説明

有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置

【課題】有機性汚濁物を大量に含む有機性汚泥を、理想的にはそのままの状態で分解処理でき、且つ、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することが可能な有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置の提供。
【解決手段】有機性汚濁物を含む有機性汚泥を被処理物として、該被処理物中の有機性汚濁物を浄化域で分解処理する有機性汚泥の分解処理方法において、上記被処理物を、直径1〜3cmの複数の砕石が集合接合されてなる直径5〜20cmの表面及び内部に開口及び細孔空隙を有する塊状集合体が多数個密に充填され、且つ、その底部近傍に、被処理物の移動方向に20〜50cm間隔で散気管が複数配置されている浄化域に導入し、導入した被処理物を、上記複数の散気管からの散気によって移動させ、上記浄化域における被処理物の容積滞留時間が3〜30日となるように制御することを特徴とする有機性汚泥の分解処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性汚濁物を含む有機性汚泥を被処理物とする処理技術に関し、特に、該被処理物中における有機物の殆ど全てをガス(CO2+CH4)と水にまで分解処理できる有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品等の加工工場や調理工場においては、高濃度の有機性廃液が大量に排出されている。例えば、酒、焼酎、醤油及び食酢等を製造する醸造工場や、食用油工場や缶詰工場等の食品加工工場、或いは食品の調理工場においては、食物のカスである固形有機物及び溶解性有機物(これらをまとめて有機性汚濁物と呼ぶ)を大量に含む有機性廃液(汚泥)が生じる。具体的には、食物カス含有汚泥や、デンプンのデカンター排水や焼酎廃液等が挙げられる。ここで、溶解性有機物を含む有機性排水の処理方法としては、自然界で営まれている自浄作用を人為的に効率よく行う各種の生物学的処理方法が知られているが、特に、好気的微生物を利用した活性汚泥処理は、多方面で実施されている。活性汚泥処理では、曝気槽内でBODで示される溶解性有機物がバクテリア(好気性細菌)で分解され、増殖した細菌が原生動物によって捕食され、更に、固形有機物が増殖した原生動物によって接着されて大型フロックとなる。最後に、このようにしてできたフロックを曝気槽の下流側に配置された沈澱池で固液分離して有機性排水を浄化処理し、処理水を得ている。上記のような一連の生物活動による活性汚泥処理方法は、被処理物中の有機物を固液分離して除去することを本質としていると言えるものであり、必然的に固液分離した大量の汚泥が発生する。上記のように活性汚泥処理方法では、固形有機物は分解されることなく、沈澱池で固液分離されるため、特に食物のカスである固形有機物を多く含む廃液処理においては、大量の余剰汚泥が発生する。
【0003】
上記した事情から、活性汚泥処理方法では、大量の余剰汚泥の処理・処分が重大な問題となっている。更に、固形有機物を多く含む有機性廃液を活性汚泥処理する場合には、予め、最初沈澱池で固形物を分離し、その後、活性汚泥処理することが行われている。従って、活性汚泥処理方法では、上記した活性汚泥処理後に生じる余剰汚泥のみならず、この最初沈澱池で分離される汚泥(以下、初沈汚泥と呼ぶ)の処理の問題もある。
【0004】
これに対して、近年、余剰汚泥を、例えば、オゾン、高熱、細菌、レーザー等を用いて液状化させ、その後に再び曝気槽へと戻して生物分解させるといった方法で活性汚泥処理の効率を高めて余剰汚泥の発生量を減らす試みが種々なされている。しかしながら、上記いずれの方法も、余剰汚泥の量を減量化或いは減容化はできるものの、従来の活性汚泥システムに更なるエネルギーが必要となると同時に、余剰汚泥を無くす(即ち、ゼロにする)ことができる実用的な処理方法とはなっておらず、活性汚泥処理における余剰汚泥処理の問題は未だ解決されてはいない。又、余剰汚泥の処理は、現状では、機械脱水して固体を取り出し、これを埋め立てるか焼却する等の方法で行われているが、これらの方法は、地球環境保護の面からは好ましい方法であるとは言えず、近年、余剰汚泥の処理の問題は、より深刻なものとなっている。
【0005】
上記したように、活性汚泥処理方法では、大量の分離汚泥が発生するという深刻な問題があるが、その根本の課題は、従来の活性汚泥処理による生物処理では固形有機物を分解することができないことにあると言える。従って、有機性汚濁物を大量に含む有機性廃液を、予め固液分離したり希釈したりすることなく、そのままの状態で生物分解でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することができる浄化処理方法が開発されれば、非常に有用である。特に、現状において広く普及している活性汚泥処理方法において、大量に発生している余剰汚泥及び初沈汚泥(以下、初沈汚泥と余剰汚泥とを合わせて分離汚泥と呼ぶ)を、そのままの状態で分解処理でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することができる浄化処理方法があれば、非常に有用である。
【0006】
本発明者は、これまでに、自然界で営まれている自浄作用をより積極的に利用した全く新たな有機性排水の浄化処理が可能となる汚濁水浄化用分離材を提案している(特許文献1参照)。該汚濁水浄化用分離材は、直径1〜3cmの砕石が複数集合されてなる砕石の集合体からなるものである。更に、該集合体(塊状浄化材)を使用した技術として、有機性排水の浄化をより効率よく行う浄化方法(特許文献2参照)や、別の有機性排水の浄化手段として、表面に多数の開口部を有する中空体からなる塊状浄化材を用いる汚濁水の浄化方法を提案している(特許文献3参照)。これらの技術によれば、汚濁水中に浮遊する固体の分離操作が有効に行え、上記したような塊状浄化材を複数積層して充填配置した浄化域に有機性排水を流通させることで、より微細な固形汚濁物等の浄化を行うことが可能となる。
【0007】
【特許文献1】特公平8−17901号公報
【特許文献2】特開平8−332497号公報
【特許文献3】特開平8−108191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来技術で本発明者らが行った検討はいずれも、活性汚泥法での処理が可能な有機性排水を対象とするものであり、前記したような食品加工工場等から排出される有機性汚濁物を大量に含む有機性汚泥や、活性汚泥施設から出される分離汚泥を処理する方法についてではなかった。
【0009】
従って、本発明の目的は、有機性汚濁物を大量に含む有機性汚泥を、理想的には固液分離や希釈等を行うことなく、そのままの状態で分解処理でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することが可能な有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置を提供することにある。特に、本発明は、現在、下水処理や工場排水処理等で広く行われている活性汚泥処理方法による有機性排水の浄化処理で大量に発生している分離汚泥を、そのままの状態で分解処理でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することができる、有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、有機性汚濁物を含む有機性汚泥を被処理物として、該被処理物中の有機性汚濁物を浄化域で分解処理する有機性汚泥の分解処理方法において、上記被処理物を、直径1〜3cmの複数の砕石が集合接合されてなる直径約5〜20cmの表面及び内部に開口及び細孔空隙を有する塊状集合体が多数個密に充填され、且つ、その底部近傍に、被処理物の移動方向に20〜50cm間隔で散気管が複数配置されている浄化域に導入し、導入した被処理物を、上記複数の散気管からの散気によって移動させ、上記浄化域における被処理物の容積滞留時間が3〜30日となるように制御することを特徴とする有機性汚泥の分解処理方法である。
【0011】
その好ましい実施形態としては、更に、前記浄化域の被処理物を、37℃以上にならない範囲で加温しながら処理を行う上記有機性汚泥の分解処理方法が挙げられる。又、別の好ましい実施形態としては、被処理物は、活性汚泥処理の過程から出される分離汚泥、食品加工の製造工程から出る食物カスの含有汚泥及び有機性汚濁物の高濃度排水の何れかである上記有機性汚泥の分解処理方法が挙げられる。
【0012】
又、本発明の別の実施形態は、被処理物である有機性汚泥を分解処理するための浄化域を有する有機性汚泥の分解処理装置であって、被処理物を導入する導入口と、浄化して得られた処理水を排出するための排出口と、該導入口と該排出口との間に設けられた浄化域とを少なくとも有し、上記導入口からの被処理物の導入量が上記排出口からの処理水の排出量と同じになるように構成され、更に、上記浄化域が、直径1〜3cmの複数の砕石が集合接合された直径約5〜20cmの表面及び内部に開口及び細孔空隙を有する塊状集合体が多数個密に充填され、且つ、その底部近傍に、上記被処理物を移動させるための散気管が、被処理物の移動方向に20〜50cmの間隔で複数配置されてなることを特徴とする有機性汚泥の分解処理装置である。
【0013】
その好ましい実施形態としては、更に、前記浄化域の底部に、最高温度が37℃になるように制御された温水を流通させる加温体が設けられてなる有機性汚泥の分解処理装置が挙げられる。又、別の好ましい実施形態としては、前記浄化域が、20m以上の長い直線状の流路を有するか或いは流れ方向が変化する全長が20m以上の長い流路を有する有機性汚泥の分解処理装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、食品工場から出る食物カスである固形有機物や溶解性有機物を大量に含む有機性汚泥を、そのままの状態で、或いは希釈したとしても高濃度に有機性汚濁物を含む被処理物を分解処理でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することができる、有機性汚泥の分解処理方法及び分解処理装置が提供される。更に、本発明によれば、現在広く行われている、下水処理や工場排水処理等を行う活性汚泥処理設備から大量に発生している分離汚泥を、そのままの状態で分解処理でき、しかも、簡易な設備と、安価なランニングコストで処理することができる、有機性汚泥の分解処理方法及び分解処理装置が提供される。更に、本発明によれば、上記したような有機性汚泥を処理した場合に、有機性汚泥中の溶解性有機物は勿論、固形有機物も分解でき、有機性汚泥をほぼ完全に、ガス(CO2+CH4)と水(H2O)にすることができる新規な有機性汚泥の分解処理方法及び有機性汚泥の分解処理装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明者は、前記した従来技術の課題を解決すべく、先に説明した砕石が複数集合されてなる汚濁水浄化用分離材(以下、塊状集合体と呼ぶ)を充填してなる浄化域を用い、有機性汚泥をそのままの状態で、或いは、希釈したとしても高濃度に有機性汚濁物を含む被処理物を浄化処理できる技術の開発に取り組んだ。先ず、その処理対象物として、下水処理や工場排水処理等が行われている活性汚泥処理設備から出される分離汚泥、更に、食品工場等から出されるオイルトラップされた油分や、加圧浮上によって分離させた固形有機物を多く含む凝集物である有機性汚泥を選んだ。食品工場等から出される有機性汚泥のより具体的なものとしては、例えば、焼酎、酒、醤油、味噌及び缶詰等の工場から出される廃液が挙げられる。
【0016】
これらの有機性汚泥の有機性汚濁物(固形有機物)の濃度(本発明ではSS値と表示)は、一般的に、例えば、下水処理の際に出される分離汚泥では、SS=0.2〜4%(2,000〜40,000mg/リットル)程度(BOD値=500〜60,000mg/リットル)である。又、上記した食品加工工場等から出される有機性汚泥は、非常に多様であるが、SS=0.5〜5%(5,000〜50,000mg/リットル)程度(BOD値=5,000〜100,000mg/リットル)である。上記した分離汚泥や有機性汚泥の固形有機物濃度であるSS値は、下記のような方法で測定した値である。先ず、測定対象の汚泥の既知量(例えば1リットル)をポアサイズが1μmの濾紙を使用して吸引濾過する。次に、濾紙上に残った濾過物を105℃で乾燥して水分を蒸発させる。最後に乾燥物の重さを測定し、有機性汚泥の固形有機物の濃度とする。本発明では、分離汚泥及び上記したような有機性汚濁物をまとめて有機性汚泥と呼ぶ。
【0017】
次に、上記有機性汚泥を分解処理する方法について説明する。本発明では、上記したような有機性汚泥を被処理物とするが、被処理物はそのまま処理してもよいが、処理にかかる時間や処理温度との兼ね合いで、SS値が極端に高い場合には水で若干希釈して、SS=20,000mg/リットル以下程度として被処理物とすることが好ましい。このようにすれば、10日以内という比較的短期間の容積滞留時間で処理を完了することができる。本発明では、被処理物を、例えば、20〜100mの長い浄化域をゆっくりと移動させていき、この移動の間に、浄化域で、被処理物中の固形有機物を大量に含む有機性汚泥の生物分解を行う。以下、この有機性汚泥の分解が行われる浄化域の構造について、図面を参照しながら説明する。図1(a)は、浄化域を模式的に示す平面図であり、図1(b)は、浄化域の構造を説明するための模式的な断面図である。
【0018】
被処理物は、導入口から浄化域へと導入されて分解処理されるが、図1(b)に示したように、浄化域の上流側に導入槽を設けて、該導入槽内で被処理物を充分に曝気し、この状態で被処理物を浄化域へと導入することが好ましい。本発明で使用する浄化域には、図2(c)に示したような構造の塊状集合体が多数個、密な状態で充填されている。塊状集合体としては、直径1〜3cmの範囲にある複数の砕石(例えば小石)が集合して、直径が約5〜20cmの、ほぼ球形の塊状構造を有するものを使用する(図2(c)参照)。本発明で使用する塊状集合体の好ましい形態としては、図2(c)に示したように、複数集合し、接合された小石の各接点部が接着固定され、その表面に所定径の開口を有し、且つ、その内部に該開口に連通する砕石間に形成される細孔空隙を有する構造のものが挙げられる。以下、本発明で使用する塊状集合体について詳細に説明する。
【0019】
本発明で使用する塊状集合体は、直径1〜3cmの砕石を集合接合してなるため、多数の細孔が任意的に形成される。塊状集合体の外表面上に開口した細孔の開口形は任意の形状でよく、特に砕石を集合接合する場合には種々様々となり、定形的なものではない。その細孔の開口部の大きさも任意であるが、開口部の最も狭い部分でも開口径が1mm以上であることが好ましい。塊状集合体の形成に使用する砕石の大きさに応じて所定の開口径が形成されるが、例えば1〜3cmの砕石を集合接合した砕石集合体であれば、通常、開口径約4〜12mmの細孔が形成される。又、細孔の形態については特に制限されず、塊状集合体の内部を貫通して細孔空隙を形成して反対側等の外表面の他の開口に連通していてもよいし、内部で閉塞していてもよい。更に、塊状集合体の内部で直線的、曲線的、それらの組み合わせ等いずれの形状に分岐して連続延長していてもよい。
【0020】
本発明で使用する砕石としては、自然界で得られる小石ばかりでなく、石材、プラスチックス及び綱材等で人工的に砂利、砕石状に成形したものや、これらの粉末を固めて直径1〜3cmの砕石にしたものでもよく、材質や形状等に制限されない。しかし、良好な浄化域を形成するためには、被処理液中で浮上しない比重を有することが好ましい。従って、本発明で使用する塊状集合体の形成に用いる砕石は、その塊状集合体の使用条件に応じて、大きさ、材質、形状等を適宜選択すればよい。本発明では、例えば、自然界で得られる直径1〜3cmの砂利や砕石を多数集合し、開口径が1mm以上、好ましくは4〜12mmの多様な形状の細孔が多数形成されるようにして接合し、直径約5〜20cmの塊状集合体としたものを使用する。より具体的には、直径約1〜3cmの粒径のある程度揃った砕石を複数個を接合し、接合点または面を接着剤で接着結合させて塊状集合体を得るが、この際に、砕石表面の凹凸等を利用して、接合点及び/または面以外が互いに密着せずに、砕石間に空隙を有し、細孔が形成されるように集合接合させたものを使用する。砕石集合体の接合部分は、セメントや、その他の接着剤、例えば、エポキシ系接着剤等を用いて接着結合すればよい。更に、本発明では、上記のようにして得られる塊状集合体の中でも、直径が約5〜20cmのもの、より好ましくは10〜15cm程度のものであって、ほぼ球状のものを使用することが好ましい。
【0021】
本発明では、上記したような塊状集合体を多数個、密な状態になるように充填し、更に、その底部近傍に、被処理物の移動方向に20〜50cmの間隔で散気管が複数配置されてなる浄化域で処理を行う。浄化域の長さは、容積滞留時間との兼ね合いで適宜に決定すればよいが、例えば、20〜100m、好ましくは30〜60m程度とする。下記に述べるように、このような長さの浄化域を流れていく間に、被処理物中に高濃度で含有されている有機汚濁物は十分に分解される。先に述べたような構造の塊状集合体を多数個、密な状態になるように充填して形成される浄化域には、連続或いは不連続の、多種多様な形状の空隙が形成される。塊状集合体同士の間の空隙率は、約40%となるが、被処理物は、この部分を流れていくこととなる。先に述べた通り、塊状集合体は、砕石の集合物であるので、それ自体も空隙を有する。このため、浄化域の全空隙率は64%程度となる。
【0022】
このような浄化域内に導入された被処理物(有機性汚泥)は、浄化域の底部に配置された散気管からの散気によって、浄化域にある塊状集合体間に形成される空隙をゆっくりと移動していくことになる。この被処理物の移動の際に、被処理物を構成する固形有機物は、塊状集合体内に形成されている多種多様な空隙に捕捉されて(溜って)、空隙内に留まり、生物分解されながら浄化域を移動する。即ち、空隙内に溜った固形有機物は嫌気的な雰囲気に置かれることとなるので、この間に、被処理物を構成する固形有機物は、主に嫌気性微生物による生物分解を受けて溶解性有機物に分解される。一方、溶解性有機物は、散気管からの散気によって移動していく間に、主に好気性微生物による生物分解を受けて、ガスと水にまで分解される。図3は、このようにして浄化域で進行する被処理物の分解の様子を模式的に示したものである。
【0023】
上記のような分解が行われる浄化域の構造は、多数個の塊状集合体が密な状態となるように充填されていればよく、被処理物が移動する流路の形状としてはいずれのものであってもよい。例えば、20〜100mの長さの直線状の流路としてもよいが、処理設備を効率的に設計するためには、例えば、図2に示したように、20〜100mの長さの流路を、途中で流れ方向を変化させて、複数回折り返して長さの総計が20〜100mとなる流路とすることが好ましい。
【0024】
浄化域を構成する塊状集合体が密に充填された流路の形状は、被処理物のSS値や処理量及び散気装置の能力等に応じて適宜に設計すればよく、特に限定されないが、例えば、深さ0.5m〜5m、より好ましくは2m〜3m、幅が0.5m〜30m、より好ましくは5m〜10mであって、浄化域の長さが20〜100mとなる水路状とすればよい。そして、図1に示したように、該水路の被処理物の流れ方向に20〜50cm間隔で散気管を複数配置するが、散気管は、従来公知のものをいずれも使用することができる。本発明では、その処理対象が有機性汚泥であるため、目詰りを生じないように、散気孔が下向きの散気管を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の有機性汚泥の分解処理方法では、先に述べたように、分離汚泥等の被処理物を上記したような浄化域へと導入して移動させることで、被処理物を構成する固形有機物及び溶解性有機物を生物分解させることができるが、本発明者の検討によれば、浄化を十分に行うためには、有機性固形物の浄化域での滞留時間が適宜なものとなるように制御することが必要となる。即ち、分離汚泥のような被処理物を生物分解した場合には、溶解性有機物については時間単位の滞留時間で良好な生物分解ができるが、固形有機物については日単位の滞留時間が必要となる。これに対して前記したように、本発明で使用する浄化域には複数の塊状集合体が密に充填され、連続或いは不連続の多種多様な形状の空隙が形成される構造となるため、このような時間単位の滞留時間での生物分解と、日単位の滞留時間での生物分解とを共存させた状態で浄化処理することができる。
【0026】
具体的には、被処理物を構成する溶解性有機物は、浄化域に設けられた散気管からの散気によって浄化域内を、導入口側から排出口側へと円滑に流れていく。本発明者らの検討によれば、導入口側から排出口側へと、ほんの僅かな傾斜があれば、溶解性有機物は、散気管からの散気によって浄化域を形成している流路内を円滑に移動することができる。一方、被処理物を構成する固形有機物は、塊状集合体内部の空隙内や、塊状集合体同士の間に形成される空隙内に入り込んで溜り、生物分解を受けながらゆっくりと浄化域内を移動することができる。
【0027】
そして、本発明者らの検討によれば、浄化域内で被処理物を移動させる場合に、浄化域内における被処理物の容積滞留時間が3〜30日となるように制御すれば、例えば、SS=2,000〜40,000mg/リットル程度の被処理物を分解処理することが可能となる。更に、希釈せずに10日程度の容積滞留時間でそのまま分解処理できる被処理物としては、SS=20,000mg/リットル程度の有機性汚泥が挙げられる。本発明でいう浄化域内における被処理物の容積滞留時間とは、下記のようにして求めた値を意味する。例えば、浄化域を構成する水路の全容積がV[m3]である場合に、被処理物の導入量を処理水の排出量と同じX[m3/日]とすれば、被処理物の容積滞留時間は、V/X[日]となる。浄化域における空隙率(被処理物が移動する部分)を考慮した実滞留時間は、上記で得られた時間に空隙率を掛けた値となる。例えば、塊状集合体間の空隙率が40%であれば、その実滞留時間は、(V/X)×0.4[日]となる。
【0028】
具体的な被処理物の容積滞留時間の制御の方法としては、先ず、浄化域を構成する流路の(幅×高さ×長さ)から浄化域の容積V[m3]を求め、例えば、被処理物の容積滞留時間を10日とする場合には、被処理物の導入量をV/10[m3]となるように、散気管からの散気量を制御すればよい。散気管からの散気量は、流路の底面積[m2]当たりの散気量[m3/m2・時間]で制御すればよい。具体的には、浄化域全体への1日当たりの総散気量を流路の底面積で割って、1時間当たりの量に換算することで求められる。本発明者の検討によれば、被処理物を構成する固形有機物の量にもよるが、散気量を1〜10[m3/m2・時間]、より好ましくは2〜5[m3/m2・時間]とすれば、前記した浄化域における被処理物の容積滞留時間を3〜30日となるように制御することが可能となる。浄化域全体への1日当たりの総散気量は、各散気管の孔から出されるガス量を合計することで求めることができる。流路における散気管からの散気量は、導入口から排出口の間で適宜に変化させてもよいが、全流路に渡って同一の散気量とすることが好ましい。即ち、導入口付近では、被処理物中の固形有機物の割合が多く、排出口に向かうに従って分解が進んで固形有機物の割合が少なくなるため、同じ散気量であれば、導入口付近では被処理物の移動速度は遅く、排出口付近では被処理物の移動速度は速くなる。これに対して、固形有機物の分解は日単位でゆっくりと進むので、導入口付近における被処理物の移動は遅い方が好ましく、一方、排出口付近における被処理物は、固形有機物の割合が少なく、時間単位で分解が可能な溶解性有機物が多くなるので、被処理物の移動は速くても問題は生じない。
【0029】
上記のような構成からなる本発明の有機性汚泥の分解処理方法は、処理温度に限定されず、常温(15℃〜30℃)で処理を行えばよい。本発明者らの検討によれば、処理温度が低過ぎると処理効率が低下するので好ましくなく、23℃以上の温度で被処理物を処理すれば、より高効率で処理することができる。更に好ましくは、被処理物を加温した状態で処理することである。より具体的には、浄化域中の被処理物を、上限を37℃として、より好ましくは、30〜37℃に加温して処理するとよい。即ち、被処理物を加温させることで生物活動を活発化させることができ、その結果、有機汚濁物の生物分解が促進されるので、より迅速で効率がよく、より清澄な処理液が得られる良好な処理が可能となる。上限を37℃としたのは、浄化に利用できる微生物の多くは37℃以上になると、生命活動が停止するか、生命活動が大きく損なわれるからである。浄化域を加温する方法としては、浄化域の底部近傍に、最高温度が37℃になるように制御された加温体を配置することが挙げられる。より具体的には、浄化域である流路の底部近傍に配管(パイプ)をめぐらし、配管中に、加温された工場排水を流す方法等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
<実施例1>
本実施例では、実際の焼酎廃液(SS≒50,000mg/リットル、BOD≒100,000mg/リットル)を被処理物として試験を行った。処理は、焼酎廃液を水で約10数倍に希釈したものについて行った。試験は、幅0.5m、深さ0.6m、長さ60mの流路(全容積=18m3、有効容積=15m3)に、この流路内にいっぱいになるように塊状集合体を多数個充填して形成した浄化域を用いて行った。流路は、図2(a)に示したように、長さ10m毎に5回折り返す構造のものを使用した。塊状集合体としては、平均直径が1〜3cmの範囲にある自然石を複数集合させてエポキシ系接着剤で球状に接合した、直径約10〜15cm程度のものを使用した。この塊状集合体の表面及び内部には、形状が多種多様な開口及び細孔空隙が多数形成されており、又、浄化域内は、複数の塊状集合体が密に充填されているため、塊状集合体同士の間に、形状が多種多様な開口及び細孔空隙が形成されていることを確認した。更に、浄化域に水を充填して、浄化域における空隙率を測定したところ、その空隙率は約64%であった。尚、被処理物が移動する塊状集合体間に形成される空隙率は約40%である。
【0031】
又、浄化域の底部近傍に、40cmピッチで、直径1.2mmの孔から吐出速度15m/sで空気が吐出されるような散気管を敷設した。図1(a)の平面図の、底部近傍の状態を示すために塊状集合体を取り除いた部分に示したように、本実施例では、流路の流れ方向に40cmピッチで散気管を配置した。勿論、本発明ではこれに限らず、被処理物の流れ方向に散気管を配置し、孔を40cmピッチで空けた状態のものであってもよい。そして、ブロアーを使用して、この散気管の孔から適宜な量の空気が出るようにし、下記のようにして被処理物の浄化処理を行った。
【0032】
先ず、図1に示した導入槽内の散気管から勢いよく空気を散気することで、導入口から被処理物を浄化域に順次導入した。そして、浄化域内の散気管のポンプを作動させ、該散気管から空気を散気することで、浄化域に導入した被処理物を順次移動させた。浄化域内の空気の総量が3.3m3/m2・h(100m3/h)となるように、浄化域内に空気を散気した。このようにして、導入槽から浄化域へと被処理物を順次導入して、被処理物中の固形有機物及び溶解性有機物の分解を行った。本実施例では、排出口から排出された処理水の分だけ、順次、被処理物が浄化域へと導入されるように散気量を制御したが、導入口からの被処理物の導入量(排出口からの処理水の排出量)を1.5m3/日となるようにした。このことは、本実施例の被処理物の容積滞留時間は10日であることを意味している。浄化域における被処理物が移動できる塊状集合体間に形成される空隙率の40%を考慮すると、被処理物の実滞留時間は4日であるといえる。本実施例では、上記したような処理を連続して8ケ月間行った。本実施例では、被処理液を加温することなく常温で浄化処理を行ったので、被処理液の温度は、20〜30℃程度であった。
【0033】
浄化処理の結果を図4〜6に示した。浄化試験は、焼酎廃液を水で約10倍に希釈したものについて行ったが、浄化域の導入口からの流路の距離が、5、15、25、35、45、55及び60mである場所で、SS値、BOD値及びT−N値(総窒素量)をそれぞれ測定することで、本実施例の方法で浄化処理した場合の浄化域における被処理物の分解状態を調べた。その結果、図4に示したように、SS値が約4,000mg/リットルの被処理物は、容積滞留時間7.5日程度で、SS値を10mg/リットルまで分解できることが確認された。図5及び6に示したように、BOD値及びT−N値についても十分に満足できる浄化結果が得られることが確認された。試験では、7日毎に浄化域の各場所からサンプリングして測定を行い、図4〜6には、その中の代表的なデータを示した。図4〜6から明らかなように、本実施例によれば、経時的にも良好な状態で浄化処理できることが確認された。
【0034】
<実施例2>
本実施例では、実施例1で使用したと同様の実際の焼酎廃液(SS≒50,000mg/リットル、BOD≒100,000mg/リットル)を水で約5〜6倍に希釈したものを被処理物とした。処理装置には、浄化域の底部に、被処理物の最高温度が37℃になるように制御された、温水を流通させるパイプからなる加温体が更に設けられている以外は、実施例1と同様のものを用いた。そして、浄化処理を5ケ月に渡って行った。そして、37℃程度の工場からの温排水を、加温体であるパイプに通して流して、被処理物を加温しながら分解処理を行った。被処理物の温度は、30〜37℃であった。
【0035】
その結果、SSが約10,000mg/リットルであっても、容積滞留時間を7.5日程度にすれば、SS値を10mg/リットルまで分解できることが確認された。BOD値及びT−N値についても、実施例1の場合と同様に、十分に満足できる浄化結果が得られることを確認した。
【0036】
又、比較のために、上記と同様のサンプルを用い、加温せずに20〜30℃で処理を行ったこと以外は同様に処理を行った。この結果、容積滞留時間が10日程度では処理が十分でない場合があり、SS値は低下したものの約1,000mg/リットルであった。しかしながら、先に説明した実施例1で確認された事実と合わせると、加温しない条件であっても、更に滞留時間を長くすれば、SS値が10mg/リットルになるまで処理することは可能であることを示している。
【0037】
<実施例3及び4>
本実施例では、実際の活性汚泥処理施設からの余剰汚泥(SS≒2,000〜2,500mg/リットル、BOD≒1,200〜2,300mg/リットル)をそのままの状態で被処理物として用い、浄化試験を行った。試験条件は、幅1m、深さ2m、長さ30mの浄化域(有効容積約60m3)を有する流路に、実施例1で使用したと同様の塊状集合体を密な状態になるように多数個充填して浄化域を形成した。流路は、長さ30mの直線状の構造とした。更に、浄化域の底部近傍に、図1に示したと同様に40cmピッチで、直径が2mmの孔が多数空いた散気管を敷設した構造とした。
【0038】
そして、導入槽の散気管から空気を散気して被処理物を浄化域へと順次導入し、浄化域の散気管のブロアーを作動させて空気を散気し、浄化域内における空気量が3.3m3/m2・h(100m3/h)となるようにした。この結果、浄化域内に導入された被処理物は順次移動していき、排出口からは処理水が排出された。この際、排出された処理水の分だけ、順次、導入口から被処理物が浄化域へと導入されるようにした。導入口からの被処理物の導入量(排出口からの処理水の排出量)は、約6.0m3/日であった。このことは、本実施例の容積滞留時間は10日であることを意味している。塊状集合体間の空隙率が40%であることを考慮すると、実滞留時間は4日であるといえる。本実施例では、上記したような処理を連続して10ケ月間行った。実施例3では、被処理物を加温することなく常温(20〜30℃)で処理を行い、実施例4では実施例2と同様にして被処理物を30〜37℃に加温して処理を行った。
【0039】
実施例3についての結果を図7に示した。図7に示したように、SS値は、いずれの測定の場合においても低下し、余剰汚泥についても分解可能であることを確認した。しかし、場合によっては、10日たってもSS値が下がりきらない場合があった。そこで、これらの場合と分解条件との相関について詳細に検討した。その結果、分解の程度は被処理水の温度と相関があることが確認された。即ち、SS値が約2,000mg/リットルの余剰汚泥については、被処理物の温度が約23℃以上であれば、容積滞留時間6日程度でSS値をほぼ10mg/リットルまで分解可能であることが確認できた。更に、実施例4の結果から、30〜37℃に被処理物を加温して処理すれば、容積滞留時間3日程度で、SS値をほぼ10mg/リットルまで分解できることが確認された。一方、被処理物の温度が23℃よりも低い場合には、十分な分解が行われない場合があるため、処理を行う季節によっては、気温との兼ね合いで被処理物を加温する必要があることがわかった。尚、図7に示したSS値は、先に測定方法について述べたように、有機物のみの固形分を示している。しかし、実施例1で処理した焼酎廃液の場合は有機物のみであるので浄化処理後の固形分は殆どゼロとなるが、本実施例の余剰汚泥の場合には無機物が含まれているので、処理液から無機物を固液分離する必要がある。
【0040】
<実施例5及び6>
実施例1の処理を行った浄化域と同様に折れ曲がった状態の流路を用い、実施例4で行ったと同様に、被処理物を30〜37℃に加温して処理を行った。浄化域は、図2(a)に示したと同じように、3回折れ曲がった全長40mの浄化域とし、実施例4で行ったと同様の浄化域及び条件で、より高濃度の有機性汚濁物を含有する被処理物について浄化処理を行った。そして、SS値が10mg/リットルとなる容積滞留時間を求め、結果を表1に示した。尚、表1中に、実施例1〜4の結果も合わせて示した。
【0041】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明で使用できる処理装置を模式的に示した概略図である。
【図2】本発明で使用できる処理装置を模式的に示した概略図である。
【図3】本発明で使用する塊状集合体の近傍で生じる固形有機物の分解の進行を説明するための模式的な斜視図である。
【図4】本発明の実施例1の結果である。
【図5】本発明の実施例1の結果である。
【図6】本発明の実施例1の結果である。
【図7】本発明の実施例3の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性汚濁物を含む有機性汚泥を被処理物として、該被処理物中の有機性汚濁物を浄化域で分解処理する有機性汚泥の分解処理方法において、上記被処理物を、直径1〜3cmの複数の砕石が集合接合されてなる直径5〜20cmの表面及び内部に開口及び細孔空隙を有する塊状集合体が多数個密に充填され、且つ、その底部近傍に、被処理物の移動方向に20〜50cm間隔で散気管が複数配置されている浄化域に導入し、導入した被処理物を、上記複数の散気管からの散気によって移動させ、上記浄化域における被処理物の容積滞留時間が3〜30日となるように制御することを特徴とする有機性汚泥の分解処理方法。
【請求項2】
更に、前記浄化域の被処理物を、37℃以上にならない範囲で加温しながら処理を行う請求項1に記載の有機性汚泥の分解処理方法。
【請求項3】
前記被処理物は、活性汚泥処理の過程から出される分離汚泥、食品加工の製造工程から出る食物カスの含有汚泥及び有機性汚濁物の高濃度排水の何れかである請求項1又は2に記載の有機性汚泥の分解処理方法。
【請求項4】
被処理物である有機性汚泥を分解処理するための浄化域を有する有機性汚泥の分解処理装置であって、被処理物を導入する導入口と、浄化して得られた処理水を排出するための排出口と、該導入口と該排出口との間に設けられた浄化域とを少なくとも有し、上記導入口からの被処理物の導入量が上記排出口からの処理水の排出量と同じになるように構成され、更に、上記浄化域が、直径1〜3cmの複数の砕石が集合接合された直径5〜20cmの表面及び内部に開口及び細孔空隙を有する塊状集合体が多数個密に充填され、且つ、その底部近傍に、上記被処理物を移動させるための散気管が、被処理物の移動方向に20〜50cmの間隔で複数配置されてなることを特徴とする有機性汚泥の分解処理装置。
【請求項5】
更に、前記浄化域の底部に、最高温度が37℃になるように制御された温水を流通させる加温体が設けられてなる請求項4に記載の有機性汚泥の分解処理装置。
【請求項6】
前記浄化域が、20m以上の長い直線状の流路を有するか或いは流れ方向が変化する全長が20m以上の長い流路を有する請求項4又は5に記載の有機性汚泥の分解処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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