説明

有機フッ素化合物吸着剤

【課題】水環境中のPFOS等の有機フッ素系化合物を、高効率で除去、回収できる吸着剤を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンポリマーからなる、有機フッ素化合物吸着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フッ素化合物に対する吸着剤に関する。より詳しくはシクロデキストリン化合物を使用した有機フッ素化合物に対する吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロオクタンスルホン酸(以下、「PFOS」と略称する)に代表される有機フッ素系界面活性剤は難分解性で撥水・撥油作用をもつことから、コーティング剤・界面活性剤・消火剤など様々な用途に用いられてきたが、生体・環境への影響が問題となり、2000年以降その使用が削減・禁止され、有機フッ素系界面活性剤による環境汚染の低減化に向けた取り組みが地球規模で活発に展開されている。
【0003】
水中のPFOSを除去できる吸着剤に関して、これまでいくつかの研究が行われてきた。活性炭は水中のPFOS除去に対し効果的な吸着剤であることが報告されているが、再利用が困難であり、吸着したPFOSを回収するのに膨大なエネルギーを必要とするという欠点を有している。特にPFOSのような有害物質を除去した場合、有害物質が吸着した使用済み活性炭が二次汚染物となってしまうことが大きな問題点として挙げられる。また、活性炭はPFOS以外の有機物質に対しても高い吸着能を示すため、実際の廃液処理に用いた場合、吸着効率が低下してしまう。
【0004】
一方、Dengらはキトサンやポリ(4-ビニルピロリドン)を骨格とする分子インプリントポリマーを用いた吸着剤について報告している(非特許文献1,非特許文献2)が、十分な吸着性能は得られていない。
【0005】
環境中からPFOS等の有機フッ素系界面活性剤を効果的に除去する技術に関しては未だ確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Deng et al., Water Res., 2008, 42, 3089.
【非特許文献2】S. Deng et al., Front. Environ. Sci. Engin. China, 2009, 3, 171.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたもので、水環境中のPFOS等の有機フッ素系化合物を、高効率で除去、回収できる吸着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環状オリゴ糖‘シクロデキストリン(CD)’から誘導されるポリマーを用いることで、水中の有機フッ素系化合物を効果的に吸着除去できることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、シクロデキストリンポリマーを含有する、有機フッ素化合物吸着剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシクロデキストリンポリマーは、水溶液中の有機フッ素化合物を効率よく吸着することができる。吸着された有機フッ素化合物は、シクロデキストリンポリマーから容易に分離、回収でき、シクロデキストリンポリマーはリサイクルして使用することができる。
【0010】
本発明のシクロデキストリンポリマーを構成するシクロデキストリンは、下記化学式(I)で表される6〜8個のグルコースが結合した環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)である。
【0011】
【化1】

【0012】
上記式中、nは1〜3、好ましくは1〜2の整数を表し、n=1の時をα−シクロデキストリン(α−CD)、n=2の時をβ−シクロデキストリン(β−CD)、n=3の時をγ−シクロデキストリン(γ−CD)という。
【0013】
シクロデキストリンは、CD合成酵素(シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)を用いてデンプンから合成される植物由来の化合物であり、下記に示すようなナノサイズの空孔を有している。
【0014】
【化2】

【0015】
α−、β−、γ−シクロデキストリンは各社市販品が入手可能である。例えば、和光純薬工業(株)、東京化成工業(株)、ナカライテスク(株)、Sigma-Aldrichから純品として入手可能である。
【0016】
シクロデキストリンをポリマー化するには、下記化学式に示すように、ジイソシアネート化合物で架橋する(タイプ1)か、シクロデキストリンを水溶性ポリマーにグラフトさせる(タイプ2)ようにする。
【0017】
【化3】

【0018】
タイプ1の合成に使用するシクロデキストリンの場合、3位または6位のヒドロキシル基を使用して架橋を行うようにする。好ましくは3位のヒドロキシル基を使用する。係る観点からは2位のヒドロキシル基はエーテル化、例えばメチル化したシクロデキストリンを使用することができる。このようなメチル化は、シクロデキストリンの6位のヒドロキシル基をtert-ブチルジメチルシリル基で保護した後、2位のヒドロキシル基を酸化バリウムと水酸化バリウム存在下、ヨウ化メチルと反応させることでメチル化し、最後にtert-ブチルジメチルシリル基をフッ化テトラn-ブチルアンモニウムで脱保護することにより行う事ができる。
【0019】
シクロデキストリン中の3位または6位のすべてのヒドロキシル基が、ポリマー化に必要ではなく、シクロデキストリン中の3位または6位のヒドロキシル基の内、2〜6個、好ましくは4〜5個,より好ましくは4個である。このような使用するヒドロキシル基の数の調整は、シクロデキストリンおよびジイソシアネート化合物の使用割合(モル比)を変える、またはポリマー化に必要ないヒドロキシル基をエーテル化、例えばメチル化することにより行うことができる。6位のエーテル化は、例えば、まずシクロデキストリンの6位のヒドロキシル基をtert-ブチルジメチルシリル基で保護した後、2位と3位のヒドロキシル基をベンジル基で保護し、tert-ブチルジメチルシリル基をフッ化テトラn-ブチルアンモニウムで脱保護した後、生成する6位ヒドロキシル基をメチルエーテル化し、最後に2位と3位のベンジル基を脱保護することにより、3位のエーテル化は、例えば2位と6位のヒドロキシル基を、酸化バリウムと水酸化バリウム存在下、臭化ベンジルと反応させることでベンジル基で保護し、3位ヒドロキシル基をメチルエーテル化、その後ベンジル基を脱保護することにより行うことができる。2位および3位をエーテル化するには、例えば、シクロデキストリンの6位のヒドロキシル基をtert-ブチルジメチルシリル基で保護した後、2位と3位のヒドロキシル基をメチルエーテル化し、tert-ブチルジメチルシリル基をフッ化テトラn-ブチルアンモニウムで脱保護することにより行うことができる。2位および6位をエーテル化するには、例えば、酸化バリウムと水酸化バリウム存在下、ヨウ化メチルと反応させることにより行うことができる。
【0020】
タイプ1の合成において使用するジイソシアネート化合物は、シクロデキストリンとの反応により得られる生成物を水に不溶とするのに十分な疎水性を有する観点から選ぶ様にし、例えば下記化学式:
O=C=N−Y−N=C=O
で表され、Yは、例えば−(CH)n−(nは4〜18)、又は−C−、−CH2CH2−、−CCH2−、で表される2価の基を表す、ジイソシアネート化合物を使用することができる。好ましくは、−(CH)n−(nは6〜8)、−CCH2−である。
【0021】
シクロデキストリンポリマーは、具体的には、例えば2,6-ジ-O-メチル-β−シクロデキストリン1モルと、ヘキサメチレンジイソシアネート3〜6モルとの割合で混合し、ジメチルホルムアミド中、70度で10時間撹拌することにより得ることができる。
【0022】
ポリマー化は、得られるシクロデキストリンポリマーが、水不溶性になる程度以上行うようにする。水不溶性とは、25℃における水に対する溶解度が1重量%未満であることを意味している。ポリマー化の上限は、特に限定されない。例えば、ポリマー化反応を水溶媒中で行う場合、反応が進むにつれて、生成ポリマーが沈殿してくるが、本発明においてはそのような沈殿ポリマーであれば、本発明にいう水不溶性の条件を満たしている。
【0023】
生成ポリマーの同定は、IRスペクトルにより、カルバモイル基(NH-C(=O)-)のカルボニル(C=O)伸縮振動に基づく吸収ピークの出現、ならびに1H−NMRにより、シクロデキストリンとジイソシアネートのプロトンに相応するピークの存在を確認することにより可能である。
【0024】
シクロデキストリンをポリマーにグラフトさせるタイプ2のシクロデキストリンポリマーの合成において使用するシクロデキストリンは、6位のヒドロキシル基をアミノ化して使用する(以下、「アミノ化シクロデキストリン」ということがある)。
【0025】
上記アミノ化は、シクロデキストリン中の6位の全てのヒドロキシル基をアミノ化する必要はなく、1〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1個のヒドロキシル基のアミノ化でよい。
【0026】
シクロデキストリンの上記アミノ化は、シクロデキストリンの6位ヒドロキシル基の1つを塩化p-トルエンスルホニルと反応させた後、アジ化ナトリウムと反応させ、最後にアジド基をトリフェニルホスフィンで還元することにより行うことができる。アミノ化するシクロデキストリン中の6位のヒドロキシル基の数は、シクロデキストリンと塩化p-トルエンスルホニルとの使用割合(モル比)を変化させることにより調整することができる。
【0027】
タイプ2の合成で使用するポリマー(「骨格ポリマー」ということがある)としては、側鎖にシクロデキストリンならびに疎水性基をグラフトするための反応性の置換基をもつポリマーから選ぶようにし、係る観点から、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のカルボキシル基を有する親水性ポリマーを使用することが好ましく、分子量として、Mnが2000〜200,000、Mw2000〜400,000、Mw/Mnが1.0〜2.0のものを使用するようにする。ポリアミノ酸を構成するアミノ酸としては、γ−グルタミン酸、α−グルタミン酸、α−アスパラギン酸、β−アスパラギン酸、好ましくはγ−グルタミン酸である。
【0028】
タイプ2における合成においては、6位にアミノ基を有している場合、2,3位と6位の残りの水酸基はエーテル化、例えばメチル化されていてもよい。このようなメチル化は、上記の6位アジド化シクロデキストリンをトリフェニルホスフィンを用いて6位アミノ化シクロデキストリンに変換する前に、遊離の水酸基を水素化ナトリウム存在下、ヨウ化メチルを用いてメチル化することにより行う事ができる。
【0029】
タイプ2の合成においては、ポリマーには、アミノ化シクロデキストリンとは異なるアミノ化合物をグラフトさせる。このアミノ化合物は、生成ポリマーを水に不溶化するためのものであり、以下、本発明において「不溶化アミノ化合物」という。このような不溶化アミノ化合物は、シクロデキストリンをグラフト化したポリマーの側鎖反応性基と容易に反応して、生成するポリマーを水に不溶とするのに十分な疎水性を有する観点から選択すればよく、例えば、フェニルアラニンエチルエステル、ヘキシルアミン、ベンジルアミン等を使用するようにすればよい。
【0030】
タイプ2におけるポリマー化は、上記アミノ化シクロデキストリン、水溶性ポリマー、不溶化アミノ化合物を、上記化3中におけるpの比が、l+m+pに対して、少なくとも5モル%、好ましくは20モル%の割合で含まれることとなるように使用する。その割合が多いと、水に不溶性のポリマーを合成することが困難となり、少ないと、有機フッ素化合物に対するポリマーの吸着力が低下する。不溶化アミノ化合物は、mの比が、l+m+pに対して、少なくとも30モル%、好ましくは50モル%の割合で含まれることとなるように使用する。その割合が多いと、水への分散安定性が低下し、少ないと、ポリマーを水に不溶化するのが困難になる。
【0031】
タイプ2のシクロデキストリンポリマーは、骨格ポリマー、アミノ化シクロデキストリン、不溶化アミノ化合物を水溶液中、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)とN-ヒドロキシスクンイミド(NHS)存在下、氷冷下で24時間撹拌することにより合成することができる。
【0032】
タイプ2においてもポリマー化は、得られるシクロデキストリンポリマーが、水不溶性になる程度以上行うようにする。水不溶性の意義は上記したと同じである。
【0033】
生成ポリマーの同定は、1H-NMRスペクトルにより、ポリマーの母骨格、シクロデキストリン、不溶化アミノ化合物のプロトンのピークの存在を確認することにより可能である。
【0034】
吸着の対象である有機フッ素化合物は、パーフルオロアルカンカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、1H,1H,2H,2H-パーフルオロアルキルアルコール等の両親媒性パーフルオロアルカン誘導体である。パーフルオロアルカンカルボン酸には、パーフルオロブタン酸、パーフルオロペンタン酸、パーフルオロへキサン酸、パーフルオロへプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸、パーフルオロデカン酸、パーフルオロウンデカン酸、パーフルオロドデカン酸が含まれる。特に、パーフルオロペンタン酸、パーフルオロへキサン酸、パーフルオロへプタン酸、パーフルオロオクタン酸、中でもパーフルオロヘプタン酸に対する吸着能に優れている。パーフルオロアルキルスルホン酸には、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸が含まれる。特に、パーフルオロオクタンスルホン酸に対する吸着能に優れている。1H,1H,2H,2H-パーフルオロアルキルアルコールには、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-へキサノール、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-オクタノール、1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-デカノールが含まれる。
【0035】
本発明のシクロデキストリンポリマーは、上記のような有機フッ素化合物を含有する水溶液から、有機フッ素化合物を効率よく除去できる。
【0036】
シクロデキストリンポリマーによる有機フッ素化合物の除去は、
有機フッ素化合物を含有する水溶液に、シクロデキストリンポリマーを添加する工程、
有機フッ素化合物とシクロデキストリンポリマーを接触させる工程、
を経ることにより行う。
【0037】
有機フッ素化合物の濃度は、有機フッ素化合物が溶解している限り特に限定はない。シクロデキストリンポリマーの添加量は、有機フッ素化合物の含有量と水溶液の量を目安に決めればよい。実施例においては、有機フッ素化合物含有量5〜500ppb水溶液1mlあたり、シクロデキストリンポリマー0.1 mg〜100 mg、好ましくは1〜10 mg程度を目安におこなっている。
【0038】
本発明で使用するシクロデキストリンポリマーは、水溶性溶媒,とりわけ水と混和性がないので、有機フッ素化合物に対するシクロデキストリンの吸着は、液―固接触で行われる。そのような接触を効率よく行うために、有機フッ素化合物を含有する水溶液とシクロデキストリンポリマーとの混合物を、公知の混合手段、例えばマグネチックスターラー等の手段により攪拌するようにする。
【0039】
接触条件は、室温(25℃)大気圧環境条件下でよく、接触させる手段にもよるが、1〜24時間程度接触させればよい。実施例では、混合手段としてマグネチックスターラーを使用し、圧力:大気圧、温度:25℃(室温)、攪拌時間:1時間の条件を採用した。
【0040】
上記接触工程の後、シクロデキストリンポリマーを濾過し、水溶液から分離する。分離された水溶液濾液は、シクロデキストリンポリマーを添加する前の有機フッ素化合物を含有する水溶液中から有機フッ素化合物が除去されているものである。除去されたか否かは、シクロデキストリンポリマーを取り除いた水溶液を、LC-MS-MSで分析し、除去率を算出することにより判断する。
【0041】
本発明における吸着除去効率は、含まれる有機フッ素化合物、その濃度、それが含有される水溶液の量、使用するシクロデキストリンポリマー、その量、混合方法により依存して異なるが、1回の接触のみならず、複数回の接触を行うことにより、すなわち、有機フッ素化合物を含有する水溶液に対して、有機フッ素化合物を多量に接触させることにより、理論上ほぼ100%除去可能となる。シクロデキストリン1モルに対して、有機フッ素化合物約0.1〜1モル程度が吸着されることが解っているので、このことを参考に具体的吸着プロセスを設計すればよい。
【0042】
濾過分離されたシクロデキストリンポリマーは、エタノール、アセトン等の極性溶媒で洗浄することにより、吸着した有機フッ素化合物とシクロデキストリンポリマーを分離し、シクロデキストリンポリマーは本発明の方法に再利用でき、有機フッ素化合物は、高度濃縮液として回収し、適当な処理を行い分解処理することができる。
【実施例】
【0043】
シクロデキストリンポリマー(タイプ1)の合成
(1)ヘキサメチレンジイソシアネートと2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリンとの反応によるシクロデキストリンポリマー1(タイプ1)の合成
【0044】
窒素雰囲気下で脱水DMF 10 mLにヘキサメチレンジイソシアネート (378 mg, 2.25 mmol) と2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン (1.00 g, 7.51 × 10-1 mmol) を溶解させ、70 ℃で12時間撹拌した。反応液を250 mL の脱イオン水に滴下し、生じた沈殿物を吸引ろ過により回収し、脱イオン水で洗浄後、減圧乾燥させてシクロデキストリンポリマー1(白黄色固体、0.3 g)を得た。得られたポリマーのIRスペクトルには、カルバモイル基(NH-C(=O)-)のカルボニル(C=O)伸縮振動に基づく吸収ピークが観測された。また、25℃でのポリマーの水溶性は1wt%以下であった。
【0045】
(2)4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)と2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリンとの反応によるシクロデキストリンポリマー2(タイプ1)の合成
【0046】
窒素雰囲気下で脱水DMF10 mLに4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート) (564 mg, 2.25 mmol) と2,6-ジ-O-メチル-β-シクロデキストリン (1.00 g, 7.51 × 10-1 mmol) を溶解させ、70 ℃で12時間撹拌した。反応液を250 mL の脱イオン水に滴下して、生じた沈殿物を吸引ろ過により回収し、脱イオン水で洗浄後、減圧乾燥させてシクロデキストリンポリマー2(白黄色固体、1.23 g) を得た。得られたポリマーのIRスペクトルには、カルバモイル基(NH-C(=O)-)のカルボニル(C=O)伸縮振動に基づく吸収ピークが観測された。また、25℃でのポリマーの水溶性は1wt%以下であった。
【0047】
(3)4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)と2,6-ジ-O-メチル-α-シクロデキストリンとの反応によるシクロデキストリンポリマー3(タイプ1)の合成
【0048】
窒素雰囲気下で脱水DMF 10 mL 中に4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート) (658 mg, 2.63 mmol) と2,6-ジ-O-メチル-α-シクロデキストリン (1.00 g, 8.77 × 10-1 mmol) を溶解させ、70 ℃で12時間撹拌した。反応液を250 mL の脱イオン水に滴下し、生じた沈殿物を吸引ろ過により回収し、脱イオン水で洗浄後、減圧乾燥させてシクロデキストリンポリマー3(白黄色固体、1.33 g)を得た。得られたポリマーのIRスペクトルには、カルバモイル基(NH-C(=O)-)のカルボニル(C=O)伸縮振動に基づく吸収ピークが観測された。また、25℃でのポリマーの水溶性は1wt%以下であった。
【0049】
シクロデキストリンポリマー(タイプ2)の合成
ポリ(γ-グルタミン酸) (50 mg, 0.388 unit mmol)を0.1 mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液10 mLに溶解させた。1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(149 mg, 0.776 mmol)とN-ヒドロキシスクンイミド(89 mg, 0.776 mmol)を加えて、氷冷下で15分間撹拌した。6位モノアミノ化β-シクロデキストリン(55 mg, 0.049 mmol)を加えて、氷冷下で1時間、室温で23時間撹拌した。続いて、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(75 mg, 0.338 mmol)とL-フェニルアラニンエチルエステル(89 mg, 0.388 mmol)を加えて氷冷下で1時間、室温で23時間攪拌した。反応終了後、分子量分画15,000の透析膜を用いて、3日間脱イオン水で透析し、3日間凍結乾燥した。
【0050】
収量100 mg 。1H-NMRスペクトルより、ポリ(γ-グルタミン酸)鎖へのシクロデキストリン導入率は10%、Phe導入率は40%と見積もることができた。また、25℃でのポリマーの水溶性は1wt%以下であった。
【0051】
実施例1
PFOSが50ppbの濃度で水に溶解している水溶液1mlを、2 mlのバイアルに添加し、上記で合成したシクロデキストリンポリマー1、2mgを添加、混合した。
【0052】
得られた混合物を、室温で1時間、マグネチックスターラーで撹拌した。
【0053】
撹拌後、2時間放置した後、上澄み液中のPFOSの濃度をエルシーマスマス(LC/MS/MS)[LC:ACQUITY UPLC(Waters社製, カラム:UPLC BEH C18 2.1x50 mm, リテンションギャップカラム: UPLC BEH C18 2.1x100 mm, 移動相: 2 mM 酢酸アンモニウム水溶液−アセトニトリル,流速:0.3 mL/min, カラム温度:50℃ ) [MS:ACQUITY TQD(Waters社製),イオン化モード:ESI(-)]により測定した。
【0054】
測定結果は、0.2ppbであった。水溶液からのPFOS除去率は、99.6%であった。
【0055】
実施例2〜5
PFOSに替え、パーフルオロペンタン酸(PFPeA)(実施例2)、パーフルオロヘキサン酸(PFHxA)(実施例3)、パーフルオロヘプタン酸(PFHpA酸)(実施例4)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)(実施例5)を使用した以外、実施例1と同様に行い、評価した。
【0056】
除去率は、99.2%(PFPeA)(実施例2)、99.7%(PFHxA)(実施例3)、100%(PFHpA酸)(実施例4)、99.8%(PFOA)(実施例5)
であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
有機フッ素化合物を含有する水溶液中から有機フッ素化合物を高効率で分離除去することができる。
シクロデキストリンポリマーをカラム内に充填し、その中を有機フッ素化合物を含有する水溶液が通るシステムを組めば、有機フッ素化合物を含有する大量の水溶液を短時間で環境に負荷を与えずに効率的に処理することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンポリマーからなる、有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項2】
シクロデキストリンポリマーが、シクロデキストリンの3位および/または6位のヒドロキシル基をジイソシアネート化合物で架橋されてなり、水不溶性であることを特徴とする、請求項1に記載の有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項3】
シクロデキストリンポリマーが、カルボキシル基を有する水溶性ポリマーにシクロデキストリンおよび不溶化アミノ化合物を該水溶性ポリマーにグラフトさせてなり、水不溶性であることを特徴とする、請求項1に記載の有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項4】
ジイソシアネート化合物が、下記化学式:
O=C=N−Y−N=C=O
(式中、Yは、−(CH)n−(nは4〜18)、−C−、−CH2CH2−または−CCH2−、で表される2価の基を表す)で表される、請求項2に記載の有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項5】
シクロデキストリンが、α−またはβ−シクロデキストリンである、請求項1〜4いずれかに記載の有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項6】
有機フッ素化合物が、両親媒性パーフルオロアルカン誘導体である請求項1〜5いずれかに記載の有機フッ素化合物吸着剤。
【請求項7】
有機フッ素化合物を含有する水溶液に、請求項1〜6いずれかに記載の有機フッ素化合物吸着剤を添加する工程、次に
有機フッ素化合物と有機フッ素化合物吸着剤を接触させる工程、
を経ることにより行うことを特徴とする、
有機フッ素化合物の除去方法。
【請求項8】
有機フッ素化合物と有機フッ素化合物吸着剤を接触させる工程の後に、有機フッ素化合物と有機フッ素化合物吸着剤を分離し、有機フッ素化合物吸着剤を回収する工程を含む、請求項7に記載の有機フッ素化合物の除去方法。

【公開番号】特開2012−101159(P2012−101159A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250621(P2010−250621)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】