説明

有機金属化合物及びその製造のための方法

本発明は、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基又はシクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基又はペンタジエニル類似基、又は置換又は無置換ピロリル基又はピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基又はピロリル類似基である)により表される有機金属化合物、前記有機金属化合物を製造するための方法、及び前記有機金属化合物から膜又は被覆を製造するための方法に関する。この有機金属化合物は、膜堆積物のための化学蒸着又は原子層堆積前駆物質として半導体用途に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基又はシクロペンタジエニル類似(cyclopentadienyl−like)基、置換又は無置換ペンタジエニル基又はペンタジエニル類似基、又は置換又は無置換ピロリル基又はピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基又はピロリル類似基である)により表される有機金属化合物、その有機金属化合物を製造するための方法、及びその有機金属化合物から膜又は被覆を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造又は加工中にウェーハのような基体又は他の表面上に材料の膜を形成するのに化学蒸着法が用いられている。化学蒸着法では、化学蒸着化合物としても知られている化学蒸着前駆物質を、熱的に、化学的に、光化学的に、又はプラズマにより活性化して分解し、所望の組成を有する薄膜を形成する。例えば、蒸気相化学蒸着前駆物質を、その前駆物質の分解温度より高い温度へ加熱した基体と接触させ、基体上に金属又は金属酸化物膜を形成することができる。化学蒸着前駆物質は、揮発性であり、熱分解可能であり、化学蒸着条件下で均一な膜を生成することができることが好ましい。
【0003】
半導体工業では、最近種々の用途のためにルテニウム金属の薄膜を使用することが検討されている。これらの薄膜を形成するために可能性のある前駆物質として多くの有機金属錯体が評価されてきた。例えば、それらには、Ru(CO)12のようなカルボニル錯体、Ru(η−C)(CO)、Ru(η−C)(η−C)のようなジエン錯体、Ru(DPM)Ru(OD)のようなβ−ジケトネート、及びRuCp、Ru(EtCp)のようなルテノセンが含まれる。
【0004】
カルボニル及びジエン錯体は両方共低い熱安定性を示す傾向があり、そのため加工が複雑になる。β−ジケトンは中程度の温度では熱安定性を有するが、室温でそれらが固体状態であることと共にそれらの蒸気圧が低いことにより、膜蒸着中に高い成長速度を達成するのが困難である。
【0005】
Ru薄膜蒸着用前駆物質として、ルテノセンは非常な注目を集めてきた。ルテノセンは固体であるが、二つのシクロペンタジエニルリガンドをエチル置換基で官能性化すると、母体のルテノセンの化学的特性を共有する液体前駆物質を生ずる。残念ながらこの前駆物質を用いた蒸着は、一般に長い誘導時間を示し、核生成密度が低かった。
【0006】
米国特許第6,605,735B2号明細書には、ルテニウムに結合したシクロペンタジエニル及びペンタジエニル基を有する半サンドイッチ状(half−sandwich)有機金属ルテニウム化合物が記載されている。シクロペンタジエニル基は、一置換又は無置換とすることができる。ペンタジエニル基は、一、二、又は三置換又は無置換とすることができる。或る置換パターンは具体的に除かれている。その特許には、発明者が鋭意検討を行い、シクロペンタジエニル環の一つを鎖状ペンタジエニルで置換することにより、ルテノセンの分解温度を低下することができることを見出したことが述べられている。シクロペンタジエニル環に一つの低級アルキル基を導入することにより、半サンドイッチ状有機金属ルテニウム化合物が室温で液体になり、都合のよい気化及び分解特性を示すことが見出されたとその特許では述べられている。これらの化合物は、化学蒸着によりルテニウム含有薄膜を製造するのに用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学蒸着又は原子層堆積法により薄膜を形成するための方法を開発するにあたり、好ましくは室温で液体であり、適切な蒸気圧を有し、適当な熱安定性を有し(即ち、化学蒸着の場合には加熱された基体上で分解するが、送入中は分解せず、原子層堆積の場合には熱分解はしないが、共反応物に曝露されると反応し)、均一な膜を形成し、望ましくない不純物(例えば、ハロゲン化物、炭素等)があってもそれらをほとんど残さない前駆物質に対する需要が依然として存在する。従って、新規な化合物を開発し、それらの膜堆積用化学蒸着又は原子層堆積前駆物質としての潜在的可能性を探求する必要性が依然として存在している。従って、当該技術分野では、上記特性の幾つか、好ましくは全てを有する前駆物質を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、一つには、次の式:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11は、同じか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜約12個の炭素原子を有するアミン基、又は0〜約12個の炭素原子を有するシリル基を表す。)
から選択される有機金属化合物に関する。
【0011】
より概括的には、本発明は、一つには、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物に関する。
【0012】
本発明は、一つには、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物の製造のための方法であって、(i)置換又は無置換シクロペンタジエニルハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似ハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ペンタジエニルハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ペンタジエニル類似ハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ピロリルハロゲン化物金属化合物、又は置換又は無置換ピロリル類似ハロゲン化物金属化合物から選択される金属源化合物と、塩基材料(base material)とを、溶媒の存在下、必要な条件下で反応させ、前記有機金属化合物を含む反応混合物を生成させること、及び(ii)前記有機金属化合物を前記反応混合物から分離すること、を含む、有機金属化合物の製造のための方法にも関する。本発明の方法で得られる有機金属化合物の収率は、60%以上、好ましくは75%以上、一層好ましくは90%以上となり得る。
【0013】
更に、本発明は、一つには、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物を分解し、それにより膜、被覆、又は粉末を生成させる、膜、被覆、又は粉末の製造のための方法に関する。典型的には、前記有機金属化合物の分解は、熱的活性化、化学的活性化、光化学的活性化、又はプラズマ活性化による。膜堆積は好ましくは自己停止型であり、水素のような少なくとも一種の反応性ガスの存在下に行われる。
【0014】
本発明は、一つには、(i)式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される第一有機金属化合物、及び(ii)一種以上の異なる有機金属化合物(例えば、ハフニウム含有、タンタル含有、又はモリブデン含有有機金属前駆物質化合物)を含む有機金属混合物にも関する。
【0015】
特に本発明は、ピロリド系ルテニウム前駆物質を含む堆積に関する。これらの前駆物質は、特に他の「次世代」材料(例えば、ハフニウム、タンタル、及びモリブデン)と併用される場合に、他の既知の前駆物質に勝る利点を提供することができる。これらのルテニウム含有材料は、誘電体、障壁、及び電極のような種々の目的のために用いることができ、多くの場合、非ルテニウム含有膜よりも改良された性質(熱安定性、所望の形態、低拡散性、低漏洩、低電荷捕捉性等)を示す。
【0016】
本発明は、幾つかの利点を有する。例えば、本発明の方法は、化学的構造及び物理的性質を変化させた有機金属化合物を生成させるのに有用である。それら有機金属化合物から形成した膜は、短い誘導時間で堆積させることができ、それら有機金属化合物から堆積した膜は良好な円滑性を示す。これらのピロリル含有ルテニウム前駆物質は、水素還元経路を用いた原子層堆積により自己停止型(self−limiting manner)で堆積させることができ、それによりBEOL(back end of line、配線工程)ライナー用途において、窒化タンタルと連係して、障壁/接着層としてルテニウムを使用することを可能とする。原子層堆積により自己停止型で堆積したそのようなピロリル含有ルテニウム前駆物質は、還元性雰囲気中で高アスペクト比トレンチ構造体を覆うコンフォーマル(conformal)膜成長を行うことができる。
【0017】
本発明は、特に、次世代装置のための化学蒸着及び原子層堆積前駆物質、具体的には室温、即ち、20℃で液体であるピロリル含有ルテニウム前駆物質に関する。ピロリル含有ルテニウム化合物は、水素で還元でき、自己停止型で堆積するので好ましい。
【0018】
発明の詳細な説明
上で示したように、本発明は、一つには、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物に関する。
【0019】
好ましい態様として、本発明は、一つには、
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11は、同じか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜約12個の炭素原子を有するアミン基、又は0〜約12個の炭素原子を有するシリル基を表す。)
から選択される有機金属ルテニウム化合物に関する。
【0022】
本発明の範囲内の他の有機金属化合物は、式(L)M’L’又はLM’(L’)(式中、M’はランタニドであり、Lは同じか又は異なり、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、同じか又は異なり、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表すことができる。
【0023】
置換シクロペンタジエニル類似部分の例示としては、当該技術分野で知られているように、シクロオレフィン、例えば、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル環、複素環、芳香族環、例えば、置換ベンゼニルその他が含まれる。置換又は無置換ペンタジエニル類似基の例示としては、当該技術分野で知られているように、鎖状オレフィン基、例えば、ヘキサジエニル、ヘプタジエニル、オクタジエニルその他が含まれる。置換又は無置換ピロリル類似基の例示としては、ピロリニル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、カルバゾリル、トリアゾリル、インドリル、及びプリニルが含まれる。
【0024】
置換シクロペンタジエニル及びシクロペンタジエニル類似基(L)、置換ペンタジエニル及びペンタジエニル類似基(L)、同じく置換ピロリル及びピロリル類似基(L及びL’)に可能な置換基には、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜約12個の炭素原子を有するアミン基、又は0〜約12個の炭素原子を有するシリル基が含まれる。
【0025】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるハロゲン原子の例示としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、及び沃素が含まれる。好ましいハロゲン原子には、塩素及びフッ素が含まれる。
【0026】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるアシル基の例示としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、1−メチルプロピルカルボニル、イソバレリル、ペンチルカルボニル、1−メチルブチルカルボニル、2−メチルブチルカルボニル、3−メチルブチルカルボニル、1−エチルプロピルカルボニル、2−エチルプロピルカルボニル等が含まれる。好ましいアシル基には、ホルミル、アセチル、及びプロピオニルが含まれる。
【0027】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるアルコキシ基の例示としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、1−メチルブチルオキシ、2−メチルブチルオキシ、3−メチルブチルオキシ、1,2−ジメチルプロピルオキシ、ヘキシルオキシ、1−メチルペンチルオキシ、1−エチルプロピルオキシ、2−メチルペンチルオキシ、3−メチルペンチルオキシ、4−メチルペンチルオキシ、1,2−ジメチルブチルオキシ、1,3−ジメチルブチルオキシ、2,3−ジメチルブチルオキシ、1,1−ジメチルブチルオキシ、2,2−ジメチルブチルオキシ、3,3−ジメチルブチルオキシ等が含まれる。好ましいアルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、及びプロポキシが含まれる。
【0028】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるアルコキシカルボニル基の例示としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、シクロプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル等が含まれる。好ましいアルコキシカルボニル基には、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、及びシクロプロポキシカルボニルが含まれる。
【0029】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるアルキル基の例示としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル等が含まれる。好ましいアルキル基には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、及びシクロプロピルが含まれる。
【0030】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるアミン基の例示としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、t−ブチルアミン、ジ(t−ブチル)アミン、エチルメチルアミン、ブチルメチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、等が含まれる。好ましいアミン基には、ジメチルアミン、ジエチルアミン、及びジイソプロピルアミンが含まれる。
【0031】
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11で用いることができるシリル基の例示としては、例えば、シリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリス(トリメチルシリル)メチル、トリシリルメチル、メチルシリル等が含まれる。好ましいシリル基には、シリル、トリメチルシリル、及びトリエチルシリルが含まれる。
【0032】
本発明の有機金属化合物の例示としては、例えば、シクロペンタジエニルピロリルルテニウム、メチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、エチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、イソプロピルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、t−ブチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、メチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、エチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、イソプロピルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、t−ブチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、メチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、エチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、イソプロピルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、t−ブチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、1,2−ジメチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、1,3−ジメチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、1,3−ジメチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、ペンタジエニルプロピルルテニウム、2,4−ジメチルペンタジエニルピロリルルテニウム、2,4−ジメチルペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、2,4−ジメチルペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、シクロヘキサジエニルピロリルルテニウム、シクロヘキサジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、シクロヘキサジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、シクロヘプタジエニルピロリルルテニウム、シクロヘプタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、シクロヘプタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、ビス(ピロリル)ルテニウム、2,5−ジメチルピロリルピロリルルテニウム、テトラメチルピロリルピロリルルテニウム、ビス(2,5−ジメチルピロリル)ルテニウム、2,5−ジメチルピロリルテトラメチルピロリルルテニウム等が含まれる。
【0033】
本発明の特許請求されている有機金属化合物に関し、次の制限が適用される:(i)L及びL’が両方共全置換されたピロリル基である場合、そのピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外であり;(ii)L及びL’が両方共置換されたインドリル基である場合、そのインドリル基置換基の少なくとも一つはメチル又は水素以外であり;(iii)Lが無置換シクロオクタン基であり、L’が置換ピロリル基である場合、ピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外であり;(iv)Lが無置換シクロオクタン基であり、L’が置換インドリル基である場合、そのインドリル基置換基の少なくとも一つは、メチル又は水素以外であり;そして(v)Lが置換シクロヘキサジエン基であり、L’が置換ピロリル基である場合、そのピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外である。
【0034】
同じく上で示したように、本発明は、一つには、式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物の製造のための方法であって、(i)置換又は無置換シクロペンタジエニルハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似ハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物、置換又は無置換ペンタジエニルハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物、置換又は無置換ペンタジエニル類似ハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物、置換又は無置換ピロリルハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物、又は置換又は無置換ピロリル類似ハロゲン化物金属(例えば、ルテニウム)化合物から選択される金属源化合物と、塩基材料とを、溶媒の存在下、必要な条件下で反応させ、前記有機金属化合物を含む反応混合物を生成させること、及び(ii)前記有機金属化合物を前記反応混合物から分離すること、を含む方法にも関する。本発明の方法で得られる有機金属化合物の収率は、60%以上、好ましくは75%以上、一層好ましくは90%以上となり得る。
【0035】
本方法は、大規模生産に特によく適している。なぜなら、それは、同じ設備、幾つかの同じ反応剤、及び広範囲の生成物を製造するのに容易に適用することができる工程パラメータを用いて行うことができるからである。この方法によれば、単一容器中で全操作を行なうことができ、有機金属前駆物質化合物への経路が中間錯体の分離を必要としない方法を用いる、有機金属前駆物質化合物の合成法が提供される。
【0036】
金属源化合物出発材料は、当該技術分野で知られている広範囲の化合物から選択することができる。本発明にとって最も好ましいのは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、Si、Ge、ランタニド系元素、又はアクチニド系元素から選択される金属である。金属源化合物の例示としては、例えば、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、
ブロモビス(トリフェニルホスフィン)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリイソプロピルホスファイト)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリエチルホスフィン)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(シクロペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(メチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(ピロリル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(2,5−ジメチルピロリル)ルテニウム、
クロロビス(トリフェニルホスフィン)(テトラメチルピロリル)ルテニウム等が含まれる。
【0037】
本発明の方法は、好ましくは、種々の化学的構造及び物理的特性を有する有機金属ルテニウム化合物を生成するのに有用である。広範囲の反応材料を本発明の方法で用いることができる。例えば、金属源化合物の調製では、用いることができるルテニウム出発材料には、商業級塩化Ru(III)水和物、塩化α−ルテニウム(III)、塩化β−ルテニウム(III)、硝酸ルテニウム(III)、(PPhRuCl(x=3〜4)等が含まれる。
【0038】
金属源化合物出発材料の濃度は、広範囲にわたり変化することができ、塩基化合物と反応し、使用するのに望ましい所定の金属濃度を提供するのに必要な最小量であって、少なくとも本発明の有機金属化合物に必要な金属の量に対するベースを用意する最小量でありさえすればよい。一般的には、反応混合物のサイズに応じて、約1ミリモル以下から約10,000ミリモル以上の範囲の金属源化合物出発材料濃度が、大部分の方法に対して十分なはずである。
【0039】
塩基出発材料は、当該技術分野で既知の広範囲の化合物から選択することができる。塩基の例示としては、pKaが約10より大きく、好ましくは約20より大きく、一層好ましくは約25より大きい任意の塩基が含まれる。塩基材料は、好ましくはリチウムピロリド(lithium pyrrolide)、リチウムペンタジエナイド(lithium pentadienide)、リチウムシクロペンタジエナイド、ナトリウムピロリド、ナトリウムペンタジエナイド、ナトリウムシクロペンタジエナイド、ブロモマグネシウムピロリド、ブロモマグネシウムペンタジエナイド、ブロモマグネシウムシクロペンタジエナイド等が含まれる。
【0040】
塩基出発材料の濃度は、広範囲に亙って変えることができ、金属源化合物出発材料と反応するのに必要な最小限の量でありさえすればよい。一般に、第一反応混合物のサイズにより、約1ミリモル以下から約10,000ミリモル以上の範囲の塩基出発材料の濃度で大部分の方法に対して充分なはずである。
【0041】
本発明の方法で用いられる溶媒は、飽和及び不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族複素環、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン油、他の非プロトン性溶媒、又は上記溶媒の一種以上の混合物とすることができ、一層好ましくはジエチルエーテル、ペンタン、又はジメトキシエタンであり、最も好ましくはヘキサン又はTHFである。目的とする反応に甚だしく悪い妨害を与えることのない任意の適当な溶媒を用いることができる。所望により、一種以上の異なる溶媒の混合物を用いることができる。溶媒の使用量は本発明にとっては決定的なものではなく、反応混合物中の反応成分を可溶化するのに充分な量でありさえすればよい。一般に、溶媒の量は、反応混合物出発材料の全重量に基づき、約5重量%から約99重量%以上までの範囲とすることができる。
【0042】
塩基化合物と、金属源化合物との反応についての温度、圧力、及び接触時間のような反応条件も大きく変化させることができ、本発明においてはそのような条件の任意の適当な組合せを用いることができる。反応温度は、前記溶媒のいずれかの還流温度、一層好ましくは約−80℃〜約150℃、最も好ましくは約20℃〜約80℃とすることができる。通常、反応は周囲圧力で行われ、接触時間は数秒又は数分から数時間以上の範囲で変化させることができる。反応物は、反応混合物に任意の順序で添加し、又は合わせることができる。用いられる撹拌時間は、どの工程についても、約0.1〜約400時間、好ましくは約1〜75時間、より好ましくは約4〜16時間の範囲とすることができる。
【0043】
本発明の有機金属ルテニウム化合物を製造するのに用いることができる更に別の方法には、米国特許第6,605,735B2号、及び2004年7月1日に公開された米国特許出願第US2004/0127732A1公報(それらの記載は参照により本明細書の記載の一部とする)に開示されているものが含まれる。本発明の有機金属化合物は、レグジンズ(Legzdins)P.その他による、Inorg.Synth.28,196(1990)及びその中の引用文献に記載されているような慣用的方法により製造することもできる。
【0044】
本発明の方法により製造される有機金属について、精製は再結晶化により、一層好ましくは反応残留物の抽出(例えば、ヘキサン)及びクロマトグラフィーにより、最も好ましくは昇華及び蒸留により行うことができる。
【0045】
当業者は、特許請求の範囲により具体的に定義したような本発明の範囲又は本質から離れることなく、本明細書に詳細に記載した方法について数多くの変更を行うことができることは認めるであろう。
【0046】
上記合成方法により形成される有機金属化合物を特徴付けるのに用いることができる技術の例示としては、ガスクロマトグラフィー分析、核磁気共鳴、熱重量分析、誘導結合プラズマ質量分光分析、示差走査熱量測定、蒸気圧及び粘度測定が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0047】
上記有機金属化合物前駆物質の相対的蒸気圧、すなわち相対的揮発性は、当該技術分野で知られている熱重量分析法により測定することができる。平衡蒸気圧も、当該技術分野で知られている通り、密封容器から全てのガスを除去し、然る後、化合物の蒸気をその容器に導入し、圧力を測定することにより測定することができる。
【0048】
本明細書に記載した有機金属化合物前駆物質は、好ましくは、室温、即ち、20℃で液体であり、水素で還元することができ、自己停止型で堆積し、その場での粉末及び被覆を製造するのに非常に適している。例えば、液体有機金属化合物前駆物質は基体に適用し、次いで必要な温度に加熱して前駆物質を分解し、それにより、基体上に金属又は金属酸化物被覆を形成する。基体への液体前駆物質の適用は、塗布、噴霧、浸漬、又は当該技術分野で既知の他の技術により行うことができる。加熱は、当該技術分野で知られているように、炉中でヒートガン(heat gun)を用いて、基体を電気加熱することにより、又は他の手段により行うことができる。有機金属化合物前駆物質を適用し、それを加熱して分解し、それにより第一層を形成し、次に少なくとも一つの他の被覆を、同じか又は異なる前駆物質を用い、加熱することにより形成し、層状被覆を得ることができる。
【0049】
上に記載したような液体有機金属化合物前駆物質は、基体上に霧状にし、噴霧することもできる。用いることができるノズル、噴霧器等のような霧状化及び噴霧手段は、当該技術分野で知られている。
【0050】
本発明の好ましい態様においては、上に記載したような有機金属化合物は、粉末、膜、又は被覆を形成するための気相堆積技術で用いられる。その化合物は単一の原料前駆物質として用いることもでき、或は一つ以上の他の前駆物質、例えば、少なくとも一種の他の有機金属化合物又は金属錯体を加熱することにより発生させた蒸気と一緒に用いることができる。上に記載したような有機金属化合物前駆物質の二種類以上を、所与の方法で用いることもできる。
【0051】
上で示したように、本発明は、一つには、(i)式LML’(式中、Mは遷移金属であり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される第一有機金属化合物、及び(ii)一種以上の異なる有機金属化合物(例えば、ハフニウム含有、タンタル含有、又はモリブデン含有有機金属前駆物質化合物)、を含む有機金属混合物に関する。
【0052】
堆積は、他の気相成分を存在させて行うことができる。本発明の一態様においては、膜堆積は少なくとも一種の非反応性キャリヤーガスを存在させて行う。非反応性ガスの例としては、不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、並びに有機金属化合物前駆物質と工程条件下で反応しないその他のガスが含まれる。別の態様においては、膜堆積は、少なくとも一種の反応性ガスを存在させて行う。用いることができる反応性ガスの幾つかには、ヒドラジン、酸素、水素、空気、富酸素空気、オゾン(O)、亜酸化窒素(NO)、水蒸気、有機蒸気、アンモニア等が含まれるが、それらに限定されるものではない。当該技術分野で知られているように、例えば、空気、酸素、富酸素空気、O、NO、又は酸化性有機化合物の蒸気のような酸化性ガスが存在することは、金属酸化物膜を形成するのに都合がよい。
【0053】
一態様においては、水素又は別の還元性ガスを、300℃より低い温度でのBEOL原子層堆積法で用い、堆積をBEOL統合策の残部と両立するやり方で遂行することができる。ルテニウムを用いるBEOL配線を形成するための原子層堆積策の例は、次の通りである:低K修復、窒化タンタル原子層堆積、ルテニウム原子層堆積、そして銅電気化学的堆積。水素還元可能なルテニウム錯体も、MIM積層セルDRAMキャパシタにおけるルテニウムの統合のために用いることもできる。
【0054】
水素還元可能であることに加え、本発明のルテニウム錯体は、自己停止型で堆積する。例えば、反応物ガスが存在しないと、基体は、解離化学収着ルテニウム前駆物質の単分子層又は単分子層の断片で飽和されるようになる。自己停止型堆積では、一度に有機金属化合物前駆物質の一層だけが堆積する。原子層堆積により自己停止型で堆積したピロリル含有ルテニウム前駆物質は、還元性雰囲気中で高アスペクト比トレンチ構造体を覆うコンフォーマル膜成長を行うことができる。
【0055】
上で示したように、本発明は、一つには、膜、被覆、又は粉末を製造するための方法にも関する。この方法は、少なくとも一種の有機金属化合物前駆物質を分解し、それにより、下で更に記載するように、膜、被覆、又は粉末を生成させる工程を含む。
【0056】
本明細書に記載した堆積法は、単一の金属を含む膜、粉末、又は被覆、又は単一の金属酸化物を含む膜、粉末、又は被覆を形成するために実施することができる。混合した膜、粉末、又は被覆、例えば、混合金属酸化物膜も堆積することができる。混合金属酸化物膜は、例えば、数種類の有機金属前駆物質であって、その少なくとも一種が上に記載した有機金属化合物から選択される有機金属前駆物質を用いることにより形成することができる。

【0057】
気相膜堆積を行い、所望の厚さ、例えば、約1nmから1mmを超える範囲の膜層を形成することができる。本明細書に記載する前駆物質は、薄膜、例えば、約10nm〜約100nmの範囲の厚さを有する膜を製造するために特に有用である。本発明の膜は、例えば、金属電極、特に論理回路のn−チャンネル金属電極、DRAM用途のためのキャパシタ電極、及び誘電体材料を製造するために考慮することができる。
【0058】
本方法は、層の少なくとも二つが、相又は組成の点で異なる場合の層状膜を製造するのにも適している。層状膜の例示としては、金属−絶縁体−半導体、及び金属−絶縁体−金属が含まれる。
【0059】
一態様において、本発明は、上に記載した有機金属化合物前駆物質の蒸気を、熱的に、化学的に、光化学的に、又はプラズマで活性化することにより分解し、基体上に膜を形成する工程を含む方法に関する。例えば、化合物から発生した蒸気を必要な温度を有する基体と接触させ、その有機金属化合物の分解を起こし、基体上に膜を形成する。
【0060】
有機金属化合物前駆物質は、当該技術分野で知られている化学蒸着、より具体的には金属有機化学蒸着法で用いることができる。例えば、上に記載した有機金属化合物前駆物質は、大気圧のみならず、低圧化学蒸着法で用いることができる。それら化合物は、反応室全体が加熱される方法である熱壁化学蒸着、並びに、基体だけが加熱される技術である冷壁又は温壁型化学蒸着において用いることができる。
【0061】
上に記載した有機金属化合物前駆物質は、プラズマ又は光アシステッド化学蒸着法でも用いることができる。これらの方法では、それぞれプラズマ又は電磁波エネルギーからのエネルギーが化学蒸着前駆物質を活性化するのに用いられる。上記化合物は、イオンビーム、電子ビームアシステッド化学蒸着法でも用いることができる。これらの方法では、それぞれイオンビーム又は電子ビームが基体へ向けられ、化学蒸着前駆物質を分解するためのエネルギーを供給する。レーザー光を基体へ向けて化学蒸着前駆物質の光分解反応に影響を及ぼすレーザーアシステッド化学蒸着法も用いることができる。
【0062】
本発明の方法は、例えば、当該技術分野で知られているように、熱壁又は冷壁反応器、プラズマアシステッド、ビームアシステッド、又はレーザーアシステッド反応器のような種々の化学蒸着反応器で行うことができる。
【0063】
本発明の方法を用いて被覆することができる基体の例としては、金属基体、例えば、Al、Ni、Ti、Co、Pt、Ta;金属珪化物、例えば、TiSi、CoSi、NiSi;半導体材料、例えば、Si、SiGe、GaAs、InP、ダイヤモンド、GaN、SiC;絶縁体、例えば、SiO、Si、HfO、Ta、Al、チタン酸バリウムストロンチウム(BST);障壁材料、例えば、TiN、TaN;のような固体基体、又はそれら材料の組合せを含む基体が含まれる。更に、膜又は被覆は、ガラス、セラミック、プラスチック、熱硬化性重合体材料、及び他の被覆又は膜層の上に形成することができる。好ましい態様においては、膜の堆積は、電子部品の製造又は加工で用いられる基体上に行われる。別の態様においては、基体を用いて、高温で酸化剤の存在下で安定である低抵抗率伝導体堆積物又は光学的透過性膜を支持する。
【0064】
本発明の方法を実施して、円滑で平坦な表面を有する基体上に膜を堆積することができる。一態様においては、本方法を実施して、ウェーハ製造又は加工で用いられる基体上に膜を堆積する。例えば、本方法を実施して、トレンチ、孔、又はヴィア(ヴィア)のような特徴を含むパターン化された基体上に膜を堆積することができる。更に、本発明の方法は、ウェーハの製造又は加工、例えば、マスキング、エッチングその他の工程と統合することもできる。
【0065】
化学蒸着膜は、所望の厚さに堆積させることができる。例えば、形成される膜は1μより小さい厚さ、好ましくは500nmより小さく、一層好ましくは200nmより小さい厚さとすることができる。50nmの厚さより小さい膜、例えば、約0.1〜約20nmの厚さを有する膜も製造することができる。
【0066】
上に記載した有機金属化合物前駆物質を用いて、原子層堆積(ALD)又は原子層核生成(ALN)法により膜を形成することもでき、その間、基体は前駆物質、酸化剤、及び不活性ガスの流れの交互パルスに曝される。順次層堆積技術は、例えば、米国特許第6,287,965号、及び米国特許第6,342,277号に記載されている。両方の特許の記載はその全体を参照により本明細書の記載の一部とする。
【0067】
例えば、ALDの1サイクルで、基体は順次:a)不活性ガス;b)前駆物質蒸気を保持する不活性ガス;c)不活性ガス;そしてd)単独又は不活性ガスと一緒にした酸化剤;に曝される。一般に、各工程は装置で許容できるだけの短時間(例えば、ミリ秒)にするか、その方法で必要になるだけの長時間(例えば、数秒又は数分間)とすることができる。1サイクルの時間は、ミリ秒位に短いか、数分位に長くすることができる。サイクルは、数分から数時間の範囲とすることができる期間に亙って繰り返す。製造された膜は数nmの薄さか、又は一層厚く、例えば、1mmとすることができる。
【0068】
本発明の方法は、超臨界流体を用いて行うこともできる。当該技術分野で現在知られている超臨界流体を用いた膜堆積法の例としては、化学的流体堆積;超臨界流体移送−化学的堆積;超臨界流体化学的堆積;及び超臨界浸漬堆積が含まれる。
【0069】
例えば、化学的流体堆積法は、高純度膜を製造するのに好適であり、複雑な表面を覆い、高アスペクト比特徴部を充填するのに好適である。化学的流体堆積は、例えば、米国特許第5,789,027号に記載されている。超臨界流体を使用して膜を形成することは、米国特許第6,541,278B2号にも記載されている。これら二つの特許の開示は参照によりその全体を本明細書の記載の一部とする。
【0070】
本発明の一態様において、加熱したパターン化基体を、例えば、近臨界又は超臨界COのような近臨界又は超臨界流体のような溶媒の存在下に、一種以上の有機金属化合物前駆物質に曝す。COの場合、溶媒流体は約1000psigより高い圧力及び少なくとも約30℃の温度で提供される。
【0071】
前駆物質は分解して基体上に金属膜を形成する。その反応は、前駆物質から有機物質をも発生する。その有機物質は溶媒流体により可溶化され、基体から容易に除去される。金属酸化物膜も、例えば、酸化性ガスを用いることにより形成することができる。
【0072】
一例においては、堆積法は、一つ以上の基体を収容する反応室中で行われる。それらの基体を、例えば、炉により室全体を加熱することにより所望の温度へ加熱する。有機金属化合物の蒸気は、例えば、室に真空を適用することにより生成させることができる。低沸点化合物の場合、室を充分に熱し、その化合物の気化を起こさせることができる。蒸着が、加熱された基体表面に接触すると、それは分解し、金属又は金属酸化物膜を形成する。上に記載したように、有機金属化合物前駆物質は単独で、又は、例えば他の有機金属前駆物質、不活性キャリヤーガス又は反応性ガスのような一種以上の成分と組合せて用いることができる。
【0073】
本発明の方法により膜を製造するのに用いることができる装置では、原料をガス混合マニホルドへ送り、工程ガスを生成させ、それを堆積反応器へ供給し、そこで膜の成長を行うことができる。原料には、キャリヤーガス、反応性ガス、パージガス、前駆物質、エッチング/クリーニングガス等が含まれるが、それらに限定されるものではない。工程ガス組成の正確な制御は、質量流量制御器、バルブ、圧力変換器、及び当該技術分野で知られているような他の手段を用いて達成される。排出マニホルドは、堆積反応器を出るガス並びにバイパス流を真空ポンプへ運ぶことができる。真空ポンプより下流にある排除装置は、排出ガスから危険物質を除去するのに用いることができる。堆積装置は、工程ガス組成を測定することができる残留ガス分析器を含む、その場(in−situ)分析装置を具えることができる。制御及びデータ収集装置は、種々の工程パラメータ(例えば、温度、圧力、流量等)を監視することができる。
【0074】
上に記載した有機金属化合物前駆物質を用いて、一種の金属を含む複数の膜、又は一種の金属酸化物を含む膜を製造することができる。混合膜、例えば、混合金属酸化物膜を堆積することもできる。そのような膜は、例えば数種の有機金属前駆物質を用いることにより製造される。金属膜も、例えばキャリヤーガス、蒸気、又は他の酸素源を用いずに形成することができる。
【0075】
本明細書に記載された方法により形成される膜は、当該技術分野で知られた技術、例えば、X線回折、オージェ分光分析、X線光電子発光分光分析、原子力顕微鏡、走査電子顕微鏡、及び当該技術分野で既知の他の技術により特徴付けることができる。膜の固有抵抗及び熱安定性も、当該技術分野で既知の方法により測定することができる。
【0076】
膜堆積のための化学蒸着又は原子層堆積前駆物質として半導体用途で用いる以外に、本発明の有機金属化合物は、例えば、触媒、燃料添加剤として、及び有機合成において有用であり得る。
【0077】
本発明の種々の修正及び変更は、当業者に自明であろう。そのような修正及び変更は、本願の範囲及び特許請求の範囲及びその本質内に含まれるものであることは理解されるべきである。
【0078】
例1
乾燥500mlの三口丸底フラスコに、(頂部に流量アダプターを有する)凝縮器を取り付け、撹拌棒を入れた。撹拌板上方の加熱マントル〔バリアック(variac)に取付けられている〕上に乗せたガスフード中にそのフラスコを留めた。そのフラスコにクロロビス(トリフェニルホスフィン)−(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(14.8g、0.020モル)を添加し、その系を15分間窒素でパージした。パージ後、フラスコにガラスストッパー及び隔膜で蓋をし、油バブラーへ通じた凝縮器の頂部にあるアダプターを通してゆっくりした窒素の流れを確立した。カニュールを通して無水トルエン(150ml)を添加し、撹拌を開始した。リチウムピロリド(1.6g、0.022モル)のTHF(50ml)溶液をカニュールを通してトルエン懸濁物へ移した。褐色の溶液を穏やかに還流するまで加熱し、16時間撹拌した。室温へ冷却した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた残留物をヘキサン(4×100ml)中で撹拌し、中程度の多孔率のフリットを通して濾過した。そのヘキサンを黄色の濾液から減圧下で除去し、得られた暗黄色の液体を、短路蒸留ヘッドを通して真空蒸留した(約0.3トール)。約100℃で生成物収集を行なった。収集された黄色液体をNMR及びGC−MSにより特徴付けた。MS(M+、相対的強度):260(100)、246(40)、193(33)、167(9)。H NMR(300MHz、トルエン−d、δ):5.64(t、α−ピロリル、J=1Hz)、4.62(t、β−ピロリル、J=1Hz)、4.38(t、Cp、J=2Hz)、4.30(t、Cp、J=2Hz)、2.04(q、CH、J=8)、1.02(t、CH、J=8)。生成物は、下の構造により表されるエチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウムである。
【0079】
【化3】

【0080】
例2
リチウム2,5−ジメチルピロリドを、ヘキサン中n−ブチルリチウム及び2,5−ジメチルピロールを用いて標準リチオ化法を用いて別々に合成した。乾燥窒素雰囲気グラブボックス内で、大気遮断テフロン(登録商標)バルブを具えた乾燥1リットル一口丸底フラスコに撹拌棒を入れた。そのフラスコにリチウム2,5−ジメチルピロリド(6.0g、0.059モル)、無水THF(75ml)、及び無水ヘキサン(300ml)を添加した。トリス(トリフェニルホスフィン)−ジクロロルテニウム(14.3g、0.015モル)を添加した。フラスコに蓋をし、グラブボックスから取り出し、窒素パージ下に凝縮器を取付け、ガスフード中で窒素中で(撹拌しながら)還流した(14時間)。室温へ冷却した後、溶媒を減圧下で除去し、残留物をグラブボックスへ戻した。粗製物質をヘキサンと共に撹拌し、次に中程度の多孔率のフリットを通して濾過した。濾液を約10mlへ減少させ、次にシリカゲルカラムにかけた。無水ジエチルエーテルで溶離することにより残留トリフェニルホスフィンを除去した。無水THFによる溶離で、ブライトイエローの帯域を生じ、それを収集し、THFを除去し、ライトイエロー/ベージュ色の固体を得た。ビス(2,5−ジメチルピロリル)ルテニウムの純粋な化合物は、乾燥窒素雰囲気中で熱的に安定であった。GC/MS(M+、相対強度):289(100)、193(26)。H NMR(300MHz、C、δ):4.45(s、β−ピロリル、2H)、2.11(s、CH、6H)。DSC:mp=73℃。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物であって、但し、(i)L及びL’が両方共、全置換されたピロリル基である場合、そのピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外であり;(ii)L及びL’が両方共、置換されたインドリル基である場合、そのインドリル基置換基の少なくとも一つはメチル又は水素以外であり;(iii)Lが無置換シクロオクタン基で、L’が置換ピロリル基である場合、そのピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外であり;(iv)Lが無置換シクロオクタン基で、L’が置換インドリル基である場合、そのインドリル基置換基の少なくとも一つは、メチル又は水素以外であり;(v)Lが置換シクロヘキサジエン基で、L’が置換ピロリル基である場合、そのピロリル基置換基の少なくとも一つはメチル以外である;有機金属化合物。
【請求項2】
次の式:
【化1】


(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、及びR11は、同じか又は異なり、それぞれ、水素、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜約12個の炭素原子を有するアミン基、又は0〜約12個の炭素原子を有するシリル基を表す。)
から選択される、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項3】
置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基が、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル、複素環基、及び芳香族環基から選択され、置換又は無置換ペンタジエニル類似基が、鎖状オレフィン基、ヘキサジエニル、ヘプタジエニル、及びオクタジエニルから選択され、置換又は無置換ピロリル類似基が、ピロリニル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、カルバゾリル、トリアゾリル、インドリル、及びプリニルから選択される、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項4】
Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、Si、Ge、ランタニド系元素、又はアクチニド系元素である、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項5】
シクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
メチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
エチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
イソプロピルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
t−ブチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
メチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
エチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
イソプロピルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、 t−ブチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
メチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
エチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
イソプロピルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
t−ブチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
1,2−ジメチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
1,3−ジメチルシクロペンタジエニルピロリルルテニウム、
1,3−ジメチルシクロペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
1,3−ジメチルシクロペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
ペンタジエニルピロリルルテニウム、
2,4−ジメチルペンタジエニルピロリルルテニウム、
2,4−ジメチルペンタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
2,4−ジメチルペンタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
シクロヘキサジエニルピロリルルテニウム、
シクロヘキサジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
シクロヘキサジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
シクロヘプタジエニルピロリルルテニウム、
シクロヘプタジエニル−2,5−ジメチルピロリルルテニウム、
シクロヘプタジエニルテトラメチルピロリルルテニウム、
ビス(ピロリル)ルテニウム、
2,5−ジメチルピロリルピロリルルテニウム、
テトラメチルピロリルピロリルルテニウム、
ビス(2,5−ジメチルピロリル)ルテニウム、及び
2,5−ジメチルピロリルテトラメチルピロリルルテニウム、
から選択される、請求項2に記載の有機金属化合物。
【請求項6】
水素還元を受けた、請求項1に記載の有機金属化合物。
【請求項7】
式LML’(式中、Mは金属又はメタロイドであり、Lは、置換又は無置換シクロペンタジエニル基、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似基、置換又は無置換ペンタジエニル基、置換又は無置換ペンタジエニル類似基、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基であり、L’は、置換又は無置換ピロリル基、又は置換又は無置換ピロリル類似基である)により表される有機金属化合物の製造のための方法であって、(i)置換又は無置換シクロペンタジエニルハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換シクロペンタジエニル類似ハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ペンタジエニルハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ペンタジエニル類似ハロゲン化物金属化合物、置換又は無置換ピロリルハロゲン化物金属化合物、又は置換又は無置換ピロリル類似ハロゲン化物金属化合物から選択される金属源化合物と、塩基材料とを、溶媒の存在下、必要な条件下で反応させ、前記有機金属前駆物質化合物を含む反応混合物を生成させること、及び(ii)前記有機金属前駆物質化合物を前記反応混合物から分離すること、を含む有機金属化合物の製造のための方法。
【請求項8】
請求項1に記載の有機金属化合物を分解し、それにより膜、被覆、又は粉末を生成させる、膜、被覆、又は粉末の製造のための方法であって、前記有機金属化合物の分解が、熱的活性化、化学的活性化、光化学的活性化、又はプラズマ活性化による、膜、被覆、又は粉末の製造のための方法。
【請求項9】
有機金属化合物を気化し、その蒸気を、基体を収容する堆積反応器中に送り、前記基体が、金属、金属珪化物、半導体、絶縁体、及び障壁材料からなる群より選択される材料を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(i)請求項1に記載の第一有機金属化合物、及び(ii)一種以上の異なる有機金属化合物を含む混合物。

【公表番号】特表2008−516956(P2008−516956A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536831(P2007−536831)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/036656
【国際公開番号】WO2006/044446
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】