説明

有機銀塩粒子の製造装置

【課題】 有機銀塩粒子の粒径分布が単分散であり、かつカブリの発生が少なく、生産性に優れた有機銀塩粒子の製造装置を提供する。
【解決手段】 銀イオン含有溶液と有機酸アルカリ金属塩溶液とを用いて有機銀塩粒子を製造する装置であって、当該銀イオン含有溶液の調製タンクと当該有機酸アルカリ金属塩溶液の調製タンクから各々の溶液が定量供給装置を通して定量供給される静的混合器を有することを特徴とする有機銀塩粒子の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機銀塩粒子の製造装置に関し、特に、銀塩光熱写真ドライイメージング材料(光熱写真ドライイメージング材料、光熱写真感光材料、熱現像感光材料、単に熱現像材料又は感光材料ともいう。)に含有される非感光性有機銀塩粒子の製造に適した製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージング(画像形成)材料は、センシトメトリー特性、画質特性、取り扱いの簡便性等の性能はもちろんのこと、近年、安全性、環境保全等を全て満足させることが要望されている。特に、現像処理廃液の海洋投棄が全面的に禁止されたことから、医療や印刷製版の分野でもウェット処理からドライ処理へのニーズの高まりが顕著となってきた。
【0003】
一方、医療分野では、近年の医療情報のデジタル化により、医療診断用画像はMRI (magnetic resonance imaging)、CT (computed tomography)、CR (computed radiography)等の手法が主流となり、画像出力には各種方式の医療画像用ドライイメージャシステムが使用されてきている。また、印刷製版の分野でも、同様なデジタル化とドライ化が進展している。
【0004】
上記のような社会・市場動向に伴い、レーザ・イメージャーやレーザ・イメージセッターのような効率的な露光が可能で、かつ高解像度で鮮明な画像を形成することができる光熱写真ドライイメージング材料の重要性が増し、当該材料の一層の改良技術が必要とされてきている。
【0005】
上記光熱写真ドライイメージング材料に係る技術として、例えば、D.モーガン(Morgan)とB.シェリー(Shely)による米国特許第3,152,904号、同3,487,075号又はD.H.クロスタベール(Klosterboer)による「ドライシルバー写真材料(Dry Silver Photographic Materials)」(Handbook of Imaging Materials,Marcel Dekker,Inc.第48頁、1991)等に記載されているように、支持体上に非感光性有機銀塩、感光性ハロゲン化銀粒子及び銀イオン還元剤を含有する銀塩光熱写真ドライイメージング材料が知られている。この銀塩光熱写真ドライイメージング材料では、現像処理に置いて、溶液系処理薬品を一切使用しないため、より簡便で環境を損なわないシステムをユーザーに提供することができる利点を有している。
【0006】
これらの銀塩光熱写真ドライイメージング材料は、感光性層中に設置された感光性ハロゲン化銀粒子を光センサーとし、有機銀塩を銀イオンの供給源とし、内蔵された還元剤によって通常80〜140℃にて熱現像することにより画像を形成させ、定着を行わないことを特徴としている。
【0007】
しかしながら、銀塩光熱写真ドライイメージング材料においては、有機銀塩、感光性ハロゲン化銀粒子及び還元剤を含有するため、熱現像前の保存期間にカブリが生じ易い。また、露光後、通常80〜140℃で熱現像するだけで定着を行わないため、熱現像後においても、ハロゲン化銀粒子、有機銀塩及び還元剤等の全部あるいは一部が残留するため、長期間の保存過程で、熱や光により金属銀が生じ、銀画像の色調等、画質が変化し易いという問題がある。
【0008】
ところで、上記銀塩光熱写真ドライイメージング材料に非感光性銀源として用いられる有機銀塩は基本的に脂肪族カルボン酸を水中苛性アルカリもしくはアルカリ金属塩を加えアルカリセッケンとし、その後、当該アルカリセッケンを銀セッケン(有機銀塩)に換えるため硝酸銀を加えることにより調製される(例えば、特許文献1参照)。また、濃縮効果及び均一性を高めるためアルコールを加えることもある(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
アルカリセッケンは、アルカリ性のため銀セッケンは高pHで作られることになる。ところが、硝酸銀をアルカリ液中に添加することは、副生成物として酸化銀を生じさせ、さらに、意図しない銀核も生じさせることになる。このような副生成物は銀塩光熱写真ドライイメージング材料の性能、特にカブリを生じる点で不利である。
【0010】
上記の問題を解決する有機銀塩粒子の形成方法及び装置として、特開2001−33907号公報、特開2001−83652号公報、特開2001−31870号公報には密閉混合手段を用いたものが開示されている。しかしながら、これらの手段はある程度の効果を発現するものの、当該密閉混合手段は内部に撹拌手段を有しており、そのため、構造が複雑になり、微視的に見た場合には、液の滞留等の問題を無視することができない。密閉式の連続混合方式では、液の滞留は、有機銀塩粒子の粒径や分布を乱す要因になるばかりでなく、滞留した粒子が高濃度の銀イオンにさらされることにより、カブリの上昇という問題も引き起こす。
【0011】
一方、特開2003−43607号公報には、マイクロミキサーを用いた有機銀塩粒子の製造方法が開示されている。前記マイクロミキサーは、内部に撹拌手段を有さない静的混合であり、具体的には、微小流路内を層流状態で行なう装置である。層流は流体の各粒子が流れ方向に向かってすべて平行に動く流れを言い、そのため、添加液を低濃度しないかぎり均一な状態で核を生成することができない。したがって、有機銀塩粒子の粒径分布が悪くなり、カブリ上昇の問題もある。また、添加液の低濃度化、微小流路内に添加液を送って層流にするため生産性も悪くなる。
【特許文献1】特開2000−143578号公報
【特許文献2】特開2000−7683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機銀塩粒子の粒径分布が単分散であり、かつカブリの発生が少なく、生産性に優れた有機銀塩粒子の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は以下の手段により達成された。
【0014】
(請求項1)
銀イオン含有溶液と有機酸アルカリ金属塩溶液とを用いて有機銀塩粒子を製造する装置であって、当該銀イオン含有溶液の調製タンクと当該有機酸アルカリ金属塩溶液の調製タンクから各々の溶液が定量供給装置を通して定量供給される静的混合装置を有することを特徴とする有機銀塩粒子の製造装置。
【0015】
(請求項2)
前記調製タンクと前記静的混合装置の間に流量検知手段を有し、流量検知結果が定量供給装置にフィードバックされる機能を有することを特徴とする請求項1に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0016】
(請求項3)
前記銀イオン含有溶液の調製タンクと有機酸アルカリ金属塩溶液の調製タンクのうちの一方の調製タンクと前記静的混合装置の間の流量検知手段により検知された結果が、他方の溶液定量装置にフィードバックされることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0017】
(請求項4)
前記調製タンクの少なくとも一方に脱泡手段が設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0018】
(請求項5)
前記脱泡手段が減圧装置であることを特徴とする請求項4に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0019】
(請求項6)
前記調製タンクの少なくとも一方と前記定量供給装置の間に連続脱泡装置が設けられたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0020】
(請求項7)
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置に引き続き、析出した有機銀塩粒子の粒子成長抑制手段を有することを特徴とする有機銀塩粒子の製造装置。
【0021】
(請求項8)
前記粒子成長抑制手段が冷却手段であることを特徴とする請求項7に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【0022】
(請求項9)
前記粒子成長抑制手段がインライン式熱交換器であることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の上記構成により、有機銀塩粒子の粒径分布が単分散であり、かつカブリの発生が少なく、生産性に優れた有機銀塩粒子の製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態に係る製造装置について説明するが、本発明は以下に説明する実施の形態に限定されない。
【0025】
通常の混合釜を用いた撹拌装置の場合、発生した核が循環して戻ってくるため、核発生時間中に均一な状態で核を生成する事ができないのに対し、本発明では静的混合装置へ所望の量に添加液を制御し、且つ発生した核を直ちに排出管により排出するため、定常状態での核生成を可能にする。ここで、静的混合装置とは、複数の反応溶液を混合する際、当該複数の溶液が互いに初めて接触し混合される初期の期間において、攪拌装置により物理的攪拌を意図的にせずに、混合する装置をいう。また、静的混合装置へ添加する所望の量とは混合が乱流状態で行なわれる量である。乱流とは流体の各粒子が流れの主流以外の方向にも分速度を持ち、その大きさを絶えず変化させながら流れる乱れをいう。
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図をもって説明する。図1〜6は、本発明の有機銀塩製造装置の概略図である。
【0027】
請求項1については、図1中の各々の調製タンク11及び12にて調製された添加液1及び2をポンプ13及び14により静的混合装置15に定量供給することにより有機銀塩粒子が形成され、生成用タンク16に有機銀塩粒子を受ける。この装置により有機銀塩粒子の粒径分布が単分散な有機銀塩粒子を得ることができる。
【0028】
なお、銀イオン含有溶液及び有機酸アルカリ金属塩溶液のいずれか一方を添加液1用調製タンクで調製し、他方を添加液2用調製タンクで調製する。以下においても同様である。
【0029】
請求項2については、図2中の各々の調製タンク21及び22にて調製された添加液1及び2をポンプ24及び26により静的混合装置27に定量供給するが、供給する液量を流量探知機23で検知し、検知結果を添加液1用ポンプ24にフィードバックして供給流量をコントロールする。同様に供給する液量を流量検知機25で検知し、検知結果を添加液2用ポンプ26にフィードバックして供給流量をコントロールする。反応に供する2液の流量をコントロールすることにより、一定の反応場を維持して副反応を抑制することができる。本発明の装置の流量検知手段の具体例としては、定量供給装置と静的混合器の間に設けられた流量計あるいは、圧力計、及び調製タンクに設けられた質量検知手段が挙げられる。
【0030】
請求項3については、図3中の各々の調製タンク31及び32にて調製された添加液1及び2をポンプ34及び35により静的混合装置36に定量供給するが、供給する液量を添加液1用流量検知機33で流量を検知し、検知結果を添加用2用ポンプ35にフィードバックして供給流量をコントロールする。片方の流量を他方の定量供給装置にフィードバックすることにより、流量検知装置の数を減らすことができ、低コストの装置を提供することができる。
【0031】
請求項4〜6については図4により説明する。
【0032】
有機酸アルカリ金属塩溶液はアルカリセッケンの溶液であり、泡を含んでいる。泡を含むことで体積が変動し、流量計によっては流量を正確に感知することが出来にくくなる。また、有機銀塩粒子の形成にも影響をおよぼす可能性が大きい。なお、有機酸アルカリ金属塩溶液は脱泡装置のある溶解タンクで調整する。
【0033】
図4中の添加液2用溶解タンク兼脱泡装置43で添加液2を脱泡する。添加液2用溶解タンク兼脱泡装置43は真空ポンプ44で減圧され、減圧調整バルブ45で減圧度を調整することができる。図中に示してはいないが、減圧度の値を表示するため減圧計を設置することも可能である。添加液2用溶解タンク兼脱泡装置43で脱泡された添加液2は添加液2用調製タンク42に受けられる。有機銀塩粒子の形成については請求項1〜3と同様に添加液の流量をコントロールして行なう。
【0034】
本発明の装置の脱泡手段は減圧装置が好ましく、脱泡は連続的に行なうことが生産性の観点からも好ましい。本発明の装置に脱泡装置を有することにより、より高精度な流量をコントロールすることが可能になる。
【0035】
請求項7〜9については図5及び6により説明する。
【0036】
有機銀塩粒子の形成は請求項1〜6の説明と同様であるが、図5及び4中の熱交換器68及び81により生成した粒子を含む懸濁液を冷却し粒子成長を抑制することができる。これによりオストワルド熟成による粒子成長を抑制できる。
【0037】
本発明において、冷却に用いる熱交換器は特に限定されない。例えば、多管円筒型熱交換器、ヒートパイプ型熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、カスケード式熱交換器、プレート式熱交換器、渦巻き板式熱交換器、水冷熱交換器を使用することができる。
【0038】
本発明の有機銀塩粒子の製造装置では調製タンクと静的混合装置の間には、必要に応じてフィルター等の異物あるいは未溶解物除去装置を設けることができる。静的混合装置への供給液の温度は、調製タンクの液温と同等かあるいはそれ以下であることが、微細気泡の溶解、溶存気体の気泡化防止のために好ましい。
【0039】
本発明の有機銀塩製造装置を用いて、有機銀塩粒子の球相当平均直径が0.1μm〜0.6μmである有機銀塩粒子を当該球相当平均直径の標準偏差が0.3以下で製造することができ、かつ、本発明に係る有機銀塩粒子を銀塩光熱写真ドライイメージング材料に用いたときにカブリの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【図2】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【図3】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【図4】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【図5】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【図6】本発明の有機銀塩製造装置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
11,21,31,41,61,71 添加液1用調製タンク
12,22,32,42,62,72 添加液2用調製タンク
13,24,34,47,64,77 添加液1用ポンプ
14,26,35,49,66,79 添加液2用ポンプ
15,27,36,50,67,80 静的混合装置
16,28,37,51,69,82 生成液用タンク
23,33,46,63,76 添加液1用流量検知器
25,48,65,78 添加液2用流量検知器
43,73 添加液2用溶解タンク兼脱法装置
44,74 真空ポンプ
45,75 減圧調製バルブ
68,81 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン含有溶液と有機酸アルカリ金属塩溶液とを用いて有機銀塩粒子を製造する装置であって、当該銀イオン含有溶液の調製タンクと当該有機酸アルカリ金属塩溶液の調製タンクから各々の溶液が定量供給装置を通して定量供給される静的混合装置を有することを特徴とする有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項2】
前記調製タンクと前記静的混合装置の間に流量検知手段を有し、流量検知結果が定量供給装置にフィードバックされる機能を有することを特徴とする請求項1に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項3】
前記銀イオン含有溶液の調製タンクと有機酸アルカリ金属塩溶液の調製タンクのうちの一方の調製タンクと前記静的混合装置の間の流量検知手段により検知された結果が、他方の溶液定量装置にフィードバックされることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項4】
前記調製タンクの少なくとも一方に脱泡手段が設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項5】
前記脱泡手段が減圧装置であることを特徴とする請求項4に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項6】
前記調製タンクの少なくとも一方と前記定量供給装置の間に連続脱泡装置が設けられたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機銀塩粒子の製造装置に引き続き、析出した有機銀塩粒子の粒子成長抑制手段を有することを特徴とする有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項8】
前記粒子成長抑制手段が冷却手段であることを特徴とする請求項7に記載の有機銀塩粒子の製造装置。
【請求項9】
前記粒子成長抑制手段がインライン式熱交換器であることを特徴とする請求項7又は8に記載の有機銀塩粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−349725(P2006−349725A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172124(P2005−172124)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】