説明

有機発光素子及びその製造方法

【課題】 基板上に陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極を積層して形成した有機発光素子の高発光効率でかつ長寿命の有機発光素子を提供する。
【解決手段】 基板上に陽電極がホール輸送層がテトラフェニルアミン4量体で形成され、該ホール輸送層に有機色素化合物5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン又は9,10−ジフェニルアントラセンの有機色素化合物を0.1〜10重量%添加される。ホール輸送層が発光層を兼ね、発光輝度の低減を抑制し、さらに黒点の発生と、その拡大を防止して、発光寿命を延長する。さらに、本発明は、陽電極の透明電極をホール注入用電極層41と電流分配層42からなる二層構造にすることにより、陽電極に起因した黒点の発生と輝度劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発光機能を有する有機層を備えた寿命の長いエレクトロルミネッセンスに関する
【0002】
【従来の技術】エレクトロルミネッセンス(EL)は、面発光パネルの形で、視認性が高く、表示能力に優れ、高速応答も可能という特徴を持っており、発光ディスプレイや液晶ディスプレイ用バックライトとしても用いられている。近年、有機化合物を構成材料とする有機発光素子について報告がなされ、例えば、関連論文 C.W.Tang and S.A.Van Slyke アプライド・フィジックス・レターズ、第51巻913頁1987年(Applied Physics Letters,51,1987,P.913.)は、電極間に有機発光層及び電荷輸送層を積層した構造の有機発光素子を開示している。ここには、発光材料としてトリス(8ーキノリノール)アルミニウム錯体(以下Alq)が研究され、これは、高い発光効率と、高い電子輸送能を合わせ持つ優れた発光物質として利用されている。
【0003】また、C.W.Tang, S.A.Van Slyke and S.H.Chen、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、第65巻3610頁1989年(Journal of Applied Physics,65,1989,p.3610.)には、有機発光層を形成するAlqにクマリン誘導体やDCM1等の蛍光色素をドープした素子を作成し、色素の適切な選択により発光色が変わることを見いだした。さらに、発光効率も非ドープの発光層に比べ上昇することを明らかにした。
【0004】従来の有機発光素子は、基板と、陽電極と、ホール輸送層及び電子輸送層の有機電荷輸送層と陰電極と、から成る積層構造の面発光体である。この構造において従来の素子は、電子輸送層が発光層を兼ねている。さらに、基板に透明なガラス基板を利用して、ガラス基板に接する陽電極にスズ−インジウム酸化物(ITO)を利用した透明電極を使用し、陽電極−ガラス基板側に発光する発光体として、利用されるものも知られている。
【0005】従来の有機発光素子においては、ホール輸送層は、ホールを移送する性質を有するトリフェニルジアミン(TPD)とその誘導体から形成されていた。トリフェニルジアミン(TPD)は、アモルファス状態で、ホールを輸送する。
【0006】特開平7−126615号公報は、ホール輸送層の構成材料として新規なテトラフェニルベンジジン化合物、トリフェニルアミン3量体、ベンジジン2量体により構成された有機発光素子を開示している。
【0007】特開平8−48656号公報は、種々のテトラフェニルジアミン誘導体を列挙し、これらをホール輸送層として有機EL素子を構成することを提案している。さらに電子輸送層あるいはホール輸送層にルブレンをドープすることによって発光寿命が延びることが記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の有機発光素子は、実用的には発光寿命が未だ短くて、ディスプレー装置に要求される耐久性レベルまでには到達していない。発光寿命の主要な決定要因は、以下に述べるように、二つが挙げられる。
【0009】第一の寿命決定要因は、有機電荷輸送層における発光効率の低下である。これは、発光時間の経過とともに輝度を低下させる。この問題は、ホール輸送層において生じる。上記の例では、ホール輸送層のTPDのアモルファス性が時間の経過とともに損なわれて、発光効率が低下する。
【0010】素子を構成する有機層は、高効率の発光機能を維持するために、有機薄膜がアモルファスであることが重要である。素子を発光駆動すると、ジュール熱が発生し高温になりホール輸送層であるアモルファス膜が部分的に結晶化し、電子輸送層へのホール輸送能力を減じて、そこでの発光量を低下させる。アモルファス状態の安定性を示す尺度として、材料自体のガラス転移温度が採用されるが、アモルファスの安定性には、ガラス転移温度の高いことが必要であることは知られている。例えば、ベンジジン2量体は、上記の特許開平7−126615号公報にに開示されているが、ガラス転移温度が高いので、作動時に発生するジュール熱あるいは周辺温度に対して、有機層の安定性が損なわれにくいが、実用的には、輝度の経時的な低下を抑制するには不十分であった。
【0011】このような発光素子の寿命の長期化を図るには、高ガラス転移点材料を使用してアモルファス薄膜の安定性を高めるほか、素子の発熱を抑制するために、素子の発光効率を高めて、投入電力を小さくする必要がある。ここに、発光効率とは、発光電力効率であって、電流密度に対する効率ではない。このためには、定電流供給で発光させる際に、低電圧での発光の実現と、長期使用中の電圧上昇を極力抑えるような改善が必要である。
【0012】有機発光素子の発光寿命低下の第二の決定要因は、発光面上に非発光部分が発生し、発光時間の経過とともに非発光部分の面積が拡大することである。問題となる非発光部分は、第1に素子構成する成層材料の界面の劣化である。特に、基板ガラス上の陽電極としての透明電極とホール輸送層との界面において、このような欠陥が最も生じやすく、黒点の核を形成する。第2に、他の第二の決定要因は、ホール輸送層に発生する多数の黒点(ダークスポット)である。黒点は、発光時間の経過とともに、ホール輸送層にその面積を拡大し、ついに画面全体が暗くなる。
【0013】上記界面非発光部分について、パターン化されたITO陽電極は、電極の各セグメントの縁部とホール輸送層とが接する部位で発光が低下し始めて、次第にこの非発光部が周辺に拡大する。非発光部を詳細に観察すると、図4に示すように、陽電極(透明電極)4と陰電極3とが対向する面域の内側に向かって非発光部21の領域が増大してゆくことが判る。このように非発光部21は特に透明電極縁部から発生し、しだいに拡大する傾向があった。
【0014】上記の黒点について、透明電極の界面にダスト等の微粒子や電極材料の微小な突起が原因となっていた。透明電極に存在するダスト粒子や微小突起は、その周囲部で輝きが劣化して黒点となり、進行して、多数の黒点が円状に拡大して行き、発光面全体が次第に暗くなり、素子の寿命を決める。そこで長寿命化のために、黒点の数と共にその成長を抑制する必要があった。
【0015】このように、ITO透明電極の界面の何らかの欠陥が、電極からホール輸送層へホールの注入を阻害して、非発光部分となる。経験的にITO透明電極上の水分が非発光部へ大きな影響を与えることが判っている。即ち、透明電極上の水分等の付着が劣化要因となり、黒点の発生・拡大につながる。非発光部の増大を防止するためには透明電極上の付着水分を除去しなければならない。
【0016】本発明の目的は、上記の問題を解決するために、有機ホール輸送層に起因する発光効率の時間的な低下を防止して、発光の持続時間の長い有機発光素子を提供することである。本発明の別の目的は、陽電極における非発光部の発生を防止ないし遅延させて、発光寿命の長い有機発光素子を提供することである。本発明の別の目的は、陽電極における非発光部の発生を防止ないし遅延させることのできる陽電極の形成方法を提供し、寿命の長い有機発光素子の製造方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の有機発光素子は、第1の寿命決定因子と関連して、ホール輸送層を、主成分として高分子量のポリフェニルアミン類から形成して、そのガラス転移温度を高め、ホール輸送層のアモルファスの安定性を高める。ホール輸送層は、さらに、ドーパントとして、フェニル基以外の置換基を有しない対称性の縮合多環式炭化水素の色素化合物を少量含んでさらにアモルファス安定性を図り、ホール輸送層における発光輝度とその発光電力効率を高め、発光中の素子の温度上昇を抑制して、第1の決定因子であるホール輸送層に起因する低寿命を解決させるものである。
【0018】より具体的には、主成分として、”化5”で示されるトリフェニルアミン4単量体を使用し、ドーパントの縮合多環式炭化水素の色素化合物は、ヘテロ原子を含まず、ベンゼン骨格以外に置換基を含まない化合物である。詳しくは、色素化合物は、”化6”で表される5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン又は”化7”に示す9,10−ジフェニルアントラセンが利用される。
【0019】本発明は、第2の決定因子に関して、有機発光素子の陽電極を、透明導電性酸化物の二層構造とすることによって透明電極からホール輸送材料へのホールの注入機能を安定させるものである。即ち、基板側の第1層をパターン形成電極として、専ら、電流配分層とし、第2層を第1層の上に、基板序を全面に形成した均質な全面電極で、ホール輸送層と接してホール注入用電極層とする。第2層は、第1層を含め基板全面を被覆して、ホール輸送層を隔離し、第2層が非発光部の発生を抑え、発光寿命を向上させる。
【0020】本発明の有機発光素子の製造方法は、さらに、陽電極の上記の第2層を、第1層上に塗布したインジウムまたはスズの酸化層を焼き付けて形成して、第2層が非発光部の発生を抑えた発光素子の製造方法を提供する。
【0021】
【発明の実施の形態】本発明の第1の形態において、有機発光素子は、陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極から積層されて成り、上記のホール輸送層が、主成分として、”化5”に示される有機化合物トリフェニルアミン4単量体で構成され、該ホール輸送層に添加される”化6”に示される色素化合物は、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセンが利用される。
【0022】
【化5】


【0023】
【化6】


【0024】本発明においては、上記有機色素は、”化7”で示される化合物9,10−ジフェニルアントラセンも使用される。
【0025】
【化7】


【0026】本発明における有機発光素子のホール輸送層は、”化5”の化合物のアモルファス薄膜として形成されるが、”化5”の化合物は、トリフェニルアミン4量体の構造を持つ分子量の大きな化合物であり、ガラス転移点(Tg)が152℃と高い。これにより、有機アモルファス薄膜が結晶化する温度を高くすることが可能となり、その結晶化を遅らせ、発光素子の熱的な劣化が抑制される。
【0027】”化6”又は”化7”に示す有機色素がホール輸送層全体に含有され、これによりホール輸送層が発光する。これら色素化合物は、窒素や酸素等のヘテロ原子を持たないベンゼン骨格のみで対称に形成されているので、ホール輸送層中の他の分子と相互作用を及ぼすような反応サイトを持たない。従って、励起した色素分子は、発光のために励起した状態から失活することなくそのまま基底状態に落ちるので発光の効率が高く、繰り返し励起によっても失活に導くような反応経路がないので、素子寿命が長くなる。従来ドーパントとして使われている上記のクマリン、DCMあるいはキナクリドンといった色素は、ホール輸送層あるいは電子輸送性発光層を構成する分子と錯体や会合体等を形成しやすく、発光効率の低下に繋がるが、本発明に使用する”化6”又は”化7”の化合物の利用により、電流密度に対する発光効率もさることながら、同一輝度に対する動作電圧も低下し、特に発光電力効率を高める。電力効率を高めることにより、ジュール発熱による昇温とこれによるホール輸送層の結晶化への影響が小さくなり、長時間にわたって安定な発光を得ることができる。
【0028】さらにホール輸送層における黒点についても、黒点は、有機アモルファス皮膜の局部的な結晶化によって発生するものであるが、不純物としての上記”化6”、”化7”の化合物は、結晶化を抑制する効果がある。”化6”、”化7”の化合物は特に、上述のように不要な反応サイトを持たないので、トリフェニルアミン4単量体のホール移動度を低下させることなく結晶化防止に顕著な効果を発現する。
【0029】本発明に使用する”化5”の化合物を単独で、蒸着して形成した場合に、ホール輸送層に起因する黒点が多発し、面全体の発光輝度を低下させる。従来、黒点を抑制する方法として”化5”の蒸着中あるいは蒸着後に基板加熱を行うという手法がとられてきた。しかし加熱時の有機物等による汚染が発生し、発光効率の低下につながった。本発明によれば、”化6”又は”化7”に示す色素の添加により、黒点の発生も低減することが明らかになった。
【0030】従って、ホール輸送層に、上記特開平8−48656号公報に記載されているようなポリチオフェン等を別個の輸送層を積層する必要がない。本発明の発光素子は、”化5”で構成されるホール輸送層に”化6”又は”化7”を添加するだけで黒点の発生を防止できるので、ホール輸送層を積層する必要がないこと、また膜の加熱処理が不要という点から作製プロセスの簡略化を図ることができる。
【0031】上記の有機色素の添加量は、主成分として、”化5”の化合物中に0.1〜10重量%添加して形成される。好ましくは、有機色素の添加量は、0.5〜5重量%が、発光輝度と、電圧の低下及び黒点数の低減から好ましい。特に、1.0〜2.0の範囲が最も好ましい。
【0032】本発明に適用可能な有機発光素子の構造を、図1に示す。図1において、基板5は、陽電極4と接合され、積層体を担持するものであり、この例では、透明なガラス基板であり、光の放出面となる。陽電極4は、基板上に形成され、ホール輸送層2にホール注入するための電極である。この例では、一般的には酸化スズ酸化インジウムのいわゆるITO透明電極が用いられる。ホール輸送層2は、電子輸送層1と接合され、陽電極(ホール注入電極)から注入されたホールを電子輸送層1との界面まで運ぶが、本発明においては、発光層を兼ねている。
【0033】電子輸送層1は、陰電極3からの電子を選択的に流すための層で、最も代表的な材料として上述のアルミキノリンが用いられる。陰電極3は、電子輸送層1に電子を注入するための電子注入用の金属電極であり、仕事関数の小さい金属の電極から、例えば、Li/Al電極が使用できる。
【0034】本発明の有機発光素子の製造の具体例として、透明ガラス基板5上に、ITOから、蒸着法、スパッタ法等により透明な陽電極4を形成し、陽電極4上に、真空下の抵抗加熱法等の加熱法により”化5”のトリフェニルアミン4量体と、”化6”又は”化7”の色素化合物を同時に蒸着させ、アモルファス薄膜のホール輸送層2を形成する。ホール輸送層2の厚みは、40〜200nm程度の薄い膜が適当である。本発明においては、ホール輸送層2が発光層として利用される。
【0035】ホール輸送層2上には、さらに、電子輸送層として、同様に、抵抗加熱蒸着により電子輸送化合物、例えば、トリス(8ーキノリノール)アルミニウム錯体(Alq)の蒸着膜が形成される。電子輸送層の厚みは、35〜100nm程度の薄い皮膜が採用される。ホール輸送層2の表面には、さらに、Li/Al等の金属皮膜が形成される。本発明においては、さらに、電子輸送層が、”化8”で示される有機化合物で構成されることが好ましい。
【0036】
【化8】


【0037】”化8”に示す化合物は、一般に電子輸送材料として用いられているアルミキノリンの配位子であるキノリノールの5位をメチル基に置換したものであるが、この置換は、酸素の電子密度を増加させ、電子遷移確率を向上させる。この材料で電子輸送層を構成することにより電子輸送層にさらに優れた電子輸送能が実現でき、さらなる高い発光電力効率化を促進することができる。
【0038】本発明の上記発光素子は、図2に示すように、上記のホール輸送層2と電子輸送層1との間に、所望の発光色の有機色素を添加した発光層24を介装して積層することもできる。発光層24には、上記の電子輸送材料(”化8”の化合物)、又は本発明のホール輸送層の材料に適当な色素、例えば、5,6,11,12−テトラフェニルナフタセンを利用することができる。上記のホール輸送層の発光と同時にこの発光層の発光も利用することができる。有機発光層24は主材を”化8”の化合物から成膜する際、”化6”の化合物も抵抗加熱法により同時蒸着する。”化6”化合物濃度は”化8”の化合物に対して0.5〜2.5重量%が好ましい。
【0039】(実施例1)ガラス基板上にITO電極を一面に皮膜形成した陽電極とし、陽電極上に”化6”の化合物を真空中で抵抗加熱法により”化5”の化合物と同時蒸着して、60nm厚みのアモルファス性ホール輸送層2を形成した。”化6”の濃度は”化5”の化合物に対して0〜10重量%の範囲に調整した。電子輸送層1の形成は、真空中で抵抗加熱法により上記の”化8”に示す化合物を75nmの厚みの皮膜形成した。陰電極として、Li/Al皮膜を蒸着して、有機発光素子に5mA/cm2の直流電流を流したときの発光輝度、電圧及び黒点数の測定結果を表1に示す。
【0040】
【表1】


【0041】表1の結果より、発光電力効率については、上記色素化合物0.1〜4.5重量%の低濃度側で改善がみられたが動作電圧及び黒点数については0.5〜10重量%の高濃度側の広い範囲で改善された。従って、発光効率、黒点、動作電圧すべてにわたって好結果を得る条件としては0.5〜4.5重量%がさらに好ましく、特には1.0〜2.5重量%が好ましい。
【0042】(実施例2)実施例2では実施例1において”化6”の代わりに”化7”を用いて同様に有機発光素子を作製し、評価したところ同等の特性を得ることができた。
【0043】(実施例3)実施例3は、電子輸送層1とホール輸送層2との間に発光層24を設けた有機発光素子の別の構成を示す。図2にその発光素子の構造を示す。ITO透明電極を形成した基板上に、抵抗加熱法を用いて真空蒸着により”化7”の化合物を1.5重量%ドーピングした”化6”の化合物でホール輸送層2を膜厚40nmに形成した。次いで、有機発光層24を”化8”の化合物に”化6”の化合物をドーピングして形成した。さらに、”化8”の化合物で電子輸送層1をそれぞれ40nm成膜した後、陰電極3として膜厚200nmのAl/Li電極を設けた。
【0044】有機発光素子ではホール輸送層2の主材を”化5”の化合物とし、これを成膜する際、”化6”も抵抗加熱法により同時蒸着する。”化6”の化合物の濃度は”化5”の化合物に対して1.5重量%とした。本実施例の有機発光素子では有機発光層24に含まれる”化6”の濃度を1.5重量%とし、透明電極4と電子注入金属電極3の間に外部電圧として直流あるいは交流電場を印加した。実施例3の有機発光素子に、直流電圧5Vを印加したとき電流密度が35mA/cm2 を越え、およそ2000cd/m2 の発光輝度が得られた。
【0045】本発明の第2の形態は、有機発光素子が、透明基板上に、陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極から成る積層構造を有し、陽電極は2層構造とされ、ガラス基板側の第1層が主に電流を分配する機能を有するパターン層であり、ホール輸送層側の第2層がホール輸送層にホールを注入する機能を基板前面に有するものである。
【0046】この構造は、陽電極を、基板上でパターン形成した透明電極を構成するのに特に適している。本発明の有機発光素子の陽電極は、透明導電性酸化物の二層構造で構成され、第1層の透明電極はパターン形成した電流分配層とし、第2層を電流分配層を覆う全面層とする。第2層の全面層は、第1層から受けた電流でホール輸送層にホールを注入する機能と、全面層がホール輸送層への水分の浸入を完全に遮断する機能を有する。これにより、上記の陽電極とホール輸送層の界面間で発生する非発光部の発生が防止され第2層の全面層のホールの注入機能を安定させることができる。
【0047】図1にはその陽電極の構造が示されているが、基板5上に第1層の電流分配層42を形成し、その上に第2層のホール注入用電極層41が、形成されて、陽電極4とされて、ホール注入用電極層41上にホール輸送層が形成される。図3は、パターン形成した透明電極へのこの形態の発明の適用例を示すが、パターン形成した第1層の電流分配層42が形成され、第1層は、スリット43を間隔で設けて、電流分配層42が多数のセグメント44に区分されている。第2層のホール注入用電極層41は、基板上の電流分配層42を覆うが、セグメント間のスリット43を充填し、この電極層41は、第1層を隔離して、基板の上面全面を覆う。これは、第2層の全面層が、ホール輸送層と面接して、界面欠陥の浸入を防止するので、非発光部の生成を防止し、発光効率の長寿命化を図る。
【0048】本発明において、陽電極は、第2層が、実質的に酸化インジウム又は酸化すずの単体から成るものが採用される。単体酸化物を使用するのは、仕事関数を、4.0eV以上で、特に、酸化インジウムでは、4.7eVを確保できるので、ホール注入には好都合である。酸化インジウム又は酸化すずの単体膜は、比抵抗が高いので、第1層に比して高抵抗皮膜の皮膜を形成することができる。酸化インジウム又は酸化スズの単体膜には、塩素などの電気抵抗を上昇させる微量元素を含んでもよい。
【0049】酸化インジウム又は酸化すずの単体膜は、インジウム又はスズの有機金属の塩化物を塗布形成した焼成体として形成されるものが好ましい。この場合には、後述するように、基板の第1層のパターン形成したITO皮膜上に、上記の有機金属の塩化物溶液を塗布し、その乾燥膜を加熱して焼付け皮膜とするものが好ましい。
【0050】さらに、第2層は、第1層よりも薄膜とすることができる。上記陽電極の第2層の厚みは、0.1μmより小さいことが、好ましく、膜厚方向への電気抵抗を低下させる。そこで、第2層は、第1層からの電流を、ホール輸送層に容易にホールとして容易に供給することができる。他方、第2層は、面域方向には、高抵抗皮膜で且つ薄膜とするので、第1層の相隣接するセグメント間の絶縁は確保される。第2層の抵抗は、面積抵抗で、1kΩ/□〜10kΩ/□程度が好ましく、他方の第1層の抵抗は、面積抵抗で10〜100Ω/□程度とするのが好ましい。
【0051】他方、第1層は、第2層より低抵抗皮膜とする。このため、酸化インジウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化亜鉛から選ばれた1種の単独若で若しくは2種以上を複合化して形成して、第2層よりも低抵抗に調節される。これは、従来のITO電極を利用することができる。
【0052】第1層は金属から成る皮膜であってもよく、第2層が光透過性の機能を有するものである。金属皮膜は不透明であっても、パターン形成により広い間隔のスロットを介して細幅に形成される。金属皮膜上を第2層が全面を覆うので、第2層と対面する陰電極との間で発光し、当該間隔を透過した発光光が基板側に照射される。
【0053】本発明の第3の形態は、基板上に陽電極の形成方法に特徴を有する有機発光素子を製造する方法である。この製造方法は、基板上に第1層を所望のパターンに形成し、次いで、有機インジウム又は有機スズの化合物に若干の塩化物をドープして第1層上に基板上全面に塗布して、該塗布膜を400〜600℃で加熱して第2層を焼き付けして、陽電極を形成することを特徴としている。従来、黒点の発生要因の大半は、ITO透明電極上に付着しているか、あるいはITO透明電極表面から内部に拡散した水分が、ホール輸送層との間で電気分解等の化学的反応を起こし、最終的にホール輸送層との界面でのホール移動を阻害する。このような界面劣化の防止には水分の付着あるいは拡散を防止すれば良い。ITO透明電極4はウェットプロセスにより微細パターニングを行うため、水分の付着をのがれられない。
【0054】本発明の製造方法は、少なくともホール注入用電極層41(第2層)を焼付けして形成することが、第1層及び第2層から水分を除去し、水分に伴う陽電極−ホール輸送層界面の劣化を防止できる効果が生じる。陽電極4の第2層であるホール注入用電極層41は、ガラス基板5上の第一層の上、有機インジウム塩化物又は有機スズ塩化物の溶液を塗布した後乾燥し、基板ごと焼付けて表面平滑な酸化物として作成される。焼付け温度は、400〜600℃の範囲で、好ましくは、450〜550℃が採用される。400より低温では、上記有機金属塩化物の酸化物への分解酸化が不十分であり、600℃をこえると、ガラス基板の変形生じるおそれがある。
【0055】一般的にITO透明電極は低い電気抵抗を利用するものであったが、第1層42は、低抵抗が好ましいので、従来の方法で形成してもよい。材料は、酸化インジウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化亜鉛から選ばれた1種の単独若しくは2種以上を複合化して形成される。第1層は、ガラス基板上にスパッタリング、電子ビーム蒸着等で作成し、そのあとで熱処理を行う。パターニングは、これら蒸着などの工程で行うことができる。スパッタリングや電子ビーム蒸着を行う場合は第1層の電極表面が荒れて凹凸が激しくなりそのまま使用すると黒点の発生要因を増大させる。第2層41は、第1層42上にコーティングされて、その表面の凹凸を少なくする点においても有効である。
【0056】第2層41は、上記の方法で形成した第1層の上に、有機インジウム塩化物、又は、有機スズ塩化物等の溶液を薄く全面に塗布してその後焼付けを行いインジウム酸化物又はスズ酸化物として表面にコートする。この形成方法はインジウム酸化物又はスズ酸化物の電気抵抗が大きいので、第2層の抵抗を大きくすることができる。電気抵抗が大きいことが、上述の如く、第1層42のパターン間の絶縁を確保できる。
【0057】以上のように本実施のこの形態によれば、有機発光素子の透明電極である陽電極を二層構造にすることによって、水分のホール輸送層への影響を取り除くことが可能となり、透明電極からホール輸送材料へのホールの注入機能を安定させることができ、発光効率の長寿命化と黒点の発生個数と黒点の拡大速度を抑えることが可能となった。
【0058】尚、二層構造を有する透明電極の第1層の電極を、インジウムの塩化物の溶液をスプレー塗布し、酸化雰囲気で焼きつけて作成し、そのあとでパターンニングを行い、さらに第2層はその上に上記のインジウム又はスズの有機金属塩化物溶液を塗布して上記の如く、400℃〜600℃の高温で焼成焼付ける。好ましくは450度C〜550度Cの高温で焼きつけて作成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る有機発光素子の模式的な断面図を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る有機発光素子の図1同様図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機発光素子のさらに具体化した模式的な断面図を示す。
【図4】ガラス基板と透明な陽電極を備えた有機発光素子パネルの模式的外観図である。この図には、陽電極陰した非発光部が、ハッチングされた領域として示されている。
【符号の説明】
1 電子輸送層
2 ホール輸送層
3 陰電極
4 陽電極
41 電流分配層
42 ホール注入用電極層
5 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極を有する有機発光素子において、上記のホール輸送層が、以下の”化1”に示される有機化合物で構成され、該ホール輸送層に、以下の”化2”及び/又は”化3”に示される有機色素化合物を0.1〜10重量%添加したことを特徴とする有機発光素子。
【化1】


【化2】


【化3】


【請求項2】 上記電子輸送層が、以下の”化4”で示される有機化合物で構成されることを特徴とする請求項1記載の有機発光素子。
【化4】


【請求項3】 上記発光素子が、上記のホール輸送層と電子輸送層との間に、有機色素を添加した発光層を介装して積層して成ることを特徴とする請求項1又は2記載の有機発光素子。
【請求項4】 透明基板上に、陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極から成る積層構造を有する有機発光素子において、陽電極が基板上で二層構造とした透明電極の構造を有し、第1層が主に電流を分配する機能を有するパターン層であり、第2層がホール輸送層にホールを注入する機能を有する全面層であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】 陽電極は、第2層が、実質的に酸化インジウム、酸化すず、又は酸化亜鉛の単体から成り、第1層に比して高抵抗皮膜として、第1層の上に基板全面に被覆形成されて成ることを特徴とする請求項4記載の有機発光素子
【請求項6】 陽電極は、少なくとも第1層が、酸化インジウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化亜鉛から選ばれた1種の単独若しくは2種以上を複合化して、成ることを特徴とする請求項4又は5記載の有機発光素子
【請求項7】 第1層が金属から成り、第2層が光透過性の機能を有することを特徴とする請求項4又は5記載の有機発光素子
【請求項8】 上記陽電極の第2層の厚みがが0.1μmより小さいことを特徴とする請求項4ないし7何れか記載の有機発光素子
【請求項9】 基板上に陽電極、ホール輸送層、電子輸送層および陰電極をこの順序で積層形成して有機発光素子を製造する方法において、基板上に第1層を所望のパターンに形成し、次いで、インジウム又は、すずのの有機塩化物を第1層上に基板上全面に塗布して、該塗膜を400〜600℃で加熱して第2層を焼き付けして、陽電極を形成することを特徴とする有機発光素子の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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