説明

有機リン酸化合物の製造方法

【課題】本発明の目的は、保存安定性及び歯との色調適合性が改善された、歯科用接着剤に有用な重合性基を有する有機リン酸化合物の高純度・高効率な製造方法を提供することである。
【解決手段】ラジカル重合可能な二重結合、及び1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基をそれぞれ少なくとも1個有し、かつ分子内に炭素数4以上の炭化水素基を少なくとも一つ有する、特定の電気伝導度及び/又は特定の光透過率を有する有機リン酸化合物及び原料の反応率を制御して反応を行い、得られた反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行う工程を含む、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性基を有する有機リン酸化合物(以下、リン酸モノマーという場合がある)及びその製造方法、並びに該有機リン酸化合物を含む、優れた接着力を発揮する歯科用重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用接着剤は、歯の欠損部に修復物を接着または被覆し、該修復物を長期間維持するために用いられ、現在の歯科医療現場に多くのメリットをもたらしている。この様に、歯科用接着剤を用いた臨床術式が広く普及した最も大きな理由は、歯質、特に象牙質に接着する技術が開発されたことによる。
【0003】
歯質に対する接着の試みは、特に1970年代からその研究が活発化し、歯質の主成分であるヒドロキシアパタイトに対して反応性を有する酸性基を含有する化合物、特にリン酸基やカルボン酸基等の酸性基を有する重合性モノマーの応用が試みられてきた。しかし、当時知られていたリン酸モノマー、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドジェンホスフェートは、歯科用接着剤として用いても耐水性が全くなく、歯質、特に象牙質に全く接着性を示さなかった。
【0004】
しかし、本出願人の研究において、リン酸基を有するモノマーの中でも、分子構造中に、疎水性の強い炭化水素基を有するリン酸モノマーは、歯質に対して極めて高い接着性を発揮すると共に、口腔内という湿潤した環境下でも高度な接着耐久性を発現せしめることが明らかにされた。
【0005】
本出願人の提案によるリン酸モノマーは、−P(O)(OH)2基、または、>P(O)(OH)基と、(メタ)アクリル基等の重合性基の間が、炭素数の多い疎水性の強い炭化水素基によって連結されている点に特徴がある。これらの技術の詳細は、本出願人による特許文献1、特許文献2等に開示されている。
【0006】
前記文献等に開示された、これらのリン酸モノマーを歯科用接着剤として用いることにより、歯質に接着する技術が初めて確立したといっても過言ではない。その後、これら一群のリン酸モノマーを用いた歯科用接着剤の多くの形態が提案されているが、これらの技術において達成されている高い接着性は、本出願人が提案したリン酸モノマーが大きな役割を果たしている。
【0007】
かかるリン酸モノマー、例えば(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル(以下、リン酸モノエステルともいう)の製造では、ジオールと(メタ)アクリル酸の反応生成物である(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させ、得られた−P(O)Cl2基を持つ化合物の加水分解を行って合成する方法が主に用いられる。このような製造方法は、本出願人による特許文献3により公知であり、主に次に示す(I)〜(IV)の4段のプロセスから成っている。
【0008】
(I)(メタ)アクリル酸モノエステルの合成ジオールと(メタ)アクリル酸のエステル化反応によって(メタ)アクリル酸モノエステルを合成する。この反応において(メタ)アクリル酸ジエステルが副生し、更に生成物中には未反応ジオールも含まれている。
【0009】
(II)反応混合物中の未反応ジオールの除去ジオールが水溶性の場合は、通常(I)の混合物を繰り返し水洗することによって除去できる。また、水に難溶性のジオールの場合は、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの非極性の有機溶剤で該ジオールを溶解しないものを適宜選び、この有機溶剤で反応液を2〜10倍に希釈し、析出してくるジオールを濾別することにより除去できる。しかし、副生した(メタ)アクリル酸ジエステルは、種々の溶剤に対する溶解性が(メタ)アクリル酸モノエステルと類似していてこれらの方法では分離が困難なため、モノエステルはジエステルとの混合物のままで次工程に使用する。
【0010】
(III)リン酸モノエステルの合成(メタ)アクリル酸モノエステルと(メタ)アクリル酸ジエステルの混合物に、オキシ塩化リン、またはピロリン酸を反応させて、リン酸モノエステルを合成する。この時、リン酸モノエステルは(メタ)アクリル酸モノエステルから定量的に合成できる。
【0011】
(IV)リン酸モノエステルの単離反応混合物をn−ヘキサン、トルエン等の非極性有機溶媒に加えて、ステップ(I)からの副生成物である(メタ)アクリル酸ジエステルを該有機溶媒中に溶解させて抽出除去することにより、純度の高いリン酸モノエステルが得られる。あるいは、リン酸モノエステルをナトリウム塩やバリウム塩などにして水層に抽出し、水に不溶な(メタ)アクリル酸ジエステルを分離した後再び水層を酸性にしてリン酸モノエステルを回収して、純度の高いリン酸モノエステルが得られる。
【0012】
本出願人は、かかるリン酸モノマーを自ら製造し、これを含有した歯科用材料を上市してきた。また、前記文献に具体的に開示されている製造方法は、工業的にも比較的実施することが容易で、得られたリン酸モノマーは実用上十分な性能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭58−21607号公報
【特許文献2】特開昭58−21687号公報
【特許文献3】特開昭59−139392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、さらに以下の点を改善してより高品位のリン酸モノマーを提供したいと考えた。
【0015】
(1)リン酸モノマー(リン酸モノエステル)の収率の向上
前記ステップ(I)で得られる反応混合物には、未反応ジオール、後のリン酸モノエステルの合成において必要な(メタ)アクリル酸モノエステルの他に、目的物でない(メタ)アクリル酸ジエステルが相当量含まれている。本発明者らの検討では、その比はモノエステル/ジエステル/未反応ジオール=0.8〜2/1/0.5〜1.5の範囲であった。(メタ)アクリル酸ジエステルに消費されたジオールは無駄となり、経済的とはいえない。特にジオールが高価な場合、コスト的に大きな問題となる。
【0016】
さらに、前記ステップ(IV)において、目的とするリン酸モノエステルに対して(メタ)アクリル酸ジエステルの混入量が多いと、ヘキサン等でジエステルを抽出除去して精製する場合、純度が上がりにくくなる。また、純度を上げようとすると、抽出に使用する溶剤の量が多くなったり抽出回数が増えたりして、経済的にも効率の上でも問題がある。
【0017】
(2)着色の低減
上記の製造方法等により得られ得るリン酸モノエステルは、液体クロマトグラフィーによる分析では十分高い純度を有している。しかし、精製するに従ってリン酸モノエステルに淡黄色から淡褐色の着色がみられる場合がある。このような着色したリン酸モノマーを配合してなる歯科用接着剤においては、該接着剤の色調を審美的に優れた所望の色調に調節することが難しく、該接着剤を用いて修復した部分の色が周囲の歯と適合していないという不都合な面がある。
【0018】
(3)保存安定性の向上
前記リン酸モノマー自体、或いはリン酸モノマーを含有してなる歯科用接着剤が、長期間保存されている間に粘度が上昇してゲル化や固化を起こす場合がある。さらにゲル化や固化を起こした後の該接着剤は接着力が低下する等、製品の性能低下を起こす問題がある。
【0019】
即ち、本発明の目的は、保存安定性並びに歯と歯の修復物との色調適合性がさらに改善された、歯科用接着剤に特に有用な重合性基を有する有機リン酸化合物(リン酸モノマー)を提供することである。本発明の他の目的は、かかるリン酸モノマー、詳しくは(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを、原料ジオールから更に高純度に効率よく得るためのリン酸モノマーの製造方法を提供することである。また、本発明のさらに他の目的は、該リン酸モノマーを含む歯科用重合性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は鋭意検討した結果、上記保存安定性には、リン酸モノマーに微量に含まれるイオン性物質が関与していることを見出した。該イオン性物質は、使用する原材料や試薬、溶剤中の不純物、副生成物、反応容器などに由来すると考えられるが、これらのイオン性物質が多く含まれるほど前述の保存安定性の問題が顕著に現れてくる傾向を見出した。さらに、リン酸モノマー中に混入しているイオン性物質を定量する方法として、得られたリン酸モノマーの電気伝導度を測定すると、電気伝導度が大きくなるほど保存安定性が悪化するという明瞭な関係があり、具体的には該リン酸モノマーの10重量%メタノール溶液の電気伝導度が0.5mS/cm以下、より好ましくは0.4mS/cm以下であると、該リン酸モノマー、及び該リン酸モノマーを含む歯科用重合性組成物の保存安定性が良好であることを見出した。
【0021】
また、リン酸モノマーの着色の程度を定量する方法を見出し、455nmで測定したリン酸モノマーの光透過率が90%以上、より好ましくは95%以上の場合、前述の色調適合性にかかわる問題を改善できることを認めた。また、本発明者らは、さらに検討した結果、リン酸モノマーの着色の原因が原料ジオールに含まれているカルボニル基を有する化合物であることを見出した。さらに、このようなカルボニル化合物の量が原料ジオールに対して0.1モル%以下、より好ましくは0.05モル%以下とすると、色調適合性のよい歯科用重合性組成物の原料となるリン酸モノマーが合成できることを見出した。
【0022】
さらに、前記製造方法において原料、中間生成物、合成条件、洗浄方法等を検討し、さらに新工程の追加を行うことにより、リン酸モノマー、詳しくは、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの収率を向上出来ることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 (メタ)アクリル酸1モルに対して炭素数4〜30のジオールを1〜5モル反応させるとともに、(メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とし、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステル/ジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルのモル生成比が2〜8である反応混合物を得、さらに得られたジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させて、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法;
〔2〕 1つの水酸基と少なくとも1つの(メタ)アクリル基を有し、かつ少なくとも1つの炭素数4〜30の炭化水素基を有する有機残基からなるモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルに、アミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させ、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得、該反応混合物を酸性水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出分離し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄することを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステルの製造方法;
〔3〕 (メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得る工程が、該モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルとオキシ塩化リンをアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得る工程である、前記〔2〕記載の製造方法;
〔4〕 分子内に炭素数が4以上の有機基と2個以上の水酸基を有するポリオール化合物を、(メタ)アクリル酸誘導体を用いて、少なくとも1個以上の水酸基を残して(メタ)アクリル酸エステル化を行って得られた、水酸基を少なくとも1個以上有する(メタ)アクリレート化合物を原料とし、該原料の水酸基をオキシハロゲン化リンを用いてリン酸エステル化する有機リン酸化合物の製造方法であって、ポリオール化合物中のカルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下であることを特徴とする、有機リン酸化合物の製造方法;
〔5〕 ポリオール化合物が、炭素数4〜30を有するジオールである、前記〔4〕記載の製造方法;
〔6〕 (メタ)アクリル酸1モルに対して、カルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下でありかつ炭素数4〜30を有するジオールを1〜5モル反応させて、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルとジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルを含む反応混合物を得、次いで得られた(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行って(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法;
〔7〕 (メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行なう工程が、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得、次いで酸の水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出除去し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄する工程である、前記〔6〕記載の製造方法;
〔8〕 (メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とする、前記〔6〕又は〔7〕記載の製造方法;
〔9〕 化学量論量以下のアミンの存在下で反応させることによって(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を反応混合物内に含有させる、前記〔2〕、〔3〕、〔6〕又は〔7〕いずれか記載の製造方法;
〔10〕 pH3以下の酸性条件下で水溶液洗浄を行う、前記〔2〕、〔3〕、〔6〕又は〔7〕いずれか記載の製造方法;
〔11〕 ジオール中のカルボニル化合物の含有量が0.05モル%以下である、前記〔5〕〜〔7〕いずれか記載の製造方法;
〔12〕 炭素数8〜16のアルキレン基を有するジオールを使用する、前記〔1〕又は〔4〕〜〔7〕いずれか記載の製造方法;
〔13〕 ジオールが1,10−デカンジオールである、前記〔1〕又は〔5〕〜〔7〕いずれか記載の製造方法;
〔14〕 モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルが、10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールである、前記〔2〕又は〔3〕記載の製造方法;に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、長期間の保存中に粘度上昇によるゲル化や固化を起こしにくく、また保存後の接着力低下等の問題がなく、更に、色調が改善された有機リン酸化合物が高純度、高収率で得られ、該リン酸モノマーを含有する、色調適合性が良く、保存安定性に優れ、しかも接着力の高い歯科用重合性組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の有機リン酸化合物、即ち、ラジカル重合可能な二重結合、および、1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基をそれぞれ少なくとも1個有し、かつ分子内に炭素数4以上の炭化水素基を少なくとも一つ有するリン酸モノマーは、接着性モノマーとして特に有用である。本出願人の研究により、分子内に炭素数4以上の疎水性の強い炭化水素基を有することが、歯質への高い接着性と耐久性に寄与していることが明らかにされた。
【0026】
本発明のリン酸モノマーにおける、1基のヒドロキシル基を有するリン酸残基とは、>P(O)(OH)
の構造単位のことを指す。また、2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基とは、−P(O)(OH)2
の構造単位のことを指し、いずれもリン酸基およびホスホン酸基が該当する。
【0027】
また、本発明で言うラジカル重合可能な二重結合の例としては、スチレン基、シアノアクリル基、ビニルエーテル基、(メタ)アクリル基等があるが、最も好ましいのは(メタ)アクリル基である。
【0028】
本発明のリン酸モノマーは、分子内に炭素数が4以上の炭化水素基を少なくとも1個含有する。該炭化水素基は、水素原子がハロゲン、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、シアノ基、ホスホン酸基、リン酸基等で置換されていてもよい。また、該炭化水素基の炭素数は20を超えず、また、分子内の全ての炭化水素基の炭素数を合計して40以内のリン酸モノマーが、その合成の容易さ、原料の入手し易さから好ましい。
【0029】
高い接着力を得るという観点から好ましいリン酸モノマーの構造の1つとしては、炭素数4以上の炭化水素基と、(メタ)アクリレート基を有する有機基、及び1基のヒドロキシル基がそれぞれリン酸残基に結合した構造を有するリン酸モノマーがあげられる。かかるリン酸モノマーの例としては、以下のものが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
このタイプのリン酸モノマーの中では、リン酸残基に結合した炭化水素基が芳香族基であるものが特に好ましい。
【0032】
また、同様に高い接着力を発現する別のタイプのリン酸モノマーとして、(メタ)アクリレート基と1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基との間に、炭素数が4以上の疎水性の炭化水素基を少なくとも1つ有する有機基が連結基(スペーサー)として存在する構造を有するリン酸モノマーが好ましい。
【0033】
即ち、下記の式で表されるようなリン酸モノマーが例示される。
〔H2C=C(R1)COO−〕p−X−(Z)q−P(O)(OH)2
および〔H2C=C(R1)COO−〕p−X−(Z)q−P(O)(OH)−(Z)r−A
[式中、R1は水素原子またはメチル基で、pは1〜4の整数、qおよびrは0または1をあらわす。Xは炭素数が4以上の炭化水素基を含むp+1価の有機基、Zは酸素原子または硫黄原子、Aは1価の有機残基]で示されるリン酸モノマーである。Xで示される有機基(スペーサー)の例を示せば以下の通りである。
【0034】
【化2】

【0035】
また、有機残基Aの例を示せば以下の通りである。
【0036】
【化3】

【0037】
これらの中でも特に好ましいリン酸モノマーは、連結基(スペーサー)が、炭素数が4以上の脂肪族基、または炭素数が8以上で芳香族基を少なくとも1つ含有する有機基であり、これらのリン酸モノマーは接着界面での歯質への浸透性が優れ、特に高い接着力を発揮する。
【0038】
またさらに、かかるリン酸モノマーとしては、(メタ)アクリレート基、及び2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基が、炭素数8〜16の脂肪族基を少なくとも1つ有する連結基で結合されたリン酸モノマーが好ましい。
【0039】
本発明者らは、かかるリン酸モノマーの(1)色調の改善並びに(2)保存安定性の向上について鋭意検討した。
【0040】
(1)リン酸モノマーの色調の改善
リン酸モノマーは、前記したように淡黄色から淡褐色に着色している。第一に、この原因は、製造したリン酸モノマー中の不純物の影響であると考えた。本出願人により提案されたリン酸モノマーの製造方法はいくつかあるが、例えば、特開昭59−139392号公報に示した方法で、デカンジオールのようなアルキルジオールからヒドロキシアルキルモノメタクリレートを経て、リン酸モノエステルであるメタクリロキシアルキルジハイドロジェンフォスフェートを製造する場合、目的とするリン酸モノエステル自体の純度は90〜96%で、この純度はNMRやHPLC分析により把握される。
【0041】
この生成物に含まれる不純物として、リン酸ジエステル、原料のヒドロキシアルキルメタクリレート、アルキルジオール、アルキルジオールのジメタクリレート、ピロリン酸エステル誘導体、メタクリル酸等が、上記の分析手段で認識された。しかしながら、これらの不純物は、リン酸モノエステルの着色に関してほとんど影響していないことが分かった。
【0042】
次に本発明者らは、これらの化合物以外の微量な不純物に注目し、更に分析を行った。しかし、本来は無色であるところの有機化合物の着色原因物質の分析は困難で、この理由は、原因物質が極微量であっても着色すること、原因物質は複雑な混合物であること、また、該物質自身の安定性も良くないことがあげられる。
【0043】
しかしさらに検討を進め、着色のスペクトルを解析の結果、リン酸モノエステルの吸光度の測定から、カルボニル基を有する化合物が着色の原因である可能性を見出した。
【0044】
一般に、有機物中の微量のカルボニル化合物の分析は、塩酸ヒドロキシルアミン水溶液を作用させてカルボニル基をオキシム化反応によって定量する方法で、工業界でカルボニル価(COV)の測定として行われており、本発明者らもこの方法での分析を試みた。しかし、リン酸モノエステルに対してこの分析を行うと、リン酸モノエステル自体にカルボニル基を有する(メタ)アクリル基があるため、着色の原因と思われるカルボニル化合物だけを分析することは出来なかった。
【0045】
さらに検討を進めると、上述の反応で用いられるリン酸モノエステルの原料であるアルキルジオール中には相当量のカルボニル化合物が含まれることを、前記分析方法で突き止めた。そして、該ジオール中のカルボニル化合物の含有量と、これを用いて製造したリン酸モノエステルの着色の度合いには明らかな相関があることがわかった。即ち、該ジオール中のカルボニル化合物は、本製造工程の途中で取り除かれずにリン酸モノエステルに混入してきていると考えられる。
【0046】
本発明者らの検討によれば、カルボニル化合物の含有量が少ないジオールを用いると、着色の少ないリン酸モノマーが得られ、この様なリン酸モノマーを含有する歯科用接着剤の色調適合性は大きく改善された。この様に、原料のジオール中のカルボニル化合物の含有量が、これを用いて得られたリン酸モノマーの着色の程度に影響する事実は、本発明者らにより始めて見出された。
【0047】
またさらに、カルボニル化合物の含有量が少ない程、着色が少ないリン酸モノマーが得られるばかりか、該リン酸モノマーの経時的変色も少なくなることが判明した。
【0048】
カルボニル化合物が多く含まれると、リン酸モノマーの着色が経時的に増大する原因は定かではないが、本発明者等の推定によれば、メタクリル酸エステル化、およびリン酸エステル化の過程で、カルボニル化合物(特にアルデヒド)が自己酸化したり、他の不純物成分との縮合反応をおこして、π共役系発色団を有した色の強い化合物が生成するためと考えている。
【0049】
即ち、本発明のリン酸モノマーは、着色の原因物質であるカルボニル化合物の含有量が少なく、具体的には、45℃にて14日間保存した後に455nmでの光透過率を測定し、一定量以上の光透過率を有するものである。リン酸モノマーの45℃における14日間の保存は、4℃における冷蔵保存で約2年間の保存に相当し、リン酸モノマーを実際に使用する期間として妥当であるとした。
【0050】
また、本発明者らは、このような方法で製造して得られたリン酸モノマーの着色の度合いが、リン酸モノマーを含有してなる歯科用接着剤の色調適合性に大きく影響することを見出した。即ち、リン酸モノマーの着色の程度が大きいほど、これを含有した該組成物自身にも着色が生じて所望の色調が得られない。そして、455nmでのリン酸モノマーの光透過率が低くなるほど色調適合性が悪化するという明瞭な相関を見出した。
【0051】
そして、前述の色調適合性にかかわる問題を改善するためには、該リン酸モノマーの455nmでの光透過率を90%以上、より好ましくは95%以上にすることが必要であることを認めた。
【0052】
本発明で言うリン酸モノマーの光透過率は、分光光度計により測定するものであり、リン酸モノマーを無希釈で入れたガラスまたは石英製の測定用セルを通過した光の強度の、空のセルを通過した光の強度に対する割合として表される。
【0053】
リン酸モノマーの光透過率に関してさらに説明を加える。リン酸モノマーの光透過率は、着色の度合いにより370〜800nmの可視光の波長域において変化するが、455nm付近の変化の度合いが最も大きく、さらに無希釈で光透過率を測定することによって、光透過率の変化を検出する精度を可及的に大きくできた。尚、リン酸モノマーの種類によっては常温で固体の場合があるが、その場合、分光光度計に恒温漕を取り付け、セルを加温してリン酸モノマーを溶融して測定する。
【0054】
(2)保存安定性の向上
まず、前記(1)と同様、製造して得られたリン酸モノマー中の不純物の分析を行った。しかし、本発明者らの検討により、NMRやHPLC分析の結果からみたリン酸モノマーの純度や、上記の不純物の種類や含有量は、本問題に対して相関性を殆ど持っていないことが明らかとなった。
【0055】
次に本発明者らは、これらの化合物以外の微量な不純物に注目した。そこで、得られたリン酸モノマーに対して、さらに種々の分析を行った結果、相当量のイオン性物質が混入していることがわかった。イオンクロマトグラフィーで分析を行うと、Na+、SO42-、Cl-、PO43-、NH4+、NO3-、Fe+などのイオンが検出された。これらのイオンは、使用する原材料や試薬、溶剤中の不純物、副生成物、反応容器などに由来すると考えられる。
【0056】
さらにこれらのイオン性物質が及ぼす影響について検討を進めた結果、これらが多く含まれるほど前述の問題が顕著に現れてくる傾向を見出した。さらに、リン酸モノマー中に混入しているこれらのイオン性物質を定量する方法として、得られたリン酸モノマーの電気伝導度を測定すると、電気伝導度が大きくなるほど保存安定性が悪化するという明瞭な相関を見出した。
【0057】
本発明者等の検討によれば、イオン性の不純物を実質的に含有しないリン酸モノマーの電気伝導度は、0.1〜0.2mS/cmの範囲にあり、この様な純度の高いリン酸モノマーを用いた場合の保存安定性は満足ゆくレベルにあった。しかし、イオン性物質が混入するほど電気伝導度が上昇し、保存安定性が悪化していく傾向が認められた。そして、前述の保存安定性にかかわる問題を改善するためには、該リン酸モノマーの電気伝導度を0.5mS/cm以下、より好ましくは0.4mS/cm以下にすることが必要であることを認めた。上記のリン酸モノマーの電気伝導度と保存安定性の関係は、本発明者らによって初めて見出された事実である。
【0058】
本発明におけるリン酸モノマーの電気伝導度とは、得られたリン酸モノマーの10重量%メタノール溶液を調製し、該溶液の電気伝導度を25℃で測定した値である。
【0059】
尚、炭素数が3以下の有機基しか持たないリン酸モノマーは、電気伝導度と本発明で問題にしている保存安定性の問題との間に特別な相関は殆ど認められず、電気伝導度が高くても保存安定性は良好であったが、かかる事実も本発明者らによる新しい知見である。
【0060】
またさらに、炭素数が多い有機基を有するリン酸モノマーほど、同じ程度の保存安定性を有するためには、電気伝導度を低くする必要がある傾向が認められた。例えば、リン酸モノマーの炭化水素基の炭素数が4〜7の場合は、該リン酸モノマーの電気伝導度が0.5mS/cm以下であると満足ゆく保存安定性が得られたが、炭素数が8以上になると、電気伝導度は0.4mS/cm以下にすることが望ましい。
【0061】
炭素数が多い炭化水素基を有するリン酸モノマーにおいて、イオン性物質が多いと組成物の保存安定性が悪化する理由は現時点では定かではないが、イオン性物質が存在するとこれが架橋点となり、該リン酸モノマー同士が溶液中で会合し、さらに炭素数が多く疎水性の大きな炭化水素基を有する場合は、非常に大きいネットワーク状の分子集合構造を形成しやすくなって、粘度上昇やゲル化を促進していると推定している。
【0062】
また、この様な大きな分子集合構造が歯科用重合性組成物中に存在すると、歯質、特に象牙質への接着において、接着界面での象牙質へのリン酸モノマーの浸透性が悪くなり、樹脂含浸層の形成が阻害されて接着力が低下すると考えている。
【0063】
次いで、本発明のリン酸モノマーの製造方法について説明する。
【0064】
一般に、リン酸系モノマーの合成方法にはいくつかの方法が知られている。例えば、リン酸あるいはその活性な誘導体とアルコールのエステル化反応、五酸価リンとアルコールの反応等により合成される。一方、本発明のリン酸モノマーを製造する方法としては、前述のような着色の原因となる物質やイオン性物質の混入をなるべく少なくし易い合成プロセスを採用するのが望ましい。この観点から、水酸基を2個以上有する化合物を、(メタ)アクリル酸誘導体を用いて、少なくとも1個以上の水酸基を残して(メタ)アクリル酸エステル化を行って得られた、水酸基を少なくとも1個以上有する(メタ)アクリレート化合物を原料とし、該化合物の水酸基を、オキシハロゲン化リンを用いてリン酸エステル化する方法がある。この方法において特に経済的で簡便な方法は、オキシハロゲン化リンとしてオキシ塩化リンを用いる方法であり、オキシ塩化リンと水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を、トリエチルアミンなどの三級アミンを脱塩化水素試薬として加えて反応させる。次いで水を加えてP−Cl結合を加水分解してリン酸基とすると、目的のリン酸モノマーが得られる。なお、ここで、オキシ塩化リンに対して、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物の仕込量が1モル以下であれば、生成するリン酸モノマーとしては、ジハイドロジェンホスフェート基を有するリン酸のモノエステルが主に生成し、該仕込量が1モルより多くなるほどモノハイドロジェンフォスフェート基を有するリン酸のジエステルが生成する割合が多くなる。
【0065】
また、かかる製造方法においては、前記(メタ)アクリレート化合物として、1つの水酸基と少なくとも1つの(メタ)アクリル基を有し、かつ少なくとも1つの炭素数4〜30の炭化水素基を有する有機残基からなるモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルも原料に使用することができる。ここで、有機残基とは、炭化水素基(ハロゲン原子等で置換されていてもよい)がエーテル結合、エステル結合、アミド結合等の結合単位を含む構造であってもよい。
【0066】
かかるモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルは、具体的には次のような化合物が挙げられる。
【0067】
【化4】

【0068】
【化5】

【0069】
ところで、前記製造方法により本発明にかかるリン酸モノマーを製造する場合においては、水酸基を2個以上有する化合物として分子内に炭素数が4以上の有機基と2個以上の水酸基を有するポリオール化合物、特に炭素数4〜30を有するジオールが好適に用いられ、好ましくは炭素数5〜30を有するジオールが用いられる。また、かかる場合に前記製造方法により得られるリン酸モノマーの中では、リン酸モノエステルが好ましい。尚、ジオールの2つの水酸基以外の構造は、炭化水素基(ハロゲン原子等で置換されていてもよい)がエーテル結合、エステル結合、アミド結合等の結合単位を含む構造であってもよい。ただし、ジオールの2つの水酸基は、これらの結合基と直接結合しない。
【0070】
具体的には、次のようなジオールが挙げられる。
【0071】
【化6】

【0072】
【化7】

【0073】
これらのジオールの中でも、HO−(CH2)n−OH
n=9〜16
の化合物から合成したリン酸モノエステルは、優れた接着力と高度の耐水性を有する歯科用重合性組成物の原料として好適に用いられる。
【0074】
また、該ジオールを用いてリン酸モノエステルを製造すると、前記ステップ(IV)の精製工程におけるヘキサン等の非極性溶媒による抽出において、目的のリン酸モノエステルと取り除くべき(メタ)アクリル酸ジエステルの溶解度の差が大きく、容易に(メタ)アクリル酸ジエステルだけをヘキサンへ溶解させて取り除きやすいので好適である。
【0075】
この様な製造方法において着色の原因となる物質の混入を防いで光透過率の高いリン酸モノマーを得る手段としては、使用する原料、試薬、溶剤等の純度が高い物を選ぶ方法がある。この点では先に述べたように、水酸基を2個以上有する化合物にメタクリル酸エステル化反応を行うにあたり、水酸基を2個以上有する化合物中に不純物として含まれるカルボニル化合物がなるべく少ないものを用いる方法は特に有用である。
【0076】
水酸基を有する化合物中に含まれるカルボニル化合物の検出方法は、以下の方法による。即ち、原料ジオールを適当な溶媒で希釈した液に塩酸ヒドロキシルアミン水溶液を作用させると、原料ジオール中の不純物のうち、カルボニル基を有するものはオキシム化反応によってカルボニル基に対して等モルの塩酸が遊離し、この塩酸をアルコール性水酸化カリウム溶液で中和滴定し、滴定で消費された該水酸化カリウムの量をカルボニル基の数に換算して求める。この方法は工業界ではカルボニル価(COV)の測定方法として用いられている。本発明者等の検討によれば、この方法で測定した場合、原料ジオール等のポリオール化合物中のカルボニル化合物の量は、ポリオール化合物に対してカルボニル基の数として、具体的には、0.1モル%以下が好ましく、0.05モル%以下がより好ましい。
【0077】
また、イオン性物質の混入を防ぐ手段としては、使用する原料、試薬、溶剤等の純度が高いものを選ぶことの他、原料である水酸基を有する(メタ)アクリレートに対して、使用するオキシ塩化リンやアミン等の試薬類を過剰に使用しないことである。過剰な添加はリン酸イオンやアミンの塩酸塩が残存する原因となる。
【0078】
以下、本発明のリン酸モノマー、特にリン酸モノエステルの製造方法を、ポリオール化合物としてジオールを用いる場合を例にしてプロセス毎に具体的に説明する。
【0079】
(A)(メタ)アクリル酸モノエステルの合成
(メタ)アクリル酸とジオールのエステル化反応を、無溶媒またはベンゼン、トルエン、ハロゲン化ベンゼン等の不活性溶媒中で酸触媒存在下130℃以下で行い、(メタ)アクリル酸モノエステルを合成する。その際に得られる反応混合物中のジオールの(メタ)アクリル酸モノエステル/ジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルのモル比は、最終的に得られるリン酸モノエステルの収率を向上させる観点から、2〜8とするのが好ましい。ここでジオールの仕込み量が(メタ)アクリル酸に対して極端に少ない場合は、最終的に不必要になる(メタ)アクリル酸ジエステルが副生しやすくなり、生成する(メタ)アクリル酸エステル混合物中のモノエステル/ジエステルのモル比が2以下になりやすくなるため望ましくない。それゆえ、(メタ)アクリル酸1モルに対してジオール1〜5モル、より好ましくは1〜3モルを仕込むことが望ましい。
【0080】
前記酸触媒としては、硫酸、スルホン酸、リン酸等の強酸を用い、全仕込み量に対して0.1〜15重量%を加える。また、エステル化反応中の重合を防止するために、ハイドロキノンモノメチルエーテル(略号:MEHQ)、ハイドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(略称:BHT)などの重合禁止剤もしくは抑制剤を(メタ)アクリル酸に対して50〜10000ppm加える。さらに、空気または酸素を反応液に吹き込み重合防止を図るが、反応温度が130℃を超えるとなお重合する危険がある。従って、130℃以下、好ましくは100℃以下で反応を行うのが好ましい。また反応は常圧で行ってもよいが、生成水の留出を促して反応の進行を早めるために減圧下で行ってもよい。
【0081】
反応中の混合物は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーなどの分析手段を用いて逐次追跡する。反応開始と同時に(メタ)アクリル酸のモノエステルとジエステルの生成が始まるが、反応初期の段階ではモノエステルの生成速度が速く、反応が進むにつれて逆にジエステルの生成速度が速くなる。本発明者らが検討した結果、仕込んだ(メタ)アクリル酸の60〜90%、さらに好ましくは75〜90%が反応した時にモノエステルの増加が止まり、ジエステルの増加が主体となる反応となることが見出された。
【0082】
この段階で反応を停止させることにより、リン酸モノエステルの合成に必要な(メタ)アクリル酸モノエステルを、不必要な(メタ)アクリル酸ジエステルに対して高収率で得ることができ、(メタ)アクリル酸モノエステル/(メタ)アクリル酸ジエステルの比で表すと、モル生成比は2〜8となる。
【0083】
上記の反応混合物を含む有機溶媒から、前記ステップ(II)に従って未反応のジオールを除去する。この未反応ジオールは回収して再使用することも可能である。水層を除去して得られた有機層は、必要なら活性炭などを用いて脱色処理を行ってもよい。さらに脱色処理と同時に、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブ等を投入して脱水操作をかねてもよい。
【0084】
その後、脱色剤、乾燥剤および溶媒を除去して、前述のジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルとジエステルの混合物を得る。
【0085】
(メタ)アクリル酸モノエステルは、ジオールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応だけでなく、ジオールと(メタ)アクリル酸メチルとのエステル交換反応、ジオールと(メタ)アクリル酸クロリドの脱HCl縮合などによっても合成でき、(メタ)アクリル酸メチルあるいは(メタ)アクリル酸クロリド1モルに対してジオールを1〜5倍モル量反応させ、(メタ)アクリル酸メチルあるいは(メタ)アクリル酸クロリドの反応率を60〜90%にすることによって、本発明の目的を同様に達成することができる。
【0086】
(B)リン酸モノエステルの合成
未反応ジオールを回収後、(メタ)アクリル酸モノエステルの水酸基をリン酸エステル化する。基本的には多数知られている公知の技術のいずれを利用しても良いが、簡単で収率の良い方法としてオキシ塩化リンを利用する次の方法がある。この工程は次に示す(i)、(ii)のように二段階に分けて考えることができる。
【0087】
(i)−P(O)Cl2基を有する化合物の合成
(アミンの第一滴下工程)反応式を化学式(m)で示す。
X−O−R−OH+P(O)Cl3
→X−O−R−O−P(O)Cl2+HCl (m)
(X−O−R−OHは(メタ)アクリル酸モノエステルを表し、Xは(メタ)アクリロイル基、Rは炭素数4〜30を有する有機残基を表す。)
【0088】
化学式(m)のように、(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させる。(メタ)アクリル酸モノエステルは純度の高いものを用いるのが好ましいが、前記(A)で合成した(メタ)アクリル酸ジエステルとの混合物のまま反応させてもよい。反応は、0℃以上だとリン酸ジエステルが副生しやすくなり、−60℃以下では反応速度が著しく遅くなるため、好ましくは−60〜0℃、より好ましくは−50〜−10℃で行う。
【0089】
また本反応においては、生成する塩化水素を回収するために、反応助剤としてアミン化合物を加える。アミン化合物は、塩基性が強く塩酸塩を生成しやすい点からトリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなどの第三級アミンが好ましく、特に精製する際に容易に除去できる点でトリエチルアミンを使用することがより好ましい。
【0090】
オキシ塩化リンおよびアミン化合物をあまり多量に使用すると、イオン性物質が増加して前述のように最終生成物であるリン酸モノエステルの保存安定性が悪化する原因となるので、それぞれ(メタ)アクリル酸モノエステル1モルに対して等モルか少過剰を使用するのが好ましい。
【0091】
具体的には、−60〜0℃において、上記で合成した(メタ)アクリル酸のモノエステルとジエステルの混合物に、混合物中のモノエステル1モルに対してオキシ塩化リンを1〜2モル、アミン化合物、好ましくはトリエチルアミンを用いて1〜1.2モルを反応させる。
【0092】
オキシ塩化リンをエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン等の溶媒で希釈して、好ましくは−50〜−10℃に保つ。(メタ)アクリル酸モノエステルおよびアミン化合物は、そのままか又はエーテル等の溶剤で適宜に希釈して、オキシ塩化リンに加える。この時、(メタ)アクリル酸モノエステル、アミン化合物の順に加えても良いが、両者を混合して加えてもよい。また、加えた後も−50〜−10℃に保ち、30〜60分間攪拌を続ける。
【0093】
この段階で、化学式(m)に示す−P(O)Cl2基を持つリン酸モノエステル塩化物が生成する。
【0094】
(ii)リン酸モノエステル塩化物の加水分解によるリン酸モノエステルの合成
(アミン第二滴下工程)反応式を化学式(n)で示す。
X−O−R−O−P(O)Cl2+H2
→X−O−R−O−P(O)(OH)2+2HCl (n)
(X、Rは化学式(m)と同じ。)
【0095】
化学式(n)のように、リン酸モノエステル塩化物を加水分解してリン酸モノエステルを合成する。この際反応を円滑に進めるためにアミン第一滴下工程よりも反応温度を上げるが、高温にしすぎると反応生成物の制御ができなくなるため、好ましくは20℃以下、より好ましくは0〜10℃で反応させる。水はオキシ塩化リンに対して過剰に加えるが、極端に多いと反応溶液が不均一になる恐れがあるため3〜30モル程度加えることが好ましい。
【0096】
また本反応においても、生成する塩化水素を回収するためにアミン化合物を加える。アミン化合物は(i)の反応と同様の理由でトリエチルアミンを使用するのが好ましく、第一滴下と第二滴下のアミン総量がオキシ塩化リン1モルに対して2.5〜2.9倍モル量になるように加える。また、水とアミンは順次添加してもよく、水とアミンの混合液を滴下してもよい。
【0097】
この段階で、目的生成物であるリン酸モノエステルが生成し、副生した塩化水素と反応したアミンの塩が含まれている。また、アミンの第一滴下工程の(メタ)アクリル酸モノエステルを(メタ)アクリル酸ジエステルとの混合物として反応させた場合は、(メタ)アクリル酸ジエステルも不純物として混入している。さらに、アミンの総量を化学量論量(オキシ塩化リンの3倍モル量)未満にしたため、未反応のリン酸モノエステル塩化物が微量残存している。
【0098】
尚、例えば、前記例示したモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステル等を用いて、上記工程に従ってリン酸モノエステルを製造した場合には、目的生成物中、(メタ)アクリル酸エステル部分は1つとは限らず、その場合、生成物は(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステルであり、前記リン酸モノエステルと同様、未反応の(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物が微量残存することになる。
【0099】
本発明者らは鋭意検討した結果、このように前記リン酸モノエステル塩化物を微量存在させた状態で、下記工程のようにしてアミン塩を除去する精製工程を行うと、イオン性物質の生成を抑えて保存安定性のよいリン酸モノエステルが得られることを見出した。尚、生成物が、前記(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステルの場合も同様に取り扱うことができる。
【0100】
(C)リン酸モノエステルの精製工程
(i)、(ii)の工程で得られる反応混合物には、リン酸モノエステルとアルカリ金属やアミンとの塩、アミン塩酸塩、塩酸、リン酸等のイオン性物質が含まれており、特にリン酸モノエステルの塩が最も多量に存在することが判明した。
【0101】
イオン性物質を除去する場合、反応が進行するにつれて析出するアミン塩については、加水分解後に濾過で取り除くことができるが、シリカゲル等を担体としたカラムクロマトグラフィーによる精製分離や、活性炭やモレキュラーシーブ等の吸着剤を作用させる方法もある。これらの精製操作を繰り返したり、組み合わせたりして、イオン性物質を可及的に除去し、電気伝導度を0.5mS/cm以下にすることが出来る。しかしながら、イオン性物質を多く含んだ反応混合物から該イオン性物質を除去する最も簡便で経済的な方法は、水で洗浄してイオン性物質を水層に抽出除去する方法である。例えば、エーテルやトルエンなどの有機溶剤にリン酸モノエステルを溶解し、該溶液を蒸留水とともに攪拌、振騰してイオン性物質を水層に抽出して除去する方法が一般的である。また、類似の方法として、反応混合物を大過剰の水と共に長時間攪拌して分散させ、該懸濁液に有機溶剤を加えて、リン酸モノエステルだけを有機層に抽出する方法がある。このように、水を用いてイオン性物質を抽出除去する場合、低濃度の強酸の水溶液で同様な抽出操作を行った後、さらに蒸留水で洗浄すると効果的である。この理由は、リン酸モノエステル中の陽イオンはリン酸モノエステルのリン酸基の塩として取り込まれており、強酸を加えることにより該陽イオンが解離して水層に移行しやすくなるためと推定している。但しこの方法では、用いた強酸を後で十分除去しなければならないが、塩酸のように常温で気体の酸を用いると、有機溶剤を減圧で留去する際に塩酸も除去することが出来る。
【0102】
しかしながら、上記方法に従い、反応混合物に対し、酸の水溶液による洗浄を行ってアミン塩を水層に抽出除去し、リン酸モノエステルを有機層に単離し((メタ)アクリル酸ジエステルが存在する場合は同様に有機層に移行する)、次いで、添加した酸および系に含まれるイオン性物質を有機層から除去するために水性溶媒による洗浄を行うと、この系は白濁(乳化に近い)して層分離することが困難であった。
【0103】
本発明者らは、水性溶媒による洗浄を食塩水のような電解質水溶液で行うと、容易に層分離して洗浄を行うことができることを見出したが、さらに検討した結果、電解質水溶液中に存在する電解質の陽イオンがリン酸モノエステルの存在する有機層に移行してイオン性物質が生成することを発見した。
【0104】
このイオン性物質はリン酸モノエステルと電解質の陽イオンからなる塩(以後リン酸モノエステルの塩と称する)が主成分であるが、前述のように最終生成物であるリン酸モノエステルの電気伝導度を上げて保存安定性を悪化させる原因になる。本発明者らは鋭意検討した結果、電解質水溶液洗浄時の系のpHが3.0以下、好ましくは1.5以下であるとリン酸モノエステルの塩が生成しにくくなることを見出し、その手段として前述のようにアミン第二滴下工程でリン酸モノエステル塩化物を全て加水分解せずに残存させることが有効であることを見出した。この原理は、洗浄時にリン酸モノエステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素によって系のpHが下がり、陽イオンの取り込みを抑制してリン酸モノエステルの塩の生成を防いでいることを見出した。尚、pHを下げるためには新たに酸を加えることも考えられるが、それではイオン性物質が増えてしまうので望ましくない。また、この方法で生じる塩化水素は極微量であり、目的生成物にそれが残存しても問題とならないことを認めたのである。
【0105】
本発明者らは、このような酸の水溶液、電解質水溶液による洗浄によって、イオン性物質の生成を低減してアミン塩を抽出除去できることを見出したが、洗浄液の濃度があまり高いと、酸や電解質が残留しやすくなってイオン性物質の増加の原因になる。また、水、特に酸の水溶液中ではリン酸モノエステルが加水分解しやすくなるので、塩酸などの酸の水溶液は0.1〜2.0規定、食塩水などの電解質水溶液は0.1〜5重量%の濃度で用いるのが好ましい。また洗浄回数が少ないと洗浄が不十分であるが、多すぎるとイオン性物質の増加の原因となるので、洗浄は2〜3回まで行うのが好ましい。
【0106】
また、残存させたリン酸モノエステル塩化物は、酸と電解質の水溶液による洗浄工程においてほぼ全量が加水分解されたリン酸モノエステルに転化すると考えられるが、リン酸モノエステル塩化物が残った場合はさらに水で加水分解する工程を設けることがある。なお、ここでの加水分解は、前述のように精製工程を省くためにアミンを用いない。
【0107】
さらに酸と電解質の水溶液による洗浄工程の後、シリカゲル等を担体としたカラムクロマトグラフィーによる精製分離や、活性炭やモレキュラーシーブ等の吸着剤を作用させるなどして必要により脱色処理を行ってもよい。これらの精製操作を繰り返したり、組み合わせたりして、455nmでの光透過率を90%以上にすることもできる。また、最終生成物のリン酸モノエステルに(メタ)アクリル酸ジエステルが含まれる場合は、前述のステップ(IV)に従って(メタ)アクリル酸ジエステルを除去することにより、純度の高いリン酸モノエステルが得られる。
【0108】
最終生成物のリン酸モノエステルが得られた後で、有機溶媒を留去する。この留去の際、必要であればBHT等の重合禁止剤を添加する。留去は加熱、減圧、加熱と減圧の併用などいずれの方法を用いてもよいが、リン酸モノエステルの分解を抑えて効率良く留去が出来ることから、常温において減圧下で溶媒留去するのが好ましい。また、必要に応じてこの留去の最終段階で減圧のまま40〜60℃で留去することにより、加水分解で副生した塩化水素を短時間で除去することが出来る。
【0109】
また、リン酸モノエステルに含まれる水分は、溶媒を留去後に減圧下で乾燥させたり、乾燥した気体を導入するなどによって取り除かれる。一般的な脱水操作は、溶媒を留去する前に硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブ等を投入して行うが、本発明者らはリン酸モノエステルを合成した段階でこれらの乾燥剤を使用すると、イオン性物質が生成する原因になることを発見したため、この方法は望ましくない。
【0110】
本発明にかかるリン酸モノエステルの製造方法は、従来の方法よりもリン酸モノエステルの合成に必要な(メタ)アクリル酸モノエステルの生成率が高く、不必要な(メタ)アクリル酸ジエステルの生成率は下がる。反応するジオール量が減る場合は、未反応のジオールを回収して繰り返し同様に反応させることにより、1回目の反応で仕込んだジオールから生成するリン酸モノエステルの収率を上げることができる。工業的には、回収したジオールを再び(メタ)アクリル酸エステル化するというサイクルを何回か繰り返し、その都度得られたモノエステルとジエステルの混合物を集めて、次のリン酸エステル化を行うとより効果的である。
【0111】
また、(メタ)アクリル酸ジエステルを除去してリン酸モノエステルを単離するステップ(IV)の工程において、例えばヘキサン等でジエステルを抽出除去して精製する際に、抽出に使用する溶剤の量や抽出回数を低減することができ、非常に経済的にまた効率よく純度の高いリン酸モノエステルを得ることができる。
【0112】
本発明のリン酸モノマーは接着剤組成物、特に歯科用重合性組成物の主剤として有用で、これ単独で歯科用接着性プライマーまたは歯科用接着剤として用いられることもあるが、粘度の調整あるいは硬化物の機械的強度の向上やその他の物性の調節のために、該リン酸モノマーと共重合しうる重合性単量体と混合した歯科用重合性組成物として用いることもできる。また、リン酸残基と重合性基を併有する機能が期待される他の歯科用材料にも使用される。さらに、各種の工業用着剤の成分としても使用される。
【0113】
かかる重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく用いられるが、通常、(メタ)アクリレート系モノマーが好適に用いられる。好適な(メタ)アクリレート系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸無水物等の単官能性(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート(通称Bis−GMA)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2モルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加物(通称UDMA)等の二官能性(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の三官能性(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート2モルと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加物等の四官能性(メタ)アクリレートがあげられる。
【0114】
本発明の歯科用重合性組成物においては、目的に応じて公知の重合開始剤がさらに添加されることがある。例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の加熱重合触媒、常温重合(化学重合)を行う場合には、ベンゾイルパーオキサイド/アミン系、有機スルフィン酸(またはその塩)/アミン/過酸化物系等の酸化還元系等が好適に用いられる。
【0115】
また、光重合触媒としては、例えば、α−ジケトン/還元剤の系や、ベンジルジメチルケタールやアシルホスフィンオキサイド等の紫外線重合触媒があげられる。
【0116】
一方、重合開始剤を配合しない歯科用重合性組成物として提供されることもある。例えば、齲蝕を除去して形成した窩洞面に本発明の重合性組成物をプライマーとして塗布し、その上にコンポジットレジンを窩洞に充填し重合硬化させて治療を行う方法では、かかる重合性組成物に重合開始剤が含まれてなくても、コンポジットレジンに含まれる重合開始剤が組成物層に移行するか、またはコンポジットレジンが重合する際に生じたラジカルが組成物層に移行して、重合性組成物が重合硬化して接着機能を発揮することが出来る。
【0117】
本発明のリン酸モノマーが配合された歯科用重合性組成物の用途は、歯科用接着性プライマー、歯科用接着剤、歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、歯科用コンポジットレジン、義歯床用レジン等を含む。
【0118】
歯科用接着剤の例をあげれば、本発明にかかるリン酸モノマー、(メタ)アクリレート系モノマー、および公知の重合開始剤とからなる液体状の重合性組成物である。水と親水性の(メタ)アクリレート系モノマーとが配合された均一な組成物は、特に象牙質に対して優れた接着性を発揮するセルフエッチング型のプライマーとして有用である。
【0119】
また、歯科用コンポジットやセメントとして用いる場合は、本発明のリン酸モノマーを含有するモノマー組成物に、さらにフィラーが配合された組成物が好ましい。
【0120】
かかるフィラーとしては、シリカや、シリカを主成分とするガラス(バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等)、アルミナなどの無機フィラー、およびポリメチルメタクリレート等の有機物の粉末や有機無機複合フィラー等があげられる。
【0121】
これらの組成物においては、予めモノマー組成物(液状)とフィラー(粉末)が混合されたペースト状の組成物とするか、フィラーとモノマー組成物のそれぞれに酸化剤と還元剤を配合し、使用する直前に両者を混合練和して触媒を活性化して化学重合する形態とすることも可能である。
【0122】
本発明のリン酸モノマーを用いた歯科用重合性組成物は、必要に応じて、溶剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、着色剤、抗菌剤等がさらに添加されることがある。また、本発明のリン酸モノマーを含む組成物は、歯科用途の他、骨セメント、建築用接着剤、陶磁器用接着剤、封止材などとしても有用である。
【実施例】
【0123】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、各実施例、比較例において使用した各種ジオール化合物、アミン化合物は、それぞれ適宜「ジオール」、「アミン」と略記した。実施例中の諸量の測定方法を以下にまとめた。
【0124】
(1)電気伝導度の測定
リン酸モノエステルの1gに、メタノール(和光純薬特級)を加え、10重量%の希釈液とし、25℃に維持して電気伝導度を測定した。測定機器はデジタル伝導率計CM−117型(京都電子工業製)を用いた。
【0125】
(2)リン酸モノエステルの光透過率
45℃で14日間保存したリン酸モノエステルを光路長10mmの分光光度計用ガラスセルに適量入れ、可視紫外分光光度計UV−2400型((株)島津製作所製)により、25℃にて455nmにおける光透過率%を測定した。
【0126】
(3)ジオール中のカルボニル化合物の定量(カルボニル価)
ジオール40gを精秤し、これをトルエン:中性エタノール=1:1の体積比である混合溶媒160ml中に加えて攪拌溶解し、この溶液に5wt/v%塩酸ヒドロキシルアミン溶液10mlを加え、1時間放置後に電位差自動滴定装置AT−410型(京都電子工業(株)製)を用いて1/10Nアルコール性KOHで滴定を行い、カルボニル基の数としての該ジオールに対するモル比(%)を下記の式により求めた。
[(A−B)×f×M]/(100×S)=カルボニル化合物(カルボニル基の数として)の対ジオールモル比(%)
A:サンプルの滴定量(ml)
B:ブランクの滴定量(ml)
S:試料採取量(g)
M:ジオールの分子量
f:1/10N アルコール性KOHファクター
【0127】
(4)歯科用接着剤の色調適合性の評価
150μmの幅の溝を有する歯科充填用コンポジットレジン「クリアフィルAP−X」((株)クラレ製)の硬化物(以下「レジン硬化物」と称する)を作製し、リン酸モノエステルを配合した歯科用接着剤を前記の歯科用レジン硬化物の溝に充填する。溝の上から歯科用可視光線照射器「ライテルII」(ウシオ電機(株)製)を用いて10秒間光を照射して歯科用接着剤を硬化させた。蛍光灯下約1000Lxにおいてレジン硬化物に対し、歯科用接着剤の硬化物が目立つかどうかを目視で確認し、色調適合性を良、不良の2段階で評価した。
【0128】
(5)歯科用接着剤のゲル化日数
リン酸モノエステルを配合した歯科用接着剤5gをガラス瓶に入れ、25℃の室内環境下で保存して毎日観察した。時間の経過とともにゲル状の透明な不純物が細かい粒子となって析出したものがあったが、目視でこの様な不溶物が認められた時点をゲル化までの日数とした。
【0129】
(6)象牙質接着力の測定
下記に示すエタノール溶液を調製した。
成分(重量部)
エタノール(100)
N,N−ジエタノール−p−トルイジン(2)
ベンゼンスルフィン酸ナトリウム(4)
【0130】
注水下で#1000の研磨紙で研磨した牛歯象牙質面に対して、直径3mmの穴の空いたテープを貼って接着面を設定した。40%リン酸水溶液を塗布して20秒放置した後水洗し、リン酸モノエステルを配合した歯科用接着剤および上記のエタノール溶液を等量混和して被着面に塗布し、歯科用エアシリンジで軽くエアブローした。
【0131】
ライテルIIを用いて可視光線を20秒照射して光重合を行った。その上に歯科用コンポジットレジン「AP−X」を1mmの厚さで積層して、ライテルIIを用いて可視光線を40秒照射して光硬化させた。硬化したコンポジットレジン表面の上にステンレス棒を歯科用接着性セメント「パナビア21」((株)クラレ製)で接着し、接着試験片を作成した。接着試験片は37℃水中に24時間浸漬後、インストロン万能試験機(クロスヘッドスピード速度2mm/min)で引張接着強度を測定し、該接着剤の象牙質への接着力とした。引張接着強度の値は5個の試験片の平均値である。
【0132】
実施例1−1(10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP))の製造)
オキシ塩化リン18.4g(0.12モル)とジエチルエーテル100mlの混合溶液を、メカニカルスターラーと滴下漏斗をセットしたセパラブルフラスコに入れ、−40〜−30℃(内部温度)に冷却した。10−ヒドロキシデシルメタクリレート24.2g(0.1モル)とトリエチルアミン12.1g(0.12モル)とジエチルエーテル100mlの混合溶液を滴下漏斗に入れ、攪拌しながら上記の混合溶液に1時間かけて滴下した(第一滴下工程)。
【0133】
反応混合物を1時間攪拌しながら内部温度を0℃に上げ、さらに蒸留水6.3g(0.35モル)とトリエチルアミン20.2g(0.2モル)の混合溶液を攪拌しながら滴下した(第二滴下工程)。滴下後さらに2時間攪拌し、析出しているトリエチルアミンの塩酸塩をガラスフィルターで濾別し、濾液(有機層)を水で2回、1%食塩水で1回洗浄した。
【0134】
有機層を分離後、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルを100mg添加し、エーテルを減圧留去すると油状物が得られた。該油状物にn−ヘキサン100mlを加えて洗浄した後、ヘキサン不溶分中に溶解したヘキサンを減圧留去し、目的とするリン酸モノエステル(10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート;以下、MDPという)が25g得られた。
【0135】
この油状生成物のHPLC分析(カラム:CAPCELL PAK C18−SG120、移動相:水/メタノール=2/8(0.005M リン酸含有)、検出波長254nm)を行うと、MDPの純度は93.5%であった。
【0136】
該MDPの1gにメタノール(和光純薬特級)を加えて10重量%の希釈液とし、25℃に維持して電気伝導度を測定したところ、0.308mS/cmであった。
【0137】
実施例1−2〜1−4、比較例1−1〜1−3
上述した第一滴下工程と第二滴下工程のオキシ塩化リンとトリエチルアミンを、それぞれ表1に記載の使用量で用いた以外は、実施例1−1と同様にしてMDPを製造した。得られたMDPの、HPLCによる純度と電気伝導度を表1にまとめた。
【0138】
実施例1−5
比較例1−1の方法で得られた電気伝導度の高いMDPの10gに、蒸留水200mlを加えて激しく攪拌振蕩するとコロイド状の懸濁液となった。この液を室温で10時間攪拌した後、該懸濁液にジエチルエーテルを加えてMDPをエーテル層に抽出した。エーテルを減圧留去するとMDPが約9g回収された。この操作を2回繰り返してイオン性物質を除去すると、電気伝導度が0.356mS/cmのMDPが得られた。
【0139】
実施例1−6
実施例1−1と同様な方法で、ジエチルエーテルを溶媒とし、10−ヒドロキシデシルメタクリレート48.4g(0.2モル)とオキシ塩化リン36.8g(0.24モル)を、トリエチルアミン24.3g(0.24モル)を用いて反応させた(第一滴下)。さらに引き続き、蒸留水12.6g(0.7モル)とトリエチルアミン40.5g(0.4モル)を用いて第二滴下反応を行った。
【0140】
反応混合物を0.4規定の希塩酸水溶液にあけて攪拌し、エーテルをさらに加えて有機層を分離した。分液漏斗を用いて、有機層をさらに0.4規定の希塩酸水溶液で3回洗浄、続いて、1%食塩水で2回洗浄した。
【0141】
有機層にイオン交換水200mlを加え、室温で12時間攪拌して未反応の少量のP−Cl化合物をP−OHに変換した(加水分解)。有機層に活性炭5g(和光純薬)を加えて脱色した後、エーテルを減圧留去すると目的とするリン酸モノエステル(MDP)が得られた。この油状生成物のHPLC分析によるMDPの純度は94.0%、電気伝導度は0.245mS/cmであった。
【0142】
比較例1−4
実施例1−6と同様なスケールと操作で、第二滴下反応までを行った。滴下終了後、さらにこの状態で2時間攪拌した。トリエチルアミンの塩酸塩を濾紙で吸引濾過し、分液漏斗を用いて濾液を水で洗浄した(200mlで3回)。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水乾燥しエーテルを減圧留去すると、MDPを主成分とするリン酸モノエステルが得られた。得られた生成物の電気伝導度は、0.632mS/cmであった。
【0143】
これらのリン酸モノエステルを用いて以下の歯科用接着剤を調製した。即ち、2、2−ビス〔メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(分子内にエトキシ基が平均2.6個存在するもので、以下、D−2.6Eという)50重量部、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(以下、NPGという)10重量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15重量部、実施例1−1〜1−6および比較例1−1〜1−4で製造したリン酸モノエステル(MDP)25重量部、重合触媒として過酸化ベンゾイル(BPO)1.5重量部、カンファーキノン0.5重量部、安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.02重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.01重量部を混合して溶解し、歯科用接着剤を得た。これらの歯科用接着剤について前記方法に従い、ゲル化日数を求めた。
【0144】
また、該接着剤の象牙質への接着力を前記方法により測定した。本試験では、リン酸モノエステルが配合された歯科用接着剤を45℃で30日間保存した後に接着試験を行い、該接着剤の調製直後(保存前)の接着力と比較した。結果をあわせて表2に示した。
【0145】
表2から明らかなように、歯科用接着剤に配合したMDPの電気伝導度とゲル化が生じるまでの日数には著しい相関が認められ、電気伝導度が0.5mS/cm以下のMDPが配合された歯科用接着剤の保存安定性は優れていた。また、電気伝導度が低いほど、歯科用接着剤の保存後の接着力の低下度も少なかった。
【0146】
【表1】

【0147】
【表2】

【0148】
実施例2−1(MDPの製造)
(1)原料のモノヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物(10−メタクリロイルオキシデカン−1−オール)の合成
メタクリル酸21.8g(0.25モル)と1,10−デカンジオール52.9g(0.30モル)を、80℃で反応させてエステルを合成した。この際、触媒としてp−トルエンスルホン酸3.6g、重合禁止剤として2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2gを加えた。
【0149】
濾過およびアルカリ水溶液による洗浄を行い、未反応のジオールとメタクリル酸、および触媒の酸を除去した。溶媒留去後、メタクリル酸モノエステル(=リン酸モノエステル合成の原料となる10−メタクリロイルオキシデカン−1−オール)と副生したメタクリル酸ジエステルが、混合物として51.5g得られた。液体クロマトグラフィーで上記エステル混合物を同定した結果、モノエステル71モル%、ジエステル29モル%であった。
【0150】
(2)−P(O)Cl2基を有する化合物の合成(アミンの第一滴下工程)
上記エステル混合物51.5g(10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールを0.14モル含有)とトリエチルアミン17.1g(0.17モル)をジエチルエーテル100mlに溶解し、滴下ロートに入れて反応容器に接続した。反応容器内にオキシ塩化リン25.8g(0.17モル)をジエチルエーテル100mlに溶解して入れ、内部温度−40℃まで冷却した。オキシ塩化リン溶液を激しく攪拌し、滴下ロート内の10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールとトリエチルアミンの溶液をゆっくり1時間かけてオキシ塩化リン溶液に滴下した。滴下終了後、−20℃でさらに30分間反応液を攪拌した。
【0151】
(3)リン酸モノエステル塩化物の加水分解によるリン酸モノエステルの合成(アミンの第二滴下工程)
(2)工程で得た反応液を0℃まで昇温してさらに1時間攪拌し、蒸留水15.3g(0.85モル)とトリエチルアミン28.5g(0.28モル。第一滴下工程で使用した量と合計してアミン総量は0.45モルになり、対オキシ塩化リン2.65倍モル量)の混合液を滴下し、0℃に保って30分間ゆっくり加水分解を行った。
【0152】
(4)洗浄工程
析出してきたトリエチルアミンの塩酸塩を0.4N塩酸100mlで3回洗浄して抽出除去し、さらに2%食塩水100mlで2回洗浄した。
【0153】
(5)精製工程
水を抽出後の有機層に活性炭5g((株)和光純薬工業製)を加えて1時間攪拌して脱色し、濾紙で活性炭を取り除いた有機層に重合禁止剤としてBHTを100mg添加して減圧留去すると、粘度の高い液体残渣約61.0gを得た。液体クロマトグラフィーで上記液体を同定した結果、該液体は10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールのリン酸モノエステルであるMDPと1,10−デカンジオールのメタクリル酸ジエステルの混合物であった。
【0154】
該液体に含まれるメタクリル酸ジエステルを、n−ヘキサン180mlで抽出した。さらに減圧乾燥して水分を除去し、43.6gの液状の化合物を得た。液体クロマトグラフィーによる測定を行った結果、該化合物は純度97.5%のMDPであることを確認した。得られたMDPの電気伝導度を測定したところ、0.412mS/cmであった。
【0155】
実施例2−2
実施例2−1と同様のスケールで(4)の洗浄工程までを行った後、有機層に蒸留水200mlを加え、室温で12時間攪拌した(残存リン酸モノエステル塩化物の加水分解)。次いで実施例2−1の(5)以降の精製工程を同様に行ってMDPを合成したところ、MDPの電気伝導度は0.245mS/cmであった。
【0156】
実施例2−3、比較例2−1,2−2
オキシ塩化リンに対するトリエチルアミンの総滴下量を表3に記載の使用量で使用した以外は、実施例2−2と同様の操作でMDPを合成した。得られたMDPの電気伝導度を表3にまとめた。
【0157】
さらに、これらのMDPを用いて以下の歯科用接着剤を調製した。すなわち、D−2.6E50重量部、NPG30重量部、合成したMDP20重量部、重合触媒としてBPO1重量部、安定剤としてBHT0.05重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部を混合して溶解し、歯科用接着剤を得た。これら各々の歯科用接着剤を用いて、前記方法に従い、ゲル化日数を求め、表3に結果を示した。
【0158】
また、該接着剤の象牙質への接着力を前記の方法で行った。本試験では、リン酸モノエステルが配合された歯科用接着剤を50℃で30日間保存した後に接着試験を行い、該接着剤の調製直後(保存前)の接着力と比較した。その結果を表3に示した。
【0159】
【表3】

【0160】
表3から明らかなように、アミンの総滴下量に対するMDPの電気伝導度、MDPを配合した接着性組成物のゲル化が生じるまでの日数、さらに象牙質接着力(特に50℃30日保存後)には著しい相関が認められ、電気伝導度が0.5mS/cm以下、特に実施例2−2のように0.3mS/cm以下のMDPの保存安定性が優れていることが分かる。
【0161】
実施例3−1(MDPの製造)
(1)(メタ)アクリル酸モノエステル(10−メタクリロイルオキシデカン−1−オール)の合成
メタクリル酸71.7g(0.83モル)とカルボニル価0.03%の1,10−デカンジオール174.0g(1.00モル、対メタクリル酸1.2倍モル量)を三ツ口フラスコに入れ、触媒としてp−トルエンスルホン酸12g、重合禁止剤として2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.5gを加えた。80℃まで加熱して均一溶液とし、フラスコ内の混合物を液体クロマトグラフィー(カラム:ジーエル サイエンス社製 Unisil QC18、以下同様)で逐次追跡した。
【0162】
フラスコ内を徐々に減圧し、酸素を吹き込んで攪拌しながら80℃でエステル化反応を行って生成水を留出させた。メタクリル酸が50%反応した時、6.7kPaまで減圧されていた。メタクリル酸が62%反応した時に、10%炭酸水素ナトリウム水溶液750mlで中和して反応を止め、室温まで冷やしてn−ヘキサン200mlを加えて希釈した。この時折出した未反応ジオール100.4g(0.58モル)を濾別回収した。濾液を2%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水層を除去した後の有機層に活性炭100mg、無水硫酸ナトリウム14gを投入し室温で12時間放置後濾過した。
【0163】
回収した濾液にMEHQ50mgを加えて、30℃以下でn−ヘキサンを減圧留去し、ジオールのメタクリル酸モノエステルとメタクリル酸ジエステルの混合物108.7gを得た。液体クロマトグラフィーで上記エステル混合物を同定した結果、モノエステル78モル%、ジエステル22モル%であり(モノエステル/ジエステル=3.5)、未反応ジオールは痕跡程度しか含まれていなかった。
【0164】
(2)−P(O)Cl2基を有する化合物の合成(アミン第一滴下工程)
上記エステル混合物108.7g(10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールを0.33モル含有)とトリエチルアミン39.9g(0.40モル)をジエチルエーテル120mlに溶解し、滴下ロートに入れて反応容器に接続した。反応容器内にオキシ塩化リン60.4g(0.40モル)をジエチルエーテル120mlに溶解して入れ、内部温度−40℃まで冷却した。オキシ塩化リン溶液を激しく攪拌し、滴下ロート内のエステル混合物とトリエチルアミンの溶液を、ゆっくり1時間かけてオキシ塩化リン溶液に滴下した。滴下終了後、−20℃でさらに30分間反応液を攪拌した。
【0165】
(3)リン酸モノエステル塩化物の加水分解によるリン酸モノエステルの合成(アミン第二滴下工程)
(2)工程で得た反応液を0℃まで昇温してさらに1時間攪拌し、蒸留水30g(1.67モル)とトリエチルアミン65.8g(0.65モル。第一滴下工程で使用した量と合計してアミン総量は1.06モルになり、対オキシ塩化リン2.65倍モル量)の混合液を滴下し、0℃に保って30分間ゆっくり加水分解を行った。
【0166】
(4)アミン塩の抽出除去工程
析出してきたトリエチルアミンの塩酸塩を0.4N塩酸100mlで3回洗浄して抽出除去し、さらに2%食塩水100mlで2回洗浄した。その後、有機層に蒸留水200mlを加え、室温で12時間攪拌した(残存リン酸モノエステル塩化物の加水分解)。
【0167】
(5)精製工程
水を抽出後の有機層に活性炭100mgを加えて、室温で12時間放置した。活性炭を濾過で取り除いた有機層に重合禁止剤としてBHTを100mg添加して減圧留去すると、粘度の高い液体残渣約131.1gが得られた。液体クロマトグラフィーで上記液体を同定した結果、該液体はリン酸モノエステル(MDP)と1,10−デカンジオールのメタクリル酸ジエステルの混合物であった。また、MDP/メタクリル酸ジエステルのモル比は3.5であり、前述のメタクリル酸モノエステル/メタクリル酸ジエステルのモル比と等しく、リン酸エステル化によってメタクリル酸モノエステルがすべてMDPに転化したことが分かった。
【0168】
該液体に含まれるメタクリル酸ジエステルを、n−ヘキサン400mlで抽出した。さらに減圧乾燥して水分を除去し、102.0gの液状の化合物を得た。液体クロマトグラフィーによる測定を行った結果、該化合物は純度97.5%のMDPであることを確認した。
【0169】
また副生したジオールのメタクリル酸ジエステルの総量は29.1g(0.09モル)であった。
【0170】
得られたMDPの電気伝導度を測定したところ、0.287mS/cmであった。またMDPの光透過率は97.5%であった。
【0171】
実施例3−2
カルボニル価0.07モル%の1,10−デカンジオールを使用し、メタクリル酸の反応率を85%、オキシ塩化リンに対するトリエチルアミンの総滴下量を2.83倍モル量にする以外は、実施例3−1と同様の条件でMDPを合成した。
【0172】
比較例3−1
カルボニル価0.14モル%の1,10−デカンジオールを使用し、メタクリル酸の反応率を98%、オキシ塩化リンに対するトリエチルアミンの総滴下量を3.23倍モル量にする以外は、実施例3−1と同様の条件でMDPを合成した。
【0173】
また、実施例3−1、3−2及び比較例3−1で合成したMDPを使用した歯科用接着剤について、前述の方法に従ってゲル化日数、象牙質接着力、および色調適合性を評価し、表5に記載した。
【0174】
尚、ゲル化日数、象牙質接着力の評価では、以下の歯科用接着剤を調製して用いた。即ち、D−2.6E50重量部、NPG30重量部、リン酸モノエステル(MDP)20重量部、BPO1重量部、BHT0.05重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部を混合して溶解し、歯科用接着剤を得た。また、色調適合性の評価では、表4に従って調製した歯科用接着剤を用いた。以後、これら項目の評価で用いた歯科用接着剤も同様にして調製した。
【0175】
【表4】

【0176】
【表5】

【0177】
表5から明らかなように、実施例3−1、3−2は、比較例3−1が示す従来の問題点(1)リン酸モノエステルの収率の向上、(2)着色の低減および(3)保存安定性の向上を改善している。
【0178】
実施例3−3、比較例3−2、3−3
メタクリル酸を表6に記載の反応率で反応させた以外は、実施例3−1と同様の操作でMDPを合成した。MDP/ジエステルのモル比、MDP生成量、MDP純度、ジエステル副生量、並びに未反応ジオール量について、表6にまとめた。
【0179】
比較例3−4
メタクリル酸に対してジオールを0.6倍モル量反応させ、メタクリル酸反応率を83%とした以外は、実施例3−1と同様の操作でMDPを合成した。MDP/ジエステルのモル比、MDP生成量、MDP純度、ジエステル副生量、未反応ジオール量について、表6にまとめた。
【0180】
実施例3−4
メタクリル酸に対してジオールを2.5倍モル量反応させ、メタクリル酸反応率が89%とする以外は、実施例3−1と同様にしてメタクリル酸エステル化反応を行い、モノエステルとジエステルの混合物を得た。さらに回収した未反応ジオールに対して、1回目の合成と同様にジオールがメタクリル酸に対して2.5倍モル量になるようにメタクリル酸を仕込み、メタクリル酸の反応率89%で反応させた。
【0181】
2回のメタクリル酸エステル化反応で得たモノエステルとジエステルの混合物を合わせて、実施例3−1と同様の操作でMDPを合成した。MDP/ジエステルのモル比、MDP生成量、MDP純度、ジエステル副生量、未反応ジオール量について、表6にまとめた。
【0182】
【表6】

【0183】
実施例3−1、3−3、比較例3−2、3−3はジオール/メタクリル酸の仕込量が等しく、メタクリル酸の反応率を変えたものである。反応率の低い比較例3−2は、MDPの純度は高いが生成量が少なすぎ、逆に反応率の高い比較例3−3は、実施例3−3とMDPの生成量は変わらずに不要なジエステルのみが増えているため、これらは望ましくない。よって、実施例3−1,3−3のようにメタクリル酸の反応率を60〜90%にすることによってMDPの収率を向上させ、ジエステルの副生量を抑制するのが望ましい。
【0184】
また、比較例3−4はジオールの対メタクリル酸仕込量が少ない。この場合はジオールのほとんどが反応するが、ジエステルの生成に使用されるジオールが増えるため、やはり望ましくない。これに対し、ジオールの対メタクリル酸仕込量が多い実施例3−4(これはメタクリル酸エステル化を2回行った)では、MDP生成量が増えてジエステル量が減少しており、望ましい結果となった。
【0185】
さらに、ジエステルの副生量が少ない(MDP/ジエステル比が大きい)ほど、抽出操作の容易さから高純度のMDPを得ることが出来た。
【0186】
これらのことから、ジオールをメタクリル酸に対して等量からやや過剰に仕込み、メタクリル酸の反応率を60〜90%にすることによって、高純度のリン酸モノエステル(MDP)を高収率で得ることが出来る。
【0187】
実施例3−5、比較例3−5
表7に示すように、実施例3−1とはカルボニル価の異なるジオールを用いて、実施例3−1と同様の操作でMDPを合成した。MDPの光透過率、および前記のようにしてMDPを用いて調合した歯科用接着剤の色調適合性を評価し、これらの結果を表7にまとめた。
【0188】
実施例3−6
光透過率が低かった比較例3−5のMDPにつき、活性炭による精製を行った。比較例3−5のMDPをエタノール中に約10重量%溶解し、活性炭素粉末をエタノール溶液に対して5重量%分散させて攪拌後、活性炭素粉末を吸引濾過により濾別し、濾液のエタノールをロータリーエバポレーターにより留去して油状のMDPを得た。MDPの光透過率、および前記のようにしてMDPを用いて調合した歯科用接着剤の色調適合性を評価し、結果を表7にまとめた。
【0189】
実施例3−7
光透過率が低かった比較例3−5のMDPにつき、カラムクロマトグラフィーによる精製を行った。逆相クロマトグラフ用担体としてWakoge1 40C18((株)和光純薬工業製)を用い、溶離液として水/メタノール=3/7を用いて比較例3−5のMDPを処理し、ロータリーエバポレーターにより溶媒を留去して油状のMDPを得た。MDPの光透過率、および前記のようにしてMDPを用いて調合した歯科用接着剤の色調適合性を評価し、結果を表7にまとめた。
【0190】
【表7】

【0191】
ジオールのカルボニル価が0.1モル%以上である比較例3−5では、MDPの光透過率は90%以下であり、さらにこれを用いて調合した歯科用接着剤の色調適合性は満足ゆくものではなかった。これに対してカルボニル価の低いジオールからMDPを合成した実施例3−1、3−5では、歯科用接着剤の色調適合性は良好であった。
【0192】
また、比較例3−5のように光透過率の高いMDPでも、活性炭(実施例3−6)、カラムクロマトグラフィー(実施例3−7)などを用いて精製することによって、MDPの光透過率が上がり色調適合性の良い接着性組成物が得られることが見出された。しかし工程の簡略化および精製にかかるコストの削減を考慮すると、着色のないMDP組成物を得るにはカルボニル価の低いジオールを使用して合成するのが好ましい。
【0193】
実施例3−8
実施例3−1と同様の操作で(4)の洗浄工程までを行った後、残存リン酸モノエステル塩化物の加水分解を行わずに(5)以降の精製工程を同様に行ってMDPを合成した。MDPの電気伝導度、MDPを用いた歯科用接着剤のゲル化までの日数、該接着剤による調製直後(保存前)と50℃で30日間保存した後の象牙質接着力を表8にまとめた。
【0194】
実施例3−9、比較例3−6、3−7
オキシ塩化リンに対するトリエチルアミンの総滴下量を表8に記載の使用量で使用した以外は、実施例3−1と同様の操作でMDPを合成した。MDPの電気伝導度、MDPを用いた歯科用接着剤のゲル化までの日数、該接着剤による調製直後(保存前)と50℃で30日間保存した後の象牙質接着力を表8にまとめた。
【0195】
【表8】

【0196】
表8から明らかなように、アミンの総滴下量に対するMDPの電気伝導度、MDPを配合した歯科用接着剤のゲル化が生じるまでの日数、さらに象牙質接着力(特に50℃30日保存後)には著しい相関が認められ、電気伝導度が0.5mS/cm以下、特に実施例3−1のように0.3mS/cm以下のMDPの保存安定性が優れていることが分かる。また同じアミン滴下量の実施例3−1、3−8を比較すると、残存リン酸モノエステル塩化物の加水分解を行った実施例3−1は、さらに保存安定性の良いMDPが得られることが分かる。
【0197】
実施例4−1(6−メタクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート(表9の化合物1a)の製造)
(1)(メタ)アクリル酸モノエステル(6−メタクリロイルオキシヘキサン−1−オール)の合成
メタクリル酸71.7g(0.83モル)とカルボニル価0.03モル%の1,6−ヘキサンジオール(表10の化合物6a)118.18g(1.00モル、対メタクリル酸1.2倍モル量)を三ツ口フラスコに入れ、触媒としてp−トルエンスルホン酸12g、重合禁止剤として2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.5gを加えた。80℃まで加熱して均一溶液とし、フラスコ内の混合物を液体クロマトグラフィー(カラム:ジーエル サイエンス社製 Unisil QC18、以下同様)で逐次追跡した。
【0198】
フラスコ内を徐々に減圧し、酸素を吹き込んで攪拌しながら80℃でエステル化反応を行って生成水を留出させた。メタクリル酸が65%反応した時、10%炭酸水素ナトリウム水溶液750mlで中和して反応を止め、室温まで冷やしてn−ヘキサン200mlを加えて希釈した。この時折出した未反応ジオール66.2g(0.56モル)を濾別回収した。濾液を2%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水層を除去した後の有機層に活性炭100mg、無水硫酸ナトリウム14gを投入し室温で12時間放置後濾過した。
【0199】
回収した濾液中のn−ヘキサンを30℃以下で減圧留去し、ジオールのメタクリル酸モノエステルとメタクリル酸ジエステルの混合物を得た。
【0200】
(2)−P(O)Cl2基を有する化合物の合成(アミン第一滴下工程)
上記エステル混合物85.0g(6−メタクリロイルオキシヘキサン−1−オールを0.32モル含有)とトリエチルアミン39.9g(0.40モル)をジエチルエーテル120mlに溶解し、滴下ロートに入れて反応容器に接続した。反応容器内にオキシ塩化リン60.4g(0.40モル)をジエチルエーテル120mlに溶解して入れ、内部温度−40℃まで冷却した。オキシ塩化リン溶液を激しく攪拌し、滴下ロート内のエステル混合物とトリエチルアミンの溶液を、ゆっくり1時間かけてオキシ塩化リン溶液に滴下した。滴下終了後、−20℃でさらに30分間反応液を攪拌した。
【0201】
(3)リン酸モノエステル塩化物の加水分解によるリン酸モノエステルの合成(アミン第二滴下工程)
(2)工程で得た反応液を0℃まで昇温してさらに1時間攪拌し、蒸留水30g(1.67モル)とトリエチルアミン65.8g(0.65モル。第一滴下工程で使用した量と合計してアミン総量は1.06モルになり、対オキシ塩化リン2.65倍モル量)の混合液を滴下し、0℃に保って30分間ゆっくり加水分解を行った。
【0202】
(4)アミン塩の抽出除去工程
析出してきたトリエチルアミンの塩酸塩を0.4N塩酸100mlで3回洗浄して抽出除去し、さらに2%食塩水100mlで2回洗浄した。その後、有機層に蒸留水200mlを加え、室温で12時間攪拌した(残存リン酸モノエステル塩化物の加水分解)。
【0203】
(5)精製工程
水を抽出後の有機層に活性炭100mgを加えて、室温で12時間放置した。活性炭を濾過で取り除いた有機層に重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエンを100mg添加して減圧留去すると、粘度の高い液体残渣約112gが得られた。液体クロマトグラフィーで上記液体を同定した結果、該液体はリン酸モノエステル(6−メタクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート)と1,6−ヘキサンジオールのメタクリル酸ジエステルの混合物であった。また、リン酸モノエステル/メタクリル酸ジエステルのモル比は3.2であった。
【0204】
該液体に含まれるメタクリル酸ジエステルを、n−ヘキサン400mlで抽出した。さらに減圧乾燥して水分を除去し、84.8gの液状の化合物を得た。液体クロマトグラフィーによる測定を行った結果、該化合物は純度98.1%の6−メタクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート(表9の化合物1a)であることを確認した。
【0205】
得られたリン酸モノエステルの電気伝導度は、0.361mS/cm、光透過率は98.1%であった。また、このリン酸モノエステルを用いて実施例1−1と同じ組成の歯科用接着剤を調合してゲル化日数を測定したところ、350日以上であった(表11)。
【0206】
実施例4−2〜4−6表10の化合物6b、6c、6d、7aおよび7bを原料のジオールとしてそれぞれ用いて実施例4−1と同様の手順でリン酸モノエステル(表9の化合物1b、1c、1d、2a及び2b)を合成した。該ジオールとそのカルボニル価、及び該ジオールと目的物であるリン酸モノエステルとの関係を表11にまとめた。尚、原料ジオールとメタクリル酸のモル比、メタクリル酸モノエステルとトリエチルアミンのモル比、トリエチルアミンとオキシ塩化リンのモル比は、全て実施例4−1と同一とした。得られたリン酸モノエステルについて、それぞれ実施例4−1と同様に光透過率、電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化までの日数を測定し、結果を表11にまとめた。
【0207】
実施例4−7(4−メタクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート(表9の化合物1e)の製造)
4−メタクリロイルオキシブタン−1−オール(47.4g、0.30モル)を、実施例4−1の(2)アミン第1滴下工程の出発原料(エステル化合物)として用いて実施例4−1の(2)以降と同様の手順とモル比で反応を行い、4−メタクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート(1e)を得た。この化合物について実施例4−1と同様に光透過率、電気伝導度、及び歯科用接着剤のゲル化までの日数を測定し、その結果を表11にまとめた。
【0208】
実施例5−1(2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(表9の化合物3a)の製造)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート54.9g(0.42モル)と、脱塩酸剤として用いるトリエチルアミン44.8g(0.44モル)をジエチルエーテル中に溶解して滴下ロートに入れた。2−ヒドロキシエチルメタクリレートに対して1.05倍モル量のジクロロリン酸フェニル93.3gをジエチルエーテル溶液に溶解して反応容器中に入れ、−20℃に冷却して激しく攪拌し、滴下ロート内の混合物をゆっくりと滴下した。さらにトリエチルアミン55.6g(0.55モル)の水溶液を滴下して反応を完結させた。使用したトリエチルアミンは、ジクロロリン酸フェニルに対して2.25倍モル量を使用した。反応液にジエチルエーテルを加えて析出してきたトリエチルアミンの塩酸塩を濾別し、有機層をイオン交換水で2回洗浄した。濾液にジブチルヒドロキシトルエンを加えてトルエンで抽出し、トルエンを減圧留去後、目的物である2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(3a)96.5gを得た。
【0209】
得られたリン酸モノマーの光透過率、及び電気伝尊度を測定し、また、このリン酸モノマーを用いて実施例1−1と同様な歯科用接着剤を調合し、ゲル化日数と牛歯象牙質接着力を測定し、実施例3−1と同様な歯科用接着剤を調合して色調適合性を評価した(表12)。
【0210】
実施例5−2(2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(表9の化合物3a)の製造)
実施例5−1のトリエチルアミンの塩酸塩の濾過工程まで同一とし、濾液にジブチルヒドロキシトルエンを添加後、ロータリーエバポレーターで溶剤を除去した。蒸留水に濃縮した濾液を投入し、攪拌しながら炭酸バリウムを少しずつ添加して全量として66.5g(0.34モル)を添加後、15分攪拌した。ひきつづき室温で15分攪拌してリン酸バリウム塩とした。未反応の炭酸バリウムを濾過し、濾液をトルエンで3回洗浄して6N塩酸を加えた後、トルエンで抽出した。分離した有機層に活性炭を添加して12時間放置後、活性炭を濾別した。有機層をイオン交換水で4回洗浄した後、トルエンを留去して目的物である2−メタクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート(3a)を得た。
【0211】
得られたリン酸モノマーについての光透過率、及び電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化日数、牛歯象牙質接着力、及び色調適合性を実施例5−1と同様に評価した(表12)。
【0212】
実施例6(2−メタクリロイルオキシエチルフェニルホスホン酸(表9の化合物3b)の製造)
実施例5−2の製造方法において、使用原料であるジクロロリン酸フェニルに代わりジクロロフェニルホスホン酸を用い、実施例5−2と同様の原料モル比、手順で製造し、目的物である2−メタクリロイルオキシエチルフェニルホスホン酸(3b)を得た。得られたリン酸モノマーについての光透過率、及び電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化日数、牛歯象牙質接着力、及び色調適合性を実施例5−1と同様に評価した(表12)。
【0213】
実施例7(10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとビス(10−メタクリロイルオキシデシル)ハイドロジェンホスフェートの混合物(表9の化合物4)の製造)
実施例3−1と同じ手順により製造を行った。実施例3−1の(2)において、該混合物中のメタクリル酸モノエステルに対し、オキシ塩化リンを0.8倍モル量として反応させた。その他の原料のモル比は実施例3−1と同一とした。得られたリン酸モノエステル/リン酸ジエステルの混合物をHPLCで分析した結果、リン酸モノエステル/リン酸ジエステルのモル比が58/42であった。得られたリン酸モノマーについての光透過率、及び電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化日数、牛歯象牙質接着力、及び色調適合性を実施例5−1と同様に評価した(表12)。
【0214】
実施例8−1(5−メタクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネ−ト(表9の化合物5a)の製造)
(1)5−ヒドロキシペンチルメタクリレートの製造
1,5−ペンタンジオールを原料として実施例4−1(1)と同じ手順、および原料モル比で製造し、得られたモノエステル体とジエステル体をカラムクロマトグラフィーで精製し、モノエステル体である5−ヒドロキシペンチルメタクリレートを得た。
【0215】
(2)3−ジエチルホスホノプロピオン酸エチルの製造
亜リン酸トリエチルとβ−プロピオラクトンを等モル混合し、160℃にて18時間還流し反応させた。反応混合物を減圧蒸留し、130〜135℃(267〜533Pa)の留分を採取し、3−ジエチルホスホノプロピオン酸エチルを得た。
【0216】
(3)2−カルボキシエチルホスホン酸の製造
上記(2)で得られた3−ジエチルホスホノプロピオン酸エチル100g(0.42モル)、48%臭化水素酸300g、及び蟻酸200gを混合し、90℃にて加水分解しながら生成した臭化エチルを留去した。臭化エチルが生成しなくなった後、さらに加熱して濃縮し、反応混合物を氷冷して生成物の結晶を析出させた。この結晶を吸引濾過し、少量のアセトンで洗浄後、真空乾燥して2−カルボキシエチルホスホン酸を得た。
【0217】
(4)5−メタクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート(表9の化合物5a)の製造
上記(1)で得た5−ヒドロキシペンチルメタクリレートを68.8g(0.40モル)を、上記(3)で得た2−カルボキシエチルホスホン酸96.3g(0.35モル)、p−トルエンスルホン酸3.5g、ジブチルヒドロキシトルエン3.5g、トルエン80gを反応容器に入れて約40kPa減圧下、約80℃で攪拌して反応させた。6時間反応後、室温まで冷却し、反応混合物を分液ロートに移して酢酸エチルを加え、水で2回洗浄した。分離した有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、減圧留去して油状物を得た。この油状物に炭酸ナトリウム水溶液を加えて水層に目的物を抽出し、水層に6N塩酸を加えて酸性とし、ジエチルエーテルで3回抽出した。エーテル層に活性炭を添加て12時間放置後、活性炭を濾別し、さらにイオン交換水で4回洗浄した後、エーテルを減圧留去して目的物である5−メタクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート(5a)48gを得た。
【0218】
得られたリン酸モノマーについての光透過率、及び電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化日数、牛歯象牙質接着力、及び色調適合性を実施例5−1と同様に評価した(表12)。
【0219】
実施例8−2(10−メタクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート(表9の化合物5b)の製造)
(1)10−ヒドロキシデシルメタクリレートの製造
実施例5−1(1)と同様に反応を行い、得られたモノエステル体/ジエステル体の混合物をカラムクロマトグラフィーにて精製し、10−ヒドロキシデシルメタクリレートを得た。
【0220】
(2)10−メタクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート(表9の化合物5b)の製造
上記(1)で得られた10−ヒドロキシデシルメタクリレートを58.3g(0.24モル)、2−カルボキシエチルホスホン酸30.7g(0.20モル)、p−トルエンスルホン酸3.5g、ジブチルヒドロキシトルエン0.35gを約40kPa、約100℃にて攪拌し、エステル化反応を行った。以降は実施例7−1と同様な処理を行い、目的物である10−メタクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート(5b)を28g得た。
【0221】
得られたリン酸モノマーについての光透過率、及び電気伝導度、歯科用接着剤のゲル化日数、牛歯象牙質接着力、及び色調適合性を実施例5−1と同様に評価した(表12)。
【0222】
【表9】

【0223】
【表10】

【0224】
【表11】

【0225】
【表12】

【0226】
なお、本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
〔1〕 ラジカル重合可能な二重結合、及び1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基をそれぞれ少なくとも1個有し、かつ分子内に炭素数4以上の炭化水素基を少なくとも一つ有する有機リン酸化合物であって、該有機リン酸化合物の10重量%メタノール溶液の25℃での電気伝導度が0.5mS/cm以下及び/又は該有機リン酸化合物の455nmにおける光透過率が90%以上であることを特徴とする有機リン酸化合物。
〔2〕 炭素数4以上の炭化水素基、(メタ)アクリレート基を有する有機基、及び1基のヒドロキシル基がリン酸残基に結合した有機リン酸化合物である前記〔1〕記載の有機リン酸化合物。
〔3〕 (メタ)アクリレート基、及び1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基が炭素数4以上の炭化水素基を少なくとも1つ有する連結基で結合された有機リン酸化合物である前記〔1〕記載の有機リン酸化合物。
〔4〕 連結基が炭素数4以上の脂肪族基である前記〔3〕記載の有機リン酸化合物。
〔5〕 (メタ)アクリレート基、及び2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基が炭素数8〜16の脂肪族基を少なくとも1つ有する連結基で結合された有機リン酸化合物である前記〔3〕記載の有機リン酸化合物。
〔6〕 連結基が炭素数8以上で、芳香族基を少なくとも1つ含む有機基である前記〔3〕記載の有機リン酸化合物。
〔7〕 10重量%メタノール溶液の25℃での電気伝導度が、0.4mS/cm以下である前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の有機リン酸化合物。
〔8〕 ラジカル重合可能な二重結合、及び1又は2基のヒドロキシル基を有するリン酸残基をそれぞれ少なくとも1個有し、かつ分子内に炭素数4以上の炭化水素基を少なくとも一つ有する有機リン酸化合物であって、該有機リン酸化合物の10重量%メタノール溶液の25℃での電気伝導度が0.5mS/cm以下及び/又は該有機リン酸化合物の455nmにおける光透過率が90%以上である有機リン酸化合物、及び該有機リン酸化合物と共重合しうる重合性単量体からなることを特徴とする歯科用重合性組成物。
〔9〕 (メタ)アクリル酸1モルに対して炭素数4〜30のジオールを1〜5モル反応させるとともに、(メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とし、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステル/ジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルのモル生成比が2〜8である反応混合物を得、さらに得られたジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させて、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法。
〔10〕 1つの水酸基と少なくとも1つの(メタ)アクリル基を有し、かつ少なくとも1つの炭素数4〜30の炭化水素基を有する有機残基からなるモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルに、アミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させ、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得、該反応混合物を酸性水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出分離し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄することを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステルの製造方法。
〔11〕 (メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得る工程が、該モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルとオキシ塩化リンをアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得る工程である、前記〔10〕記載の製造方法。
〔12〕 分子内に炭素数が4以上の有機基と2個以上の水酸基を有するポリオール化合物を、(メタ)アクリル酸誘導体を用いて、少なくとも1個以上の水酸基を残して(メタ)アクリル酸エステル化を行って得られた、水酸基を少なくとも1個以上有する(メタ)アクリレート化合物を原料とし、該原料の水酸基をオキシハロゲン化リンを用いてリン酸エステル化する有機リン酸化合物の製造方法であって、ポリオール化合物中のカルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下であることを特徴とする、有機リン酸化合物の製造方法。
〔13〕 ポリオール化合物が、炭素数4〜30を有するジオールである、前記〔12〕記載の製造方法。
〔14〕 (メタ)アクリル酸1モルに対して、カルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下でありかつ炭素数4〜30を有するジオールを1〜5モル反応させて、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルとジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルを含む反応混合物を得、次いで得られた(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行って(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法。
〔15〕 (メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行なう工程が、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得、次いで酸の水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出除去し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄する工程である、前記〔14〕記載の製造方法。
〔16〕 (メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とする、前記〔14〕又は〔15〕記載の製造方法。
〔17〕 化学量論量以下のアミンの存在下で反応させることによって(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を反応混合物内に含有させる、前記〔10〕、〔11〕、〔14〕又は〔15〕いずれか記載の製造方法。
〔18〕 pH3以下の酸性条件下で水溶液洗浄を行う、前記〔10〕、〔11〕、〔14〕又は〔15〕いずれか記載の製造方法。
〔19〕 ジオール中のカルボニル化合物の含有量が0.05モル%以下である、前記〔13〕〜〔15〕いずれか記載の製造方法。
〔20〕 炭素数8〜16のアルキレン基を有するジオールを使用する、前記〔9〕又は〔12〕〜〔15〕いずれか記載の製造方法。
〔21〕 ジオールが1,10−デカンジオールである、前記〔9〕又は〔13〕〜〔15〕いずれか記載の製造方法。
〔22〕 モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルが、10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールである、前記〔10〕又は〔11〕記載の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸1モルに対して炭素数4〜30のジオールを1〜5モル反応させるとともに、(メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とし、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステル/ジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルのモル生成比が2〜8である反応混合物を得、さらに得られたジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにオキシ塩化リンを反応させて、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
1つの水酸基と少なくとも1つの(メタ)アクリル基を有し、かつ少なくとも1つの炭素数4〜30の炭化水素基を有する有機残基からなるモノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルに、アミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させ、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得、該反応混合物を酸性水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出分離し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄することを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル、(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物及びアミン塩を含有する反応混合物を得る工程が、該モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルとオキシ塩化リンをアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸エステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得る工程である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
分子内に炭素数が4以上の有機基と2個以上の水酸基を有するポリオール化合物を、(メタ)アクリル酸誘導体を用いて、少なくとも1個以上の水酸基を残して(メタ)アクリル酸エステル化を行って得られた、水酸基を少なくとも1個以上有する(メタ)アクリレート化合物を原料とし、該原料の水酸基をオキシハロゲン化リンを用いてリン酸エステル化する有機リン酸化合物の製造方法であって、ポリオール化合物中のカルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下であることを特徴とする、有機リン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
ポリオール化合物が、炭素数4〜30を有するジオールである、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
(メタ)アクリル酸1モルに対して、カルボニル化合物の含有量が0.1モル%以下でありかつ炭素数4〜30を有するジオールを1〜5モル反応させて、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルとジオールの(メタ)アクリル酸ジエステルを含む反応混合物を得、次いで得られた(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行って(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを製造することを特徴とする、(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステルを含む反応混合物を得、該反応混合物に対して酸の水溶液による洗浄及び電解質水溶液による洗浄を行なう工程が、ジオールの(メタ)アクリル酸モノエステルにアミン化合物の存在下でオキシ塩化リンを反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を得、次いで該(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物と水をアミン化合物の存在下で反応させて(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル及び微量の(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を含有する反応混合物を得、次いで酸の水溶液で洗浄してアミン塩を水層に抽出除去し、分離して得た反応混合物を(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物の加水分解で生成する塩化水素により酸性とした電解質水溶液で洗浄する工程である、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
(メタ)アクリル酸の反応率を60〜90モル%とする、請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
化学量論量以下のアミンの存在下で反応させることによって(メタ)アクリル酸モノエステルモノリン酸エステル塩化物を反応混合物内に含有させる、請求項2、3、6又は7いずれか記載の製造方法。
【請求項10】
pH3以下の酸性条件下で水溶液洗浄を行う、請求項2、3、6又は7いずれか記載の製造方法。
【請求項11】
ジオール中のカルボニル化合物の含有量が0.05モル%以下である、請求項5〜7いずれか記載の製造方法。
【請求項12】
炭素数8〜16のアルキレン基を有するジオールを使用する、請求項1又は4〜7いずれか記載の製造方法。
【請求項13】
ジオールが1,10−デカンジオールである、請求項1又は5〜7いずれか記載の製造方法。
【請求項14】
モノヒドロキシ(メタ)アクリル酸エステルが、10−メタクリロイルオキシデカン−1−オールである、請求項2又は3記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−31048(P2010−31048A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256364(P2009−256364)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【分割の表示】特願2000−94720(P2000−94720)の分割
【原出願日】平成12年3月30日(2000.3.30)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】