有機系光学薄膜の製造法とその装置
【構成】 溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理する。また、必要に応じてさらに加圧処理する。
【効果】 より低温度において、光学材料の熱分解をもたらすことなく微細構造制御された高品質、高機能な有機系光学薄膜が形成される。
【効果】 より低温度において、光学材料の熱分解をもたらすことなく微細構造制御された高品質、高機能な有機系光学薄膜が形成される。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、有機系光学薄膜の製造方法とその装置に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、波長選択透過膜、反射膜、光非線形効果膜、光電変換装置等の光技術、オプトエレクトロニクス技術に有用な、高機能性の光学薄膜として、有機系光学薄膜を高品質、高効率で製造することのできる新しい製造方法とそのための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、各種の組成からなる光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用したものが古くから知られている。そして特に近年は、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスの分野において、用途面では光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、現象面では光非線形効果ないし光電気効果の応用のため、従来とは異なる高い機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材、その組成として注目されているものに有機系光学材料がある。この有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜の製造方法についても各種の検討がこれまでにも進められており、たとえば以下のような方法が知られてもいる。
(1)溶液、分散液、または、展開液を用いる湿式法塗布法、プレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法、電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298)などの電気化学的手法、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・プロジェット法など。
(2)原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法モノマーが液体の場合、キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、光重合法など。
(3)気体分子を用いる方法(加熱による気化法)
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、光重合法など。
(4)溶融あるいは軟化を利用する方法ホットプレス法(特開平4−99609)、射出成形法、延伸法、溶融薄膜の単結晶化方法など。
【0004】しかしながら、これらの従来の製造方法の場合には、対象とされる光学薄膜の組成、構造は比較的単純なものに限られており、より高度な微細構造の制御を可能とし、より高機能な有機系光学薄膜を製造するのには適していないのが実情であった。たとえば、従来の方法においては、有機イオン結晶等の融点が存在しない材料の場合には、加熱により分解してしまい、また融点が存在しても気化温度において分解してしまうため、これらの現象を制御することや、この制御により高機能な有機系光学薄膜を実現することは困難であった。
【0005】そこで、この発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、光学材料の熱分解をもたらすことなく、より低温度において、しかもより高機能な有機系光学薄膜を製造することができ、微細構造制御を可能とするための新しい有機系光学薄膜の製造方法とそのための装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題を解決するために、溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法を提供する。また、この発明は、加熱処理後に、必要に応じて加圧成形することを特徴とする製造法をも提供する。
【0007】さらに、この発明は、上記方法を実現するための装置として、真空容器とこの真空容器内に溶液または分散液状態の有機系光学材料を噴霧する手段と、真空容器内において噴霧された有機系光学材料を堆積させる基板とその加熱手段、および真空容器の排気手段とを備えた装置であって、有機系光学材料の噴霧手段は、噴霧ノズル部とその開閉機構部とを有することを特徴とする有機系光学薄膜の製造装置をも提供する。
【0008】さらに以下詳しく説明すると、まず、この発明の方法において対象とする有機系光学薄膜の製造には、それ自体が単独で、もしくは混合して、あるいは複合化されて光学機能を実現する有機系光学材料が使用される。この材料には、揮発性を有する溶媒に溶解し、あるいは分散媒に分散できるものであれば任意の種類のものが用いられる。その際には、無機粒子と混合した状態、複数種のものを混合した材料等として適宜に使用することができる。
【0009】具体的には有機高分子材料の溶液や無機微粒子を有機高分子材料の溶液に分散した液、有機低分子化合物および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液、有機化合物の微粒子を有機高分子材料の溶液に分散した液、液晶および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液等を適宜に使用することができる。以下、さらに具体的に例示してみる。
[有機高分子材料]有機高分子化合物のうち、いわゆる「光学的性質や機能」を有するものは、この発明の光学薄膜の製造のための原材料として利用することができる。また、有機高分子化合物は、光機能性の有機低分子化合物の分子または凝集体、および無機化合物の微粒子を分散し保持する材料、すなわち「マトリクス材料」としてもこの発明において利用することができる。
【0010】このような有機高分子材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネイト)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロール、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマンおよびこれらの共重合・共重縮合体、および、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサン、トリメチルクロロシランなどの、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを挙げることができる。
【0011】また、これらの有機高分子化合物は有機色素や光非線形効果を示す有機低分子化合物の残基をモノマー単位の側鎖として、あるいは架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として含有していてもよい。しかも、これらの有機高分子化合物は複数種混合して用いてもよく、「ミクロ相分離」する組合せにおいて使用してもよい。
[無機微粒子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料として使用できる無機微粒子の具体例としては、セレン、テルル、ゲルマニウム、珪素、シリコンカーバイド、Cd−Zn−Mn−Se−Te−S−OxやGa−In−Al−As−Pなどの半導体微粒子や金コロイドなどの貴金属超微粒子を挙げることができる。
[有機低分子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料に用いられる有機低分子化合物の具体例としては、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロ−アニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N′−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)−プロリノールなどのピリジン誘導体、2′,4′,4′−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などの2次非線形光学活性物質の他、各種の有機色素、有機顔料などを挙げることができる。
【0012】前述のように、これら有機低分子化合物の残基と有機高分子化合物は化学結合を形成していても良い。
[液晶]さらにまた、上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料に用いられる液晶の具体例としては、種々のコレステロール誘導体、4′−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4′−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4′−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4′−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4′−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4′−アルコキシベンジリデンアニリン類、4′−シアノベンジリデン−4−n−ブチトキシアニリン、4′−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4′−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4′−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニルn−アミルカーボネート、n−ヘプチル4−(4′−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなどの炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸4′−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸4′−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸4′−ヘキシルルオキシフェニルなどの4−アルキルル安息香酸4′−アルコキシフェニルエステル類、4,4′−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4′−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4′−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4′−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4′−アキルルルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸4′,4″−オクチルオキシビフェニル、4′−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸4−ヘキシルオキシフェニル、4′−オクチルビフェニル−4−カルボン酸4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を挙げることができる。
【0013】たとえば以上の通り例示することのできる有機高分子材料や有機低分子化合物、無機粒子、さらには液晶物質は、この発明においては適宜な溶媒に溶解するか、あるいは分散媒に分散させて高真空容器内に噴霧する。この際の溶媒もしくは分散媒についても各種のものを使用することができるが、上記のような有機系光学材料を溶解または分散する溶剤であって、揮発性を有し、腐食性のないものであれば、任意のものが使用できる。
【0014】具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、カルビトールなどのエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、α−クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの尿素誘導体類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ピリジン、キノリンなどの含窒素複素環化合物類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノアルコール、アニリンなどのアミン類、などの他、水、ニトロメタン、二硫化炭素、スルホランなどの溶剤を用いることができる。
【0015】これらの溶剤は、また、複数の種類のものを混合して用いてもよい。これらの溶媒もしくは分散媒に溶解または分散させた状態で有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して薄膜形成することをこの発明は特徴としているが、この方法の実施に際しては、たとえば以下の通りの装置とその操作法の採用によって薄膜形成を可能とすることができる。
【0016】すなわち、まず、この発明の光学薄膜の製造装置の構成は、図1に例示することができ、有機系光学材料の溶液または分散液をたとえば圧力1×10-4Pa以下の真空中へ噴霧するための制御ノズル部(1)および制御ノズル部の開閉機構部(2)を真空容器(3)内に有し、さらにこの真空容器(3)内で揮発した溶媒等の蒸気を迅速に排気し、圧力を1×10-4Pa以下に保つ真空ポンプ(4)を備えている。また、この装置には、前記真空容器(3)内に設置した圧力測定装置(5)、真空容器(3)内で揮発した溶媒等の蒸気が真空ポンプ(4)へ到ることを防止するためのコールドトラップ(6)、ノズル部(1)と基板の間を遮蔽するシャッター(7)、基板加熱装置(8)、および基板温度測定装置(9)をも備え、真空容器(3)内の基板(19)表面に有機系光学薄膜を形成することができるようにしている。
【0017】この装置には、必要に応じて、真空容器(3)のベーキング装置(10)、ゲート弁(11)、イオン化装置(12)、質量分析装置(13)、基板導入装置(14)、マニュピュレーター(15)およこれらの制御装置を設けることが好ましい。真空ポンプは、真空容器(4)を大気圧から高真空、より好ましくは、1×10-4Pa以下の圧力へできる限り迅速に排気し、かつ真空容器内で揮発し、コールドトラップに捕獲されきれなかった溶媒等の気体成分を迅速に排気し、真空容器内の圧力を1×10-4Pa以下に保つことができるものであれば、任意のものが使用可能である。具体的にはターボ分子ポンプとロータリーポンプの組合せや、油拡散ポンプとロータリーポンプの組合せを使用することができる。
【0018】また、図1に例示したように真空容器(3)に備えたイオン化装置(12)および質量分析装置(13)、および基板導入装置(14)部には別系統の真空ポンプ(16)(17)を設けることが好ましい。なお、圧力測定装置(5)については、一般的には1×10-2Pa以下の圧力を正確に測定できるものであれば公知の任意のものを使用することができる。たとえば具体的には、Bayard−Alpert型などの電離真空計を使用できる。
【0019】真空容器(3)については、装置構成部品を、真空計の容積が最小になるように配置する形態のものが好ましい。材質は高真空仕様のアルミニウムまたはステンレスが好ましい。基板加熱装置(8)はヒーター部分を真空系内に置く形式と、真空系外から加熱する方式のいずれでも良く、基板(19)の形態に応じて、任意のものが使用可能である。
【0020】なお、この基板加熱装置(8)は基板温度を所定の値に制御する機構を含むものとする。基板温度測定装置(9)は基板(19)の温度を測定するものであり、熱電対など測温部を高真空下に置いても作動するものであれば任意のものが使用できる。
【0021】ベーキング装置(10)は真空系を構成する部品全てを加熱処理できるものが好ましい。コールドトラップ(6)は高真空容器内で揮発した溶媒等の蒸気を確実に捕捉し、かつ排気の妨げにならないものであれば、任意の方式のものが使用できる。イオン化装置(12)および質量分析装置(13)は必ずしも必要ではないが、基板(19)上の堆積物から発生する揮発成分が完全に除去されたことを確認する上で有用である。
【0022】ゲート弁(11)はイオン化装置(12)および質量分析装置(13)と真空容器(3)の間を適時遮蔽するものであり、必ずしも設ける必要はないが、真空系内に噴霧された成分および溶剤などが飛来して質量分析装置(13)を汚染することを防ぐ上で有用である。ゲート弁(11)を設ける場合は真空容器(3)および質量分析装置(13)部分に別系統の真空排気系(16)を接続することが好ましい。
【0023】イオン化装置(12)は該真空系内に存在する揮発成分をイオン化する形式のものであれば公知の各種のものが使用可能である。具体的にはガス放電式、アーク放電式、電子衝撃式などのイオン化装置を使用することができる。質量分析装置(13)はイオン化装置(12)で発生させたイオンの質量mをそのイオンの電荷eで除した数m/eに応じて質量を分離する部分(質量分離系)と、m/eに応じて分離されたイオンの数を電気的に計数する部分(検出・記録系)からなるものであれば、公知の各種のものが使用できる。
【0024】質量分離系は磁界および/あるいは電界を制御してm/eに応じてイオンを分離するものであり、パラボラ型、速度収束型、方向収束型、二重収束型、および飛行時間型などの形式のいずれでもよい。検出・記録系としてはファラデー箱と高感度直流増幅器の組合せ、二次電子増倍装置と高感度直流増幅器の組合せなどの方式のものを使用することができる。
【0025】基板導入装置(14)は、必ずしも設ける必要はないが、高真空容器(13)内へ基板(19)を設置する際の排気時間を短縮する上で有効である。基板導入装置(14)は真空容器、外部から試料を導入するための蓋またはゲート弁、磁気カップリング式またはベローズ式の直線導入機、測定装置の真空容器との間のゲート弁、真空ポンプ、および圧力測定装置から構成することができる。
【0026】マニュピュレーター(15)は、必ずしも設ける必要はないが、ノズル部(1)に対する基板(19)の位置や向きを微調整する際に有用である。材料の溶液、分散液、または溶融液を真空容器内へ噴霧するための制御ノズル部(1)はこの発明の光学薄膜の製造装置の中で、特に重要な部分である。そして、制御ノズル部から噴霧させる液体が制御ノズル部分で固化してノズルを閉塞させることを避け、噴霧量を制御することもできるノズル開閉機構を備える必要がある。
【0027】閉塞を解消する機構としては、真空系外から操作するワイパーを使用することができるが、操作性および効果の点で難点がある。この発明の発明者は制御ノズルの一例として、図2に断面図を例示したように、高加工精度のニードルバルブを利用することができることを見出した。すなわち、制御ノズル部(1)には、ニードルバルブ(100)を設け、ノズル部の開閉機構部(2)によってこのニードルバルブ(100)を動かし、制御ノズル部(1)からの有機系光学材料液の噴霧量を調整し、その閉塞を防止する。
【0028】有機系光学材料の液は、液体溜め(18)より制御ノズル部(1)に供給する。たとえば以上の装置においては、前記の制御ノズル部(1)より有機系光学材料を溶液または分散液の状態で高真空容器(3)内において噴霧し、溶媒または分散媒体を真空蒸発させながら、基板(19)上に有機系光学材料による薄膜を堆積させる。
【0029】そして、この発明においては、この基板(19)を堆積物の熱分解温度を越えない温度まで加熱して揮発成分を除去し、さらに必要に応じて基板上の堆積物を加熱および/あるいは加圧して所要のものに成形する。もちろん基板(19)の種類に特に限定はなく、ガラス、石英をはじめ、セラミックス、Si、ポリマー等の任意のものであってよい。そしてこの基板(19)上の堆積物の加熱処理は、基板(19)の加熱として行うこともできるし、あるいは、図1に示した基板の表面加熱装置(20)によって堆積物を加熱してもよい。この表面加熱装置(20)としては、電熱ヒーターや、その他適宜な手段が採用できる。
【0030】また、さらに成形のための加圧については、熱間圧延処理(たとえば特開平4−99609号)として公知の手段を採用してもよい。いずれにしてもこの発明の製造方法とそのための装置によって、より低温度で、光学材料を熱分解させることなく、高品質で、高機能な有機系光学薄膜の形成が容易となる。そして、この発明によって、1種または2種類以上の有機系高分子化合物や低分子化合物およびそれらと無機化合物の混合状態でマイクロメートル未満の微細領域で制御された有機系光学薄膜の形成が可能となる。
【0031】また、特に、数百MW/cm2 ないし数百GW/cm2 の高パワー密度レーザー光に耐える有機系光学薄膜の作成も可能となる。以下実施例を示し、さらに詳しくこの発明の方法について説明する。
【0032】
【実施例】図1および図2にその構成を例示した装置を用いて光学薄膜を製造した。すなわち、真空容器(3)内を真空排気装置(4)、たとえばターボ分子ポンプ及び油回転ポンプにより真空排気後、容器(3)内の圧力を圧力測定装置(5)により測定し、1×10-4Pa以下の圧力であることを確認する。
【0033】有機系光学材料としての3,3′−Diethyloxadicarbocyanine Iodide (DODCI)を適当な溶媒、たとえば、アセトンに10-2モル/リットルの濃度で溶解し、液溜め(18)に充填した後、制御ノズル部(1)より毎分100マイクロリットルの割合で、真空容器(3)内に噴霧する。この時、有機系光学薄膜の堆積を行う基板(19)は、基板加熱装置(8)および基板温度測定装置(9)により、たとえば40℃に加熱する。
【0034】膜厚制御は噴霧時間により行うこととし、たとえば10分間の噴霧により0.5ミクロンのDODCI膜を形成する。基板(19)表面より除去された溶媒等の揮発成分は、真空容器(3)内に設置されたコールドトラップ(6)に捕獲され、真空ポンプ(4)へ到ることを防止する。
【0035】また、たとえば1ミクロン以上の膜厚を有する薄膜を堆積する際には、赤外線等による表面加熱装置(20)によって基板加熱を行い、基板表面に到達した揮発成分の除去を速やかに行う。堆積されたDODCI薄膜のDODCIの粒子径を、たとえばX線小角散乱法により測定すると、約50ナノメートルであった。
【0036】一方、前記のDODCIをポリマー中、たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA)中に分散させる場合には、DODCI及びPMMAの双方を溶解する適当な溶媒、たとえばアセトンにDODCIを10-3モル/リットルの濃度で、PMMAを10-2モル/リットルの濃度でそれぞれ溶解して溶解溜め(18)に充填した後、制御ノズル部(1)より毎分100マイクロリットルの割合で、真空容器(3)内に噴霧する。
【0037】この時の基板温度等の条件は上記と同様に設定する。堆積されたDODCIを含有するPMMA薄膜(DODCI/PMMA)は、ホットプレス法により真空中にて加熱・加圧処理し、光学的に透明な薄膜を得た。この場合、たとえば、150℃の温度で、50kg/cm2 の静水圧プレスにより、10分間保持する。
【0038】このDODCI/PMMA薄膜内のDODCIの粒子径を、たとえばX線小角散乱法により測定すると、約30ナノメートルであった。表1は、以上得られた薄膜のX線小角散乱法によって測定された結晶粒径とその割合(重合比)の測定結果を示したものである。微細構造組織が実現されていることがわかる。
【0039】
【表1】
【0040】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明によって、有機系光材料の分解・変性温度よりもはるかに低い温度において薄膜形成が可能となる。そして、この発明の光学薄膜の方法に使用される有機系光学材料は、加熱および/あるいは加圧により成形することが可能なものであれば、最適な溶媒の選択により任意のものを使用することができ、この発明は、有機系光学材料を開発、改良する上で極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の装置構成を例示した構成図である。
【図2】制御ノズル部を例示した構成断面図である。
【符号の説明】
1 制御ノズル部
2 開閉機構部
3 真空容器
4 真空ポンプ
5 圧力測定装置
6 コールドトラップ
7 シャッター
8 基板加熱装置
9 基板温度測定装置
10 ベーキング装置
11 ゲート弁
12 イオン化装置
13 質量分析装置
14 基板導入装置
15 マニュピュレーター
16 真空ポンプ
17 真空ポンプ
18 液溜め
19 基板
20 表面加熱装置
100 ニードルバルブ
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、有機系光学薄膜の製造方法とその装置に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、波長選択透過膜、反射膜、光非線形効果膜、光電変換装置等の光技術、オプトエレクトロニクス技術に有用な、高機能性の光学薄膜として、有機系光学薄膜を高品質、高効率で製造することのできる新しい製造方法とそのための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】従来より、各種の組成からなる光学薄膜が様々な応用分野において使用されており、光の吸収あるいは干渉を利用した波長選択透過や反射機能を利用したものが古くから知られている。そして特に近年は、レーザー光を利用したオプトエレクトロニクスの分野において、用途面では光の多重性を利用した情報の多元並列高速処理のための応用や、現象面では光非線形効果ないし光電気効果の応用のため、従来とは異なる高い機能を有する光学薄膜の開発が盛んに進められている。
【0003】このような新しい高機能光学薄膜を形成するための素材、その組成として注目されているものに有機系光学材料がある。この有機系光学材料を用いた有機系光学薄膜の製造方法についても各種の検討がこれまでにも進められており、たとえば以下のような方法が知られてもいる。
(1)溶液、分散液、または、展開液を用いる湿式法塗布法、プレードコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法、平版、凸版、凹版、孔版、スクリーン、転写などの印刷法、電着法、電解重合法、ミセル電解法(特開昭63−243298)などの電気化学的手法、水の上に形成させた単分子膜を移し取るラングミア・プロジェット法など。
(2)原料モノマーの重合ないし重縮合反応を利用する方法モノマーが液体の場合、キャスティング法、リアクション・インジェクション・モールド法、プラズマ重合法、光重合法など。
(3)気体分子を用いる方法(加熱による気化法)
昇華転写法、蒸着法、真空蒸着法、イオンビーム法、スパッタリング法、プラズマ重合法、光重合法など。
(4)溶融あるいは軟化を利用する方法ホットプレス法(特開平4−99609)、射出成形法、延伸法、溶融薄膜の単結晶化方法など。
【0004】しかしながら、これらの従来の製造方法の場合には、対象とされる光学薄膜の組成、構造は比較的単純なものに限られており、より高度な微細構造の制御を可能とし、より高機能な有機系光学薄膜を製造するのには適していないのが実情であった。たとえば、従来の方法においては、有機イオン結晶等の融点が存在しない材料の場合には、加熱により分解してしまい、また融点が存在しても気化温度において分解してしまうため、これらの現象を制御することや、この制御により高機能な有機系光学薄膜を実現することは困難であった。
【0005】そこで、この発明は、以上の通りの従来技術の欠点を解消し、光学材料の熱分解をもたらすことなく、より低温度において、しかもより高機能な有機系光学薄膜を製造することができ、微細構造制御を可能とするための新しい有機系光学薄膜の製造方法とそのための装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題を解決するために、溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法を提供する。また、この発明は、加熱処理後に、必要に応じて加圧成形することを特徴とする製造法をも提供する。
【0007】さらに、この発明は、上記方法を実現するための装置として、真空容器とこの真空容器内に溶液または分散液状態の有機系光学材料を噴霧する手段と、真空容器内において噴霧された有機系光学材料を堆積させる基板とその加熱手段、および真空容器の排気手段とを備えた装置であって、有機系光学材料の噴霧手段は、噴霧ノズル部とその開閉機構部とを有することを特徴とする有機系光学薄膜の製造装置をも提供する。
【0008】さらに以下詳しく説明すると、まず、この発明の方法において対象とする有機系光学薄膜の製造には、それ自体が単独で、もしくは混合して、あるいは複合化されて光学機能を実現する有機系光学材料が使用される。この材料には、揮発性を有する溶媒に溶解し、あるいは分散媒に分散できるものであれば任意の種類のものが用いられる。その際には、無機粒子と混合した状態、複数種のものを混合した材料等として適宜に使用することができる。
【0009】具体的には有機高分子材料の溶液や無機微粒子を有機高分子材料の溶液に分散した液、有機低分子化合物および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液、有機化合物の微粒子を有機高分子材料の溶液に分散した液、液晶および有機高分子材料を共通の溶剤に溶解した液等を適宜に使用することができる。以下、さらに具体的に例示してみる。
[有機高分子材料]有機高分子化合物のうち、いわゆる「光学的性質や機能」を有するものは、この発明の光学薄膜の製造のための原材料として利用することができる。また、有機高分子化合物は、光機能性の有機低分子化合物の分子または凝集体、および無機化合物の微粒子を分散し保持する材料、すなわち「マトリクス材料」としてもこの発明において利用することができる。
【0010】このような有機高分子材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリインデン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリビニルピリジン、ポリビニルホルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルベンジルエーテル、ポリビニルメチルケトン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ベンジル、ポリメタクリル酸シクロヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アミド、ポリメタクリロニトリル、ポリアセトアルデヒド、ポリクロラール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト類(ビスフェノール類+炭酸)、ポリ(ジエチレングリコール・ビスアリルカーボネイト)類、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロン、6,12−ナイロン、ポリアスパラギン酸エチル、ポリグルタミン酸エチル、ポリリジン、ポリプロリン、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メチルセルロース、エチルセルロール、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アセチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローストリブチレート、アルキド樹脂(無水フタル酸+グリセリン)、脂肪酸変性アルキド樹脂(脂肪酸+無水フタル酸+グリセリン)、不飽和ポリエステル樹脂(無水マレイン酸+無水フタル酸+プロピレングリコール)、エポキシ樹脂(ビスフェノール類+エピクロルヒドリン)、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂などの樹脂、ポリ(フェニルメチルシラン)などの有機ポリシラン、有機ポリゲルマンおよびこれらの共重合・共重縮合体、および、二硫化炭素、四フッ化炭素、エチルベンゼン、パーフルオロベンゼン、パーフルオロシクロヘキサン、トリメチルクロロシランなどの、通常では重合性のない化合物をプラズマ重合して得た高分子化合物などを挙げることができる。
【0011】また、これらの有機高分子化合物は有機色素や光非線形効果を示す有機低分子化合物の残基をモノマー単位の側鎖として、あるいは架橋基として、共重合モノマー単位として、または重合開始末端として含有していてもよい。しかも、これらの有機高分子化合物は複数種混合して用いてもよく、「ミクロ相分離」する組合せにおいて使用してもよい。
[無機微粒子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料として使用できる無機微粒子の具体例としては、セレン、テルル、ゲルマニウム、珪素、シリコンカーバイド、Cd−Zn−Mn−Se−Te−S−OxやGa−In−Al−As−Pなどの半導体微粒子や金コロイドなどの貴金属超微粒子を挙げることができる。
[有機低分子/有機高分子材料]上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料に用いられる有機低分子化合物の具体例としては、尿素およびその誘導体、m−ニトロアニリン、2−メチル−4−ニトロ−アニリン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−5−ニトロアセトアニリド、N,N′−ビス(4−ニトロフェニル)メタンジアミンなどのベンゼン誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロビフェニルなどのビフェニル誘導体、4−メトキシ−4′−ニトロスチルベンなどのスチルベン誘導体、4−ニトロ−3−ピコリン=N−オキシド、(S)−(−)−N−(5−ニトロ−2−ピリジル)−プロリノールなどのピリジン誘導体、2′,4′,4′−トリメトキシカルコンなどのカルコン誘導体、チエニルカルコン誘導体などの2次非線形光学活性物質の他、各種の有機色素、有機顔料などを挙げることができる。
【0012】前述のように、これら有機低分子化合物の残基と有機高分子化合物は化学結合を形成していても良い。
[液晶]さらにまた、上記の有機高分子材料と組み合わせて、この発明の光学薄膜の形成材料に用いられる液晶の具体例としては、種々のコレステロール誘導体、4′−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4′−n−ヘキシルベンジリデン−4−シアノアニリンなどの4′−アルコキシベンジリデン−4−シアノアニリン類、4′−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4′−メトキシベンジリデンアミノアゾベンゼン、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノビフェニル、4−(4′−メトキシベンジリデン)アミノスチルベンなどの4′−アルコキシベンジリデンアニリン類、4′−シアノベンジリデン−4−n−ブチトキシアニリン、4′−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリンなどの4′−シアノベンジリデン−4−アルコキシアニリン類、4′−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、p−カルボキシフェニルn−アミルカーボネート、n−ヘプチル4−(4′−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなどの炭酸エステル類、4−n−ブチル安息香酸4′−エトキシフェニル、4−n−ブチル安息香酸4′−オクチルオキシフェニル、4−n−ペンチル安息香酸4′−ヘキシルルオキシフェニルなどの4−アルキルル安息香酸4′−アルコキシフェニルエステル類、4,4′−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4′−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン誘導体、4−シアノ−4′−n−オクチルビフェニル、4−シアノ−4′−n−ドデシルビフェニルなどの4−シアノ−4′−アキルルルビフェニル類などの液晶、および(2S,3S)−3−メチル−2−クロロペンタノイック酸4′,4″−オクチルオキシビフェニル、4′−(2−メチルブチル)ビフェニル−4−カルボン酸4−ヘキシルオキシフェニル、4′−オクチルビフェニル−4−カルボン酸4−(2−メチルブチル)フェニルなどの強誘電性液晶を挙げることができる。
【0013】たとえば以上の通り例示することのできる有機高分子材料や有機低分子化合物、無機粒子、さらには液晶物質は、この発明においては適宜な溶媒に溶解するか、あるいは分散媒に分散させて高真空容器内に噴霧する。この際の溶媒もしくは分散媒についても各種のものを使用することができるが、上記のような有機系光学材料を溶解または分散する溶剤であって、揮発性を有し、腐食性のないものであれば、任意のものが使用できる。
【0014】具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、カルビトールなどのエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクレンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、アニソール、α−クロロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどのアミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの尿素誘導体類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの炭酸エステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ピリジン、キノリンなどの含窒素複素環化合物類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミノアルコール、アニリンなどのアミン類、などの他、水、ニトロメタン、二硫化炭素、スルホランなどの溶剤を用いることができる。
【0015】これらの溶剤は、また、複数の種類のものを混合して用いてもよい。これらの溶媒もしくは分散媒に溶解または分散させた状態で有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して薄膜形成することをこの発明は特徴としているが、この方法の実施に際しては、たとえば以下の通りの装置とその操作法の採用によって薄膜形成を可能とすることができる。
【0016】すなわち、まず、この発明の光学薄膜の製造装置の構成は、図1に例示することができ、有機系光学材料の溶液または分散液をたとえば圧力1×10-4Pa以下の真空中へ噴霧するための制御ノズル部(1)および制御ノズル部の開閉機構部(2)を真空容器(3)内に有し、さらにこの真空容器(3)内で揮発した溶媒等の蒸気を迅速に排気し、圧力を1×10-4Pa以下に保つ真空ポンプ(4)を備えている。また、この装置には、前記真空容器(3)内に設置した圧力測定装置(5)、真空容器(3)内で揮発した溶媒等の蒸気が真空ポンプ(4)へ到ることを防止するためのコールドトラップ(6)、ノズル部(1)と基板の間を遮蔽するシャッター(7)、基板加熱装置(8)、および基板温度測定装置(9)をも備え、真空容器(3)内の基板(19)表面に有機系光学薄膜を形成することができるようにしている。
【0017】この装置には、必要に応じて、真空容器(3)のベーキング装置(10)、ゲート弁(11)、イオン化装置(12)、質量分析装置(13)、基板導入装置(14)、マニュピュレーター(15)およこれらの制御装置を設けることが好ましい。真空ポンプは、真空容器(4)を大気圧から高真空、より好ましくは、1×10-4Pa以下の圧力へできる限り迅速に排気し、かつ真空容器内で揮発し、コールドトラップに捕獲されきれなかった溶媒等の気体成分を迅速に排気し、真空容器内の圧力を1×10-4Pa以下に保つことができるものであれば、任意のものが使用可能である。具体的にはターボ分子ポンプとロータリーポンプの組合せや、油拡散ポンプとロータリーポンプの組合せを使用することができる。
【0018】また、図1に例示したように真空容器(3)に備えたイオン化装置(12)および質量分析装置(13)、および基板導入装置(14)部には別系統の真空ポンプ(16)(17)を設けることが好ましい。なお、圧力測定装置(5)については、一般的には1×10-2Pa以下の圧力を正確に測定できるものであれば公知の任意のものを使用することができる。たとえば具体的には、Bayard−Alpert型などの電離真空計を使用できる。
【0019】真空容器(3)については、装置構成部品を、真空計の容積が最小になるように配置する形態のものが好ましい。材質は高真空仕様のアルミニウムまたはステンレスが好ましい。基板加熱装置(8)はヒーター部分を真空系内に置く形式と、真空系外から加熱する方式のいずれでも良く、基板(19)の形態に応じて、任意のものが使用可能である。
【0020】なお、この基板加熱装置(8)は基板温度を所定の値に制御する機構を含むものとする。基板温度測定装置(9)は基板(19)の温度を測定するものであり、熱電対など測温部を高真空下に置いても作動するものであれば任意のものが使用できる。
【0021】ベーキング装置(10)は真空系を構成する部品全てを加熱処理できるものが好ましい。コールドトラップ(6)は高真空容器内で揮発した溶媒等の蒸気を確実に捕捉し、かつ排気の妨げにならないものであれば、任意の方式のものが使用できる。イオン化装置(12)および質量分析装置(13)は必ずしも必要ではないが、基板(19)上の堆積物から発生する揮発成分が完全に除去されたことを確認する上で有用である。
【0022】ゲート弁(11)はイオン化装置(12)および質量分析装置(13)と真空容器(3)の間を適時遮蔽するものであり、必ずしも設ける必要はないが、真空系内に噴霧された成分および溶剤などが飛来して質量分析装置(13)を汚染することを防ぐ上で有用である。ゲート弁(11)を設ける場合は真空容器(3)および質量分析装置(13)部分に別系統の真空排気系(16)を接続することが好ましい。
【0023】イオン化装置(12)は該真空系内に存在する揮発成分をイオン化する形式のものであれば公知の各種のものが使用可能である。具体的にはガス放電式、アーク放電式、電子衝撃式などのイオン化装置を使用することができる。質量分析装置(13)はイオン化装置(12)で発生させたイオンの質量mをそのイオンの電荷eで除した数m/eに応じて質量を分離する部分(質量分離系)と、m/eに応じて分離されたイオンの数を電気的に計数する部分(検出・記録系)からなるものであれば、公知の各種のものが使用できる。
【0024】質量分離系は磁界および/あるいは電界を制御してm/eに応じてイオンを分離するものであり、パラボラ型、速度収束型、方向収束型、二重収束型、および飛行時間型などの形式のいずれでもよい。検出・記録系としてはファラデー箱と高感度直流増幅器の組合せ、二次電子増倍装置と高感度直流増幅器の組合せなどの方式のものを使用することができる。
【0025】基板導入装置(14)は、必ずしも設ける必要はないが、高真空容器(13)内へ基板(19)を設置する際の排気時間を短縮する上で有効である。基板導入装置(14)は真空容器、外部から試料を導入するための蓋またはゲート弁、磁気カップリング式またはベローズ式の直線導入機、測定装置の真空容器との間のゲート弁、真空ポンプ、および圧力測定装置から構成することができる。
【0026】マニュピュレーター(15)は、必ずしも設ける必要はないが、ノズル部(1)に対する基板(19)の位置や向きを微調整する際に有用である。材料の溶液、分散液、または溶融液を真空容器内へ噴霧するための制御ノズル部(1)はこの発明の光学薄膜の製造装置の中で、特に重要な部分である。そして、制御ノズル部から噴霧させる液体が制御ノズル部分で固化してノズルを閉塞させることを避け、噴霧量を制御することもできるノズル開閉機構を備える必要がある。
【0027】閉塞を解消する機構としては、真空系外から操作するワイパーを使用することができるが、操作性および効果の点で難点がある。この発明の発明者は制御ノズルの一例として、図2に断面図を例示したように、高加工精度のニードルバルブを利用することができることを見出した。すなわち、制御ノズル部(1)には、ニードルバルブ(100)を設け、ノズル部の開閉機構部(2)によってこのニードルバルブ(100)を動かし、制御ノズル部(1)からの有機系光学材料液の噴霧量を調整し、その閉塞を防止する。
【0028】有機系光学材料の液は、液体溜め(18)より制御ノズル部(1)に供給する。たとえば以上の装置においては、前記の制御ノズル部(1)より有機系光学材料を溶液または分散液の状態で高真空容器(3)内において噴霧し、溶媒または分散媒体を真空蒸発させながら、基板(19)上に有機系光学材料による薄膜を堆積させる。
【0029】そして、この発明においては、この基板(19)を堆積物の熱分解温度を越えない温度まで加熱して揮発成分を除去し、さらに必要に応じて基板上の堆積物を加熱および/あるいは加圧して所要のものに成形する。もちろん基板(19)の種類に特に限定はなく、ガラス、石英をはじめ、セラミックス、Si、ポリマー等の任意のものであってよい。そしてこの基板(19)上の堆積物の加熱処理は、基板(19)の加熱として行うこともできるし、あるいは、図1に示した基板の表面加熱装置(20)によって堆積物を加熱してもよい。この表面加熱装置(20)としては、電熱ヒーターや、その他適宜な手段が採用できる。
【0030】また、さらに成形のための加圧については、熱間圧延処理(たとえば特開平4−99609号)として公知の手段を採用してもよい。いずれにしてもこの発明の製造方法とそのための装置によって、より低温度で、光学材料を熱分解させることなく、高品質で、高機能な有機系光学薄膜の形成が容易となる。そして、この発明によって、1種または2種類以上の有機系高分子化合物や低分子化合物およびそれらと無機化合物の混合状態でマイクロメートル未満の微細領域で制御された有機系光学薄膜の形成が可能となる。
【0031】また、特に、数百MW/cm2 ないし数百GW/cm2 の高パワー密度レーザー光に耐える有機系光学薄膜の作成も可能となる。以下実施例を示し、さらに詳しくこの発明の方法について説明する。
【0032】
【実施例】図1および図2にその構成を例示した装置を用いて光学薄膜を製造した。すなわち、真空容器(3)内を真空排気装置(4)、たとえばターボ分子ポンプ及び油回転ポンプにより真空排気後、容器(3)内の圧力を圧力測定装置(5)により測定し、1×10-4Pa以下の圧力であることを確認する。
【0033】有機系光学材料としての3,3′−Diethyloxadicarbocyanine Iodide (DODCI)を適当な溶媒、たとえば、アセトンに10-2モル/リットルの濃度で溶解し、液溜め(18)に充填した後、制御ノズル部(1)より毎分100マイクロリットルの割合で、真空容器(3)内に噴霧する。この時、有機系光学薄膜の堆積を行う基板(19)は、基板加熱装置(8)および基板温度測定装置(9)により、たとえば40℃に加熱する。
【0034】膜厚制御は噴霧時間により行うこととし、たとえば10分間の噴霧により0.5ミクロンのDODCI膜を形成する。基板(19)表面より除去された溶媒等の揮発成分は、真空容器(3)内に設置されたコールドトラップ(6)に捕獲され、真空ポンプ(4)へ到ることを防止する。
【0035】また、たとえば1ミクロン以上の膜厚を有する薄膜を堆積する際には、赤外線等による表面加熱装置(20)によって基板加熱を行い、基板表面に到達した揮発成分の除去を速やかに行う。堆積されたDODCI薄膜のDODCIの粒子径を、たとえばX線小角散乱法により測定すると、約50ナノメートルであった。
【0036】一方、前記のDODCIをポリマー中、たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA)中に分散させる場合には、DODCI及びPMMAの双方を溶解する適当な溶媒、たとえばアセトンにDODCIを10-3モル/リットルの濃度で、PMMAを10-2モル/リットルの濃度でそれぞれ溶解して溶解溜め(18)に充填した後、制御ノズル部(1)より毎分100マイクロリットルの割合で、真空容器(3)内に噴霧する。
【0037】この時の基板温度等の条件は上記と同様に設定する。堆積されたDODCIを含有するPMMA薄膜(DODCI/PMMA)は、ホットプレス法により真空中にて加熱・加圧処理し、光学的に透明な薄膜を得た。この場合、たとえば、150℃の温度で、50kg/cm2 の静水圧プレスにより、10分間保持する。
【0038】このDODCI/PMMA薄膜内のDODCIの粒子径を、たとえばX線小角散乱法により測定すると、約30ナノメートルであった。表1は、以上得られた薄膜のX線小角散乱法によって測定された結晶粒径とその割合(重合比)の測定結果を示したものである。微細構造組織が実現されていることがわかる。
【0039】
【表1】
【0040】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この発明によって、有機系光材料の分解・変性温度よりもはるかに低い温度において薄膜形成が可能となる。そして、この発明の光学薄膜の方法に使用される有機系光学材料は、加熱および/あるいは加圧により成形することが可能なものであれば、最適な溶媒の選択により任意のものを使用することができ、この発明は、有機系光学材料を開発、改良する上で極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の装置構成を例示した構成図である。
【図2】制御ノズル部を例示した構成断面図である。
【符号の説明】
1 制御ノズル部
2 開閉機構部
3 真空容器
4 真空ポンプ
5 圧力測定装置
6 コールドトラップ
7 シャッター
8 基板加熱装置
9 基板温度測定装置
10 ベーキング装置
11 ゲート弁
12 イオン化装置
13 質量分析装置
14 基板導入装置
15 マニュピュレーター
16 真空ポンプ
17 真空ポンプ
18 液溜め
19 基板
20 表面加熱装置
100 ニードルバルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法。
【請求項2】 請求項1の加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法。
【請求項3】 真空容器とこの真空容器内に溶液または分散液状態の有機系光学材料を噴霧する手段と、真空容器内において噴霧された有機系光学材料を堆積させる基板とその加熱手段、および真空容器の排気手段とを備えた装置であって、有機系光学材料の噴霧手段は、噴霧ノズル部とその開閉機構部とを有していることを特徴とする有機系光学薄膜の製造装置。
【請求項4】 噴霧ノズル部とその開閉機構部は、ニードルバルブ構造を構成している請求項3の製造装置。
【請求項1】 溶液または分散液状態の有機系光学材料を高真空容器内に噴霧して基板上に堆積させ、加熱処理することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法。
【請求項2】 請求項1の加熱処理の後に加圧成形することを特徴とする有機系光学薄膜の製造法。
【請求項3】 真空容器とこの真空容器内に溶液または分散液状態の有機系光学材料を噴霧する手段と、真空容器内において噴霧された有機系光学材料を堆積させる基板とその加熱手段、および真空容器の排気手段とを備えた装置であって、有機系光学材料の噴霧手段は、噴霧ノズル部とその開閉機構部とを有していることを特徴とする有機系光学薄膜の製造装置。
【請求項4】 噴霧ノズル部とその開閉機構部は、ニードルバルブ構造を構成している請求項3の製造装置。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開平6−306181
【公開日】平成6年(1994)11月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−52102
【出願日】平成5年(1993)3月12日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫 (外1名)
【出願人】(390014535)新技術事業団 (20)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【上記2名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
【公開日】平成6年(1994)11月1日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)3月12日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫 (外1名)
【出願人】(390014535)新技術事業団 (20)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【上記2名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
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