説明

有機薄膜EL素子

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は平面光源やディスプレイに使用される有機薄膜発光素子に関するものである。
〔従来の技術〕
有機物質を原料としたEL(電界発光)素子は、その豊富な材料数と分子レベルの合成技術で、安価な大面積フィルム状フルカラー表示素子を実現するものとして注目を集めている。例えばアントラセンやペリレン等縮合多環芳香族系を原料としてLB法や真空蒸着法等で薄膜化した直流駆動の有機薄膜発光素子が製造され、その発光特性が研究されている。更に、最近有機薄膜を2層構造にした新しいタイプの有機薄膜発光素子が報告され、強い感心を集めている(アプライド・フィジックス・レターズ、51巻、913ページ、1987年)。これは第4図に示すように強い蛍光を発する金属キレート化合物を発光層44に、アミン系材料を正孔伝導性有機物の正孔注入層43に使用したもので明るい緑色発光を得たと報告している。6〜7Vの直流印加で約100cd/m2の輝度を得ている。41はガラス板、42は透明電極、45は金属電極である。
更に、発光層への電子注入を促進するため、電子注入層を追加した3層構造素子が提案されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
第4図に示したような構造をもつ有機薄膜EL素子の発光領域は正孔注入層43と発光層44の界面約200Å程度であるといわれている。他の領域は直接発光には関与していないと考えられている。そればかりか、この非発光領域は高抵抗層として働くため、発光閾値電圧を上げその結果発光効率を低下させている。更に発光に関与していないこの領域の抵抗値が高いと高輝度領域での輝度飽和現象を早めてしまう効果がある。
しかし、発光層44が500Å以下と薄いと素子のピンホール数が大きく増加し、表示素子としての特性を大きく損ねる結果となる。従って、発光層44はある程度の膜厚が信頼性向上のために必要であった。
有機薄膜EL素子の実用化のためには従来の素子と同程度の信頼性を確保しつつ、発光効率・発光輝度の向上が求められている。そのためには、従来の素子以上に発光領域を広げることが必要であるが、従来の技術ではこの問題を解決することができなかった。
本発明の目的は前記課題を解決した有機薄膜EL素子を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
前記目的を達成するため、本発明に係る有機薄膜EL素子は、少なくも一方で透明である一対の電極間に少なくとも1以上の電荷注入層と少なくとも1以上の有機蛍光体よりなる発光層を積層してなる有機薄膜EL素子において、前記電荷注入層と発光層間に、電荷注入材料と有機蛍光体とを混合してなる混合層を挿入したものである。
〔作用〕
この有機薄膜EL素子の発光メカニズムは次のように考えられている。すなわち、第4図において、ITO等の電極42から正孔注入層43へ正孔が流れ込むが、発光層44には正孔は入りにくく、発光層44との界面近傍で正孔濃度が高くなる。一方、電子は金属電極45から発光層44に入り、この中を伝導し正孔注入層43との界面に到達する。その結果、正孔注入層43と発光層44の界面では電子と正孔が再結合し、一重項励起子が生成され、これが発光の源となっていると考えられている。従来の有機薄膜EL素子では電子・正孔の移動度が小さいために再結合領域が非常にせまく、その結果発光領域がほぼ約200Å程度と、小さいということが最近の研究から明らかになった。
有機薄膜EL素子の場合、正孔注入層と発光層の界面に正孔注入層と発光層からなる混合層を挿入しても、若干移動度が低下するものの、ホッピングによる電荷輸送が可能であった。この電荷輸送過程で電子・正孔再結合の機会が正孔注入層と発光層が完全に分離している場合に比べ増え、実質従来素子より再結合領域が拡大していた。発光効率・輝度の向上が認められた。
正孔注入層としては電子写真等に使用されている有機低分子材料で、ヒドラゾン誘導体、オクサゾール誘導体、アミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体などが使用できる。有機蛍光体としてはトリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム、アントラセン、ペリレン、ナフタルイミド、フタロペリノン、トリフェニルシクロペンタジエン、スチルベン等固体状で強い蛍光を示すものが使用できる。有機の発光層に電子注入を促進する目的で、発光層と金属電極の間に電子注入層を挿入した、いわゆる3層構造素子においても、電子注入層・発光層間に混合層を挿入しても、同様に発光特性の向上という効果が得られた。
〔実施例〕
以下実施例を以て、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
第1図に示すように、ガラス板1上にITOなどからなる透明電極2を形成してから、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノビフェニル(以下ジアミンと略記)からなる正孔注入層3を300Å、有機蛍光体としてトリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(以下アルミキノリンと略記)とジアミンが1:1で混合した層からなる混合層4を500Å、最後にアルミキノリンを使用して発光層5を300Å順次形成した。最後にMgとInが10:1で混合した合金の金属電極6を電子ビーム蒸着法で1500Å形成して有機薄膜発光素子が完成する。
この素子の発光特性を乾燥窒素中で測定したところ、約5Vの直流電圧の印加で300cd/m2の緑色の発光が得られた。従来の素子に比べ発光輝度・効率が2から5倍改善されていることがわかる。この有機薄膜発光素子を電流密度0.5mA/cm2の状態でエージング試験をしたところ輝度半減時間は100時間以上であった。従来の素子では10から50時間であったから、この素子の信頼性は大幅に改善されている。また、電気特性のシフトも5V程度と、従来より大幅に低下した。
本発明はトリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム有機蛍光体ばかりでなく、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、テトラセン誘導体、スチルベン誘導体、ペリレン誘導体、キノン誘導体、フェナンスレン誘導体、ナフタン誘導体等、ナフタルイミド誘導体、フタロペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シアニン誘導体、その他可視領域で強い蛍光を発する有機物を発光層5の材料に使用しても同様な効果が認められた。また、この有機蛍光体に10-5から10-2mol程度のローダミン、シアニン、ピラン、クマリン、フルオレン、POPOP,PBBO等、他の蛍光の強い有機分子を更に添加して、発光波長を変えることができる。透明電極2はITO以外にZnO:AlやSnO2:Sb、In2O3、Auなど仕事関数が4.5eV以上ある導電性材料であればよい。
(実施例2)
本実施例は第1図において610nmから630nmに強い蛍光を発するペリレン誘導体を発光層5に用い、正孔注入層3としてトリフェニルメタン誘導体を用いた有機薄膜EL素子である。第2図に示すように、混合層4はトリフェニルメタン誘導体100%からペリレン誘導体100%に徐々に変化している。この混合層4の膜厚は600Åである。ペリレン誘導体からなる発光層5の膜厚は400Åである。またトリフェニルメタン誘導体の膜厚は100Åである。最後にMgとInが10:1で混合した合金の金属電極6を電子ビーム蒸着法で1500Å形成して有機薄膜発光素子が完成する。
第2図の混合層4の濃度分布は階段状であっても効果が認められた。
(実施例3)
本実施例は第3図に示すように610nmか630nmに強い蛍光を発するフタロペリノン誘導体を発光層33に用い、電子注入層35としてアルミキノリンを用いた有機薄膜EL素子である。31はガラス板、32は透明電極である。混合層34はアルミキノリン100%からフタロペリノン誘導体100%に徐々に変化している。この混合層34の膜厚は700Åである。フタロペリノン誘導体からなる発光層33の膜厚は400Åである。またアルミキノリンの膜厚は300Åである。最後にMgとInが10:1で混合した合金の背面金属電極36を電子ビーム蒸着法で1500Å形成して有機薄膜発光素子が完成する。
電子注入層35の材料としてアントラセン、テトラセンなどを用いてもよい。更に、正孔注入層を加えた4層あるいは5層構造の素子でも同様な効果が得られた。
〔発明の効果〕
以上述べたように、本発明により従来の有機薄膜EL素子に比べより低い電圧で発光輝度が高く、かつ発光効率の優れた素子を提供することが可能となった。更に、従来より低い電圧で明るく発光するため、小さな投入電力で素子を駆動できる。この結果、従来の素子に比べ素子劣化が少なく、100時間でも駆動電圧の上昇・輝度低下が少ない。
このように、本発明は有機薄膜EL素子の工業化に寄与している。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の実施例1及び実施例2に係る有機薄膜EL素子を示す断面図、第2図は本発明の実施例2に使用した有機薄膜EL素子の濃度分布を示す図、第3図は本発明の実施例3に係る有機薄膜EL素子を示す図、第4図は従来の有機薄膜EL素子を示す図である。
1,31,41……ガラス板、2,32,42……透明電極
3,43……正孔注入層、5,33,44……発光層
35……電子注入層、4,34……混合層
6,36,45……金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも一方が透明である一対の電極間に少なくとも1以上の電荷注入層と少なくとも1以上の有機蛍光体よりなる発光層を積層してなる有機薄膜EL素子において、前記電荷注入層と発光層間に、電荷注入材料と有機蛍光体とを混合してなる混合層を挿入したことを特徴とする有機薄膜EL素子。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2773297号
【登録日】平成10年(1998)4月24日
【発行日】平成10年(1998)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−253207
【出願日】平成1年(1989)9月28日
【公開番号】特開平3−114197
【公開日】平成3年(1991)5月15日
【審査請求日】平成8年(1996)8月28日
【出願人】(999999999)日本電気株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平2−196475(JP,A)
【文献】特開 平2−216790(JP,A)
【文献】特開 平3−35083(JP,A)
【文献】特開 昭61−37858(JP,A)
【文献】特開 昭61−44982(JP,A)