説明

有機質肥料における水溶性窒素成分の利用

【課題】
原料や製造方法が異なる多様な有機質肥料において、その窒素成分による肥料効果に応じた当該有機質肥料の施用量を容易に提案又は決定する方法等を提供することを課題とする。
【解決手段】
有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分としての水溶性窒素成分の使用、並びに、
有機質肥料の施用量の提案又は決定方法であって、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量を選定する工程、有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量を測定する工程、及び、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量等になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する工程を含むことを特徴とする方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分としての水溶性窒素成分の使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に施用する有機物資材は、養分供給を目的とした有機質肥料と、それ以外の面で土壌の性質を改良する有機性の土壌改良資材とに分けられる(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、堆肥等の有機物を原料とした土壌改良資材は窒素成分を含有し窒素肥料としての効果も有する。ここでは両者を併せて有機質肥料と言う。有機質肥料は肥料効果と土壌改良効果とを有するので農作物の栽培に広く利用されている。
市販されている有機質肥料には各種の窒素成分が含まれており、通常、含まれる窒素成分の全量が表示されている。しかしながら、表示される窒素成分の全量が同量になるように、各種の有機質肥料を施用すると、農作物の生育は用いられた有機質肥料により全くバラバラな状態になる。そのために、農作物が利用できる窒素成分の目的量を農作物に与えるために必要な有機質肥料の施用量は、農作物を実際に栽培して経験的に決める必要があった。
【0003】
【非特許文献1】有機栽培の基礎知識、西尾道徳著、農文協、1998年第3刷
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、市販されている有機質肥料には各種の窒素成分が含まれており、通常、含まれる窒素成分の全量が表示されているが、当該有機質肥料に含まれる各種の窒素成分の中で農作物が利用できる窒素成分の量が実際にどの程度含まれているかは全く明確ではない。
従って、原料や製造方法が異なる多様な有機質肥料において、その窒素成分による肥料効果に応じた当該有機質肥料の施用量を容易に提案又は決定することができれば、各種の有機質肥料を施用する場合にも、用いられた有機質肥料による肥料効果のバラツキを抑えることで、より均一化された農作物の生育状態を得ることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは、有機質肥料に含まれる窒素成分による肥料効果に応じた当該有機質肥料の施用量を容易に提案又は決定する方法について種々鋭意検討した結果、有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分として水溶性窒素成分を使用することにより、例えば、有機質肥料の施用量を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定すれば、用いられた有機質肥料による肥料効果のバラツキを極力抑えることで、より均一化された農作物の生育状態を得ることが可能になることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、
1.有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分としての水溶性窒素成分の使用(以下、本発明使用と記すこともある。);
2.肥料の施用方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする施用方法(以下、本発明施用方法と記すこともある。);
3.土壌の改良方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする改良方法(以下、本発明改良方法と記すこともある。);
4.農作物の栽培方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用し、かつ、当該土壌を用いて農作物を生育させることを特徴とする栽培方法(以下、本発明栽培方法と記すこともある。);
5.有機質肥料の施用量の提案又は決定方法であって、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量を選定する工程、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量を測定する工程、及び、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する工程を含むことを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある。);
6.有機質肥料の施用量の提案又は決定システムであり、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段及び
提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段
とを含むことを特徴とするシステム(以下、本発明システムと記すこともある。);
7.有機質肥料の施用量の提案又は決定プログラムであり、コンピュータを、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段及び
提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段
として機能させるためのプログラム(以下、本発明プログラムと記すこともある。);
8.前項5記載の方法により提案又は決定された有機質肥料の施用量が表示されてなることを特徴とする有機質肥料の包装材(以下、本発明包装材と記すこともある。);
9.有機質肥料を含む肥料の製造方法であって、
有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の含有量を測定して得られる値が、予め設定された範囲の水溶性窒素成分の含有量になるように品質管理する工程を含むことを特徴とする製造方法(以下、本発明製造方法と記すこともある。);
10.有機質肥料が、当該肥料の全量に対する水溶性窒素成分の量の比率が25%を超えない有機質肥料であることを特徴とする前項1記載の施用方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料や製造方法が異なる多様な有機質肥料において、その窒素成分による肥料効果に応じた当該有機質肥料の施用量を容易に提案又は決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分としての水溶性窒素成分の使用、肥料の施用方法、土壌の改良方法、農作物の栽培方法、有機質肥料の施用量の提案又は決定方法、有機質肥料の施用量の提案又は決定システム、有機質肥料の施用量の提案又は決定プログラム、有機質肥料の包装材、有機質肥料を含む肥料の製造方法等に関する。
本発明を利用すれば、有機質肥料を用いる場合において、窒素成分を適切に施肥することが可能となり、また、有機質肥料を施用して土壌を改良することが可能となり、さらに、栽培された軟弱徒長や倒伏しない農作物や硝酸イオン濃度が適切な農作物等が提供可能となる。また、本発明を利用すれば、有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の量を測定することにより、当該有機質肥料の窒素成分肥料としての肥料効果を予め評価することが可能となる。さらにまた、本発明を利用すれば、有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の量を測定することにより、一定した品質の、又は、目的とする肥料効果を提供する有機質肥料を製造する方法が提供可能となる。また、本発明を利用すれば、有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の量に基づいて、農作物毎に知られている適正な窒素成分の施肥量を過不足なく施用するが可能となる。
【0009】
本発明において「肥料」とは、植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施されるもの及び植物の栄養に供することを目的として植物に施されるものをいう。
肥料成分としては、窒素成分、リン、カリウムが最も重要であるが、中でも窒素成分は土壌中で最も不足しがちな養分である。従って、農作物の生育促進のために窒素成分の供給は極めて重要である。一方で、窒素成分を過剰に施用すると農作物は軟弱徒長し、倒伏したり、病害虫の被害を受け易くなる。また、種子や果実を生産する農作物では収穫期に窒素成分が過剰だと登熟が遅れたり、種子や果実の品質が低下する。さらに、窒素成分を過剰に施肥して栽培された野菜は含有する硝酸イオン濃度が高まる。このことから、農作物を適切に栽培するためには窒素成分を適切な時期に適切な量施用することが必要である。
本発明において「肥料」は、「化学肥料」と「有機質肥料」とに分類することできる。ここで化学肥料とは、平成15年7月1日施行の肥料取締法(以下、肥料取締法と言う)に基き平成16年5月25日施行の公定規格(以下、公定規格と言う)に定められた普通肥料のうち、有機質肥料(汚泥堆肥等を含む)を除いた肥料をいう。「化学肥料」のうち窒素成分質肥料には、空中窒素から合成されるアンモニアを原料として生産される硫安、塩安、リン安等のアンモニア系肥料、硝安、硝酸石灰、硝酸カリ等の硝酸系肥料、尿素、尿素アルデヒド縮合物等のアミド系肥料、空中窒素から合成される石灰窒素等がある。また、これらを反応又は配合した化成肥料、配合肥料がある。これらの特長は窒素成分の含有率が高く、かつ、その成分が水溶性であり、含まれる窒素成分の全てが農作物に利用され得る形態であることから、農作物が必要とする窒素成分を供給するために必要な肥料の量が容易に計算できる。
【0010】
本発明における「有機質肥料」とは、肥料取締法の公定規格に定められた有機質肥料、及び、汚泥堆肥等、及び、肥料取締法に定められた特殊肥料のうち有機物を原料とするもの、及び、その他の農家が自給する養分供給を目的とした有機物を原料とする資材等である。有機質肥料は、一般的には、植物が利用できる形態及び土壌中で植物が利用できる形態に変換されるものであり、特に後者の形態においては、土壌中で微生物等の働きによって無機化されることが必須であって、このようにして農作物に利用される形態に変化するものと考えられており、その反応は極めて複雑である。尚、ここで「堆肥」とは、例えば、有機質資材を堆積して醗酵させ、土壌施用後農作物に障害を与えなくなるまで腐熟させたもの等であり、堆肥化する原料及び醗酵程度により、成分も無機化される割合も全く異なる。
有機質肥料としては、具体的には例えば、魚かす粉末、魚荒かす粉末、干魚肥料粉末、魚節煮かす等の魚肥、ナタネ油かす、ダイズ油かす等の油かす類、獣骨から脂肪・ゼラチン等を取り除いて残った骨を粉砕した骨粉類、乾燥菌体肥料、牛糞堆肥、豚糞堆肥、鶏糞堆肥、醗酵鶏糞、乾燥鶏糞等の家禽糞肥料、メタン醗酵残渣、籾殻堆肥、剪定枝堆肥等の植物性堆肥、汚泥堆肥、生ゴミ等を挙げることができる。
前述のように、農作物を適切に栽培するためには、窒素成分を適切な時期に適切な量施用することが必要である。農作物の種類によってその量、時期等は異なるのが、それらは各地の農業試験場ですでに調べられており、施肥基準として公開されている。この際に、施肥された肥料に含まれる窒素成分の全量が作物に利用され得る形態であるという理由で、施肥基準は特に断らない限り化学肥料を用いた場合について示されている。市販されている化学肥料には含有される窒素成分が表示されており、それら全量が、植物が利用できる形態であるから、当該施肥基準により容易に適切な肥料の種類及び量を決定できる。また、何らかの事情で別の化学肥料を使用したい場合でも、これまでに使用されていた化学肥料の種類及び量の情報から、その適切な使用量を決定することも容易である。これに対して、有機質肥料の場合には、施肥された肥料に含まれる窒素成分の全量が作物に利用され得る形態ではなく、しかも有機質肥料の種類により異なるために、前記の施肥基準から個々の有機質肥料の適切な使用量を決定することは困難である。同様に、これまでに使用されていた有機質肥料の種類及び量の情報から別の有機質肥料の適切な使用量を決定することも困難である。このような状況を解決するために、本発明は極めて有効に機能する。
尚、一部の有機質肥料については、その全窒素成分のうち農作物の栽培期間中に無機化される窒素成分の割合が調べられている。例えば、有機栽培の基礎知識(西尾道徳著)には、蹄角、乾血、魚粕、肉粕、ナタネ油かす等の有機質肥料を土壌に添加して培養した際に無機化される窒素成分の量は、含有する全窒素成分に対して有機質肥料の種類により40〜60%と記載されている。しかしながら、有機質肥料は原料が一定である補償は無く、従って、同じ有機質肥料を使用しても、銘柄により無機化される窒素成分の割合が実際には異なっている。
【0011】
本発明における「水溶性窒素成分」とは、有機質肥料に、当該有機質肥料の新鮮重と等量程度〜約100倍量の水(好ましくは、約5倍量〜約20倍量の水)と共に、室温で約30分間〜約2時間程度振とうした後、当該混合物を静置、濾過又は遠心分離することにより得られる上澄み液に含まれる窒素成分をいう。具体的には例えば、各種の有機質肥料100gを1000mlと共に、室温で30分間振とうした後、当該混合物を濾過することにより濾過液を得て、さらに得られた濾過液を遠心分離(3000×g,5min)することにより、分離された上清に含まれる窒素成分等を好ましいものとして挙げることができる。
【0012】
本発明における「有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分」とは、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量で土壌に施用し、かつ、当該土壌を用いて農作物を生育させる場合において得られる肥料効果と同程度な肥料効果を、有機質肥料を用いた場合においても得るために、有機質肥料の施用量を提案又は決定する際に、基準とする成分のことである。具体的には、有機質肥料が含有する水溶性窒素成分のことであり、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量(即ち、有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量が、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量×1/2以上、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量×2以下の範囲内である量)になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定すればよい。
ここで、好ましくは「同等な量」を挙げることができるが、後述の実施例において具体的に説明されるように、使用される土壌の種類等によっても肥料効果が変動するため、当該土壌条件等に基づく肥料効果の若干のバラツキをより精度高く制御するためには、まずは「同等な量」になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定し、さらに得られた実際の肥料効果の若干のバラツキに応じて、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量(肥料効果を弱める場合等)、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量(肥料効果を高める場合等)を再提案又は再決定してもよい。
【0013】
本発明方法は、本発明使用に基づくものであり、有機質肥料の施用量の提案又は決定方法であって、(1)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量を選定する工程、(2)有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量を測定する工程、及び、
(3)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する工程、を含む。
【0014】
本発明施用方法は、肥料の施用方法において、有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする。
本発明施用方法において、有機質肥料を施用する方法としては、土壌に対して全面施用、条施用、点施用、表面施用、表層施用、深層施用、全層施用等の方法が挙げられる。
【0015】
本発明改良方法は、土壌の改良方法において、有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする。
本発明改良方法によれば、有機質肥料を土壌改良資材として容易に用いることが可能となる。尚、ここで「土壌改良資材」とは、植物の栽培に資するため土壌の性質に変化をもたらすことを目的として土壌に施されるものであり、土壌の団粒形成や排水性等の物理的性質、陽イオン交換能等の化学的性質、微生物の量と活性や多様性等の生物性等を改善することを目的とする資材のことである。
【0016】
本発明栽培方法は、農作物の栽培方法において、有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用し、かつ、当該土壌を用いて農作物を生育させることを特徴とする。
本発明方法においては、有機質肥料とともに、植物病害防除剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤、土壌改良剤等を混用又は併用することもできる。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明システム及び本発明プログラム等について説明する。図4に、本発明システムのフロー図を、図5に、本発明システムの概略構成を示す図を示した。
【0018】
本発明システムは、有機質肥料の施用量の提案又は決定システムであり、(1)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段(以下、手段aと記すこともある。)、(2)有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段(以下、手段bと記すこともある。)、(3)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段(以下、手段cと記すこともある。)、及び、(4)提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段(以下、手段dと記すこともある。)、とを含む。
【0019】
そして、本発明プログラムは、有機質肥料の施用量の提案又は決定プログラムであり、コンピュータを、(1)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段(即ち、手段a)、(2)有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段(即ち、手段b)、(3)有機肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段(即ち、手段c)、及び、(4)提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段(即ち、手段d)、として機能させるためのプログラムである。
【0020】
まず、手段aについて説明する(図4M1)。手段aは、前記のとおり、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を入力した後、入力された当該情報を蓄積・管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の当該情報の入力可能なものが挙げられる。当該情報の入力及び蓄積・管理が完了すれば、次の手段bに進む。
【0021】
手段bについて説明する(図4M2)。手段bは、前記のとおり、有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を入力した後、入力された当該情報を蓄積・管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の当該情報の入力可能なものが挙げられる。当該情報の入力及び蓄積・管理が完了すれば、次の手段cに進む。
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量について、前記のとおり測定を行い、得られた窒素成分量を、入力手段1により、入力する。
【0022】
手段cは、前記のとおり、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段(図1M3)であり、手段aにより蓄積・管理された「有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用」量と、手段bにより蓄積・管理された「有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量」とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を算出手段4により算出した後、算出された当該施用量を提案又は決定する手段である。
算出された当該施用量は、通常、記憶手段2に記憶され、さらに表示・出力手段3により表示可能となっている。必要に応じて、表示することにより提案された当該施用量について確認を求めるための決定手段5により、当該施用量を決定すればよい。
【0023】
手段dは、前記のとおり、提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段である(図1M4)。表示・出力手段3としては、例えばディスプレイ、プリンタ等が挙げられる。
【0024】
また、(1)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段(即ち、手段a)、(2)有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段(即ち、手段b)、(3)有機肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段(即ち、手段c)、及び、(4)提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段(即ち、手段d)、をコンピュータシステムにより実現する処理プログラムとして備えることもできる。かかる処理プログラムは、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に記録し、コンピュータシステムにロードして起動して用いてもよいし、ネットワークを介してロードして起動してもよい。
【0025】
以下、具体的な一つの例を挙げて上記発明をより詳細に説明する。
(1)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段;
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係わる情報は、当該作物の栽培地域、農作物の種類、栽培方法と共に蓄積・管理される。
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量は、面積当り、1株当たり、又は、ポット若しくは育苗箱当り(以下、施用単位と記すこともある。)、の量として蓄積されることが好ましい。
各種の農作物について、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量は、例えば、各県の農業試験場、農業改良普及所、JA、地域の慣行施肥情報、自身の試験結果又は実績等から収集することができる。当該情報は、通常、施肥時に土壌に残存する無機態窒素成分の影響が無視できる程度に少ない場合の数値である。土壌に残存する無機態窒素成分の量に応じた窒素成分の施用量に関する情報が得られる場合には、この情報を合わせて収集することが好ましい。尚、これらの情報を収集する際には、当該農作物の栽培地域、当該農作物の種類等に関する情報を同時に得ればよい。
また栽培方法については、作型、施用時期(例えば、元肥・追肥の別)等に関する情報を収集することが好ましい。
以上、これら情報は、例えば、農作物の種類−栽培地域−作型−施用時期−土壌に残存する無機態窒素成分の量−有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の量、のように階層構造又は配列構造をもつデータとして整理することが好ましい。更に好ましくは、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウエアとを用いて、前記のようなデータ構造を有する情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0026】
(2)有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段;
各種の有機質肥料の種類と、それが含有する水溶性窒素成分の量に係わる情報を入手して整理する。有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量は、自身で測定してもよいし、提供された情報を入手してもよい。また、有機質肥料の種類に係わる情報としては、肥料取締法に定義された分類、又は、堆肥にあっては主要な原料に係わる情報を同時に整理することが好ましい。更に好ましくは、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウエアとを用いて、これらの情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0027】
(3)有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段;
まず、目的とする農作物、栽培地域、作型、施用時期(例えば、元肥・追肥の別)が合致する情報を手段(1)から検索する。合致する情報があれば、面積当り、1株当り、又は、ポット若しくは育苗箱当りに必要とされる、有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量を知ることができる。尚、完全に合致する情報が無い場合には、類似した地域、類似した作型等に基づき検索されて得られた参考情報を用いてもよい。
次に、施用しようとする有機質肥料を手段(2)から選択する。これにより、当該有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係わる情報が得られる。
【0028】
施用しようとする有機質肥料の施用量を下記の式に基づき算出し提案又は決定してもよい。
【0029】
S=(Q/X)×100
条件:有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量(Q)と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量(R)とが同等な量、又は、当該同等量(Q)に対して当該同等量の半分量(Q/2)を超えない量が減じてなる量(Q−Q/2<=)、若しくは、当該同等量(Q)に対して当該同等量を超えない量が加してなる量(<=Q+Q)になる(Q/2<=R<=2Q)ように有機質肥料の施用量(S)を提案又は決定する。
S:提案又は決定される有機質肥料の施用量
Q:有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量
X:有機質肥料の全量に対する水溶性窒素成分の量の比率(%)
R:有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量
【0030】
(4)提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段
手段(3)により提案又は決定された有機質肥料の施用量を、目的とする農作物、作型、施用時期(例えば、元肥・追肥の別)及び施用単位等に係わる情報とともにコンピュータのディスプレイ装置に表示するか、印刷等により紙上に出力するか等すればよい。
【0031】
本発明包装材は、本発明方法により提案又は決定された有機質肥料の施用量が表示されてなることを特徴とする有機質肥料の包装材である。
例えば、100g〜30kgの内容物の保持・運搬に適した強度を有するポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂製の包装材であって、当該肥料の施用に適した特定又は代表的作物種と、それらへの適切な施用量とが表示された包装材等が挙げられる。施用量の表示は、袋に直接印刷したり、当該施用量が表示されたラベルを袋に貼付けする等により行なうことができる。
【0032】
本発明製造方法は、有機質肥料を含む肥料の製造方法であって、有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の含有量を測定して得られる値が、予め設定された範囲の水溶性窒素成分の含有量になるように品質管理する工程を含む。
例えば、(1)有機質肥料の原料について水溶性窒素成分の含有量を前述のように測定し、得られた値が予め設定された範囲である原料を選択する方法、(2)製造された有機質肥料について、水溶性窒素成分の含有量を測定し、得られた値が予め設定された範囲であることを確認する方法、等により品質管理しながら肥料を製造することもできる。さらに、原料を醗酵させて生産する堆肥にあっては、醗酵を行なう過程において水溶性窒素成分の含有量を測定し、その値が予め設定された範囲の水溶性窒素成分の含有量になるまで堆肥の醗酵を行なうことにより、得られた堆肥の品質を一定にしながら肥料を製造することもできる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明方法を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明方法はこれらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1
各種の有機質肥料に含まれる窒素成分の全量(以下、窒素成分全量と記す。)をケルダール法により分析した。同様に、各種の有機質肥料100gを1000mlの水と共に30分間振とうした後、当該混合物を濾過した。得られた濾過液を遠心分離(3000×g,5min)することにより、分離された上清を回収した。また、このようにして水溶性窒素成分が抽出された残りの有機質肥料(固形物)を残渣として回収し、回収された残渣は後述の実施例で使用された。
次いで、回収された上清に含まれる窒素成分(即ち、水溶性窒素成分)の全量(以下、水溶性窒素成分量)をケルダール法により測定した。
得られた結果を表1(各種の有機質肥料の窒素成分全量及び水溶性窒素成分量の測定結果)に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例2
表1に示された各種の有機質肥料を、水溶性窒素成分量がポット当り100mgとなるように土壌(まさ土)と混和し、当該土壌を用いてコマツナを1ヶ月間栽培した。
比較対照として無肥料区(無)、並びに、化学肥料として硝酸アンモニウム(NI)又は40日型被覆尿素(CU)をそれぞれ窒素成分全量が100mg又は200mgとなるように施用された区を設けた。
尚、リン酸及びカリウムは全てのポットに同量添加された。栽培後に得られた植物体の生育量を茎葉と根との乾物量(g/ポット)として表2及び表3に示した。
その結果、コマツナの施肥による生育量は、表1では、(有機質肥料の代わりに)化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量になるように有機質肥料の施用量を決定した場合の試験結果が示されており、当該化学肥料を用いた場合の生育量を100とすると、各有機質肥料を用いた場合の生育量は81から100の間にあった。また、表2では、(有機質肥料の代わりに)化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量になるように有機質肥料の施用量を決定した場合の試験結果が示されており、当該化学肥料を用いた場合の生育量を100とすると、各有機質肥料を用いた場合の生育量は97から133の間にあった。
尚、比較対照である硝酸アンモニウム区(NI)又は40日型被覆尿素区(CU)においてもほぼ同程度であった。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
以上、実施例1及び実施例2の結果から、各種の有機質肥料における全窒素成分量を指標として、当該有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と当該有機質肥料が含有する全窒素成分の量とが同等な量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用する場合と、本発明のように、当該有機質肥料における水溶性窒素成分量を指標として、当該有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と当該有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用する場合との具体的な比較において、例えば、当該有機質肥料の施用量は、表1から明らかなように、1/44(A:バーク、牛糞、0.19/8.3)、1/25(C:メタン醗酵残渣・牛糞堆肥、0.40/10.1)、1/9.5(E:生ゴミ・牛糞堆肥、2.23/21.1)、1/9.3(B:牛糞・鶏糞・籾殻堆肥,0.92/8.6)、1/8.7(D:剪定枝・汚泥堆肥、1.46/12.7)、1/5.2(F:醗酵鶏糞、4.19/21.9)、1/4.5(H:乾燥鶏糞、6.99/31.5)、1/4.3(G:汚泥堆肥、6.90/29.9)倍の幅広い差異(最大相違として約10倍(=44/4.3))を生じてしまう。しかしながら、本発明を適用すれば、表2〜3から明らかなように、生育量指数として48〜133(最大相違として約2.8倍(=133/48))、このうち多くのものが81〜133(最大相違として約1.6倍(=133/81))になり、差異の幅は著しく大幅に縮小させることが可能となり、用いられた有機質肥料による肥料効果のバラツキを極力抑えることで、より均一化された農作物の生育状態を得ることが可能になることが判明した。
【0040】
実施例3
表1に示された各種の有機質肥料を、当該有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分量として100mgとなるように秤取った。秤取られた有機質肥料をその10倍量の水と共に30分間振とうした後、当該混合物を濾過した。得られた濾過液を遠心分離(3000×g,5min)することにより、分離された上清を回収した。また、このようにして水溶性窒素成分が抽出された残りの有機質肥料(以下、水洗有機質肥料と記すこともある。)を残渣として回収した。
次いで、回収された残渣を土壌(まさ土)と混和し、当該土壌を用いてイタリアンライグラスを3作栽培した。3作栽培された全てのイタリアンライグラスに含まれる窒素成分の全量(即ち、イタリアンライグラスが吸収した窒素成分の総量であって、以下、窒素成分吸収量と記す。)をケルダール法により測定した。結果を図1に示した。
その結果、水洗有機質肥料を施用して栽培されたイタリアンライグラスが吸収した窒素成分は3回栽培を行なっても肥料無施用区とほぼ同等であり、有機質肥料に含有される、非水溶性窒素成分は栽培期間中に殆ど無機化されないことが判明した。
【0041】
実施例4
表1に示された各種の有機質肥料を、水溶性窒素成分量がポット当り200mgとなるように土壌(まさ土)と混和し、当該土壌を用いてコマツナを1ヶ月間栽培した。
比較対照として無肥料区(無)、並びに、化学肥料として硝酸アンモニウム(NI)又は40日型被覆尿素(CU)をそれぞれ窒素成分全量が100mgとなるように施用された区を設けた。
尚、リン酸及びカリウムは全てのポットに同量添加された。栽培後に得られた植物体の生育量を茎葉と根との乾物量(g/ポット)として表4に示した。 その結果、コマツナの施肥による生育量は、表4では、(有機質肥料の代わりに)化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量に対して当該同等量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を決定した場合の試験結果が示されており、当該化学肥料を用いた場合の生育量を100とすると、各有機質肥料を用いた場合の生育量は48から129の間にあった。
尚、比較対照である硝酸アンモニウム区(NI)又は40日型被覆尿素区(CU)においてもほぼ同程度であった。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例5
3ヶ所の農家圃場から土壌(以下、農家土壌と記すこともある。)を採取し、それらに含まれる無機態窒素成分の量を測定した。それぞれの農家土壌をポットに詰め、前記の無機態窒素成分の量と有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の量との合計がポット当り100mgになるよう有機質肥料を施用した。栽培後に得られた植物体の生育量を茎葉と根との乾物重(g/ポット)として表5に示した。
その結果、それぞれの土壌において、化学肥料を用いた場合の生育量を100とすると、各有機質肥料を用いた場合の生育量は74から130(生育量指数1に相当)の間にあった。更に、異なる土壌に化学肥料を施用した場合の植物体生育量は、最も生育が良好であった農家土壌3での生育量を100とすると、最低の生育量は68(生育量指数2に相当)であった。
【0044】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、原料や製造方法が異なる多様な有機質肥料において、その窒素成分による肥料効果に応じた当該有機質肥料の施用量を容易に提案又は決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、残渣として回収された「水溶性窒素成分が抽出された残りの有機質肥料」(即ち、水洗有機質肥料)を土壌と混和し、当該土壌を用いて3作栽培された全てのイタリアンライグラスに含まれる窒素成分の全量(即ち、イタリアンライグラスが吸収した窒素成分の総量であって、窒素成分吸収量)を示した図である。 表中の「NO」は無肥料区(無)、「AS」はバーク・牛糞堆肥区(A)、「SK」は牛糞・鶏糞・籾殻堆肥区(B)、「FR」は醗酵鶏糞区(F)、「KN」は汚泥堆肥区(G)、「LP」は被覆尿素区(L)を示す。
【図2】図2は、本発明システムのフロー図である。
【図3】図3は、本発明システムの一例の概略構成を機能的に示した図である。
【符号の説明】
【0047】
1・・入力手段
2・・記憶手段
3・・表示・出力手段
4・・算出手段
5・・決定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機質肥料の施用量を提案又は決定するための基準成分としての水溶性窒素成分の使用。
【請求項2】
肥料の施用方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする施用方法。
【請求項3】
土壌の改良方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用することを特徴とする改良方法。
【請求項4】
農作物の栽培方法において、
有機質肥料を、当該肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように提案又は決定された有機質肥料の施用量で土壌に施用し、かつ、当該土壌を用いて農作物を生育させることを特徴とする栽培方法。
【請求項5】
有機質肥料の施用量の提案又は決定方法であって、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量を選定する工程、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量を測定する工程、及び、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
有機質肥料の施用量の提案又は決定システムであり、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段及び
提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段
とを含むことを特徴とするシステム。
【請求項7】
有機質肥料の施用量の提案又は決定プログラムであり、コンピュータを、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量に係る情報を蓄積・管理する手段、
有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量に係る情報を管理・蓄積する手段、
有機質肥料の代わりに化学肥料を用いた場合に必要とされる窒素成分の施用量と有機質肥料が含有する水溶性窒素成分の量とが同等な量、又は、当該同等量に対して当該同等量の半分量を超えない量が減じてなる量、若しくは、当該同等量に対して当該同等量の倍量を超えない量が加してなる量になるように有機質肥料の施用量を提案又は決定する手段及び
提案又は決定された有機質肥料の施用量を表示・出力する手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項5記載の方法により提案又は決定された有機質肥料の施用量が表示されてなることを特徴とする有機質肥料の包装材。
【請求項9】
有機質肥料を含む肥料の製造方法であって、
有機質肥料に含まれる水溶性窒素成分の含有量を測定して得られる値が、予め設定された範囲の水溶性窒素成分の含有量になるように品質管理する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項10】
有機質肥料が、当該肥料の全量に対する水溶性窒素成分の量の比率が25%を超えない有機質肥料であることを特徴とする請求項1記載の施用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−61083(P2006−61083A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248004(P2004−248004)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】