説明

有機無機複合材料、光学部品および材料組成物

【課題】微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、高屈折率性、高透明性、および優れた靭性を併せ持つ光学部品を提供する。
【解決手段】少なくとも高分子末端または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子を含有する有機無機複合材料であって、温度25℃湿度60%の条件下で該有機無機複合材料の破断エネルギーが、30.0J/m2以上であることを特徴とする、有機無機複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れ、靭性に優れる材料組成物、これを含んでなる有機無機複合材料、並びにこれを含んで構成される光学部品(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、低分散性(すなわち高いアッベ数)、靭性、耐熱性、透明性、易成形性、軽量性、耐薬品性・耐溶剤性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3)等が活発に研究されてきた。しかし、屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
【0004】
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる手法が報告されている(特許文献4参照)。レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子サイズが15nm以下の無機微粒子を樹脂マトリックス中に均一に分散させることが好ましい。しかし、粒子サイズが15nm以下の1次粒子は非常に凝集しやすいために、樹脂マトリックス中に均一に分散させることは極めて難しい。また、レンズの厚みに相当する光路長における透過光の減衰を考慮すると、無機微粒子の添加量を制限せざるを得ない。更に、多くの樹脂マトリックスは微粒子の添加により靭性が低下することが知られている(参考文献1参照)。このため、微粒子を樹脂マトリックスに分散することによって、高屈折性、高透明性(1.70以上)および優れた靭性を両立するような材料を作成することは、これまでできなかった。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2003−73564号公報
【0005】
共立出版株式会社「機械システム入門シリーズ8 複合材料」三木光範・福田武人・元木信弥・北條正樹著p81〜82、p187〜189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、高屈折性、高透明性、および優れた靭性を併せ持つプラスチック材料、およびそれを含んで構成されるレンズ等の光学部品は未だ見出されておらず、その開発が望まれていた。
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、高屈折性、高透明性、および優れた靭性を有する材料組成物、並びにこれを含んで構成される光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂と無機微粒子とを原料とした材料組成物が、微粒子の均一分散効果により、高屈折性、高透明性、および優れた靭性を有することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0008】
[1] 少なくとも、高分子末端または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子を含有し、かつ温度25℃湿度60%の条件下での破断エネルギーが30.0J/m2以上であることを特徴とする、有機無機複合材料。
[2] 前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が2万以上であることを特徴とする、[1]に記載の有機無機複合材料。
[3] 前記無機微粒子の粒子径が1〜30nmであることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合材料。
[4] 前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[5] 厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[6] 波長589nmにおける屈折率が1.60以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【0009】
[7] 前記熱可塑性樹脂が、側鎖に下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【0010】
【化1】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
[8] 前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする[7]に記載の有機無機複合材料。
[9] 前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表されるモノマーを重合単位として含むコポリマーであることを特徴とする[7]または[8]に記載の有機無機複合材料。
一般式(1)
【0011】
【化2】

〔一般式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選択される2価の連結基を表す。Yは炭素原子数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは下記から選ばれる官能基を表す。]
【0012】
【化3】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
【0013】
[10] 前記熱可塑性樹脂が、高分子末端の少なくとも1箇所に下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする[7]に記載の有機無機複合材料。
【0014】
【化4】

〔R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。〕、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、および、−Si(OR25m2263-m2〔R25、R26は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表し、m2は1〜3の整数を表す。〕
【0015】
[11] 前記熱可塑性樹脂が疎水性セグメントおよび親水性セグメントで構成されるブロック共重合体であることを特徴とする、[7]に記載の有機無機複合材料。
【0016】
[12] 前記熱可塑性樹脂の波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[13] 前記無機微粒子が、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、またはこれらの混合物を含むことを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[14] 最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする[1]〜[13]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[15] 有機無機複合材料が、さらに可塑剤を含有することを特徴とする、[1]〜[14]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【0017】
[16] [1]〜[15]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料からなることを特徴とする光学部品。
[17] 前記光学部品がレンズであることを特徴とする、[16]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機無機複合材料、並びにこれを含んで構成される光学部品は、微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、高屈折性、高透明性、および優れた靭性を併せもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本発明の材料組成物、有機無機複合材料、並びに光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
[材料組成物]
本発明の有機無機複合材料は、少なくとも高分子末端または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子を含有し、該有機無機複合材料を特定の形状に成形して得られる成形物の温度25℃湿度60%の条件下での破断エネルギーが、30.0J/m2以上であることを特徴とする。該成形物の温度25℃湿度60%の条件下での破断エネルギーは、50.0J/m2以上であることが好ましく、100.0J/m2以上であることがさらに好ましい。このような有機無機複合材料は、後述する特定の熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合することにより得ることができる。
本発明において「破断エネルギー」とは、材料組成物を成形して10×10×0.2mmの基板を作製し、温度25℃湿度60%の条件下、株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機RTC−1150A(3点支持モード、押込み速度2mm/min)で破壊までの応力-歪み曲線を測定し、こうして得た応力-歪み曲線の0から破壊押込み長までの積分値を破壊断面積で割って得た値である。なお、「温度25℃湿度60%の条件下」とは、温度25℃湿度60%で24時間調湿したのちに同条件で評価を行うことを意味する。
【0021】
さらに本発明の有機無機複合材料の成形物においては、ヤング率が、温度25℃湿度60%の条件下で1.00×108N/m2以上であることがより好ましい。ヤング率は、温度25℃湿度60%の条件下で1.00×108N/m2〜1.00×1012N/m2であることがさらに好ましく、5.00×108N/m2〜1.00×1011N/m2であることが特に好ましい。
本発明において、ヤング率とは、上記応力-歪み曲線から比例係数をフィッティングし、歪み(押込み長)と応力の関係式
σ=48YIε/L3
(σ:応力、Y:ヤング率、I:断面の慣性能率、ε:歪み(押込み長)、L:支持の間隔)
から得た値Yである。
【0022】
本発明の有機無機複合材料の光線透過率は、波長589nmにおいて厚さ1mm換算で70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また波長405nmにおける光線透過率は60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、材料組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0023】
また本発明の有機無機複合材料は、波長589nmにおける屈折率が1.57以上であることが好ましく、1.60以上であることがより好ましく、1.65以上であることがさらに好ましく、1.67以上であることが特に好ましい。本発明における屈折率は25℃で測定される値を表すものとする。
【0024】
本発明の有機無機複合材料は埃の付着などを防ぐ目的から帯電しにくいことが望ましい。帯電圧は−2〜15kVであることが好ましく、−1.5〜7.5kVであることがより好ましく、−1.0〜7.0kVであることが特に好ましい。
【0025】
本発明の有機無機複合材料は、ガラス転移温度が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0026】
本発明の有機無機複合材料は、200℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、230℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることであり、特に好ましくは250℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であることである。
【0027】
本発明の有機無機複合材料の飽和吸水率は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
[無機微粒子]
本発明の有機無機複合材料に用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子等が挙げられる。より具体的には酸化ジルコニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。本発明では、屈折率や透明性や安定性の観点から、これらの無機物の複合物を用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドーピングしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾したものであってもよい。
【0029】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
【0030】
具体的には、酸化ジルコニウム微粒子またはその懸濁液を得る方法として、ジルコニウム塩を含む水溶液をアルカリで中和し水和ジルコニウムを得た後、乾燥および焼成し、溶媒に分散させて酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得た後、限外ろ過する方法;ジルコニウムアルコキシドを加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;およびジルコニウム塩を含む水溶液を水熱の加圧下で加熱処理することにより酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法等が知られており、これらのいずれの方法を用いてもよい。
【0031】
また、酸化チタン微粒子の合成原料としては硫酸チタニルが例示され、酸化亜鉛ナノ粒子の合成原料として酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が例示される。テトラエトキシシランやチタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も無機微粒子の原料として好適である。このような無機微粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の方法を挙げることができる。
【0032】
特にゾル生成法により酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し、次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。得られたヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名「エレミノールJS−2」)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよく、例えば、「色材」57巻6号,305〜308頁(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0033】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法も挙げることができる。このとき、有機溶媒中には、本発明で用いる熱可塑性樹脂が溶解していてもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0034】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、上述の数平均粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0035】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率の範囲は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0036】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明で用いられる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから計算する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0037】
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、本発明における前記無機微粒子と熱可塑性樹脂(分散ポリマー)との質量比は、分散性の点から、1:0.01〜1:100が好ましく、1:0.05〜1:10がさらに好ましく、1:0.05〜1:5が特に好ましい。
【0038】
[熱可塑性樹脂]
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、少なくとも高分子鎖末端または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂である。ここでいう「結合」とは、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合を含むものと定義する。このような熱可塑性樹脂の好ましい例として、以下の3種の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
(1)側鎖に下記から選ばれる官能基を有する熱可塑性樹脂
【0039】
【化5】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。];
(2)高分子末端の少なくとも1箇所に、下記から選ばれる官能基を有する熱可塑性樹脂
【0040】
【化6】

〔R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。〕、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、および、−Si(OR25m2263-m2〔R25、R26は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。m2は1〜3の整数を表す。〕;
(3)疎水性セグメントおよび親水性セグメントで構成されるブロック共重合体
以下、これらの熱可塑性樹脂(1)〜(3)について、詳細に説明する。
【0041】
<熱可塑性樹脂(1)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)は、側鎖に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0042】
無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成することによって、靭性を向上させ、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基としては、
【0043】
【化7】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]から選ばれる官能基が好ましい。
【0044】
11、R12、R13、R14の好ましい範囲は、次の範囲である。
アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。アルケニル基は、炭素数2〜30が好ましく、より好ましくは炭素数2〜20であり、例えばビニル基、2−フェニルエテニル基を挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル基、2−フェニルエチニル基を挙げることができる。アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。R11、R12、R13、R14として好ましいのは水素原子またはアルキル基であり、特に好ましいのは水素原子である。
15、R16の好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14と同様である。m1は、好ましくは3である。
【0045】
これらの官能基の中でも、好ましくは、
【0046】
【化8】

、−SO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1であり、より好ましくは、
【0047】
【化9】

または−CO2Hであり、特に好ましくは、
【0048】
【化10】

である。
【0049】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1’)で表される繰り返し単位を有するコポリマーであることが特に好ましい。このようなコポリマーは、下記一般式(1)で表わされるビニルモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0050】
【化11】

【0051】
一般式(1)および一般式(1’)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、および、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、より好ましくは−CO2−またはp−フェニレン基である。
【0052】
Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表す。炭素数は1〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。具体的には、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基を挙げることができ、好ましくはアルキレン基である。
【0053】
qは0〜18の整数を表す。より好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは0〜5の整数であり、特に好ましくは0〜1の整数である。
【0054】
Zは、
【0055】
【化12】

、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1からなる群より選ばれる官能基を表し、好ましくは
【0056】
【化13】

であり、さらに好ましくは、
【0057】
【化14】

である。
ここで、R11、R12、R13、R14、R15、R16およびm1の定義、好ましい範囲および具体例は、それぞれ独立に、上述したR11、R12、R13、R14、R15、R16およびm1の定義、好ましい範囲および具体例と同義である。
【0058】
以下に一般式(1)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化15】

【0060】
本発明において一般式(1)で表わされるモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。
【0061】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0062】
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン等が挙げられる。
【0063】
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0064】
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
【0065】
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0066】
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0067】
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
【0068】
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
【0069】
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
【0070】
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
【0071】
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリルなど等も挙げることができる。
【0072】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)の重量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、30,000〜1,000,000であることがさらに好ましく、50,000〜500,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂(1)の重量平均分子量を20,000以上とすることにより、有機無機複合材料の破断エネルギーが大きくなり、靭性が向上する傾向にある。
【0073】
ここで、上述の重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0074】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂(1)が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0075】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)のガラス転移温度は80℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0076】
熱可塑性樹脂(1)の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。熱可塑性樹脂(1)の屈折率が1.48程度であれば屈折率1.60レベルの透明性成形体を提供することができるが、1.65以上の屈折率を実現するためには本発明に用いられる熱可塑性樹脂(1)の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0077】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(1)は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0078】
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0079】
【化16】

【0080】
【化17】

【0081】
【化18】

【0082】
【化19】

【0083】
【化20】

【0084】
【化21】

【0085】
【化22】

【0086】
【化23】

【0087】
【化24】

【0088】
これらの熱可塑性樹脂(1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、熱可塑性樹脂(2)および/または(3)と併用してもよい。
【0089】
<熱可塑性樹脂(2)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)は、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、高分子末端の少なくとも1箇所に、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する。ここで、官能基は、高分子鎖の片末端のみに存在しても、両末端に存在してもよいが、高分子鎖の片末端のみに存在することが好ましい。また、官能基は末端に複数存在していてもよい。ここでいう末端とは、高分子鎖を構成する繰り返し単位と繰り返し単位で挟まれている構造を除く部分を意味する。ここで、「化学結合」とは、上記熱可塑性樹脂(1)と同様に考えることができる。
【0090】
無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成することによって、靭性を向上させ、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基としては、
【0091】
【化25】

〔R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。〕、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、および、−Si(OR25m2263-m2〔R25、R26は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。m2は1〜3の整数を表す。〕から選ばれる官能基が好ましい。
21、R22、R23、R24、R25、R26が、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基である場合、これらの好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14の好ましい範囲として述べたものと同様である。また、m2は、3であることが好ましい。
【0092】
これらの官能基の中でも、好ましくは、
【0093】
【化26】

、−SO3H、−CO2H、および、−Si(OR25m2263-m2であり、より好ましくは、
【0094】
【化27】

、−SO3H、および、−CO2Hであり、特に好ましくは、
【0095】
【化28】

、−SO3Hである。
【0096】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(2)の基本骨格には特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなど公知の樹脂骨格を採用することができる。好ましくはビニル重合体、ポリアリレート、および芳香族含有ポリカーボネートであり、より好ましくはビニル重合体である。これらの具体例は、上記熱可塑性樹脂(1)で述べたものと同様である。
【0097】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)は、屈折率が1.50より大きいことが好ましく、1.55より大きいことがより好ましく、1.60より大きいことがさらに好ましく、1.65より大きいことが特に好ましい。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社製、「DR−M4」)にて波長589nmの光について測定した値である。
【0098】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)は、ガラス転移温度が50℃〜400℃であることが好ましく、80℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度を50℃以上とすることにより、耐熱性が向上する傾向にあり、ガラス転移温度を400℃以下とすることにより、成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0099】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)は、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
【0100】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(2)の重量平均分子量は20,000以上であることが好ましく、30,000〜1,000,000であることがさらに好ましく、50,000〜500,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂(2)の重量平均分子量を20,000以上とすることにより、有機無機複合材料の破断エネルギーが大きくなり、靭性が向上する傾向にある。
【0101】
高分子鎖末端に前記官能基を導入する方法としては、特に制限はなく、例えば、新高分子実験学4 高分子の合成・反応(3)高分子の反応と分解(高分子学会編)」第3章「末端反応性ポリマー」に記載のように、重合時に導入してもよいし、重合後、一旦単離したポリマーの末端官能基変換または主鎖分解をしてもよい。官能基および/または保護された官能基をもつ開始剤、停止剤、連鎖移動剤などを用いて重合し高分子を得る方法や、例えばビスフェノールAから得られるポリカーボネートのフェノール末端部を、官能基を含有する反応剤で修飾する方法などの高分子反応を用いることもできる。例えば、「新高分子実験学2 高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)」110項〜112項に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた連載移動法ビニル系モノマーのラジカル重合;「新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)」255項〜256項に記載の官能基含有開始剤および/または官能基含有停止剤を用いるリビングカチオン重合;「Macromolecules,36巻」7020項〜7026項(2003年)に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた開環メタセシス重合などを挙げることができる。
【0102】
以下に本発明で使用することができる熱可塑性樹脂(2)の好ましい具体例(例示化合物P−1〜P−22)を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂(2)はこれらに限定されるものではない。[ ]内の構造は繰り返し単位を表し、繰り返し単位のxおよびyは共重合比(mol比)を表す。
【0103】
【化29】

【0104】
【化30】

【0105】
【化31】

【0106】
これらの熱可塑性樹脂(2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの熱可塑性樹脂は、他の共重合成分を含んでもよい。
【0107】
<熱可塑性樹脂(3)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(3)は、疎水性セグメントおよび親水性セグメントで構成されるブロック共重合体である。
【0108】
ここで、疎水性セグメント(A)とは、セグメント(A)のみからなるポリマーが水またはメタノールに溶解しない特性を有するセグメントをいい、親水性セグメント(B)とは、セグメント(B)のみからなるポリマーが水またはメタノールに溶解する特性を有するセグメントをいう。前記ブロック共重合体の型としては、AB型、B1AB2型(2つの親水性セグメントB1とB2とは同じでも異なっていてもよい)およびA1BA2型(2つの疎水性セグメントA1とA2とは同じでも異なっていてもよい)が挙げられ、分散特性が良好な点から、AB型あるいはA1BA2型のブロック共重合体が好ましく、製造適性の点から、AB型あるいはABA型(A1BA2型の2つの疎水性セグメントが同じ型)がより好ましく、AB型が特に好ましい。
【0109】
前記疎水性セグメントおよび前記親水性セグメントは、各々、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
【0110】
前記疎水性セグメント(A)を形成するビニルモノマー(A)としては、例えば、以下のものが挙げられる。
アクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類(エステル基は置換または無置換の脂肪族エステル基、置換または無置換の芳香族エステル基であり、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);
【0111】
アクリルアミド類、メタクリルアミド類、具体的には、N−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミド、N−ジ置換メタクリルアミド(モノ置換体およびジ置換体の置換基は、置換または無置換の脂肪族基、置換または無置換の芳香族基であり、前記置換基としては、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);
【0112】
オレフィン類、具体的には、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、ビニルカルバゾールなど;スチレン類、具体的には、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、トリブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなど;
【0113】
ビニルエーテル類、具体的には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテルなど;その他のモノマーとして、クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルピロリドン、ビニリデンクロライド、メチレンマロンニトリル、ビニリデン、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
【0114】
中でも、エステル基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;置換基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるN−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミドおよびN−ジ置換メタクリルアミド;スチレン類;が好ましく、エステル基が置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;スチレン類;がより好ましい。
【0115】
前記親水性セグメント(B)を形成するビニルモノマー(B)としては、例えば、以下のものが挙げられる。
アクリル酸、メタクリル酸、エステル部位に親水性の置換基を有するアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;芳香環部に親水性の置換基を有するスチレン類;親水性の置換基を有するビニルエーテル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミドならびにN−ジ置換メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0116】
親水性の置換基としては、
【0117】
【化32】

〔但し、R31、R32、R33、R34は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。〕、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、−OH、および、−Si(OR35m3363-m3〔但し、R35、R36は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。m3は1〜3の整数を表す。〕からなる群より選ばれる官能基を有するのが好ましい。
31、R32、R33、R34、R35、R36が、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基である場合、これらの好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14の好ましい範囲として述べたものと同様である。また、m3は、3であることが好ましい。
【0118】
前記官能基としては、
【0119】
【化33】

、−CO2H、もしくは、−Si(OR35m3363-m3が好ましく、
【0120】
【化34】

および−CO2Hがより好ましく、
【0121】
【化35】

が特に好ましい。
【0122】
本発明では特に、前記ブロック共重合体が、
【0123】
【化36】

、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、−OH、および、−Si(OR35m3363-m3から選ばれる官能基を有し、該官能基の含有量が0.05mmol/g以上5.0mmol/g以下であることが好ましい。
【0124】
中でも、親水性セグメント(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、エステル部位に親水性の置換基を有するアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類、芳香環部に親水性の置換基を有するスチレン類が好ましい。
【0125】
前記疎水性セグメント(A)を形成するビニルモノマー(A)は疎水性の特性を妨げない範囲で、前記ビニルモノマー(B)を含有していてもよい。前記疎水性セグメント(A)に含有される前記ビニルモノマー(A)と前記ビニルモノマー(B)とのモル比は、100:0〜60:40であるのが好ましい。
【0126】
前記親水性セグメント(B)を形成するビニルモノマー(B)は親水性の特性を妨げない範囲で、前記ビニルモノマー(A)を含有していてもよい。前記親水性セグメント(B)に含有される前記ビニルモノマー(B)と前記ビニルモノマー(A)とのモル比は、100:0〜60:40であるのが好ましい。
【0127】
前記ビニルモノマー(A)および前記ビニルモノマー(B)は各々、1種類を単独で用いても、2種類以上を用いてもよい。前記ビニルモノマー(A)および前記ビニルモノマー(B)は、種々の目的(例えば、酸含量調節やガラス転移点(Tg)の調節、有機溶剤や水への溶解性調節、分散物安定性の調節)に応じて選択される。
【0128】
前記官能基の含有量は前記ブロック共重合体の全体に対して0.05〜5.0mmol/gであるのが好ましく、0.1〜4.5mmol/gであるのがさらに好ましく、0.15〜3.5mmol/gであるのが特に好ましい。前記官能基の含有量が少なすぎると分散適性が小さくなる場合があり、多すぎると水溶性が高くなりすぎたり、有機無機複合材料がゲル化したりする場合がある。尚、前記ブロック共重合体において、前記官能基はアルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+など)またはアンモニウムイオンなどカチオン性のイオンと塩を形成していてもよい。
【0129】
前記ブロック共重合体の重量平均分子量は、20,000以上であることが好ましく、30,000〜1,000,000であることがさらに好ましく、50,000〜500,000であることが特に好ましい。ブロック共重合体の重量平均分子量を20,000以上とすることにより、安定な分散物を得やすくなり、さらに有機無機複合材料の破断エネルギーが大きくなることにより、靭性が向上する傾向にある。
【0130】
本発明で用いられるブロック共重合体は、屈折率が1.50より大きいことが好ましく、1.55以上であることがより好ましく、1.60より大きいことがさらに好ましく、1.65より大きいことが特に好ましい。なお、ここでいう、屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社「DR−M4」)にて波長589nmの光について測定した値である。
【0131】
本発明において用いられるブロック共重合体は、ガラス転移温度が80℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度を80℃以上とすることにより、耐熱性が向上する傾向にあり、ガラス転移温度を400℃以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にある。
【0132】
本発明において用いられるブロック共重合体は、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
【0133】
前記ブロック共重合体の具体例(例示化合物Q−1〜Q−20)を以下に列挙する。尚、本発明に用いられるブロック共重合体は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
前記ブロック共重合体は、必要に応じてカルボキシル基などを保護したり、ポリマーに官能基を導入する手法を用いてリビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用して合成することができる。また、末端官能基ポリマーからのラジカル重合および末端官能基ポリマー同士の連結によって合成することができる。中でも、分子量制御やブロック共重合体の収率の点から、リビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用するのが好ましい。前記ブロック共重合体の製造方法については、例えば、「高分子の合成と反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1992))」、「精密重合(日本化学会編、学会出版センター発行(1993))」、「高分子の合成・反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1995))」、「テレケリックポリマー:合成と性質、応用(R.Jerome他、Prog.Polym.Sci.Vol16.837−906頁(1991))」、「光によるブロック,グラフト共重合体の合成(Y.Yagch他、Prog.Polym.Sci.Vol15.551−601頁(1990))」、米国特許5085698号明細書などに記載されている。
【0137】
これらの樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0138】
[添加剤]
本発明においては上記熱可塑性樹脂および無機微粒子以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等の観点から適宜各種添加剤を配合しても良い。例えば、表面処理剤、可塑剤、帯電防止剤、分散剤、離型剤等を挙げることができる。また前記熱可塑性樹脂以外に前記官能基を有さない樹脂を添加しても良く、このような樹脂の種類に特に制限はないが、前記熱可塑性樹脂と同様の光学物性、熱物性、分子量を有するものが好ましい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂を足しあわせた量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがよりこのましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0139】
<表面処理剤>
本発明では、後述するように水中またはアルコール溶媒中に分散された無機微粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性または置換性を高める目的、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記熱可塑性樹脂以外の微粒子表面修飾剤を添加しても良い。該表面処理剤の重量平均分子量は50〜50000であることが好ましく、より好ましくは100〜20000、さらに好ましくは200〜10000である。
【0140】
前記表面処理剤としては、下記一般式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
一般式(2)
A−B
【0141】
一般式(2)中、Aは本発明における無機微粒子の表面と任意の化学結合を形成しうる官能基を表し、Bは本発明における樹脂を主成分とする樹脂マトリックスに対する相溶性または反応性を有する炭素数1〜30の1価の基またはポリマーを表す。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられる。
【0142】
Aで表わされる基の好ましい例は、本発明の熱可塑性樹脂中に導入される微粒子結合性の官能基として前記したものと同じである。
一方、前記Bの化学構造は、相溶性の観点から該樹脂マトリックスの主体である熱可塑性樹脂の化学構造と同一または類似であることが好ましい。本発明では特に高屈折率化の観点から前記熱可塑性樹脂とともにBの化学構造が芳香環を有していることが好ましい。
【0143】
本発明で好ましく用いられる、表面処理剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ-α-ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
これらの表面処理剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用しても良い。
これら表面処理剤の添加量の総量は無機微粒子に対して、質量換算で、0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0144】
<可塑化剤>
本発明における熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、有機無機複合材料の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の有機無機複合材料の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。また、可塑剤の添加により靭性が向上する傾向にあり、靭性の向上のために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は有機無機複合材料の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用できる可塑剤は樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などトータルで考える必要があり、最適な可塑剤は他の材料に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(3)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【0145】
【化37】

(式中、B1およびB2は炭素数6〜18のアルキル基またはアリールアルキル基を表し、mは0または1を表す。Xは、下記の2価の結合基のうちいずれかを表す。)
【0146】
【化38】

【0147】
また、一般式(3)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなる場合があり添加効果が不十分となることがある。
【0148】
前記B1,B2としては、具体的に、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。また、前記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名「KP−L155」)が好ましい。
【0149】
【化39】

【0150】
<帯電防止剤>
本発明の有機無機複合組成物の帯電圧を調節するために、帯電防止剤を添加することができる。本発明の有機無機複合組成物では、光学特性改良の目的で添加した無機微粒子自体が別の効果である帯電防止効果にも寄与する場合がある。帯電防止剤を添加する場合には、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯防止剤、ノ二オン性帯電防止剤、両性イオン性帯電防止剤、高分子帯電防止剤、あるいは帯電性微粒子などが挙げられ、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの例としては、特開2007−4131号公報、特開2003−201396号公報に記載された化合物を挙げることができる。
帯電防止剤の添加量はまちまちであるが、全固形分の0.001〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量%であり、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0151】
<その他>
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良する目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加しても良く、これらを配合する場合には有機無機複合材料の全固形分に対して0.1〜5質量%程度が好ましい。
【0152】
[有機無機複合材料の製造方法]
本発明に用いられる無機微粒子は、側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と結合して樹脂中に分散される。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で上記熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合物の好ましい製造方法としては(1)無機粒子を上記表面処理剤の存在下で表面処理し、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、(2)無機微粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、が挙げられる。
【0153】
上記(1)の手法によって無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合体を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面処理剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる表面処理剤については、前述<表面処理剤>の箇所で述べたものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加しても良い。
【0154】
上記(2)の場合には、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、t−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加しても良い。水/メタノールに分散された微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。この際前記表面処理剤を添加しても良い。
【0155】
上記(1)、(2)の方法によって得られた有機無機複合材料の溶液は、そのままキャスト成形して透明成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することが好ましい。またこの際、本発明の材料粉体を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
【0156】
上記有機無機複合材料をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いても良い。
【0157】
[光学部品]
上述の本発明の有機無機複合材料を成形することにより、本発明の光学部品を製造することができる。本発明の光学部品では、有機無機複合材料の説明で前記した屈折率、や光学特性を示すものが有用である。
また本発明の光学部品としては、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品が特に有用である。好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する透明部品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の有機無機複合材料を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する光学部品とすることができる。
【0158】
本発明の有機無機複合材料を利用した光学部品は、本発明の有機無機複合材料の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【0159】
本発明の有機無機複合材料を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合材料を用いて製造されたレンズ基材は、屈折率の温度依存性が少なく、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合材料を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率や屈折率温度依存性を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0160】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、撮像レンズ(車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ等;ズームレンズや、正/負のパワーレンズなど各種公知の撮像レンズを含む)、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0161】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0162】
[分析および評価方法]
本実施例および比較例において用いた各分析および評価方法は、下記の通りである。
【0163】
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0164】
(2)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
【0165】
(3)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
【0166】
(4)分子量測定
数平均分子量、重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒としてテトラハイドロフランを用いて測定した。分子量は、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した。
【0167】
(5)破断エネルギー
材料組成物を成形して10×10×0.2mmの基板を作製し、温度25℃湿度60%で24時間調湿したのち、株式会社エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機RTC−1150A(3点支持モード、押込み速度2mm/min)で破壊までの応力-歪み曲線を測定した。こうして得た応力-歪み曲線の0から破壊押込み長までの積分値を破壊断面積で割ることによって値を得た。
【0168】
(6)落下試験
材料組成物から厚さ1mmのレンズ用形成体を作製し、2mの高さから床面に固定した厚さ2cmの鉄板上に落下させ、100回落下試験を繰り返した後の外観を次の3段階で評価した。
○:試験前と変化なし
△:ヒビが発生
×:破壊
なお、100回繰り返す前にレンズ用形成体が割れた場合、その時点で試験を終了し、×と評価した。
【0169】
[無機微粒子の合成]
(1)酸化チタン微粒子の合成
0.1モル/Lの硫酸チタニル水溶液を攪拌しながら、同容量の1.5モル/Lの炭酸ナトリウム水溶液を室温で10分かけて滴下した。こうして得た白色の超微粒子の懸濁液を、3500rpmで遠心分離し、上澄み液のデカンテーションによる除去および水洗の工程を繰り返すことにより精製した。こうして得た白色沈殿を0.3モル/Lの希塩酸中に攪拌分散しながら50℃で約1時間加熱して、透明感のある酸性ヒドロゾルを得た。この酸性ヒドロゾルを氷冷し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩の水溶液を加えたところ白色沈殿を生じたので、次いでトルエンで抽出し、乾燥後濃縮した。この濃縮残渣のXRDとTEMより、アナタース型酸化チタン微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。
【0170】
(2)酸化ジルコニウム微粒子の合成
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。
【0171】
(3)酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散液の合成
(1)で合成した酸化ジルコニウム水分散液と日本化薬製のKAYAMER PM−21を溶解させたトルエン溶液を混合後、50℃で8時間攪拌した後、トルエン溶液を抽出し、酸化ジルコニウム微粒子トルエン分散液を作製した。
【0172】
[熱可塑性樹脂の合成]
(1)熱可塑性樹脂B−1の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE(商品名)」0.05gとメタクリル酸メチル4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、2−ブタノン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−1を合成した。
GPCで測定したところ重量平均分子量は80000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0173】
(2)熱可塑性樹脂B−1#の合成
溶媒濃度と開始剤量を変える以外は(1)と同様にして、熱可塑性樹脂B−1と分子量の異なる熱可塑性樹脂B−1#を合成した。
GPCで測定したところ重量平均分子量は5000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0174】
(3)可塑性樹脂B−2の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE(商品名)」0.05gとスチレン4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−2を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は86000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.58であった。
【0175】
(4)熱可塑性樹脂B−3の合成
ユニケミカル(株)製の「ホスマーPE」0.05gと第一工業製薬(株)製のニューフロンティアBR−30 4.95gとアゾビスイソブチロニトリル0.25gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−3を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は90000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.66であった。
【0176】
(5)熱可塑性樹脂B−11の合成
スチレン247.5g、β−カルボキシエチルアクリレート2.50g、および和光純薬(株)社製重合開始剤V−601(商品名)の2.5gを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−11を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は35000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0177】
(6)熱可塑性樹脂B−14の合成
スチレンを247.5g、前記官能基含有モノマーA−6を2.50g、および和光純薬(株)社製重合開始剤V−601(商品名)を2.5g用意して、これらを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−14を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は28000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0178】
(7)熱可塑性樹脂B−17の合成
スチレンを247.5g、前記官能基含有モノマーA−9を2.50g、および和光純薬(株)社製重合開始剤V−601(商品名)を2.5g用意して、これらを酢酸エチル107.1gに溶解し、窒素下80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂B−17を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は28000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0179】
(8)熱可塑性樹脂P−8の合成
<リビングラジカル重合開始剤Aの合成>
還流冷却器およびガス導入コックを付した200mlの三口フラスコに、α,α'−ジブロモ−p−キシレン20g(75.8mmol)、m−キシレン70mlを仕込み、加熱還流しながら、窒素気流下、トリイソプロピルホスファイト16.8g(80.7mmol)をm−キシレン20mlに溶解した溶液を滴下した。滴下終了後3時間加熱還流し、溶媒を留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、下記構造を有するリビングラジカル重合開始剤A(開始剤A)を収量53%で得た。
【0180】
【化40】

【0181】
<熱可塑性樹脂P−8の合成>
還流冷却器およびガス導入コックを付した200ml三口フラスコに臭化銅0.41g(2.86mmol)、スチレン59.6g(0.57mol)、N,N,N',N',N"−ペンタメチルジエチレントリアミン0.5g(2.86mmol)、前記開始剤A1.0g(2.86mmol)を仕込み、5回窒素置換した後、窒素気流下80℃で5時間加熱した。フラスコを室温に戻した後、アルミナ30gとトルエン50mlとを添加し、10分間攪拌し、セライト濾過した。次いで、濾液を大量のメタノールに投入し、沈殿させ、沈殿を濾取した後、これを大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥してポリマーを得た(収量38%)。
【0182】
次いで、ガス導入コックを付した100ml三口フラスコに前記で得られたポリマー10g、トリメチルシリルブロマイド2.3g(15mmol)、塩化メチレン40mlを仕込み、窒素気流下、室温で24時間攪拌した。更に水10mlを添加し1時間攪拌した後、大量のメタノールに投入し、沈殿させた。沈殿を濾取した後、これを大量のメタノールで洗浄し、60℃で3時間真空乾燥して熱可塑性樹脂P−8を得た。得られた化合物の収量は96%であり、数平均分子量25200であり、重量平均分子量28200であった。アッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0183】
(9)熱可塑性樹脂Q−1の合成
tert−ブチルアクリレート12.8g、2−ブロモプロピオン酸メチルエステル0.56g、臭化銅(I)0.24g、N,N,N',N',N”,N”―ペンタメチルジエチレンテトラミン0.29g、メチルエチルケトン4mlからなる混合液を調製し、窒素置換した。油浴温度80℃で3時間攪拌し、スチレン91.0g、メチルエチルケトン35mlの混合液を窒素気流下添加した。油浴温度90℃で20時間攪拌し、室温に戻してからアセトン100ml、アルミナ30gを加え30分攪拌した。この反応液をろ過し、濾液を過剰のメタノールに滴下した。生じた沈殿を濾取、メタノール洗浄、乾燥し、ブロック共重合体Q−1を74g得た。GPCで測定した該樹脂の数平均分子量は31000、重量平均分子量は34000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0184】
(10)比較樹脂X−1の合成
メタクリル酸メチル5.00g、アゾビスイソブチロニトリル0.15gを2−ブタノン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、側鎖に微粒子結合性の官能基を有さない比較樹脂X−1を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は100000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0185】
【化41】

【0186】
(11)比較樹脂X−2の合成
スチレン5.00gとアゾビスイソブチロニトリル0.15gとを、トルエン中に加え、窒素下70℃で重合を行い、側鎖に微粒子結合性の官能基を含まない比較樹脂X−2を合成した。GPCで測定したところ重量平均分子量は105000であった。またアッベ屈折計で測定した官能基を含まない該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0187】
【化42】

【0188】
[有機無機複合材料の調製および成形体の作製]
実施例1〜15と比較例1〜2の各レンズを以下の手順で製造した。以下の手順において使用した樹脂、無機微粒子、表面処理剤、可塑剤の種類と使用量は表3に示す通りとした。
トルエンに分散させた酸化チタン微粒子もしくは酸化ジルコニウム微粒子を、樹脂、表面処理剤および可塑剤のアニソール溶液に5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去した。得られた有機無機複合材料を220℃で加熱成形し、厚さ1mmのレンズ用成形体を作成した。成形体を切削し、断面をTEMで観察して、無機微粒子が樹脂中に均一に分散しているか否かを確認した。さらに光線透過率測定、屈折率測定、破断エネルギー測定を行った。これらの結果は以下の表3に記載した。その後、レンズ用成形体をレンズの形状に成形して、光学部品であるレンズを得た。
【0189】
【表3】

【0190】
表3から本発明の有機無機複合材料は1mmの厚い成形体に加工しても良好な透明性を示し、屈折率が高く、かつ破断エネルギーが高いために靭性が良好であり、レンズなどの光学材料に好適に用いることができる。
また実施例1〜15の各有機無機複合材料は、いずれも耐電圧が−1.0〜7.0kVの範囲内であり、ガラス転移温度が100〜400℃の範囲内であり、200℃で2時間保持した際の揮発成分が2質量%以下であり、飽和吸水率は2質量%以下であった。また、破断エネルギー測定の際に得られた応力-歪み曲線から比例係数をフィッティングし、歪み(押込み長)と応力の関係式
σ=48YIε/L3
(σ:応力、Y:ヤング率、I:断面の慣性能率、ε:歪み(押込み長)、L:支持の間隔)から得たヤング率は、温度25℃湿度60%の条件下で1.00×108N/m2〜1.00×1012N/m2であった。
また、本発明の有機無機複合材料を用いれば、型の形状に合わせて正確に凹凸レンズ形状を生産性よく形成することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の光学部品であるレンズ基材は、高屈折性、高透明性、および優れた靭性を併せ持つ材料組成物を含むものである。本発明によれば、屈折率を任意に調節したレンズを比較的容易に提供することができる。また、耐熱性が良好なレンズも提供しやすい。このため、本発明は、高屈折レンズ等の広範な光学部品の提供に有用であり、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、高分子末端または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子を含有し、かつ温度25℃湿度60%の条件下での破断エネルギーが30.0J/m2以上であることを特徴とする、有機無機複合材料。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が2万以上であることを特徴とする、請求項1に記載の有機無機複合材料。
【請求項3】
前記無機微粒子の粒子径が1〜30nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合材料。
【請求項4】
前記無機微粒子を20質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項5】
厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項6】
波長589nmにおける屈折率が1.60以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、側鎖に下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【化1】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
【請求項8】
前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合材料。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が一般式(1)で表されるモノマーを重合単位として含むコポリマーであることを特徴とする請求項7または8に記載の有機無機複合材料。
一般式(1)
【化2】

〔一般式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選択される2価の連結基を表す。Yは炭素原子数が1〜30である2価の連結基を表し、qは0〜18の整数を表す。Zは下記から選ばれる官能基を表す。]
【化3】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、高分子末端の少なくとも1箇所に下記から選ばれる官能基を有することを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合材料。
【化4】

〔R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表す。〕、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、および、−Si(OR25m2263-m2〔R25、R26は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは置換または無置換のアリール基を表し、m2は1〜3の整数を表す。〕
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が疎水性セグメントおよび親水性セグメントで構成されるブロック共重合体であることを特徴とする、請求項7に記載の有機無機複合材料。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂の波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項13】
前記無機微粒子が、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項14】
最大厚みが0.1mm以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項15】
有機無機複合材料が、さらに可塑剤を含有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の有機無機複合材料からなることを特徴とする光学部品。
【請求項17】
前記光学部品がレンズであることを特徴とする、請求項16に記載の光学部品。

【公開番号】特開2009−40819(P2009−40819A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204951(P2007−204951)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】