説明

有害生物防除方法

【課題】特定の作物における有害生物に対して防除効果を有する有害生物防除方法を提供する。
【解決手段】バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとの有効量を、イチゴ、シソ又はチャに施用する有害生物防除方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質及び水溶性セルロースエーテルを併用するイチゴ、シソ、チャにおける有害生物防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質が有害生物に対する防除効果を有することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
一方、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質が、特定の作物、特にイチゴ、シソにおける有害生物に対しては防除効果が低下することが知られている(例えば、非特許文献2〜4参照)。
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質を利用しながら、例えば、イチゴ、シソにおける有害生物に対して、より優れた防除効果を有する有害生物防除方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】福原敏彦著,「昆虫病理学」,初版,株式会社学会出版センター,1979年6月10日,p.58−64
【非特許文献2】浅野昌司、外3名,「日本応用動物昆虫学会誌」,日本応用動物昆虫学会,2004年,第48巻,第4号,p.307−314
【非特許文献3】長岡広行、外1名,「九州病害虫研究会報」,九州病害虫研究会,1998年,第44巻,p.76−78
【非特許文献4】及川雅彦、外3名,「関東東山病害虫研究会報」,関東東山病害虫研究会,第46集,p.89−92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の作物における有害生物に対して防除効果を有する有害生物防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質に、水溶性セルロースエーテルを併用することにより、イチゴ、シソ、チャにおける有害生物に対する防除効果が向上することを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は次の通りの構成をとるものである。
〔1〕 バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質(以下、「本タンパク質」と記すことがある。)と水溶性セルロースエーテル(以下、「本化合物」と記すことがある。)との有効量を、イチゴ、シソ又はチャに施用する有害生物防除方法(以下、「本発明防除方法」と記すことがある。)。
〔2〕 殺虫性タンパク質が、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱もしくは化学的手段により死菌化処理された菌体、又は前記生菌体もしくは前記死菌化処理された菌体の破砕物に含まれた状態である〔1〕に記載の有害生物防除方法。
〔3〕 水溶性セルロースエーテル類がメチルセルロース若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである〔1〕又は〔2〕に記載の有害生物防除方法。
〔4〕 水溶性セルロースエーテルの20℃における2%水溶液の粘度が1〜100000mPa・sの範囲である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の有害生物防除方法。
〔5〕 バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとを、重量比で1:1000〜1000:1の割合で施用する〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の有害生物防除方法。
〔6〕 有害生物が鱗翅目害虫の幼虫である〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の有害生物防除方法。
〔7〕 有害生物がハスモンヨトウの幼虫である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の有害生物防除方法。
〔8〕 有害生物防除のための、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとの組み合わせの使用。
【0006】
本発明に係る有害生物防除方法により、イチゴ、シソ、チャにおける有害生物に対する防除効果が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において一つの有効成分として用いられる本タンパク質は、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)がする殺虫性タンパク質であれば特に制限はないが、具体的には例えば、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry1Ac、Cry1B、Cry1C、Cry1D、Cry1F、Cry2A、Cry2B、Cry3A、Cry3B、Cry3C、Cry3D、Cry4、Cry5、Cry6等をあげることができる。
これら本タンパク質は、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌により産生されるが、その中でも例えば、クルスタキ(kurstaki)、アイザワイ(aizawai)、テネブリオニス(tenebrionis)、ヤポネンシス・ブイブイ(japonensis Buibui)等の亜種に属する前記細菌により産生されるものが本発明防除方法に好ましく用いることができる。
また、本タンパク質は、天然に存在するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌により産生されるものであっても、通常の遺伝子工学的な手法を用いて作製された形質転換体(例えば、大腸菌、枯草菌、植物等)により産生されるものであってもよい。尚、このような形質転換体を作製する際に用いられる、本タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子は、(1)天然に存在する遺伝子の中からクローニングされたものであってもよいし、(2)天然に存在する遺伝子であっても、このクローニングされた遺伝子の塩基配列において、その一部の塩基の欠失、置換又は付加が人為的に導入されてなる遺伝子(即ち、天然に存在する遺伝子を変異処理(部分変異導入法、突然変異処理等)を行ったもの)であってもよいし、(3)人為的に合成されたものであってもよい。
【0008】
上記のような微生物は、天然から分離してもよいし、菌株保存機関等から購入してもよい。
天然から分離する場合には、まず、土壌を野外から採取する。採取された土壌を滅菌水で懸濁させた後、当該懸濁液を、例えば、枯草菌等の微生物分離用固体培地上に塗布し、これを25℃で培養し、数日後に生えてきた菌の独立したコロニーを切り取り、新しい、例えば、枯草菌等の微生物分離用固体培地に移植し、これをさらに25℃で培養する。生育してきた菌について、SNEATH, (P.H.A.), MAIR, (N.S.) SHARPE, (M.E.) and HOLT, (J.G.):Bergey's manual of Systematic Bacteriorogy. Vol.2. 1984, Williams and Wilkins, Baltimore.等に記載される方法等に従って、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌であるかを同定することにより、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌を選抜すればよい。
次に、選抜されたバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌から、当該細菌中に存在する殺虫性タンパク質の有無を、例えば、生物活性評価法や顕微鏡観察法等に従って確認することにより、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌を選抜すればよい。
【0009】
本発明で用いられる本タンパク質は、当該タンパク質自体そのままでもよいが、例えば、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱もしくは化学的手段により死菌化処理された菌体、又は前記菌体もしくは前記死菌化処理された菌体の破砕物に含まれた状態であってもよい。
尚、殺虫性タンパク質を産生するバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌を培養する培地としては、一般的細菌用培地、普通ブイヨン液体培地等があげられるが、当該細菌が増殖する培地であれば何でもよい。本タンパク質は、前述の如く、上記の培地を用いて培養されたバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌及びその産生物を培地ごと遠心分離及び/又は乾燥して用いるか、或いは公知の方法に従って前記培地から分離された殺虫性タンパク質自体をそのままを用いればよい。因みに、本タンパク質自体は、そのままの分子量は、数万〜十数万ダルトンであり、所定回数の分裂を繰り返したバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌が崩壊する際に菌芽胞とともに放出される結晶性物質である。
【0010】
また、本発明で用いられる本タンパク質は、市販のBT製剤品を用いてもよく、好ましくは、ダイポール(登録商標)(住友化学(株))、エスマルク(登録商標)(住友化学(株))、フローバック(登録商標)(住友化学(株))、ゼンターリ(登録商標)(住友化学(株))、Novodor(登録商標) (Valent BioSciences co.)、ブイハンター(登録商標)(住友化学(株))等をあげることができる。
【0011】
本発明で用いられる本化合物は、[−C6105−]nで表されるセルロースの誘導体で、その水酸基[−OH]の水素原子の一部をメチル基[−CH3]に置換したもの(メチルセルロース、Methylcellulose、MC)、ヒドロキシプロピル基[−CH2CHOHCH3]に置換したもの(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、Hydroxypropylmethylcellulose、HPMC)もしくはカルボキシメチル基[−CH2COOH]に置換したもの(カルボキシメチルセルロース、Carboxymethylcellulose、CMC)等が代表的な化合物である。それらは置換の度合いによって粘度(20℃における2%水溶液の粘度値、以下同様)が異なり、その範囲は例えば、1〜100,000mPa・sであり、好ましくはMCで13〜5,600mPa・s、HPMCで30〜6,500mPa・sの範囲をあげることができる。
【0012】
本発明において、本タンパク質と本化合物との混合比としては、例えば、重量比で1:1000〜1000:1の割合、好ましくは1:100〜10:1の割合、より好ましくは1:100〜1:1の割合等をあげることができる。
【0013】
本発明防除方法を実施する場合には、他の何らの成分も加えず、そのまま本化合物と本タンパク質とを混合して用いてよいが、通常は当該混合物にさらに固体坦体、液体坦体、ガス状担体等、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤を加えることにより、油剤、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、水中懸濁剤・水中乳濁剤等のフロアブル剤、粉剤、粒剤、エアゾール、マイクロカプセル剤、加熱燻蒸剤、毒餌剤等、各種製剤化して用いることが好ましい。これらの製剤には、有効成分として本タンパク質と本化合物との混合物を、通常、重量比で約0.01〜95%含有させることがよい。
【0014】
製剤化の際に用いられる固体坦体としては、例えば、粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク類、セラミック類、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末や粒状物があげられる。
液体坦体としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ジメチルスルホキシド、植物油(大豆油、綿実油等)等があげられる。
また、ガス状担体、即ち、噴射剤としては、例えばフロンガス、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等があげられる。
【0015】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化合物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体等があげられる。
【0016】
その他の製剤用補助剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールおよび3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステル等があげられる。
【0017】
水中懸濁剤・水中乳濁剤等のフロアブル剤は、通常、約1〜75重量%の有効成分混合物を、約0.5〜15重量%の懸濁補助剤(例えば保護コロイドやチクソトロピー性を付与しうる物質)、約0〜10重量%の補助剤(例えば消泡剤、防錆剤、安定剤、展着剤、浸透助剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤等)を含む水中で、微少に分散させることにより得ることができる。
【0018】
本タンパク質と本化合物との混合物は、各々の有効成分を上記の製剤手法により製剤した後、これら製剤を混合することにより調製することもできる。即ち、本発明防除方法では、その製剤形態によっては、本化合物を予め製剤化したものと、本タンパク質を予め製剤化したものとを混合することにより調製してもよく、また、両者を施用時に混用又は同時もしくは非同時に併用することもできる。
このようにして製剤化された本タンパク質と本化合物との混合物は、そのままで、あるいは水等に希釈して用いる。また、さらに他の殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調節剤、共力剤、肥料、土壌改良剤、動物用飼料等を混用又は同時もしくは非同時に併用することもできる。
【0019】
本タンパク質と本化合物との混合物は、その有効量を、イチゴ、シソ又はチャに施用する。
イチゴとしては、例えば、イチゴ属(Fragaria)、キイチゴ属(Rubus)、ヘビイチゴ属(Duchesnea)等に施用することができる。、特に、イチゴ属のオランダイチゴ (Fragaria ×ananassa Duchesne)に対して好ましく用いることができる。
シソとしては、例えば、チリメンジソ(f. crispa (Thunb.) Makino)、マダラジソ(f. rosea (G.Nicholson) Kudo)、アカジソ(f. purpurea (Makino) Makino)、アオジソ(f. viridis (Makino) Makino)、カタメンジソ(Discolor)、チリメンアオジソ(Viridi-crispa)等に施用することができる。
チャとしては、例えば、日本種(中国)(Camellia sinensis var sinensis)、アッサムチャ(C.sinensis var. assamica)等に施用することができる。
【0020】
本発明は、例えば、広範囲な有害生物(例えば、昆虫類や有害ダニ類等)の防除に利用できる。特に鱗翅目害虫に対して好適に用いることができる。前記有害生物の代表例として、下記のものが挙げられる。
【0021】
鱗翅目害虫:ニカメイガ(Chilo suppressalis)、コブノメイガ(Cnaphalocrocis medinalis)、ヨーロピアンコーンボーラー(Ostrinia nubilalis)、シバツトガ(Parapediasia teterrella)等のメイガ類、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、シロイチモジヨトウ(Spodoptera exigua)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brasicae)、タマナヤガ(Agrotis ipsilon)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)、タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)、ヘリオティス属(Heliothis spp.)、ヘリコベルパ属(Helicoverpa spp.)、エアリアス属(Earias spp.)等のヤガ類、モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora)等のシロチョウ類、チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai)、リンゴコカクモンハマキ(Adoxophyes orana fasciata)、ナシヒメシンクイ(Grapholita molesta)、コドリングモス(Cydia pomonella)等のハマキガ類、モモシンクイガ(Carposina niponensis)等のシンクイガ類、モモハモグリガ(Lyonetia clerkella)等のチビガ類、キンモンホソガ(Phyllonorycter ringoniella)等のホソガ類、ミカンハモグリガ(Phyllocnistis citrella)等のコハモグリガ類、コナガ(Plutella xylostella)等のスガ類、ドクガ(Euproctis taiwana)、マイマイガ(Lymantria dispar)、モンシロドクガ(Euproctis similis)等のドクガ類、ヒメクロイラガ(Scopelodes contracus)等のイラガ類、マツカレハ(Dendrolimus spectabilis)等のカレハガ類、ピンクボールワーム(Pectinophora gossypiella)等のキバガ類、ヒトリガ類、ヒロズコガ類等。
双翅目害虫:マメハモグリバエ(Liriomyza trifolii)、ナスハモグリバエ(Liriomyza bryoniae)、トマトハモグリバエ(Liriomyza sativae)、ヨメナスジハモグリバエ(Liriomyza asterivora)、ナモグリバエ(Chromatomyia horticola)等のハモグリバエ類、イエカ類、ヤブカ類、ハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ハナバエ類、タマバエ類、ミバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類等
鞘翅目害虫:ハムシ類、コガネムシ類、ゾウムシ類、オトシブミ類、テントウムシ類、カミキリムシ類、ゴミムシダマシ類等
【0022】
上記のうち、特に高い防除効果が期待される有害生物は、イチゴにおいては、例えば、ハスモンヨトウ、オオタバコガ、ヨトウガ等があげられる。シソにおいては、ハスモンヨトウ、コクロヒメハマキ、ベニフキノメイガ等があげられる。チャにおいては、チャノコカクモンハマキ、チャハマキ、シャクガ類(ヨモギエダシャク)、チャノホソガ、ミノガ類、チャドクガ、アカイラガ、ハスモンヨトウ等があげられる。
【0023】
本タンパク質と本化合物との混合物をイチゴ、シソ又はチャに施用する場合には、例えば、その有効量は、通常、1000m2当たり約0.1〜1000gである。尚、粒剤、粉剤、油剤等のまま施用する場合には、通常、上記の有効量となるように何ら希釈することなくそのまま施用すればよい。また、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等を水に希釈して施用する場合でも、上記の有効量となるように水で希釈して施用すればよい。具体的には例えば、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等を水で希釈して用いる場合には、本発明防除方法における有効濃度としては、通常、約1〜10000ppmをあげることができる。
【0024】
上記の有効量は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、害虫の種類、被害程度等の状況によって異なり、上記の範囲に関わることなく増減して適宜選択することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を製剤例及び試験例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
尚、後述の「BT菌培養物」とは、1ml当たり1×103個のバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌由来の生芽胞を含む胞子懸濁液100μlを、500mlフラスコに入れて滅菌されたL−broth液体培地(100ml)に接種し、25℃の条件下で、2〜5日間程度振とう培養(150rpm)を行い、その後、得られた培養液からバチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)に属する細菌由来の芽胞と形成殺虫性タンパク質との両者を遠心分離により回収し、乾燥することにより得られた培養物(即ち、本タンパク質の一つの形態)を意味する。
【0026】
製剤例1 乳剤
本化合物1部とBT菌培養物10部とを、キシレン36.5部及びジメチルホルムアミド36.5部に溶解し、これにポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル10部及びドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部を加え、よく攪拌混合して乳剤を得る。
【0027】
製剤例2 水和剤
本化合物5部とBT菌培養物45部とを、ラウリル硫酸ナトリウム4部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、合成含水酸化珪素微粉末22部、及び珪藻土22部を混合した中に加え、よく攪拌混合して水和剤を得る。
【0028】
製剤例3 粒剤
本化合物1部に、BT菌培養物5部、合成含水酸化珪素微粉末5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、ベントナイト30部、及びクレー54部を加え、よく攪拌混合し、次いでこれらの混合物に適当量の水を加え、さらに攪拌し、増粒機で製粒し、通風乾燥して粒剤を得る。
【0029】
製剤例4 粉剤
本化合物0.5部と、BT菌培養物4部、合成含水酸化珪素微粉末1部、凝集剤としてドリレスB(三共社製)1部、及びクレー7部とを、乳鉢でよく混合した後にジュースミキサーで攪拌混合する。得られた混合物にカットクレー86.5部を加えて、充分攪拌混合して粉剤を得る。
【0030】
製剤例5 フロアブル剤
本化合物1部と、BT菌培養物10部及びソルビタントリオエレート1.5部とを、ポリビニルアルコール2部を含む水溶液26部中に加え、よく攪拌混合し、次いでこれらの混合物をサンドグライダーで微粉砕(粒径3μm以下)した後、この中に、キサンタンガム0.05部及びアルミニウムマグネシウムシリケート0.1部を含む水溶液48部を加え、さらにプロピレングリコール15部を加えて攪拌混合してフロアブル剤を得る。
【0031】
製剤例6 油剤
本化合物0.1部とBT菌培養物0.8部とを、キシレン5部及びトリクロロエタン5部に溶解し、これを脱臭灯油89.1部に混合して油剤を得る。
【0032】
製剤例7 マイクロカプセル剤
本化合物2部と、BT菌培養物8部、フェニルキシリルエタン10部、及びスミジュールL−75(住友バイエルウレタン株式会社製トリレンジイソシアネート)0.5部とを、混合した後、アラビアガムの10%水溶液20部中に加え、ホモミキサーで攪拌して平均粒径20μmのエマルションを得る。次に、これにエチレングリコール2部を加え、さらに60℃の温浴中で24時間反応させてマイクロカプセルスラリーを得る。一方、ザンサンガム0.2部、及びビーガムR(三洋化成株式会社製アルミニウムマグネシウムシリケート)1.0部を、イオン交換水56.3部に分散させて増粘剤溶液を得る。上記マイクロカプセルスラリー42.5部及び増粘剤溶液57.5部を混合してマイクロカプセル剤を得る。
【0033】
次に本タンパク質と本化合物との混合物が、本タンパク質単剤より優れた有害生物防除効果を示すことを試験例により示す。
尚、2種類の有効成分を混合して処理した際に予想される殺虫率の理論値は、例えば、Colbyの計算式で代表される計算式(即ち、E=X+Y−(X×Y)/100)により求められる。当該式において、X,Y,Eは以下の通りである。
X:有効成分AをMppmで処理した際の殺虫率(%)
Y:有効成分BをNppmで処理した際の殺虫率(%)
E:有効成分AをMppm、有効成分BをNppmで処理した際に予想される殺虫率の理論値(%)
【0034】
試験例1(ハスモンヨトウに対するメチルセルロースを用いたイチゴ葉滴下試験:異なった粘度と混合比における効力の比較検討)
BT菌製剤品、フローバック(登録商標)DF(住友化学株式会社製)(Bacillus thuringiensis var. aizawai)とメチルセルロース(MC、和光純薬工業株式会社製)の水希釈液とを混合して各々の所定濃度になるように試験用薬液を調製した。尚、供試したMCには、粘度20〜30mPa・s(MC25)及び1,100〜1,900mPa・s(MC1500)を各々用いた。直径0.6cmのコルクボーラーでイチゴ葉を切り抜き、これに前記試験用薬液を滴下し、乾燥させた。プラスチックプレート(24穴)の各ウェルの底に寒天を流し込み、固めた後、風乾したイチゴ葉片を置いた。この上に、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の3齢1日齢幼虫をウェル当り1頭ずつ放飼し、処理葉を摂食させた(35反復)。放飼24時間後に幼虫をプラスチックカップ(30mL)に移し、その後は餌として人工試料を与えた。25℃、長日条件(16時間照明8時間消灯)で飼育を行い、5日後に供試虫の生死を観察し、殺虫率を下記の式で補正することにより算出した。その結果を表1に示す。尚、表中の「本タンパク質」における「施用濃度(ppm)」は、BT菌製剤品に含まれているBT培養物の量を本タンパク質として用いて算出した値である。
【0035】
殺虫率(%)=100×(Mt−Mc)/(100−Mc)
Mt:供試化合物処理区における死虫率(%)
Mc:供試化合物無処理区における死虫率(%)
【0036】
【表1】

【0037】
試験例2(ハスモンヨトウに対するメチルセルロースを用いたシソ葉浸漬試験:異なった粘度と混合比における効力の比較検討)
BT菌製剤品、フローバック(登録商標)DF(住友化学株式会社製)(Bacillus thuringiensis var. aizawai)とメチルセルロース(MC、和光純薬工業株式会社製)の水希釈液とを混合して各々の所定濃度になるように試験用薬液を調製した。尚、供試したMCには、粘度13〜18mPa・s(MC15)、80〜120mPa・s(MC100)、及び3,500〜5,600mPa・s(MC4000)を各々用いた。温室で栽培されたシソから葉を採取し、試験用薬液に60秒間浸漬処理し風乾した。500ccプラスチックカップ(直径9.0cm、高さ7.5cm)に濾紙を敷き処理したシソ葉を置いた。この上に、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の3齢1日齢幼虫(10頭/区)を放飼し、蓋をした。その後は室内(25℃、16L10D)に静置した。処理7日後に生死を観察し、殺虫率を下記の式で補正することにより算出した。その結果を表2に示す。尚、表中の「本タンパク質」における「施用濃度(ppm)」は、BT菌製剤品に含まれているBT培養物の量を本タンパク質として用いて算出した値である。
【0038】
殺虫率(%)=100×(Mt−Mc)/(100−Mc)
Mt:供試化合物処理区における死虫率(%)
Mc:供試化合物無処理区における死虫率(%)
【0039】
【表2】

【0040】
試験例3(ハスモンヨトウに対するメチルセルロースを用いたチャ新梢浸漬試験:異なった濃度と混合比における効力の比較検討)
BT菌製剤品、フローバック(登録商標)DF(住友化学株式会社製)(Bacillus thuringiensis var. aizawai)とメチルセルロース(MC、和光純薬工業株式会社製)の水希釈液とを混合して各々の所定濃度になるように試験用薬液を調製した。尚、供試したMCには、粘度80〜120mPa・s(MC100)を用いた。茶園から新梢(新展開葉2〜3枚)を採取し、試験用薬液に60秒間浸漬処理し風乾した。500ccプラスチックカップ(直径9.0cm、高さ7.5cm)に濾紙を敷き、その上に処理チャ新梢2本の根元を水を十分量含んだスポンジに挿したものを置いた。これに、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の3齢1日齢幼虫(10頭/区)を放飼し、蓋をした。その後は室内(25℃、16L10D)に静置した。処理6日後に生死を観察し、殺虫率を下記の式で補正することにより算出した。その結果を表3に示す。尚、表中の「本タンパク質」における「施用濃度(ppm)」は、BT菌製剤品に含まれているBT培養物の量を本タンパク質として用いて算出した値である。
【0041】
殺虫率(%)=100×(Mt−Mc)/(100−Mc)
Mt:供試化合物処理区における死虫率(%)
Mc:供試化合物無処理区における死虫率(%)
【0042】
【表3】

【0043】
試験例4(ハスモンヨトウに対するメチルセルロースを用いたイチゴ葉浸漬試験:異なった粘度と処理方法における効力の比較検討)
BT菌製剤品、フローバック(登録商標)DF(住友化学株式会社製)(Bacillus thuringiensis var. aizawai)とメチルセルロース(MC、和光純薬工業株式会社製)の水希釈液とを混合して各々の所定濃度になるように加えた希釈液に、展着剤(シンダイン、住友化学株式会社製)を当該希釈液の1/5000量加え、試験用薬液を調整した。尚、供試したMCには、粘度13〜18mPa・s(MC15)、80〜120mPa・s(MC100)、及び3,500〜5,600mPa・s(MC4000)を各々用いた。試験用薬液にイチゴ成熟葉を浸漬し、風乾させた後、プラスチックカップ(500cc)内に入れ、この中にハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の4齢幼虫(平均体重16mg)を10頭放飼した(3反復)。25℃、長日条件(16時間照明8時間消灯)で飼育を行い、処理6日後に供試虫の生死を観察し、殺虫率を下記の式で補正することにより算出した。その結果を表4に示す。尚、表中の「本タンパク質」における「施用濃度(ppm)」は、BT菌製剤品に含まれているBT培養物の量を本タンパク質として用いて算出した値である。
【0044】
殺虫率(%)=100×(Mt−Mc)/(100−Mc)
Mt:供試化合物処理区における死虫率(%)
Mc:供試化合物無処理区における死虫率(%)
【0045】
【表4】

【0046】
試験例5(ハスモンヨトウに対するヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いたイチゴ葉滴下試験:異なった粘度と混合比における効力の比較検討)
BT菌製剤品:フローバック(登録商標)DF(住友化学株式会社製)(Bacillus thuringiensis var. aizawai)とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、和光純薬工業株式会社製)の水希釈液とを混合して各々の所定濃度になるように試験用薬液を調製した。尚、供試したHPMCには、粘度30〜50mPa・s(HPMC4)及び3,500〜6,500mPa・s(HPMC40)を各々用いた。直径0.6cmのコルクボーラーでイチゴ葉を切り抜き、これに前記試験用薬液を滴下し、乾燥させた。プラスチックプレート(24穴)の各ウェルの底に寒天を流し込み、固めた後、風乾したイチゴ葉片を置いた。この上に、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)の3齢1日齢幼虫をウェル当り1頭ずつ放飼し、処理葉を摂食させた。放飼24時間後に幼虫をプラスチックカップ(30mL)に移し、その後は餌として人工試料を与えた。25℃、長日条件(16時間照明8時間消灯)で飼育を行い、5日後に供試虫の生死を観察し、殺虫率を算出した。その結果を表5に示す。尚、表中の「本タンパク質」における「施用濃度(ppm)」は、BT菌製剤品に含まれているBT培養物の量を本タンパク質として用いて算出した値である。
【0047】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、イチゴ、シソ、チャにおける有害生物に対して高い防除効果を有する有害生物防除方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとの有効量を、イチゴ、シソ又はチャに施用する有害生物防除方法。
【請求項2】
前記殺虫性タンパク質が、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)の生菌体、その菌芽胞、それらを熱もしくは化学的手段により死菌化処理された菌体、又は前記生菌体もしくは前記死菌化処理された菌体の破砕物に含まれた状態である請求項1に記載の有害生物防除方法。
【請求項3】
水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロースもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1又は2に記載の有害生物防除方法。
【請求項4】
水溶性セルロースエーテルの20℃における2%水溶液の粘度が1〜100000mPa・sの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有害生物防除方法。
【請求項5】
バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとを、重量比で1:1000〜1000:1の割合で施用する請求項1〜4のいずれか1項に記載の有害生物防除方法。
【請求項6】
有害生物が鱗翅目害虫の幼虫である請求項1〜5のいずれか1項に記載の有害生物防除方法。
【請求項7】
有害生物がハスモンヨトウの幼虫である請求項1〜6のいずれか1項に記載の有害生物防除方法。
【請求項8】
有害生物防除のための、バチルス・チューリンジエンシス(Bacillus thuringiesis)が産生する殺虫性タンパク質と水溶性セルロースエーテルとの組み合わせの使用。

【公開番号】特開2010−241696(P2010−241696A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89041(P2009−89041)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】