説明

有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法

【課題】第1に、OHラジカルが効率的に生成され、ランニングコスト等に優れると共に、第2に、後処理コストにも優れ、第3に、薬品添加量制御が容易で、第4に、処理安定性,イニシャルコスト,スペース面等にも優れた、有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法を提案する。
【解決手段】この処理装置2および処理方法では、処理槽4の処理水3に、過酸化水素添加手段6が、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加し、鉄イオン添加手段7が、過酸化水素の添加後に2価の鉄イオン溶液を分割添加し、pH調整手段8が、過酸化水素の添加前や鉄イオン溶液の分割添加の都度、pH調整剤を添加して被処理水3をpH4程度に維持する。もって、フェントン主反応や付随的,連鎖的反応にて、OHラジカルが生成されて、被処理水3に含有された有機砒素化合物1が酸化,分解,無機化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法に関する。すなわち、被処理水に含有された有機砒素化合物を、フェントン法に基づき酸化,分解する、処理装置および処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
《技術的背景》
工業廃水や地下水には、自然界には通常存在しない筈の有機砒素化合物が、含有されていることが多々ある。そして有機砒素化合物は、難分解性であると共に強い毒性をもつことが知られている。
この種の有機砒素化合物としては、例えばジフェニルアルシン酸(DPAA),モノフェニルアルソン酸(MPAA),フェニルアルソン酸(PAA)等が、代表的である。
又、最近はガリウム砒素やインジウム砒素が、化合物半導体として、従来よりの珪素やゲルマニウム等の単体半導体を凌ぐ勢いで、多用されつつある。
そして、その生成反応過程そしてウェハー製造工程からは、有機砒素化合物であるモノメチル砒素やジメチル砒素を含有した工業廃水が、排出されることになる。つまり、化合物半導体工場からの廃水は、有機砒素化合物を含有成分として、排出されることになる。
【0003】
《従来技術》
この難分解性で有毒な有機砒素化合物を含有する工業廃水や地下水の浄化処理技術としては、従来、例えば次のようなものがあった。
a.活性炭吸着+凝集沈殿処理法:有機砒素化合物を粉末活性炭に吸着させた後、硫酸にて劣化させ無機状態とし鉄塩と化合物として、凝集,沈殿,分離する。
b.UV/オゾン処理法:有機砒素化合物を、光触媒やオゾンに紫外線を照射して生成したOHラジカルにて、酸化,分解して、凝集,沈殿,分離する。
c.RO膜処理法:有機砒素化合物を塩化鉄で凝集,沈殿させた後、RO膜処理にて分離する。
d.フェントン処理法(従来法):有機砒素化合物を、過酸化水素と鉄塩つまり2価の鉄イオンにて生成したOHラジカルにて、酸化,分解して、凝集,沈殿,分離する。
【0004】
《先行技術文献情報》
この種のフェントン処理法としては、例えば、次の特許文献1に示されたものが、挙げられる。
【特許文献1】特開2006−239507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような従来の有機砒素化合物含有水の処理技術については、次の問題が指摘されていた。
《第1の問題点》
第1に、従来のフェントン処理法については、処理性能が悪くランニングコスト(薬品使用コスト)等が嵩む、という問題が指摘されていた。
例えば、有機砒素化合物を酸化,分解するOHラジカルの発生源である過酸化水素が、処理途中で無駄に浪費され易く、予め多量の過酸化水素が添加されていた。すなわち、過酸化水素がOHラジカルを生成することなく、水と酸素に分解されてしまう比率が高く、もってこれをカバーすべく、過酸化酸素が過剰なまでに多量に添加されており、効率が悪かった。
そして、このような問題は、フェントン処理法を、工業廃水や地下水の大規模処理,大容量処理にスケールアップして適用する際、大きなネックとなっていた。
【0006】
《第2の問題点》
第2に、従来のフェントン処理法については、更に、後処理面でもコストが嵩む、という問題が指摘されていた。
すなわち、上述したように過酸化水素が過剰添加されていたので、有機砒素化合物が酸化,分解,分離された後の工業廃水や地下水について、過酸化水素の残存含有量が多くなり、イオン濃度が非常に高かった。
そこで、水質汚濁を回避して浄水として排出する為には、後処理として、カタラーゼ等の中和剤の多量添加等による中和処理が必須的となっており、その分、更に薬品使用コストが嵩むという難点が指摘されていた。この点も、フェントン処理法を大規模処理,大容量処理へスケールアップ適用する際、大きなネックとなっていた。
【0007】
《第3の問題点》
第3に、これらに加え、従来のフェントン処理法については、薬品添加量制御が容易でない、という問題も指摘されていた。
すなわち、供給される工業廃水や地下水の水質変動への対応、そして有機砒素化合物の含有量変化への対応、つまり過酸化水素や鉄塩の添加量制御が、容易でなかった。過酸化水素や鉄塩は、適量だけ添加されるべきであるが、その適量添加率が確立されておらず、過少となったり過多となったりし易く、多くの場合、過剰添加されていた。
前述した特許文献1では、フェントン処理の後処理用,吸着処理用としても、鉄粉が活用されており、益々鉄粉の定量性確保が困難化して、鉄粉が余剰に残存したり不足したりすることが顕著化し、処理性能が不安定化していた。そしてこれらの点も、大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用のネックとなっていた。
【0008】
《第4の問題点》
第4に、他方、前述した活性炭吸着+凝集沈殿処理法,UV/オゾン処理法,RO膜処理法等についても、次の問題が指摘されており、大規模処理,大容量処理へのスケールアップ適用のネックとなっていた。
a.活性炭吸着+凝集沈殿処理法については、活性炭破過による処理能力ダウンが難点となっており、処理の安定性,活性炭交換コスト,設備設置スペース等に、問題が指摘されていた。
b.UV/オゾン処理法については、OHラジカル生成効率の悪さ,設備過大化,イニシャルコスト,電力浪費コスト,UVランプ劣化等に、問題が指摘されていた。
c.RO膜処理法については、膜処理では有機砒素化合物自体の成分変更がないと共に、詰りによる処理能力ダウンも、問題化していた。
【0009】
《本発明について》
本発明の有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法は、このような実情に鑑み、上記従来例の課題を解決すべくなされたものである。
そして本発明は、第1に、OHラジカルが効率的に生成され、ランニングコスト等に優れると共に、第2に、後処理コストにも優れ、第3に、薬品添加量制御が容易で、第4に、処理安定性,イニシャルコスト,スペース面等にも優れた、有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
《各請求項について》
このような課題を解決する本発明の技術的手段は、次のとおりである。
まず、請求項1については次のとおり。請求項1の有機砒素化合物含有水の処理装置は、被処理水に含有された有機砒素化合物を、フェントン法に基づき酸化,分解する。そして処理槽と、該処理槽に付設された被処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えている。
該被処理水供給手段は、該処理槽に有機砒素化合物を含有した被処理水を供給する。該過酸化水素添加手段は、該処理槽の被処理水に過酸化水素を添加する。該鉄イオン添加手段は、該処理槽の被処理水に2価の鉄イオンを添加する。
該pH調整手段は、該被処理水供給手段から該処理槽に供給される被処理水、および該処理槽に供給された被処理水にpH調整剤を添加して、被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0011】
請求項2については、次のとおり。請求項2の有機砒素化合物含有水の処理装置では、請求項1において、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加する。該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加する。
該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする。
請求項3については、次のとおり。請求項3の有機砒素化合物含有水の処理装置では、請求項2において、該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄の水溶液を添加する。該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする。
請求項4については、次のとおり。請求項4の有機砒素化合物含有水の処理装置では、請求項2において、該処理槽内では、全量添加された過酸化水素が、分割添加される2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成する。
これと共に、被処理水に含有されたジフェニルアルシン酸,モノフェニルアルソン酸,フェニルアルソン酸,モノメチル砒素,又はジメチル砒素等の有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解され無機化されること、を特徴とする。
【0012】
請求項5については、次のとおり。請求項5の有機砒素化合物含有水の処理方法は、被処理水に含有された有機砒素化合物を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する。そして、有機砒素化合物を含有した被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加される。
過酸化水素は、反応当初に全量添加される。2価の鉄イオン溶液は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加される。
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする。
【0013】
請求項6については、次のとおり。請求項6の有機砒素化合物含有水の処理方法では、請求項5において、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成される。もって、被処理水に含有された有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項7については、次のとおり。請求項7の有機砒素化合物含有水の処理方法では、請求項6において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成される。もって、被処理水に含有された有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項8については、次のとおり。請求項8の有機砒素化合物含有水の処理方法では、請求項6又は7において、生成されたOHラジカルが、更に被処理水等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、連鎖的に繰り返される。もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、有機砒素化合物が、酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
請求項9については、次のとおり。請求項9の有機砒素化合物含有水の処理方法では、請求項6又は7において、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が、連鎖的に繰り返される。もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、有機砒素化合物が、酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする。
【0014】
《作用等について》
本発明は、このような手段よりなるので、次のようになる。
(1)ジフェニルアルシン酸,モノメチル砒素,ジメチル砒素等の有機砒素化合物を含有した被処理水は、処理装置に供給される。そして、フェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、有機砒素化合物が酸化,分解される。
(2)処理装置は、被処理水供給手段,処理槽,後処理槽等を備えており、処理槽には、過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段等が、付設されている。
(3)被処理水は、処理槽に供給されるが、その前にpH調整手段から硫酸等が添加されて、pH4程度の弱酸性とされる。
(4)処理槽では被処理水に対して、まず過酸化水素添加手段から、過酸化水素が全量添加される。
(5)それから、鉄イオン添加手段から2価の鉄イオン溶液が分割添加されるが、分割添加毎にpH調整手段からカセイソーダ等が添加され、もって、被処理水の弱酸性が維持される。
【0015】
(6)さてそこで、2価の鉄イオンを触媒として、過酸化水素がOHラジカルを生成する。このOHラジカルの生成反応では、まず、鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして鉄イオンが浪費される反応が起こる虞がなく、又、弱酸性雰囲気なので鉄イオンの触媒機能が促進されると共に、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることも回避される。
(7)又、OHラジカルは、前記反応にて生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとの反応によっても、生成される。
(8)更にOHラジカルは、上記反応により生成されたOHラジカルが被処理水等の水と反応することによっても、又、上記反応により生成された3価の鉄イオンと過酸化水素とが反応することによっても、それぞれ、連鎖的に繰り返して新たに生成される。
【0016】
(9)処理槽では、このように生成されたOHラジカルの強力な酸化力により、被処理水中の有機砒素化合物は酸化,分解されて、無機砒素化合物,水,二酸化炭素等に無機化される。
(10)それから被処理水は、後処理槽において、無機砒素化合物の錯体がフロック化して凝集,沈殿,除去された後、外部排水される。
(11)なお、この処理装置および処理方法では、フェントン試薬等の薬品添加量が反応理論値から容易に算出されると共に、装置や方法の構成も比較的簡単であり、安定的処理が可能である。
(12)さてそこで、本発明の有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法は、次の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0017】
《第1の効果》
第1に、OHラジカルが効率的に無駄なく生成され、もってランニングコスト等に優れている。
すなわち、本発明の処理装置および処理方法では、まずa.被処理水が弱酸性に維持されることや、過酸化水素の全量添加と2価の鉄イオンの分割添加等により、OHラジカルが効率良く生成される。
b.OHラジカルは、3価の鉄イオンと水酸化イオンが反応することによっても、生成される。更に、生成されたOHラジカルが被処理水等の水と反応することや、3価の鉄イオンと過酸化水素が反応することによっても、連鎖的に繰り返して生成される。このようにOHラジカルは、高効率で生成される。
c.前述したこの種従来例の処理技術のように、過酸化水素が水と酸素に分解,浪費されることもなく、過剰に多量の過酸化水素を添加する必要もなく、フェントン試薬等の薬品使用コストが低減される。
これらa,b,cにより、本発明の処理技術では、有機砒素化合物が容易かつ確実に酸化,分解,除去され、その本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化が容易である。
【0018】
《第2の効果》
第2に、過酸化水素の残存含有量が極めて少なく、後処理コストが低減される。
すなわち、本発明の処理装置および処理方法では、上述したように効率良くOHラジカルが生成されて、有機砒素化合物が酸化,分解,除去される。前述したこの種従来例の処理技術のように、過酸化水素を過剰添加されることもなく、被処理水は、処理後の過酸化水素の残存含有量が少なく、中和剤による後処理コストも低減される。
そこで本発明の処理技術は、この面からも、薬品使用コストが低減され、本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化への道が開かれる。
【0019】
《第3の効果》
第3に、薬品添加量制御が容易である。すなわち、被処理水中の有機砒素化合物の含有量に対応した過酸化水素の添加量や、過酸化水素の添加量に見合った2価の鉄イオンの添加量や、見合ったpH調整剤の添加量等は、反応理論値から容易に算出され、必要モル数が得られる。
もって、過不足のない適量の薬品を添加可能となり、これらの自動制御も容易である。例えば、前述したこの種従来例の処理技術のように、2価の鉄イオンについて、定量性が確保できず余剰に残存したり不足したりする事態は発生せず、処理性能が安定化する。
そこで本発明の処理技術は、この面からも本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化が容易である。
【0020】
《第4の効果》
第4に、処理安定性,イニシャルコスト,ランニングコスト,スペース面等にも、優れている。
すなわち、本発明の処理装置および処理方法では、前述したこの種従来例の処理技術において指摘されていた、経時使用による処理能力ダウン,活性炭等の交換コスト,設備設置スペース,OHラジカル生成効率,設備過大化,電力浪費コスト,UVランプ劣化、等々の問題が解消される。
そこで本発明の処理技術は、これらの面からも、本格的処理,大規模処理,大容量処理等へのスケールアップ適用、つまり実用化が裏付けられる。
このように、この種従来例に存した課題がすべて解決される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
《図面について》
以下、本発明の有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法を、図面に示した発明を実施するための最良の形態に基づいて、詳細に説明する。
図1は、本発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その1例の構成フロー図である。
【0022】
《有機砒素化合物1について》
まず、本発明の処理装置2や処理方法の処理対象である、有機砒素化合物1について説明する。
鉱山,精錬,薬品,農薬,殺虫剤,顔料,ガラス,石油関係等の工業廃水中や、残存毒ガスが土壌浸透した汚染地下水中には、通常自然界に存在しない筈の有機砒素化合物1が、含有されていることが多々ある。有機砒素化合物1は、難分解性であると共に、砒素(As)の化合物として、強い毒性を持つことが知られている。
このような有機砒素化合物1としては、ジフェニルアルシン酸(DPAA)が代表的であるが、その関連物質であるモノフェニルアルソン酸(MPAA),フェニルアルソン酸(PAA)、等も考えられる。他に、フェニルメチルアルシン酸(PMAA),アルセノベタイン(AsB),メチルアルソン酸(MAA),ジメチルアルシン酸(DMAA),トルフェニルアルシン(TPA),フェニルメチルアルシン酸(PMAA)、等も考えられる。
【0023】
ところで最近は、ガリウム砒素(GaAs)やインジウム砒素(InAs)が、化合物半導体として、珪素(Si)やゲルマニウム(Ge)等の単体半導体と並んで多用されつつある。すなわち半導体特性は、その電子構造の外殻電子構造に依存するが、ガリウム砒素やインジウム砒素は、その結晶成長過程において、珪素やゲルマニウム等の結晶成長下の外殻電子の構造特性と同様になり、半導体の電子構造が実現される。
そして、ガリウム砒素やインジウム砒素の結晶成長には、気相成長(Vapor Phase Epitaxy)が相対的に容易であり、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)が採用されている。この有機金属気相成長法において、ガリウム(Ga)やインジウム(In)の原料としては、その有機金属であるトリメチルガリウム[(CH−Ga]やトリメチルインジウム[(CH−In]が用いられており、その砒素化の原料としては、アルシン(AsH)が用いられている。
そして、両者を反応させてガリウム砒素やインジウム砒素を生成する過程、そしてそのウェハー製造工程(加工工程,洗浄工程)からは、有機砒素化合物1である3価や5価のメチル化した砒素、すなわちモノメチル砒素[CH−As(OH)、CH−As(=O)(OH)]や、ジメチル砒素[(CH−As(=O)(OH)]が、工業廃水となって多量に排出されることになる。
工業廃水や地下水等には、このような有機砒素化合物1が、含有されているケースが考えられる。本発明は、このような被処理水3に含有された有機溶媒砒素化合物1を、処理対象とする。
【0024】
《処理装置2および処理方法の概要》
本発明の処理装置2および処理方法は、被処理水3に含有された有機砒素化合物1を、改良されたフェントン法の処理プロセスに基づいて、酸化,分解する。
すなわち、本発明の処理装置2および処理方法は、有機砒素化合物1の含有水を被処理水3とする。そして、含有された有機砒素化合物1を、フェントン試薬の過酸化水素(H)と2価の鉄イオン(Fe2+)を用い、フェントン主反応で生成されたOHラジカル(・OH)や、このようなフェントン主反応の付随的,副次的,連鎖的反応にて生成されたOHラジカルにて酸化,分解し、もって無機砒素化合物,水,二酸化炭素等の低分子化合物へと無機化する。
そして、本発明の処理装置2および処理方法は、処理槽4と、処理槽4に付設された被処理水供給手段5,過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8とを、備えている。
以下、これらについて詳細に説明する。
【0025】
《被処理水供給手段5等について》
まず、被処理水供給手段5等について、説明する。被処理水供給手段5は、処理槽4に対し、有機砒素化合物1を含有した被処理水3を、処理対象として供給する。
すなわち図示例では、被処理水供給手段5の原水槽9には、被処理水3が導入されており、この原水槽9そしてpH調整槽10を経由して、処理槽4に被処理水3が供給される。原水槽9に導入される被処理水3は、必要に応じ予め、粉塵汚泥除去,生物処理等の前処理が施されている。pH調整槽10では、付設されたpH調整手段8からpH調整剤が添加される。
このようにpH調整手段8は、被処理水供給手段5の原水槽9から処理槽4に供給される途中の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を所定の弱酸性に調整してから、処理槽4に供給する。すなわち、原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、これをpH5〜pH3程度、代表的にはpH4程度に調整すべく、pH調整剤として硫酸等の酸pH調整剤が用いられる。
このように事前にpH調整しておく理由は、後述するように、過酸化水素と2価の鉄イオンによるOHラジカルの生成反応が、所期の通り効率良く行われるようにする為、等々である。なおpH調整槽10は、例えば、被処理水3の大容量処理,連続処理や、高濃度の有機砒素化合物1処理、等の場合に使用されるが、pH調整槽10を使用せず、原水槽9において代用的,兼用的に、上述したpH調整を実施することも可能である。
被処理水供給手段5等は、このようなっている。
【0026】
《過酸化水素添加手段6について》
次に、処理槽4に付設された過酸化水素添加手段6について、説明する。過酸化水素添加手段6は、処理槽4の被処理水3に対し、その反応当初において、過酸化水素(H)の水溶液を、フェントン試薬として全量添加する。過酸化水素は、OHラジカルの発生源となる。
過酸化水素の1回の反応当たりの添加量は、その被処理水3中に含有された有機砒素化合物1の具体的含有量,具体的濃度次第であるが、その反応理論値を基準として多目に算出された実際必要量(必要モル数)が、反応当初に一度に全量添加される。次回の添加は、処理槽4の被処理水3中から過酸化水素がなくなった時、つまり次の反応時であり、同様にその全量が添加されることになる。
このように、この明細書において全量添加とは、反応に必要な薬剤量を1回に100%全量一括添加すること、を意味する。
このように過酸化水素添加手段6から、過酸化水素が全量添加される。
【0027】
《鉄イオン添加手段7について》
次に、処理槽4に付設された鉄イオン添加手段7について、説明する。鉄イオン添加手段7は、上述により過酸化水素が添加された後の処理槽4の被処理水3に対し、間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン(Fe2+)溶液を、フェントン試薬として分割添加する。
すなわち、液中で2価の鉄イオンを生じる物質、例えば硫酸第一鉄7水和物(FeSO・7HO)が、このような鉄塩として代表的に使用されるが、その他の無水塩や含水塩、例えば塩化鉄(FeCl)やその水和物も使用可能である。そして2価の鉄イオンは、過酸化水素のOHラジカル生成反応の触媒として機能する。
鉄イオンの1回の反応当たりの添加量は、反応理論値を基準として、より多い実際必要量が算出されるが、例えば、過酸化水素の1モルに対し0.5モル程度とされる。
又、この鉄イオンは、複数回に分けて分割添加される。すなわち、1回の反応についての必要量が、全量添加されずに3〜7回程度に分けて、例えば5回に分けて順次添加される。各回毎の添加タイミングは、前回添加したものがなくなった段階で、次回分が添加される。このように、この明細書において分割添加とは、反応に必要な薬剤量を複数回に分けて添加すること、を意味する。
【0028】
2価の鉄イオンを分割添加する理由は、次のa,b,cのとおり。まずa.もしも全量添加すると、後述する化学反応において、過酸化水素を反応物質とする原系から、OHラジカルを生成物質とする生成系へと向かう所期の正反応と同時に、OHラジカルを消費する無駄な反応が起こり易くなる。
つまり、余ったOHラジカルが水に戻る反応が起こり易くなり、ロスが生じ、OHラジカル生成のために使用した鉄イオンが、無駄に消費されることになる。これに対し分割添加すると、このような反応が抑制され、鉄イオンの無駄も解消される。
又b.OHラジカルは、反応が激しいだけに存在時間が瞬間的,超短寿命であり、全量添加より分割添加した方が、その都度OHラジカルが生成されて、処理槽4内の被処理水3の隅々まで行き渡るようになる。もってその分、有機砒素化合物1の酸化,分解が確実化,効率化,迅速化される。
更にc.分割添加すると、全量添加に比し残存する過酸化水素が少なくなるので、その分、中和剤による後処理コストも低減される。
このように鉄イオン添加手段7から、2価の鉄イオン等が分割添加される。
【0029】
《pH調整手段8について》
次に、処理槽4に付設されたpH調整手段8について、説明する。pH調整手段8は、前述したように被処理水供給手段5から処理槽4に供給される前の被処理水3、および処理槽4に供給された後の被処理水3に対し、pH調整剤を添加して、被処理水3を例えばpH4程度の弱酸性に維持する。
すなわちpH調整手段8は、過酸化水素の添加前には、硫酸(HSO)等の酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後は、上述した鉄イオンの添加毎に、カセイソーダ(NaOH)等のアルカリpH調整剤を添加する。
【0030】
被処理水3を、pH3〜pH5程度代表的にはpH4程度に維持する理由は、次のa,b,cのとおり。
まずa.後述するように、所期の反応を阻害する過酸化水素の水と酸素への無駄な分解反応を、抑制すべく機能する。これと共にb.2価の鉄イオンの過酸化水素への電子供与を、促進すべく機能する。更にc.後述する付随的,副次的,連鎖的に繰り返されるOHラジカル生成反応を、促進し確実化すべく機能する。これらa,b,cにより、OHラジカルの生成が、効率良く進行するようになる。
これに対し、まず、被処理水供給手段5の原水槽9からの被処理水3は、例えばpH6以上であることが多いので、前述したようにpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸が添加されて、例えば4程度にpH調整される。
そして事後、処理槽4において、2価の鉄イオンが添加されると、そのままでは被処理水3のpHが例えば2.8程度まで低下し酸性度が過度に上がるので、2価の鉄イオンの分割添加毎にその都度、例えばカセイソーダが添加され、もって例えばpH4程度へと被処理水3がpH調整される。
pH調整手段8は、このようになっている。
【0031】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その1)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その1)について、説明する。この処理装置2や処理方法の処理槽4内では、まず第1に、被処理水3が攪拌,流下されると共に、添加された過酸化水素が、触媒として添加された2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成する。
このようなOHラジカルの生成について、更に詳述する。処理槽4内では、次の化1,化2の反応式(化3の反応式)に基づき、OHラジカルが生成される。これがフェントン主反応である。
【0032】
【化1】

【化2】

【化3】

【0033】
これらについて、更に詳述する。このフェントン主反応では、化1の反応式において、鉄イオン添加手段7から順次分割添加される2価の鉄イオン(Fe2+)は、被処理水3が例えばpH4程度の弱酸性雰囲気に維持されているので容易に、触媒として化2の反応式の過酸化水素(H)に対し、順次電子(e)を供与すると共に、自己は酸化して3価の鉄イオン(Fe3+)となる。
そこで、化2の反応式において、過酸化水素添加手段6から最初に全量添加された過酸化水素は、化1の反応式に基づき電子が順次供与され、もってその都度、OHラジカル(・OH)と水酸化イオン(OH)が生成される。化1と化2の反応式をまとめて合成すると、化3の反応式となる。
ところで、このような反応に際し、前述したように被処理水3が弱酸性雰囲気に維持されているので、過酸化水素が水と酸素に分解され、浪費されてしまうことは抑制される。これに対し、もしも弱酸性雰囲気に維持されないと、次の化4の反応式により、過酸化水素が、発生期の酸素(O)を発生しつつ水分子(HO)になり、所期の化2(化3)の反応式によりOHラジカルを生成することなく、浪費されてしまうことになる。なお、このような発生期の酸素は、その酸化対象がない場合、酸素分子(O)となって系外にでる。
処理槽4内では、まず第1に、このようなフェントン主反応により、OHラジカルが生成される。
【0034】
【化4】

【0035】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その2)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その2)について、説明する。処理槽4では、第2に、次の化5,化6の反応式によっても、OHラジカル(・OH)を生成可能である。
すなわち、処理槽4内では、まず第1に、上述した化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルが生成されるが、これと共に第2に、次の反応式によっても、付随的,副次的,連鎖的にOHラジカルを生成される。
【0036】
【化5】

【化6】

【0037】
これについて、更に詳述する。処理槽4内では、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオン(OH)が、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオン(Fe3+)にて酸化されて、OHラジカル(・OH)を生成する。
すなわち、化1の反応式で生成された3価の鉄イオンは、化2の反応式で生成された水酸化イオンから、化5,化6の反応式により、電子(e)を奪ってOHラジカルを生成させ、自らは2価の鉄イオンに還元されて戻る。
このように、化3(化1,化2)の反応式のみならず、化5,化6の反応式が、連鎖的にバランス良く起こるようにすると、OHラジカルが、より効率的に生成される。
処理槽4内では、第2に、このような反応によって、OHラジカルを生成可能である。
【0038】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その3)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカル生成:その3)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2に加え、更に第3の反応によっても、付随的,副次的,連鎖的に、新たなOHラジカルが生成される。
すなわち、前記化3(化1,化2)や化5,化6の反応式にて生成されたOHラジカルが、被処理水3等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、次の化7,化8の反応式により、連鎖的に繰り返される。
【0039】
【化7】

【化8】

【0040】
これらについて、更に詳述する。まずOHラジカルは、中性〜アルカリ性雰囲気下では、水分子から水素原子を引き抜いてこれを酸化し、酸素分子を発生せしめると共に、自身は還元されて水分子に帰す。
これに対し酸性雰囲気下では、化7の反応式により、OHラジカル(・OH)は、水分子(HO)から電子(e)を引き抜き、自身は水酸化イオン(OH)になるが、この引き抜き反応が、水分子をラジカル分裂させ活性化させて、新たなOHラジカル(・OH)とプロトン(H)を生成させる。生成された水酸化イオンとプロトンは、化8の反応式にて、新たな水(HO)を生成して消滅する。
処理槽4の被処理水3は、弱酸性雰囲気に維持されているので、このようにして、新たなOHラジカルが生成されるが、更にこのように生成されたOHラジカルを基に、再びこのような一連の反応が連鎖的に起き、事後も同様に連鎖的に繰り返される。
つまり、前記化3等の反応式にてOHラジカルが一旦生成されると、これを開始反応,反応開始剤として、事後は連鎖的反応により、半永続的にOHラジカルが得られることになる。有機砒素化合物1の酸化,分解過程において消費された分を除いたOHラジカルが、プロトンの連鎖的な生成・消滅と共存的に、生成・消滅を繰り返す。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような繰り返し生成の意義は大きい。
処理槽4内では、第3に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
【0041】
《処理槽4における反応(OHラジカルの生成:その4)》
次に、処理槽4内における化学反応(OHラジカルの生成:その4)について、説明する。処理槽4では、上述した第1,第2,第3に加え、更に第4に、次の反応によっても付随的,副次的,連続的に、新たにOHラジカルが生成される。
すなわち、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、新たにOHラジカル等を生成する反応が、次の化9,化10の反応式(化11の反応式)により、連鎖的に繰り返される。
【0042】
【化9】

【化10】

【化11】

【0043】
これらについて、更に詳述する。前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオ
ン(Fe3+)が、過酸化水素(H)と化9の反応式により反応し、もって、3価の鉄イオンが2価の鉄イオン(Fe2+)に還元されると共に、酸素分子が電子と結合して生じたイオンであるスーパーオキシドアニオン(・O)が生成される。
そして、化10の反応式により、このラジカルなスーパーオキシドアニオンが、過酸化水素と反応して、OHラジカル(・OH)を生成可能である。化9と化10の反応式をまとめて合成すると、化11の反応式が得られる。
このように、前記化3(化2)の反応式にてOHラジカル生成の源泉となっていた過酸化水素が残ってさえいれば、例え有機砒素化合物1の酸化,分解過程で、OHラジカルが消費され尽くされてしまった場合においても、余剰に過酸化水素が残存してさえいれば、その過酸化水素を基に、新たなOHラジカルが、連鎖的に半永続的に生成され続けられることになる。OHラジカルは超短寿命であることに鑑み、このような生成継続の意義は大きい。
但し、化11(化9,化10)の反応式が確実に起こるためには、過酸化水素が水と溶存酸素に分解(前記化4の反応式を参照)しない程度の弱酸性雰囲気まで、pH調整手段8にてカセイソーダ等を処理槽4の被処理水3に加える等、pH操作が必要であり、そのpH値をアルカリ側に移動させておくことが必要である。
更に、化11(化9)の反応式で生じた2価の鉄イオンは、pHを下げるが、上述により弱酸性雰囲気で安定存在する過酸化水素との共存を図るべく、必要なpH操作を実施しておけば、前記化3等の反応式のフェントン主反応により、OHラジカルの生成も見込める。
処理槽3内では、第4に、このような反応によっても、OHラジカルが生成される。
【0044】
《処理槽4における反応(有機砒素化合物1の酸化,分解)》
次に、OHラジカルによる有機砒素化合物1の酸化,分解,無機化について説明する。処理槽4内では、被処理水3に含有された有機砒素化合物1が、このようにフェントン主反応,その他にて生成されたOHラジカルにて、酸化,分解されて無機化される。
これらについて、更に詳細に説明する。OHラジカルつまりヒドロキシラジカル(・OH)は、周知のごとく強力な酸化力を備えている。つまり、活性酸素種として他に類を見ない極めて強力な電子(e)の奪取力,酸化力,つまり活性力,分解力を有しており、ラジカルで反応性に富んでいるが、反応が激しいだけにその存在時間は、ほんの瞬間的で寿命の短い化学種である。
さてそこで、水相分散したOHラジカルは、被処理水3中に含有された有機砒素化合物1を酸化し、遂には分解してしまう。すなわちOHラジカルは、有機砒素化合物1の有機構造について、例えば、その芳香環の二重結合のπ電子結合,水素原子H,炭素原子C,その他を対象とし、これをOH基で付加や置換する連鎖プロセスを辿り、有機砒素化合物1の炭素連鎖,有機結合,分子結合を順次切断,分解,分断し、もって有機砒素化合物1を、最終的には無機の砒素化合物へと酸化,分解,無機化する。
後で詳述するように、有機砒素化合物1の代表例であるジフェニルアルシン酸(DPAA),ジメチル砒素,モノメチル砒素等は、OHラジカルにて酸化,分解されて無機化し、亜砒酸(HAsO)や砒酸(HAsO)となる。すなわち砒素(As)は、5価4配位のジフェニルアルシン酸や5価4配位のジメチル砒素等から、3価3配位の亜砒酸や5価4配位の砒酸に無機化され、その際付随的に水(HO),二酸化炭素(CO)等の低分子化合物も、分解,生成される。
処理槽4内では、このように有機砒素化合物1が、酸化,分解,無機化される。
【0045】
《後処理槽11について》
次に、後処理槽11について説明する。処理槽4には、後処理槽11が付設されており、後処理槽11では、前述により有機砒素化合物1が無機化された錯体が、フロック化して凝集,沈殿,除去され、もって被処理水3が、浄化されて外部排水される。
このような後処理槽11について、更に詳述する。図示例の後処理槽11は、中和槽12,凝集槽13,貯留槽14,脱水槽15,処理水槽16等を、下流に向け順に備えている。
【0046】
これらについて、更に詳述する。まず、含有された有機砒素化合物1が、前述により酸化,分解,無機化され、もって例えば砒酸(HAsO)等の無機砒素化合物17となった被処理水3が、処理槽4から後処理槽11の中和槽12に排出される。
中和槽12では、このような被処理水3に対し、カセイソーダ等のpH調整剤が添加され、もって無機凝集剤への最適pHへと調整される。なお、被処理水3中に僅かでも過酸化水素が残留している場合には、水質汚濁を回避すべくカタラーゼ等の中和剤が添加される。
次に、凝集槽13では、中和槽12から流入した被処理水3に対し、無機凝集剤として例えばポリ塩化アルミニウム(PAC,Al(OH)Cl6−n)や塩化第二鉄(FeCl)が、添加されて攪拌され、もってコロイド状に錯体化した無機砒素化合物17が、凝集化され沈殿除去可能となる。
なお、被処理水3中にフェントン法にて発生した3価の鉄イオン(Fe3+)の残存量が多い場合は、この鉄イオン(Fe3+)が無機凝集剤として機能するので、例えばPAC等の添加は不用である。
次に被処理水3は、図示例では、このような貯留槽14から脱水槽15へと供給される。脱水槽15では、例えばF/P式脱水機により、沈殿,汚泥化した被処理水3が固液分離され、フロック化,脱水ケーキ化した無機砒素化合物17が、コンテナ18へと分離,貯留された後、汚染物質として加熱処理等される。
そして、このようにして浄化された被処理水3は、処理水槽16を経由し、更に浄化されると共に外部放流に適したpH値に調整された後、外部放流される。
後処理槽11は、このようになっている。
【0047】
《作用等》
本発明の有機砒素化合物1含有水の処理装置2および処理方法は、以上説明したように構成されている。そこで、以下のようになる。
(1)ジフェニルアルシン酸(DPAA),モノメチル砒素,ジメチル砒素,その他の有機砒素化合物1を含有した被処理水3は、処理装置2へと供給される。
処理装置2は、フェントン法の処理プロセスに基づく処理方法により、有機砒素化合物1を酸化,分解して、被処理水3を浄化する。
【0048】
(2)そして、この処理装置2は、被処理水供給手段5の原水槽9,pH調整槽10,処理槽4,後処理槽11等を、順に備えている。
pH調整槽10には、pH調整手段8が付設されている。処理槽4には、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が、付設されており、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等を、添加可能となっている。
【0049】
(3)さてそこで、被処理水3は、被処理水供給手段5の原水槽9から、処理槽4に供給される。
なお被処理水3は、処理槽4に供給される前に、図示例ではpH調整槽10において、pH調整手段8から例えば硫酸等の酸pH調整剤が添加され、もってpH3〜pH5、例えばpH4程度の弱酸性とされる。
【0050】
(4)処理槽4に供給された被処理水3は、まず、過酸化水素添加手段6から過酸化水素の水溶液が、添加される。過酸化水素は、反応当初に全量添加される。
【0051】
(5)処理槽4では、このように過酸化水素が添加された後、被処理水3に対して、鉄イオン添加手段7から2価の鉄イオン溶液が、添加される。2価の鉄イオンは、過酸化水素添加後の反応中において、分割添加により複数回に分けて間欠的に、複数サイクル繰り返して添加される。
そして、このような鉄イオンの分割添加毎に、pH調整手段8から例えばカセイソーダ等のアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水3は常時、例えばpH4程度の弱酸性を維持する。つまり、OHラジカル生成に最適なpHへと調整される。
【0052】
(6)さてそこで、処理槽4内では、次の第1,第2,第3,第4の反応に基づき、OHラジカルが生成される。
第1に、上述により全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて、分割添加の都度還元されて、OHラジカルを生成する。
すなわち、前記化3(化1,化2)の反応式のフェントン主反応により、2価の鉄イオンが、過酸化水素に電子を供与して3価の鉄イオンになり、電子を供与された過酸化水素が、OHラジカルを生成する。なお、このOHラジカルは、2価の鉄イオンが分割添加されるので、OHラジカルそして2価の鉄イオンが浪費される反応が起こる虞もなく、分割添加の都度、無駄なく効率良く生成される。
これに加え、このフェントン主反応によるOHラジカルの生成は、pH4程度の弱酸性雰囲気下に維持されていることによっても、一段と効率良く確実に実施される。すなわち、このような弱酸雰囲気下であることにより、まず、2価の鉄イオンの電子供与が促進されると共に、更に過酸化水素が、前記化4の反応式により水と酸素に分解,浪費される反応が抑制,回避され、能力いっぱいのOHラジカルを、効率良く生成するようになる。
【0053】
(7)第2に、OHラジカルは、処理槽4内で2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、酸化されることによっても生成可能である。
すなわちOHラジカルは、前記化3(化1,化2)の反応式で生成された3価の鉄イオンと水酸化イオンとに基づき、前記化5,化6の反応式によっても、生成される。この面からも、OHラジカルが効率良く生成される。なお、このOHラジカルの生成も、鉄イオンの分割添加の都度、連鎖的にそれぞれ生成される。
【0054】
(8)更にOHラジカルは、上述した第1,第2に加え、次の第3,第4によっても、一段と効率良く生成される。つまりOHラジカルは、上記(6)のフェントン主反応以外でも、その付随的,副次的,連鎖的反応によって、効率良く生成され続ける。
第3に、前記化3等により生成されたOHラジカルが、前記化7,化8の反応式により、被処理水3等の水と反応することにより、新たなOHラジカルが、連鎖的に繰り返し生成される。このような一連のOHラジカル生成反応が、繰り返される。
第4に、前記化3(化1)の反応式で生成された3価の鉄イオンと、過酸化水素とが、前記化11(化9,化10)の反応式により反応することによっても、新たなOHラジカルが、連鎖的に繰り返し生成される。このような一連のOHラジカル生成反応が、繰り返される。
なお、これら第1,第2,第3,第4のOHラジカルの生成は、処理槽4内でフェントン試薬の過酸化水素が、使い尽くされてなくなった時に、終了する。
【0055】
(9)さて、OHラジカルは、このように効率良く生成されると共に、極めて強力な酸化力を備えている。
そこで処理槽4では、被処理水3中に含有された有機砒素化合物1が、このOHラジカルにて酸化,分解され、もって、亜砒酸や砒酸等の無機砒素化合物17,水,二酸化炭素等の低分子化合物へと、無機化されてしまう。
【0056】
(10)被処理水3は、含有されていた有機砒素化合物1が、このようにして、無機砒素化合物17等に無機化され、もって処理槽4から後処理槽11へと排出される。図示の後処理槽11は、中和槽12,凝集槽13,貯留槽14,脱水槽15,処理水槽16等を備えている。
なお過酸化水素は、前述によりOHラジカル生成に無駄なく有効使用されるので、処理後の残存量は僅かであり、中和槽12における中和剤の使用も、極く僅か又は皆無となる(例えば、残存過酸化物イオン濃度は、使用過酸化水素の0〜3%以下程度となる)。
そして被処理水3は、後処理槽11を経由することにより、無機砒素化合物17の錯体が、フロック化して凝集,沈殿,除去される。もって、排水可能な状態に調整され浄化されて、外部排水される。
【0057】
(11)この処理装置2および処理方法では、上述したように、フェントン法の処理プロセス等に基づき、被処理水3に含有された有害な有機化合物である有機砒素化合物1を、無機化するが、これは簡単容易に実現される。
すなわち、過酸化水素,2価の鉄イオン,pH調整剤等のフェントン試薬等の薬品添加量は、反応理論値から実際必要量が容易に算出される。反応理論値と同量か多目の例えば数倍程度が、実際必要量として添加され、もって添加量の最適化が実現される。
又、この処理装置2は、処理槽4を中心に、原水槽9や後処理槽11が配設されると共に、過酸化水素添加手段6,鉄イオン添加手段7,pH調整手段8等が付設された構成よりなる。つまり、この処理方法では、比較的簡単な構成の処理装置2が用いられており、安定的な処理が可能である。
本発明の作用等は、このようになっている。
【0058】
《ジフェニルアルシン酸(DPAA)の酸化,分解過程について》
ここで、本発明の処理装置2および処理方法に関し、その1例であるジフェニルアルシン酸(DPAA)の酸化,分解過程の詳細について、説明しておく。すなわち、処理槽4内における反応(有機砒素化合物1の酸化,分解)と題して前述した所について、その1例を理論的に検証しておく。
被処理水3中に含有された有機砒素化合物1であるジフェニルアルシン酸[DPAA,C−As(OH)O−C]は、その分解過程の不安定な中間体の有機構造を含め、以下に述べる化12〜化23の連鎖プロセスを辿り、順次OHラジカル(・OH)にて酸化される。そして、砒酸(HAsO),水(HO),二酸化炭素(CO)等へと、分解,無機化される。
これらについて、更に詳述する。まず、OHラジカルによる酸化,分解反応が、次の化12〜15の各反応式の連鎖プロセスを辿って、順次進行する。
【0059】
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0060】
この化12〜化15の反応式については、次のとおり。出発物質であるジフェニルアルシン酸は、まず化12の反応式にて、その芳香環(−C)のH基がOHラジカルにて酸化される。それから次に、化13の反応式にて、そのOH基がOHラジカルにて酸化されると共に、それぞれ水が生成される。
それから、化14の反応式へと進み、OHラジカルにてベンゼン環が開環される。そして、生成されたカルボン酸が、化15の反応式にて、OHラジカルにより水と二酸化炭素に酸化,分解されてしまう。
さて、このような化12〜15の反応式の連鎖プロセスの後は、次に、化16〜化19の反応式の連鎖プロセスを辿ることになる。
【0061】
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【0062】
この化16〜化19の反応式については、次のとおり。化14の反応式で残った砒素を含む残基は、化16の反応式において、OH基の水素原子がOHラジカルに奪われて、水が生成される。それから化17の反応式へと進み、OHラジカルにて、そのC−C結合が切断される。
そして、化17の反応式にて生成された砒素を含む残基部分は、化18の反応式にて、OH基の水素原子がOHラジカルに奪われ、CとOが二重結合化しCの結合電子が移動するため、Cが−As(OH)O−から遊離し、もって二酸化炭素と水が生成される。なお、[−As(=O)(OH)]には、不対電子が残る。
しかる後、化19の反応式にて、無機部の[−As(=O)(OH)]に2モルのOHが付加され、砒酸[化学式HAsO,構造式As(OH)O]が生成される。
さて、このような化12〜化18の反応式の連鎖プロセスを辿って、ジフェニルアルシン酸の両端の芳香環が、酸化,分解され、化19の反応式にて無機の砒酸が生成される。
なお、化17の反応式において、2OH−CH=CH−OHの部分は、次の化20〜22の反応式を辿り、又、2OH−CHOの部分は、化23の反応式にて、それぞれOHラジカルにて、水と二酸化炭素とに酸化,分解されてしまう。
【0063】
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【0064】
結論として、有機砒素化合物1であるジフェニルアルシン酸は、このような化12〜化23の反応式の連鎖プロセスを辿ることにより、理論上すべて、酸化,分解,無機化されてしまう。
ところで、以上説明したところを総括すると(つまり各反応式を合算すると)、次の化24の総括反応式が得られる。
【0065】
【化24】

【0066】
すなわち、化24の総括反応式では、1モルのジフェニルアルシン酸は、理論上、60モルのOHラジカルにより、34モルの水と、12モルの二酸化炭素と、1モルの砒酸とに無機化される。
なおOHラジカルは、この例では、反応理論値として60モルを予め準備すれば良いが、実際必要量としては、例えばその数倍程度と多目に準備される。勿論、OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
ジフェニルアルシン酸の酸化,分解過程の詳細は、以上説明したようになっている。
【0067】
《ジメチル砒素の酸化分解過程について》
次に、本発明の処理装置2および処理方法に関し、その1例であるジメチル砒素の酸化,分解過程の詳細について、説明しておく。
すなわち、処理槽4内における反応(有機砒素化合物1の酸化,分解)と題して前述した所について、その1例を理論的に検証しておく。
被処理水3中のメチル化した有機砒素化合物1であるジメチル砒素[(CH−As(=0)(OH)]は、その分解過程の不安定な中間体の有機構造を含め、以下に述べる化25〜化28の連鎖プロセスを辿り、順次OHラジカル(・OH)にて酸化,分解される。そして、砒酸(HAsO),水(HO),二酸化炭素(CO)等へと、無機化される。
【0068】
【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【0069】
この化25〜化28の反応式について、詳述する。出発物質であるジメチル砒素は、まず化25の反応式において、そのメチル基[(CH−]が、OHラジカルにて酸化されると共に、水が生成される。
次に、化26の反応式において、OHラジカルは、アルコール化したメチル基(OH−CH−)について、アルコール(OH)の水素原子(H)を酸化し、その酸素原子(O)を炭素原子と二重結合化する。
そしてOHラジカルは、これに伴う結合電子移動で砒素原子(As)との結合を切り、ホルムアルデヒド(H−CHO)を生成すると共に、自身は水になる。それから、化27の反応式へと進み、ホルムアルデヒドは、OHラジカルによる酸化により、蟻酸(H−COOH)を経て、二酸化炭素と水に帰す。
これと共に、化26の反応式における砒素を含む残基は、化28の化学式へと進み、左右のメチル基が抜けた後の5価の砒素原子の左右には不対電子が残り、これに2モルのOHラジカルが結合する。そして、結合したOH基も、電離しオキソ酸化して、無機の砒酸[化学式HAsO,構造式As(OH)O]が生成される。
結論として、有機砒素化合物1であるジメチル砒素は、このような化25〜化28の反応式の連鎖プロセスを辿ることにより、理論上すべて酸化,分解,無機化されてしまう。
ところで、以上説明したところを総括すると(つまり各反応式を合算すると)、次の化29の総括反応式が得られる。
【0070】
【化29】

【0071】
すなわち、化29の総括反応式では、1モルのジメチル砒素は、理論上、18モルのOHラジカルにより、12モルの水と、2モルの二酸化炭素と、1モルの砒酸とに無機化される。
なおOHラジカルは、この例では、反応理論値として18モルを予め準備すれば良いが、実際必要量としては、例えばその数倍程度と多目に準備される。勿論、OHラジカルの生成物質である過酸化水素や2価の鉄イオン等についても、同様である。
ジメチル砒素の酸化,分解過程の詳細は、以上説明したようになっている。
【実施例1】
【0072】
ここで、本発明の処理装置2および処理方法の実施例について、述べておく。
まず実施例1では、常温下で、処理槽4に被処理水3をサンプル原水として供給した後、各薬品を所定順序で添加して、フェントン処理した。テスト条件は次のとおり。
・被処理水3の量 (L) : 5
・硫酸(HSO) (mL/L): 0.13
・過酸化水素(H) (mL/L): 0.09
・硫酸第一鉄(FeSO・7HO) (g/L): 0.29
・カセイソーダ(NaOH) (mL/L) : 0.50
・ポリ塩化アルミニウム(PAC) (g/L) : 0.6
なお、1μgを定量下限値とした。又、硫酸やカセイソーダはpH調整の為に添加し、ポリ塩化アルミニウムは凝集剤として添加した。過酸化水素と硫酸第一鉄は、理論値(例えば、前記化3の反応式を参照)通りの添加量で添加した。
【0073】
このようなテスト条件のもとで、被処理水3中に含有される砒素の化合物について、それぞれの砒素含有量を、フェントン処理前とフェントン処理後にそれぞれ計測した結果、次の表1のデータが得られた。
これにより砒素は、有機砒素化合物1である有機5価のジフェニルアルシン酸(DPAA)から、無機3価の亜砒酸(HAsO)や無機5価の砒酸(HAsO)に、酸化,分解,無機化された後、その大部分が、凝集剤(PAC)にて沈殿,除去されてしまい、被処理水3中には殆ど存在しなくなったことが、データ的に確認された。有機砒素化合物1の残存目標値は10μg/L以下であるが、これを十分クリアーできた。
【0074】
【表1】

【実施例2】
【0075】
実施例2では、常温下で、処理槽4に被処理水3をサンプル原水として供給した後、各薬品を所定順序で添加して、フェントン処理した。テスト条件は次のとおり。
・被処理水3の量 (L) : 1
・硫酸(HSO) (mL/L): 0.135
・過酸化水素(H) (mL/L): 0.90
・硫酸第一鉄(FeSO・7HO) (g/L): 1.92
・カセイソーダ(NaOH) (mL/L) : 適量
なお、1μgを定量下限値とした。又、硫酸やカセイソーダはpH調整の為に添加したが、前述した実施例1とは異なり凝集剤添加は無し。過酸化水素と硫酸第一鉄は、理論値(例えば、前記化3の反応式を参照)通りの添加量で添加した。
【0076】
このようなテスト条件のもとで、被処理水3中に含有される砒素の化合物について、それぞれの砒素含有量を、フェントン処理前とフェントン処理後にそれぞれ計測した結果、次の表2のデータが得られた。
これにより砒素は、有機砒素化合物1である有機5価のジフェニルアルシン酸(DPAA)から、無機3価の砒素である亜砒酸(HAsO)や無機5価の砒酸(HAsO)に、酸化,分解,無機化されたことが、データ的に確認された。有機砒素化合物1の残存目標値は10μg/Lであるが、これを十分クリアーできた。
【0077】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る有機砒素化合物含有水の処理装置および処理方法について、発明を実施するための最良の形態の説明に供し、その1例の構成フロー図である。
【符号の説明】
【0079】
1 有機砒素化合物
2 処理装置
3 被処理水
4 処理槽
5 被処理水供給手段
6 過酸化水素添加手段
7 鉄イオン添加手段
8 pH調整手段
9 原水槽
10 pH調整槽
11 後処理槽
12 中和槽
13 凝集槽
14 貯留槽
15 脱水槽
16 処理水槽
17 無機砒素化合物
18 コンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含有された有機砒素化合物を、フェントン法に基づき酸化,分解する処理装置であって、処理槽と、該処理槽に付設された被処理水供給手段,過酸化水素添加手段,鉄イオン添加手段,pH調整手段とを、備えており、
該被処理水供給手段は、該処理槽に有機砒素化合物を含有した被処理水を供給し、該過酸化水素添加手段は、該処理槽の被処理水に過酸化水素を添加し、該鉄イオン添加手段は、該処理槽の被処理水に2価の鉄イオンを添加し、
該pH調整手段は、該被処理水供給手段から該処理槽に供給される被処理水、および該処理槽に供給された被処理水にpH調整剤を添加して、被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載した有機砒素化合物含有水の処理装置において、該過酸化水素添加手段は、反応当初に過酸化水素の水溶液を全量添加し、該鉄イオン添加手段は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して、2価の鉄イオン溶液を分割添加し、
該pH調整手段は、過酸化水素の添加前には酸pH調整剤を添加し、過酸化水素の添加後においては鉄イオン溶液の添加毎に、アルカリpH調整剤を添加すること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載した有機砒素化合物含有水の処理装置において、該鉄イオン添加手段は、硫酸第一鉄の水溶液を添加し、該pH調整手段は、例えば硫酸又はカセイソーダを添加し、もって該処理槽内の被処理水をpH4程度に維持して、添加される過酸化水素の水と酸素への分解反応を抑制すること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載した有機砒素化合物含有水の処理装置において、該処理槽内では、全量添加された過酸化水素が、分割添加される2価の鉄イオンにて還元されて、OHラジカルを生成すると共に、
被処理水に含有されたジフェニルアルシン酸,モノフェニルアルソン酸,フェニルアルソン酸,モノメチル砒素,又はジメチル砒素等の有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解され無機化されること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理装置。
【請求項5】
被処理水に含有された有機砒素化合物を、フェントン法の処理プロセスに基づき酸化,分解する処理方法であって、有機砒素化合物を含有した被処理水に対し、過酸化水素と2価の鉄イオン溶液とpH調整剤とが添加されると共に、
過酸化水素は、反応当初に全量添加され、2価の鉄イオン溶液は、過酸化水素の添加後に間欠的に複数サイクル繰り返して分割添加され、
pH調整剤は、過酸化水素の添加前は酸pH調整剤が添加され、過酸化水素の添加後は2価の鉄イオン溶液の分割添加毎にアルカリpH調整剤が添加され、もって被処理水を所定の弱酸性に維持すること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載した有機砒素化合物含有水の処理方法において、全量添加された過酸化水素が、触媒として分割添加される2価の鉄イオンにて分割添加の都度還元されて、OHラジカルが生成され、
もって、被処理水に含有された有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載した有機砒素化合物含有水の処理方法において、更に、過酸化水素の還元反応にて生成された水酸化イオンが、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成された3価の鉄イオンにて酸化されて、OHラジカルが生成され、
もって、被処理水に含有された有機砒素化合物が、このOHラジカルにて酸化,分解されて、低分子化合物に無機化されること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載した有機砒素化合物含有水の処理方法において、生成されたOHラジカルが、更に被処理水等の水と反応して、新たなOHラジカルと水とを生成する反応が、連鎖的に繰り返され、
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、有機砒素化合物が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載した有機砒素化合物含有水の処理方法において、2価の鉄イオンの酸化反応にて生成される3価の鉄イオンと、過酸化水素とが反応して、少なくとも新たなOHラジカルを生成する反応が、連鎖的に繰り返され、
もって、このように繰り返し新たに生成されるOHラジカルにて、有機砒素化合物が酸化,分解されて低分子化合物に無機化されること、を特徴とする有機砒素化合物含有水の処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−290064(P2008−290064A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324285(P2007−324285)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(500561931)三井造船プラントエンジニアリング株式会社 (41)
【出願人】(507141066)株式会社ニクス (10)
【Fターム(参考)】