説明

有機化合物の結晶およびその製造方法

【課題】水に含まれる特定の有機化合物から、速やかに該有機化合物の結晶を調製することができ、容積効率に優れ、かつスケーリングを起こさずに、該有機化合物の結晶を製造する方法を提供する。
【解決手段】有機化合物の結晶は、一般式(1)
【化1】


(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)で表される。有機化合物の結晶の製造方法は、有機溶媒に、有機化合物を含む水溶液を供給して、水溶液を微小化させて、懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、懸濁液の水溶液から水を有機溶媒とともに共沸蒸留させて有機化合物の結晶を晶析させる晶析工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物の結晶およびその製造方法に関するものであり、例えば、酸発生剤を生成するための中間体としての有機化合物の結晶、および、晶析による有機化合物の結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パターン形状が優れたレジストを与える酸発生剤として、例えば、特許文献1には、一般式(2)で表される酸発生剤が開示されている。
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、Xは−OHまたは−Y−OHを表し、Yは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキレン基を表し、nは1〜9の整数を表し、Aは有機対イオンを表す。)
そして、上記酸発生剤の中間体として、例えば、特許文献1には、一般式(1)で表される有機化合物が開示されている。具体的には、一般式(1)で表される有機化合物のフルオロスルホニルのカルボン酸メチルエステルを水酸化ナトリウムで加水分解して水溶液を得て、該水溶液のまま、カルボン酸のエステル化を行うことが開示されている。
【0005】
【化2】

【0006】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)
ここで、従来、有機化合物の結晶を取り出すための蒸発晶析方法としては、水の中に懸濁液、即ち、化合物を有機溶媒に分散させたものを滴下し、さらにそれらを攪拌し、水と、滴下された懸濁液中の有機溶媒とを共沸蒸留することにより、懸濁液中の化合物を結晶として取り出す方法が知られている。
【0007】
例えば、特許文献2には、有機化合物を有機溶媒に溶解又は懸濁させた液を、有機溶媒が沸騰する温度以上であり、かつ、有機化合物の融点以下である温度条件の水に供給し、さらにそれらを攪拌し、有機溶媒を蒸発(水との共沸蒸留)させて有機化合物を晶析する方法であり、特に、有機化合物の溶液又は懸濁液を、水面よりも下に供給する蒸発晶析方法が示されている。
【0008】
また、特許文献3には、有機化合物を有機溶媒に溶解又は懸濁させた液を、有機溶媒が沸騰する温度以上あり、かつ、有機化合物の融点以下である温度条件の水に供給し、さらにそれらを攪拌し、有機溶媒を蒸発させて有機化合物を晶析する方法であり、特に、有機化合物の溶液又は懸濁液を、攪拌翼近傍の水中に、かつ、水の流れ方向に供給する蒸発晶析方法が示されている。
【0009】
また、特許文献4には、有機化合物を有機溶媒に溶解又は懸濁させた液を、有機溶媒が沸騰する温度以上であり、かつ、有機化合物の融点以下である温度条件の水に供給し、さらにそれらを攪拌し、有機溶媒を蒸発させて有機化合物を晶析する方法であり、特に、単位体積当りの攪拌動力(kW/m)が一定になるように、攪拌槽内の液量の変動に応じて攪拌翼の回転数を制御する晶析方法が示されている。
【特許文献1】特開2006−257078号公報(平成18年9月28日公開)
【特許文献2】特開平11−290601号公報(平成11年10月26日公開)
【特許文献3】特開2001−104703号公報(平成13年4月17日公開)
【特許文献4】特開2004−209434号公報(平成16年7月29日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、一般式(1)で表される有機化合物の水溶液中に含まれる有機化合物のエステル化方法については詳細には開示されておらず、本発明者らが検討したところ水を除去すると、反応容器に付着してしまい、工業的に好ましくないという問題があった。
【0011】
本発明者らが一般式(1)で表される有機化合物を結晶として取り出して、容積効率の向上を検討したところ、上記特許文献2〜4に示される蒸発晶析方法,晶析方法では、攪拌槽の壁面に結晶が付着する現象(以下、「スケーリング」という)が起き、結晶を工業的に、効率よく得ることができないという問題点が明らかになった。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、水に含まれる特定の有機化合物から、速やかに該有機化合物の結晶を調製することができ、容積効率に優れ、かつスケーリングが少ない、該有機化合物の結晶を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、上記有機化合物の水溶液を特定の有機溶媒に供給して、該有機化合物の水溶液を微小化させて、懸濁液を調製し、水と該有機溶媒とを共沸蒸留させることにより、微小な結晶が、高収率、高純度で得られるという技術的思想を独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の有機化合物の結晶は、上記課題を解決するために、一般式(1)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)で表されることを特徴としている。
【0017】
上記発明によれば、上記有機化合物の結晶は塩であるため、水に溶解し易い。その結果、上記有機化合物の結晶は、高濃度水溶液を速やかに調製することができる。
【0018】
また、本発明の有機化合物の結晶は、Q、Qがともにフッ素原子であることが好ましい。
【0019】
これにより、酸発生剤を製造するための中間体として好適なカルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウムの結晶を提供することができる。
【0020】
また、本発明の有機化合物の結晶は、粒径が、1μm以上、1000μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0021】
これにより、例えば、酸発生剤等を製造するための中間体等として好適な有機化合物の結晶を製造することができる。その結果、上記結晶を速やかにレジスト溶液等に溶解させることが可能となる。
【0022】
また、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記課題を解決するために、上記有機化合物の結晶を製造する方法であって、上記有機化合物を溶解せず、水と混和せず、かつ水と共沸可能な有機溶媒に、該有機化合物を含む水溶液を供給して、該水溶液を微小化させて、懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、該懸濁液の該水溶液から水を該有機溶媒とともに共沸蒸留させて該有機化合物の結晶を晶析させる晶析工程とを含むことを特徴としている。
【0023】
上記発明によれば、上記有機化合物を溶解せず、水と混和せず、かつ水と共沸可能な有機溶媒に、該有機化合物を含む水溶液を供給して、該水溶液を微小化させて、懸濁液を調製する懸濁液調製工程を含むことにより、上記懸濁液調製工程を含まない場合と比較して、上記有機化合物の水溶液の水滴をより小さくすることができる。また、上記懸濁液から、水及び上記有機溶媒を共沸蒸留させて上記有機化合物を晶析させる晶析工程を含むことにより、上記有機化合物を結晶化することができる。本発明の有機化合物の結晶の製造方法によれば、上記有機化合物が結晶化した後のスケーリングを防止することができる。
【0024】
さらに、上記発明によれば、上記懸濁液調製工程を含むことにより、上記有機化合物の水溶液を有機溶媒に懸濁させずに晶析する場合と比較して、上記有機化合物の水溶液の水滴をより小さくすることができる。その結果、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記晶析工程で、上記懸濁液から水及び上記有機溶媒を共沸蒸留させる際に、上記有機化合物の単位体積あたりの表面積が大きくなることで、結晶化した後のスケーリングを防止することができ、結晶の収率を向上させることができる。
【0025】
また、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記懸濁液調製工程では、上記有機溶媒と上記有機化合物を含む水溶液とが多孔膜を介して存在し、該有機化合物を含む水溶液を透過させることにより、懸濁液を調製することが好ましい。さらに、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記懸濁液調製工程では、上記多孔膜の外面にある上記有機溶媒に、上記有機化合物を含む水溶液を該多孔質の内面から供給し、該多孔膜を透過させることにより、該多孔膜の外面で該有機化合物を含む水溶液を微小化させることが好ましい。
【0026】
これにより、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、多孔膜の孔を用いて上記有機化合物の水溶液と有機溶媒とを懸濁することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、水に含まれる特定の有機化合物から、速やかに該有機化合物の結晶を調製することができ、容積効率に優れ、かつスケーリングを起こさずに、該有機化合物の結晶を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明について、以下に詳細に説明する。
【0029】
(I)本発明の有機化合物の結晶
本発明の有機化合物の結晶は、一般式(1)
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)で表される化合物の結晶である。
【0032】
また、本発明の有機化合物の結晶は、Q、Qがそれぞれ独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、フッ素原子であることが好ましい。
【0033】
また、本発明の有機化合物の結晶は、粒径が、通常、0.5μm以上、1000μm以下の範囲内であることが好ましく、1μm以上、500μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
なお、一般式(1)
【0035】
【化5】

【0036】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)で表される有機化合物と、一般式(3)
【0037】
【化6】

【0038】
(式中、Xは−OHまたは−Y−OHを表し、nは1〜9の整数を表す。Yは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキレン基を表す。)で表されるアルコールとをエステル化反応させて、一般式(4)
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を表し、Xは−OHまたは−Y−OHを表し、nは1〜9の整数を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表し、Yは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキレン基を表す。)で表されるエステル体塩を得ることができる。
【0041】
そして、上記エステル体塩と、一般式(5)
【0042】
【化8】

【0043】
(式中、Aは有機対イオンを表し、ZはF、Cl、Br、I、BF、AsF、SbF、PFまたはClOを表す。)で表されるオニウム塩とを、例えば、アセトニトリル、水、メタノール、クロロホルム、塩化メチレン等の不活性溶媒中にて、0℃〜150℃程度の温度範囲、好ましくは0℃〜100℃程度の温度範囲にて撹拌して反応させて、一般式(2)
【0044】
【化9】

【0045】
(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、Xは−OHまたは−Y−OHを表し、Yは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐アルキレン基を表し、nは1〜9の整数を表し、Aは有機対イオンを表す。)で表される酸発生剤を得ることができる。
【0046】
(II)本発明の有機化合物の結晶の製造方法
本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記有機化合物を溶解せず、水と混和せず、かつ水と共沸可能な有機溶媒に、上記有機化合物を含む水溶液を供給して、上記水溶液を微小化させて、懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、該懸濁液から上記水溶液の水を該有機溶媒とともに共沸蒸留させて該有機化合物の結晶を晶析させる晶析工程とを含む。
【0047】
ここで、微小化とは、粒径が1μm以上、1000μm以下の水滴にすることを意味する。また、共沸蒸留とは、水及び有機溶媒を含む混合物の沸点が、水及び有機溶媒の沸点よりも低い場合、該混合物の沸点で水及び有機溶媒を蒸留することを意味する。晶析対象となる有機化合物の水溶液(水滴)が有機溶媒と混合され、該水溶液から水が有機溶媒とともに蒸留され、晶析対象となる有機化合物は、有機溶媒に溶解しないことから、結晶として取り出すことができる。
【0048】
<晶析>
晶析とは、晶析対象となる有機化合物を結晶として析出することをいう。具体的には、後述する有機溶媒が存在する共沸蒸留槽で晶析対象となる有機化合物を含む水溶液を攪拌しながら水及び有機溶媒を共沸蒸留して留去して晶析する方法、共沸温度以上に調製された有機溶媒が流れる薄膜連続蒸発器に懸濁液を混合させる方法などが挙げられる。晶析された有機化合物は、例えば、濾過、遠心分離、乾燥等の手段を用いて取り出すことができる。
【0049】
<懸濁>
本発明の懸濁とは、晶析対象となる有機化合物を含有する水溶液が、該有機化合物を溶解しない有機溶媒に分散または乳化していることをいう。本発明の有機化合物の結晶の製造方法では、上記水溶液の上記有機溶媒への分散性等を考慮して、例えば、分散剤を用いた分散、乳化剤を用いた乳化、界面活性剤を用いた分散または乳化、多孔膜を用いた分散または乳化、多孔膜以外の孔の空いた材料を用いた分散または乳化、スプレーを用いた分散または乳化、ホモミキサーを用いた分散または乳化等が挙げられる。その中でも、晶析対象となる有機化合物が何であるかに関わらず懸濁することができるという理由から、多孔膜を用いた分散または乳化、多孔膜以外の孔の空いた材料を用いた分散または乳化、スプレーを用いた分散または乳化、ホモミキサーを用いた分散または乳化が好ましい。また、懸濁液中の上記有機化合物の径を制御することができるという理由から、多孔膜を用いた分散または乳化がより好ましく、とりわけ、乳化剤や界面活性剤を用いない多孔膜を用いた分散または懸濁は、得られる有機化合物が、かかる剤を含有しないことから好ましい。
【0050】
また、本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記晶析工程では、上記懸濁液1容量部に対して、上記有機溶媒を0.8〜20容量部供給することが好ましい。0.8容量部以上であると、水が速やか留去されることから好ましく、20容量部以下であると晶析工程における容積効率に優れる傾向があることから好ましい。また、速やかに水が留去されるという理由から、上記懸濁液1容量部に対して、上記有機溶媒を3容量部以上供給することが好ましい。
【0051】
懸濁液調製工程に多孔膜を用いる場合には、水溶液1重量部に対して、有機溶媒は1重量部以上、水と有機溶媒との共沸組成以下であることが好ましい。多孔膜の場合には、得られる微小な水溶液(水滴)間の間隔が小さいことから、1重量部以上の多くの有機溶媒を用いてすばやく懸濁させることにより、懸濁液を安定化させることができることから好ましい。また、水と有機溶媒との共沸組成より多い溶媒を用いると、晶析工程で水が蒸発する際に、共沸蒸留槽内に有機溶媒が蓄積されるため、大きな容器が必要となり、容積効率が低下する。よって、水と有機溶媒との共沸組成以下の溶媒量であることが好ましい。
【0052】
本発明の有機化合物の結晶の製造方法において、晶析対象となる有機化合物を水に懸濁させて懸濁液とするが、該懸濁液に、さらに、有機溶媒を加えてもいい。
【0053】
多孔膜を用いた懸濁(分散または乳化)は、上記有機化合物を含む水溶液を多孔膜に通過させることにより行う。これにより、懸濁液を調製することができる。中でも、上記有機化合物及び水の混合物を連続的に多孔膜に通過させることにより、懸濁液を調製する方法が、分散剤、乳化剤、界面活性剤などの微小な結晶を得られることから好ましい。また、上記多孔膜の内面から上記有機化合物の水溶液を透過させることにより、該多孔膜の外面にある有機溶媒に供給することによって、上記有機化合物を微小化させることが好ましい。
【0054】
多孔膜とは、多くの孔が空いた膜のことをいい、上記有機化合物及び水の混合物を通過させるものであれば、膜の材質、膜の面積、膜厚、膜の強度、孔の数、孔の径等は、上記有機化合物及び水の混合物を多孔膜に通過させる方法または条件により適宜変更し得るものである。
【0055】
例えば、上記多孔膜の材質として、有機膜であっても、無機膜であってもよい。ここで、有機膜とは、高分子等を用いた膜のことをいう。また、無機膜とは、セラミックス等の無機材料を用いた膜のことをいう。中でも、耐熱性、耐薬品性に優れているという理由から、上記多孔膜には、少なくともフッ素樹脂が用いられていることが好ましく、さらに、ほとんど全ての有機溶剤、酸、アルカリに侵されない、即ち、耐腐食性に優れているという理由から、上記多孔膜には、ポリテトラフルオロエチレンが用いられていることがより好ましい。特に、多孔膜を有機溶媒中に浸漬させる場合には、多孔膜は、耐有機溶媒性を有するポリテトラフルオロエチレンが用いられていることがより好ましい。
【0056】
また、上記多孔膜の形状は、例えば、平面状、柱状、チューブ状等であってもよい。
【0057】
また、多孔膜の孔径が0.05μm〜10μmであることが好ましく、0.1μm〜2μmであることがより好ましく、0.1μm〜1μmであることが特に好ましい。また、孔径は、0.05μm以上であると、通液時間が短縮される傾向や、水滴を通すために必要な圧力が低減される傾向があることから好ましく、10μm以下であると、得られる結晶が槽壁にスケーリングする現象が低減される傾向があることから好ましい。
【0058】
<有機溶媒>
上記有機化合物及び水に対して難溶性を有する有機溶媒は、上記有機化合物によって異なるため、上記有機溶媒は、用いる有機化合物の種類によって、適宜設定することが好ましい。
【0059】
上記有機化合物及び水に対して難溶性を有する有機溶媒は、上記有機化合物を溶解せず、水と混和せず、かつ、水と共沸可能な有機溶媒である。
【0060】
例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−へプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン等の炭素数5〜12の炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼン等の炭素数5〜12のハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数4〜12のケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、メチルセルソルブ等の炭素数4〜12のエーテル類等が挙げられる。ここで、「水と混和せず」とは、水と相溶状態を呈さないことを意味する。
【0061】
<得られる結晶>
本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記有機化合物の結晶を収率99%〜100%という高収率、高純度で晶析することができる。収率を求める際に、得られる結晶の量を算出する方法としては、例えば、晶析工程終了後に析出した結晶の量を測定する方法、晶析工程で蒸発させた水に対する上記有機化合物の濃度から算出する方法等を用いればよい。
【0062】
<懸濁液調製工程>
上記懸濁液調製工程では、水溶液および溶媒のいずれか一方もしくは両方に、必要であれば分散剤、乳化剤、界面活性剤を添加して、多孔膜、攪拌、スプレー等により懸濁液を調製する。
【0063】
例えば、多孔膜による懸濁液の調製は、上記有機化合物及び水、さらに場合によっては上記有機溶媒を含む混合物を多孔膜に通過させることにより行う。中でも、上記混合物を連続的に多孔膜に通過させることにより、懸濁液を調製する方法が、分散剤、乳化剤、界面活性剤などの微小な結晶を得られることから好ましい。
【0064】
多孔膜による懸濁液調製工程は、連続操作(シングルパス形式)、回分式濃縮操作、ダイアフィルトレーション、フィード・アンド・ブリード等の操作で行われる。ここで、連続操作とは、原液をポンプにより連続的に供給し、連続的に保持液(多孔膜を通過しなかった液)と通過液(多孔膜を通過した液)を得る形式をいう。さらに、保持液側を止めた操作のことをデッドエンド型の連続操作という。また、回分式濃縮操作とは、原液をポンプにより連続的に供給し、保持液は原液タンクに戻され、通過液は系外に取り出される形式をいう。また、ダイアフィルトレーションとは、原液をポンプにより連続的に供給し、保持液は原液タンクに戻され、通過液は系外に取り出され、原液タンクに溶媒を加えながら行う形式をいう。また、フィード・アンド・ブリードとは、連続操作において保持液の循環を伴う形式をいう。
【0065】
また、例えば、攪拌による懸濁液の調製は、上記有機化合物及び水、さらに場合によっては上記有機溶媒を攪拌装置によって攪拌することにより行う。攪拌装置としては、例えば、ホモミキサー等が挙げられる。
【0066】
また、例えば、スプレーによる懸濁液の調製は、上記有機化合物を含む水溶液、さらに場合によっては上記有機溶媒を含む混合物をスプレーによって噴射することにより行う。
【0067】
<晶析工程>
上記晶析工程では、上記懸濁液の温度は、水が沸騰する温度以上であり、かつ、上記有機化合物の融点以下、好ましくは有機溶媒の沸点以下である。例えば、有機溶媒がモノクロロベンゼンであれば、通常、110℃以上、135℃以下であることが好ましい。
【0068】
共沸蒸留された水および有機溶媒は、通常、凝縮器によって凝縮される。有機溶媒が水と分液可能であれば、該有機溶媒は再利用することができる。
【0069】
上記懸濁液の温度は、例えば、マントルヒーター、投げ込みヒーター、ホットプレート等により加熱すればよい。さらに、センサー等により設定温度を制御すればよい。
【0070】
本発明の有機化合物の結晶の製造方法は、上記晶析工程では、さらに、上記懸濁液または上記有機溶媒を攪拌しながら、該懸濁液から水を蒸発させることが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に詳細に説明する。
【0072】
〔実施例1〕
<懸濁液調製>
一般式(1)で表される有機化合物としてのカルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウム6.3重量部を含む水溶液35重量部が含まれた容器から、水溶液を、デッドエンド型に設置されたテフロン(登録商標)材の多孔膜(商品名:「ポアフロンチューブ」、住友電気工業株式会社製)の内側に供給し、多孔膜の外側にモノクロロベンゼン(クレハ社製)420重量部を供給することで、懸濁液を調製した。
【0073】
<結晶の取り出し>
攪拌翼(3枚後退翼)を備えた、材質がハステロイC22の反応容器(底が1/2半楕円である円筒形状、100L)にモノクロロベンゼン90重量部を入れ、続いて、上記懸濁液を添加した。そして、蒸発させた水およびモノクロロベンゼンを冷却するための熱交換器、水とモノクロロベンゼンとを分離するための分液槽、並びに、水を抜き出す槽(ダイカン社製)を用いて、水およびモノクロロベンゼンを除去し、カルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウムの結晶を取り出した。
【0074】
<結晶の物性等>
その後、上記結晶の結晶化の可否を確認し、粒径および収率を測定した。そして、上記結晶を取り出す際のスケーリングの有無を確認した。
【0075】
〔比較例1〕
<水溶液調製>
材質がガラスの混合容器に、一般式(1)で表される有機化合物としてのカルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウム65重量部を採取し、その混合容器に、水296重量部を添加し、水溶液を調製した。
【0076】
<結晶の取り出し>
攪拌翼(3枚後退翼)を備えた、材質がガラスの反応容器(底が1/2半楕円である円筒形状)にモノクロロベンゼン635重量部を採取し、上記水溶液を添加した。そして、蒸発させた水およびモノクロロベンゼンを冷却するための熱交換器、水とモノクロロベンゼンとを分離するための分液槽、並びに、水を抜き出す槽を用いて、水およびモノクロロベンゼンを除去した。しかしながら、カルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウムの結晶を取り出すことはできなかった。
【0077】
表1は、実施例1,2および比較例1において求めた結晶の結晶化の可否、粒径および収率、並びに、スケーリングの有無をまとめたものである。
【0078】
【表1】

【0079】
これにより、実施例1,2では、カルボキシ(ジフルオロ)メタンスルホン酸ナトリウムの結晶を、スケーリングを起こさずに製造できるという結果になった。つまり、一般式(1)で表される有機化合物の水溶液を懸濁させて晶析することにより、上記有機化合物の結晶を、スケーリングを起こさずに製造できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明では、上記有機化合物の結晶を、スケーリングを起こさずに製造することが可能となる。そのため、本発明は、医薬品、農薬品、添加剤、顔料、電子工業薬品、塗料等の化学品等の分野に広く応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Q、Qは互いに独立にフッ素原子または炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、MはLi、Na、KまたはAgを表す。)で表されることを特徴とする有機化合物の結晶。
【請求項2】
、Qがともにフッ素原子であることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物の結晶。
【請求項3】
粒径が、1μm以上、1000μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機化合物の結晶。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機化合物の結晶を製造する方法であって、
上記有機化合物を溶解せず、水と混和せず、かつ水と共沸可能な有機溶媒に、該有機化合物を含む水溶液を供給して、該水溶液を微小化させて、懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、該懸濁液の該水溶液から水を該有機溶媒とともに共沸蒸留させて該有機化合物の結晶を晶析させる晶析工程とを含むことを特徴とする有機化合物の結晶の製造方法。
【請求項5】
上記懸濁液調製工程では、上記有機溶媒と上記有機化合物を含む水溶液とが多孔膜を介して存在し、該有機化合物を含む水溶液を透過させることにより、懸濁液を調製することを特徴とする請求項4に記載の有機化合物の結晶の製造方法。
【請求項6】
上記懸濁液調製工程では、上記多孔膜の外面にある上記有機溶媒に、上記有機化合物を含む水溶液を該多孔質の内面から供給し、該多孔膜を透過させることにより、該多孔膜の外面で該有機化合物を含む水溶液を微小化させることを特徴とする請求項5に記載の有機化合物の結晶の製造方法。

【公開番号】特開2008−280278(P2008−280278A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125048(P2007−125048)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】