説明

有機ケイ酸肥料

【課題】 廃棄物を有効利用して肥料を製造することを目的とするものであり、特に産業廃棄物であるフライアッシュや畜産公害として問題の大きい畜尿を利用して、無機のフライアッシュを有機の型に変え、肥料原料やこれを含む肥料、及び水稲用肥料、それらの製造方法を提供すること。
【解決手段】 フライアッシュに家畜尿を吸着させ、発酵させて有機ケイ酸肥料を製造する方法、すなわち、フライアッシュを、強度が高く液体の浸透性がよい素材からなる袋に収容し、そのフライアッシュ入り袋を家畜尿溜り池に漬けこんで尿液を飽和するまで吸着させ、堆肥の発酵場に搬入し発酵して有機ケイ酸肥料を製造する方法、有機ケイ酸肥料にカリ肥料を混合した肥料や前記肥料を水稲用肥料に用いること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ酸肥料の製造方法、または該肥料を混合した肥料に関し、詳しくは、産業廃棄物の一つであるフライアッシュに家畜からの尿液を吸着させて有機ケイ酸肥料を製造する方法、及びカリウム化合物等を加えてカリウムに富んだ有機ケイ酸肥料、及び該肥料を含有する水稲用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を安定して供給するため、石炭は他の化石燃料に比べ、供給の安定性や経済性に優れており石油代替エネルギーとして原子力に次ぐものとして位置づけられており、石炭火力発電設備は、平成14年度末で3,377万KWあり、平成19年度3,922万KW、平成24年度4,315万KWになるように計画されているといわれている。このように石炭火力発電設備が増加すると、発生するフライアッシュ(石炭灰)も増加し、全国のフライアッシュ(石炭灰)の発生量は平成14年度末の約920万トンが、平成19年度末には約1,000万トンに達するものと予測される。このように大量に発生するフライアッシュ(石炭灰)を資源として有効活用するため、研究開発が積極的に行われている。
フライアッシュの有効利用としては、その化学的・物理的性質を活かして多くの分野で使用されており、セメント混合剤、道路材、建材、農水産の分野等に利用されている。
【0003】
フライアッシュは、その成分がケイ酸を主体とするものであり、その他、古代植物が自らの成長のため取り込んだホウ素、石灰、鉄など作物に有用な多くの微量要素も含んでいる。しかしながら、このままでは作物に吸収されず、フライアッシュ単独で、肥料として用いることはできない。
【0004】
従来、フライアッシュを一原料として肥料に用いる技術として、生活廃棄物や畜産廃棄物等の有機物を微生物により発酵させるようにした有機物の堆肥化方法において、前記有機物内へのケイ酸塩鉱物とフライアッシュ等との混合物を混合することにより、有機物の発酵を促進させる有機物の堆肥化方法(例えば、特許文献1参照)や、有機汚泥より肥料を製造する方法において、(1)脱水前の有機汚泥に対して、フライアッシュを有機汚泥の固形分当たり50〜200重量%加え、撹拌・混合する工程、(2)次いで高分子凝集材を該混合汚泥の固形分当たり0.3〜2.0重量%加え撹拌し、含水率60〜75重量%に脱水する工程、(3)次いで前工程で得られた脱水汚泥に対して発酵助材としてムギワラ、イネワラ、おがくず、バーク(樹皮)等を添加後の汚泥の含水率が55〜73重量%になるように加えて混合した後発酵させる工程、からなる有機汚泥より肥料を製造する方法(例えば、特許文献2)や、木質を含む有機質の炭素源に水および窒素源を混合し、この混合物を大気中で発酵させて腐食化する堆肥の製造方法において、前記混合物に対し、さらにフライアッシュ等の石炭灰を添加混合する木質原料堆肥の製造方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0005】
また、家畜糞肥料の製造方法において、家畜糞をパルプ、フライアッシュ等の水分吸収材料の存在下で細分割化する家畜糞肥料の製造方法(例えば、特許文献4参照)や、堆積発酵し得る有機物と石炭ボイラーから副製品として産出するクリンカーアッシュ並びにフライアッシュを30〜70:70〜0:0〜70の容積比で混合し発酵させた土壌改良効果を有する有機肥料(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0006】
一方、家畜の尿の処理技術としては、家畜の尿が貯蔵される尿貯蔵槽と、前記尿貯留槽から所定量の尿が投入され、少なくとも1種類以上のバクテリア混入の所定量の水が入れられた所定大の曝気槽と、前記曝気槽内の底部に設けられ、エアポンプから送られた外気により、前記曝気槽にエアーレーションを行う曝気器と、前記曝気槽からの家畜尿を含む水の一部が投入される脱窒槽と、前記脱窒槽から投入された家畜尿を含む水の一部を、大気中の酸素と反応させて硝酸塩を生成して前記脱窒槽に再投入する硝化槽と、前記硝化槽の家畜尿を含む水の一部を濾過する濾過装置と、前記硝化槽により濾過され、前記曝気槽に再投入される水が貯水される処理済貯水槽と、からなる水循環式汚物処理装置(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−61882号公報
【特許文献2】特開平11−228267号公報
【特許文献3】特開2001−130991号公報
【特許文献4】特開2001−181074号公報
【特許文献5】特開2003−192476号公報
【特許文献6】特開2000−354898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、廃棄物を有効利用して肥料を製造することを目的とするものであり、特に産業廃棄物であるフライアッシュや畜産公害として問題の大きい畜尿を利用して、無機のフライアッシュを有機の型に変え、肥料原料やこれを含む肥料、及び水稲用肥料、それらの製造方法を提供することにある。特に稲は好んでケイ酸を吸収する植物であり、ケイ酸分を供給する土づくりは、高品質・高収量を目指す基本となっており、玄米100kgの稲は20kgのケイ酸分を吸収するといわれ、反収600kgの米を収穫するには、120kgのケイ酸が毎年必要とされることになる。また、稲の生育にはケイ酸と共にカリウムも重要な元素であり、籾殻の養分が米粒に移行するのに、カリウムが関与するといわれている。稲の登熟が終わるまで、カリウム分の集積の高いものでは、稔実籾となり、登熟後期にカリウム分の保持が低下しているものでは、不稔籾になりやすい。したがって、カリウムは窒素やリン酸と違って、かなり生育の後期まで供給しなければならない。カリウムの効果は作物体内の膨圧も維持するので、旱ばつへの抵抗性を強め、炭水化物の合成にも関与し、全体としての籾のサイズを大きくするので、二次枝梗の籾の発達も高め、増収・品質向上に寄与している。さらに、カリウムは水稲の栽培全期を通じて休みなく、適切な量を連続的に吸収させる重要な成分でもあり、本発明は、ケイ酸、カリウムを含有する特に水稲に適した、効率的な肥料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、フライアッシュと家畜糞尿、その他木屑等の繊維質成分と混合して発酵させ、肥料とすることは広く知られていたが、フライアッシュの主成分であるケイ酸を無機から有機の型に変え、最大限に活用するための肥料原料として、およびカリ肥料を配合してケイ酸質およびカリウムに富んだ肥料を得るため、本発明者らはフライアッシュと種々の他の廃棄処理されている材料との組合せについて鋭意研究した結果、家畜尿との組み合わせが肥料原料として有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)フライアッシュに家畜尿を吸着させ、発酵させることを特徴とする有機ケイ酸肥料の製造方法や、(2)フライアッシュを、強度が高く液体の浸透性がよい素材からなる袋に収容し、そのフライアッシュ入り袋を家畜尿溜り池に漬けこんで尿液を飽和するまで吸着させ、堆肥の発酵槽に搬入して発酵することを特徴とする前記(1)記載の有機ケイ酸肥料の製造方法に関する。
【0011】
また本発明は、(3)フライアッシュに家畜尿を吸着、発酵させてなる有機ケイ酸肥料や、(4)フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸含有肥料原料とカリウム含有化合物とを含むことを特徴とする肥料や、(5)フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸含有肥料原料とカリウム含有化合物とマグネシウム含有化合物を含むことを特徴とする肥料や、(6)前記(3)〜(5)のいずれか記載の肥料を水稲用肥料として用いることを特徴とする水稲用肥料に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機ケイ酸肥料原料およびそれを含む肥料は、産業廃棄物のフライアッシュや畜産公害として問題となっている畜尿を利用して、廃棄物の処理に貢献するばかりでなく、有機ケイ酸肥料として質の高い、そしてカリ肥料及び/又はマグネシウム肥料と混用して、「カリウム」が苦溶性のカリ肥料に変わり、ケイ酸が作物によく吸収される有機ケイ酸肥料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の有機ケイ酸肥料の製造方法としては、フライアッシュに家畜尿を吸着させ、発酵させる方法であれば特に限定されるものではなく、ここでの家畜尿とは、家畜糞と家畜尿とを固液分離した尿液を意味する。フライアッシュとしては、通常の石炭火力発電所から発生する、フライアッシュとして排出されたものを用いることができ、家畜尿は、牛、豚が主であるが、その他、馬、羊等から排出されたものを用いることができる。
【0014】
フライアッシュに家畜尿を吸着させる方法としては、フライアッシュを単に家畜尿と混ぜるのでは、フライアッシュが飛散して効率が悪く、そのため、強度が高く液体浸透しやすい例えばナイロン製、ビニール製等を素材とする袋にフライアッシュを収容し、その後、フライアッシュ収容の袋を尿溜り(池)に入れて家畜尿をフライアッシュに吸着させて製造する方法が好ましい。
【0015】
発酵は、従来の堆肥の醗酵を行う発酵槽で実施することができ、家畜の尿液に含まれるN、P、Kを培養基質とし、特にアンモニアから転換する窒素の含有率が高いものである。堆積する堆肥の発酵と同様に、通常、自然醗酵により、発酵し醗酵熱が発生する。発酵熱は、大気中や有機質炭素源などに付着している好気性微生物によって原料の有機物が分解される過程で発生する。このような発酵熱を利用して管理される好ましい発酵槽の温度条件は、60〜80℃程度である。なぜなら、60℃未満の低温では醗酵反応が遅くなり、80℃を越えるように加熱すると、微生物の成育が悪くなって醗酵が進まなくなるからである。
上記発酵の際、家畜等糞、木屑等適宜添加することができる。
【0016】
具体的には、まず、家畜尿吸着フライアッシュを袋より取り出して、堆肥の発酵槽(通常堆肥などを発酵して肥料を製造するタンクを指す)において、家畜尿吸着フライアッシュと2次発酵槽よりの戻し堆肥とよく混合し、混合したものを1次発酵槽において吸引・送気しながら10日間前後発酵し、次に2次発酵槽に移して吸引・送気しながら7日間前後発酵し、ここでの発酵物の約90%は湿潤混合槽に戻す。2次発酵槽からの発酵物を3次発酵槽に移し50日間前後送気しながら発酵する。その後害発酵物を90日前後生成物置場にて、送気しながら乾燥して、水分約20%の発酵物が得られる。
上記湿潤
【0017】
フライアッシュは、前記のとおりのものを用いるが、JIS規格によれば、シリカ45%以上、水分1%以下、強熱減量8%以下、比重1.95以上、比表面積1500c /g以上のものであるが、このような規格化されたフライアッシュ を使用することができることは勿論である。
【0018】
本発明の他の肥料としては、フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸肥料(以下、「フライアッシュ発酵物」という場合がある)とカリウム含有化合物とを含むものであれば、特に制限されるものではない。一般に、カリ肥料として、即効性の塩化カリウムと硫酸カリウムが主流であるが、本発明では、ゆっくり効いて、濃度障害がない新しい緩効性カリ肥料とすることができる。
【0019】
本発明の他の肥料としては、フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸肥料とカリウム含有化合物とマグネシウム含有化合物を含むものであれば、特に制限されるものではない。
【0020】
従来の、フライアッシュとカリウム含有化合物と、その他苦土源の水酸化マグネシウムやドロマイトを混合、造粒し、比較的低温で焼成することで、カリウム含有化合物は、「苦溶性」のカリ肥料に変わり、「ケイ酸」は作物によく吸収されるが、本発明のフライアッシュ発酵物でも、このような効果を奏するものである。
【0021】
一般にケイ酸カリ肥料は、苦溶性のため水に溶けず、雨水や、かん水によって流れ出すことがなく、そして苦溶性となることにより、作物の根から出る根酸によって溶けるので、作物の必要量だけ吸収され、カリ肥料で問題となる過多吸収になるようなことは起こらない。本発明のフライアッシュ発酵物でも、上記のような作用・機作を行っていると思われる。
【0022】
本発明のフライアッシュ発酵物とカリウムを含有した肥料は、土を酸性化する成分を含んでいないので、施肥量を多くしても土壌の塩類濃度を高めず濃度障害を起こすようなことはなく、また、ケイ酸カリ肥料のカリ成分を必要とするときだけ、必要なだけ溶かし吸収するので、作物体中のカリ濃度を必要以上に高めないので、石灰、苦土がバランスよく吸収されることになり、生理障害を生じさせない。
【0023】
本発明のカリ入りフライアッシュ発酵物肥料は、従来のケイ酸カリ肥料と同様に、稲の受光体勢がよくなること、光合成が衰えないこと、冷害などの異常気象に強い稲を作ること、ケイ酸の利用率が高いことから病害虫に強いこと、生育後期に養分供給を促進すること、根張りがよくなり、根毛が多いこと、稲が倒れにくくなる効果を奏する。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(家畜尿吸着フライアッシュの製法)
フライアッシュとしては、SiO:52.3%、Al:26.6%、CaO:9.4%、Fe:5.6%、KO:1.1%、B:0.4%の配合割合のものを用いた。このフライアッシュ20kgをビニール製の袋に収容し、15個の袋、計300kgを牛の尿1000kLの入った尿溜り池に入れ、3日間放置し、フライアッシュに牛の尿を吸着させた。該フライアッシュ袋を堆肥の発酵槽に搬入した。
【実施例2】
【0026】
(フライアッシュ発酵物の製法)
実施例1により得られた尿吸着フライアッシュを生フン置場兼浸潤混合槽に53t/日(水分83.0%)搬入し2次発酵槽において発酵した発酵物を戻し堆肥とよく混合し、水分62%となるまで調整し、1次発酵槽にて10日間、吸引・送気を繰り返し発酵させて水分42.0%となり、2次発酵槽にて7日間、吸引・送気を繰り返しながら発酵させて水分36.0%となった。その約90%を前記浸潤混合槽に戻し、残りの10%(水分35.0%)を3次発酵槽(50日間)に送気しながら発酵させた(水分25.0%)。さらに生成物置場にて88日間滞留送気しながら発酵熟成させた。水分20.0%の最終製品8.0t/日を得た。
【実施例3】
【0027】
実施例2により製造されたフライアッシュ発酵物(有機ケイ酸肥料)87kgに塩化カリ10kgと水酸化マグネシウム3kgとを混合撹拌機により混合して、100kgの水稲用肥料を得た。
【実施例4】
【0028】
実施例2により製造されたフライアッシュ発酵物(有機ケイ酸肥料)を、このまま畑作物の土壌に適宜量散布した。その結果、土壌は、団粒化し、肥沃となり、有機ケイ酸肥料を散布しない畑の作物に比して、生育が良好となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュに家畜尿を吸着させ、発酵させることを特徴とする有機ケイ酸肥料の製造方法。
【請求項2】
フライアッシュを、強度が高く液体の浸透性がよい素材からなる袋に収容し、そのフライアッシュ入り袋を家畜尿溜り池に漬けこんで尿液を飽和するまで吸着させ、堆肥の発酵槽に搬入して発酵することを特徴とする請求項1記載の有機ケイ酸肥料の製造方法。
【請求項3】
フライアッシュに家畜尿を吸着、発酵させてなる有機ケイ酸肥料。
【請求項4】
フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸含有肥料原料とカリウム含有化合物とを含むことを特徴とする肥料。
【請求項5】
フライアッシュに家畜尿を吸着・発酵させた有機ケイ酸含有肥料原料とカリウム含有化合物とマグネシウム含有化合物を含むことを特徴とする肥料。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか記載の肥料を水稲用肥料として用いることを特徴とする水稲用肥料。


【公開番号】特開2007−39253(P2007−39253A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221794(P2005−221794)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(505287335)
【出願人】(505287678)
【出願人】(505287357)
【Fターム(参考)】