説明

有機光電変換素子およびこれを用いた太陽電池

【課題】耐久性に優れ、かつ十分な光電変換効率を発揮することができる有機光電変換素子およびそれを用いた太陽電池を提供する。
【解決手段】第一の電極、第二の電極、前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置される金属酸化物を含む正孔輸送層およびバルクヘテロジャンクション型の光電変換層、ならびに前記正孔輸送層と前記光電変換層との間に配置される自己組織化単分子層、を有する、有機光電変換素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子およびこれを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の削減が切に望まれている。また、近い将来、石油、石炭、および天然ガス等の化石燃料が枯渇することが予想されており、これらに替わる地球に優しいエネルギー資源の確保が急務となっている。そこで、太陽光、風力、地熱、原子力等利用した発電技術の開発が盛んに行われているが、なかでも太陽光発電は、安全性の高さから特に注目されている。
【0003】
太陽光発電では、光起電力効果を利用した光電変換素子を用いて、光エネルギーを直接電力に変換する。光電変換素子は、一般的に、一対の電極の間に光電変換層(光吸収層)が挟持されてなる構造を有し、当該光電変換層において光エネルギーが電気エネルギーに変換される。光電変換素子は、光電変換層に用いられる材料や、素子の形態により、単結晶・多結晶・アモルファスのSiを用いたシリコン系光電変換素子、GaAsやCIGS(銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる半導体)等の化合物半導体を用いた化合物系光電変換素子、色素増感型光電変換素子(グレッツェルセル)等が提案・実用化されている。
【0004】
しかしながら、これらの太陽電池を用いた場合の発電コストは、依然として化石燃料を用いて発電・送電する場合のコストと比較して高く、これが太陽光発電の普及の妨げとなっていた。また、基板に重いガラスを用いなければならないため、屋根等に設置する場合に補強工事が必要であり、これらも発電コストを高騰させる一因であった。
【0005】
太陽光発電における発電コストを低減させるための技術として、透明電極と対電極との間に、電子供与性有機化合物(p型有機半導体)と電子受容性有機化合物(n型有機半導体)との混合物を光電変換層として含むバルクへテロジャンクション型の光電変換素子が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
バルクへテロジャンクション型有機光電変換素子は、軽量で柔軟性に富むことから、様々な製品への応用が期待されている。また、構造が比較的単純であり、p型有機半導体およびn型有機半導体を塗布することによって光電変換層を形成できることから、大量生産に好適であり、コストダウンによる太陽電池の早期普及にも寄与するものと考えられる。より具体的には、バルクへテロジャンクション型有機光電変換素子において、電極(陽極および陰極)等を構成する金属層や金属酸化物層は蒸着法等により形成されうるが、これら以外の層は塗布プロセスを用いて形成することができる。したがって、バルクへテロジャンクション型光電変換素子の製造は高速でかつ安価に行うことが可能であると期待され、上述した発電コストの課題を解決できる可能性があると考えられるのである。さらに、従来のシリコン系光電変換素子、化合物系光電変換素子、色素増感型光電変換素子等の製造とは異なり、160℃よりも高温の製造プロセスを必須に伴うものではないため、安価でかつ軽量なプラスチック基板上への形成も可能であると期待される。
【0007】
しかしながら、有機光電変換素子は、他のタイプの光電変換素子と比較して、光電変換効率や、熱や光に対する耐久性が十分とはいえない。
【0008】
例えば、有機光電変換素子は一般的な有機エレクトロニクスデバイス(例えば、有機薄膜トランジスタ(OTFT)や有機発光ダイオード(OLED))と同様に、酸素や水分の影響を受けやすいという問題点を有している。素子に酸素や水分が侵入すると、素子が劣化し、素子寿命が短くなってしまうため、バリア部材(例えば、バリアフィルムやガラス板等)を用いることにより、これらの侵入を防ぐことが必要となる。
【0009】
しかしながら、バリア部材で封止した場合であっても、製造中に混入しそのまま残存した微量の水分や酸素、バリア部材を透過してしまう微量の水分や酸素等が素子中には不可避的に存在する。このように微量の水分が存在する状態で、連続した光照射を行った場合、主には正孔輸送層材料として使用されるPEDOT:PSS(poly(3,4−ethylenedioxythiophene):poly(styrenesulfonate))等に含まれるイオン性物質等が拡散したり、p型半導体材料およびn型半導体材料によって形成されるバルクヘテロジャンクション層(光電変換層)のモルフォロジーが変化したりすることにより、短絡電流密度(JSC)の減衰が起き、素子の寿命が著しく短くなってしてしまうことが問題となっていた。
【0010】
これらの問題への対策として、例えば、正孔輸送材料として使用されるPEDOT:PSSの代わりに、酸化モリブデン(MoO)などの酸化物半導体層を用いることで、暗所保存の安定性が向上する技術が提案されている。さらにMoOなどの金属酸化物を用いた場合極薄膜で製膜ができ、求める機能を発揮することが可能なことから、従来のPEDOT:PSSと比較して層自体の抵抗を低くすることができ、素子の高効率化には欠かせない技術となっている(例えば、非特許文献2、特許文献1など)。
【0011】
また、酸化物半導体を使用した効率向上技術として金属酸化物層と光電変換層の間に自己組織化単分子膜(SAM)を形成する技術が報告されている。金属酸化物層上にSAMを形成させることにより真空準位を調整し、より高いVocを得ることに成功している(例えば、非特許文献3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−91381号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】A.Heeger et al.,Nature Mat.,vol.6(2007),p497
【非特許文献2】Adv. Mater. 2011, 23, 2226−2230
【非特許文献3】J. Appl. Phys. 101, 114503(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記文献に記載された技術を以てしても、十分な耐久性と光電変換効率が得られないことが判明した。すなわち、上記非特許文献2および上記特許文献1に記載された技術によると、連続的な光照射によって光電変換素子を駆動させた場合、酸化物半導体と有機層との界面で大きな準位のミスマッチが発生することで、短絡電流密度(JSC)の減衰が起き、素子の寿命が著しく短くなってしまうことが分かった。この準位のミスマッチによる連続した光照射下での素子の寿命の低下については、上記非特許文献3にはなんら記載がなく、さらにこの界面ミスマッチによる界面での大きな準位のミスマッチの発生は正孔輸送層側に用いられる金属酸化物の方が顕著であり、上記非特許文献3はこれらの課題を解決するものではなかった。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、耐久性に優れ、かつ十分な光電変換効率を発揮することができる有機光電変換素子およびそれを用いた太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、金属酸化物からなる正孔輸送層と光電変換層との間に、自己組織化単分子層を有することで、連続的な光照射によって光電変換素子を駆動させた場合においても、耐久性に優れ、かつ十分な光電変換効率が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、第一の電極、第二の電極、前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置される金属酸化物を含む正孔輸送層およびバルクヘテロジャンクション型の光電変換層、ならびに前記正孔輸送層と前記光電変換層との間に配置される自己組織化単分子層、を有する、有機光電変換素子である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐久性に優れ、かつ十分な光電変換効率を発揮することができる有機光電変換素子およびその有機光電変換素子を用いた太陽電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の有機光電変換素子の効果を模式的に説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態による、有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【図3】本発明の他の実施形態による、有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態による、タンデム型の光電変換層を備えた有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、第一の電極、第二の電極、前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置される金属酸化物を含む正孔輸送層およびバルクヘテロジャンクション型の光電変換層、ならびに前記正孔輸送層と前記光電変換層との間に配置される自己組織化単分子層、を有する、有機光電変換素子である。
【0021】
正孔輸送層と光電変換層との間に自己組織化単分子層を有することで、p型半導体と無機酸化物から形成される正孔輸送層との間で、HOMO準位同士をよりオーミックに接続することが出来、連続的な光照射によって光電変換素子を駆動させた場合にも正孔輸送層と光電変換層との界面で大きな準位のミスマッチ発生を低減することができる。その結果、短絡電流密度(JSC)の減衰が抑制され、耐久性(素子の寿命)が向上しうる。
【0022】
この効果を、さらに図1を用いて模式的に説明すれば、図1の(a)に示すような自己組織化単分子層を有さない有機光電変換素子における正孔輸送層と光電変換層との界面では、HOMO準位の大きなミスマッチが発生している。しかしながら、図1の(b)に示すような本発明の有機光電変換素子は、自己組織化単分子層を有することにより、正孔輸送層の仕事関数が浅くなり、正孔輸送層と光電変換層との間において、HOMO準位同士をよりオーミックに接続することが出来る。この効果により、連続的な光照射によって正孔輸送層のHOMO準位が深くシフトする方向に働いても界面でのミスマッチを低減させることができ、その結果、短絡電流密度(JSC)の減衰が抑制され、耐久性(素子の寿命)が向上しうる。
【0023】
以下、添付した図面を参照しながら本発明の好ましい形態を説明するが、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるべきものであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0024】
(有機光電変換素子の構成)
図2は、本発明の一実施形態による、順層型の有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【0025】
有機光電変換素子10は、基板11上に、第1の電極12、正孔輸送層17、光電変換層14、電子輸送層18、第2の電極13がこの順に積層されてなる。そして、正孔輸送層17と光電変換層14との間に、自己組織化単分子層19が配置されている。
【0026】
本発明の一態様として、基板11および第1の電極12は透明であり、光電変換に用いられる光は、基板11の側から照射され、第1の電極12および正孔輸送層17を経て、光電変換層14へと届く。
【0027】
光電変換層14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを含有する。
【0028】
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。
【0029】
ここで、電子供与体および電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体および電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0030】
図2において、基板11を介して第1の電極12から入射された光は、光電変換層14における電子受容体あるいは電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
【0031】
発生した電荷は内部電界、例えば、第1の電極12と第2の電極13との仕事関数が異なる場合では第1の電極12と第2の電極13との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ、光電流が検出される。
【0032】
図2の例では、第1の電極12の仕事関数は第2の電極13の仕事関数よりも大きいため、正孔は第1の電極12へ、電子は第2の電極13へ輸送される。この場合、第2の電極13には仕事関数が小さく酸化されやすい金属が用いられる。この場合、第1の電極はアノード(陽極)として、第2の電極はカソード(陰極)として機能する。
【0033】
図3に本発明の他の一実施形態による、逆層型の有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【0034】
図3においては、図2の場合とは反対に、第1の電極12の仕事関数よりも第2の電極13の仕事関数を大きくすることで、電子を第1の電極12へ、正孔を第2の電極13へと輸送するように設計した場合を示した。この場合には、第1の電極12と光電変換層14との間に電子輸送層18を有し、光電変換層14と第2の電極13との間に正孔輸送層17を有し、第1の電極はカソード(陰極)として、第2の電極はアノード(陽極)として機能する。そして、正孔輸送層17と光電変換層14との間には、自己組織化単分子層19が配置されている。
【0035】
なお、図2および図3には記載していないが、本発明の有機光電変換素子は、正孔ブロック層、電子ブロック層、あるいは平滑化層等の層を有していてもよい。
【0036】
さらに、太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、このような光電変換素子を積層した、タンデム型の構成としてもよい。図4は、タンデム型の光電変換層を備えた有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。
【0037】
タンデム型の構成の場合、基板11上に第1の電極12、正孔輸送層17、第1の光電変換層14a、電荷再結合層15をこの順に積層した後、第2の光電変換層14b、電子輸送層18、次いで第2の電極13を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。
【0038】
そして、正孔輸送層17と第1の光電変換層14aとの間には、自己組織化単分子層19が配置されている。
【0039】
第2の光電変換層14bは、第1の光電変換層14aの吸収スペクトルと同じスペクトルを吸収する層でもよいし、異なるスペクトルを吸収する層でもよいが、より広い波長域の光を効率よく電気に変化することが可能となるため、好ましくは異なるスペクトルを吸収する層である。
【0040】
以下、本発明に係る有機光電変換素子の各構成について詳細に説明する。
【0041】
〔正孔輸送層〕
正孔輸送層とは、アノードと光電変換層の中間に位置して、光電変換層と電極との間で正孔の授受をより効率的にすることのできる層のことである。なお、光電変換層に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する正孔輸送層には、光電変換層で生成した電子をアノード側には流さないような整流効果を有する、電子ブロック機能が付与される。このような正孔輸送層は電子ブロック層とも呼ばれ、このような機能を有する正孔輸送層を使用するほうが好ましい。
【0042】
本発明に係る正孔輸送層は、金属酸化物を含む。
【0043】
正孔輸送層に用いられる金属酸化物としては、例えば、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タングステン(W)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、レニウム(Re)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、トリウム(Tr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、あるいはランタン(La)からルテチウム(Lu)までのいわゆる希土類元素などの酸化物が挙げられる。正孔輸送能に優れるという観点からは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)およびレニウム(Re)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含むことが好ましく、三酸化モリブデン、三酸化タングステン、酸化ニッケル、および五酸化二バナジウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。これら金属酸化物は、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0044】
正孔輸送層の厚さは、特に制限はないが、通常1〜1000nmである。正孔輸送性と正孔注入(取出し)性との観点から、より好ましくは2〜50nm、さらに好ましくは3〜20nmである。
【0045】
正孔輸送層は一般的な製膜方法を用いて形成でき、例えば、加熱真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法、スパッタ法、CVD法、大気圧プラズマ法などのドライプロセス、塗布法、メッキ法、電界形成法などのウェットプロセスなどを用いることができる。中でも特に好ましいのは、加熱真空蒸着法(実施例)である。
【0046】
〔光電変換層〕
光電変換層は、光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する。光電変換層は、光電変換材料として、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料を含有する。これらの光電変換材料に光が吸収されると、励起子が発生し、これがpn接合界面において、正孔と電子とに電荷分離される。
【0047】
光電変換層に使用されるp型有機半導体材料は、好適にはp型共役系高分子を含有する。このp型共役系高分子は、主鎖に電子供与性基(ドナー性ユニット)および電子吸引性基(アクセプター性ユニット)を有する共重合体である。より具体的には、p型共役系高分子は、ドナー性ユニットとアクセプター性ユニットとが交互に配列するように重合された構造を有する。このように、ドナー性ユニットとアクセプター性ユニットとが交互に配列することにより、p型有機半導体の吸収域を長波長域に拡大することができる。すなわち、p型共役系高分子は、従来のp型有機半導体の吸収域(例えば、400〜700nm)に加え、長波長域(例えば、700〜1000nm)の光も吸収することができるため、太陽光スペクトルの広い範囲にわたる放射エネルギーを効率よく吸収させることが可能となる。
【0048】
p型共役系高分子に含まれうるドナー性ユニットとしては、同じπ電子数を有する炭化水素芳香環(ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなど)よりもLUMO準位またはHOMO準位が浅くなるようなユニットであれば、制限なく使用できる。例えば、チオフェン環、フラン環、ピロール環、シクロペンタジエン若しくはシラシクロペンタジエンなどの複素5員環、およびこれらの縮合環を含むユニットである。
【0049】
具体的には、フルオレン、シラフルオレン、カルバゾール、ジチエノシクロペンタジエン、ジチエノシラシクロペンタジエン、ジチエノピロール、ベンゾジチオフェンなどを挙げることができる。
【0050】
ドナー性ユニットは、好ましくは下記化学式1で表される構造である。
【0051】
【化1】

【0052】
式中、Zは、炭素原子、ケイ素原子、またはゲルマニウムを表し、
は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のフッ化アルキル基、炭素原子数3〜30の置換または非置換のシクロアルキル基、炭素原子数6〜30の置換または非置換のアリール基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のヘテロアリール基、または炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキルシリル基を表し、2つのRは互いに結合して環を形成してもよい。また、Rは互いに異なっていても良い。
【0053】
また、下記化学式2で表される構造もドナー性ユニットとして好適である。
【0054】
【化2】

【0055】
式中、Rは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキル基、炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルコキシ基、または炭素原子数1〜20の置換または非置換のアルキルエステル基を表す。Rは互いに異なっていてもよい。
【0056】
上記RおよびRにおける炭素原子数1〜20のアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基などが挙げられる。
【0057】
上記Rにおける炭素原子数3〜30のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0058】
上記Rにおける炭素原子数6〜30のアリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0059】
上記Rにおける炭素原子数6〜30のヘテロアリール基としては、ピロール基、フラン基、チオフェニル基、ピリジル基、ピリミジル基などが挙げられる。
【0060】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。
【0061】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などの直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられる。
【0062】
上記Rにおける炭素原子数1〜20のアルキルエステル基としては、メチルエステル基、エチルエステル基、n−プロピルエステル基、i−プロピルエステル基、n−ブチルエステル基、2−メチルプロピルエステル基、1−メチルプロピル基、t−ブチルエステル基、ペンチルエステル基、ヘキシルエステル基、ヘプチルエステル基、オクチルエステル基、ノニルエステル基、デシルエステル基、ウンデシルエステル基、ドデシルエステル基などが挙げられる。
【0063】
なお、上記化学式1および化学式2において、アルキル基、フッ化アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルシリル基、アルコキシ基、またはアルキルエステル基に場合によって存在する置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。なお、該置換基は、RおよびRとして用いられる骨格となる基と互いに異なるものを適用する。
【0064】
上記化学式1および2で表されるドナー性ユニットは、移動度の高いチオフェン構造が縮合して大きなπ共役平面を有しつつも、置換基により溶解性が付与されている。このようなドナー性ユニットは、溶解性と移動度が共に優れているため、より一層、光電変換効率を向上させることが可能となる。
【0065】
一方、p型共役系高分子に含まれうるアクセプター性ユニットとしては、例えば、キノキサリン骨格、ピラジノキノキサリン骨格、ベンゾチアジアゾール骨格、ベンゾオキサジアゾール骨格、ベンゾセレナジアゾール骨格、ベンゾトリアゾール骨格、ピリドチアジアゾール骨格、チエノピラジン骨格、フタルイミド骨格、3,4−チオフェンジカルボン酸イミド骨格、イソインディゴ骨格、チエノチオフェン骨格、ジケトピロロピロール骨格、4−アシル−チエノ[3,4−b]チオフェン骨格、ピラゾロ[5,1−c][1,2,4]トリアゾール骨格などが挙げられる。なお、本形態のp型共役高分子に含まれるドナー性ユニットまたはアクセプター性ユニットは、それぞれ、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本形態において、好ましいp型共役高分子としては、Nature Material,(2006)vol.5,p328に記載のポリチオフェン−チエノチオフェン共重合体、国際公開第08/000664号パンフレットに記載のポリチオフェン−ジケトピロロピロール共重合体、Adv.Mater.,2007,p4160に記載のポリチオフェン−チアゾロチアゾール共重合体、Nature Mat.vol.6(2007),p497に記載のPCDTBT(ポリチオフェン−カルバゾール−ベンゾチアジアゾール共重合体)などのポリチオフェン共重合体などが挙げられる。なかでもPCDTBTがより好ましい。
【0067】
上記p型共役高分子の分子量は、特に制限はないが、数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、15,000〜50,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が5,000以上であると、曲線因子向上の効果がより一層顕著になる。一方、数平均分子量が500,000以下であると、p型共役高分子の溶解性が向上するため、生産性を上げることができる。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した値を採用する。
【0068】
なお、上述したp型共役系高分子以外のその他のp型有機半導体材料を含んでもよい。このようなその他のp型有機半導体材料としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。ただし、本発明の作用効果を顕著に発現させるという観点からは、光電変換層に含まれるp型有機半導体材料に占めるp型共役系高分子の質量割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0069】
光電変換層に含まれるp型有機半導体材料のバンドギャップは、1.8eV以下であることが好ましく、1.6〜1.1eVであることがより好ましい。バンドギャップが1.8eV以下であると、幅広く太陽光を吸収できる。一方、バンドギャップが1.1eV以上であると、開放電圧Voc(V)が出やすくなり、変換効率が向上しうる。なお、p型有機半導体は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても勿論構わない。
【0070】
一方、光電変換層に使用されるn型有機半導体材料も、アクセプター性(電子受容性)の有機化合物であれば特に制限はなく、本技術分野で使用されうる材料を適宜採用することができる。このような化合物としては、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、オクタアザポルフィリンなど、上記p型有機半導体材料の水素原子をフッ素原子に置換したパーフルオロ体(例えば、パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニンなど)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミドなどの芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む高分子化合物などが挙げられる。
【0071】
このうち、p型有機半導体材料と高速(〜50fs)かつ効率的に電荷分離を行うことができるという観点から、フラーレンもしくはカーボンナノチューブまたはこれらの誘導体を用いることが好ましい。より具体的には、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン(円錐型)など、およびこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換されたまたは非置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基などによって置換されたフラーレン誘導体が挙げられる。
【0072】
特に、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PCBM)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nブチルエステル(PCBnB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−イソブチルエステル(PCBiB)、[6,6]−フェニルC61−ブチリックアシッド−nヘキシルエステル(PCBH)、[6,6]−フェニルC71−ブチリックアシッドメチルエステル(略称PC71BM)、Adv.Mater.,vol.20(2008),p2116に記載のbis−PCBM、特開2006−199674号公報に記載のアミノ化フラーレン、特開2008−130889号公報に記載のメタロセン化フラーレン、米国特許第7,329,709号明細書に記載の環状エーテル基を有するフラーレンなどのような、置換基により溶解性が向上されてなるフラーレン誘導体を用いることが好ましい。なお、n型有機半導体材料は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0073】
本発明に係る光電変換層における、p型有機半導体およびn型有機半導体の接合形態は、バルクへテロ接合(バルクヘテロジャンクション)である。バルクヘテロ接合(バルクヘテロジャンクション)とは、p型有機半導体とn型有機半導体との混合物を塗布することにより形成され、この単一の層中において、p型有機半導体のドメインとn型有機半導体のドメインとがミクロ相分離構造をとっている。したがって、バルクヘテロ接合では、平面へテロ接合と比較して、pn接合界面が層全体に亘って数多く存在することになる。よって、光吸収により生成した励起子の多くがpn接合界面に到達できることになり、電荷分離に至る効率を高めることができる。
【0074】
光電変換層に含まれるp型有機半導体材料とn型有機半導体材料との混合比は、質量比で2:8〜8:2の範囲が好ましく、より好ましくは4:6〜6:4の範囲である。また、光電変換層の膜厚は、好ましくは50〜400nmであり、より好ましくは80〜300nmである。
【0075】
〔自己組織化単分子層〕
本発明の有機光電変換素子は、前記正孔輸送層と前記光電変換層との間に、自己組織化単分子層を有する。
【0076】
自己組織化単分子層とは、有機化合物、特に吸着基を有する有機化合物が、該吸着基を介して無機材料に吸着することで得られる層である。その吸着機構において、有機化合物と無機材料との間では、単分子の層のみが自己組織化された状態で形成されることから、自己組織化単分子層または自己組織化単分子膜(SAM、Self−Assembled Monolayer)と呼ばれている。
【0077】
このような自己組織化単分子層を形成する有機化合物は、一般に、無機材料に結合可能な官能基(吸着基)と、その反対側に電子供与性基または電子吸引性基といった無機材料の表面性を改質する(表面エネルギーを制御する)官能基(末端基)と、これらの官能基を結ぶ芳香族基または直鎖状もしくは分枝状の炭素鎖等の連結基と、を備えるものであり、本発明に係る自己組織化単分子層も、かような有機化合物が好適に用いられる。
【0078】
前記吸着基としては、例えば、チオール基(−SH)、ホスホン酸基(−PO(OH)2)、カルボキシル基(−COOH)、カルボニルクロライド基(−COCl)、カルボニルブロマイド基(−COBr)、クロロシラン基(−SiCl)、ブロモシラン基(−SiBr)、アルコキシシラン基(−SiOR)等が挙げられる。
【0079】
前記末端基としては、例えば、アルキル基、アミノ基(−NR)、ヒドロキシ基(−OH)、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基(−OR)、フェノキシ基等のアリールオキシ基、トリフルオロメチル基(−CF)、フェノセニル基、キノニル基、ポルフィニル基等の電子供与性基が挙げられる。
【0080】
前記芳香族基としては、例えば、フェニレン基等が挙げられる。前記炭素鎖としては、例えば、炭素数3〜10の直鎖状または分枝状のアルキレン基等が挙げられる。
【0081】
本発明に係る自己組織化単分子層を形成する有機化合物をさらに具体的に例示すると、例えば、安息香酸、4−メチル安息香酸、4−メトキシ安息香酸、4−アミノ安息香酸等の連結基として芳香族基を有する化合物;オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、フェネチルトリメトキシシラン、フェノキシオクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェネチルトリエトキシシラン、フェノキシオクタデシルトリエトキシシラン、フェネチルトリクロロシラン、フェノキシオクタデシルトリクロロシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリクロロシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン、10−アミド−1−デカンチオール、16−アミノ−1−ヘキサデカンチオール、18−アミノ−1−オクタデカンチオール等の連結基として炭素鎖を有する化合物等が挙げられる。
【0082】
前記吸着基は、金属酸化物上への製膜性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0083】
また、前記末端基は、光電変換層のエネルギー準位と金属酸化物(正孔輸送層)のエネルギー準位とがよりオーミックに接続する方向の双極子を形成することができる観点から、電子供与性基であることが好ましく、アミノ基またはメトキシ基がより好ましい。
【0084】
なお、前記電子供与性基は光電変換層側に配向していることが好ましく、前記吸着基は正孔輸送層側に配向していることが好ましい。このような配向により、光電変換層のエネルギー準位と金属酸化物(正孔輸送層)のエネルギー準位とがよりオーミックに接続する方向の双極子を形成することができ、本発明の効果がさらに向上する。
【0085】
該自己組織化単分子層の形成方法は、特に制限されず、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、分子線エピタキシー法等のドライプロセス、スピンコート法(実施例)、ディップ法、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)等のウェットプロセスが挙げられる。製膜の容易さの観点から、好ましくはウェットプロセスである。
【0086】
ウェットプロセスを用いる場合、溶液中の有機化合物の濃度は特に限定されないが、希薄溶液の場合には単分子層の形成が不十分になり、また、濃厚溶液の場合には第二層が形成される可能性があるため、好ましくは0.5〜5mMである。自己組織化単分子層を形成する化合物を含む溶液を塗布した後、溶媒のみで再度塗布(リンス)することにより余分な自己組織化単分子層を除去することができる。この場合の溶媒は、溶液に使用したものと同じでも異なってもよく、適宜選択することができる。溶媒の種類は特に限定されず、有機化合物が溶解すれば非極性溶媒でも極性溶媒でも構わない。例えば、n−へキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、エタノール、エトキシエタノール、2−プロパノール、水等が挙げられる。
【0087】
〔電極〕
本発明の有機光電変換素子においては、第1の電極および第2の電極を有するが、タンデム構成をとる場合には、中間電極を用いることでタンデム構成を達成することができる。
【0088】
本発明において、第1の電極は、透明な電極であることが好ましい。
【0089】
「透明な」とは、光透過率が50%以上であるものをいう。
【0090】
光透過率とは、JIS K 7361−1:1997(ISO 13468−1:1996 に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率をいう。
【0091】
本発明の有機光電変換素子においては、耐久性の観点から逆層型が好ましく、よって、第1の電極は、透明なカソード(陰極)であることが好ましく、第2の電極はアノード(陽極)であることが好ましい。
【0092】
以下、好適な実施形態である逆層型の有機光電変換素子の電極について説明する。なお、透光性のある電極を透明電極とも称し、透光性の低い電極を対電極とも称する。
【0093】
〔第1の電極〕
本発明の第1の電極(透明電極)に用いられる材料としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の金属または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等を用いることができる。
【0094】
また、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレンおよびポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる導電性高分子等も用いることができる。また、これらの導電性化合物を複数組み合わせてカソードとすることもできる。
【0095】
〔第2の電極〕
第2の電極は導電材単独層であってもよいが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。
【0096】
カソードである透明電極の仕事関数がおよそ−5.0〜−4.0eVであるため、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層で生成したキャリアが拡散してそれぞれの電極に到達するためには、ビルトインポテンシャル、すなわちアノードとカソード間の仕事関数の差がなるべく大きいことが好ましい。
【0097】
したがって、アノードの導電材としては、仕事関数の大きい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、金、銀(実施例)、銅、白金、ロジウム、インジウム、ニッケル、パラジウム等が挙げられる。これらの中で、正孔の取り出し性能、光の反射率、および酸化等に対する耐久性の点から、銀(実施例)が最も好ましい。
【0098】
第一の電極および第二の電極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nm(実施例:第1の電極150nm、第2の電極200nm)の範囲で選ばれる。
【0099】
また、アノード側を光透過性とする場合は、例えば、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銀および銀化合物等のアノードに適した導電性材料を薄く1〜20nm程度の膜厚で作製した後、導電性光透過性材料の膜を設けることで、光透過性アノードとすることができる。
【0100】
なお上記は耐久性向上に有利な、いわゆる逆層型素子とするための第2の電極材料に好ましい材料を記載したが、いわゆる順層型(第1の電極がアノードで第2の電極がカソード)とするためには、前述のように第1電極および第2の電極の仕事関数の関係を逆転させればよいが、実質的に透明な電極は種類が限られておりその仕事関数は比較的深いものが多いため、実際には第2の電極側に仕事関数の浅い(−4.0eV未満)金属を使用することで順層型の有機薄膜太陽電池とすることができる。そのような金属としては、たとえば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。一般的には反射率が高く導電性の高いアルミニウムが使用される。また、第2の電極は、透明な電極であっても良い。「透明な」とは、前述の第1電極の記載と同様の意味を有する。
【0101】
〔電荷再結合層;中間電極〕
また、図3のようなタンデム構成の場合に必要となる電荷再結合層(中間電極)の材料としては、透明性と導電性とを併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、前記アノードで用いたような材料(ITO、AZO、FTO、SnO、ZnO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au、Pt等の金属または金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノワイヤやナノ粒子、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等)を用いることができる。
【0102】
なお、前述した正孔輸送層と電子輸送層の中には、適切に組み合わせて積層することで中間電極(電荷再結合層)として働く組み合わせもあり、このような構成とすると1層形成する工程を省くことができ好ましい。
【0103】
〔電子輸送層〕
本発明の有機光電変換素子は、必要に応じて電子輸送層を含みうる。
【0104】
電子輸送層とは、カソードと光電変換層との間に位置して、光電変換層と電極との間で電子の授受をより効率的にすることができる層のことである。
【0105】
電子輸送層は、金属化合物を有することによって仕事関数が浅く、かつ重合していることが好ましい。電子輸送層における仕事関数とは電子輸送層自体のHOMO−LUMO準位を指すが、単分子膜のように極薄膜の電子輸送層の積層により隣接する電極の仕事関数を変化させる場合には電極の仕事関数を電子輸送層の仕事関数として明記する。
【0106】
電子輸送層としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、国際公開第04/095889号パンフレットに記載のカルボリン化合物等を用いることができるが、同様に、光電変換層に用いられるp型半導体材料のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する電子輸送層には、光電変換層で生成した正孔をカソード側には流さないような整流効果を有する、正孔ブロック機能が付与される。より好ましくは、n型半導体のHOMO準位よりも深い材料を電子輸送層として用いることである。正孔を阻止する特性から、正孔移動度が10−6よりも低い化合物を用いることが好ましい。また、電子を輸送する特性から、電子移動度の高い化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、電子移動度が10−4以上の化合物である。
【0107】
このような材料としては、バソキュプロイン等のフェナントレン系化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、国際公開第08/134492号パンフレットに記載のアミン系シランカップリング剤のようなアミン化合物、および酸化チタン(TiOX)、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物を用いることができる。また、光電変換層に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。
【0108】
これらの層を形成する手段としては、真空蒸着法、溶液塗布法のいずれであってもよいが、好ましくは溶液塗布法である。
【0109】
電子輸送層の厚さは、特に制限がないが、通常1〜2000nmである。リーク防止効果を高める観点からは、厚さ5nm以上であることが好ましい。また、高い透過率と低い抵抗を維持する観点からは、厚さは1000nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。
【0110】
〔透明な基板〕
本発明の有機光電変換素子は、必要に応じて基板を含みうる。基板は、電極を塗布方式で形成する場合における、塗布液の被塗布部材としての役割を有する。基板は透明な基板であるが、「透明な」とは前述の第1電極の記載と同様の意味を有する。
【0111】
基板としては、例えばガラス基板や樹脂基板等が好適に挙げられる。本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
【0112】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜800nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、好ましく適用することができる。
【0113】
中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度およびコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0114】
本発明に用いられる透明基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0115】
また、酸素および水蒸気の透過を抑制する目的で、透明基板にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0116】
〔その他の層〕
本発明の有機光電変換素子の構成としては、光電変換効率の向上や、素子寿命の向上を目的に、各種中間層を素子内に有する構成としてもよい。
【0117】
中間層の例としては、正孔ブロック層、電子ブロック層、正孔注入層、電子注入層、励起子ブロック層、UV吸収層、光反射層、波長変換層等を挙げることができる。
【0118】
また、本発明の有機光電変換素子は、太陽光のより効率的な受光を目的として、各種の光学機能層を有していてよい。光学機能層としては、例えば、反射防止膜、マイクロレンズアレイ等の集光層、カソードで反射した光を散乱させて再度発電層に入射させることができるような光拡散層等を設けてもよい。
【0119】
反射防止層としては、各種公知の反射防止層を設けることができるが、例えば、透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基板と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化錫ゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0120】
集光層としては、例えば、支持基板の太陽光受光側にマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工したり、あるいは所謂集光シートと組み合わせたりすることにより特定方向からの受光量を高めたり、逆に太陽光の入射角度依存性を低減することができる。
【0121】
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を2次元に配列する。一辺は10〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付き、大きすぎると厚みが厚くなり好ましくない。
【0122】
また、光散乱層としては、各種のアンチグレア層、金属または各種無機酸化物等のナノ粒子・ナノワイヤ等を無色透明なポリマーに分散した層等を挙げることができる。
【0123】
〔パターニング〕
本発明に係る各々の電極、光電変換層、正孔輸送層、電子輸送層等をパターニングする方法やプロセスには特に制限はなく、公知の手法を適宜適用することができる。
【0124】
光電変換層、電子輸送層等の可溶性の材料であれば、ダイコート、ディップコート、スピンコート、ブレードコート等の全面塗布後に不要部だけ拭き取ってもよいし、インクジェット法やスクリーン印刷等の方法を使用して塗布時に直接パターニングしてもよい。
【0125】
電極材料等の不溶性の材料の場合は、電極を真空堆積時にマスク蒸着を行ったり、エッチングまたはリフトオフ等の公知の方法によってパターニングしたりすることができる。また、別の基板上に形成したパターンを転写することによってパターンを形成してもよい。
【0126】
〔太陽電池〕
上記有機光電変換素子は、優れた光電変換効率および耐久性を有するため、太陽電池に好適に使用されうる。
【0127】
本発明の太陽電池は、上記有機光電変換素子を具備し、太陽光に最適の設計並びに回路設計が行われ、太陽光を光源として用いたときに最適な光電変換が行われるような構造を有する。
【0128】
即ち、光電変換層に太陽光が照射されうる構造となっており、本発明の太陽電池を構成する際には、前記光電変換層および各々の電極をケース内に収納して封止するか、あるいはそれら全体を樹脂封止することが好ましい。
【0129】
封止の方法としては、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、有機光電変換素子だけでなく有機エレクトロルミネッセンス素子等で公知の手法によって封止することが好ましい。
【0130】
例えば、アルミまたはガラスで出来たキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化珪素、酸化アルミニウム等)または有機膜(パリレン等)を真空下で堆積する方法、およびこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ではない。
【0132】
〔p型半導体材料(PCDTBT)の調製〕
p型半導体材料として、ポリチオフェン−カルバゾール−ベンゾチアジアゾール共重合体(PCDTBT)を、Adv.Mater.,vol.19,(2007)p2295に記載の方法にしたがって合成した。得られた重合体をソックスレー抽出により精製し、数平均分子量(Mn):35,000、PDI:2.0であるPCDTBTを得た。
【0133】
〔自己組織化単分子層(SAM層)形成用溶液A〜Eの調製〕
安息香酸(化合物A)、10−アミド−1−ドデカンチオール(化合物B)、4−メチル安息香酸(化合物C)、4−アミノ安息香酸(化合物D)、および4−メトキシ安息香酸(化合物E)をそれぞれ1mMの濃度でエタノールに溶解させ、1昼夜室温で攪拌することにより、自己組織化単分子層(以下、単にSAM層とも称する)形成用溶液A〜Eを調製した。
【0134】
(比較例1)
〔有機光電変換素子SC−101の作製〕
ガラス基板上に、インジウムスズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(シート抵抗12Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィ技術と湿式エッチングとを用いて10mm幅にパターニングし、第1の電極を形成した。パターン形成した第1電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0135】
基板を真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒で三酸化モリブデン(MoO)を5nm積層し正孔輸送層を形成した。
【0136】
次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動した。o−ジクロロベンゼンに、p型有機半導体材料であるPCDTBTを0.6質量%、n型有機半導体材料であるPC71BM(フロンティアカーボン製nanom spectra E110)を1.2質量%で混合した溶液を調製し、オーブンで100℃に加熱しながら撹拌(60分間)してPCPDTBTとPC71BMとを溶解した後、0.20μmのフィルタでろ過をかけながら、乾燥膜厚が約100nmになるようにブレードコーターを用いて塗布し、80℃で2分間乾燥して、光電変換層を製膜した。
【0137】
次に、150mMのTiO前駆体溶液を透明電極上にスピンコート(回転速度5000rpm、回転時間60秒間)し、所定のパターンに拭き取った。そして、これを空気中で2時間放置して、TiO前駆体を加水分解させた後、150℃で1時間加熱処理することにより膜厚約10nmのTiO層からなる電子輸送層を形成した。
【0138】
なお、上記150mMのTiO前駆体溶液は、次の方法(ゾルゲル法)により調製した。100mL三口フラスコに、2−メトキシエタノール12.5mLと、6.25mmolのチタニウムテトライソプロポキシドとを入れ、氷浴中で10分間冷却した。次に、12.5mmolのアセチルアセトンをゆっくり加えて、氷浴中で10分間撹拌した。次に、この混合溶液を80℃で2時間加熱後、1時間還流した。これを室温(25℃)まで冷却し、2−メトキシエタノールを用いて濃度150mMに調整し、TiO前駆体溶液を得た。なお、上記工程は全て窒素雰囲気で行った。
【0139】
次に、蒸着速度0.5nm/秒でAgメタルを200nm積層して、第2の電極を形成した。得られた積層体を窒素チャンバーに移動し、2枚の凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)の間に挟みこみ、UV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて封止を行った後に大気下に取り出し、受光部が約10×10mmサイズの比較となる有機光電変換素子SC−101を得た。
【0140】
(比較例2)
〔有機光電変換素子SC−102の作製:比較例2〕
有機光電変換素子SC−101の作製において、MoOを5nm積層した代わりに五酸化二バナジウム(V)を5nm積層して正孔輸送層とした以外は、SC−101と同様にして有機光電変換素子SC−102を得た。
【0141】
(実施例1)
〔有機光電変換素子SC−103の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、パルスレーザー蒸着法にて蒸着速度0.03nm/秒で酸化ニッケル(NiO)を5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Eを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、NiO上にSAM層Eを形成した。
【0142】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−103を得た。
【0143】
(実施例2)
〔有機光電変換素子SC−104の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Aを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、MoO上にSAM層Aを形成した。
【0144】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−104を得た。
【0145】
(実施例3)
〔有機光電変換素子SC−105の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Bを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、MoO上にSAM層Bを形成した。
【0146】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−105を得た。
【0147】
(実施例4)
〔有機光電変換素子SC−106の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Cを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、MoO上にSAM層Cを形成した。
【0148】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−106を得た。
【0149】
(実施例5)
〔有機光電変換素子SC−107の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Dを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、MoO上にSAM層Dを形成した。
【0150】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−107を得た。
【0151】
(実施例6)
〔有機光電変換素子SC−108の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でVを5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Eを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、V上にSAM層Eを形成した。
【0152】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−108を得た。
【0153】
(実施例7)
〔有機光電変換素子SC−109の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板を、真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒で三酸化タングステン(WO)を5nm積層し正孔輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Eを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、WO上にSAM層Eを形成した。
【0154】
これ以降は有機光電変換素子SC−101と同様にして、有機光電変換素子SC−109を得た。
【0155】
(比較例3)
〔有機光電変換素子SC−201の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板上に、150mMのTiO前駆体溶液を透明電極上にスピンコート(回転速度5000rpm、回転時間60秒間)し、所定のパターンに拭き取った。そして、これを空気中で2時間放置して、TiO前駆体を加水分解させた後、150℃で1時間加熱処理することにより膜厚約10nmのTiO層からなる電子輸送層を形成した。
【0156】
次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動した。o−ジクロロベンゼンに、p型有機半導体材料であるPCDTBTを0.6質量%、n型有機半導体材料であるPC71BM(フロンティアカーボン製nanom spectra E110)を1.2質量%で混合した溶液を調製し、オーブンで100℃に加熱しながら撹拌(60分間)してPCDTBTとPC71BMを溶解した後、0.20μmのフィルタでろ過をかけながら、乾燥膜厚が約100nmになるようにブレードコーターを用いて塗布し、80℃で2分間乾燥して、光電変換層を製膜した。真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。
【0157】
次に、蒸着速度0.5nm/秒でAgメタルを200nm積層して、第2の電極を形成した。得られた積層体を窒素チャンバーに移動し、2枚の凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)の間に挟みこみ、UV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて封止を行った後に大気下に取り出し、受光部が約10×10mmサイズの比較となる有機光電変換素子SC−201を得た。
【0158】
(比較例4)
〔有機光電変換素子SC−202の作製〕
有機光電変換素子SC−101の製法と同様の方法で準備した基板上に、150mMのTiO前駆体溶液を透明電極上にスピンコート(回転速度5000rpm、回転時間60秒間)し、所定のパターンに拭き取った。そして、これを空気中で2時間放置して、TiO前駆体を加水分解させた後、150℃で1時間加熱処理することにより膜厚約10nmのTiO層からなる電子輸送層を形成した。次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動し、先に調製したSAM形成用溶液Eを2000rpmでスピンコートした後、エタノールのみを2000rpmでスピンコートしてリンスすることで、TiO上にSAM層Eを形成した。
【0159】
次いで、基板をグローブボックス内(酸素濃度10ppm、露点温度−80度)に移動した。o−ジクロロベンゼンに、p型有機半導体材料であるPCDTBTを0.6質量%、n型有機半導体材料であるPC71BM(フロンティアカーボン製nanom spectra E110)を1.2質量%で混合した溶液を調製し、オーブンで100℃に加熱しながら撹拌(60分間)してPCDTBTとPC71BMを溶解した後、0.20μmのフィルタでろ過をかけながら、乾燥膜厚が約100nmになるようにブレードコーターを用いて塗布し、80℃で2分間乾燥して、光電変換層を製膜した。真空蒸着装置内に移動してセットし、1×10−3Pa以下にまで真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.03nm/秒でMoOを5nm積層し正孔輸送層を形成した。
【0160】
次に、蒸着速度0.5nm/秒でAgメタルを200nm積層して、第2の電極を形成した。得られた積層体を窒素チャンバーに移動し、2枚の凸版印刷製透明バリアフィルムGX(水蒸気透過率0.05g/m/d)の間に挟みこみ、UV硬化樹脂(ナガセケムテックス株式会社製、UV RESIN XNR5570−B1)を用いて封止を行った後に大気下に取り出し、受光部が約10×10mmサイズの比較となる有機光電変換素子SC−202を得た。
【0161】
<初期光電変換効率の評価>
上記で作製した有機光電変換素子について、ソーラーシミュレーター(AM1.5Gフィルタ)の100mW/cmの強度の光を照射し、有効面積を1cmにしたマスクを受光部に重ね、I−V特性を評価することで、短絡電流密度Jsc[mA/cm]、開放電圧Voc[V]およびフィルファクターFFを測定し、初期光電変換効率ηを下記式1より算出した。評価結果を表1に示す。
【0162】
【数1】

【0163】
<光安定性の評価>
上記で作製した有機光電変換素子を85℃のホットプレート上に置き、2波長タイプの白色LED(東芝製小型SMD)を光源に用い、上記初期光電変換効率の評価において測定された短絡電流密度Jscとほぼ同じ値(約1Sun)になるようLEDの光量を調整し、1000時間光照射した。光照射後の短絡電流密度Jscを、上記光電変換効率の評価における測定方法に従って測定し、初期Jscに対する劣化後のJscの割合(保持率)[%]を求めた。評価結果を表1に示す。
【0164】
【表1】

【0165】
上記表1から明らかなように、金属酸化物からなる正孔輸送層上にSAM層を形成し、光電変換層と正孔輸送層との界面の調整を行ったものは、経時でのJscの低下が少なく安定な素子が得られていることがわかる。ホールブロック層(電子輸送層)に金属酸化物を用いていても、正孔輸送層側の界面さえ調整すれば、Jscの劣化はほとんどない。
【0166】
逆にホールブロック層側のみSAM層で界面を調整したもの(比較例4)は、SAM層で調整を行っていないものと同様のJscの劣化が生じ、素子の安定化には正孔輸送層側をSAM層で界面を調整することが不可欠であることがわかる。
【符号の説明】
【0167】
10、20、30 有機光電変換素子、
11 基板、
12 第1の電極、
13 第2の電極、
14 光電変換層、
14a 第1の光電変換層、
14b 第2の光電変換層、
15 電荷再結合層、
17 正孔輸送層、
18 電子輸送層、
19 自己組織化単分子層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極、
第二の電極、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置される、金属酸化物を含む正孔輸送層およびバルクヘテロジャンクション型の光電変換層、ならびに
前記正孔輸送層と前記光電変換層との間に配置される自己組織化単分子層、
を有する、有機光電変換素子。
【請求項2】
前記正孔輸送層が、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)およびレニウム(Re)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の酸化物を含む、請求項1に記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記自己組織化単分子層を形成する化合物が電子供与性基および吸着基を有する、請求項1または2に記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記電子供与性基がアミノ基またはメトキシ基である、請求項3に記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記吸着基がカルボキシル基である、請求項3または4に記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記電子供与性基が光電変換層側に配向し、前記吸着基が正孔輸送層側に配向している、請求項3〜5のいずれか1項に記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機光電変換素子を有する、太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89684(P2013−89684A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227042(P2011−227042)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】