説明

有機感光体、画像形成装置及びプロセスカートリッジ

【課題】本発明の目的は、電荷発生物質に2,3−ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた場合に問題となる電位安定性を改善し、環境変動(湿度依存性)が少なく、耐リーク性にも優れた、感光体としての総合的な性能を改善した有機感光体を提供と該有機感光体を用いた画像形成装置及びプロセスカートリッジを提供することである。
【解決手段】中間層は、膜厚が5〜40μmで且つ表面処理された無機微粒子とバインダーを含有し、前記電荷発生層がチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料を含み、且つ前記電荷発生層の反射スペクトルから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が0.80〜1.10であることを特徴とする有機感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位安定性に優れ、湿度依存性が小さく、耐リーク性に優れた有機感光体と、それを用いた画像形成装置、プロセスカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達にともない電子写真を利用した複写機やプリンターの使用頻度が益々高まっており、高感度な有機感光体(以下、単に感光体ということがある)が、次々に発表されている。なかでも粉末X線回折スペクトルにてブラッグ角2θの27.2±0.2°に最大ピークを有するY型チタニルフタロシアニン(以後、単にY型顔料ともいう)は高感度な素材として知られ学会報告もされている。さらにこのY型チタニルフタロシアニンが乾燥した不活性ガス中での脱水処理によって光量子効率が低下することが見いだされた。常温常湿度環境に放置して水を再吸収させると再び量子効率が上がることから、Y型顔料は水を含んだ結晶構造を有し、水分子が光によって生成した励起子のホールとエレクトロンとの解離を促進し、これが高い光量子効率を示す原因の一つと推測されている。
【0003】
このような素材を電荷発生物質として用いた電子写真感光体では、環境、特に湿度変動により感度特性が変化することが懸念されてきた。このY型顔料の感度が湿度依存性が大きいという欠点は、近年、高画質を要求されるにつれて問題とされる度合いが高くなってきた。例えば夜雨が降り、翌日晴天になった場合、有機感光体の密閉された部分(現像器付近)は前日の高湿度雰囲気を保持しており、感光体の他の開放された部分との間に感度差が生じ、朝一の運転開始直後に中間濃度の画像に感度差によって生じた、帯状の画像欠陥が発生する。又、高温高湿で、高帯電付加時にリークによる黒ポチが発生しやすいという問題もあった。
【0004】
この湿度依存性を解決するために、水の代わりに他の極性基をY型顔料に付与する試みがあり、2,3−ブタンジオールとの付加体チタニルフタロシアニン顔料も報告されている(特許文献1)。
【0005】
さらに、立体規則性を有した2,3−ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体がその中で特に優れた性質をもつものとして報告されており(特許文献2、3)、中でも、2,3−ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体と、チタニルフタロシアニンの混晶が高感度を示す顔料として報告されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、これらの公開された技術はいずれも感度の湿度依存性が改善された反面、尚、前記Y型顔料に比して、電位安定性、耐リーク性等を改善することが必要であった。
【0007】
即ち、高画質、高速性、高耐久性を要求される高速のデジタル複写機等の有機感光体としては、湿度依存性の改良と共に、いっそうの電位安定性、耐リーク性等、総合的な性能改善を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−273775号公報
【特許文献2】特開平7−173405号公報
【特許文献3】特開平8−82942号公報
【特許文献4】特開平9−230615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされた。
【0010】
即ち、本発明の目的は、電荷発生物質に2,3−ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた場合に問題となる電位安定性を改善し、環境変動(湿度依存性)が少なく、耐リーク性にも優れた、感光体としての総合的な性能を改善した有機感光体を提供することであり、該有機感光体を用いた画像形成装置及びプロセスカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の上記課題は、従来の2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニン顔料(感度の湿度依存性が小さい)の長所を生かしたまま、電位安定性、耐リーク性をY型チタニルフタロシアニン顔料以上に、改善することにより達成されるとの技術思想に基づき、チタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンとの混晶の安定性アップを検討した。その結果、チタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンとの混晶を含有する感光層において、反射スペクトルより換算した吸光度の指数が特定の範囲にあり、且つ、該電荷発生層と支持体の間に、厚膜の中間層を設けた構造にした場合に、2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料を用いた感光体で電位安定性が改善され、環境変動(湿度依存性)が少なく、耐リーク性にも優れた、感光体としての総合的な性能を改善した有機感光体が得られることが見いだされ、本願発明を達成した。
【0012】
本発明の目的は、下記構成を採ることにより達成される。
【0013】
1.導電性支持体上に中間層、電荷発生層及び電荷輸送層を有する有機感光体において、中間層は、膜厚が5〜40μmで且つ表面処理された無機微粒子とバインダーを含有し、前記電荷発生層がチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料を含み、且つ前記電荷発生層の反射スペクトルから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が0.80〜1.10であることを特徴とする有機感光体。
【0014】
尚、上記感光層の反射スペクトルの反射率は、波長λの感光体試料の反射強度を、波長λでの支持体の反射強度で割った相対反射率である。
【0015】
2.前記無機微粒子が酸化チタン又は酸化亜鉛であることを特徴とする前記1に記載の有機感光体。
【0016】
3.前記1又は2に記載の有機感光体に静電潜像を形成する手段、該静電潜像をトナー現像する手段、形成されたトナー画像を画像支持体に転写する手段、転写後のトナー画像を定着する手段を、少なくとも有することを特徴とする画像形成装置。
【0017】
4.前記3に記載の画像形成装置に用いられるプロセスカートリッジにおいて、前記1又は2に記載の有機感光体と帯電手段、露光手段、現像手段の少なくとも1つを一体として有しており、該画像形成装置に出し入れ可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の効果】
【0018】
本願発明の有機感光体は上記構成を有することにより、電荷発生物質に2,3−ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた場合に問題となる感度の低下や電位安定性を改善し、湿度依存性が小さく、耐リーク性に優れた有機感光体を提供することができ、該電子写真感光体を用いた画像形成装置、プロセスカートリッジを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明の顔料を含有する感光層の反射スペクトルの一例。
【図2】2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料を用いた感光層の反射スペクトルの一例、ブラッグ角2θ(±0.2°)9.5°に特徴的なピークを有する(9.5°型)と、8.3°に特徴的なピークを有する(8.3°型)フタロシアニンのスペクトル図。
【図3】本発明の電子写真感光体を用いたカラー画像形成装置の断面構成図。
【図4】X線回折スペクトルで、ブラッグ角2θ(±0.2°)27.2°に特徴的なピークを有するY型チタニルフタロシアニンのスペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明の有機感光体の構成につき以下説明する。
【0021】
本発明の有機感光体とは電子写真感光体の構成に必要不可欠な電荷発生機能及び電荷輸送機能の少なくとも一方の機能を有機化合物に持たせて構成された電子写真感光体を意味し、公知の有機電荷発生物質又は有機電荷輸送物質から構成された感光体、電荷発生機能と電荷輸送機能を高分子錯体で構成した感光体等公知の有機電子写真感光体を全て含有する。
【0022】
次に、本発明に係わる導電性支持体について記載する。
【0023】
感光体に用いられる導電性支持体としてはシート状、円筒状のどちらを用いても良いが、画像形成装置をコンパクトに設計するためには円筒状導電性支持体の方が好ましい。
【0024】
円筒状導電性支持体とは回転することによりエンドレスに画像を形成できるに必要な円筒状の支持体を意味し、真直度で0.1mm以下、振れ0.1mm以下の範囲にある導電性の支持体が好ましい。この真直度及び振れの範囲を超えると、良好な画像形成が困難になる。
【0025】
導電性の材料としてはアルミニウム、ニッケルなどの金属ドラム、又はアルミニウム、酸化錫、酸化インジュウムなどを蒸着したプラスチックドラム、又は導電性物質を塗布した紙・プラスチックドラムを使用することができる。導電性支持体としては常温で比抵抗10Ωcm以下が好ましい。本発明に係わる導電性支持体としては、アルミニウム支持体が最も好ましい。該アルミニウム支持体は、主成分のアルミニウム以外にマンガン、亜鉛、マグネシウム等の成分が混合したものも用いられる。
【0026】
本発明では、導電性支持体の十点表面粗さRz(RzはJISB0601−1982に記載の基準長0.25mmの値を意味する)を0.3〜2.5μmの粗面化することが好ましい。この範囲に導電性支持体を粗面化しても、厚膜の中間層を塗布することにより、絶縁破壊等の耐リーク性を防ぐことができ、またレーザー光源を露光光源に用いた時、画像でモアレの発生を防止することができる。
【0027】
次に、本願発明に係わる中間層について記載する。
【0028】
本発明において、中間層とは導電性支持体と電荷発生層の間に設けられた層をいう。
【0029】
本発明に係わる中間層に用いられる無機粒子は、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ビスマス等の金属酸化物が好ましく、炭化ケイ素、炭化チタン等の金属炭化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、窒化アルミニウム等の金属窒化物、硫酸バリウム、硫酸銅、硫酸亜鉛等の硫酸塩等も用いられる。
【0030】
これらの無機粒子の中でも、本発明に好ましく用いられる無機粒子はN型半導性粒子が好ましい。該N型半導性粒子とは、主たる電荷キャリアが電子である粒子を意味する。即ち、主たる電荷キャリアが電子であることから、該N型半導性粒子を絶縁性バインダーに含有させた中間層は、導電性支持体からのホール注入を効率的にブロックし、また、感光層からの電子に対しては輸送性を示す性質を有するものを云う。
【0031】
N型半導性粒子としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)が好ましく、特に酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0032】
無機粒子は数平均一次粒子径が3.0〜200nmの範囲の微粒子を用いることが好ましい。特に、5nm〜100nmが好ましい。数平均一次粒子径とは、微粒子を透過型電子顕微鏡観察によって10000倍に拡大し、ランダムに100個の粒子を一次粒子として観察し、画像解析によってフェレ方向平均径としての測定値である。数平均一次粒径が3.0nm未満の無機粒子は中間層バインダー中での均一な分散ができにくく、凝集粒子を形成しやすく、該凝集粒子が電荷トラップとなって転写メモリーが発生しやすい。一方、数平均一次粒径が200nmより大きい無機粒子は中間層の表面に大きな凹凸を作りやすく、これらの大きな凹凸を通して絶縁破壊や黒ポチが発生しやすい。又、数平均一次粒径が200nmより大きい無機粒子は分散液中で沈澱しやすく、凝集物が発生しやすい。
【0033】
無機粒子の数平均一次粒径とは、例えば酸化チタンの場合、透過型電子顕微鏡観察によって10000倍に拡大し、ランダムに100個の粒子を一次粒子として観察し、画像解析にりフェレ径の数平均径として測定される。
【0034】
前記酸化チタン粒子は、結晶形としては、アナターゼ形、ルチル形、ブルッカイト形及びアモルファス形等があるが、中でもルチル形酸化チタン顔料又はアナターゼ形酸化チタン顔料は、中間層を通過する電荷の整流性を高め、即ち、電子の移動性を高め、帯電電位を安定させ、残留電位の増大を防止すると共に、高密度のドット画像を形成することができ、本発明の無機粒子として最も好ましい。
【0035】
無機粒子はメチルハイドロジェンシロキサン単位を含む重合体で表面処理されたものが好ましい。該メチルハイドロジェンシロキサン単位を含む重合体の分子量は1000〜20000のものが表面処理効果が高く、その結果、無機粒子の整流性を高め、この無機粒子を含有する中間層を用いることにより、黒ポチ発生が防止され、又、高密度のドット画像の作製に効果がある。
【0036】
メチルハイドロジェンシロキサン単位を含む重合体とは−(HSi(CH)O)−の構造単位とこれ以外の構造単位(他のシロキサン単位のこと)の共重合体が好ましい。他のシロキサン単位としては、ジメチルシロキサン単位、メチルエチルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位及びジエチルシロキサン単位等が好ましく、特にジメチルシロキサンが好ましい。共重合体中のメチルハイドロジェンシロキサン単位の割合は10〜99モル%、好ましくは20〜90モル%である。
【0037】
メチルハイドロジェンシロキサン共重合体はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよいがランダム共重合体及びブロック共重合体が好ましい。又、共重合成分としてはメチルハイドロジェンシロキサン以外に、一成分でも二成分以上でもよい。
【0038】
又、無機粒子は下式で表される反応性有機ケイ素化合物で表面処理したものでもよい。
【0039】
(R)−Si−(X)4−n
(上式中、Siはケイ素原子、Rは該ケイ素原子に炭素が直接結合した形の有機基を表し、Xは加水分解性基を表し、nは0〜3の整数を表す。)
上式で表される有機ケイ素化合物において、Rで示されるケイ素に炭素が直接結合した形の有機基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル等のアルキル基、フェニル、トリル、ナフチル、ビフェニル等のアリール基、γ−グリシドキシプロピル、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル等の含エポキシ基、γ−アクリロキシプロピル、γ−メタアクリロキシプロピルの含(メタ)アクリロイル基、γ−ヒドロキシプロピル、2,3−ジヒドロキシプロピルオキシプロピル等の含水酸基、ビニル、プロペニル等の含ビニル基、γ−メルカプトプロピル等の含メルカプト基、γ−アミノプロピル、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル等の含アミノ基、γ−クロロプロピル、1,1,1−トリフルオロプロピル、ノナフルオロヘキシル、パーフルオロオクチルエチル等の含ハロゲン基、その他ニトロ、シアノ置換アルキル基を挙げられる。また、Xの加水分解性基としてはメトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、ハロゲン基、アシルオキシ基が挙げられる。
【0040】
また、上式で表される有機ケイ素化合物は、単独でも良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0041】
また、上式で表される有機ケイ素化合物の具体的化合物で、nが2以上の場合、複数のRは同一でも異なっていても良い。同様に、nが2以下の場合、複数のXは同一でも異なっていても良い。又、上式で表される有機ケイ素化合物を2種以上用いるとき、R及びXはそれぞれの化合物間で同一でも良く、異なっていても良い。
【0042】
また、前記メチルハイドロジェンシロキサン共重合体や反応性有機ケイ素化合物の表面処理に先立ち無機粒子をアルミナ、シリカ等の無機の表面処理を行ってもよい。
【0043】
上記N型半導体粒子の表面処理に先立ち、アルミナ、シリカ、及びジルコニアから選ばれる少なくとも1種類以上の表面処理を行ってもよい。
【0044】
このアルミナ処理、シリカ処理、ジルコニア処理とはアナターゼ形酸化チタン表面にアルミナ、シリカ、或いはジルコニアを析出させる処理を云い、これらの表面に析出したアルミナ、シリカ、ジルコニアにはアルミナ、シリカ、ジルコニアの水和物も含まれる。
【0045】
なお、アルミナ及びシリカの処理は同時に行っても良いが、特にアルミナ処理を最初に行い、次いでシリカ処理を行うことが好ましい。また、アルミナとシリカの処理をそれぞれ行う場合のアルミナ及びシリカの処理量は、アルミナよりもシリカの多いものが好ましい。
【0046】
本発明に係わる中間層を形成するために作製する中間層塗布液は前記表面処理酸化チタン等の無機粒子の他にバインダー樹脂、分散溶媒等から構成される。
【0047】
無機粒子の中間層中での比率は、中間層のバインダー樹脂との体積比(バインダー樹脂の体積を1とすると)で1.0〜2.0倍が好ましい。中間層中にこのような高密度の無機粒子を含有させることにより、中間層の整流性が高まり、膜厚を厚くしても残留電位の上昇や転写メモリーも発生せず、絶縁破壊や黒ポチを効果的に防止でき、電位変動が小さい良好な有機感光体を形成することができる。又、このような中間層はバインダー樹脂100体積部に対し、無機粒子を100〜200体積部を用いることが好ましい。
【0048】
一方、これらの粒子を分散し、中間層の層構造を形成するバインダー樹脂としては、粒子の良好な分散性を得る為にポリアミド樹脂が好ましいが、特に以下に示すポリアミド樹脂が好ましい。
【0049】
本発明に係わる中間層のバインダー樹脂としてはアルコール可溶性ポリアミド樹脂が好ましい。有機感光体の中間層のバインダー樹脂としては、中間層を均一な膜厚で形成するために、溶媒溶解性の優れた樹脂が必要とされている。このようなアルコール可溶性のポリアミド樹脂としては、前記した6−ナイロン等のアミド結合間の炭素鎖の少ない化学構造から構成される共重合ポリアミド樹脂やメトキシメチル化ポリアミド樹脂が知られている。
【0050】
更に、本願発明の中間層のバインダーとしては、下記のようなバインダーが好ましく用いられる。
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

【0053】
【化3】

【0054】
上記具体例中の()内の%は繰り返し単位構造のアミド結合間の炭素数が7以上の繰り返し単位構造の比率(モル%)を示す。
【0055】
上記具体例の中でも、N−1〜N−4のポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0056】
又、ポリアミド樹脂の分子量は数平均分子量で5,000〜80,000が好ましく、10,000〜60,000がより好ましい。数平均分子量が5,000以下だと中間層の膜厚の均一性が劣化し、本発明の効果が十分に発揮されにくい。一方、80,000より大きいと、樹脂の溶媒溶解性が低下しやすく、中間層中に凝集樹脂が発生しやすく、黒ポチ等の画像欠陥が発生しやすい。
【0057】
上記ポリアミド樹脂はその一部が既に市販されており、例えばダイセル・デグサ(株)製のベスタメルトX1010、X4685等の商品名で販売されて、一般的なポリアミドの合成法で作製することができる。
【0058】
本発明は中間層のバインダー樹脂を溶解し、無機粒子を分散させた塗布液を作製する為に、中間層の溶媒として、少なくとも2種以上の混合溶媒を用い、該混合溶媒の最大量を占める主溶媒に対して、溶解性パラメータ値(SP値)が主溶媒より2.0〜4.0低く且つ沸点が主溶媒よりも低い有機溶媒を、全混合溶媒に対して10〜40質量%含有する混合溶媒を用いる。このような混合溶媒を用いることにより、無機粒子を均一に分散させた中間層を5〜40μmの均一な膜厚に塗布することが可能となり、接触帯電等の電子写真プロセスで発生しやすい絶縁破壊を防止できると共に、塗布むらを防止し、クリアなハーフトーン画像を得ることができる。
【0059】
本発明において溶解性パラメータ値とは、原崎勇次著「コーティングの基礎科学」54〜57頁、1986年(槇書店)の表3〜9「Fedorsによる原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積(25℃)」に記載されている化合物構造式から溶解性パラメータ値(SP)を計算する方法によって規定される値である。溶解性パラメータは、溶解度パラメータ、相溶性パラメータとも称され、基本的に凝集エネルギー密度(cohensive energy density)の1/2乗、すなわち、(凝集エネルギー[cal/mol])/(分子容[cm/mol])の1/2乗で定義される値であり、主として、ポリマーの各種溶媒への溶解性を予測するのに用いられる有用な物性値である。溶解性パラメータを求める方法としては、上記の他に、溶媒との溶解性を測定する方法、溶媒の膨潤性を測定する方法、極限粘度の測定から求める方法等があるが、本発明においては前記Fedorsによる計算値を用いる。
【0060】
本発明に係わる混合溶媒で、最大質量の主溶媒としては、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、sec−ブタノール等の炭素数2〜4のアルコール類が好ましく、これらの溶媒は、アルコール可溶のポリアミドの溶解性に優れ。塗布液の塗布性の点で優れている。これらの溶媒は全溶媒中に30〜100質量%、好ましくは40〜100質量%、更には50〜100質量%が好ましい。これらの主溶媒の中でもエタノール及びn−プロピルアルコールが好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0061】
前記主溶媒と併用し、好ましい効果を得られる従溶媒としては、メタノール、ベンジルアルコール、トルエン、メチレンクロライド、エチレンクロライド、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。従溶媒は1種類以上用いることができる。又、前記主溶媒と従溶媒の分類は、絶対的なものではなく、上記例示の主溶媒が従溶媒になることも、従溶媒が主溶媒になることもあり得る。
即ち、本発明に係わる混合溶媒は前記主溶媒より融点か低く且つ溶解性パラメータ値(SP値)も主溶媒より2.0〜4.0低い従溶媒を少なくとも1種用い、該従溶媒を全混合溶媒に対して10〜40質量%含有させる。このような混合溶媒を用いることにより、無機粒子を含有した中間層を厚く、しかも均一に塗布でき、塗布むらを発生させることなく、絶縁破壊等の電荷リークの発生を防止した中間層を有する有機感光体を作製することができる。
又、本発明に係わる混合溶媒は上記主溶媒及び従溶媒の他に第3の溶媒を用いることができる。ここで、第3の溶媒としては、上記主溶媒と従溶媒の関係を満たさない第3の溶媒を意味し、これらの関係を満たさない限り、上記例示した溶媒を用いてもよいし、例示以外の溶媒を用いてもよい。又、第3の溶媒は1種類以上用いてもよい。但し、第3の溶媒のSP値も主溶媒のSP値に近い溶媒が好ましく、主溶媒のSP値との差が絶対値で4.0以内が好ましい。
本発明に係わる中間層の膜厚は5〜40μmが好ましい。中間層の膜厚が5μm未満では、絶縁破壊や黒ポチが発生しやすく、40μmを超えると、残留電位の上昇や転写メモリーが発生しやすく、鮮鋭性が劣化しやすい。中間層の膜厚は6〜25μmがより好ましい。
【0062】
次に、本願発明に係わる電荷発生層について、記載する。
【0063】
(電荷発生層)
本願発明の電荷発生層が含有するチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料(本願発明の顔料)とは、1つの顔料粒子の中に、少なくともチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンとを含有する顔料を意味する。
【0064】
本願発明の顔料を含有する電荷発生層の反射スペクトルから換算した吸光度について、以下に記載する。
【0065】
本願発明の顔料を有する電荷発生層が、反射スペクトルから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が0.80〜1.10の特性を得るには以下のような顔料の分散をすることが必要である。
【0066】
即ち、電荷発生層用塗布液の調製過程において、電荷発生物質(顔料)の分散を十分に行い、塗布液中に二次凝集した粒子や粗大粒子が含まれないようにすることが重要である。
【0067】
一方、高い分散シェアにより電荷発生物質の分散性を高めると、均一に分散した塗膜は形成できるものの、分散シェアにより電荷発生物質の結晶構造が変化してその特性が損なわれ、感度及び電位安定性に問題を生じることがある。
【0068】
特に湿度依存性を解決するために開発された、2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニン顔料は、粉砕した際にできる破断面等に生じる結晶の欠陥箇所において加水分解等によるブタンジオールの脱離やフタロシアニン環の分解が起りやすく、その分解物が電荷発生を阻害したり、電荷トラップになったりして感度や繰り返し特性に悪影響を及ぼすのではないかと推論している。
【0069】
そこで、本発明では、小粒径顔料粒子を合成し、顔料合成時の結晶を維持したまま、破砕を伴わず二次凝集をほぐすのみの低シェアな分散を行うことで、顔料結晶にあまりストレスを懸けること無く、分散性を高められること見出し、前記課題を解決出来ることがわかり、さらに検討を続けた結果、電荷発生層の反射スペクトルのから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が、分散性と結晶性維持との両立の度合いを示す指標になりうることが判明した。
【0070】
即ち、本願発明に好ましく用いられる分散手段は、低シェア分散(低セン断の分散)であるが、結晶系にあまりストレスを懸けることのない低シェアの分散方法とは、超音波分散の様なメディアレス分散や、メディアを使用する場合にも、例えば1mm以下の小粒径或いはガラスビーズ(比重:2.5)等の低比重のメディアを用い、1000rpm以下の様な低回転速度での低せん断速度分散を短時間行うことである。
【0071】
そして、このような低シェア分散の検討結果から、電荷発生層の前記比(ABS780/ABS700)が、0.80〜1.10である場合には、厚膜の中間層を併用することにより、感度の湿度依存性がないにもかかわらず、高感度で繰り返し電位安定性、耐リーク性が高い有機感光体を得ることが出来ることが判明した。
【0072】
〔電荷発生層の顔料の分散〕
本願発明の顔料(チタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料)を用いて、電荷発生層等の分散液を作るには、これらの顔料を溶媒中で分散する。溶媒としては特に制限はなくメチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジグライムなどのエーテル系溶媒、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブタノールなどのアルコール系溶媒、その酢酸エチル、酢酸t−ブチルなどのエステル系溶媒、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香属溶媒、ジクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン系溶媒など多数を挙げることが出来る。
【0073】
分散液中にはバインダーを添加することが出来る。バインダーとしては使用する溶媒に溶解する範囲で広く選ぶことが出来る。例えばポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステルおよびこれらのコポリマーなど多数に上る。バインダーと顔料の比率は特に制限はないが通常1/10から10/1である。バインダーが少ないと分散液が不安定になり、多すぎると電気抵抗がたかくなって電子写真感光体にしたとき繰り返しで残留電位が上昇するなどの欠点が起きやすい。
【0074】
分散状態の指標としては、前記した電荷発生層の反射スペクトルのから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が、0.80〜1.10の範囲にある必要がある。
【0075】
上記比(Abs780/Abs700)の制御は、電荷発生層の分散時の分散液にかかるシェアを調整することにより行うことができる。具体的には、分散方法や分散時に用いるメディアの径や量、分散時間などにより制御することができる。
【0076】
本発明者らの検討結果によると、電荷発生層の前記比(R700/R780)が、0.80〜1.10である場合には、感度の湿度依存性がなく、高感度で繰り返し電位安定性が高い電子写真感光体を得ることが出来ることが判明した。
【0077】
図1は、本願発明の顔料を含有する感光層の反射スペクトルの一例である。
【0078】
図1(a)は、吸光度の比(Abs780/Abs700)が本願発明の範囲内の特性を示す。
【0079】
図1(b)は、吸光度の比(Abs780/Abs700)が本願発明の範囲外の特性を示す。
【0080】
本願発明のチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料(本願発明の顔料)とは、1つの顔料粒子の中に、少なくともチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンとを含有する顔料を意味する。
【0081】
本願発明の顔料の分散においては、二次凝集の分散や結晶の破砕が進むにつれて780nm近辺の吸光度が減少し、比(Abs780/Abs700)が減少する。
【0082】
比(Abs780/Abs700)が0.80未満の場合、過度の分散シェアにより顔料結晶が破砕されたことを示し、結晶の欠陥箇所における2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンの分解が起こりやすくなり、その結果感度や繰り返し特性が悪化する。
【0083】
又、比(Abs780/Abs700)が1.10を超える場合、分散不良の二次凝集した粒子や粗大粒子が存在することを示し、画像濃度低下などの画像欠陥を生じることとなる。
【0084】
本願発明において、電荷発生層の反射スペクトルは、支持体上に形成した感光体試料で測定する(全ての層形成後の感光体を用いて)。また、該反射スペクトルは、支持体の反射強度を測定し、それを各波長での100%反射強度とし、感光体試料の各波長の反射強度を支持体の反射強度で割った値を相対反射率(Rλ)として測定する。得られた反射スペクトルを、下記式により吸収スペクトルに換算した後、干渉縞による凹凸を除去するために、換算データを765〜795nm、685〜715nmの範囲でそれぞれ二次の多項式で近似し、780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)を算出する。
【0085】
但し Absλ=−log(Rλ)
Rλは、波長λの感光体試料の反射強度を、波長λでの支持体の反射強度で割った相対反射率である。
【0086】
比(Abs780/Abs700)は電荷発生層の上に電荷輸送層があっても電荷輸送層はこの領域に吸収を持たず、比(Abs780/Abs700)を取ることにより電荷輸送層の寄与分はキャンセルされる。
【0087】
上記反射スペクトルは光学式膜厚測定装置Solid Lambda Thickness(スペクトラコープ社製)を用いて測定した。
【0088】
2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニン顔料は、そのブタンジオール付加比の違いにより、特有の結晶型を有する。
【0089】
チタニルフタロシアニンと、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール又は(2S,3S)−2,3−ブタンジオールの少なくともいずれか(以下、ブタンジオールともいう)を過剰に反応させると、X線回折スペクトルで、ブラッグ角2θ(±0.2°):9.5°に特徴的なピークを有する(以下、9.5°型と略)図2(1)に示す顔料が得られる。該9.5型のブタンジオール付加チタニルフタロシアニン顔料は9.5以外にも16.4°、19.1°、24.7°、26.5°にピークがみられる。
【0090】
該顔料の構造はIRスペクトルで970cm−1付近のTi=O吸収が消失し、630cm−1付近にO−Ti−Oの吸収が現れること、熱分析(TG)で390〜410℃に約11%の質量減少があること(熱分解によるブチレンオキシドの脱離のためと考えられる)、及び質量分析の結果から、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオール又は(2S,3S)−2,3−ブタンジオールが、1/1で脱水縮合した構造と考えられている。
【0091】
一方、チタニルフタロシアニン1モルに対し、ブタンジオール化合物を1モル以下で反応させると、粉末X線回折スペクトルで、ブラッグ角2θ:8.3°(±0.2°)に特徴的なピーク有する(以下、8.3°型と略)、図2(2)に示す顔料が得られる。該8.3°型のブタンジオール付加チタニルフタロシアニン顔料は8.3°以外にも24.7°、25.1°、26.5°にピークがみられる。該顔料は、IRスペクトルで970cm−1付近にTi=O、630cm−1付近にO−Ti−Oの両吸収が現れる。また、熱分析で390〜410℃にて質量減少が11%未満あること、及び質量分析の結果から、ブタンジオール/チタニルフタロシアニン=1/1付加体とチタニルフタロシアニンとが、ある割合で混晶(1つの顔料粒子中に2つ以上の化合物が混在し、特有の結晶型を有する顔料)を形成していると推測している。ブタンジオール付加比は、熱分析における390〜410℃の質量減少から、40〜70モル%と推測される。
【0092】
尚、X線回折スペクトルにおいて前記特徴的なピークとは、バックグランドのバラツキを超える明確に異なるピークを云う。
【0093】
本発明においては、良好な感度、繰り返し電位安定性が得られる点で、本願発明の顔料が、X線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角(2θ±0.2°)の8.3°に特徴的なピークを有することがより好ましい。
【0094】
本願発明において、2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンの合成には、その原料として、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール又は(2S,3S)−2,3−ブタンジオールの光学異性体の2,3−ブタンジオールを用いることが好ましいが、光学異性を示さないラセミ体を用いてもよい。
【0095】
本願発明の顔料はその合成時の顔料で、BET比表面積が20m/g以上であることが望ましい。
【0096】
このようにBET比表面積が大きく、小粒径の顔料を含有させた電荷発生層の塗布液を、低シェア分散して、合成時の顔料の分散性を維持したとき、良好な感度、繰り返し電位安定性を有する感光体を作製することができる。
【0097】
〔2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンの作製方法〕
2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニン、例えば、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオール又は(2S,3S)−2,3−ブタンジオールの少なくともいずれかとの付加体は、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオール又は(2S,3S)−2,3−ブタンジオール(以後、ブタンジオール化合物ということがある)とを各種溶媒中で室温あるいは加熱下で反応させことで合成することができる。原料であるチタニルフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンから得る合成法、ジイミノイソインドリンとアルコキシチタンから得る合成法、フタロニトリルと尿素とアルコキシチタンから得る合成法等通常知られている何れの合成法も用いることが出来るが、特にはジイミノイソインドリンとアルコキシチタンから得られる塩素含有量の少ない高純度なチタニルフタロシアニンが好ましい。またチタニルフタロシアニンはアシッドペースト処理等の方法により無定形化してからブタンジオール化合物と反応させるものが好ましい。無定型チタニルフタロシアニンとブタンジオール化合物との付加反応には、通常5〜30倍の溶媒が使用される。溶媒には特に制限はなくクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、クロロナフタレン、キノリンなどの芳香族溶媒からメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジグライムなどのエーテル系溶媒、さらにはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、その他ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒など多数を挙げることができる。
【0098】
チタニルフタロシアニンとブタンジオール化合物との反応は下記に示すが、広範囲な温度条件下で行うことができ、反応温度は25〜300℃の範囲が好ましく、BET比表面積が20m/g以上の顔料を合成するためには、30〜100℃の範囲であることがより好ましい。
【0099】
【化4】

【0100】
ブタンジオール化合物はチタニルフタロシアニン1モルに対して通常0.2〜2.0モルの割合で添加される。等モルの付加体であるためには、ジオール化合物を前記割合で1.0モル以上使用することが必要である。ジオール化合物を前記割合で1.0モル以下の添加量の場合には、得られた付加体はチタニルフタロシアニンとの混晶となる。
【0101】
電荷発生層には電荷発生物質(CGM)を含有する。その他の物質としては必要によりバインダー樹脂、その他添加剤を含有しても良い。
【0102】
本願発明に係わる電荷発生層には、電荷発生物質として前述のブタンジオール付加体チタニルフタロシアニン顔料を使用するが、他のフタロシアニン顔料、アゾ顔料、ペリレン顔料、アズレニウム顔料などを併用して用いることができる。
【0103】
電荷発生層にCGMの分散媒としてバインダーを用いる場合、バインダーとしては公知の樹脂を用いることができるが、最も好ましい樹脂としてはホルマール樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性ブチラール樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂と電荷発生物質との割合は、バインダー樹脂100質量部に対し20〜600質量部が好ましい。これらの樹脂を用いることにより、繰り返し使用に伴う残留電位増加を最も小さくできる。電荷発生層の膜厚は0.1μm〜2μmが好ましい。
【0104】
次に、本願発明に係わる電荷輸送層について、記載する。
【0105】
(電荷輸送層)
本願発明に係わる電荷輸送層には、正孔輸送性の電荷輸送物質が用いられる。
【0106】
これら正孔輸送性の電荷輸送物質には、例えばトリフェニルアミン誘導体、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、ベンジジン化合物、ブタジエン化合物などを用いることができる。これら電荷輸送物質(CTM)は通常、適当なバインダー樹脂中に溶解して層形成が行われる。
【0107】
本願発明に好ましく用いられる電荷輸送物質の代表的化合物を下記に例示する。
【0108】
【化5】

【0109】
【化6】

【0110】
【化7】

【0111】
【化8】

【0112】
電荷輸送層(CTL)に用いられるバインダー樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂かを問わない。例えばポリスチレン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂並びに、これらの樹脂の繰り返し単位構造のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂。又これらの絶縁性樹脂の他、ポリ−N−ビニルカルバゾール等の高分子有機半導体が挙げられる。これらの中で吸水率が小さく、CTMの分散性、電子写真特性が良好なポリカーボネート樹脂が最も好ましい。
【0113】
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100質量部に対し40〜67質量部が好ましい。又、電荷輸送層の膜厚は10〜40μmが好ましい。
【0114】
以上、本発明の最も好ましい感光体の層構成を例示したが、本発明では上記以外の感光層構成でも良い。
【0115】
電荷輸送層の層形成に用いられる溶媒又は分散媒としては、下記のような溶媒が用いられる。
【0116】
即ち、トルエン、o−、m−、p−キシレン或いはその混合物、アニソール、フェネトール、クロロベゼン、o−、m−、p−ジクロロベンゼン或いはその混合物、ブロムベンゼン等を挙げることができる。又、アルコール系、エーテル系、ケトン系の化合物も好ましく用いられる。例えばメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が好ましく、特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0117】
本発明の電荷輸送層の残留溶媒量は、電荷輸送層塗布後の乾燥条件や電荷輸送層塗布液溶媒の併用条件等により調整することができる。一般に有機感光体の乾燥温度は、少なくとも溶媒の沸点以上の温度で、乾燥時間を変えて調整する。乾燥温度は生産性、及びコストとの関係で70℃〜150℃近辺で実施することが好ましい。残量溶媒は20〜10000ppmの範囲で調整することが好ましい。
【0118】
電荷輸送層以外の層形成に用いられる溶媒としては、下記のような溶媒を用いることができる。
【0119】
n−ブチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、イソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではないが、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等が好ましく用いられる。また、これらの溶媒は単独或いは2種以上の混合溶媒として用いることもできる。
【0120】
次に本願発明の有機感光体を製造するための塗布加工方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、円形量規制型塗布等の塗布加工法が用いられるが、感光層の上層側の塗布加工は下層の膜を極力溶解させないため、又、均一塗布加工を達成するためスプレー塗布又は円形量規制型(円形スライドホッパ型がその代表例)塗布等の塗布加工方法を用いるのが好ましい。なお保護層は前記円形量規制型塗布加工方法を用いるのが最も好ましい。前記円形量規制型塗布については例えば特開昭58−189061号公報に詳細に記載されている。
【0121】
〔画像形成装置〕
図3は、本発明の一実施の形態を示すカラー画像形成装置の断面構成図である。
【0122】
本発明の画像形成装置においては、感光体上に静電潜像を形成するに際し、発振波長が350〜850nmの半導体レーザー又は発光ダイオード(LED)を、像露光光源として用いるのが望ましい。これらの像露光光源を用いて、書込みの主査方向の露光ドット径を10〜100μmに絞り込み、有機感光体上にデジタル露光を行うことにより、600dpi(dpi:2.54cm当たりのドット数)から2400dpi、あるいはそれ以上の高解像度の電子写真画像をうることができる。
【0123】
前記露光ドット径とは該露光ビームの強度がピーク強度の1/e以上の領域の主走査方向にそった露光ビームの長さ(Ld:長さが最大位置で測定する)を云う。
【0124】
用いられる光ビームとしては半導体レーザーを用いた走査光学系及びLEDの固体スキャナー等があり、光強度分布についてもガウス分布及びローレンツ分布等があるがそれぞれのピーク強度の1/e以上の領域を本発明に係わる露光ドット径とする。
【0125】
このカラー画像形成装置は、タンデム型カラー画像形成装置と称せられるもので、4組の画像形成部(画像形成ユニット)10Y、10M、10C、10Bkと、無端ベルト状中間転写体ユニット7と、給紙搬送手段21及び定着手段24とから成る。画像形成装置の本体Aの上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
【0126】
イエロー色の画像を形成する画像形成部10Yは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Y(感光体ドラム1Y)の周囲に配置された帯電手段(帯電工程)2Y、露光手段(露光工程)3Y、現像手段(現像工程)4Y、一次転写手段(一次転写工程)としての一次転写ローラ5Y、クリーニング手段6Yを有する。マゼンタ色の画像を形成する画像形成部10Mは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1M、帯電手段2M、露光手段3M、現像手段4M、一次転写手段としての一次転写ローラ5M、クリーニング手段6Mを有する。シアン色の画像を形成する画像形成部10Cは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1C、帯電手段2C、露光手段3C、現像手段4C、一次転写手段としての一次転写ローラ5C、クリーニング手段6Cを有する。黒色画像を形成する画像形成部10Bkは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Bk、帯電手段2Bk、露光手段3Bk、現像手段4Bk、一次転写手段としての一次転写ローラ5Bk、クリーニング手段6Bkを有する。
【0127】
前記4組の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkは、感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkを中心に、回転する帯電手段2Y、2M、2C、2Bkと、像露光手段3Y、3M、3C、3Bkと、回転する現像手段4Y、4M、4C、4Bk、及び、感光体ドラム1Y、1M、1C、1Bkをクリーニングするクリーニング手段6Y、6M、6C、6Bkより構成されている。
【0128】
前記画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkは、感光体1Y、1M、1C、1Bkにそれぞれ形成するトナー画像の色が異なるだけで、同じ構成であり、画像形成ユニット10Yを例にして詳細に説明する。
【0129】
画像形成ユニット10Yは、像形成体である感光体ドラム1Yの周囲に、帯電手段2Y(以下、単に帯電手段2Y、あるいは、帯電器2Yという)、露光手段3Y、現像手段4Y、クリーニング手段6Y(以下、単にクリーニング手段6Y、あるいは、クリーニングブレード6Yという)を配置し、感光体ドラム1Y上にイエロー(Y)のトナー画像を形成するものである。また、本実施の形態においては、この画像形成ユニット10Yのうち、少なくとも感光体ドラム1Y、帯電手段2Y、現像手段4Y、クリーニング手段6Yを一体化するように設けている。
【0130】
帯電手段2Yは、感光体ドラム1Yに対して一様な電位を与える手段であって、本実施の形態においては、感光体ドラム1Yにコロナ放電型の帯電器2Yが用いられている。
【0131】
像露光手段3Yは、帯電器2Yによって一様な電位を与えられた感光体ドラム1Y上に、画像信号(イエロー)に基づいて露光を行い、イエローの画像に対応する静電潜像を形成する手段であって、この像露光手段3Yとしては、感光体ドラム1Yの軸方向にアレイ状に発光素子を配列したLEDと結像素子とから構成されるもの、あるいは、レーザー光学系などが用いられる。
【0132】
本発明の画像形成装置としては、上述の感光体と、現像器、クリーニング器等の構成要素をプロセスカートリッジ(画像形成ユニット)として一体に結合して構成し、この画像形成ユニットを装置本体に対して着脱自在に構成しても良い。又、帯電器、像露光器、現像器、転写又は分離器、及びクリーニング器の少なくとも1つを感光体とともに一体に支持してプロセスカートリッジ(画像形成ユニット)を形成し、装置本体に着脱自在の単一画像形成ユニットとし、装置本体のレールなどの案内手段を用いて着脱自在の構成としても良い。
【0133】
無端ベルト状中間転写体ユニット7は、複数のローラにより巻回され、回動可能に支持された半導電性エンドレスベルト状の第2の像担持体としての無端ベルト状中間転写体70を有する。
【0134】
画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Bkより形成された各色の画像は、一次転写手段としての一次転写ローラ5Y、5M、5C、5Bkにより、回動する無端ベルト状中間転写体70上に逐次転写されて、合成されたカラー画像が形成される。給紙カセット20内に収容された画像支持体(定着された最終画像を担持する支持体:例えば普通紙、透明シート等)としての画像支持体Pは、給紙手段21により給紙され、複数の中間ローラ22A、22B、22C、22D、レジストローラ23を経て、二次転写手段としての二次転写ローラ5bに搬送され、画像支持体P上に二次転写してカラー画像が一括転写される。カラー画像が転写された画像支持体Pは、定着手段24により定着処理され、排紙ローラ25に挟持されて機外の排紙トレイ26上に載置される。ここで、中間転写体や画像支持体等の感光体上に形成されたトナー画像の転写支持体を総称して転写媒体と云う。
【0135】
一方、二次転写手段としての二次転写ローラ5bにより画像支持体Pにカラー画像を転写した後、画像支持体Pを曲率分離した無端ベルト状中間転写体70は、クリーニング手段6bにより残留トナーが除去される。
【0136】
画像形成処理中、一次転写ローラ5Bkは常時、感光体1Bkに当接している。他の一次転写ローラ5Y、5M、5Cはカラー画像形成時にのみ、それぞれ対応する感光体1Y、1M、1Cに当接する。
【0137】
二次転写ローラ5bは、ここを画像支持体Pが通過して二次転写が行われる時にのみ、無端ベルト状中間転写体70に当接する。
【0138】
また、装置本体Aから筐体8を支持レール82L、82Rを介して引き出し可能にしてある。
【0139】
筐体8は、画像形成部10Y、10M、10C、10Bkと、無端ベルト状中間転写体ユニット7とから成る。
【0140】
画像形成部10Y、10M、10C、10Bkは、垂直方向に縦列配置されている。感光体1Y、1M、1C、1Bkの図示左側方には無端ベルト状中間転写体ユニット7が配置されている。無端ベルト状中間転写体ユニット7は、ローラ71、72、73、74を巻回して回動可能な無端ベルト状中間転写体70、一次転写ローラ5Y、5M、5C、5Bk、及びクリーニング手段6bとから成る。
【0141】
本発明の画像形成装置は電子写真複写機、レーザプリンター、LEDプリンター及び液晶シャッター式プリンター等の電子写真装置一般に適応するが、更に、電子写真技術を応用したディスプレー、記録、軽印刷、製版及びファクシミリ等の装置にも幅広く適用することができる。
【実施例】
【0142】
以下に、本発明の構成と効果を実施態様にて示すが、無論、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。なお、文中「部」とは、「質量部」を表す。
【0143】
合成例1
(無定型チタニルフタロシアニンの合成)
1,3−ジイミノイソインドリン;29.2gをオルトジクロロベンゼン200mlに分散し、チタニウムテトラ−n−ブトキシド;20.4gを加えて窒素雰囲気下に150〜160℃で5時間加熱した。放冷後、析出した結晶を濾過し、クロロホルムで洗浄、2%塩酸水溶液で洗浄、水洗、メタノール洗浄して、乾燥後、26.2g(収率91%)の粗チタニルフタロシアニンを得た。ついで粗チタニルフタロシアニンを5℃以下で濃硫酸250ml中で1時間攪拌して溶解し、これを20℃の水5Lに注いだ。析出した結晶を濾過し、充分に水洗してウエットペースト品225gを得た。ついでウエットペースト品を冷凍庫にて凍結し、再度解凍した後、濾過、乾燥して無定型チタニルフタロシアニン24.8g(収率86%)を得た。
【0144】
(本願発明の顔料(CG−1)の合成)
前述の無定型チタニルフタロシアニン10.0gと(2R,3R)−2,3−ブタンジオール0.94g(0.6当量比)(当量比はチタニルフタロシアニンに対する当量比、以後同じ)をオルトジクロロベンゼン(ODB)200ml中に混合し60〜70℃で6.0時間加熱撹拌した。一夜放置後、該反応液にメタノールを加えて生じた結晶を濾過し、濾過後の結晶をメタノールで洗って((2R,3R)−2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料)CG−1:10.3gを得た。CG−1のX線回折スペクトルを図2(2)に示す。8.3°、24.7°、25.1°、26.5°に明確なピークがある。マススペクトルにおいて576と648にピークがあり、IRスペクトルでは970cm−1付近のTi=O、630cm−1付近にO−Ti−Oの両吸収が現れる。また熱分析(TG)では390〜410℃に約7%の質量減少があることから、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオールの1:1付加体(前記化1で示した脱水縮合構造)と非付加体(付加していない)チタニルフタロシアニンの混晶と推定される。
【0145】
得られたCG−1のBET比表面積を流動式比表面積自動測定装置(マイクロメトリックス・フローソープ型:島津製作所)で測定したところ、31.2m/gであった。
【0146】
合成例2(本願発明の顔料(CG−2)の合成)
合成例1において、(2R,3R)−2,3−ブタンジオールの代わりに(2S,3S)−2,3−ブタンジオールを用いた他は同様にして、(2S,3S)−2,3−ブタンジオール−チタニルフタロシアニン付加体を含有する顔料CG−2:10.5gを得た。CG−2のX線回折スペクトルでは、8.3°、24.7°、25.1°、26.5°に明確なピークがみられ、IRスペクトルでは970cm−1付近のTi=O、630cm−1付近にO−Ti−Oの両吸収が現れる。CG−2のBET比表面積は、30.5m 合成例3(本願発明の顔料(CG−3)の合成)
合成例1の無定形チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオールの反応において、反応温度を60〜70℃の代わりに、90〜100℃とした他は同様にして、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料CG−3:10.6gを得た。CG−3のX線回折スペクトルでは、8.3°、24.7°、25.1°、26.5°に明確なピークがみられ、IRスペクトルでは970cm−1付近のTi=O、630cm−1付近にO−Ti−Oの両吸収が現れる。CG−3のBET比表面積は、20.5m/gであった。
【0147】
合成例4(本願発明の顔料(CG−4)の合成)
合成例1の無定形チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオールの反応において、反応温度を60〜70℃の代わりに、130〜140℃とした他は同様にして、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料CG−4:10.6gを得た。CG−4のX線回折スペクトルでは、8.3°、24.7°、25.1°、26.5°に明確なピークがみられ、IRスペクトルでは970cm−1付近のTi=O、630cm−1付近にO−Ti−Oの両吸収が現れる。CG−4のBET比表面積は、13.5m/gであった。
【0148】
合成例5(比較例の顔料(CG−5)の合成)
合成例1の無定形チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオールの反応において、(2R,3R)−2,3−ブタンジオールを2.35g(1.5当量比)用い、反応温度を130〜140℃とした他は同様にして、(2R,3R)−2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料CG−5:11.0gを得た。CG−6のX線回折スペクトル(図2(1))では、9.5°、16.4°、19.1°、24.7°、26.5°に明確なピークがみられ、IRスペクトルで970cm−1付近のTi=O吸収が消失し、630cm−1付近にO−Ti−Oの吸収が現れる。CG−6のBET比表面積は、10.2m/gであった。
【0149】
感光体1の作製
中間層1
洗浄済み円筒状アルミニウム支持体(切削加工によりJISB−0601規定の十点表面粗さRz:0.81μmに加工した)上に、下記中間層塗布液を浸漬塗布法で塗布し、120℃30分で乾燥し、乾燥膜厚5.0μmの中間層1を形成した。
【0150】
(中間層塗布液の作製)
バインダー樹脂:(例示ポリアミドN−1) 1部(1.00体積部)
無機粒子:アナターゼ型酸化チタンA1(一次粒径35nm;メチルハイドロジェンシロキサンとジメチルハイドロジェンシロキサンの共重合体A(モル比1:1)を用い、酸化チタン全質量の5質量%の量で表面処理したもの) 5.6部(1.60体積部)
溶媒:エタノール/n−イソプロピルアルコール/THF(=45/20/35)
10部
上記成分を混合し、サンドミル分散機を用い、10時間、バッチ式にて分散して、中間層塗布液を作製した。
【0151】
尚、上記溶媒で、主溶媒エタノールのSP値は12.8、従溶媒THF(テトラヒドロフラン)のSP値は9.9であり、主溶媒と従溶媒のSP値差は3.6である。
【0152】
その上に下記の電荷発生層塗布液を、浸漬塗布して、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0153】
〈電荷発生層塗布液〉
下記組成を混合し、循環式超音波ホモジナイザーRUS−600TCVP(株式会社日本精機製作所製、19.5kHz、600W)(略称:循環ホモジ)にて循環流量40L/Hで0.5時間、分散した。
【0154】
電荷発生物質:合成例1のCG−1 24部
ポリビニルブチラール樹脂「エスレックBL−1」(積水化学社製) 12部
3−メチル−2−ブタノン/シクロヘキサノン=4/1(V/V) 400部
その上に下記の組成を混合した電荷輸送層塗布液を塗布して、120℃;70分加熱乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成し感光体1を作製した。
【0155】
〈電荷輸送層塗布液〉
電荷輸送物質:CTM−10 150部
ポリカーボネート「ユーピロンZ300」(三菱瓦斯化学社製) 300部
2,6−ジ−t−ブチル−4−フェニルフェノール 15部
溶媒:トルエン/テトラヒドロフラン=2/8(v/v) 2000部
尚、作製した感光体について、光学式膜厚測定装置Solid Lambda Thickness(スペクトラコープ社製)を用いて反射スペクトルを測定した。前記したように、電荷発生層の反射スペクトルは、支持体上に形成した感光体試料で測定する。即ち、アルミ支持体の反射強度を各波長で測定し、該アルミ支持体の各波長の反射強度を分母としたときの相対反射率(R)として測定した。測定した反射スペクトルデータから換算した吸収スペクトルを図2(a)に示す。得られた吸収スペクトルの干渉縞による凹凸除去するために、測定データを765〜795nm、685〜715nmの範囲でそれぞれ二次の多項式で近似し、780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(R700)との比(Abs780/Abs700)を算出した。
【0156】
また、上記電荷発生層を透明ガラスプレート上に塗布乾燥した試料を用いて、X線回折スペクトルを測定したデータを図2(2)に示す。
【0157】
感光体2〜感光体7の作製
感光体1において、中間層の膜厚を表1のように変更した以外は、感光体1と同様にして感光体2〜感光体7を作製した。
【0158】
感光体8の作製
感光体3において、電荷発生物質塗布液の分散時間を2.5時間に変更した以外は同様にして感光体8を作製した。
【0159】
感光体9の作製
感光体3において、電荷発生物質として合成例2で得られたCG−2に変更した以外は同様にして感光体9を作製した。
【0160】
感光体10の作製
感光体3において、電荷発生層塗布液を、下記条件の超音波分散に変更した以外は同様にして感光体10を作製した。
【0161】
〈電荷発生層塗布液〉
下記組成を混合し、28kHz、500Wの超音波洗浄槽(略称:USバス)中にて1.5時間超音波分散を行った。
【0162】
電荷発生物質:合成例1のCG−1 24部
ポリビニルブチラール樹脂「エスレックBL−1」(積水化学社製) 12部
3−メチル−2−ブタノン/シクロヘキサノン=4/1(V/V) 400部
感光体11の作製
感光体10において、電荷発生物質塗布液の分散時間を4時間に変更した以外は同様にして感光体11を作製した。
【0163】
感光体12の作製
感光体3において、電荷発生層塗布液を、下記条件のサンドミル(略称:SM)分散に変更した以外は同様にして感光体12を作製した。
【0164】
〈電荷発生層塗布液〉
下記組成を混合し、分散メディアとして外径1mmのガラスビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、回転数800rpmの条件のサンドミルにて1時間分散を行った。
【0165】
電荷発生物質:合成例1のCG−1 24部
ポリビニルブチラール樹脂「エスレックBL−1」(積水化学社製) 12部
3−メチル−2−ブタノン/シクロヘキサノン=4/1(V/V) 400部
感光体13の作製
感光体12において、電荷発生物質として合成例3で得られたCG−3を用いた以外は同様にして感光体13を作製した。
【0166】
感光体14の作製
感光体11において、電荷発生物質として合成例4で得られたCG−4を用いた以外は同様にして感光体14を作製した。
【0167】
感光体15(比較例)の作製
感光体12において、電荷発生層塗布液の分散時間を5時間に変更した他は同様にして感光体15を作製した。
【0168】
感光体16(比較例)の作製
感光体3において、電荷発生物質として合成例4で得られたCG−4を用いた他は同様にして感光体16を作製した。
【0169】
感光体17(比較例)の作製
感光体12において、電荷発生物質として合成例5で得られたCG−5を用いた他は同様にして感光体17を作製した。
【0170】
上記感光体2〜17についても感光体1と同様に反射スペクトルを測定し、比(R700/R780)を算出した。結果を表1に示す。
【0171】
感光体18の作製
感光体3の作製において、中間層の無機粒子をアナターゼ酸化チタンから酸化亜鉛(一次粒径が100nmでジメチルジメトキシシランで表面処理された酸化亜鉛)に変更し、電荷輸送層の電荷輸送物質をCTM−10からCTM−1に変更した以外は同様にして感光体18を作製した。
【0172】
感光体19の作製
感光体3の作製において、中間層の無機粒子をアナターゼ酸化チタンからルチル型酸化チタン(一次粒径が35nm、オクチルトリメトキシシランで表面処理された酸化チタン)に変更しした以外は同様にして感光体19を作製した。
【0173】
感光体20(比較例)の作製
感光体3の作製において、中間層の無機粒子を表面処理なしアナターゼ酸化チタンに変更した以外は同様にして感光体20を作製した。
【0174】
感光体21(比較例)の作製
感光体1の作製において、中間層から無機粒子を除いた他は同様にして感光体21を作製した。
【0175】
感光体22(比較例)の作製
感光体3において、電荷発生層のCG−1をY型チタニルフタロシアニン(Y−TiO)に代えた以外は同様にして感光体22を作製した。尚、Y型チタニルフタロシアニンはX線回折スペクトル(図4)で、27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニン顔料であり、下記合成例により合成した顔料である。
【0176】
Y型チタニルフタロシアニンの合成例
ジイミノイソインドリンとチタニウムテトラブトキシドからチタニルフタロシアニン粗品を合成し、これを硫酸に溶かし水に注いで生じた沈殿を濾過し水で十分に洗って無定型チタニルフタロシアニン顔料含水ペーストを得た。この顔料含水ペースト(固形分換算約10g)をオルトジクロロベンゼン100mlと水100mlの混合液(水層は分離している)に分散し、70℃で6時間加熱後、メタノールに注いで生じた結晶を濾過し、乾燥してY型チタニルフタロシアニンを得た。
【0177】
【表1】

【0178】
表1において、
混晶(R,R体)とは、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)−2,3−ブタンジオールチタニルフタロシアニン付加体を含有する顔料
混晶(S,S体)とは、チタニルフタロシアニンと(2S,3S)−2,3−ブタンジオールチタニルフタロシアニン付加体を含有する顔料
付加体単体とは、(2R,3R)−2,3−ブタンジオールチタニルフタロシアニン付加体のみを含有する顔料
表1中、
無機粒子
R−TiO:ルチル型酸化チタン
A−TiO:アナターゼ型酸化チタン
ZnO:酸化亜鉛
無機粒子の表面処理
Aはメチルハイドロジェンシロキサンとジメチルシロキサンの共重合体(モル比1:1)
Bはジメチルジメトキシシラン
Cはオクチルトリメトキシシラン
特性評価
以上のようにして得た感光体No.1〜22を、基本的に図3の構成を有する市販のフルカラー複合機bizhub PRO C6500(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)製;600dpi、780nmの半導体レーザーの露光光を使用)を用いて評価した。尚、上記フルカラー複合機は画像形成ユニットを4組有しているので、それぞれの画像形成ユニットの感光体を同一種類の感光体(例えば、感光体1の場合は、4本の感光体1を用意して)で統一して、評価を行った。各評価は、30℃80%RHの条件で、YMCBk各色印字率2.5%のA4画像を中性紙のA4紙に5万枚の画出し耐刷試験を行い、その後、下記の個別の環境条件下で評価した。
【0179】
〈電位安定性の評価〉
上記デジタル複写機bizhub PRO C6500で、高温高湿環境下(HH)にてA4紙50万枚の印刷耐久試験を行い、電位安定性を評価した。
【0180】
判定基準は、下記に示す通りである。
【0181】
初期の帯電電位を600±50Vに調整し、初期と5万枚後の露光部電位の変化量(ΔV)で評価した。
【0182】
◎:ΔVが50V未満(良好)
○:ΔVが50〜100V(実用上問題なし)
×:ΔVが100Vより大きい(実用上問題あり)
(湿度依存性)
環境条件30℃、80%RHでの50万枚の画出し耐刷試験後に、直ぐに実機の主電源を停止した。停止12時間後に電源を入れ画出し可能状態になった後、直ちにA3中性紙全面にハーフトーン画像(マクベス濃度計で相対反射濃度0.4)とA3全面の6dot格子画像を印字した。印字画像の状態を観察し以下の評価を行った。
【0183】
◎:ハーフトーンがなめらかに再現され、格子画像も明瞭に再現されている(良好)
○:ハーフトーン画像のみに感光体長軸方向の薄い帯状濃度変化が認められるが、格子画像には影響なし(実用上問題なし)
×:帯状濃度変化が、ハーフトーンに発生し、格子画像にも濃度変化或いは線幅の変化となって、影響が出ている(実用上問題有り)。
【0184】
(耐リーク性)
黒ポチの発生度合いで評価した。黒ポチについては、周期性が感光体の周期と一致し、長径が0.4mm以上の黒ポチが、A4サイズ当たり何個あるかで判定した。
【0185】
◎:黒ポチの頻度:全ての複写画像が1個/A4以下(良好)
○:黒ポチの頻度:2個/A4以上、5個/A4以下が1枚以上発生(実用上問題なし)
×:及び黒ポチの頻度:6個/A4以上が1枚以上発生(実用上問題有り)
【0186】
【表2】

【0187】
本発明内の感光体1〜5、8〜14、18,19はいずれの特性も少なくとも実用上問題がないが、本発明外の感光体6,7、15〜17、20〜22は少なくともいずれかの特性に問題があることがわかる。
【符号の説明】
【0188】
1Y、1M、1C、1Bk 感光体ドラム
2Y、2M、2C、2Bk 帯電手段
3Y、3M、3C、3Bk 像露光手段
4Y、4M、4C、4Bk 現像手段
10Y、10M、10C、10Bk 画像形成ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に中間層、電荷発生層及び電荷輸送層を有する有機感光体において、中間層は、膜厚が5〜40μmで且つ表面処理された無機微粒子とバインダーを含有し、前記電荷発生層がチタニルフタロシアニンと2,3−ブタンジオール付加体チタニルフタロシアニンを含有する顔料を含み、且つ前記電荷発生層の反射スペクトルから換算した780nmにおける吸光度(Abs780)と700nmにおける吸光度(Abs700)との比(Abs780/Abs700)が0.80〜1.10であることを特徴とする有機感光体。
尚、上記感光層の反射スペクトルの反射率は、波長λの感光体試料の反射強度を、波長λでの支持体の反射強度で割った相対反射率である。
【請求項2】
前記無機微粒子が酸化チタン又は酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の有機感光体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機感光体に静電潜像を形成する手段、該静電潜像をトナー現像する手段、形成されたトナー画像を画像支持体に転写する手段、転写後のトナー画像を定着する手段を、少なくとも有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像形成装置に用いられるプロセスカートリッジにおいて、請求項1又は2に記載の有機感光体と帯電手段、露光手段、現像手段の少なくとも1つを一体として有しており、該画像形成装置に出し入れ可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−237923(P2012−237923A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107945(P2011−107945)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】