説明

有機光電変換素子、およびそれを用いた有機太陽電池

【課題】光電変換効率と耐久性とを両立させた有機光電変換素子を提供することにある。
【解決手段】第一の電極、正孔輸送層、光電変換層および第二の電極がこの順に積層されてなる有機光電変換素子であって、前記正孔輸送層が無機酸化物を含む無機酸化物層と、100nm堆積時のシート抵抗値が1×10−1Ω/□以下であり、導電性材料を含む導電性材料層と、を含み、前記無機酸化物層、前記導電性材料層および前記光変換層がこの順に配置されてなる、有機光電変換素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子に関し、更に詳しくは、有機太陽電池に用いることのできる有機光電変換素子に関し、更に詳しくは、発電性能と素子耐久性とを両立させた有機光電変換素子、およびそれを用いた有機太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の化石エネルギーの高騰によって、自然エネルギーから直接電力を発電できるシステムが求められており、単結晶・多結晶・アモルファスのSiを用いた太陽電池、GaAsやCIGS(銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる半導体材料)等の化合物系の太陽電池、あるいは色素増感型光電変換素子(グレッツェルセル)等が提案・実用化されている。
【0003】
しかしながら、これらの太陽電池で発電するコストは、未だ化石燃料を用いて発電・送電される電気の価格よりも高いものとなっており、普及の妨げとなっていた。また、基板に重いガラスを用いなければならないため、設置時に補強工事が必要であり、これらも発電コストが高くなる一因であった。
【0004】
このような状況に対し、化石燃料による発電コストよりも低い発電コストを達成しうる太陽電池として、透明電極と対電極との間に電子供与体層(p型半導体層)と電子受容体層(n型半導体層)とが混合された光電変換層を挟んだバルクへテロジャンクション(BHJ)型光電変換素子が提案され、5%を超える光電変換効率が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
これらのバルクへテロジャンクション型光電変換素子を用いた太陽電池においては、アノード・カソード以外は塗布により形成することができるため、高速且つ安価で製造が可能であり、前述の発電コストの課題を解決できる可能性がある。更に、上記のSi系太陽電池、半導体系太陽電池、色素増感型光電変換素子等と異なり、160℃より高温に暴露する製造工程がないため、安価且つ軽量なプラスチック基板上への形成も可能であると期待される。
【0006】
しかしながら、実用化に向けては高効率化のほかに耐久性の向上も求められている。電極等の劣化が起こりにくい、高い仕事関数を有する金属を対電極として用い、太陽光入射側をカソードとするタイプの太陽電池(いわゆる逆層型太陽電池)において耐久性が向上することが知られており(例えば、特許文献1参照)、かような逆層構成において高い光電変換効率を出せる材料が求められている。
【0007】
バルクへテロジャンクション型光電変換素子の光電変換効率自体は光電変換層のp型半導体とn型半導体との組み合わせによって決まる部分が多いが、それらの組み合わせによって得られる性能を最大限に引き出すためには正孔輸送層や電子輸送層といった中間層の開発が不可欠である。
【0008】
正孔輸送層に用いられる材料として無機酸化物が知られている(例えば、特許文献2参照)。無機酸化物を正孔輸送層の材料として用いた場合、ごく薄膜で正孔輸送層として機能することが可能であることから、高い曲線因子(FF)、高い短絡電流密度(Jsc)を得ることが出来る材料として有用である。
【0009】
また、無機酸化物および有機物を二層積層したタイプの中間層を有する有機薄膜太陽電池が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3には、MoOのような無機酸化物およびTFBのような有機物からなる正孔輸送層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−146981号公報
【特許文献2】特開2007−035893号公報
【特許文献3】国際公開第11/056778号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A.Heeger et.al.,Nature Mat.,vol.6(2007),p497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、MoO等の無機酸化物を正孔輸送層等の中間層の材料として用いると光照射により光電変換素子の性能が低下する場合があった。
【0013】
また、特許文献3では、無機酸化物および有機物を積層するといった技術の開示はあるものの素子の経時耐久性についての記載は一切なく、この観点からの考察が十分ではなかった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、光電変換効率と耐久性とを両立させた有機光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記のような課題に対し、本願発明者らは、100nm堆積時のシート抵抗率が10−1Ω/□以下の層を無機酸化物層と光電変換層との間に挿入すると高効率と高耐久性とが両立した有機光電変換素子を実現できることを見出した。
【0016】
すなわち、上記課題は、第一の電極、正孔輸送層、光電変換層および第二の電極がこの順に積層されてなる有機光電変換素子であって、前記正孔輸送層が無機酸化物を含む無機酸化物層と、100nm堆積時のシート抵抗値が1×10−1Ω/□以下であり、導電性材料を含む導電性材料層と、を含み、前記無機酸化物層、前記導電性材料層および前記光変換層がこの順に配置されてなる、有機光電変換素子によって解決される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高い曲線因子(FF)と高い短絡電流値(Jsc)の値を有し、光電変換効率が高く、耐久性に優れた有機光電変換素子及びその有機光電変換素子を用いた太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機光電変換素子の構成の例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機光電変換素子の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図3】タンデム型の光電変換層を備えた、本発明の有機光電変換素子の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、第一の電極、正孔輸送層、光電変換層および第二の電極がこの順に積層されてなる有機光電変換素子であって、前記正孔輸送層が無機酸化物を含む無機酸化物層と、100nm堆積時のシート抵抗値が1×10−1Ω/□以下であり、導電性材料を含む導電性材料層と、を含み、前記無機酸化物層、前記導電性材料層および前記光変換層がこの順に配置されてなる、有機光電変換素子に関する。
【0020】
上述したように無機酸化物層を正孔輸送層として光電変換層と電極との間に挿入すると、光照射下で急激な性能の低下が起こる。しかしながら、本願発明者らは、シート抵抗値が比較的低い中間層を無機酸化物層と光電変換層との間に挿入することによって驚くべきことに、耐久性に優れる有機光電変換素子を提供することができることを見出した。また、中間層が存在しない正孔輸送層から構成される素子と比較して、中間層が存在することによって通常は大幅な光電変換効率の低下が起こるが、本発明では中間層が存在するにも関わらず、高い曲線因子(FF)および高い短絡電流密度(Jsc)を有し、中間層が存在しない有機光電変換素子と同程度の光電変換効率が維持される。すなわち、本発明の有機光電変換素子によれば、光電変換効率と耐久性との両立という効果が発揮される。
【0021】
以下、添付した図面を参照しながら本発明の好ましい形態を説明するが、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるべきものであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
(有機光電変換素子の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る順層型有機光電変換素子の構成の例を示す概略断面図である。
【0023】
有機光電変換素子10は、基板11上に、第1の電極12、正孔輸送層17、光電変換層14、電子輸送層18、第2の電極13がこの順に積層されてなる。そして、正孔輸送層17は、第1の電極12に隣接するように配置された無機酸化物層17a、および光電変換層14に隣接するように配置された導電性材料層17bの二層から構成される。
【0024】
本発明の一態様として、基板11及び第1の電極12は透明であり、光電変換に用いられる光は、基板11の側から照射され、第1の電極12および正孔輸送層17を経て、光電変換層14へと届く。
【0025】
光電変換層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを含有する。
【0026】
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプタ)として機能する。
【0027】
ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0028】
図1において、基板11を介して第1の電極12から入射された光は、光電変換層14における電子受容体あるいは電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
【0029】
発生した電荷は内部電界、例えば、第1の電極12と第2の電極13との仕事関数が異なる場合では第1の電極12と第2の電極13との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流が検出される。
【0030】
図1の例では、第1の電極12の仕事関数は第2の電極13の仕事関数よりも大きいため、正孔は第1の電極12へ、電子は第2の電極13へ輸送される。この場合、第2の電極13には仕事関数が小さく酸化されやすい金属が用いられる。この場合、第1の電極はアノード(陽極)として、第2の電極はカソード(陰極)として機能する。
【0031】
図2に本発明の他の一実施形態に係る、逆層型有機光電変換素子の構成の例を示す概略断面図である。
【0032】
図2においては、図1の場合とは反対に、第1の電極12の仕事関数よりも第2の電極13の仕事関数を大きくすることで、電子を第1の電極12へ、正孔を第2の電極13へと輸送するように設計した場合を示した。この場合には、第1の電極12と光電変換層14との間に電子輸送層18を有し、光電変換層14と第2の電極13との間に正孔輸送層17を有し、第1の電極はカソード(陰極)として、第2の電極はアノード(陽極)として機能する。そして、正孔輸送層17は、第2の電極13に隣接するように配置された無機酸化物層17a、および光電変換層14に隣接するように配置された導電性材料層17bの二層から構成される。
【0033】
本発明においては、第2の電極の耐久性の面から、特に図2に示す構成、即ち、第1の電極がカソード(陰極)であり、第2の電極がアノード(陽極)であることが好ましい態様である。本発明の太陽電池に用いる有機光電変換素子は、図2の構成が好ましい。
【0034】
なお、図1、図2には記載していないが、本発明の有機光電変換素子は、正孔ブロック層、電子ブロック層、あるいは平滑化層等の層を有していてもよい。
【0035】
更に、太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成としてもよい。図3は、タンデム型の光電変換層を備える有機光電変換素子を示す断面図である。
【0036】
タンデム型構成の場合、基板11上に第1の電極12、正孔輸送層17、第1の光電変換層14a、電荷再結合層15をこの順に積層した後、第2の光電変換層14b、電子輸送層18、次いで第2の電極13を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。
【0037】
そして、正孔輸送層17は、第1の電極12に隣接するように配置された無機酸化物層17a、および第1の光電変換層14aに隣接するように配置された導電性材料層17bの二層から構成される。
【0038】
第2の光電変換層14bは、第1の光電変換層14aの吸収スペクトルと同じスペクトルを吸収する層でもよいし、異なるスペクトルを吸収する層でもよいが、より広い波長域の光を効率よく電気に変化することが可能となるため、好ましくは異なるスペクトルを吸収する層である。
【0039】
以下、本発明に係る有機光電変換素子の各構成について詳細に説明する。
【0040】
〔正孔輸送層〕
正孔輸送層とは、アノードと光電変換層の中間に位置して、光電変換層と電極との間で正孔の授受をより効率的にすることのできる層のことである。なお、光電変換層に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する正孔輸送層には、光電変換層で生成した電子をアノード側には流さないような整流効果を有する、電子ブロック機能が付与される。このような正孔輸送層は電子ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する正孔輸送層を使用する方が好ましい。
【0041】
本発明において正孔輸送層は無機酸化物を含む無機酸化物層および導電性材料を含む導電性材料層から構成されている。
【0042】
無機酸化物層は無機酸化物を主成分とする。ここで、「主成分」とは無機酸化物層17aの構成材料の合計量100質量%に占める無機酸化物の割合が50質量%以上であることを意味する。ただし、無機酸化物層17aの構成材料の合計量100質量%に占める無機材料の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0043】
無機酸化物層に用いられる無機酸化物としては、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タングステン(W)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、トリウム(Tr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)あるいは、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までのいわゆる希土類元素などの酸化物が挙げられる。正孔輸送能に優れるという観点からは、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン、酸化バナジウム等の金属酸化物等を好ましく用いることができ、酸化モリブデン、酸化タングクテン、酸化バナジウムが特に好ましい。これらの無機酸化物は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0044】
無機酸化物層の厚さは、光電変換効率および素子の耐久性の観点から、0.5〜30nmであることが好ましく、0.5〜15nmであることがより好ましい。
【0045】
無機酸化物層と併用される導電性材料層は、導電性材料を主成分とする。ここで、「主成分」とは導電性材料層17bの構成材料の合計量100質量%に占める導電性材料の割合が50質量%以上であることを意味する。ただし、導電性材料層17bの構成材料の合計量100質量%に占める導電性材料の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0046】
そして、導電性材料層を構成する材料を膜厚100nmに堆積させたときのシート抵抗値が1×10−1Ω/□以下であることを特徴としている。光電変換効率および耐久性の観点からは、シート抵抗値は、1×10−2Ω/□以下であることが好ましく、1×10−4Ω/□以下であることがより好ましい。シート抵抗値の測定は後述の実施例の測定方法を採用する。なお、シート抵抗値の下限は特に限定されるものではないが、FFの低下が抑制されることから、1×10−6Ω/□以上であることが好ましい。
【0047】
導電性材料としては、例えば、スタルクヴイテック製、商品名BaytronP750等の高導電性のPEDOT(ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン)−PSS(ポリスチレンスルホン酸)、カーボンナノチューブ、フラーレンおよびフラーレン誘導体などの導電性カーボン材料、Au、Ag、Co、Ni、Pt等の金属などが挙げられる。耐久性、光電変換効率の観点からは、導電性材料は、導電性カーボン材料または金属であることが好ましい。中でも、素子の耐久性向上といった観点からは高導電性の材料が好ましいことと、加熱抵抗での製膜が可能との理由からAu、Ag、Coが特に好ましく用いられる。導電性カーボン材料としては、具体的には、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン(円錐型)など、およびこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換されたまたは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基などによって置換されたフラーレン誘導体が挙げられる。
【0048】
中でも導電性材料は、素子の耐久性の観点から、深い仕事関数もしくは、HOMO準位を有していることが好ましく、4.7eVよりも深い仕事関数またはHOMO準位を有していることが好ましい。酸化モリブデン等の無機酸化物層が存在する場合に有機光電変換素子が劣化する一因として、無機酸化物自体の還元反応に起因して、光電変換層との界面で酸化反応が起こり、結果光電変換層の劣化が生じ素子の安定性が損なわれる場合があると考えられる。したがって、深い仕事関数(WF)またはHOMO準位を有する導電性材料を用いると、かような酸化還元反応が抑制され、素子の劣化がより抑制できるものと考えられる。なお、上記メカニズムは推定であり、上記メカニズムに限定されるものではない。
【0049】
なお、本発明において導電性材料の最高占有軌道(HOMO)準位または仕事関数は、光電子放出測定法(UPS)によりヴァキュームジェネレーターズ製 ESCALab200RおよびUPS−1He−Iを用いることで求めた値を採用する。また、かような方法により測定された値は、導電性材料種によって、仕事関数、イオン化ポテンシャルまたはHOMO準位となる。
【0050】
導電性材料層の厚さは、光電変換効率の観点から、0.1〜5nmであることが好ましく、0.1〜3nmであることがより好ましい。一般的に深いWFを有する材料にはn型駆動する半導体も多々含まれるが、かような範囲にごく薄膜に挿入すれば電子とホールの両方を輸送することができ素子の効率低下には影響が少ない。
【0051】
〔電子輸送層〕
本発明の有機光電変換素子は、必要に応じて電子輸送層を含みうる。
【0052】
電子輸送層とは、カソードと光電変換層の中間に位置して、光電変換層と電極との間で電子の授受をより効率的にすることのできる層のことである。
【0053】
電子輸送層は、金属化合物を有することによって仕事関数が浅く、かつ重合していることが好ましい。電子輸送層における仕事関数とは電子輸送層自体のHOMO−LUMO準位を指すが、単分子膜のように極薄膜の電子輸送層の積層により隣接する電極の仕事関数を変化させる場合には電極の仕事関数を電子輸送層の仕事関数として明記する。
【0054】
電子輸送層としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、国際公開第04/095889号パンフレットに記載のカルボリン化合物等を用いることができるが、同様に、光電変換層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、光電変換層で生成した正孔をカソード側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。より好ましくは、n型半導体のHOMO準位よりも深い材料を電子輸送層として用いることである。正孔を阻止する特性から、正孔移動度が10−6よりも低い化合物を用いることが好ましい。また、電子を輸送する特性から、電子移動度の高い化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、電子移動度が10−4以上の化合物である。
【0055】
このような材料としては、バソキュプロイン等のフェナントレン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、国際公開第08/134492号パンフレットに記載のアミン系シランカップリング剤のようなアミン化合物、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物を用いることができる。また、光電変換層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。
【0056】
これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0057】
電子輸送層の厚さは、特に制限がないが、通常1〜2000nmである。リーク防止効果を高める観点からは、厚さ5nm以上であることが好ましい。また、高い透過率と低い抵抗を維持する観点からは、厚さは1000nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。
【0058】
〔光電変換層〕
光電変換層は、光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する。光電変換層は、光電変換材料として、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料を含有する。これらの光電変換材料に光が吸収されると、励起子が発生し、これがpn接合界面において、正孔と電子とに電荷分離される。
【0059】
光電変換層に使用されるp型有機半導体材料は、好適にはp型共役系高分子を含有する。このp型共役系高分子は、主鎖に電子供与性基(ドナー性ユニット)および電子吸引性基(アクセプター性ユニット)を有する共重合体である。より具体的には、p型共役系高分子は、ドナー性ユニットとアクセプター性ユニットとが交互に配列するように重合された構造を有する。このように、ドナー性ユニットとアクセプター性ユニットとが交互に配列することにより、p型有機半導体の吸収域を長波長域に拡大することができる。すなわち、p型共役系高分子は、従来のp型有機半導体の吸収域(例えば、400〜700nm)に加え、長波長域(例えば、700〜100nm)の光も吸収することができるため、太陽光スペクトルの広い範囲にわたる放射エネルギーを効率よく吸収させることが可能となる。
【0060】
p型共役系高分子に含まれうるドナー性ユニットとしては、同じπ電子数を有する炭化水素芳香環(ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなど)よりもLUMO準位またはHOMO準位が浅くなるようなユニットであれば、制限なく使用できる。例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、シクロペンタジエン若しくはシラシクロペンタジエンなどの複素5員環、およびこれらの縮合環を含むユニットである。
【0061】
具体的には、フルオレン、シラフルオレン、カルバゾール、ジチエノシクロペンタジエン、ジチエノシラシクロペンタジエン、ジチエノピロール、ベンゾジチオフェンなどを挙げることができる。
【0062】
ドナー性ユニットは、好ましくは下記化学式1で表される構造である。
【0063】
【化1】

【0064】
式中、Zは、炭素原子、ケイ素原子、またはゲルマニウムを表し、
は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のフッ化アルキル基、炭素原子数3〜30の置換または非置換のシクロアルキル基、炭素原子数6〜30の置換または非置換のアリール基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のヘテロアリール基、または炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキルシリル基を表し、2つのRは互いに結合して環を形成してもよい。また、Rは互いに異なっていても良い。
【0065】
また、下記化学式2で表される構造もドナー性ユニットとして好適である。
【0066】
【化2】

【0067】
式中、Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、または炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキルエステル基を表し、2つのRは互いに結合して環を形成してもよい。また、Rは互いに異なっていてもよい。
【0068】
上記RおよびRにおける炭素原子数1〜20のアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基などが挙げられる。
【0069】
上記Rにおける炭素原子数3〜30のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0070】
上記Rにおける炭素原子数6〜30のアリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0071】
上記Rにおける炭素原子数6〜30のヘテロアリール基としては、ピロール基、フラン基、チオフェニル基、ピリジル基、ピリミジル基などが挙げられる。
【0072】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基などが挙げられる。
【0073】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などの直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。
【0074】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルキルエステル基としては、メチルエステル基、エチルエステル基、n−プロピルエステル基、i−プロピルエステル基、n−ブチルエステル基、2−メチルプロピルエステル基、1−メチルプロピル基、t−ブチルエステル基、ペンチルエステル基、ヘキシルエステル基、ヘプチルエステル基、オクチルエステル基、ノニルエステル基、デシルエステル基、ウンデシルエステル基、ドデシルエステル基などが挙げられる。
【0075】
なお、上記化学式1および化学式2において、アルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルシリル基、アルコキシ基、またはアルキルエステル基に場合によって存在する置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
上記化学式1および2で表されるドナー性ユニットは、移動度の高いチオフェン構造が縮合して大きなπ共役平面を有しつつも、置換基により溶解性が付与されている。このようなドナー性ユニットは、溶解性と移動度が共に優れているため、より一層、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0077】
一方、p型共役系高分子に含まれうるアクセプター性ユニットとしては、例えば、キノキサリン骨格、ピラジノキノキサリン骨格、ベンゾチアジアゾール骨格、ベンゾオキサジアゾール骨格、ベンゾセレナジアゾール骨格、ベンゾトリアゾール骨格、ピリドチアジアゾール骨格、チエノピラジン骨格、フタルイミド骨格、3,4−チオフェンジカルボン酸イミド骨格、イソインディゴ骨格、チエノチオフェン骨格、ジケトピロロピロール骨格、4−アシル−チエノ[3,4−b]チオフェン骨格、ピラゾロ[5,1−c][1,2,4]トリアゾール骨格などが挙げられる。なお、本形態のp型共役高分子に含まれるドナー性ユニットまたはアクセプター性ユニットは、それぞれ、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
本形態において、好ましいp型共役高分子としては、Nature Material,(2006)vol.5,p328に記載のポリチオフェン−チエノチオフェン共重合体、国際公開第08/000664号パンフレットに記載のポリチオフェン−ジケトピロロピロール共重合体、Adv.Mater.,2007,p4160に記載のポリチオフェン−チアゾロチアゾール共重合体、Nature Mat.vol.6(2007),p497に記載のPCPDTBTなどのポリチオフェン共重合体などが挙げられる。なかでもPCPDTBTなどのポリチオフェン共重合体が特に好ましい。
【0079】
上記p型共役高分子の分子量は、特に制限はないが、数平均分子量が5000〜500000であることが好ましく、10000〜100000であることがより好ましく、15000〜50000であることがさらに好ましい。数平均分子量が5000以上であると、曲線因子向上の効果がより一層顕著になる。一方、数平均分子量が500000以下であると、p型共役高分子の溶解性が向上するため、生産性を上げることができる。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した値を採用する。
【0080】
なお、上述したp型共役系高分子以外のその他のp型有機半導体材料を含んでもよい。このようなその他のp型有機半導体材料としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。ただし、本発明の作用効果を顕著に発現させるという観点からは、光電変換層に含まれるp型有機半導体材料に占めるp型共役系高分子の質量割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0081】
光電変換層に含まれるp型有機半導体材料のバンドギャップは、1.8eV以下であることが好ましく、1.6〜1.1eVであることがより好ましい。バンドギャップが1.8eV以下であると、幅広く太陽光を吸収できる。一方、バンドギャップが1.1eV以上であると、開放電圧Voc(V)が出やすくなり、変換効率が向上しうる。なお、p型有機半導体は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても勿論構わない。
【0082】
一方、光電変換層に使用されるn型有機半導体材料も、アクセプター性(電子受容性)の有機化合物であれば特に制限はなく、本技術分野で使用されうる材料を適宜採用することができる。このような化合物としては、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、オクタアザポルフィリンなど、上記p型有機半導体材料の水素原子をフッ素原子に置換したパーフルオロ体(例えば、パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニンなど)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミドなどの芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む高分子化合物などが挙げられる。
【0083】
このうち、p型有機半導体材料と高速(〜50fs)かつ効率的に電荷分離を行うことができるという観点から、フラーレンもしくはカーボンナノチューブまたはこれらの誘導体を用いることが好ましい。より具体的には、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン(円錐型)など、およびこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換されたまたは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基などによって置換されたフラーレン誘導体が挙げられる。
【0084】
特に、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PCBM)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nブチルエステル(PCBnB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−イソブチルエステル(PCBiB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nヘキシルエステル(PCBH)、[6,6]−フェニルC71−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PC71BM)、Adv.Mater.,vol.20(2008),p2116に記載のbis−PCBM、特開2006−199674号公報に記載のアミノ化フラーレン、特開2008−130889号公報に記載のメタロセン化フラーレン、米国特許第7,329,709号明細書に記載の環状エーテル基を有するフラーレンなどのような、置換基により溶解性が向上されてなるフラーレン誘導体を用いることが好ましい。なお、n型有機半導体材料は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0085】
光電変換層における、p型有機半導体およびn型有機半導体の接合形態は、特に制限はなく、平面へテロ接合であってもよいし、バルクへテロ接合であってもよい。平面ヘテロ接合とは、p型有機半導体を含むp型有機半導体層と、n型有機半導体を含むn型有機半導体層とが積層され、これら2つの層が接触する面がpn接合界面となる接合形態である。一方、バルクヘテロ接合(バルクヘテロジャンクション)とは、p型有機半導体とn型有機半導体との混合物を塗布することにより形成され、この単一の層中において、p型有機半導体のドメインとn型有機半導体のドメインとがミクロ相分離構造をとっている。したがって、バルクヘテロ接合では、平面へテロ接合と比較して、pn接合界面が層全体に亘って数多く存在することになる。よって、光吸収により生成した励起子の多くがpn接合界面に到達できることになり、電荷分離に至る効率を高めることができる。このような理由から、本形態の光電変換層における、p型有機半導体とn型有機半導体との接合は、バルクへテロ接合であることが好ましい。
【0086】
光電変換層に含まれるp型有機半導体材料とn型有機半導体材料との混合比は、質量比で2:8〜8:2の範囲が好ましく、より好ましくは4:6〜6:4の範囲である。また、光電変換層の膜厚は、好ましくは50〜400nmであり、より好ましくは80〜300nmである。
【0087】
〔電極〕
本発明の有機光電変換素子においては、第1の電極および第2の電極を有するが、タンデム構成をとる場合には、中間電極を用いることでタンデム構成を達成することができる。
【0088】
本発明において、第1の電極は、透明な電極であることが好ましい。
【0089】
「透明な」とは、光透過率が50%以上であるものをいう。
【0090】
光透過率とは、JIS K 7361−1(ISO 13468−1に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率をいう。
【0091】
本発明の有機光電変換素子においては、耐久性の観点から逆層型が好ましく、よって、第1の電極は、透明なカソード(陰極)であることが好ましく、第2の電極はアノード(陽極)であることが好ましい。
【0092】
以下、好適な実施形態である逆層型の有機光電変換素子の電極について説明する。なお、透光性のある電極を透明電極とも称し、透光性の低い電極を対電極とも称する。
【0093】
〔第1の電極〕
本発明の第1の電極(透明電極)に用いられる材料としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の金属または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等を用いることができる。
【0094】
また、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン及びポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせてカソードとすることもできる。
【0095】
〔第2の電極〕
第2の電極は導電材単独層であってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
【0096】
カソードである透明電極の仕事関数がおよそ−5.0〜−4.0eVであるため、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層で生成したキャリアが拡散してそれぞれの電極に到達するためには、ビルトインポテンシャル、すなわちアノードとカソード間の仕事関数の差がなるべく大きいことが好ましい。
【0097】
したがって、アノードの導電材としては、仕事関数の大きい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、金、銀、銅、白金、ロジウム、インジウム、ニッケル、パラジウム等が挙げられる。これらの中で、正孔の取り出し性能、光の反射率、及び酸化等に対する耐久性の点から、銀が最も好ましい。
【0098】
第一の電極および第二の電極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0099】
また、アノード側を光透過性とする場合は、例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金、銀及び銀化合物等のアノードに適した導電性材料を薄く1〜20nm程度の膜厚で作製した後、導電性光透過性材料の膜を設けることで、光透過性アノードとすることができる。
【0100】
なお上記は耐久性向上に有利な、いわゆる逆層型素子とするための第2の電極材料に好ましい材料を記載したが、いわゆる順層型(第1の電極がアノードで第2の電極がカソード)とするためには、前述のように第1電極および第2の電極の仕事関数の関係を逆転させればよいが、実質的に透明な電極は種類が限られておりその仕事関数は比較的深いものが多いため、実際には第2の電極側に仕事関数の浅い(−4.0eV未満)金属を使用することで順層型の有機薄膜太陽電池とすることができる。そのような金属としては、たとえば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。一般的には反射率が高く導電性の高いアルミニウムが使用される。また、第2の電極は、透明な電極であっても良い。「透明な」とは、前述の第1電極の記載と同様の意味を有する。
【0101】
〔電荷再結合層;中間電極〕
また、前記図3のようなタンデム構成の場合に必要となる電荷再結合層(中間電極)の材料としては、透明性と導電性と、を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、前記アノードで用いたような材料(ITO、AZO、FTO、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の金属または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等)を用いることができる。
【0102】
なお、前述した正孔輸送層と電子輸送層の中には、適切に組み合わせて積層することで中間電極(電荷再結合層)として働く組み合わせもあり、このような構成とすると1層形成する工程を省くことができ好ましい。
【0103】
〔透明な基板〕
本発明の有機光電変換素子は、必要に応じて基板を含みうる。基板は、電極を塗布方式で形成する場合における、塗布液の被塗布部材としての役割を有する。基板は透明な基板であるが、「透明な」とは前述の第1電極の記載と同様の意味を有する。
【0104】
基板としては、例えばガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられる。本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
【0105】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜800nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、好ましく適用することができる。
【0106】
中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0107】
本発明に用いられる透明基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0108】
また、酸素及び水蒸気の透過を抑制する目的で、透明基板にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0109】
〔その他の層〕
本発明の有機光電変換素子の構成としては、光電変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。
【0110】
中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層等を挙げることができる。
【0111】
また、本発明の有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していてよい。光学機能層としては、例えば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、カソードで反射した光を散乱させて再度発電層に入射させることができるような光拡散層等を設けてもよい。
【0112】
反射防止層としては、各種公知の反射防止層を設けることができるが、例えば、透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基板と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化錫ゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0113】
集光層としては、例えば、支持基板の太陽光受光側にマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより特定方向からの受光量を高めたり、逆に太陽光の入射角度依存性を低減することができる。
【0114】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付き、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0115】
また、光散乱層としては、各種のアンチグレア層、金属または各種無機酸化物等のナノ粒子・ナノワイヤ等を無色透明なポリマーに分散した層等を挙げることができる。
【0116】
〔パターニング〕
本発明に係る各々の電極、光電変換層、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。
【0117】
光電変換層、輸送層等の可溶性の材料であれば、ダイコート、ディップコート等の全面塗布後に不要部だけ拭き取ってもよいし、インクジェット法やスクリーン印刷等の方法を使用して塗布時に直接パターニングしてもよい。
【0118】
電極材料等の不溶性の材料の場合は、電極を真空堆積時にマスク蒸着を行ったり、エッチングまたはリフトオフ等の公知の方法によってパターニングしたりすることができる。また、別の基板上に形成したパターンを転写することによってパターンを形成してもよい。
【0119】
〔太陽電池〕
上記有機光電変換素子は、優れた光電変換効率および耐久性を有するため、太陽電池に好適に使用されうる。
【0120】
本発明の太陽電池は、上記有機光電変換素子を具備し、太陽光に最適の設計並びに回路設計が行われ、太陽光を光源として用いたときに最適な光電変換が行われるような構造を有する。
【0121】
即ち、光電変換層に太陽光が照射されうる構造となっており、本発明の太陽電池を構成する際には、前記光電変換層及び各々の電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0122】
封止の方法としては、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子等で公知の手法によって封止することが好ましい。
【0123】
例えば、アルミまたはガラスで出来たキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化珪素、酸化アルミニウム等)または有機膜(パリレン等)を真空下で堆積する方法、及びこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0125】
(比較例1)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−101の作製〕
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(シート抵抗12Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィ技術と湿式エッチングとを用いて10mm幅にパターニングし、第1の電極を形成した。パターン形成した第1電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。これ以降は基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。
【0126】
この第1の電極上に、Aldrich社製3−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランの0.05質量%メトキシエタノール溶液を、乾燥膜厚が約5nmになるようにブレードコーターを用いて塗布乾燥した。その後、ホットプレート上で120℃1分間の加熱処理をして、電子輸送層を製膜した。
【0127】
次いで、o−ジクロロベンゼンに、p型有機半導体材料であるPCDTBTを0.6質量%、n型有機半導体材料であるPC71BM(フロンティアカーボン製nanom spectra E110)を1.2質量%で混合した溶液を調製し、オーブンで100℃に加熱しながら撹拌(60分間)してPCDTBTとPC71BMを溶解した後、0.20μmのフィルタでろ過をかけながら、乾燥膜厚が約100nmになるようにブレードコーターを用いて塗布し、80℃で2分間乾燥して、光電変換層を製膜した。
【0128】
続いて、基板を真空蒸着装置内に移動し、10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次に、蒸着速度0.5nm/秒でAgメタルを200nm積層して、第2の電極を形成した。得られた積層体を窒素チャンバーに移動し、2枚の凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)の間に挟みこみ、UV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて封止を行った後に大気下に取り出し、受光部が約10×10mmサイズの比較となる有機光電変換素子SC−101を得た。
【0129】
(比較例2)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−102の作製〕
ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−コ−N−[4−(3−メチル−プロピル)]−ジフェニルアミン)(TFB)5mgを1mLのブタノールに入れ、80℃で10時間撹拌させることによりHTL−1を調製した。
【0130】
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、HTL−1を乾燥膜厚が5nmになるようにブレードコーターで用いて塗布し、TFB層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−102を得た。
【0131】
(実施例1)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−103の作製〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、基板を真空蒸着装置内に移動し10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でフラーレンC60を5nm積層して導電性材料層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−103を得た。
【0132】
(実施例2)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−104の作製〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、基板を真空蒸着装置内に移動し10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でZnメタルを5nm積層して導電性材料層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−104を得た。
【0133】
(実施例3)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−105の作製〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、基板を真空蒸着装置内に移動し10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でAuメタルを3nm積層して導電性材料層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−105を得た。
【0134】
(実施例4)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−106の作製〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、基板を真空蒸着装置内に移動し10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でAgメタルを3nm積層して導電性材料層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化タングステンを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−106を得た。
【0135】
(実施例5)
〔逆層構成型有機光電変換素子SC−108の作製〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、光電変換層を製膜した後、基板を真空蒸着装置内に移動し10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でAuメタルを3nm積層して導電性材料層を製膜した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化バナジウムを5nm積層し無機酸化物層を形成して正孔輸送層を形成したこと以外は、有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−108を得た。
【0136】
(比較例3)
〔順層構成型有機光電変換素子SC−201の作製〕
実施例1で作製した有機光電変換素子2と同様の素材及び組成を用いて、以下のような順層型の有機光電変換素子を作製した。
【0137】
実施例1と同じ透明基板を同様の工程で洗浄した後、基板を真空蒸着装置内に移動し1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し正孔輸送層を形成した。
【0138】
これ以降は、基板をグローブボックス中に持ち込み、窒素雰囲気下で作業した。まず、窒素雰囲気下で上記基板を再度140℃で10分間再度加熱処理した。
【0139】
o−ジクロロベンゼンに、p型有機半導体材料であるPCDTBTを0.6質量%、n型有機半導体材料であるPC71BM(フロンティアカーボン製nanom spectra E110)を1.2質量%で混合した溶液を調製し、オーブンで100℃に加熱しながら撹拌(60分間)してPCDTBTとPC71BMを溶解した後、0.20μmのフィルタでろ過をかけながら、乾燥膜厚が約100nmになるようにブレードコーターを用いて塗布し、80℃で2分間乾燥して、光電変換層を製膜した。
【0140】
次に、上記一連の有機層を成膜した基板を大気に晒すことなく真空蒸着装置内に設置した。10mm幅のシャドウマスクが透明電極と直交するように素子をセットし、10−3Pa以下にまで真空蒸着機内を減圧した後、フッ化リチウムを0.6nm、対極としてアルミニウムを100nm蒸着した。最後に120℃で30分間の加熱を行い、積層体を得た。なお蒸着速度は2nm/秒で、10mm角のサイズとした。
【0141】
得られた積層体は、窒素雰囲気下でUV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)と貼り合わせて封止した後に大気下に取り出し、有機光電変換素子SC−201を得た。
【0142】
(実施例6)
〔順層構成型有機光電変換素子SC−202の作製〕
有機光電変換素子SC−201の作製において、透明基板を洗浄した後、基板を真空蒸着装置内に移動し、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒で酸化モリブデンを5nm積層し無機酸化物層を形成した後、蒸着速度0.03nm/秒でAuメタルを3nm積層して導電性材料層を製膜した以外は有機光電変換素子SC−201と同様にして、有機光電変換素子SC−202を得た。
【0143】
(シート抵抗値の測定)
JIS K 7194:1994(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)に準拠して導電性材料層を構成する材料をガラス基板上に100nm堆積させた膜のシート抵抗値を25℃50%RHの条件で測定した。シート抵抗値を含め、各実施例および比較例の有機光電変換素子の仕様を以下の表1にまとめた。
【0144】
【表1】

【0145】
(光電変換効率の評価)
上記の方法により作製した有機光電変換素子に、ソーラーシュミレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を4.0mmにしたマスクを受光部に重ね、短絡電流密度Jsc(mA/cm)及び開放電圧Voc(V)、曲線因子(フィルファクター)FFを、同素子上に形成した4箇所の受光部についてそれぞれ測定し、平均値と最大値と最小値の差を求めた。また、Jsc、Voc、FFから下記数式1に従ってエネルギー変換効率(PCE:Power Conversion Efficiency)η(%)を求めた。
【0146】
【数1】

【0147】
評価の結果を下記の表2に示す。平均値の数字が大きい程エネルギー変換効率(光電変換効率)が良好であることを示す。
【0148】
(光電変換効率の耐久性評価)
光電変換効率の評価を行った有機光電変換素子を、陽極と陰極との間に抵抗を接続したまま80℃に加熱し、ソーラーシュミレーター(AM1.5G)の光を10倍の1000mW/cmの照射強度で100h暴露し続けた。その後、有機光電変換素子を室温に冷却し、上記と同様に同素子上に形成した4箇所の受光部についてそれぞれ光電変換効率η(%)を求めた。下記数式2に従って変換効率の相対効率低下を算出した。
【0149】
【数2】

【0150】
評価の結果を下記の表2に示す。平均値の数字が小さい程、エネルギー変換効率の耐久性(光電変換効率の耐久性)が良好であることを示す。
【0151】
【表2】

【0152】
以上の結果より、実施例1〜6の有機光電変換素子は、導電性材料層のない比較例1および3の光電変換効率を維持しつつ、耐久性が大幅に向上することがわかる。また、シート抵抗値が高いTFB層と無機酸化物層との二層構成の正孔輸送層を有する比較例2の有機光電変換素子と比較して、実施例1〜6の有機光電変換素子は、耐久性が向上するとともに、変換効率も向上した。
【符号の説明】
【0153】
10、20、30 有機光電変換素子、
11 基板、
12 第1の電極、
13 第2の電極、
14 光電変換層、
14a 第1の光電変換層、
14b 第2の光電変換層、
15 電荷再結合層、
17 正孔輸送層、
17a 無機酸化物層、
17b 導電性材料層、
18 電子輸送層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極、正孔輸送層、光電変換層および第二の電極がこの順に積層されてなる有機光電変換素子であって、
前記正孔輸送層が無機酸化物を含む無機酸化物層と、
100nm堆積時のシート抵抗値が1×10−1Ω/□以下であり、導電性材料を含む導電性材料層と、を含み、
前記無機酸化物層、前記導電性材料層および前記光変換層がこの順に配置されてなる、有機光電変換素子。
【請求項2】
前記シート抵抗値が1×10−6Ω/□以上である、請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記導電性材料の仕事関数またはHOMO準位が4.7eVより深い、請求項1または2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記導電性材料が、導電性カーボン材料および金属の少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記金属がAu、AgおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記無機酸化物が酸化モリブデン、酸化タングクテンおよび酸化バナジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機光電変換素子を有する、太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−89627(P2013−89627A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225800(P2011−225800)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】