説明

有機系脱酸素剤

【課題】金属探知機に検知されない脱酸素剤が望まれており、還元鉄粉等の金属を使用しない有機系脱酸素剤において、原料を混合する際に原料粉が飛散せず、生産効率を上げられるとともに、脱酸素能力を向上させる有機系脱酸素剤を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、易酸化性有機物質からなる主剤、アルカリ剤及び水を含有する有機系脱酸素剤であって、アルカリ剤として、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとを用い、主剤を100重量部としたとき、当該アルカリ剤を20重量部〜200重量部含むことを特徴とする有機系脱酸素剤を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、有機系脱酸素剤に関し、詳しくは、金属探知機に検知されず、安全性が高く、優れた脱酸素性能を備える有機系脱酸素剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、薬品、電子機器、電気器具等の商品を包装材内に封入して保存する際、保存雰囲気に含まれる酸素が、これらの保存品を酸化させたり、カビの発生を誘発して品質の低下を招くおそれがある。そこで、従来、酸化防止、カビ等の発生防止のために無酸素状態での保管が好ましい食品や薬剤等において、脱酸素剤がそれらの包装品内に同封されて利用されている。
【0003】
脱酸素剤は、無機系材料や有機系材料からなり、酸化反応を利用して雰囲気中に存在する酸素を吸収することにより、当該雰囲気中の酸素を除去するものである。そして、鉄粉等の無機系材料を主成分とする脱酸素剤は、脱酸素性能に優れ、広く使用されている。
【0004】
しかし、食品等の経口品において、異物の混入した製品を検知する手段として金属探知機を用いて包装した保存品の安全性を検査する場合がある。このような場合に、保存品に鉄粉等の無機系材料からなる脱酸素剤を同封していると、金属探知機が脱酸素剤に反応して検査の妨げになるという課題があった。
【0005】
そこで、金属探知機に検知されない脱酸素剤が望まれており、還元鉄粉等の金属を使用しない有機系脱酸素剤が提案されている。例えば、特許文献1には、有機系脱酸素剤の主剤として、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、クレゾール、ピロガロールから選択される低分子フェノール化合物と活性炭とからなる脱酸素剤が記載されている。また、特許文献2には、多価アルコール化合物、フェノール化合物、不飽和油脂、不飽和脂肪酸、不飽和重合物等からなる有機系易酸化性組成物を主剤とし、化学合成された平均粒子径0.1μm以下の二酸化珪素を平均粒径1.0mm以上に造粒した造粒二酸化珪素に担持させた脱酸素剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−50849号公報
【特許文献2】特開2003−38143号公報
【特許文献3】特開2007−74962号公報
【特許文献4】特開2007−268326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている低分子フェノール化合物を主剤とする脱酸素剤は、内部通気性包袋表面に液が染み出したように色が濃く見える、いわゆる「染み出し」を生じることがあり、外観を損ねるとともに消費者に安全性に対する不安感を抱かせるため実用上の課題となる。また、特許文献2に開示されている脱酸素剤は、流動性及び充填包装適性の良い脱酸素剤を得るために、担持体の造粒工程を経なければならず、製造上の管理点が多く、かえって製造ロスが多くなる。
【0008】
そこで、本件出願人は、金属探知機に検知されない脱酸素剤として、例えば、特許文献3,4のような有機系脱酸素剤を提案してきた。しかし、この特許文献3、4の有機系脱酸素剤では、脱酸素剤原料を混合する際に原料粉が飛散しやすく、また、主剤の流動性が悪いために生産効率を上げられず、有機系脱酸素剤の製造コストアップの原因となり、改良が望まれていた。
【0009】
そこで、本件発明は、有機系脱酸素剤の原料を検討し、脱酸素能力並びに生産効率をさらに向上させる有機系脱酸素剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、有機系脱酸素剤の構成材料をさらに検討し、以下の有機系脱酸素剤を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0011】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、易酸化性有機物質からなる主剤、アルカリ剤及び水を含有する有機系脱酸素剤であって、アルカリ剤として、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとを用い、主剤を100重量部としたとき、当該アルカリ剤を20重量部〜200重量部含むことを特徴とする。
【0012】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、前記易酸化性有機物質が、タンニン又はタンニン酸、であることがより好ましい。
【0013】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、主剤を100重量部としたとき、水を10重量部〜200重量部含むものがより好ましい。
【0014】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、主剤を100重量部としたとき、反応触媒を15重量部以下を含むものがより好ましい。
【0015】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、より好ましくは、原料を混合後のpHが9〜12である。
【0016】
本件発明に係る有機系脱酸素剤包装体は、上述の有機系脱酸素剤を、酸素透過性の包装材により包装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとからなるアルカリ剤を主剤100重量部に対して20重量部〜200重量部含有することにより、脱酸素剤の発塵性を抑えることができるうえに、脱酸素能力を向上させることができる。よって、脱酸素剤原料を混合する際の粉立ちを抑えることができるとともに、脱酸素剤を包装材へ封入する際に包装材のシール部への脱酸素剤の噛み込みを抑えられる。その結果、従来の有機系脱酸素剤に比べて粉塵や不良品の発生が抑えられ、製造ロスを低減できる。さらに、脱酸素剤原料の混合時における主剤の流動性が悪かった点も改善され、生産効率を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本件発明に係る有機系脱酸素剤の好ましい実施の形態を説明する。本件発明に係る有機系脱酸素剤は、易酸化性有機物質からなる主剤、アルカリ剤及び水を含有する有機系脱酸素剤である。
【0019】
主剤は、易酸化性有機物質を用いる。この易酸化性有機物質とは、タンニン、タンニン酸、カテキン、ケルセチン、フラボン、フラバノン、フラボノール、イソフラボン、アントシアニン、ヒドロキノン、没食子酸等を主成分とするものの他、アスコルビン酸、グリセリン、グルコース等の多価アルコール化合物が挙げられる。これらの中でも、タンニン又はタンニン酸が好ましい。タンニン又はタンニン酸は、化学的合成により製造されたもの、植物の果実、葉や花、樹皮等より抽出されたもののいずれでも良い。植物より抽出されたタンニン又はタンニン酸としては、例えば、ケブラチョ、ワットル(ミモザ)、栗材、ミロバラン、ガンビール、ヘムロック、オーク等から抽出したものが挙げられる。このような易酸化性有機物質を用いることによって、安価で安全性が高い脱酸素剤が得られる。
【0020】
易酸化性有機物質は、さらに詳しくは、縮合型タンニン又はタンニン酸を主成分とするものが特に望ましい。縮合型タンニンは、アルカリ剤や環境の変化に対して主骨格の化学構造が変化しづらく、同時に脱酸素反応に関わる官能基が保持されるため、保存品の長期保存のために用いる脱酸素剤の用途において、脱酸素能力を安定して維持できるからである。
【0021】
本発明に係る有機系脱酸素剤は、アルカリ剤として、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとを用い、主剤を100重量部としたとき、当該アルカリ剤を20重量部〜200重量部含むことが本件発明に係る有機系脱酸素剤の特徴の一つである。
【0022】
アルカリ剤は、水と作用してアルカリ性を示す物質であり、脱酸素反応を進めるために必須の物質である。本件発明では、アルカリ剤として、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとを併用する。
【0023】
水酸化カルシウムは、従来の有機系脱酸素剤に使われてきた他のアルカリ剤と比べて、主剤である易酸化性有機物質に対して加水分解等の反応を引き起こすことも少なく、易酸化性有機物質の脱酸素反応に関わる官能基を保持することができると考えられる。また、水との相互作用により脱酸素反応を生じさせるためのpHを安定化することができ、安定した脱酸素反応を得ることができると考えられる。
【0024】
水酸化カルシウムの平均粒径D50は0.5μm〜200μmが好ましく、より好ましくは1μm〜80μm、最も好ましくは2μm〜60μmである。このような粉体特性を有する水酸化カルシウムを用いることにより、優れた脱酸素能力、脱酸素速度を実現でき、且つ、脱酸素剤の製造時において、混練により他の組成物と馴染み易い。すなわち、水酸化カルシウムの平均粒径D50が0.5μm未満のものは、水酸化カルシウムの粉塵が舞い上がりやすく、包装材への封入時にシール部に粉体が噛み込んでシールが不完全となり、外観を損ねたり、粉漏れ等により不良品が発生する。また、脱酸素剤原料の混練時において、ブロッキングして流動性が悪く、混練状態にムラが生じたり、混合容器にこびりつく等の不具合が生じる。一方、水酸化カルシウムの平均粒径D50が200μmを超えると、水酸化カルシウムの比表面積が小さくなり、脱酸素剤の反応速度が低下するので好ましくない。
【0025】
そして、アルカリ剤としての水酸化カルシウムは、微粉を用いると比表面積が大きくなり脱酸素反応が向上すると考えられるが、上述の通り、微粒な水酸化カルシウムを用いると発塵性の問題や、他の組成物との混練性や流動性の問題が生じる。そこで、本件発明に係る有機系脱酸素剤では、アルカリ剤として、さらに、炭酸カルシウムを併用することにより、微粒な水酸化カルシウムを用いても上述の課題を解消し、生産効率を高めることができるうえに、脱酸素能力も向上させられることを見出したのである。
【0026】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、炭酸カルシウムを添加することにより、主剤溶液と水酸化カルシウムとの混合時の粉立ちを防ぐことができ、且つ、アルカリ剤として脱酸素反応を促進させる機能と、主剤溶液を担持する機能とを兼ね備える。すなわち、炭酸カルシウムは、水に難溶の弱いアルカリ剤であり、比重が大きいので、水酸化カルシウムと共にアルカリ剤として用いると、水酸化カルシウムの粉立ちを抑える効果が得られる。また、炭酸カルシウムは、主剤を保持すると共に反応の場を提供する担持体としての機能も発揮し得る。本件発明に係る有機系脱酸素剤は、アルカリ剤として、水酸化カルシウムの他に炭酸カルシウムを併用することにより、脱酸素反応の促進に好適な微粒の水酸化カルシウムを用いても、その粉立ちを抑え、且つ、炭酸カルシウムが主剤を担持するとともにアルカリ剤としての役割を果たす。その結果、従来のように二酸化珪素等を担持体として用いる場合に比べて、担持体が不要となり、有機系脱酸素剤全体におけるアルカリ剤の量を増量できるので脱酸素能力を向上できる。また、有機系脱酸素剤は、必要に応じて反応触媒を添加して脱酸素反応速度を高めることができるが、本件発明に係る有機系脱酸素剤では、アルカリ剤の量を増量することにより、反応が促進され、触媒の添加量を低減させることができ、コストダウンに繋がる。
【0027】
そして、アルカリ剤としての炭酸カルシウムは、水酸化カルシウム100重量部に対して、5重量部〜50重量部とすることが好ましい。炭酸カルシウムの含有量が5重量部未満であると、混合時に粉立ちが生じるとともに流動性が低下し、包装体に充填封入して用いる脱酸素剤に適さない。一方、炭酸カルシウムは弱いアルカリ剤であり、炭酸カルシウムのみを脱酸素剤のアルカリ剤として用いると、脱酸素能力が不十分となるので、水酸化カルシウム100重量部に対して50重量部を超える量の炭酸カルシウムを添加すると、アルカリ剤における炭酸カルシウムの含有量が多くなり、脱酸素剤の単位重量あたりの脱酸素量が減少するので好ましくない。
【0028】
次に、本件発明に係る有機系脱酸素剤は水を必須とする。水は、脱酸素剤を構成する組成物を馴染ませ、反応の場を提供するものであり、主剤を100重量部としたとき、水を10重量部〜200重量部含むものが好ましい。本件発明に係る有機系脱酸素剤では、アルカリ剤として炭酸カルシウムを含有するので、主剤に対する水分の含有量を高くしても、実用上許容される流動性を保つことができる。主剤を100重量部としたとき、水の含有量が10重量部未満であると、有機系脱酸素剤の組成物が混ざりにくく、脱酸素性能が低下する。なお、本件発明に係る有機系脱酸素剤は、通気性を有する包装材に封入した状態で使用するので、当該有機系脱酸素剤の水分が不足する場合は、保存品に含まれる水分を吸収して脱酸素能力を発揮することも可能である。この点を考慮しても水の含有量の下限値は、主剤100重量部に対して10重量部となる。一方、主剤を100重量部としたとき、水を200重量部より多く含むと、流動性が低下して包装材への自動充填包装に適さない。
【0029】
また、本件発明に係る有機系脱酸素剤は、反応速度を高めるために反応触媒を含有させても良い。触媒は、鉄、ニッケル、銅、マンガン等の遷移金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化ナトリウム等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の無機系触媒と、ナフトヒドロキノン、フロログリシン、t−ブチルカテコール、t−ブチルヒドロキノン、5−メチルレゾルシン等の有機系触媒が使用できる。特に、金属探知機に検知されない有機系触媒が良い。この反応触媒を添加する場合、主剤を100重量部としたとき15重量部以下の含有量とすることが好ましい。本件発明に係る有機系脱酸素剤は、上述の通り、アルカリ剤の含有量が高いので、反応触媒の添加量が15重量部以下の少ない量にしても十分な脱酸素能力を実現できる。
【0030】
この他、活性炭を添加しても良い。活性炭は、脱酸素反応後に生じる低分子量物質を捕捉し、当該低分子量物質の飛散を防止するために有効である。活性炭の含有量は、主剤100重量部に対して50重量部以下が好ましい。活性炭の含有量が50重量部を超えると脱酸素反応速度が低下することがあり、好ましくない。
【0031】
そして、上述の原料を混合した後の有機系脱酸素剤のpHが9〜12であることが好ましい。本件発明に係る有機系脱酸素剤は、易酸化性有機物質を用いており、pHがこの範囲であると、易酸化性有機物質が安定して存在し、脱酸素性能を安定させることができる。
【0032】
次に、本発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法について説明する。まず、所定量の主剤に対して、水及び必要に応じて触媒を加えて混合する。そこへアルカリ剤として、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムをこの順に添加し、混練後、粉体化する。その後、必要に応じて活性炭を添加、混合後、通気性包材に充填包装し、有機系脱酸素剤包装体の製品を得る。
【0033】
脱酸素剤包装体: 本件発明に係る脱酸素剤包装体は、上述の脱酸素剤を酸素透過性の包装材により包装したものである。有機系脱酸素剤は上述のような構成材料からなり、粉体状の形態であるので、実用上、酸素透過性の包装材により有機系脱酸素剤を包装する。
【0034】
以下、有機系脱酸素剤包装体に用いる包装材について説明する。包装材としては、その厚さ方向での通気性を備え、酸素が透過可能な素材であればいずれも使用できるが、適度な通気性とヒートシール性を兼ね備えた積層体が好適である。その他に、耐水性、耐油性等を備えるものが好ましい。例えば、有孔(ポリエステル/ポリエチレン)フィルム、紙、有孔ポリエチレンフィルムの順にラミネートした積層体や、紙又は不織布と、有孔ポリエチレンフィルムとをラミネートした積層体等が使用される。また、ポリエチレン不織布は単体で使用できるが、脱酸素剤が包装材の外部に流出することを防ぐと同時に、シール性に優れた包装材が求められる。
【0035】
包装材は、例えば、紙とポリエチレンシートとを貼り合わせたもの、微多孔膜または合成樹脂製不織布、外層材と内層材を積層した複合フィルム等が考えられる。特に、脱酸素剤用の包装材として、酸素透過性等を調整可能な複合フィルムが好ましい。また、複合フィルムは、特に外層材と内層材とがラミネート加工により積層されたものが好ましい。以下、複合フィルムの各層の構成材について説明する。
【0036】
内層材は、厚さ方向に貫通する微細貫通孔が形成されることにより酸素透過性を備えるフィルムである。加えて、ラミネート加工により外層材と接着可能であるものが好ましい。このような性質をもつフィルムの材質として、ポリエチレン(PE)が好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましく用いられる。
【0037】
外層材は、ラミネート加工により内層材と接着可能であり、且つ接着後に酸素透過性を備えるものが好ましい。例えば、紙、織布、不織布、微多孔膜等が挙げられる。紙の例としては、クラフト紙、撥油紙、撥水紙等が挙げられる。織布ならびに不織布としては、ポリエステル、ポリアミド等の材質を用いたものが挙げられる。
【0038】
さらに、当該外層材には、厚さ方向に貫通する微細貫通孔を複数有するフィルムからなる最外層フィルムを備えるものとしても良い。この最外層フィルムは、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂フィルムを用いることができる。最外層フィルムに備える微細貫通孔は、ラミネート加工の前もしくは後に形成されたもののいずれを用いても良い。しかし、より確実な通気性を得るためには、ラミネート加工前に微細貫通孔を形成したものが好ましい。なお、微細貫通孔の形状は円形とは限らず、有孔加工法によって様々な形状となる。
【0039】
例えば、外層材は、紙に、最外層フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と記す。)等のフィルムを積層させても良い。すなわち、ポリエステルフィルムにポリエチレンを塗工した最外層フィルムを用い、この最外層フィルムのポリエチレンを塗工した面を、外層材としての紙と接触させて熱圧着すればラミネート加工が容易となるので好ましい。このような最外層フィルムを備える外層材を用いる場合、最外層フィルムにも微細な貫通孔を複数形成することによって、空気透気度をより精度良く調整することができる。
【0040】
こうして得られた外層材と内層材とは、内層材のフィルムと外層材の紙とを熱圧着加工により積層させて複合フィルムとする例が挙げられる。各層をラミネートする際の加工法は、熱圧着加工、ドライラミネート加工を採用することができる。
【0041】
以上、外層材、内層材の材質等を例示したが、複合フィルムとしては、各層の材質等の組み合わせは特に限定されるものではなく、少なくとも酸素透過性を備えるとともに、外層材と内層材とがラミネート加工により積層される構成を取り得るものであれば良い。
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0043】
主剤として縮合型タンニン(ケブラチョ抽出タンニン)11gと水11gとを混合した。続いて、この混合物に、アルカリ剤として水酸化カルシウム(平均粒径D50=4.7μm)9.1gと炭酸カルシウム3.9gとをこの順に添加し、混練した。この際、主剤の流動性は良好で混練しやすかった。その後、活性炭2.0gを添加し、有機系脱酸素剤を得た。得られた有機系脱酸素剤のpHを測定するため、有機系脱酸素剤1gに蒸留水99gを加えて撹拌し、1%懸濁液として、液温を25℃に保持しながら、東亜電波工業株式会社製pHメータHK−1Kを用いて測定した。その結果、実施例1の有機系脱酸素剤は、pH11.1を示した。
【0044】
脱酸素剤の包装材として、厚さ12μmの有孔ポリエステル/ポリエチレンラミネートフィルムからなる外層材と、50g/mの耐水耐油紙からなる中層材と、厚さ25μmの有孔ポリエチレンフィルムからなる内層材とからなり、熱ラミネート加工して得た酸素透過性の複合フィルムであり、ガーレー式透気度が8000秒/100ml空気のものを用いた。この包装材を用いて、三方をシールした外寸65mm×55mmの包装袋を用意し、この包装袋に有機系脱酸素剤4gを充填し、開口部を熱ラミネートによりシールして封入し、有機系脱酸素剤包装体とした。この有機系脱酸素剤を包装材に封入する際に、粉塵の発生が抑えられ、熱ラミネートによるシール部分への有機系脱酸素剤の噛み込みは殆ど無く、大量生産を想定した製造速度及び製造量においても、不良品は発生しなかった。
【0045】
次に、この有機系脱酸素剤包装体を、ポリ塩化ビニリデンコート/ポリエチレンラミネートフィルムのガスバリアー性の袋(220×300mm)に、水分活性が0.95を示す塩化ナトリウム水溶液を染み込ませた脱脂綿と共に入れ、空気1500mlを充填して密封した密封袋Aを作成した。また、同様に、有機系脱酸素剤包装体を、ポリ塩化ビニリデンコート/ポリエチレンラミネートフィルムのガスバリアー性の袋(220×150mm)に、水分活性が0.95を示す塩化ナトリウム水溶液を染み込ませた脱脂綿と共に入れ、空気500mlを充填して密封した密封袋Bを作成した。
【0046】
得られた脱酸素剤包装体の酸素吸収量を測定した。密封袋Aを室温(25℃)に保持し、7日後の袋内の酸素濃度(%)を東レエンジニアリング株式会社製ジルコニア式酸素濃度計LC−700Fを用いて測定し、脱酸素剤1個あたりの酸素吸収量(ml/個)を算出し、この値から、主剤1gあたりの酸素吸収量(ml/主剤1g)を算出して評価した。さらに、密封袋Bについては、室温(25℃)に保持して24時間後の酸素濃度を測定して酸素吸収速度を評価した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0047】
主剤として縮合型タンニン(ケブラチョ抽出タンニン)11gと水11gとを混合した。これに反応触媒としてt−ブチルカテコール0.14gを添加し、混合した。続いてこの混合物に、アルカリ剤として水酸化カルシウム(平均粒径D50=4.7μm)9.1gと炭酸カルシウム3.9gとをこの順に添加し、混練した。その後、活性炭2.0gを添加し、さらに混練した後、熟成させて有機系脱酸素剤を得た。得られた有機系脱酸素剤のpHを実施例1と同様に測定したところ、pH11.0を示した。
【0048】
実施例2で得られた有機系脱酸素剤を実施例1と同じ包装袋に封入した。この有機系脱酸素剤を包装材に封入する際に、粉塵の発生が抑えられ、熱ラミネートによるシール部分への有機系脱酸素剤の噛み込みは殆ど無かった。さらに、大量生産を想定した製造速度及び製造量においても、不良品は発生しなかった。また、実施例1と同じ方法で酸素吸収量及び酸素吸収速度を測定した。結果を表1に示す。
【比較例】
【0049】
比較例は、アルカリ剤として水酸化カルシウムのみを用い、担持体として二酸化珪素を用いた例を示す。主剤として縮合型タンニン(ケブラチョ抽出タンニン)8.0gと水7.3gとを混合した。これに反応触媒としてt−ブチルカテコール0.72gを添加し、混合した。続いてこの混合物に、二酸化珪素2.2gを添加し、混合した。続いて、アルカリ剤として水酸化カルシウム(平均粒径D50=4.7μm)5.4gを添加し、混練した。その後、活性炭0.4gを添加し、有機系脱酸素剤を得た。この混練の際、比較例の有機系脱酸素剤は、実施例1,2に比べて流動性に劣り、混練に時間を要した。ここで得られた有機系脱酸素剤のpHを実施例1と同様に測定したところ、pH9.7を示した。
【0050】
比較例で得られた有機系脱酸素剤を実施例と同じ包装袋に封入した。この充填包装の際に、有機系脱酸素剤の粉立ちが多く、大量生産を想定した製造試験においては、熱ラミネートによるシール部分への有機系脱酸素剤の噛み込みにより、包装袋がシール密封されず不良品の発生が見られた。実施例と同じ方法で酸素吸収量及び酸素吸収速度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1は、実施例2に比べて24時間後の密封袋Bの酸素濃度が高く、すなわち酸素吸収速度が遅いことを示している。これは、反応触媒を添加していないためであると考えられる。しかし、実施例1の密封袋Bを引き続き室温(25℃)に保持すると、密封袋Bの酸素濃度は42時間後に0.1vol%未満となった。実施例1に示した有機系脱酸素剤は、長期保存品等に用いる遅効型の脱酸素剤としては、望まれる酸素吸収性能を満たすレベルである。
【0053】
実施例と比較例を対比する。7日後の酸素吸収量を見ると、7日後の密封袋内における酸素濃度は実施例2及び比較例は同等と言え、実用可能といえる。しかし、主剤1gあたりの酸素吸収量は、実施例2の有機系脱酸素剤包装体の方が、比較例に比べて格段に高い。このことから、主剤の脱酸素能力を向上させられたことが明らかとなった。また、実施例1と比較例とを比べると、酸素吸収量は同レベルであるが、実施例1は充填包装時の粉立ち等の発生を抑えて充填性に優れるので、不良品の発生を抑え、製造効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、金属探知機に反応しない脱酸素剤として、脱酸素性能の向上を実現し、且つ、製造時の原料の粉立ちを抑えるとともに好適な流動性を備え、生産効率を向上させることができる。そのため、本件発明に係る有機系脱酸素剤は、例えば、水産加工品、農産加工品等、金属探知機による検査が行われる保存品内に用いる脱酸素剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易酸化性有機物質からなる主剤、アルカリ剤及び水を含有する有機系脱酸素剤であって、
アルカリ剤として、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとを用い、
主剤を100重量部としたとき、当該アルカリ剤を20重量部〜200重量部含むことを特徴とする有機系脱酸素剤。
【請求項2】
前記易酸化性有機物質が、タンニン又はタンニン酸である請求項1に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項3】
主剤を100重量部としたとき、水を10重量部〜200重量部含む請求項1又は請求項2に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項4】
主剤を100重量部としたとき、反応触媒を15重量部以下を含む請求項1〜請求項3のいずれかに記載の有機系脱酸素剤。
【請求項5】
原料を混合後のpHが9〜12である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の有機系脱酸素剤。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の有機系脱酸素剤を、酸素透過性の包装材により包装した脱酸素剤包装体。

【公開番号】特開2011−152503(P2011−152503A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14834(P2010−14834)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000231970)パウダーテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】