する方法などが挙げられるが、安定な品質を確保するためには、乾式紡糸もしくは湿乾式紡糸法を用いることが好ましい。平均繊維径が100nm以下で均一な繊維を作製するためには、さらに加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、および167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁などに開示されている電界紡糸法を採用することが好ましい。
【0046】
紡糸に用いる溶媒としては、合成樹脂繊維に用いられる樹脂を溶解するものであれば任意の溶媒を用いることができる。具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、THF、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。
【0047】
電界紡糸法を採用する場合には樹脂溶液に、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0048】
本発明の有害物質除去材の担体を構成する繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつことが好ましい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性の向上、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また本発明の抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0049】
接着点を形成する方法としては、接着点は、乾式紡糸法によって、又は溶融紡糸法によって形成することができる。紡糸後に、加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。製造コストの観点では、適切な溶液処方により乾式紡糸法で癒着点を形成させることが好ましい。
【0050】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0051】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(Staphylococcus)(黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))、ミクロコッカス菌(Micrococcus)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)などや、グラム陰性菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、セラチア菌(Serratia marcescens)、セパシア菌(Burkholderia cepacia)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、レジオネラ菌(Legionella pneumophilia)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)、ペニシリウス(Penicillius)、クラドスポリウム(Cladosporium)などを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイスル(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0052】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液または融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0053】
本発明の有害物質除去材に用いられる抗体は鶏卵抗体であることが好ましい。
【0054】
本発明の有害物質除去材を構成する担体には、抗菌剤を含有する薬剤のコーティングを行うなどの抗菌加工、及び/または防カビ剤を含有する薬剤のコーティングを行うなどの抗カビ加工が施されていることが望ましい。抗体は、基本的にはタンパク質であり、特に鶏卵抗体は食物であり、また抗体以外のタンパク質を伴う場合もある。これらのタンパク質は、細菌やカビが増殖するための格好の餌となる。しかし、担体に抗菌加工及び/または防カビ加工が施されていれば、かかる細菌やカビの増殖が抑制され、長期間の保管を行うことができる。
【0055】
抗菌/防カビ剤としては、有機シリコン第4級アンモニウム塩系、有機第4級アンモニウム塩系、ビグアナイド系、ポリフェノール系、キトサン、銀担持コロイダルシリカ、ゼオライト担持銀系などが挙げられる。そして、その加工法としては、繊維からなる担体に抗菌/防カビ剤を含浸させるまたは塗布する後加工法や、担体を構成する繊維の合成段階で抗菌/防カビ剤を練り込む原糸原綿改質法などがある。
【0056】
前記担体に抗体を固定化する方法としては、担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定化する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0057】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0058】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAによりSH基がCOOH基に変換される)。
【0059】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0060】
前記抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、抗体は有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができる。具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、及びPMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて約0.1nm〜約3.5nmの範囲で距離を選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0061】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0062】
本発明の有害物質除去材は、空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。
【0063】
本発明の有害物質除去材を空気清浄機用フィルターとして使用する際には、粗塵を除くためのプレフィルター、除塵フィルター、消臭効果を示す光触媒フィルター、他の有害物質を除去する抗菌フィルター、VOC吸着フィルターなどの公知のフィルターや任意の他のフィルターと組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
(実施例1)
セルロースアセテート(全置換度2.4、数平均分子量3万、アルドリッチ製)のアセトン:水(97:3)溶液(25質量%)を60℃に加温し、直径0.1mmのノズルから、紡速500m/mの速度で空気とともに噴出させ不織布を形成し、膜厚85μmの不織布N−1を得た。紡糸筒はヒーターで100℃に加温した。SEMで平均繊維径を測定したところ、8μmであった。
【0066】
(実施例2)
セルロースアセテートプロピオネート(プロピオネート置換度2.1、アセテート置換度、0.2、数平均分子量2.5万、アルドリッチ製)を用いた以外は実施例1と同じ方法にて不織布N−2を得た。SEMで平均繊維径を測定したところ、12μmであった。
【0067】
(実施例3)
紡糸筒の温度を60℃に設定し、得られた不織布を100℃1時間乾燥させた以外は、実施例1と同じ方法で不織布N−3を得た。SEMで平均繊維径を測定したところ、11μmであった。さらに繊維同士の接触点が節を形成するように互いに接着している様子が観察された。
【0068】
(実施例4)
実施例1のアセトン溶液として、コロイダルシリカのオルガノゾル(日産化学製、MEK−ST)1質量%を添加した混合溶液を用いる以外は実施例1と同じ方法で不織布N−4を得た。SEMで平均繊維径を測定したところ、9μmであった。さらに繊維表面には平均200nmのシリカ凝集物が分布している様子が認められた。
【0069】
(実施例5)
セルロースアセテート(全置換度2.4、数平均分子量3万、アルドリッチ製)のアセトン:水(97:3)溶液(10質量%)を用い、ナノファイバー製造装置(カトーテック製)を用いて、シリンジ送り速度0.05mm/min、印加電圧15kVで電界紡糸を行った。生成物を真空中80℃8時間乾燥して、膜厚85μmの不織布N−5を作製した。SEMで平均繊維径を測定したところ、80nmであった。
【0070】
(実施例6)
実施例5のポリマー溶液の組成を表1に示す組成に変えた以外は、実施例5と同じ方法にて膜厚85μmの不織布N−6〜9を作製した。SEMで平均繊維径を測定したところ90〜110nmであった。
【0071】
【表1】

【0072】
(比較例1)
セルロースアセテートのアセトン溶液の代わりに、セルロースのN−メチルモルホリン−N−オキシド5質量%溶液を用い、製膜後試料を真空中80℃8時間乾燥させた以外は実施例1と同じ方法で膜厚85μmの不織布H−1を得た。SEMで平均繊維径を測定したところ、8μmであった。
【0073】
(比較例2)
市販のメルトブローンフィルター(ポリプロピレン、タピルス製)をそのまま用いH−2とした。SEMで平均繊維径を測定したところ、12μmであった。
【0074】
(水分率の測定)
前記N−1〜N−9及びH−1、2の各サンプルを温度20℃相対湿度65%の環境に1週間以上放置した。その後、各サンプルの水分率を、ハロゲン水分計MB35(OHAUS社製)を用いて測定した。
【0075】
(乾燥時伸度の測定)
各サンプルから1.0cm×5.0cmのサイズのサンプル片を切り出した。切片を低湿保管庫内で25℃、相対湿度5%以下で1週間静置した。その後、引張速度3mm/分の条件下、テンシロン(東洋ボールドウィン(株)製、テンシロンRTM−25)を用いて20℃において引張試験を行った。次いで、破断伸びから乾燥時伸度を求めた(チャック間距離3cm)。測定は3サンプルに対して行い、それらの測定結果の平均値をもって乾燥時伸度とした。
【0076】
(膨潤度の測定)
体積膨潤度は、乾燥した各サンプルの20℃の純水に1時間浸漬する前後の繊維の密度に基づいて測定した。そのような値は、密度勾配管法(JIS−K7112)にて求めた。
【0077】
(抗体の固定化)
抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵を精製してインフルエンザウイルス抗体(IgY抗体)を作製し、得られた抗体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、抗体濃度100ppmになるように調製した。調製した液に前記N−1〜N−9及びH−1、2の各サンプルを室温で16〜24時間浸漬させ、繊維表面に抗体を付与させた。得られた試料を25℃20%RHの環境下で24時間静置し、次に25℃90%RHの環境下で24時間静置した。この操作を交互に3回ずつ、合計6条件の間で繰返した。
【0078】
(ウイルス不活性化効率評価)
供試ウイルス液としては、精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したものを使用した。前記N−1〜N−9及びH−1、2の各サンプルを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。
【0079】
試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、試験溶液がサンプルを通過した後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルスの一過性除去率を算出した。
【0080】
以上の評価結果を表2にまとめた。
【0081】
【表2】

【0082】
(実施例7)担持量依存性比較
実施例5のポリマー溶液の組成を表3に示す組成に変えた以外は、実施例5と同じ方法にて膜厚85μmの不織布N−10〜11を作製した。SEMで平均繊維径を測定したところ90〜110nmであった。
【0083】
【表3】

【0084】
次に、N−5、6、10、11、H−1につき、上記(抗体の固定化)で用いたIgY抗体のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液をスプレー法によって一定量堆積させた。次いで、上記の通り、ウイルスの一過性除去率を評価した。
【0085】
【表4】

【0086】
表4に見られるように、ポリアミド(サンプルNo.N−6、N−10及びN−11)では、少量の抗体担持量でウイルスの除去能がみられた。即ち、これらのポリマーを用いることがより効率的に抗体を活用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、気相中あるいは液相中の粒子を高効率で除去することができ、特に細菌やウイルス等の微生物由来の有害物質を選択的に捕捉・不活性化できる有害物質除去材を作製することができる。また、本発明の有害物質除去材は、繊維表面の抗体活性を維持し、かつ繊維自体を十分な強度を保つことができる。更に、前記の有害物質除去材は使用環境(特に湿度)による寸度変化等の影響を受けにくいため、信頼性の高い空気清浄用や液体清浄用のフィルター材料として活用できる。本発明の方法によれば、気相中あるいは液相中の有害物質を効率的に除去できる空気清浄機あるいは液体清浄機を作製できるため、産業において非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を担持した担体からなる有害物質除去材であって、担体が、カルボニル基および/またはエーテル基を含有する少なくとも1種類のポリマーからなり、かつ20℃の水に対する体積膨潤度が1.1%以上10%未満の繊維で構成されることを特徴とする有害物質除去材。
【請求項2】
上記ポリマーが、セルロースエステル、ビニロン、アクリル系、又はポリウレタンである、請求項1に記載の有害物質除去材。
【請求項3】
上記セルロースエステルがセルロースアシレートである、請求項2に記載の有害物質除去材。
【請求項4】
上記ポリマーが、ポリアミドである、請求項1に記載の有害物質除去材。
【請求項5】
上記ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン66、又はポリアクリルアミドである、請求項4に記載の有害物質除去材。
【請求項6】
上記担体を構成する繊維の公定水分率が1%以上7%未満である、請求項1から5に記載の有害物質除去材。
【請求項7】
上記担体を構成する繊維の表面に平均径50nm以上1μm以下の空孔状もしくは突起状の立体構造を有する、請求項1から6の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項8】
上記担体を構成する繊維が、乾燥時伸度が25%以上である、請求項1から7の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項9】
上記担体を構成する繊維同士が部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している、請求項1から8の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項10】
上記担体を構成する繊維の繊維径が100nm以下である、請求項1から9の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項11】
上記抗体が鶏卵抗体である、請求項1から10の何れかに記載の有害物質除去材。
【請求項12】
請求項1から11の何れかに記載の有害物質除去材を用いて、気相中あるいは液相中の有害物質を除去することを含む、有害物質除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−538805(P2010−538805A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511410(P2010−511410)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/JP2008/067357
【国際公開番号】WO2009/038216
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】