説明

有機薄膜太陽電池

【課題】光電変換効率が高く、かつ長期安定性に優れる有機薄膜太陽電池を提供すること。
【解決手段】透明基板上の透明電極と、金属電極と、これら両電極の間に介在する光電変換層と、該透明電極と該光電変換層との間で透明電極と接触するように形成されたバッファ層を備えてなる有機薄膜太陽電池において、前記バッファ層は金属微粒子と高分子分散剤を含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池並びに該有機薄膜太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池に関し、詳細には、バルクヘテロ型有機薄膜太陽電池において、大気中暗所保存した際の耐久性を向上させた有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーやフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる有機薄膜太陽電池は、従来の太陽電池に比べて安価で製法が簡便であり、軽量、フレキシブルといった特徴を備えることから、種々の用途への展開が期待されている。
有機薄膜太陽電池の発電メカニズム(光電変換プロセス)は以下の通りである。まず有機分子が光エネルギーを吸収して励起子(励起電子とホールが対を形成したもの)を生じる。この励起子は対を形成したまま拡散移動し、pn接合界面に到達して電荷分離する。そしてこれにより生じた電子とホールが各電極界面に移動し、電流の取り出しが可能となる。
上述の有機薄膜太陽電池の中でも、特にバルクへテロ構造を有する有機薄膜太陽電池は、高効率な変換効率を示すことから種々検討されている。
【0003】
さて、太陽電池の光電変換効率は、光吸収効率、励起子拡散効率、電荷移動効率、電荷注入効率の積で表される。光電変換効率を向上させる一つの方法として、電極と有機薄膜半導体層との間にバッファ層を設けることにより、電荷注入効率を向上させ、逆方向の電荷注入を抑制する試みがなされている。
これまで検討されているバッファ層として、代表的には、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT/PSS)、酸化モリブデン(MoO3)、フッ化リチウム(LiF)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(N
TC無水物)などが挙げられる。
中でも、高い光電変換効率が得られるとしてPEDOT/PSSを陽極バッファ層に用いたセルが数多く報告され、さらにPEDOT/PSSに金ナノ粒子を添加した陽極バッファ層(非特許文献1)なども報告されている。
さらに、陽極バッファ層としてアモルファス酸化チタン層を挿入し、さらに太陽電池筐体を封止することにより素子効率の向上を図った有機薄膜太陽電池が報告されている(特許文献1)。
これらバッファ層は、下地層を侵食しない溶媒を用いる溶液塗布法や真空蒸着法、還元析出法などによって作製される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PEDOT/PSSは溶液塗布法で容易に成膜でき、また一般に高い光電変換効率が得られ点が報告されているが、PEDOT/PSSが高い吸湿性を有することや、また、PSSが強酸性材料であるため、他のバッファ材料と比べ、電極を酸化して素子の性能劣化を招きやすいことが報告されている(非特許文献2)。
また酸化モリブデン(非特許文献3)やアモルファス酸化チタンを陽極バッファ層として用いた場合、十分な光電変換効率が得られない虞があること、或いは、製膜するのに真空蒸着法や還元析出法などを適用する必要があり、コスト高となるという問題があった。
【0005】
本発明者らは、陽極側のバッファ材料に金属微粒子及びその分散剤を採用することにより、溶液塗布法で簡便にバッファ層を製膜でき、また、光電変換効率が高く、かつ長期安定性に優れる新たなタイプの有機薄膜太陽電池が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、第1観点として、透明基板上の透明電極と、金属電極と、これら両電極の間に介在する光電変換層と、該透明電極と該光電変換層との間で透明電極と接触するように形成されたバッファ層を備えてなる有機薄膜太陽電池において、
前記バッファ層は金属微粒子と高分子分散剤を含むことを特徴とする、
有機薄膜太陽電池に関する。
第2観点として、前記バッファ層は金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する重量平均分子量500乃至5,000,000の高分子化合物からなる高分子分散剤とを含むことを特徴とする、第1観点記載の有機薄膜太陽電池に関する。
第3観点として、前記バッファ層は金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する高分子分散剤との複合体を含むことを特徴とする、第2観点に記載の有機薄膜太陽電池に関する。
第4観点として、前記金属微粒子、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池に関する。
第5観点として、前記高分子分散剤が、式(1):
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は、それぞれ、炭素原子数1乃
至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表し、又は、R2とR3は互いに結合し、窒素原子と共に環を形成していてもよい。A1は式(2)又は式(3):
【化2】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3又はY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)を表し、nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。)で表されるジチオカルバメート基を有する分岐状高分子からなる高分子分
散剤である、第2観点乃至第4観点のうちいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池に関する。
第6観点として、A)透明電極が表面上に形成された透明基板を準備する段階と、
B)その上にバッファ層を該透明電極と接触するように形成する段階と、
C)さらにその上に光電変換層を形成する段階と、
D)そして該光電変換層の上又は上方に金属電極を積層する段階
とを有してなる有機薄膜太陽電池の製造方法において、
前記バッファ層を形成する段階は、金属微粒子と高分子分散剤とを含むリキッド薄層を前記透明電極の表面上に形成する段階と、形成されたリキッド薄層を光照射して硬化膜に成膜する段階とを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機薄膜太陽電池におけるバッファ層は、金属微粒子と高分子分散剤とを含みて形成され、従来の導電性高分子のようにドーパントを含有しないため、長期駆動後の電極酸化による性能劣化を抑制することができる。このため、光電変換効率が高く、且つ長期安定性に優れる有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は実施例1で作製した有機薄膜太陽電池の模式図(断面図)である。
【図2】図2は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池の大気暗所保存時間に対する電流変換効率(PCE)を示した図である。
【図3】図3は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池の大気暗所保存時間に対する短絡電流密度(JSC)を示した図である。
【図4】図4は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池の大気暗所保存時間に対する開放電圧(VOC)を示した図である。
【図5】図5は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池の模式図である。
【図6】図6は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池のN雰囲気下暗所保存時間に対する電流変換効率(PCE)を示した図である(実施例2、比較例3及び比較例4)。
【図7】図7は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池のN雰囲気下暗所保存時間に対する開放電圧(VOC)を示した図である(実施例2、比較例3及び比較例4)。
【図8】図8は実施例1、比較例1及び比較例2において作製した有機薄膜太陽電池のN雰囲気下暗所保存時間に対する開放電圧(VOC)を示した図である(実施例2、比較例3及び比較例4)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機薄膜太陽電池は、透明基板上の透明電極と、金属電極と、これら両電極の間に介在する光電変換層と、該透明電極と該光電変換層との間で透明電極と接触するように形成されたバッファ層を備えてなり、前記バッファ層は金属微粒子と高分子分散剤を、詳細には、金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する重量平均分子量500乃至5,000,000の高分子化合物からなる高分子分散剤とを含むことを特徴とする。
以下に上記バッファ層を構成する各成分、並びに本発明の有機薄膜太陽電池を構成する各成分について説明する。
【0010】
<バッファ層>
本発明の有機薄膜太陽電池に含まれるバッファ層は、金属微粒子と高分子分散剤とを含む。前記高分子分散剤とは、すなわち、金属微粒子の分散剤であり、微粒子表面と親和性を有する官能基を含有する化合物であることが好ましい。さらに、該微粒子表面と親和性
を有する官能基に加え、硬化性官能基を有するものであることが好ましい。
【0011】
前記微粒子表面と親和性を有する官能基としては、ジチオカルバメート基[例:−S−C−(=S)NRa2(Ra:アルキル基等)]、チオール基、シアノ基、アミノ基、ス
ルホニル基、リン酸基、カルボキシル基等の官能基が挙げられる。金属微粒子の分散剤において、このような微粒子表面と親和性を有する官能基を1種以上有していても良い。また、これらの官能基を有する分散剤は低分子化合物であっても高分子化合物であっても良いが、高分子化合物であることが本発明においては望ましい。
微粒子表面と親和性を有する官能基を含有する低分子化合物の具体例としては、ドデカンチオール、オレイン酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、オレイン酸アミド等が挙げられる。また、高分子化合物の具体例としては、前記式(1)で示される化合物、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0012】
前記硬化性官能基としては、ジチオカルバメート基、アクリロイルオキシ基、或いはメタクリロイルオキシ基、エポキシ基、ビニルエーテル基、トリアルコキシシリル基、オキセタニル基等が挙げられ、特に好ましいものとしてジチオカルバメート基が挙げられる。
このような硬化性官能基を有する分散剤の具体例としては、前記式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0013】
上述の分散剤の中でも、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物からなる高分子分散剤が好ましく、該ジチオカルバメート基を有する高分子化合物としては上記式(1)に示すものが挙げられる。
式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。
2及びR3は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表し、また、R2とR3は互いに結合し、窒素原子と共に環を形成していてもよい。
nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。
またA1は上記式(2)又は式(3)で表される構造を表す。
式(2)及び式(3)中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭
素原子数1乃至30の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。
【0014】
上記R2及びR3における炭素原子数1乃至5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
上記炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
上記炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0015】
また、R2とR3が互いに結合し、それらと結合する窒素原子と共に形成する環としては、四乃至八員環が挙げられ、そして環としてメチレン基を四乃至六個含む環が挙げられる。また、酸素原子又は硫黄原子と、四乃至六個のメチレン基を含む環も挙げられる。
1とR2が互いに結合し、それらと結合する窒素原子と共に形成する環の具体例としては、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環、チオモルホリン環、ホモピペリジン環等が挙げられる。
【0016】
前記A2におけるアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロ
ピレン基、n−ブチレン基、n−ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基、イソプロピレン基、2−メチルプロピレン基、イソブチレン基等の枝分かれ状アルキレン基が挙げられる。また環状アルキレン基としては、炭素数3乃至30の単環式、多環式、架橋環式の環状構造の脂環式脂肪族基が挙げられる。具体的には、炭素数4以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ、ペンタシクロ構造等を有する基を挙げることができる。
【0017】
またY1、Y2、Y3及びY4における炭素原子数1乃至20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素原子数1乃至20のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ペンチルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記Y1、Y2、Y3及びY4としては、水素原子又は炭素原子数1乃至20のアルキル基が好ましい。
【0018】
なお、本発明で用いられるジチオカルバメート基を有する高分子化合物は、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500乃至5,000,000であり、好ましくは1,000乃至1,000,000であり、より好ま
しくは2,000乃至500,000であり、最も好ましくは3,000乃至200,000である。また該高分子化合物の、分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0乃至7.0であり、又は1.1乃至6.0であり、又は1.2乃至5.0である。
【0019】
本発明において、前記バッファ層に含まれる金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物は、複合体を形成していることが好ましい。ここでいう金属微粒子とジチオカルバメート基を有する高分子化合物との複合体とは、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物が有するジチオカルバメート基の作用により、金属微粒子に接触又は近接した状態で両者が共存し、粒子状の形態を為すものであり、言い換えると、ジチオカルバメート基を有する高分子化合物のジチオカルバメート基が金属微粒子に付着又は配位した構造を有する複合体であると表現される。
従って、本発明において「金属微粒子とジチオカルバメート基を有する高分子化合物との複合体」には、上述のように、金属微粒子と高分子化合物が結合した一つの複合体を形成しているものだけでなく、金属微粒子とジチオカルバメート基を有する高分子化合物が結合部分を形成することなく、夫々独立して存在しているものも含まれていてよい。
該複合体は、例えばジチオカルバメート基を有する高分子化合物を溶解した溶液中で、金属塩の水溶液及び還元剤を添加して、金属イオンを還元することによって得られる。
【0020】
前記金属微粒子として用いられる金属は特に限定されず、例えば、金、銀、白金、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム等の微粒子を挙げることができる。なかでも、金、銀、白金及び銅が好ましい。
前記金属微粒子は、前記金属のイオンを還元することにより得られる。金属イオンを還元する方法としては、例えば、高圧水銀灯により光照射する方法、還元作用を有する化合物(還元剤)を添加する方法等があるが、後者の方法、すなわち、金属塩を溶解した水溶液に還元剤を添加する方法が、特別な装置を必要とせず製造上有利である。
前記金属塩としては、塩化金酸、硝酸銀、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一白金、Pt(dba)2[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pt(cod)2[cod=1,5−シクロオクタジエン]、PtMe2(cod)、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジ
ウム、Pd(dba)2、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウ
ム、Ru(cod)(cot)[cot=シクロオクタトリエン]、塩化イリジウム、酢酸イリジウム、Ni(cod)2等が挙げられる。
【0021】
上記還元剤としては、特に限定されるものではなく、通常使用される各種のものを使用することができ、含有させる金属種等により還元剤を選択することが好ましい。例えば、従来、還元剤として使用されている水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩、ヒドラジン化合物、クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩等を使用することができる。
上記還元剤の添加量は、上記金属イオン1molに対して1乃至50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5乃至10molである。
なお金属微粒子の平均粒子径は1乃至10nmが好ましく、さらには1乃至5nmが好ましい。
【0022】
前記複合体の形成にあたり、金属塩とジチオカルバメート基を有する高分子化合物との割合は、金属塩100質量部に対してジチオカルバメート基を有する高分子化合物50乃至2,000質量部が好ましい。50質量部未満であると、上記金属微粒子の分散性が不充分であり、2,000質量部を超えると、金属微粒子に付着又は配位していないジチオカルバメート基を有する高分子化合物の含有量が多くなり、金属微粒子の特性を発現する物性等に不具合が生じやすくなる。より好ましくは、100乃至1,000質量部である。
【0023】
上記金属微粒子と高分子化合物分散剤を含むバッファ層を形成する具体的な方法としては、まず前記微粒子と分散剤を、適当な溶媒に溶解又は分散してワニスの形態(膜形成材料)とする。
ここで使用する溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル等のエーテル系化合物、酢酸エチル等のエステル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系化合物、ジメチルスルホキシド、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が使用できる。これら有機溶媒は単独で使用してもよく、2種類以上の溶媒を混合してもよい。
ワニスの濃度としては、塗膜が形成できれば特に限定されず、前記ワニスの総質量に対して前記微粒子及び分散剤の総質量(合計質量)は好ましくは0.1乃至80質量%、より好ましくは1乃至50質量%である。
【0024】
続いて該ワニスを、電極基板上にスピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凸版、平板、スクリーン印刷等)等によって塗布し、その後、溶媒を蒸発・乾燥させることにより、リキッド薄層を形成する。
なお、これらの塗布方法の中でもスピンコート法が好ましい。スピンコート法を用いる場合には、単時間で塗布することができるために、揮発性の高い溶液であっても利用でき、また、均一性の高い塗布を行うことができるという利点がある。
【0025】
溶媒の乾燥法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレートやオーブンを用いて、適切な雰囲気下、すなわち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で蒸発させればよい。これにより、均一な成膜面を有するリキッド薄層を得ることが可能である。焼成温度は、溶媒を蒸発させることができれば特に限定されないが、40〜250℃で行うことが好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。
【0026】
そして形成されたリキッド薄層を、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ及びキセノンランプ等の紫外線照射ランプを照射することにより、硬化膜に成膜し、前記微粒子と分散剤を含むバッファ層を形成する。
該照射は、空気及び不活性ガス雰囲気下で行うことが出来る。特に、窒素、アルゴンなどの不活性気体雰囲気下での光照射は、ラジカルの失活を招く酸素がないので、空気雰囲気下と比較して硬化速度を短縮することができて望ましい。
紫外線硬化させる紫外線の量(mJ/cm2)は、紫外線照射強度と照射時間で制御す
ることが好ましく、光源の強度及び光源と照射対象の膜との間の距離は、硬化速度に比例するため、適宜選択することができる。
【0027】
リキッド薄層を硬化させた後、ワニスを作製したものと同様の溶媒を用いて、洗浄することにより未硬化部位を除去することができる。洗浄の方法としては、基板を溶媒に浸漬した上で、超音波照射や加熱、攪拌等の方法を用いることが出来る。
【0028】
<有機薄膜太陽電池を構成する他の層>
本発明の有機薄膜太陽電池は、一対の電極(透明電極、金属電極)とその間に介在する光電変換層とを含み、前記透明電極と光電変換層との間に前述のバッファ層を有するものである。
従って、本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法としては、透明電極(陽極)基板に対して前述のワニスを用いて上記の方法により電極上に前記微粒子と分散剤含むバッファ層を作製し、これを真空蒸着装置内に導入し、光電変換層、そして必要に応じて他の層及び金属電極(陰極)を形成することが好ましい。
以下、電極材料、光電変換層並びに他の層の材料について述べる。
【0029】
透明電極としては、有機薄膜太陽電池に照射される光を効率的に光電変換層に供給できる光透過性の高い材料が好ましく、且つ、光電変換層で生成した電気エネルギーを効率的に取り出せる導電性の高い材料が好ましい。
従って、透明電極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、及びインジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される導電性金属酸化物を用いた透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。中でもITOが特に好ましい。
透明電極は洗浄その他の処理により、光電変換効率を高めることが可能であり、例えばITOの場合、逆スパッタリング、オゾン処理、酸処理等の洗浄処理を行い表面の有機物等の異物を除去したものが用いられる。但し透明電極材料が有機物を主成分とする場合には表面処理を行わなくてもよい。
【0030】
前記光電変換層は、電子受容性材料と電子供与性材料とを含有する。
前記電子受容性材料としては例えば、[6、6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)などのフラーレン誘導体、ペリレン誘導体などが挙げられる。
また、電子供与性材料としては、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)などのポリチオフェン誘導体、ポリ−2−メトキシ−5−(3',7'−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン(MDMO−PPV)などのフェニレンビニレン誘導体、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)(PFO)などのポリフルオレ
ン誘導体など可視光に光吸収領域を有する高分子が挙げられる。
前記電子受容性材料と、電子供与性材料との配合割合は特に限定されないが、質量比で例えば電子受容性材料:電子供与性材料=5:2〜5:7である。
【0031】
また、光電変換層は、上記電子受容性材料と電子供与性材料のみから形成すればよいが、適宜、光電変換作用を有する導電性材料や色素などを更に添加しても良い。
導電性材料としては、例えば、ポリアセチレン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、ポリパラフェニレン系、ポリパラフェニンビニレン系、ポリチエニレンビニロン系、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)系、ポリフルオレン系、ポリアニリン系、ポリアセン系の導電性材料が挙げられる(但し、PEDOT:PSSは除く)。
また、色素としては、例えば、シアニン系、メロシアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、キノン系、キノイシン系、キナクドリン系、スクアリリウム系、トリフェニルメタン系、キサンテン系、ポルフィリン系、ペリレン系、インジコ系の色素が挙げられる。
こうしたその他の添加剤(導電性材料や色素)を光電変換層に添加する場合には、これらの添加量は限定的ではないが、上記電子受容性材料と電子供与性材料の合計量を100質量部として、1〜100質量部程度が好ましく、1〜40質量部程度がより好ましい。
【0032】
光電変換層の形成方法は限定されないが、例えば、上記電子受容性材料と電子供与性材料を適当な溶媒に溶解し、該溶液を前記バッファ層の上にスピンコートすることにより形成する。その他の添加剤を含む場合には、前記溶液に予め混合(溶解)しておくことが好ましい。
光電変換層の厚さは限定的ではないが、70〜250nm程度が好ましく、100〜200nm程度がより好ましい。
【0033】
金属電極材料としてはアルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウム等が挙げられる。
【0034】
なお、前記光電変換層と前記金属電極の間に、前記金属電極と接触するバッファ層(以下、陰極バッファ層と称する)としてフッ化リチウム(LiF)、MoO3、V25、W
3、TiO2、バソクプロイン(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン:BCP)、バソフェナントロリン(4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン:BPhen)からなる層を形成することもできる。
【0035】
前記陰極バッファ層及び金属電極は順次真空蒸着法により積層され、有機薄膜太陽電池を製造できる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
[合成例1:金微粒子−ジチオカルバメート基を有する高分子化合物の複合体(HPS−Au)の製造]
下記式(4)で示される分岐状高分子0.5gをテトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解し、これに30mM塩化金酸水溶液6.7mLを加えた。次いで0.1M水素化ホウ素ナトリウム水溶液10mLを5分間程度かけて滴下した。滴下に伴って溶液は褐色へと変化した。30分間攪拌を行った後、THFを減圧により留去すると水に不溶の黒色の沈殿が析出した。これを濾過してイオン交換水で洗浄した後、THF20mlを加えて溶解させ、メタノールにより再沈殿を行った。得られた粉末を回収し、乾燥を行った。誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により組成物中の金含有量を求めた結
果、6.4wt%であった。
【化3】

(上記式(4)中、Etはエチル基を表す。)
【0038】
[実施例1:有機薄膜太陽電池(ITO/HPs−Au/P3HT:PCBM/LiF/Al)の作成]
<ITO基板の作成>
図1に示すような有機薄膜太陽電池(以下、単に素子とも称する)を、陽極側のバッファ層(以下陽極バッファ層と称する)に前記合成例で製造した金微粒子−ジチオカルバメート含有高分子化合物の複合体を用いて作製した。
透明電極としてガラス基板上にインジウム−スズ酸化物(ITO)透明電極が製膜された透明導電膜基板(膜厚150nm、表面抵抗10Ω/□:三谷真空工業(株)、以下、ITO基板と称する)を用いた。
標準g線ポジ型フォトレジスト液(OFRP−800 30cP:東京応化工業(株))をITO基板上に全面塗布し、スピンコーター(K−359 S−1:(株)共和理研)でスピンコート(1回目:800rpm×3秒、2回目:2000rpm×20秒)した。これを120℃に保った乾燥機の中で約5分乾燥させた。その後、ITO電極のパターン(線幅2mmのストライプパターン)を印刷したOHPシートを基板上にのせ、UV露光機(ROBOLIGHT MODEL BOX−7:サンヤハヤト(株))を用いて7分間UV露光を行い、基板をパターンが見えるようになるまで現像液(NMD−3:東京応化工業(株))に浸して、現像液を水で洗い流した。続いて、イオン交換水で希釈した王水(体積比 塩酸:硝酸:イオン交換水=3:1:1)を用いてエッチングを行い、不要なITOを取り除いた。エッチング後イオン交換水で洗い流し、ダイヤモンドカッターを用いて20mm×20mmにカットした。基板に付着したガラス小片と残ったレジスト膜を取り除くためにアセトン中ですすいだ。その後、基板洗浄として、3%中性洗剤溶液(ホワイト−7−NL:ユーアイ化成(株))中で5分、10分、15分を1回ずつ、同様の作業をイオン交換水、アセトン、2−プロパノール中でそれぞれ超音波洗浄を行い、最後に2−プロパノール中で保存した。
【0039】
<電極の洗浄>
素子作製の段階において、基板を使用する直前に沸騰エタノール中で煮沸洗浄し、基板を引き上げた後にエタノール蒸気洗浄した。
さらにUV−O3クリーナー(NL−UV253:日本レーザー電子(株))で20分
間洗浄した。これは、低圧水銀ランプからの254nmと184nmの輝線により空気中の酸素をオゾン化し、活性酸素種により基板表面の有機物を強制的に水と二酸化炭素に分解して表面を洗浄するものであり、有機溶媒の煮沸洗浄では取り除くことの不可能な有機物を完全に取り除いた。
UV−オゾン洗浄後、窒素ガスで機内を置換してから基板を取り出した。
【0040】
<陽極バッファ層の作製>
前記合成例1で製造した金微粒子−ジチオカルバメート含有高分子化合物の複合体(以下、HPS−Auと称する)(Au含有率 4.5%)の0.3wt%オルトジクロロベンゼン溶液をグローブボックス内で調製した。この溶液をグローブボックス内で室温で遮光して3時間攪拌した後、クリーンルームのイエロールームに移した。
調製したHPS−Au溶液をパスツールピペットでシリンジに取り、孔径0.50μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製ディスポーザブルメンブレンフィルター(DISMIC series 13JP050AN:ADVANTEC社)を通して、洗浄したITO基板上に5〜6滴滴下し、スピンコーター(SPIN COATER 1H−D7:ミカサ(株))を用いてスピンコートした(3,000rpm、30秒)。
スピンコートした基板をホットプレート(DP−1S:アズワン(株))を用いて150℃、30分間アニールした。その後水銀ランプ(マスクアライメント装置 M−1S型:ミカサ(株);水銀ランプ:ウシオ電機(株))を用いて30分間露光した。
その後、シャーレにオルトジクロロベンゼンを適量入れ、露光した基板を1分間リンスした。次に、基板の乾燥のため、スピンコーター(SPIN COATER 1H−D7:ミカサ(株))に基板をセットし、オルトジクロロベンゼンを適量滴下し、3,000rpm、30秒の条件でスピンし、基板を乾燥させた。さらに、UV−O3クリーナー(
NL−UV253:日本レーザー電子(株))を用いてUV−オゾン処理を20分間行った後、その基板をグローブボックス内に搬入し、光電変換層の作製に供した。
【0041】
<光電変換層(P3HT:PCBM)の作製>
P3HT:PCBM(1wt:1wt)の3wt%オルトジクロロベンゼン溶液をグローブボックス内で調製した。この溶液をグローブボックス内で50℃で遮光して、12時間攪拌した。
次に、このP3HT:PCBM(1wt:1wt)の3wt%オルトジクロロベンゼン溶液をパスツールピペットでシリンジに取り、孔径0.50μmのPTFE製ディスポーザブルメンブレンフィルターDISMIC series 13JP050AN:ADVANTEC社)を通して、前述のHPS−Au(陽極バッファ層)を製膜した基板上に、2〜3滴滴下し、スピンコーター(SPIN COATER 1H−D7:ミカサ(株))を用いて、1回目:500rpm,30秒,2回目:2,000rpm,1秒,3回目:500rpm,300秒の条件でスピンコートした。
スピンコートした基板をホットプレート(DP−1S:アズワン(株)製)を用いて120℃、10分間アニールした。
【0042】
<陰極バッファ層(LiF)、金属電極(Al)の作製>
光電変換層を形成した前記基板上に、フッ化リチウム(純度98.0%:和光純薬工業(株))、アルミニウム小片(純度99.999%:(株)ニラコ)をそれぞれTaボート、Wバスケットに充填し、蒸着を行った。
フッ化リチウムは蒸着速度:0.1Å/秒にて1nm蒸着し、アルミニウムは0〜20nmまで蒸着速度:1.0〜2.0 Å/秒にて、その後、蒸着速度:3.0〜4.0Å
/秒にて130nm蒸着した。
上記のようにして作製した素子を、グローブボックス内で封止した。すなわち、円柱状の封止ガラスの縁上にUV硬化型エポキシ樹脂の封止剤(XNR 5516Z:ナガセケムテックス(株))をのせ、UVランプ(スポットキュア SP3:ウシオ電機(株))を用いてUV硬化させ、封止素子を作製した。
なお作製した有機薄膜太陽電池の模式図を図5に示す。
【0043】
[比較例1:有機薄膜太陽電池(ITO/PEDOT:PSS/P3HT:PCBM/LiF/Al)の作成]
陽極バッファ層をPEDOT:PSSとした以外は、実施例1の作製手順と同様に有機薄膜太陽電池を作製した。陽極バッファ層の作製は以下のように行った。
冷蔵保存したPEDOT:PSS(AI4083:H.C.Starck(社))をクリーンルームのイエロールームに移し、常温に戻した。
このPEDOT:PSSをパスツールピペットでシリンジに取り、孔径0.45μmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)製シリンジフィルター(25mm GD/X DIS
POSABLE FILTER DEVICE:Whatman(社))を通して、洗浄したITO基板上に5〜6滴滴下し、スピンコーター(SPIN COATER 1H−D7:ミカサ(株))を用いてスピンコートした(2,000rpm、30秒)。
スピンコートした基板をホットプレート(DP−1S:アズワン(株)製)を用いて130℃、20分間アニールした。
この基板をグローブボックス内に搬入し、実施例1に記載の手順で光電変換層、陰極バッファ層及び金属電極を順次作製した。
【0044】
[比較例2:有機薄膜太陽電池(ITO/P3HT:PCBM/LiF/Al)の作成]
陽極バッファ層を挿入しないほかは、実施例1の作製手順と同様に有機薄膜太陽電池を作製した。
【0045】
[有機薄膜太陽電池の測定方法]
上記実施例1、比較例1及び比較例2で作製した有機薄膜太陽電池について、それぞれ大気下暗所保存前後の光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(JSC)及び開放電圧(VOC)について測定し、各素子の耐久性を評価した。
〔測定装置〕
・光源:ソーラシミュレーター(YSS−50A:山下電装(株))
・電圧印加及び電流測定:ソースメジャーユニット 238(ケースレーインスツルメンツ(株)(旧取扱(株)東陽テクニカ))
〔測定条件〕
・電圧範囲:1.5V〜1.5V
・スイープ速度:0.05V/秒
・照射光:太陽光標準スペクトル AM 1.5G
・照射強度:白色光100mW/cm2(1sun)
・照射時間:約1分
〔測定手順〕
基板の2mm×2mmの正四角形の実効素子面を遮光シートで囲み、直径3mmのホールに合わせ大気下で測定を行った。
なお、素子の電極とソースメジャーユニットの接続には金線(純度99.95%,直径
0.05 mm:(株)ニラコ)と銀ペースト(ドータイト D−550:藤倉化成(株))を用いた。
素子の保存は測定時と同室の暗室において約100時間大気中で保存し、最初の測定を0時間として、5時間、10時間、15時間、20時間、30時間、50時間、70時間、100時間後に測定を行い耐久性を調査した。
得られた結果を表1並びに図2(電流変換効率)、図3(短絡電流密度)、図4(開放電圧)に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1並びに図2乃至図4に示すように、実施例1の素子は比較例1及び比較例2の素子と比べて、100時間経過後も種々の特性の劣化を抑制したとする結果が得られた。特に、短絡電流密度と変換効率の値は、比較例の素子が大きく劣化するのに対し、実施例1の素子は経時変化が少なく、大気安定性の高い有機薄膜太陽電池であることが確認された。
一方、比較例1の素子は、初期特性こそ実施例1の素子と同等の特性を示したものの経時劣化が大きいとする結果となった。また比較例2の素子は、実施例1及び比較例1の素子よりも経時劣化が大きく、これは、該素子が陽極バッファ層を持たない構成であるため、電荷の取り出しがスムーズに行えず、測定時に印加する電圧の影響を強く受け、素子自体が大きくダメージを受けているためだと考えられる。
【0048】
[有機薄膜太陽電池の測定方法]
(実施例2)
上記実施例1と同様に作製した有機薄膜太陽電池について、測定時以外は窒素雰囲気下(グローブボックス内)・暗所に保存し0(初期特性)・125・200・400時間後にそれぞれ測定した結果について、各素子の耐久性を評価した。得られた結果を表2並びに図6(電流変換効率)、図7(短絡電流密度)、図8(開放電圧)に示す。
【0049】
(比較例3)
上記比較例1と同様に作製した有機薄膜太陽電池について、それぞれN2雰囲気下・暗所
に保存した400時間後の光電変換効率(PCE)、短絡電流密度について測定し、各素子の耐久性を評価した。得られた結果を表2並びに図6(電流変換効率)、図7(短絡電流密度)、図8(開放電圧)に示す。
【0050】
(比較例4)
上記比較例2と同様に作製した有機薄膜太陽電池について、それぞれN2雰囲気下・暗所
に保存した400時間後の光電変換効率(PCE)、短絡電流密度について測定し、各素子
の耐久性を評価した。得られた結果を表2並びに図6(電流変換効率)、図7(短絡電流密度)、図8(開放電圧)に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
素子の保存を測定時と同室の暗室において大気中で行った場合の結果と同様、封止素子をN雰囲気下・暗所に保存した場合においても、表2並びに図6乃至図8に示すように、実施例2の素子は比較例2及び比較例3の素子と比べて、400時間経過後も種々の特性の劣化を抑制したとする結果が得られた。
【符号の説明】
【0053】
10 透明電極
11 陽極バッファ層
12 光電変換層
13 陰極バッファ層
14 金属電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2009−146981号公報
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 95,013305(2009)
【非特許文献2】山成 敏広、當摩 哲也、吉田 郵司 「有機薄膜太陽電池の高効率化と耐久性向上」 サイエンス&テクノロジー(株) p279−285
【非特許文献3】Thin Solid Films 518,(2009)537−540

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上の透明電極と、金属電極と、これら両電極の間に介在する光電変換層と、該透明電極と該光電変換層との間で透明電極と接触するように形成されたバッファ層を備えてなる有機薄膜太陽電池において、
前記バッファ層は金属微粒子と高分子分散剤を含むことを特徴とする、
有機薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記バッファ層は金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する重量平均分子量500乃至5,000,000の高分子化合物からなる高分子分散剤とを含むことを特徴とする、請求項1記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記バッファ層は金属微粒子と、ジチオカルバメート基を有する高分子分散剤との複合体を含むことを特徴とする、請求項2に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記金属微粒子、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記高分子分散剤が、式(1):
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は、それぞれ、炭素原子数1乃
至5のアルキル基、炭素原子数1乃至5のヒドロキシアルキル基又は炭素原子数7乃至12のアリールアルキル基を表し、又は、R2とR3は互いに結合し、窒素原子と共に環を形成していてもよい。A1は式(2)又は式(3):
【化2】

(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3又はY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のア
ルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)を表し、nは繰り返し単位構造の数であって2乃至100,000の整数を表す。)で表されるジチオカルバメート基を有する分岐状高分子からなる高分子分散剤である、請求項2乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項6】
A)透明電極が表面上に形成された透明基板を準備する段階と、
B)その上にバッファ層を該透明電極と接触するように形成する段階と、
C)さらにその上に光電変換層を形成する段階と、
D)そして該光電変換層の上又は上方に金属電極を積層する段階
とを有してなる有機薄膜太陽電池の製造方法において、
前記バッファ層を形成する段階は、金属微粒子と高分子分散剤とを含むリキッド薄層を前記透明電極の表面上に形成する段階と、形成されたリキッド薄層を光照射して硬化膜に成膜する段階とを含むことを特徴とする、有機薄膜太陽電池の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−205075(P2011−205075A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37057(P2011−37057)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】