説明

有機錯体発光素子

【発明の詳細な説明】
〔技術分野〕
本発明は、電荷注入を行う電界発光素子(エレクトロルミネッセンス(EL)素子)に関し、単色性に優れ変換効率の高い発光素子に関する。
〔背景技術〕
EL素子は、一般に真性型EL素子と注入型EL素子に分類される。このなかで注入型EL素子の動作機構は、ダイオードなどのp−n接合に順方向バイアスを印加して、両側の電極からそれぞれ電子と正孔を注入し、その再結合により光を発生するものである。一般にこのEL素子は、上記の発光機能を発現する層を、2つの電極間に配置した構造を有し、これら電極間に電圧を印加することにより,電気エネルギーを直接光に変換する発光素子である。この素子の特徴として、直流から交流までの広い駆動周波数範囲で動作し、しかも低電圧駆動が可能であり、また電気から光への変換効率がよいなどの可能性や、従来の発光素子、例えば白熱電球や、蛍光灯などとは異なり、薄膜パネル、ベルト状、円筒状等の種々の形状の例えば、線、図、画像等の表示用部材や、あるいは大面積のパネル等の面状の発光体を実現化できる可能性を有することである。
この注入型EL素子に用いられる材料は、従来はGaP等の無機半導体材料が主に使用されてきた。一方、また最近になり正孔伝導性と電子伝導性の有機化合物薄膜を2層重ねた注入型発光ダイオード素子が報告された(C.W.Tang:Appl.Phys.Lett.,51(12),(1987)193)。該有機材料を用いた発光素子は、発光色を自由に変えることができること、また種々の薄膜形成方法が選択でき、また精度よく大面積で薄膜の形成が可能である等の特徴を有するため注目されている。
しかしながら、例えば上記などの報告において緑の発光を得る目的ではおもに8−ヒドロキシキノリン(A1(Ox)3)が用いられているが、そのスペクトルの中心波長は520nmであるが、そのスペクトル幅は480nmから620nmにわたるブロードなものである。色純度のよい単色性の光を得るには、フィルター等を用いなければならず、色純度のよい三原色を得てカラー表示用素子等を作成する時に問題があった。この解決策として、これまでしられている有機材料では、分子のブロードな発光遷移をもちいていること、温度やマトリックスなどの環境の影響を受けやすいことなど、スペクトル幅の狭い発光を得ることは、原理的に不可能と考えられる。そこで、この問題を解決するため,発光遷移確率が高く、環境の影響をうけにくく、しかも発光スペクトル幅が狭い、などの特徴を有する有機発光材料および素子が望まれている。これに関して、本発明者らは特願平01−217407号で有機錯体薄膜を用いた発光素子を開示した。
本発明者らは、さらに検討を加え、発光スペクトル幅が狭く単色性に優れ、しかも変換効率のよい発光素子を見出したのでここに提案する。
〔発明の開示〕
すなわち、本発明は、基板上に第一電極層,発光層,電子伝導層,第二電極層の順に形成せられた発光素子であり、該発光層は正孔伝導性の有機化合物と希土類金属の有機錯体が混合された薄膜よりなることを特徴とする発光素子である。
第1図はその一つの実施の形態を示すものである。基板、好ましくは樹脂、ガラス等の透明な基板1,透明導電性薄膜層からなる第一電極層2,金属電極薄膜層からなる第二電極層5を備えており、これら2つの電極2,5層間に、発光層3,電子伝導層5を設けた発光素子である。
本発明における発光層は、EL性能つまり単色性および発光効率の改善を特徴ずけるものであり、この層は、発光層は正孔伝導性の有機化合物と希土類金属の有機錯体が混合された薄膜よりなることが重要な点である。
以下に希土類金属の有機錯体を説明する。
希土類金属としては,イットリウム(Y),ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユーロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu)があるが、なかでもセリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユーロピウム(Eu),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)が好ましい。これら金属の2価、3価あるいは4価イオンが用いられる。
また、有機物の配位子としては、アセチルアセトン,ジベンゾイルメタン、2−テノイルトリフロロアセトンのようなβ−ジケトン基を有するもの;o−ベンゾイル安息香酸,サリチル酸、o−フタル酸のようなカルボン酸基を有するもの;サリチルアルデヒド、o−ヒドロキシアセトフェノン、o−ヒドロキシベンゾフェノンのヒドロキシル基に隣接したケトン基あるいはアルデヒド基を有するもの;8−ヒドロキシキノリンや5,7−ジブロムオキシンのようなオキシン類,2.2′−ビピリジン,2,2′,2″−トリピリジン,1,10−フェナントロリンのようなピリジン類,クラウンエーテル類などがあり,これらの配位子は単独あるいは混合して用いられる。
一方、有機伝導性(正孔導電性)の有機化合物としては、アミン系の有機化合物や、ポリビニルカルバゾール、ポリピロールやポリチオフェンなどの導電性高分子化合物が用いられる。
本発明における発光層は、上記正孔導電性の有機化合物と、希土類金属の有機錯体が混合された薄膜として用いられる。発光層中の有機錯体の濃度は特に規定するものではないが、通常0.01〜20mol%もしくは0.01〜10wt%程度である。
上記有機金属錯体を含む薄膜は非晶質、微結晶、微結晶を含む非晶質、多結晶、単結晶薄膜の形態で用いられる。なお、薄膜の厚みは特に限定するものではないが、通常50〜5000Å程度が採用される。勿論、この外の範囲も使用することは可能である。
当該の薄膜は、真空蒸着法などの各種の物理的または化学的な薄膜形成法などで形成されるほか、昇華法や、塗布法なども有効に用いられる。
本発明において電子伝導層としては、無機半導体薄膜やオキサジアゾール系の有機化合物薄膜や、アルミニュームオキシンなどの金属錯体の薄膜などを用いることがでいる。無機半導体薄膜としては、1種類の無機半導体薄膜、または2種類以上の無機半導体薄膜の積層膜よりなる。これらは、非晶質薄膜、微結晶薄膜、多結晶薄膜、単結晶薄膜、または非晶質と微結晶が交じり合った薄膜、またこれらの積層薄膜や人工格子薄膜等が用いられる。これらの薄膜形成に有用な無機半導体材料は、C,Ge,Si,Snなどの一元系の半導体、SiCなどの二元系IV−IV族半導体,AlSb,BN,BP,GaN,GaSb,GaAs,GaP,InSb,InAs,InPなどのIII−V族半導体、CdS,CdSe,CdTe,ZnO,ZnS,ZnSeなどのII−VI族半導体材料など、さらに多元系の化合物半導体材料などである。好ましい材料であるSi(シリコン)について具体的に例をあげると、非晶質シリコン(a−Si)、水素化非晶質シリコン(a−Si:H)、微結晶シリコン(μc−Si)、多結晶シリコン、単結晶シリコン、水素化非晶質炭化珪素(Si1-xCx:H)、微結晶炭化珪素(μc−SiC)、単結晶炭化珪素、非晶質窒化珪素、水素化非晶質窒化珪素、微結晶窒化珪素等が好適に用いられる。ここで、上記の無機半導体薄膜は、その薄膜自体が正孔伝導性をもつように、ドーピングなどを行い、n型にして用いられる。なお、厚みは特に限定されないが、通常、10〜3000Å程度が使用される。勿論、これ以外のものも使用可能である。上記の無機半導体薄膜の製造方法としては、光CVD法、プラズマCVD法、熱CVD法,モレキュラービームエピタキシー(MBE)法,有機金属分解法(MOCVD),蒸着法、スパッタ法、などの各種の物理的または化学的な薄膜形成法などが用いられる。
本発明における二つの電極層としては、金属,合金,金属酸化物,金属シリサイドなど、またはそれらの1種類または2種類以上の積層薄膜が用いられる。より好ましくは、接触している薄膜への電子または正孔の注入効率のよい材料が選択される。例えば、第一電極層,ポリビニルカルバゾール中に希土類の金属錯体が含まれる有機薄膜からなる発光層、オキサジアゾール系の薄膜からなる電子伝導層、第二電極層の順序で形成された素子に関し具体的に例示して説明する。
第一電極層は、ポリビニルカルバゾール中に希土類の金属錯体が含まれる有機薄膜からなる発光層へ正孔注入効率のよい電極材料をもちいるとよい。この電極材料として、より具体的に説明すると、一般的に電子の仕事関数の大きな金属、合金、金属酸化物などの金属化合物薄膜や導電性高分子材料、それらの積層された薄膜などが用いられる。また、この第一電極から発生する光を取り出すこともできる。このためには、第一電極が透明または半透明の物質で形成されることが好ましい。具体的に示すと、スズ酸化物(SnO2)、インジウム酸化物、インジウム−スズ酸化物(ITO)等の金属酸化物の薄膜、またはそれらの積層膜や、Pt,Au,Se,Pd,Ni,W,Ta,Te等の金属や合金薄膜、またそれらの積層膜、CuIなどの金属塩薄膜、またそれらの積層膜などが好適なものとして挙げられる。
第二の電極層は、オキサジアゾール系の薄膜に電子を注入するため、一般的に電子の仕事関数の小さな金属や合金薄膜、それらの積層薄膜などが用いられる。さらにより具体的にはMg,Li,Na,K,Ca,Rb,Sr,Ceなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg−Ag等の合金、Cs−O−Ag、Cs3Sb、Na2KSb、(Cs)Na2KSb、等の薄膜、またそれらの積層薄膜などが好適である。
なお、電極層の厚さは特に限定するものではないが、通常、1000〜10000Å程度である。
本発明の素子は、青、緑、赤の三原色の発光素子をセグメント状に平面的に並べてカラー表示用の部材として好適に用いることができる。
〔実施例〕
ガラス基板上にITO膜を膜厚5000Å形成し、第一の電極層とした。スピンコート法を用いて、希土類金属の有機錯体たるテルビウムアセチルアセトナート(Tb(acac)3)が1mol%含まれたポリビニルカルバゾールの有機薄膜を膜厚1000Åほど形成し発光層とした。さらに、この層の上に、抵抗加熱法により,(2−4−(Biphenyl)−5−(4−tert−butyl phenyl)−1−3−4−oxadiazolの有機薄膜を400Å形成し電子伝導層とした。さらにAl金属薄膜を堆積して、第二電極層とし、第1図に示すところの本発明の発光素子を得た。なおAl金属の蒸着膜の面積は1cm角である。この発光素子に、直流電圧を印加したところ、10v以上の室内蛍光灯下で確認できる明るい緑色の発光が観測された。このときの主な発光波長は545nmで,この波長でのスペクトル幅は約10nmで非常に単色性にすぐれた特性を示した。発光スペクトルの測定結果を第2図に示す。また、発光の電子から光子への量子変換効率は2.2%ほどであった。
〔発明の効果〕
本発明は、一つの電極から電子を、もう一方の電極から正孔を注入して動作する注入型EL素子において、発光層に正孔伝導性の有機化合物に希土類金属の有機錯体が含まれた薄膜を用いることにより、発光の単色性にすぐれた、しかも十分な発光輝度と安定性を有するEL素子と成しえたものである。実施例からも明らかな如く、本発明のかかる注入型発光素子は、従来技術においては到底到達できなかった高性能な発光素子であり、カラー用の表示用部材等として工業的にきわめて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の発光素子の実施の一例を示す説明図である。
図において、
1……ガラス板等の基板、2……透明導電膜等よりなる第一電極層、3……正孔伝導性有機化合物中に希土類金属の有機錯体が含まれた薄膜からなる発光層、4……電子伝導性有機薄膜からなる電子伝導層,5……A1金属薄膜等よりなる第二電極層である。
第2図は、本発明の素子の発光スペクトル例を示す説明図である。
図において、縦軸は相対的な発光強度,横軸は波長を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上に第一電極層,発光層,電子伝導層、第二電極層の順に形成せられた発光素子であり、該発光層は正孔伝導性の有機化合物と希土類金属の有機錯体が混合された薄膜よりなることを特徴とする発光素子。

【第1図】
image rotate


【第2図】
image rotate


【特許番号】第2788531号
【登録日】平成10年(1998)6月5日
【発行日】平成10年(1998)8月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−87369
【出願日】平成2年(1990)4月3日
【公開番号】特開平3−289090
【公開日】平成3年(1991)12月19日
【審査請求日】平成9年(1997)1月28日
【出願人】(999999999)三井化学株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平2−8287(JP,A)
【文献】特開 平2−8288(JP,A)
【文献】特開 平2−8289(JP,A)
【文献】特開 平2−207488(JP,A)
【文献】特開 平2−250292(JP,A)
【文献】特開 平3−274693(JP,A)
【文献】特開 平3−176993(JP,A)
【文献】特開 平3−54289(JP,A)
【文献】特開 平2−196475(JP,A)