有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜及びその作製方法
【課題】構造制御の可能な有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る。これにより、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する。
【解決手段】少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る。これにより、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機層と無機層とが交互に積層された超格子構造を有する有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状ペロブスカイト化合物は、有機層と無機層とが交互に積層された超格子構造を有し、無機層を構成する無機ハライドの種類により低次元半導体、磁性体、発光体として興味深い物性を有している。
【0003】
例えば、一般式(RNH3)2MX4(Rはアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、Xはハロゲン化物イオン)で表される有機無機層状ペロブスカイト化合物は、図13に示すように、八面体構造の金属ハライドMX6が角を共有することにより二次元的に連なった金属ハライドイオンMX62−からなる無機井戸層と有機アンモニウムイオンからなる有機バリア層とが交互に積層された量子井戸構造を自己組織的に形成する。この有機バリア層のバンドギャップが無機半導体層のバンドギャップに比べて非常に大きいため、電子が無機井戸層に閉じ込められた構造を有する。この量子井戸構造により、非常に強い発光特性や高い三次非線形光学特性を示す(例えば、非特許文献1)。
【0004】
この有機無機層状ペロブスカイト化合物をデバイス材料として応用するためには、単分子層レベルで膜厚や構造を厳密に制御出来る技術を確立することが重要である。これに対し、本発明者は、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)を用いて有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する方法を提案している(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−323387号公報
【非特許文献1】M.Era, A.Shimizu and M.Nagano, Rep.Prog.Polym.Phys.Jpn., 42,473-474(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学特性向上のためには、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜のさらなる構造制御が可能な作製方法が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、構造制御の可能な有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法を提供するとともに、その方法により優れた光学特性を有する有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、水相中にIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとは別にアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドを存在させることにより上記課題を解決できることを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明の有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る、ことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含むこともできる。
【0009】
また、第2の無機ハライドの水相中の濃度を、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍とすることができる。
【0010】
また、ハロゲン化物イオンには、Cl−、Br−又はI−を用いることができる。
【0011】
また、本発明の有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜は、上記の作製方法を用いて製造することができ、例えば、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜であって、2種以上のハロゲン化物イオンを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
有機無機層状ペロブスカイト化合物は、無機層に八面体構造の金属ハライドMX6が角を共有することにより二次元的に連なった金属ハライドイオンMX62−を含んでいる。本発明によれば、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドに加え、さらにアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドを水相中に溶解させることにより、金属ハライドイオンの組成を変化させたり、金属ハライドイオンを生成し易くすることができる。これにより、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の構造を制御して、光学特性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
実施の形態1.
本実施の形態に係る有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る方法であり、第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含むものである。
【0014】
本実施の形態では、第1の無機ハライドと1種以上の第2の無機ハライドとを水相中に溶解させる。第1の無機ハライドは一般式MX2で表すことができる。Mは、IV族元素又は遷移金属を表す。IV族元素は、Ge、Sn又はPb、遷移金属は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn又はCdである。好ましくはPbである。また、Xはハロゲン化物イオン(Cl−、Br−又はI−)を表す。
【0015】
第2の無機ハライドは一般式BY2で表すことができる。Bは、アルカリ金属であり、Li、Na、K、Rb又はCsである。YはXとは異なるハロゲン化物イオンを表す。
以下に示すように1種又は2種の無機ハライドを用いることができる。
(1)1種の無機ハライド
例えば、XがCl−の場合、YはBr−又はI−であり、XがBr−の場合、YはCl−又はI−であり、XがI−の場合、YはCl−又はBr−である。
(2)2種の無機ハライド
例えば、XがCl−の場合、YはBr−とI−であり、XがBr−の場合、YはCl−とI−であり、XがI−の場合、YはCl−とBr−である。
【0016】
第1の無機ハライドと第2の無機ハライドの好ましい組合せとしては、第1の無機ハライド/第2の無機ハライドが、PbBr2/NaCl、PbBr2/NaI、PbBr2/(NaCl+NaI)を挙げることができる。
【0017】
また、BY2の濃度を大きくすると、金属ハライドイオンMX62−のXがYと置き換わるので、所望の発光特性が得られるように、水相中のMX2とBY2の濃度比を設定することができる。
【0018】
また、水相中に水溶性のアルキルアミンハロゲン化水素酸塩CnH2n+1NH3Xを添加することもできる。2層界面における層状ペロブスカイト化合物薄膜の形成を促進させる効果を有する。ここで、nは1から10の整数、Xはハロゲン化物イオンである。ハロゲン化物イオンには第1の無機ハライドと同じハロゲン化物イオンを用いることができる。例えば、第1の無機ハライドにPbBr2を用いる場合には、メチルアミン臭化水素酸塩を用いることができる。濃度は、5.0×10−4mol/L〜5.0×10−3mol/L、より好ましくは8.0×10−4mol/L〜2.0×10−3mol/Lである。
【0019】
有機溶媒に溶解させる有機アンモニウム塩には、モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−のアルキルアンモニウム塩を用いることができる。炭素数は1〜22である。好ましい有機アンモニウム塩としては、ヘキサデシルアミン臭化水素酸塩、ドコシルアミン臭化水素酸塩、オクタデシルアミン臭化水素酸塩等である。これら臭化水素酸塩を1種あるいは2種以上混合して用いることもできる。有機アンモニウム塩の濃度は、1.0×10−5mol/L〜5.0×10−4mol/L、より好ましくは5.0×10−5mol/L〜1.0×10−4mol/Lである。
【0020】
有機溶媒には、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等を用いることができる。これらの有機溶媒を1種単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。上記の有機溶媒であれば特に限定されないが、有機溶媒を水相上に展開した後の、溶媒蒸発に要する時間を短縮させるために沸点の低いものが好ましい。例えば、クロロホルムやジメチルホルムアミド等が好ましい。また、混合溶媒として用いる場合、ハロゲン化炭化水素系溶媒とアミド系溶媒の組合せが好ましい。具体例を挙げると、クロロホルムとジメチルホルムアミドの組合せである。この場合、混合比は特に限定されないが、クロロホルム/ジメチルホルムアミド(体積比)が、8/2〜9/1が好ましい。
【0021】
本発明では、LB法を用いて有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する。ここで、薄膜は単分子膜でも、単分子膜を複数積層した多層膜でも作製することができる。以下、特に断らない限り、単分子膜と多層膜を含めてLB膜という。
【0022】
LB膜の作製装置としては、トラフ、可動バリア、垂直浸漬基板、表面圧力センサ等を有する市販のLB膜累積装置を用いることができる。所定濃度となるように第1の無機ハライドと第2の無機ハライドとを溶解させた水溶液を調製する。この水溶液を作製装置のトラフに満たし水相とする。水相の温度は、室温付近、15〜30℃の範囲とする。なお、必要に応じて、水溶性のアルキルアミンハロゲン化水素酸塩CnH2n+1NH3Xを添加する。次に、所定濃度となるように有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒溶液を調製する。次に、この有機溶媒溶液を水相上に滴下して展開する。可動バリアを移動させることで、水相上に有機アンモニウム塩の単分子膜を形成させる。この単分子膜は、水相中の第1及び第2の無機ハライドと反応し、水相上に層状ペロブスカイト化合物の単分子膜が生成する。次に、この層状ペロブスカイト単分子膜を基板上に移し取ることで、あるいは1層ずつ移し取って複数積層することで、単分子層レベルで膜厚や構造が制御された層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製できる。
【0023】
得られた層状ペロブスカイト化合物薄膜は、第2の無機ハライドを1種あるいは2種用いて作製するかに応じて、以下の一般式で表すことができる。
(1)第2の無機ハライドが1種の場合
(RNH3)2MX4−aYa (I)
ここで、Rは炭素数1〜22のアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、Xはハロゲン化物イオン、YはXとは異なるハロゲン化物イオン、0<a<4である。
(2)第2の無機ハライドが2種の場合
(RNH3)2MX4−a−bYaZb (II)
ここで、Rは炭素数1〜22のアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、XとYとZは互いに異なるハロゲン化物イオン、0<a+b<4である。
【0024】
上記の一般式(I)と(II)で表された層状ペロブスカイト化合物薄膜は、含有するハロゲン化物イオンの比率に応じて異なる光学特性を有する。例えば、1種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物は、(RNH3)2PbBr4、(RNH3)2PbCl4、(RNH3)2PbI4は、それぞれ、約390nm、約330nm、約500nmに励起子吸収による吸収ピークを有する。2種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物の場合、その濃度比に応じてその吸収極大吸収波長を連続的に変化させることができる。例えば、(RNH3)2PbBr4−aClaは、その吸収極大吸収波長を330nmと390nmとの間で連続的に変化させることができる。また、(RNH3)2PbBr4−aIaは、その吸収極大吸収波長を390nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。また、(RNH3)2PbCl4−aIaは、その吸収極大吸収波長を330nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。また、3種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物の場合、(RNH3)2Br4−a−bClaIbは、その吸収極大吸収波長を330nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドに加え、さらに1種以上のアルカリ金属のハロゲン化物からなる第2の無機ハライドを水相中に溶解させるが、第1の無機ハライドと第2の無機ハライドの濃度を変化させることにより、金属ハライドイオンの組成を変化させ、広い波長領域で連続的に変化する励起子状態を形成することができる。これにより、励起子吸収に基づく吸収極大吸収波長を変化させて所望の吸収波長あるいは所望のEL発光波長を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
本実施の形態に係る有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る方法であり、第2の無機ハライドの水相中の濃度が、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍である。
【0027】
本実施の形態では、第2の無機ハライドの水相中の濃度を、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍とした以外は、実施の形態1と同様の方法により有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製することができる。この場合、第1の無機ハライドの濃度は、それ単独では、層状ペロブスカイト化合物を形成できない低濃度とすることができる。例えば、第1の無機ハライドの濃度は、1.0×10−4mol/L〜1.0×10−3mol/Lであり、第2の無機ハライドの濃度をその102〜104倍、より好ましくは5.0×102倍〜5.0×103倍とすることができる。また、第2の無機ハライドが2種存在する場合には、それぞれの濃度を第1の無機ハライドの濃度の102〜104倍とすることができる。なお、第2の無機ハライドのハロゲン化物イオンは、第1の無機ハライドのハロゲン化物イオンと同じでも異なっていても良い。
【0028】
本実施の形態によれば、第1の無機ハライドの濃度を、それ単独では層状ペロブスカイト化合物を形成できない低濃度にまで低くしても、第2の無機ハライドを共存させることにより層状ペロブスカイト化合物を形成させることができる。これにより、第1の無機ハライド中の金属の濃度を低くすることができるので、廃液中の金属濃度を低減して廃液の汚染を抑制することができる。また、第2の無機ハライドのハロゲン化物イオンに、第1の無機ハライドのハロゲン化物イオンと異なるものを用いれば実施の形態1と同様に金属ハライドイオンの組成を変化させて吸収波長を変化させることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1.
(作製方法)
メチルアミン臭化水素酸塩(CH3NH3Br)と臭化鉛(PbBr2)をそれぞれ、1×10−3mol/Lと1×10−2mol/L含む水溶液にNaClを所定濃度添加した水溶液を調製し、水相とした。ここで、NaCl濃度は、0.05、0.1、0.5、1.0mol/Lとした。ヘキサデシルアミン臭化水素酸塩(CH3(CH2)14CH2NH3Br。C16アミンと略す。)とドコシルアミン臭化水素酸塩(CH3(CH2)20CH2NH3Br。C22アミンと略す。)を含むクロロホルム/DMF(体積比9:1)の有機溶媒溶液を調製した。ここで、C16アミンとC22アミンの濃度はそれぞれ1×10−4mol/Lであり、組成比は50/50(体積比)である。上記の水相上にその有機溶媒溶液を展開して、単分子膜を作製した。1時間放置後、圧縮速度3.13×104nm2/molecule・secで圧縮し、表面圧−面積等温線を測定した。また、表面圧−面積等温線の測定と同時に、水面上単分子膜の反射スペクトルをY型光ファイバーを装着した分光光度計を用いてその場測定した。測定方法を図14に示す。この反射スペクトルの極大ピーク波長は、励起子吸収に基づく極大吸収波長を与える。
【0030】
有機溶媒は滴下直後に完全に蒸発し、圧縮に伴い水相上に有機無機層状ペロブスカイト化合物膜が生成した。基板としてヘキサメチルシラザンで疎水化処理した溶融石英を用い、この膜を基板上に移し取ることにより有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製した。
【0031】
(結果)
図1はNaCl濃度が0.1mol/Lと1.0mol/Lの時の表面圧−面積等温線、図2と3は表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す図、そして図4はNaCl/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長及びその半値幅との関係を示すグラフである。図1に示すように、NaClが水相中に存在すると、NaClが存在しないと比べ十分に大きな分子占有面積で表面圧が上昇した。これに伴い、図2と3に示すように、NaCl濃度0.1mol/Lでは350nm付近、NaCl濃度1.0mol/Lでは330nm付近の極大吸収波長が増加した。(C22H45NH3)2PbBr4で表される層状ペロブスカイト化合物は約390nmに特有の鋭い励起子吸収(極大吸収波長:●印)を示すが、図4に示すように、NaCl濃度の増加とともにその極大吸収波長が短波長にシフトし、(C22H45NH3)2PbCl4の極大吸収波長に近づくことがわかった。また、図4に示すように、ClとBrのモル比が1:1となる領域では、半値幅(○印)が最大となり、かつ極大吸収波長が(C22H45NH3)2PbBr4と(C22H45NH3)2PbCl4の中間の値を示した。このことは、PbBr64−のCl−による置換が化学量論的に起きていることを示している。
【0032】
実施例2.
NaClに代えてNaIを用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。
図5はNaI濃度が0.1mol/Lと1.0mol/Lの時の表面圧−面積等温線、図6と7は図4の表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す図、そして図8はNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長との関係を示すグラフ、図9はNaI/PbBr2と極大吸収波長の半値幅との関係を示すグラフである。図5に示すように、NaIが水相中に存在すると、NaIが存在しない場合と比べ十分に大きな分子占有面積で表面圧が上昇した。これに伴い、図6と7に示すように、NaI濃度0.1mol/Lでは500nm付近、NaI濃度1.0mol/Lでは505nm付近の極大吸収波長が増加した。図8に示すように、(C22H45NH3)2PbBr4で表される層状ペロブスカイト化合物は約390nmに極大吸収波長を有するが、NaI濃度の増加とともにその極大吸収波長が長波長にシフトし、(C22H45NH3)2PbI4の極大吸収波長に近づくことがわかった。図8と9は、実施例1のCl−の場合と同様に、PbBr64−のI−による置換が化学量論的に起きていることを示している。なお、図8と図9中の極大波長1と2はそれぞれ、505nmと490nmを指す。
【0033】
実施例3.
(作製方法)
メチルアミン臭化水素酸塩(CH3NH3Br)と臭化鉛(PbBr2)をそれぞれ1×10−3mol/Lと1×10−3mol/L含む水溶液に、NaBrを0.5mol/Lとなるように添加した水溶液を調製し水相とした以外は、実施例1と同様の方法により行った。
【0034】
(結果)
図10に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。以下の比較例1の場合と異なり、NaBrを添加することにより、390nm付近に極大吸収が認められた。これより、NaBrの添加がペロブスカイト構造の形成を促進する効果があることがわかった。
【0035】
比較例1.
NaBrを添加しなかった以外は、実施例3と同様の方法により行った。
図11に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。励起子吸収に基づく極大吸収は認められずペロブスカイト構造は生成しなかった。
【0036】
実施例4.
NaBrに代えてNaClを用いた以外は、実施例1と同様の方法により行った。
図12に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。NaClを添加することにより、390nm付近に極大吸収が認められた。これより、Br−と異なるハロゲン化物イオンを添加してもペロブスカイト構造の形成を促進する効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施例1におけるNaCl/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長(●)及びその半値幅(○)との関係の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例2におけるNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長との関係の一例を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例2におけるNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長の半値幅との関係の一例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例3における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図11】比較例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施例4における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図13】有機無機層状ペロブスカイト化合物の構造を示す模式図である。
【図14】本発明における有機無機層状ペロブスカイト化合物の反射スペクトルの測定方法を示す模式図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機層と無機層とが交互に積層された超格子構造を有する有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状ペロブスカイト化合物は、有機層と無機層とが交互に積層された超格子構造を有し、無機層を構成する無機ハライドの種類により低次元半導体、磁性体、発光体として興味深い物性を有している。
【0003】
例えば、一般式(RNH3)2MX4(Rはアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、Xはハロゲン化物イオン)で表される有機無機層状ペロブスカイト化合物は、図13に示すように、八面体構造の金属ハライドMX6が角を共有することにより二次元的に連なった金属ハライドイオンMX62−からなる無機井戸層と有機アンモニウムイオンからなる有機バリア層とが交互に積層された量子井戸構造を自己組織的に形成する。この有機バリア層のバンドギャップが無機半導体層のバンドギャップに比べて非常に大きいため、電子が無機井戸層に閉じ込められた構造を有する。この量子井戸構造により、非常に強い発光特性や高い三次非線形光学特性を示す(例えば、非特許文献1)。
【0004】
この有機無機層状ペロブスカイト化合物をデバイス材料として応用するためには、単分子層レベルで膜厚や構造を厳密に制御出来る技術を確立することが重要である。これに対し、本発明者は、ラングミュア−ブロジェット法(LB法)を用いて有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する方法を提案している(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−323387号公報
【非特許文献1】M.Era, A.Shimizu and M.Nagano, Rep.Prog.Polym.Phys.Jpn., 42,473-474(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学特性向上のためには、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜のさらなる構造制御が可能な作製方法が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、構造制御の可能な有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法を提供するとともに、その方法により優れた光学特性を有する有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、水相中にIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとは別にアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドを存在させることにより上記課題を解決できることを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明の有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る、ことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含むこともできる。
【0009】
また、第2の無機ハライドの水相中の濃度を、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍とすることができる。
【0010】
また、ハロゲン化物イオンには、Cl−、Br−又はI−を用いることができる。
【0011】
また、本発明の有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜は、上記の作製方法を用いて製造することができ、例えば、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜であって、2種以上のハロゲン化物イオンを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
有機無機層状ペロブスカイト化合物は、無機層に八面体構造の金属ハライドMX6が角を共有することにより二次元的に連なった金属ハライドイオンMX62−を含んでいる。本発明によれば、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドに加え、さらにアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドを水相中に溶解させることにより、金属ハライドイオンの組成を変化させたり、金属ハライドイオンを生成し易くすることができる。これにより、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の構造を制御して、光学特性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
実施の形態1.
本実施の形態に係る有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る方法であり、第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含むものである。
【0014】
本実施の形態では、第1の無機ハライドと1種以上の第2の無機ハライドとを水相中に溶解させる。第1の無機ハライドは一般式MX2で表すことができる。Mは、IV族元素又は遷移金属を表す。IV族元素は、Ge、Sn又はPb、遷移金属は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn又はCdである。好ましくはPbである。また、Xはハロゲン化物イオン(Cl−、Br−又はI−)を表す。
【0015】
第2の無機ハライドは一般式BY2で表すことができる。Bは、アルカリ金属であり、Li、Na、K、Rb又はCsである。YはXとは異なるハロゲン化物イオンを表す。
以下に示すように1種又は2種の無機ハライドを用いることができる。
(1)1種の無機ハライド
例えば、XがCl−の場合、YはBr−又はI−であり、XがBr−の場合、YはCl−又はI−であり、XがI−の場合、YはCl−又はBr−である。
(2)2種の無機ハライド
例えば、XがCl−の場合、YはBr−とI−であり、XがBr−の場合、YはCl−とI−であり、XがI−の場合、YはCl−とBr−である。
【0016】
第1の無機ハライドと第2の無機ハライドの好ましい組合せとしては、第1の無機ハライド/第2の無機ハライドが、PbBr2/NaCl、PbBr2/NaI、PbBr2/(NaCl+NaI)を挙げることができる。
【0017】
また、BY2の濃度を大きくすると、金属ハライドイオンMX62−のXがYと置き換わるので、所望の発光特性が得られるように、水相中のMX2とBY2の濃度比を設定することができる。
【0018】
また、水相中に水溶性のアルキルアミンハロゲン化水素酸塩CnH2n+1NH3Xを添加することもできる。2層界面における層状ペロブスカイト化合物薄膜の形成を促進させる効果を有する。ここで、nは1から10の整数、Xはハロゲン化物イオンである。ハロゲン化物イオンには第1の無機ハライドと同じハロゲン化物イオンを用いることができる。例えば、第1の無機ハライドにPbBr2を用いる場合には、メチルアミン臭化水素酸塩を用いることができる。濃度は、5.0×10−4mol/L〜5.0×10−3mol/L、より好ましくは8.0×10−4mol/L〜2.0×10−3mol/Lである。
【0019】
有機溶媒に溶解させる有機アンモニウム塩には、モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−のアルキルアンモニウム塩を用いることができる。炭素数は1〜22である。好ましい有機アンモニウム塩としては、ヘキサデシルアミン臭化水素酸塩、ドコシルアミン臭化水素酸塩、オクタデシルアミン臭化水素酸塩等である。これら臭化水素酸塩を1種あるいは2種以上混合して用いることもできる。有機アンモニウム塩の濃度は、1.0×10−5mol/L〜5.0×10−4mol/L、より好ましくは5.0×10−5mol/L〜1.0×10−4mol/Lである。
【0020】
有機溶媒には、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等を用いることができる。これらの有機溶媒を1種単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。上記の有機溶媒であれば特に限定されないが、有機溶媒を水相上に展開した後の、溶媒蒸発に要する時間を短縮させるために沸点の低いものが好ましい。例えば、クロロホルムやジメチルホルムアミド等が好ましい。また、混合溶媒として用いる場合、ハロゲン化炭化水素系溶媒とアミド系溶媒の組合せが好ましい。具体例を挙げると、クロロホルムとジメチルホルムアミドの組合せである。この場合、混合比は特に限定されないが、クロロホルム/ジメチルホルムアミド(体積比)が、8/2〜9/1が好ましい。
【0021】
本発明では、LB法を用いて有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製する。ここで、薄膜は単分子膜でも、単分子膜を複数積層した多層膜でも作製することができる。以下、特に断らない限り、単分子膜と多層膜を含めてLB膜という。
【0022】
LB膜の作製装置としては、トラフ、可動バリア、垂直浸漬基板、表面圧力センサ等を有する市販のLB膜累積装置を用いることができる。所定濃度となるように第1の無機ハライドと第2の無機ハライドとを溶解させた水溶液を調製する。この水溶液を作製装置のトラフに満たし水相とする。水相の温度は、室温付近、15〜30℃の範囲とする。なお、必要に応じて、水溶性のアルキルアミンハロゲン化水素酸塩CnH2n+1NH3Xを添加する。次に、所定濃度となるように有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒溶液を調製する。次に、この有機溶媒溶液を水相上に滴下して展開する。可動バリアを移動させることで、水相上に有機アンモニウム塩の単分子膜を形成させる。この単分子膜は、水相中の第1及び第2の無機ハライドと反応し、水相上に層状ペロブスカイト化合物の単分子膜が生成する。次に、この層状ペロブスカイト単分子膜を基板上に移し取ることで、あるいは1層ずつ移し取って複数積層することで、単分子層レベルで膜厚や構造が制御された層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製できる。
【0023】
得られた層状ペロブスカイト化合物薄膜は、第2の無機ハライドを1種あるいは2種用いて作製するかに応じて、以下の一般式で表すことができる。
(1)第2の無機ハライドが1種の場合
(RNH3)2MX4−aYa (I)
ここで、Rは炭素数1〜22のアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、Xはハロゲン化物イオン、YはXとは異なるハロゲン化物イオン、0<a<4である。
(2)第2の無機ハライドが2種の場合
(RNH3)2MX4−a−bYaZb (II)
ここで、Rは炭素数1〜22のアルキル基、MはIV族元素又は遷移金属、XとYとZは互いに異なるハロゲン化物イオン、0<a+b<4である。
【0024】
上記の一般式(I)と(II)で表された層状ペロブスカイト化合物薄膜は、含有するハロゲン化物イオンの比率に応じて異なる光学特性を有する。例えば、1種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物は、(RNH3)2PbBr4、(RNH3)2PbCl4、(RNH3)2PbI4は、それぞれ、約390nm、約330nm、約500nmに励起子吸収による吸収ピークを有する。2種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物の場合、その濃度比に応じてその吸収極大吸収波長を連続的に変化させることができる。例えば、(RNH3)2PbBr4−aClaは、その吸収極大吸収波長を330nmと390nmとの間で連続的に変化させることができる。また、(RNH3)2PbBr4−aIaは、その吸収極大吸収波長を390nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。また、(RNH3)2PbCl4−aIaは、その吸収極大吸収波長を330nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。また、3種の無機ハライドを用いて作製した層状ペロブスカイト化合物の場合、(RNH3)2Br4−a−bClaIbは、その吸収極大吸収波長を330nmと500nmとの間で連続的に変化させることができる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドに加え、さらに1種以上のアルカリ金属のハロゲン化物からなる第2の無機ハライドを水相中に溶解させるが、第1の無機ハライドと第2の無機ハライドの濃度を変化させることにより、金属ハライドイオンの組成を変化させ、広い波長領域で連続的に変化する励起子状態を形成することができる。これにより、励起子吸収に基づく吸収極大吸収波長を変化させて所望の吸収波長あるいは所望のEL発光波長を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
本実施の形態に係る有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法は、1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る方法であり、第2の無機ハライドの水相中の濃度が、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍である。
【0027】
本実施の形態では、第2の無機ハライドの水相中の濃度を、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍とした以外は、実施の形態1と同様の方法により有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製することができる。この場合、第1の無機ハライドの濃度は、それ単独では、層状ペロブスカイト化合物を形成できない低濃度とすることができる。例えば、第1の無機ハライドの濃度は、1.0×10−4mol/L〜1.0×10−3mol/Lであり、第2の無機ハライドの濃度をその102〜104倍、より好ましくは5.0×102倍〜5.0×103倍とすることができる。また、第2の無機ハライドが2種存在する場合には、それぞれの濃度を第1の無機ハライドの濃度の102〜104倍とすることができる。なお、第2の無機ハライドのハロゲン化物イオンは、第1の無機ハライドのハロゲン化物イオンと同じでも異なっていても良い。
【0028】
本実施の形態によれば、第1の無機ハライドの濃度を、それ単独では層状ペロブスカイト化合物を形成できない低濃度にまで低くしても、第2の無機ハライドを共存させることにより層状ペロブスカイト化合物を形成させることができる。これにより、第1の無機ハライド中の金属の濃度を低くすることができるので、廃液中の金属濃度を低減して廃液の汚染を抑制することができる。また、第2の無機ハライドのハロゲン化物イオンに、第1の無機ハライドのハロゲン化物イオンと異なるものを用いれば実施の形態1と同様に金属ハライドイオンの組成を変化させて吸収波長を変化させることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1.
(作製方法)
メチルアミン臭化水素酸塩(CH3NH3Br)と臭化鉛(PbBr2)をそれぞれ、1×10−3mol/Lと1×10−2mol/L含む水溶液にNaClを所定濃度添加した水溶液を調製し、水相とした。ここで、NaCl濃度は、0.05、0.1、0.5、1.0mol/Lとした。ヘキサデシルアミン臭化水素酸塩(CH3(CH2)14CH2NH3Br。C16アミンと略す。)とドコシルアミン臭化水素酸塩(CH3(CH2)20CH2NH3Br。C22アミンと略す。)を含むクロロホルム/DMF(体積比9:1)の有機溶媒溶液を調製した。ここで、C16アミンとC22アミンの濃度はそれぞれ1×10−4mol/Lであり、組成比は50/50(体積比)である。上記の水相上にその有機溶媒溶液を展開して、単分子膜を作製した。1時間放置後、圧縮速度3.13×104nm2/molecule・secで圧縮し、表面圧−面積等温線を測定した。また、表面圧−面積等温線の測定と同時に、水面上単分子膜の反射スペクトルをY型光ファイバーを装着した分光光度計を用いてその場測定した。測定方法を図14に示す。この反射スペクトルの極大ピーク波長は、励起子吸収に基づく極大吸収波長を与える。
【0030】
有機溶媒は滴下直後に完全に蒸発し、圧縮に伴い水相上に有機無機層状ペロブスカイト化合物膜が生成した。基板としてヘキサメチルシラザンで疎水化処理した溶融石英を用い、この膜を基板上に移し取ることにより有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜を作製した。
【0031】
(結果)
図1はNaCl濃度が0.1mol/Lと1.0mol/Lの時の表面圧−面積等温線、図2と3は表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す図、そして図4はNaCl/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長及びその半値幅との関係を示すグラフである。図1に示すように、NaClが水相中に存在すると、NaClが存在しないと比べ十分に大きな分子占有面積で表面圧が上昇した。これに伴い、図2と3に示すように、NaCl濃度0.1mol/Lでは350nm付近、NaCl濃度1.0mol/Lでは330nm付近の極大吸収波長が増加した。(C22H45NH3)2PbBr4で表される層状ペロブスカイト化合物は約390nmに特有の鋭い励起子吸収(極大吸収波長:●印)を示すが、図4に示すように、NaCl濃度の増加とともにその極大吸収波長が短波長にシフトし、(C22H45NH3)2PbCl4の極大吸収波長に近づくことがわかった。また、図4に示すように、ClとBrのモル比が1:1となる領域では、半値幅(○印)が最大となり、かつ極大吸収波長が(C22H45NH3)2PbBr4と(C22H45NH3)2PbCl4の中間の値を示した。このことは、PbBr64−のCl−による置換が化学量論的に起きていることを示している。
【0032】
実施例2.
NaClに代えてNaIを用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。
図5はNaI濃度が0.1mol/Lと1.0mol/Lの時の表面圧−面積等温線、図6と7は図4の表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す図、そして図8はNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長との関係を示すグラフ、図9はNaI/PbBr2と極大吸収波長の半値幅との関係を示すグラフである。図5に示すように、NaIが水相中に存在すると、NaIが存在しない場合と比べ十分に大きな分子占有面積で表面圧が上昇した。これに伴い、図6と7に示すように、NaI濃度0.1mol/Lでは500nm付近、NaI濃度1.0mol/Lでは505nm付近の極大吸収波長が増加した。図8に示すように、(C22H45NH3)2PbBr4で表される層状ペロブスカイト化合物は約390nmに極大吸収波長を有するが、NaI濃度の増加とともにその極大吸収波長が長波長にシフトし、(C22H45NH3)2PbI4の極大吸収波長に近づくことがわかった。図8と9は、実施例1のCl−の場合と同様に、PbBr64−のI−による置換が化学量論的に起きていることを示している。なお、図8と図9中の極大波長1と2はそれぞれ、505nmと490nmを指す。
【0033】
実施例3.
(作製方法)
メチルアミン臭化水素酸塩(CH3NH3Br)と臭化鉛(PbBr2)をそれぞれ1×10−3mol/Lと1×10−3mol/L含む水溶液に、NaBrを0.5mol/Lとなるように添加した水溶液を調製し水相とした以外は、実施例1と同様の方法により行った。
【0034】
(結果)
図10に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。以下の比較例1の場合と異なり、NaBrを添加することにより、390nm付近に極大吸収が認められた。これより、NaBrの添加がペロブスカイト構造の形成を促進する効果があることがわかった。
【0035】
比較例1.
NaBrを添加しなかった以外は、実施例3と同様の方法により行った。
図11に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。励起子吸収に基づく極大吸収は認められずペロブスカイト構造は生成しなかった。
【0036】
実施例4.
NaBrに代えてNaClを用いた以外は、実施例1と同様の方法により行った。
図12に表面圧−面積等温線と反射スペクトルとの関係を示す。NaClを添加することにより、390nm付近に極大吸収が認められた。これより、Br−と異なるハロゲン化物イオンを添加してもペロブスカイト構造の形成を促進する効果があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施例1におけるNaCl/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長(●)及びその半値幅(○)との関係の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例2におけるNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長との関係の一例を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例2におけるNaI/PbBr2(濃度比)と極大吸収波長の半値幅との関係の一例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例3における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図11】比較例1における表面圧−面積等温線と反射スペクトルの関係の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施例4における表面圧−面積等温線の一例を示す図である。
【図13】有機無機層状ペロブスカイト化合物の構造を示す模式図である。
【図14】本発明における有機無機層状ペロブスカイト化合物の反射スペクトルの測定方法を示す模式図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、
少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法。
【請求項2】
第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含む請求項1記載の作製方法。
【請求項3】
第2の無機ハライドの水相中の濃度が、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍である請求項1記載の作製方法。
【請求項4】
ハロゲン化物イオンが、Cl−、Br−又はI−である請求項1から3のいずれか一つに記載の作製方法。
【請求項5】
1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜であって、2種以上のハロゲン化物イオンを含んでなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜。
【請求項1】
1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法であって、
少なくとも、IV族元素又は遷移金属のハロゲン化物からなる第1の無機ハライドとアルカリ金属のハロゲン化物からなる1種以上の第2の無機ハライドとを溶解させた水相上に、少なくとも有機アンモニウム塩を溶解させた有機溶媒を展開し、生成した有機無機層状ペロブスカイトの単分子膜を基板上に移し取る、有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜の作製方法。
【請求項2】
第2の無機ハライドが、第1の無機ハライドとは異なるハロゲン化物イオンを含む請求項1記載の作製方法。
【請求項3】
第2の無機ハライドの水相中の濃度が、第1の無機ハライドの水相中の濃度の102〜104倍である請求項1記載の作製方法。
【請求項4】
ハロゲン化物イオンが、Cl−、Br−又はI−である請求項1から3のいずれか一つに記載の作製方法。
【請求項5】
1種以上の有機アンモニウムイオンからなる1層以上の有機層とIV族元素又は遷移金属のハロゲン化物イオンからなる無機層とが交互に積層されてなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜であって、2種以上のハロゲン化物イオンを含んでなる有機無機層状ペロブスカイト化合物薄膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−6548(P2009−6548A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168773(P2007−168773)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日国立大学法人佐賀大学主催の「第7回卒業研究報告会」において「第7回卒業研究報告会要旨集」に発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日国立大学法人佐賀大学主催の「第7回卒業研究報告会」において「第7回卒業研究報告会要旨集」に発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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