説明

有機酸生成方法及び有機酸生成システム

【課題】 高い生成効率で有機酸が得られる有機酸生成方法及び有機酸生成システムを提供する。
【解決手段】 最初沈殿池5で得られる生汚泥を加圧浮上濃縮装置13に導入して加圧浮上濃縮法によって濃縮汚泥を得、この濃縮汚泥を酸発酵槽40で嫌気性発酵させて有機酸を得る。この場合、加圧浮上濃縮法による濃縮の際に生汚泥が酸素雰囲気とされるので、生汚泥中のメタン菌の活性を抑えることができ、酸発酵槽4において高い生成効率で有機酸が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水から得られる汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を生成する有機酸生成方法及び有機酸生成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載された有機酸生成方法がある。この有機酸生成方法においては、下水を最初沈殿池に導入して下水中の生汚泥を沈殿させ、この生汚泥を酸発酵槽に導入している。そして、酸発酵槽内の酸生成菌の働きによって生汚泥を嫌気性発酵させ、有機酸を生成している。この有機酸は、上記最初沈殿池の上澄み液を脱リン・脱窒素処理するための有機源として生物処理槽に供給され、生物処理槽内での上澄み液の生物処理に寄与する。
【特許文献1】特開2002−301500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、下水管渠を経由して最初沈殿池に集められた下水には、通常、有機酸をメタンに分解するメタン菌が多く含まれており、このメタン菌は生汚泥と一緒に最初沈殿池から酸発酵槽に導入される。このため、上記方法では、酸発酵槽内で嫌気性発酵によって生成した有機酸が、メタン菌によって一部メタンに分解されてしまうので、有機酸の生成効率が低下してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、高い生成効率で有機酸が得られる有機酸生成方法及び有機酸生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る有機酸生成方法は、下水から得られる汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を生成する有機酸生成方法において、下水の沈殿物である生汚泥を濃縮し濃縮汚泥を得る濃縮ステップと、濃縮ステップで得られた濃縮汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を得る発酵ステップと、を備え、濃縮ステップでは、加圧浮上濃縮法によって生汚泥の濃縮が行われることを特徴とする。
【0006】
この有機酸生成方法では、下水の沈殿物である生汚泥を濃縮ステップで濃縮して濃縮汚泥を得、この濃縮汚泥を発酵ステップにおいて嫌気性発酵させる。そして、この生成方法では、濃縮ステップにおける生汚泥の濃縮が、加圧浮上濃縮法によって行われる。すなわち、まず、生汚泥が空気と一緒に加圧されることで空気が生汚泥に溶解する。或いは、空気と一緒に水を加圧し、この水を生汚泥に混合させることで、生汚泥に空気が溶解した状態となる。その後、これらの生汚泥が大気圧下に解放されることで、溶解していた空気が生汚泥中で気泡となって固体成分に付着し、浮力により固体成分を上昇させる。そして、液面に浮上した固体成分を回収することにより、生汚泥の濃縮が達成される。
【0007】
上記濃縮ステップにおいて、生汚泥が一旦加圧状態となった時に、大気圧下の場合よりも生汚泥に多くの酸素が溶解することになる。ここで、生汚泥に含まれるメタン菌は嫌気性の菌であるので、生汚泥に溶解した空気中の酸素によって増殖が抑制され、メタン菌は活性が低い状態となる。このように、発酵ステップに移行される前の濃縮ステップにおいて、汚泥中のメタン菌の活性が低い状態にされるので、発酵ステップにおいて生成する有機酸がメタンへ分解されてしまうことが抑えられ、有機酸の高い生成効率が得られる。
【0008】
また、本発明に係る有機酸生成方法は、生汚泥を、濃縮ステップの前に曝気する前曝気ステップを更に備えることが好ましい。
【0009】
この場合、前曝気ステップにおいて生汚泥が曝気される時に、酸素が生汚泥に溶解し、溶解した酸素によってメタン菌の増殖が抑制される。よって、この有機酸生成方法によれば、発酵ステップに移行される前における汚泥中のメタン菌の活性がさらに低い状態とされ、さらに高い生成効率で有機酸が得られる。
【0010】
また、本発明に係る有機酸生成方法は、濃縮ステップで得られた濃縮汚泥を、発酵ステップの前に曝気する後曝気ステップを更に備えることが好ましい。
【0011】
この場合、後曝気ステップにおいて濃縮汚泥が曝気される時に、酸素が濃縮汚泥に溶解し、溶解した酸素によってメタン菌の増殖が抑制される。よって、この有機酸生成方法によれば、発酵ステップに移行される前における汚泥中のメタン菌の活性がさらに低い状態とされ、さらに高い生成効率で有機酸が得られる。
【0012】
本発明に係る有機酸生成システムは、下水から得られる汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を生成する有機酸生成システムにおいて、下水の沈殿物である生汚泥を濃縮し濃縮汚泥を得る濃縮装置と、濃縮装置で得られた濃縮汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を得る酸発酵槽と、を備え、濃縮装置は、加圧浮上濃縮装置であることを特徴とする。
【0013】
この有機酸生成システムでは、下水の沈殿物である生汚泥を濃縮装置で濃縮して濃縮汚泥を得、この濃縮汚泥を酸発酵槽において嫌気性発酵させる。そして、このシステムにおいて、濃縮装置は、加圧浮上濃縮装置である。すなわち、加圧浮上濃縮装置では、まず、生汚泥が空気と一緒に加圧されることで空気が生汚泥に溶解する。或いは、空気と一緒に水を加圧し、この水を生汚泥に混合させることで、生汚泥に空気が溶解した状態となる。その後、これらの生汚泥が大気圧下に解放されることで、溶解していた空気が生汚泥中で気泡となって固体成分に付着し、浮力により固体成分を上昇させる。そして、液面に浮上した固体成分を回収することにより、生汚泥の濃縮が達成される。
【0014】
この加圧浮上濃縮装置において、生汚泥が一旦加圧状態となった時に、大気圧下の場合よりも生汚泥に多くの酸素が溶解することになる。ここで、生汚泥に含まれるメタン菌は嫌気性の菌であるので、生汚泥に溶解した空気中の酸素によって増殖が抑制され、メタン菌は活性が低い状態となる。このように、汚泥が酸発酵槽に導入される前の濃縮装置において、汚泥中のメタン菌の活性が低い状態にされるので、酸発酵槽において生成する有機酸がメタンへ分解されてしまうことが抑えられ、有機酸の高い生成効率が得られる。
【0015】
本発明に係る有機酸生成システムは、生汚泥を、濃縮装置に導入する前に曝気する前曝気槽を更に備えることが好ましい。
【0016】
この場合、前曝気槽において生汚泥が曝気される時に、酸素が生汚泥に溶解し、溶解した酸素によってメタン菌の増殖が抑制される。よって、この有機酸生成システムによれば、酸発酵槽に導入される前における汚泥中のメタン菌の活性がさらに低い状態とされ、さらに高い生成効率で有機酸が得られる。
【0017】
本発明に係る有機酸生成システムは、濃縮装置で得られた濃縮汚泥を、酸発酵槽に導入する前に曝気する後曝気槽を更に備えることが好ましい。
【0018】
この場合、後曝気槽において濃縮汚泥が曝気される時に、酸素が濃縮汚泥に溶解し、溶解した酸素によってメタン菌の増殖が抑制される。よって、この有機酸生成システムによれば、酸発酵槽に導入される前における汚泥中のメタン菌の活性がさらに低い状態とされ、さらに高い生成効率で有機酸が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機酸生成方法及び有機酸生成システムによれば、高い生成効率で有機酸が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る有機酸生成方法及び有機酸生成システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1に示す下水処理設備1は、ラインL1から導入される下水を、嫌気槽3a、無酸素槽3b及び好気槽3cを有する生物処理槽3で生物的に処理する設備である。下水処理場に流入する下水は、まず沈砂池(図示せず)において、浮遊するゴミや沈降する固形物が除去された後、ラインL1を通じてこの下水処理設備1に導入される。ラインL1からの下水は、まず、最初沈殿池5に導入され、沈降分離によって固液分離される。分離された上澄み液は、生物処理槽3に導入され、嫌気槽3a、無酸素槽3b及び好気槽3cを通過し、生物的処理による脱リン・脱窒素がされた後、最終沈殿池7に導入される。最終沈殿池7で沈降分離された活性汚泥は一部が生物処理槽3に返送され、残りは余剰汚泥として排出される。また、最終沈殿池7の上澄みは、後工程(図示せず)の処理を経て、処理水として河川等に放流される。
【0022】
このような下水処理設備1においては、脱リン・脱窒素といった生物的処理に必要な有機源を生物処理槽3に導入することが必要である。そこで、下水処理設備1は、最初沈殿池5で得られる生汚泥を原料として有機酸を生成し、この有機酸を生物処理槽3に有機源として供給する有機酸生成システム10を備えている。この有機酸生成システム10は、後述する生汚泥曝気撹拌槽(前曝気槽)11、加圧浮上濃縮装置13、濃縮汚泥槽(後曝気槽)27、酸発酵槽40、沈殿槽43、及び有機酸貯留槽45を備えている。なお、この有機酸生成システム10で得られる有機酸には、主として酢酸、プロピオン酸等が含まれる。
【0023】
上述の最初沈殿池5の底部に沈殿した沈殿物は、引き抜きポンプp1によって底部から引き抜かれ、ラインL2を通じ、有機酸の原料の生汚泥として生汚泥曝気撹拌槽(前曝気槽)11に導入される。通常、下水は嫌気性状態で下水処理場に導入されるので、ここで導入される生汚泥には、下水が導入される間に増殖したメタン菌が多く含まれている。
【0024】
生汚泥曝気撹拌槽11には、散気装置11aが設けられており、この散気装置11aは、送風機11bから送られる空気によって槽内の生汚泥を曝気し撹拌する(前曝気ステップ)。このとき、生汚泥には散気装置11aからの空気に含まれる酸素が溶解することになるので、生汚泥中の溶存酸素量が増加する。ここで、メタン菌は嫌気性菌であるので、溶存酸素量が増加した生汚泥中においては、酸素雰囲気に曝されることでメタン菌が減少し、メタン菌の活性が低く抑えられる。
【0025】
生汚泥曝気撹拌槽11で曝気された生汚泥は、加圧ポンプp2によって加圧されながら、全量が加圧浮上濃縮装置13に送られる。この加圧浮上濃縮装置13は、加圧浮上濃縮法により生汚泥を濃縮する装置であって、加圧槽13aと加圧浮上槽13bとを備えている。加圧槽13aは、加圧ポンプp2によって加圧された生汚泥と空気圧縮機13cから送り出される圧縮空気とを、3〜4気圧の加圧状態で一緒に貯留する。この加圧槽13aにおいて、空気と一緒に加圧された生汚泥中には、大気圧下よりも3〜4倍の酸素が溶解することになるので、生汚泥中の溶存酸素量が更に増加する。従って、濃度が高い酸素雰囲気に曝されることで生汚泥中のメタン菌が更に減少し、メタン菌の活性が更に低く抑えられることになる。
【0026】
そして、加圧槽13aで加圧状態となった生汚泥は、加圧浮上槽13bに送られる。この加圧浮上槽13bは、断面円形をなしており、駆動装置15によって回転する駆動軸17を有している。この駆動軸17には、槽内に滞留する生汚泥を撹拌するレーキ19と、生汚泥液面に沿って水平に回転するスキンマー21が取り付けられている。
【0027】
加圧槽13aからの生汚泥が加圧浮上槽13b内のフィールドウェル23に供給されると、大気圧下の槽内に滞留する生汚泥に混入される。このとき、加圧下で生汚泥に溶解していた空気が、大気圧まで減圧されたことで気泡化するので、槽内で滞留する生汚泥中に、大量の気泡が発生することになる。この気泡が生汚泥中の固体成分に付着するので、その気泡の浮力によって、固体成分が生汚泥液面まで浮上する。そして、液面に浮上した固体成分は、スキンマー21によって掻き寄せられフロートボックス25に落下した後、濃縮汚泥として濃縮汚泥槽27に集められる(濃縮ステップ)。一方、生汚泥の液体成分は、槽内上部に設けられた越流渠29に集められ、処理水槽31に貯留された後、沈砂池(図示せず)等に返水される。なお、濃縮汚泥槽27は、加圧浮上濃縮装置13と一体に設けられているが、濃縮汚泥槽27は、加圧浮上濃縮装置13から独立した別体の槽として設けられてもよい。
【0028】
濃縮汚泥槽27に集められた濃縮汚泥は、撹拌送風機33によって空気が送り込まれて曝気撹拌される(後曝気ステップ)。このとき、濃縮汚泥には、送り込まれた空気中の酸素が溶解することで、溶存酸素量が増加することになる。従って、濃縮汚泥に含まれるメタン菌は、酸素雰囲気に曝されることで減少し、メタン菌の活性が更に低く抑えられることになる。
【0029】
その後、濃縮汚泥槽27の濃縮汚泥は、ポンプp3によって酸発酵槽40へ送られる。酸発酵槽40に導入された濃縮汚泥は、槽内に設けられた攪拌機40aによって効率よく撹拌される。そして、濃縮汚泥中の有機物は、槽内を滞留しながら酸生成菌による嫌気性発酵によって有機酸に変化する。なお、このとき、槽内で滞留する濃縮汚泥の酸化還元電位は、−50mV〜−23mVであることが好ましい。そして、生成した有機酸を含む上澄みは、酸発酵槽40の上部から、発酵汚泥として沈殿槽43に送られる。
【0030】
ここで、酸発酵槽40内で生成した有機酸の一部は、槽内のメタン菌によって更にメタンに分解されてしまう。ところが、この有機酸生成システム10においては、酸発酵槽40に導入される前の生汚泥或いは濃縮汚泥が、生汚泥曝気撹拌槽11、加圧浮上濃縮装置13及び濃縮汚泥槽27の3段階で酸素雰囲気とされている。従って、酸素雰囲気に曝された汚泥中のメタン菌が減少し、メタン菌の活性が低く抑えられた状態の濃縮汚泥が酸発酵槽40に導入されることになる。よって、酸発酵槽40内におけるメタン菌の活性が低く抑えられ、槽内でメタンに分解される有機酸も少なく抑えられる。その結果、酸発酵槽40内において、高い生成効率で有機酸が得られる。
【0031】
次に、沈殿槽43に送られた発酵汚泥は沈降分離され、上澄みが有機酸貯留槽45に送られ、分離された固体成分は一部が酸発酵槽40に返送され、残りは余剰汚泥として排出される。そして、有機酸貯留槽45に貯留された液体は、有機酸を含んでおり、ラインL3を通じて上述した生物処理槽3の嫌気槽3aに有機源として供給され、生物処理槽3における下水の生物的処理に寄与する。
【0032】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態における加圧浮上濃縮装置13では、生汚泥の全量を加圧槽13aで加圧して加圧浮上槽13bに供給する全量加圧法を採用しているが、生汚泥の一部のみを加圧する部分加圧法や、加圧していない生汚泥を加圧した水と一緒に加圧浮上槽13bに供給する循環加圧法を採用してもよい。また、酸発酵槽40への導入前に生汚泥を処理するためには、加圧浮上濃縮装置13のみがあればよく、生汚泥曝気撹拌槽11及び濃縮汚泥槽27は省略してもよい。また、生汚泥曝気撹拌槽11及び濃縮汚泥槽27においては、汚泥中に空気を送り込んでいるが、酸素を送り込んで汚泥の曝気を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る有機酸生成システムの実施形態を示す概要図である。
【符号の説明】
【0034】
1…下水処理設備、5…最初沈殿池、10…有機酸生成システム、11…生汚泥曝気撹拌槽(前曝気槽)、13…加圧浮上濃縮装置(濃縮装置)、27…濃縮汚泥槽(後曝気槽)、40…酸発酵槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水から得られる汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を生成する有機酸生成方法において、
前記下水の沈殿物である生汚泥を濃縮し濃縮汚泥を得る濃縮ステップと、
前記濃縮ステップで得られた前記濃縮汚泥を嫌気性発酵させて前記有機酸を得る発酵ステップと、を備え、
前記濃縮ステップでは、加圧浮上濃縮法によって前記生汚泥の濃縮が行われることを特徴とする有機酸生成方法。
【請求項2】
前記生汚泥を、前記濃縮ステップの前に曝気する前曝気ステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の有機酸生成方法。
【請求項3】
前記濃縮ステップで得られた前記濃縮汚泥を、前記発酵ステップの前に曝気する後曝気ステップを更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機酸生成方法。
【請求項4】
下水から得られる汚泥を嫌気性発酵させて有機酸を生成する有機酸生成システムにおいて、
前記下水の沈殿物である生汚泥を濃縮し濃縮汚泥を得る濃縮装置と、
前記濃縮装置で得られた前記濃縮汚泥を嫌気性発酵させて前記有機酸を得る酸発酵槽と、を備え、
前記濃縮装置は、加圧浮上濃縮装置であることを特徴とする有機酸生成システム。
【請求項5】
前記生汚泥を、前記濃縮装置に導入する前に曝気する前曝気槽を更に備えることを特徴とする請求項4に記載の有機酸生成システム。
【請求項6】
前記濃縮装置で得られた前記濃縮汚泥を、前記酸発酵槽に導入する前に曝気する後曝気槽を更に備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機酸生成システム。

【図1】
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