説明

有機フォトリフラクティブ材料及びこれを用いた光記録材料

【課題】 材料の相安定性に優れ、長期にわたり優れたフォトリフラクティブ特性を示し、可使時間の長いフォトリフラクティブ材料を得る。
【解決手段】
下記A、B、C並びにD群の成分を含んでなる有機フォトリフラクティブ材料。
A:有機高分子化合物
B:電界応答光学機能化合物として、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールと、 下記の化合物群から選ばれた少なくとも1種の化合物との組合せ:
N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル、(s)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノール、[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル、4−(2,2−ジシアノビニル)−N−エチル−N−(5−ヒドロキシペンチル)アニリン、及び4−(2,2−ジシアノビニル)−N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン
C:増感剤
D:可塑剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトリフラクティブ材料に関する。本発明のフォトリフラクティブ材料は、光導電性化合物を使用せず電圧印可なしにフォトリフラクティブ特性が得られ、光通信、光情報処理において優れた空間光変調素子となり得る。
フォトリフラクティブ材料とは光照射により屈折率の変化する材料である。すなわち、フォトリフラクティブ材料に、光を照射すると電子とホール(以下、キャリアという)が生成し、このキャリアが移動することにより空間電界が生ずる。そして、この空間電界に対応して材料中の屈折率が変化し屈折率変調が可能となる。
【0002】
フォトリフラクティブ材料に対し均一強度ではない、例えばコヒーレントな2つの光束の干渉光を照射すると、干渉光明部でのみキャリアが生成するため干渉光の光強度の分布に対応する空間電界が生じる。そして、材料には空間電界に対応した屈折率変調が生じ回折格子が形成される。
【0003】
また、フォトリフラクティブ材料によって形成される回折格子は、他の回折格子形成メカニズム(フォトクロミックなど)とは異なり、干渉光の強度分布(干渉縞)との間で位相がずれる(π/2)ため、材料に入射した一方の光束と、他の光束との間にエネルギー移動が生じる。
【0004】
したがって、このような特性を利用することにより、信号光に対し非線形な信号処理を行う光変調素子への応用が可能である。すなわち、回折格子の形成を利用したホログラム記録材料や光合分波器、エネルギー移動を利用した光スイッチング素子、ビーム増幅器、画像相関処理、連想記憶素子などとして、また、回折格子から発生する回折光が位相共役となっていることから、位相共役鏡としても用い得ることができる(イェポーチ著、フォトリフラクティブ非線形光学,丸善,1995)。
【背景技術】
【0005】
(無機フォトリフラクティブ材料)
古くから知られたフォトリフラクティブ材料としては、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウムなどの無機単結晶に、金属イオンなどをドープしたものがある。これらは前記の非線形信号処理を行う光変調素子として検討され、またフォトリフラクティブ特性の発現機構を研究する素材としても用いられている。しかしながら、これらはドーパントを含む無機単結晶の成長が困難で、また結晶であって硬く脆いため成形加工性が困難であることなどから、その利用は限定されている。
【0006】
(有機フォトリフラクティブ材料)
このような背景から低コストで成形加工性に優れた非晶質性の有機化合物を用いたフォトリフラクティブ材料(以下、有機フォトリフラクティブ材料)が求められている。有機フォトリフラクティブ材料には、空間電界形成のための有機光導電性化合物と、空間電界に対応して屈折率変化を生ずる電界応答光学機能化合物(非線形光学色素など)が必須である。さらに、照射光を効率よく吸収するために増感剤や成形加工性向上のため可塑剤などを加えてもよい。
【0007】
これまでの研究では、主に光導電性機能を有する高分子に非線形光学色素化合物などの電界応答光学機能化合物を配合したもの、逆に非線形光学色素含有高分子に光導電性機能を低分子化合物として配合したもの、さらには、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンなど、フォトリフラクティブ特性には不活性な高分子化合物をバインダとし、これに光導電性機能ならび非線形光学色素を低分子で配合したものなどが提案されている。
【0008】
分子配向によって、ポッケルス効果だけでなく複屈折性も屈折率変調に寄与する。このため、ガラス転移温度の低いフォトリフラクティブ材料は、室温付近でも非線形光学色素の分子運動が制限されず、大きな電気光学特性を有し、無機材料を超える高いフォトリフラクティブ特性を示す。
このように有機フォトリフラクティブ材料は、光学変調素子への応用が期待されており、近年の光情報通信事情を反映して、現在活発な研究開発がなされている。
【0009】
【非特許文献1】W.E.Moerner and S.M.Silence著、Chemistry Review、94巻、127−155頁、1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように有機フォトリフラクティブ材料は一般に様々な機能性化合物の混合物であり、その成分の一部が析出しやすく相安定性が低いため可使時間が短い。かかる欠点を解消するため、例えば、共重合により全ての機能性化合物を1分子中に取り入れるなどの提案もあるが、化合物の合成操作が煩雑であるなどの難点がある。また、有機フォトリフラクティブ材料中の機能性化合物との相溶性に優れた溶媒、相溶化剤、または可塑剤の配合量を増加することなども考え得る。しかしながら、このような方法ではフォトリフラクティブ材料中における必要な他の機能性化合物濃度が低下しフォトリフラクティブの特性の低下を招く。本発明の目的は、材料の相安定性に優れ、長期にわたり優れたフォトリフラクティブ特性を示し、可使時間の長いフォトリフラクティブ材料を提供することにある。
本発明者らは、このような課題について鋭意検討を行った結果、2種以上の電界応答光学機能化合物を用いることにより、結晶化の阻害、もしくは結晶化に至るまでの時間をより長期化できるとの知見を得て本発明を完成した。本発明の技術によれば、可塑剤の配合量増加をはかる方法と異なり機能性化合物の濃度低下がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、下記A、B、C並びにD群の成分を含んでなる有機フォトリフラクティブ材料を提供するものである。
A:有機高分子化合物
B:電界応答光学機能化合物として、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールと、 下記の化合物群から選ばれた少なくとも1種の化合物との組合せ:
N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル、(s)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノール、[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル、4−(2,2−ジシアノビニル)−N−エチル−N−(5−ヒドロキシペンチル)アニリン、及び4−(2,2−ジシアノビニル)−N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン
C:増感剤
D:可塑剤
また、本発明の好ましい有機フォトリフラクティブ材料は、前記の有機高分子化合物がポリメチルメタクリレートであり、増感剤が2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノンであり、可塑剤が2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルプロピオネートである。また、本発明の有機フォトリフラクティブ材料中におけるA、B、C及びD群の成分の各配合量が有機高分子化合物10〜50重量%、電界応答光学機能化合物0.01〜50重量%、増感剤0.01〜25重量%、可塑剤50重量%以下であるのが好ましい。特に、電界応答光学機能化合物中、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールの配合量が50〜90重量%であるのが好ましい。さらに、本願は前記フォトリフラクティブ材料を用いた光記録材料、記録素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フォトリフラクティブ材料の製造にあたり煩雑な合成操作を必要とせず、安定した特性を示す有機フォトリフラクティブ材料が得られ、長期にわたる使用が可能となる。
【発明の詳細な記述】
【0013】
(A)有機高分子化合物
本発明の材料には、電界応答光学機能化合物及びこれと電荷移動錯体を形成する増感剤が必要であるが、これらは低分子の結晶性化合物(粉体)であるために、単に混合するだけでは電荷移動錯体はほとんど形成されず成形加工性もなく実用には適さない。このため、これら化合物を均一に混合して分散させる有機高分子化合物を用いる。このような有機高分子化合物としては、電界応答光学機能化合物及び増感剤のいずれとも相溶性がよく、これら化合物を均一に分散混合して透明で散乱のないことが必要である。
【0014】
また、電界応答光学機能化合物、増感剤との間に電荷移動錯体を形成するような有機高分子化合物は光吸収損失を大きくする可能性があり好ましくない。また、電界応答光学機能化合物と増感剤とから形成された電荷移動錯体の吸収領域に、大きな吸収のない有機高分子化合物が好ましい。従って有機高分子化合物としては、相溶性が良好で、成型加工性に富み、光学的に透明で、かつ、前記電界応答光学機能化合物、増感剤に関して記載した極性官能基を有していないものが好ましい。
【0015】
このような有機高分子化合物としては、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましく、その他ポリt−ブチルメタクリレート(PtBuMA)、ポリプロピルメタクリレート(PPMA)、ポリ(ビニルブチラール)(PVB)、ポリ(酢酸ビニル)(PVAc)、ポリカーボネート(PC)などを用いてもよい。
【0016】
また、安定したフォトリフラクティブ特性の維持には、透明性だけでなく特に耐熱性および耐候性に優れた有機高分子化合物が好ましい。このような高透明性かつ高耐熱性の高分子化合物として、ポリイミド類、ポリエーテルケトン類及びポリエーテルスルホン類などが好ましい。数種の化合物を混合してなるフォトリフラクティブ材料の熱力学的特性は、添加された有機高分子化合物の熱力学特性を反映すると考えられるため、安定したフォトリフラクティブ特性を維持するために、特に耐熱性および耐候性に優れた有機高分子化合物が好ましい。
【0017】
これら有機高分子化合物は、配合量が少ないと上記相溶性が低下し、また多量にすぎると他の機能性化合物の濃度低下を招き特性が低下する恐れがある。従って、配合量は全組成に対して10〜50重量%が好ましい。
【0018】
(B:電界応答光学機能化合物)
本発明にて用いられる電界応答光学機能化合物は、前記A群の成分の機能により形成された空間電界の強度に応じて屈折率が変化する。このような屈折率が変化する現象は、大きな複屈折性を有する分子の分子配向が電界により変化し、あるいはポッケルス効果やカー効果などにより生ずるものと推定される。このような電界応答光学機能化合物としては、非線形光学色素、液晶化合物、イミド類など大きな複屈折性を有するものが挙げられる。
【0019】
本発明において電界応答光学機能化合物には異なったものを混合して用いる。このような組み合わせにより相安定性が向上する。本発明の材料において用いられる電界応答光学機能化合物としては、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(式B1)、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル(式B2)、(s)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノール(式B3)、[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル(式B4)、4−(2,2−ジシアノビニル)−N−エチル−N−(5−ヒドロキシペンチル)アニリン(式B5)、4−(2,2−ジシアノビニル)−N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン(式B6)が好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
有機フォトリフラクティブ材料中、電界応答光学機能化合物の配合量は他の成分との相溶性を考慮し10〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。配合量がこれより少ないと電界応答光学機能が低下する。一方、配合量がこの範囲より多いと、他の成分の濃度が低くフォトリフラクティブ特性が低下する。
【0022】
本発明の有機フォトリフラクティブ材料においては、電界応答光学機能化合物を2種以上用いる。このように異種の電界応答光学機能化合物を併用することにより、結晶化による相安定性の低下が防止できる。これは本発明の材料が、固溶体と呼ばれる固体状態になっているためと推測される。ここで用いられる好ましい電界応答光学機能化合物としては、単独でも優れたフォトリフラクティブ特性を示し、また、固溶体が、類似する2種の化合物(色素)から得られやすいことを考慮して、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(式B1)、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル(式B2)などの前記電界応答光学機能化合物が挙げられる。これらは構造が類似しており、また各化合物単独でもフォトリフラクティブ性が現れることから、これらより選択するのが好ましい。
これら電界応答光学機能化合物の組み合わせにあたっては、前記色素中、単独で使用して最もフォトリフラクティブ特性の高いN−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールに対し、前記の他の色素を加えその結晶化を阻害する。したがって、配合された電界応答光学機能化合物の全量中、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールを50〜90重量%配合し、残り10〜50%を他の電界応答光学機能化合物とするのが好ましい。
【0023】
(C:増感剤)
キャリアを生成するには、光導電性化合物への照射光の吸収が必要である。光導電性化合物単体では、通常、波長350nm以下の光に対してのみ効率よくキャリアが生成する。したがって、フォトリフラクティブ材料においては、可視域波長(300〜800nm)以上の長波長光に対する吸収向上のため増感剤が必要である。増感剤は、光導電性化合物と共に電荷移動錯体を形成することが知られており、800nm程度までの光を吸収してキャリアを生成し、生成したキャリアは光導電性材料によって輸送される。
【0024】
本発明にて用いられる増感剤は、光導電性化合物と共に電荷移動錯体を形成するものが好ましい。かかる増感剤としては、下記に示す2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン(式C1)、2, 4,7−トリニトロ−9−フルオレニリデンマロニトリル(式C2)、ジメチルテレフタレート(式C3)、p−ジシアノベンゼン(式C4)、並びにC60(式C5)、C70(式C6)などが知られているが、これらのうち、配合成分相互の相溶性を考慮すると,2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノンが好ましい。
【0025】
【化2】

【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
その他の増感剤としては、2,4−ジニトロフルオレンなどのフルオレン誘導体、9−オキソ−9H−チオキサンテン−3−カルボン酸−10,10ジオキシドや9−オキソ−9H−チオキサンテン−3−カルボキシアミド−10,10ジオキシドなどのチオキサンテン類、テトラシアノエチレンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンなどのシアノエチレン類も用いられてよい。
【0028】
かかる増感剤の配合量は有機フォトリフラクティブ材料中0.01〜20重量%であり、好ましくは0.1〜20重量%である。増感剤の配合量が、この範囲より少ないとキャリアの生成効率が低い。一方、この範囲より多いと電荷発生量は増大するが、増感剤と有機光導電性化合物から生成する電荷移動錯体の光吸収が強くなり過ぎ、フォトリフラクティブ材料を光変調素子とした場合に信号光強度低下の原因となる。
【0029】
(D:可塑剤)
本発明において、可塑剤は前記の各成分を均一に混合する溶媒または相溶化剤としての役割を果たし、材料の成形加工性を向上させる。このような可塑剤としては、有機高分子化合物と同様の特性を有するものが好ましく、特に優れた相溶性を示す可塑剤として2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルプロピオネート(AX22)(式D1)が好ましい。また、他の可塑剤としては、2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルブチレート(AX23)(式D2)、2−(1、2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルベンゾエート(AXPH)(式D3)、2−(1、2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルアクリレート(AX14)(式D4)、2−(フタルイミド)エチルプロピオネート(AX24)(式D5)が挙げられる。
【化5】

また、リン酸トリクレジル、フタル酸ジオクチルエステル、フタル酸ブチルベンジルエステル、ジブチルスズジラウリン酸エステルなど一般的な可塑剤及び下記の式D6、式D7の化合物が挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
本発明のフォトリフラクティブ材料において、可塑剤の配合量は他の成分との相溶性を考慮し、通常5〜70重量%が好ましく、10〜65重量%がより好ましい。可塑剤の配合量がこの範囲をはずれると相分離が生じ得る。
【0032】
(フォトリフラクティブ成形体の調製)
つぎに前記の各成分を用いてフォトリフラクティブ成形体を製造する方法について説明する。本発明のフォトリフラクティブ材料は無印可電圧でもフォトリフラクティブ特性が発現する。なお、成形にあたっては、最終的に透明均一なフィルムが得られるよう留意する。
【0033】
(均一混合方法)
フォトリフラクティブ成形体中の固形分は均一に混合する必要がある。したがって、固形分を高極性溶媒に溶解し、均一になるまで充分に攪拌、混合する。溶媒中の固形分濃度は、均一な溶解が可能な濃度であればよいが、混合時における溶液粘度やフィルム作成時に必要な乾燥などの操作が容易なよう、固形分濃度1〜20重量%となるよう溶解するのが好ましい。
【0034】
(成形方法)
このようにして得られた混合溶液を用いてキャスト法などによりフィルムを作成し実用可能なフォトリフラクティブ材料を製造する。なお、本発明のフォトリフラクティブ材料の形態はフィルムに限定されず、使用目的に応じて適宜変更することができる。
例えば、キャスト法によりフィルムを作成するには、ガラス板などの基材上にスピンコート、滴下などにより直接塗布して、目的の膜厚、形状に応じて溶液を流延し、平滑なフィルム表面を得る。ついで、減圧下、加温などによりキャストされた溶液から溶媒を除去しフィルムを作成する。
【実施例】
【0035】
つぎに、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1〜7、比較例1]
下記の各群の成分を表1に示す割合にて配合し有機フォトリフラクティブ材料を作製した。
【0036】
(試料の準備)
(A)有機高分子化合物
ポリメチルメタクリレートは和光純薬社製のものをそのまま用いた。
【0037】
(B)電界応答光学機能化合物
N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(式B1)
(s)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノール(式B3)
東京化成工業社製のものを購入しそのまま使用した。
【0038】
[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル(式B4)は、下記方法に従い合成したものを用いた:
炭酸リチウム25.1g(340 mmol),4-フルオロベンズアルデヒド8.9g(72mmol),ヘキサヒドロアゼピン7.2g(72mmol)を無水DMF200mlに加えて50℃で24時間攪拌した。反応溶液に水300mlを加えてクロロホルムで抽出し,有機層を飽和食塩水で洗浄した。溶媒を留去して得られる反応混合物をカラムクロマトグラフィー(充填剤ワコーゲルC300(和光純薬社製),展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル混合溶媒)で生成して1−ホルミル−4−(ヘキサヒドロ-1H-アゼピン-1-イル)ベンゼンを4.53g得た。
上記1−ホルミル−4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)ベンゼン4.53g(22mmol),マロニトリル2.3g(34mmol),ジメチルアミノピリジン1.37gをメタノール(15ml)に加えて40℃で24時間攪拌した。溶媒を留去して得られる反応混合物を塩化メチレンで再結晶精製し,目的物を得た。収率78%
【0039】
4−(2,2−ジシアノビニル)−N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン(式B6)は下記に従い合成を行ったものを用いた:
無水ジメチルホルムアミドに氷冷下オキシ塩化リン5.8mlを加えて30分攪拌し室温にしたものに、N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン13.9g(55.5mmol)を加え、90℃で20時間攪拌した。反応溶液に水600mlを注ぎ、エーテル、クロロホルムの順で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して得た反応混合物をカラムクロマトグラフィーで精製することによりN,N−ビス(2−メトキシエチル)−4−ホルミルアニリン11.8gを得た。収率77%
最後にジシアノマロン酸3.3g(50mmol)、N,N―ビス(2−メトキシエチル)−4−ホルミルアニリン10.8g(45.6mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン0.7g(4.3mmol)をイソプロパール60mlに加え、40℃で3日間攪拌した。溶媒を留去して得られる反応混合物をエーテルに加え、水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、さらにカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的物質を12.5g得た。収率67%
【0040】
N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル(式B2)は下記合成法に従い合成したものを用いた:
油状の水素化ナトリウム(0.53g,13.5mmol)をヘキサンで洗浄し真空乾燥にて乾燥させた。窒素雰囲気にした後、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノール(1.0g,4.5mmol)、ヨードメタン(1.1ml,2.55g,18mmol)、無水テトラヒドロフランを30ml加え室温で1時間攪拌した。反応後食塩水を加え水相をテトラヒドロフランで抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した後、ジクロロメタンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用い黄色粉末1.0g(収率94%)を得た。さらにメタノールで再結晶を行い、黄色の結晶を0.65g得た。
【0041】
4−(2,2−ジシアノビニル)−N−エチル−N−(5−ヒドロキシペンチル)アニリン(式B5)は下記方法に従い合成したものを用いた:
N−エチルアニリン16ml、酢酸(5−ブロモ)ペンチル20ml(119.6mmol)、トリエチルアミン20mlをトルエン125mlに加えて120℃で19時間攪拌した。反応混合物に含まれる沈殿物を濾別後、低沸点生成物を留去し、さらにカラムクロマトグラフィーで精製することにより、N−エチル−N−(5−アセチルオキシ)ペンチルアニリン14.8gを得た。収率50%
次に無水ジメチルホルムアミドに氷冷下オキシ塩化リン5.8mlを加えて30分攪拌し室温にしたものに、N−エチル−N−(5−アセチルオキシ)ペンチルアニリン13.9g(55.5mmol)を加え、90℃で20時間攪拌した。反応溶液に水600mlを注ぎ、エーテル、クロロホルムの順で抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去して得た反応混合物をカラムクロマトグラフィーで精製することによりN−エチル−N−(5−アセチルオキシ)ペンチル−4−ホルミルアニリン11.8gを得た。収率77%
最後にジシアノマロン酸3.3g(50mmol)、N−エチル−N−(5−アセチルオキシ)ペンチル−4−ホルミルアニリン10.8g(45.6mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン0.7g(4.3mmol)をイソプロパール60mlに加え、40℃で3日間攪拌した。溶媒を留去して得られる反応混合物をエーテルに加え、水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、さらにカラムクロマトグラフィーで精製することにより、目的物質を12.5g得た。収率67%
【0042】
(C) 増感剤
2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン(式C1)は東京化成工業社製のものを購入し、そのまま使用した。
【0043】
(D) 可塑剤
2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルピロピオネート(式D1)は下記方法に従い合成したものを用いた。
フタル酸無水物149g(967mmol)にトルエン200mlとエタノールアミン62g(1000mmol)を加えて80℃で2時間攪拌した後、チタンブタネートを15g(44mmol)を加えて還流を19時間行った。冷却後反応溶液に水100mlを加えることで析出する白色沈殿物を濾別して有機層を回収した。溶媒を留去して得られる反応混合物をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:n−ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒)で精製してN−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサンジカルボキシイミドを得た(200g)。
【0044】
N−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサンジカルボキシイミド52g(272mmol)にピリジン57ml、トルエン200ml、プロピオン酸クロライド30ml(347mmol)を加えて90℃で19時間攪拌した。反応混合物を希塩酸水、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水の順で洗浄し有機層を回収した。溶媒を留去して得られる反応混合物をカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開溶媒:n−ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒)で精製し目的物を得た。収量45g、収率65%
【0045】
(フォトリフラクティブ特性の評価方法)
本発明にて得られた有機材料のフォトリフラクティブ効果を評価するには、電圧印加をしないでコヒーレント光の照射を行った。これらの評価には図1に示す測定装置を用いた。すなわち、得られた材料1をガラス板2に、粒径100μmガラスビーズ(ユニオン社製SPM−100)のスペーサー3と共に挟み込み、加熱、減圧処理するなどして材料中の微小気泡などを除去した。
【0046】
フォトリフラクティブ成形体の評価特性として、下記の方法により回折効率、応答時間および相安定性を評価した。
(回折効率)
回折効率とは、フォトリフラクティブ効果によって成形される回折格子に対し、光束を入射した場合に、透過する光と回折する光の強度の割合を示すものである。回折効率は縮退4光波混合法により10mWヘリウム−ネオンレーザーを光源として、P偏光書き込み、S偏光読み出しによって行った。このとき書き込み光はサンプル平面の法線に対して±9.6°で入射させた。所定時間の測定の後、回折光強度が最大となる点を求め、このときの透過光強度との比から回折効率(%)を下記の数式1より算出した。
回折効率={回折光強度/(回折光強度+透過光強度)}×100(数式1)
(応答時間)
応答時間とは回折光強度が最大となるまでの時間を意味する。
(相安定性評価)
試料を60℃に保存し、目視観察で、2ヶ月を超えて放置後も結晶析出がなかった場合を◎、1〜2ヶ月程度○、1ヶ月程度で結晶析出した場合を×として評価した。
(結果)
表1より明らかなように、電界応答光学機能化合物を2種以上を用いた本発明のフォトリフラクティブ材料は1種類を用いた比較例のフォトリフラクティブ材料と異なり相安定性が高い。また、当該化合物のうち、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールの配合量の多いものは、高いフォトリフラクティブ特性が得られ、特に実施例1、3では従来の優れたフォトリフラクティブ材料なみの特性が得られた。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】フォトリフラクティブ材料の特性評価を行う測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 フォトリフラクティブ材料
2 ガラス板
3 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A、B、C並びにD群の成分を含んでなる有機フォトリフラクティブ材料。
A:有機高分子化合物
B:電界応答光学機能化合物として、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールと、 下記の化合物群から選ばれた少なくとも1種の化合物との組合せ:
N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールメチルエーテル、(s)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)プロリノール、[[4−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1−イル)フェニル]メチレン]プロパンジニトリル、4−(2,2−ジシアノビニル)−N−エチル−N−(5−ヒドロキシペンチル)アニリン、及び4−(2,2−ジシアノビニル)−N,N−ビス(2−メトキシエチル)アニリン
C:増感剤
D:可塑剤
【請求項2】
前記の有機高分子化合物がポリメチルメタクリレートであり、増感剤が2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノンであり、可塑剤が2−(1,2−シクロヘキサンジカルボキシイミド)エチルプロピオネートである請求項1の有機フォトリフラクティブ材料。
【請求項3】
有機フォトリフラクティブ材料中におけるA、B、C及びD群の成分の各配合量が、有機高分子化合物10〜50重量%、電界応答光学機能化合物0.01〜50重量%、増感剤0.01〜25重量%、可塑剤50重量%以下である請求項1又は2の有機フォトリフラクティブ材料。
【請求項4】
電界応答光学機能化合物中、N−(4−ニトロフェニル)−L−プロリノールの配合量が50〜90重量%である請求項1〜3いずれかの有機フォトリフラクティブ材料。
【請求項5】
請求項1の材料を用いてなる光記録材料。
【請求項6】
請求項1の材料を用いてなる記録素子。


【図1】
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【公開番号】特開2006−18113(P2006−18113A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197218(P2004−197218)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】