説明

有機溶剤がなく、架橋剤として使用できる、安定したポリカルボジイミド分散液を製造する方法

架橋剤として使用する、有機溶剤のない安定した水性ポリカルボジアミド分散液を製造する方法。本方法の特徴はカルボジイミド触媒のもとでポリイソシネイトを反応させてポリカルボジイミドを形成し、ポリカルボジイミドの形成中または形成後に、親水基および1つ以上のアミンおよび/または水酸官能基を含む化合物を添加することでポリカルボジイミド鎖を鎖延長および/または停止させ、その結果得られた化合物を水中に分散させ、分散に使用する水および/または得られた水分散液に塩基および/または緩衝液を添加することでpH値を9と14の間に調整することである。本方法によると親水基および1つ以上のアミン官能基を含む化合物による鎖延長または停止はポリカルボジイミドの水中への分散中または分散後に生じ得る。ポリカルボジイミド分散液のpHは11と13の間にするのが好適である。また、本発明は架橋剤として発明で得られたポリカルボジイミド分散液とカルボキシル官能基を含む水性樹脂とから構成された塗料混合物に関する。さらに、本発明は塗料混合物を基体に塗布し水分を蒸発させて得られた硬化材料で構成される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリカルボジイミドはカルボキシル官能基を含む水性樹脂用架橋剤としてよく知られている。市販のほとんどのポリカルボジイミドは有機溶剤で溶解するが、このことは環境の理由により不利となる。さらにポリカルボジイミドは水性樹脂に混合する前に、水、または水および界面活性剤と混合する必要がある。一般に、これらの水分散液は安定しないので、毎日新たに製造しなければならない。テトラメチルキシレンジイソシアネート由来のポリカルボジイミドのみが特許文献1および特許文献2に記載されているように水中で安定する。しかし、これらポリカルボジイミドの不利な点はテトラメチルキシレンからカルボジイミドを形成する条件が多少極端であり、180℃で22時間必要とし、カルボジイミド触媒も2%必要とする。また、テトラメチルキシレンジイソシアネート由来のポリカルボジイミドはイソホロンジイソシアネートまたは4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート由来の架橋剤よりも遅くて効果が少ない架橋剤である。
【0002】
特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6に記載されているように、イソホロンジイソシアネートから得られた水性ポリカルボジイミド分散液や4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから得られた水性ポリカルボジイミド分散液には安定性がない。市販の水性ポリカルボジイミド製品(ニッシンボー工業のカルボジライト)のカルボジイミド量は50℃における安定性試験において6週間経過後にもとの値の15−70%に減少する。
【特許文献1】US 5688875 (EP 0686626)
【特許文献2】US 5859166
【特許文献3】US 5856014
【特許文献4】US 5958516
【特許文献5】US 6127029
【特許文献6】US 6127477
【特許文献7】EP 878496
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は前述した不利な点を取り除いた方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明により提供する方法は、架橋剤として使用する、有機溶剤のない、安定した水性ポリカルボジイミド分散液を製造する方法であって、
触媒にカルボジイミドを使用しポリイソシアネートを反応させてポリカルボジイミドを形成し、
ポリカルボジイミドの形成中または形成後に、親水基および1つ以上のアミンおよび/または水酸官能基を含む化合物を添加することでポリカルボジイミド鎖を鎖延長および/または停止させ、
その結果得られた化合物を水中に分散させる工程からなり、
分散に使用する水および/または得られた水分散液に塩基または緩衝液を添加することでpHを9と14の間に調整することを特徴とする方法である。
【0005】
また、親水基および1つ以上のアミン官能基を含む化合物を使用したキャッピングまたは鎖延長がポリカルボジイミドの形成中または形成後には生じないが、ポリカルボジイミドの水中への分散中または分散後に生じたときに、安定したポリイソシアネート由来の水性ポリカルボジイミド分散液が得られる。
【0006】
驚くべきことに、ポリカルボジイミド分散液の安定性はpH値が大きくなると非常に増加し、カルボジイミド濃度は50℃において8週間経過しても減少することはない。工程の最後にはpH値を11と13の間に調整するのが好ましい。
【0007】
従来のカルボジイミド触媒としては特許文献7に記載されたものが使用されることがある。驚くべきことに、1−メチルホスホレン−1−オキシドを触媒に使用したとき反応温度および反応時間が減少することがわかり、この理由によりこの触媒は好ましい。
【0008】
ポリカルボジイミドを製造するのに使用するポリイソシアネートは従来のポリイソシアネートであり、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネートおよびそれらの混合物、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,6−ヘキシルジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボニルジイソシアネート、またはそれらの混合物とすることができるが、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好適である。
【0009】
pHの調整に使用する塩基は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水酸化物、またはトリアルキルアミン、または水酸官能基を含むトリアルキルアミンにすることができる。また好ましくは、ポリカルボジイミドの形成中または形成後に、ジアルキルアミノアルキル−アミンまたはアルコールでポリカルボジイミド鎖をキャッピング形成することにより、および/または多価アルコールを含む第三級アミンまたはポリアミンのジイソシアネートの0.01−0.30当量を添加することにより、前記塩基または前記塩基の一部をポリカルボジイミド鎖に取り込むことができる。
【0010】
pH値を一定にするため緩衝液を使用することができる。有用な緩衝液はpHの範囲が9と14の間であるものが効果がある。
親水基および1つ以上のアミンおよび/または水酸官能基を含む化合物はポリエトキシ一価または多価アルコール、ポリエトキシ/ポリプロポキシ一価または多価アルコール、ポリエトキシモノアミンまたはジアミン、ポリエトキシ/ポリプロポキシモノまたはジアミン、ポリアルコキシ側鎖を有する多価アルコールまたはジアミン、水酸化またはアミンアルキルスルホネート、またはジアルキルアミノアルキル−アルコールまたはアミンである。
【0011】
発明によるポリカルボジイミド分散液は、通常の方法でカルボキシル基を含む樹脂の架橋剤として使用することができる。発明によるポリカルボジイミド分散液とカルボキシル官能基を含む水性樹脂とで構成された塗料混合物が製造される。塗料混合物を基体、例えば皮革または合成皮革に塗布して、水分を蒸発させることで材料を硬化させる。追加する成分としては種々のもの、例えば充填剤、着色料、顔料、シリコン、界面活性剤などがある。
【0012】
様々な適用では、分子内のカルボジイミド官能基間の距離を増加させると有利である。架橋剤の剛性を小さくするこの方法で、被覆はより柔軟になり、被覆が伸張の際に艶のない灰色に変色する結果としての被覆の灰色変色や被覆の脆性などの問題が防止できる。したがって、カルボジイミド官能基を離間するための「スペーサ」として柔軟なセグメントをポリカルボジイミド鎖に取り込むことができる。このため、ポリカルボジイミドの形成前、形成中または形成後に、ポリイソシアネートに関して一価または多価アルコールまたはモノアミンまたはポリアミンの0.01−0.30当量を添加する。この場合、多価アルコールまたはポリアミンは例えば、モノまたはポリヒドロキシ−アルカン、ポリエーテル一価または多価アルコール、ポリエステル多価アルコール、ポリカーボネート多価アルコール、ポリカプロラクタム多価アルコール、モノまたはポリアミノ−アルカン、ポリエーテルモノまたはポリアミンである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカルボジイミド分散液には次の様々な有利な点がある。分散液は安定している。また、水性ポリカルボジイミドは分散液の形になっているので、カルボキシル官能基を含む水性樹脂と簡単に混合する。また、生成物には溶剤がないので使用中に揮発性有機蒸気の逃散がない。さらに、カルボジイミド触媒として1−メチルホスホレン−1−オキシドを使用し、4,4’−ジシクロヘキシルメチレンジイソシアネート(およびイソホロンジイソシアネート)で形成したカルボジイミドでは、特許文献1および特許文献2に記載されたジイソシアネートを使用した処理に比べて極端な条件がほとんどない。
【実施例1】
【0014】
実施例1A−1F
(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート由来の水性ポリカルボジイミド分散液の製造)
窒素雰囲気のもとで、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(以下、HMDIと略す)262gと1−メチルホスホレン−1−オキシド4gを攪拌しながら140℃に加熱し、イソシアネート含有量8.20が得られるまで加熱を続けた。次いで、混合物を90−100℃に冷却した。反応時間は8時間であった。親水性化合物を表1に示すように加えた。親水性水酸官能基化合物を使用するときは触媒として0.01重量%のジブチルスズラウリエイトを加え、IRスペクトルのNCOシグナルが消滅するまで混合物を90−100℃でさらに反応させた。実施例1Eの場合、1時間の反応時間の後でアミン官能化合物を加えた。混合物を60−65℃に冷却し、固形物の量を35%に調整しながら60−65℃の水中で分散させた。実施例1Fの場合、アミン官能化合物を分散液に後で加え、混合物を10分間攪拌した。pHが11−12になるまで、表1に示すように10%塩基水溶液を加えた。50℃において試料の安定性試験を行った。2週間毎にカルボジイミド量を調べた。生成物は50℃で少なくとも8週間は安定していた。
【0015】
【表1】

【実施例2】
【0016】
実施例2A−2G
(HMDI由来の水性ポリカルボジイミド分散液の製造)
実施例1A−1Fにおいて水を0.01Mの二ナトリウムリン酸緩衝液で置換えたこと以外は同じことを繰り返した。50℃において試料の安定性試験を行った。2週間毎にカルボジイミド量を調べた。生成物は50℃で少なくとも8週間は安定していた。
【実施例3】
【0017】
(HMDI由来の水性ポリカルボジイミド分散液の製造)
ポリカルボジイミド形成用触媒を加える前に、ブタンジオール15gをジイソシアネートに加えたこと以外は実施例1Aと同じことを繰り返した。イソシアネート含有量7.01が得られるまで反応を続けたが、M−PEGの量は148.61gであった。
【実施例4】
【0018】
(HMDI由来の水性ポリカルボジイミド分散液の製造)
窒素雰囲気のもとで、HMDI262gと1−メチルホスホレン−1−オキシド4gを攪拌しながら140℃に加熱した。加熱はイソシアネート含有量14.26が得られるまで続け、次いで混合物を90℃に冷却した。表2に示すように多価アルコールと、さらに0.01重量%のジブチルスズラウリエイトとを加えた。90℃で30分間攪拌を続け、147gのM−PEG−350を加えた。IRスペクトルのNCOシグナルがなくなるまで攪拌を90℃で続けた。混合物を60−65℃に冷却し、固形物の量を40%に調整しながら60−65℃の水中で分散させた。NaOHの10%水溶液をpHが11になるまで加えた。試料の安定性試験を前述のように行った。生成物は50℃で少なくとも8週間は安定していた。
【0019】
【表2】

【実施例5】
【0020】
(ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート由来の水性ポリカルボジイミド分散液の製造)
窒素雰囲気のもとで、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート150gと140gのM−PEG−350を80℃に加熱し、混合物を80℃で60分間攪拌した。1−メチルホスホレン−1−オキシド0.4gを加えて加熱し、IRスペクトルのNCOシグナルが消滅するまで80℃で攪拌を続けた。反応時間は3時間であった。混合物を60−65℃に冷却して、固形物の量を40%に調整しながら60−65℃の水に分散させた。炭酸ナトリウム1モルの5%水溶液を加え、得られた混合物を均一になるまで攪拌し、次いで、水酸化ナトリウムの10%水溶液をpHが11−12になるまで加えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤として使用する、有機溶剤のない、安定した水性ポリカルボジイミド分散液を製造する方法であって、
触媒にカルボジイミドを使用しポリイソシアネートを反応させてポリカルボジイミドを形成し、
ポリカルボジイミドの形成中または形成後に、親水基および1つ以上のアミンおよび/または水酸官能基を含む化合物を添加することでポリカルボジイミド鎖を鎖延長および/または停止させ、
その結果得られた化合物を水中に分散させる
工程からなり、
分散に使用する水および/または得られた水分散液に塩基および/または緩衝液を添加することでpH値を9と14の間に調整することを特徴とする方法。
【請求項2】
親水基および1つ以上のアミン官能基を含む化合物を使用した前記鎖延長または停止はポリカルボジイミドの水中への分散中または分散後に生じさせることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリカルボジイミド分散液のpH値は11と13の間に調整することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボジイミド形成触媒は1−メチルホスホレン−1−オキシドであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ポリカルボジイミドの製造に使用するポリイソシアネートはトルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネートおよびそれらの混合物、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,6−ヘキシルジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボニルジイソシアネート、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ポリイソシアネートはジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基は水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを含むアルカリ性水酸化物、またはトリアルキルアミン、または水酸官能基を含むトリアルキルアミンであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ポリカルボジイミドの形成中または形成後に、ジアルキルアミノアルキル−アミンまたはアルコールでポリカルボジイミド鎖をキャッピング形成することにより、および/または多価アルコールを含む第三級アミンまたはポリアミンのジイソシアネートの0.01−0.30当量を添加することにより、前記塩基または前記塩基の一部をポリカルボジイミド鎖に取り込むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
緩衝液の有効なpHの範囲は9と14の間であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
親水基および1つ以上のアミンおよび/または水酸官能基を含む前記化合物はポリエトキシ一価または多価アルコール、ポリエトキシ/ポリプロポキシ一価または多価アルコール、ポリエトキシモノアミンまたはジアミン、ポリエトキシ/ポリプロポキシモノまたはジアミン、ポリアルコキシ側鎖を有する多価アルコールまたはジアミン、水酸化またはアミンアルキルスルホネート、またはジアルキルアミノアルキル−アルコールまたはアミン、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ポリカルボジイミドの形成前、形成中または形成後に、ポリイソシアネートに関して一価または多価アルコールまたはモノアミンまたはポリアミンの0.01−0.30当量を追加して添加し、ここで多価アルコールまたはポリアミンは例えば、モノまたはポリヒドロキシ−アルカン、ポリエーテル一価または多価アルコール、ポリエステル多価アルコール、ポリカーボネート多価アルコール、ポリカプロラクタム多価アルコール、モノまたはポリアミノ−アルカン、ポリエーテルモノまたはポリアミンであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
架橋剤として請求項1ないし11のいずれか1項によって得られたポリカルボジイミド分散液と、カルボキシル官能基を含む水性樹脂とで構成された塗料混合物。
【請求項13】
請求項12に記載の塗料混合物を基体に塗布して水分を蒸発させることによって得られた硬化材料。







【公表番号】特表2007−521360(P2007−521360A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516993(P2006−516993)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000470
【国際公開番号】WO2005/003204
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(501236847)シュタール インタナショナル ベーフェー (1)
【Fターム(参考)】