説明

有機電界発光素子及びその製造方法

【課題】 有機電界発光素子の保存や駆動時のダークスポットの発生を抑制して、長期に亘り、安定な発光特性を維持する。
【解決手段】 基板1、陽極2、有機発光層3及び陰極4よりなる素子本体10の外表面に保護層5、封止層6及び外気遮断材層7を形成した有機電界発光素子。封止層6は、JIS K6301の100%引張応力が50kgf/cm2 以下で、JIS Z0208(条件A)の透湿度が20g/m2 (24時間、200μm)以下の接着剤で形成する。
【効果】 接着剤硬化時の硬化収縮歪や内部応力が小さいため、陰極の剥離や素子の短絡を引き起こすことなく、素子本体を封止してダークスポットを防止することができる。高温高湿下に長時間置いても、接着力、弾性の劣化を生じることがない。接着剤が保護層と反応して経時劣化を生じることもない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は有機電界発光素子及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、有機化合物からなる発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型発光素子の封止方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII-IV 族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、■ 交流駆動が必要とされる(一般に、50〜1000Hz)。
■ 駆動電圧が高い(一般に200V程度)。
■ フルカラー化が困難である。特に青色に問題がある。
■ 周辺駆動回路のコストが高い。
といった問題点を有している。
【0003】しかし、近年、上記問題点を改良すべく、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるために、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る有機正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る有機発光層とを設けた有機電界発光素子の開発(Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いた電界発光素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいてきている。
【0004】また、上記の様な低分子材料を用いた電界発光素子の他にも、有機発光層の材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)(Nature,347巻,539頁,1990年他)、ポリ [2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン] (Appl.Phys.Lett.,58巻,1982頁他)、ポリ(3−アルキルチオフェン)(Jpn.J.Appl.Phys,30巻,L1938頁他)等の高分子材料を用いた電界発光素子の開発や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に低分子の発光材料と電子移動材料を混合した素子(応用物理,61巻,1044頁,1992年)の開発も行われている。
【0005】これらの有機電界発光素子においては、通常、陽極としてはインジウム錫酸化物(ITO)のような透明電極が用いられ、陰極としては電子注入を効率よく行うために、マグネシウム合金、アルミニウム・リチウム合金、カルシウム等の仕事関数の低い金属電極が用いられている。これらの陰極材料は大気中の水分や酸素により容易に酸化し、その結果、陰極が有機層から剥離し、一般にダークスポット(素子の発光面において発光しない部分をさす。)と呼ばれる欠陥が発生する。この有機電界発光素子内のダークスポットの数や大きさは、素子の長期保存又は駆動の際に増加し、そのために素子の不安定性をもたらし寿命を短いものとしている。
【0006】従って、有機電界発光素子の安定性を向上させ信頼性を高めるためには、素子を大気中の水分や酸素から保護するための封止が必要不可欠である。
【0007】従来、有機電界発光素子の封止方法として、アクリル樹脂でモールドする方法(特開平3−37991号公報)、気密ケース内にP25 とともに入れて外気から遮断する方法(特開平3−261091号公報)、金属の酸化物等の保護膜を設けた後にガラス板等を用いて気密にする方法(特開平4−212284号公報)、プラズマ重合膜及び光硬化型樹脂層を設ける方法(特開平5−36475号公報)、フッ素化炭素からなる不活性液体中に保持する方法(特開平4−363890号公報他)、高分子保護膜を設けた後シリコーンオイル中に保持する方法(特開平5−36475号公報)、無機酸化物等の保護膜の上にポリビニルアルコールを塗布したガラス板をエポキシ樹脂で接着する方法(特開平5−89959号公報)、流動パラフィンやシリコーンオイル中に封じ込める方法(特開平5−129080号公報)、紫外線硬化型樹脂を用いる方法(特開平5−182759号公報他)等が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の有機電界発光素子の封止方法はいずれも満足できるものではなく、例えば、吸湿剤であるP25 とともに気密構造に素子を封じ込めるだけでは、ダークスポットの抑制が不十分である。また、フッ素化炭素(例えば、商品名「フロリナート」)やシリコーンオイル中に保持する方法は、液体を注入する工程を経ることにより封止工程が煩雑になるだけではなく、ダークスポットの増加も完全には防げず、むしろ液体が陰極と有機層の界面に侵入して陰極の剥離を促進する問題もある。紫外線硬化型樹脂で接着封止する方法では、接着剤に含まれる溶剤や紫外線による素子の劣化の問題、硬化時の応力歪による有機層からの陰極の剥離の問題があり、実用的ではない。封止用の接着剤としてのエポキシ樹脂やアクリル樹脂は、硬化時に素子に及ぼすダメージが大きく、素子の封止には不適当である。
【0009】このように有機電界発光素子のダークスポットによる劣化が十分に改善されず、発光特性が不安定なことは、ファクシミリ、複写機、液晶ディスプレイのバックライト等の光源としては重大な欠陥となり、また、フラットパネル・ディスプレイ等の表示素子としても望ましくない。
【0010】本発明者は上記従来の問題点を解決し、素子に悪影響を及ぼすことなく、効果的な封止を行うことにより、ダークスポットの発生を確実に抑制して、長期間に亘って安定な発光特性を維持することができる有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の有機電界発光素子は、基板上に、少なくとも、陽極、有機発光層及び陰極が積層され、この積層物の外表面に、内側から順に保護層、封止層及び外気遮断材層が形成されてなる有機電界発光素子であって、前記封止層が下記(イ)、(ロ)の条件を満たす接着剤を主成分とすることを特徴とする。
【0012】(イ) JIS K6301で規定された100%引張応力が50kgf/cm2 以下(ロ) JIS Z0208で規定された条件Aにおける透湿度が24時間で20g/m2 (200μm)以下上記(イ),(ロ)の条件を満たす接着剤であれば、素子に悪影響を及ぼすことなく封止機能の高い封止層を容易に形成することができ、ダークスポットの発生を確実に抑制して長期に亘って安定な発光特性を維持することができる。
【0013】本発明において封止層に用いる接着剤の作用効果は次の通りである。
【0014】ダークスポットを抑制するためには、先ず、素子を気密な構造中に置かなければならない。その際に、密閉された空間内に自由体積があると、ダークスポットの抑制が困難なことが判明した。この理由としては、有機発光層上に形成された陰極の有機発光層に対する付着力が非常に弱いために、陰極の近傍に自由体積が存在すると駆動時の発熱等により容易に陰極が有機発光層から剥離することが考えられる。この点において、不活性気体や不活性液体で封止する方法ではダークスポットの回避は困難である。従って、何らかの固体状態の材料で密閉された空間を埋め尽くす必要があるが、従来のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シアノアクリレート樹脂、紫外線硬化型樹脂等の接着剤を用いたのでは、硬化時に発生する硬化収縮歪や内部応力が有機電界発光素子との接着部界面に集中するために、かえって陰極の剥離が激しくなったり、素子が短絡したりする。
【0015】これに対して、封止層の接着剤として従来の封止層とは異なる、前記(イ),(ロ)の条件を満足する接着剤は、接着剤硬化時の硬化収縮歪や内部応力が小さいため、陰極の剥離や素子の短絡を引き起こすことなく、素子本体を封止してダークスポットを防止することができる。
【0016】また、本発明に係る、前記(イ),(ロ)の条件を満たす接着剤は、65℃−80%RHの環境下で長時間経過しても、エポキシ系接着剤などの他の接着剤を使用した場合に見られる接着部の剥離等が全く生じない。これは、本発明による接着剤がこのような環境下に長時間置かれても、接着力、弾性の劣化を生じない等の利点を有するためである。また、本発明による接着剤は、上記高温高湿下においても、接着剤が保護層と反応して経時劣化を生じることもない。更に、本発明による接着剤は揮発性の溶媒を使用せずに、揮発化工程を不要とすることができる。
【0017】本発明において、この接着剤としては炭化水素系ポリオールを主成分とするポリウレタン又は、ヒマシ油系ポリオールを主成分とするポリウレタンが好ましく、また、封止層にシリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、活性炭、ナイロン及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の吸湿剤を含有させることにより、より封止効果を高めることができる。
【0018】外気遮断材層としては電気絶縁性ガラス又は電気絶縁性高分子からなるものが好ましい。
【0019】また、陰極の膜厚は前記有機発光層の膜厚より小さいことが好ましい。
【0020】更に、陽極はインジウム・スズ酸化物よりなり、表面粗さが10nm以下であることが好ましい。
【0021】このような本発明の有機電界発光素子は、本発明の製造方法に従って、基板上に、少なくとも、陽極、有機発光層及び陰極を積層し、この積層物の外表面に保護層を形成した後、前記(イ)、(ロ)の条件を満たす接着剤を主成分とする封止層を形成し、次いでこの封止層の外側に外気遮断材層を形成することにより容易に製造することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の有機電界発光素子及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0023】図1は本発明の有機電界発光素子の一実施例を示す模式的断面図、図2はこの有機電界発光素子の素子本体を示す模式的断面図であり、図3,4は素子本体の他の実施例を示す模式的断面図である。図中、1は基板、2は陽極、3は有機発光層、3aは正孔輸送層、3bは電子輸送層、3cは正孔注入層、4は陰極、5は保護層、6は封止層、7は外気遮断材層、8は接着部、10,10A,10Bは素子本体を各々示す。
【0024】基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックのフィルムやシートなどが用いられる。特に、ガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂板が好ましい。ただし、合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0025】基板1上に形成された陽極2は、有機発光層3への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、白金、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化物、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子など、好ましくは、インジウム・スズ酸化物により形成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いる場合には、これを適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。また、導電性高分子を用いる場合には、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成するか、基板1上に導電性高分子を塗布することにより、陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。陽極2は異なる物質を積層して形成することも可能である。
【0026】陽極2の厚みは、透明性の要求の有無により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。陽極2が不透明でよい場合には、基板1と同一材料であってもよい。また、陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0027】陽極2の上に形成される有機発光層3は、電界が与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と陰極4から注入された電子を効率よく輸送して再結合させ、かつ、再結合により効率よく発光する材料から形成される。通常、この有機発光層3は発光効率の向上のために、図3に示す様に、正孔輸送層3aと電子輸送層3bに分割した機能分離型にすることが行われる(Appl.Phys.Lett.,51巻,913頁,1987年)。
【0028】図3に示す機能分離型素子10Aにおいて、正孔輸送層3aの材料としては、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、製造時や使用時にトラップとなる不純物が発生しにくいことが要求される。
【0029】このような正孔輸送材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報)、4,4’−ビス [N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ] ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号)、α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報)、分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報)、ビレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報)、エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)、ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報)、N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報)、シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報)、キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、また、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】なお、上記の化合物以外に、正孔輸送層3aの材料として、ポリビニルカルバゾールやポリシラン(Appl.Phys.Lett.,59巻、2760頁,1991年)、ポリフォスファゼン(特開平5−310949号公報)、ポリアミド(特開平5−310949号公報)、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、トリフェニルアミン骨格を有する高分子(特開平4−133065号公報)、トリフェニルアミン単位をメチレン基等で連結した高分子(Synthetic Metals,55−57巻,4163頁,1993年)、芳香族アミンを含有するポリメタクリレート(J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.,21巻,969頁,1983年)等の高分子材料を用いることができる。
【0031】正孔輸送層3aは、これらの正孔輸送材料を塗布法又は真空蒸着法により成膜することにより、前記陽極2上に積層形成される。
【0032】塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、これをスピンコート法などの方法により陽極2上に塗布、乾燥して有機正孔輸送層3aを形成する。この場合、バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂の添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0033】一方、真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボに対向配置した基板1上の陽極2上に正孔輸送層3aを形成する。
【0034】このようにして正孔輸送層3aを形成する場合、更に、アクセプタとして、芳香族カルボン酸の金属錯体及び/又は金属塩(特開平4−320484号公報)、ベンゾフェノン誘導体及びチオベンゾフェノン誘導体(特開平5−295361号公報)、フラーレン類(特開平5−331458号公報)等を10-3〜10重量%の濃度でドープして、フリーキャリアとしての正孔を生成させることにより、低電圧駆動を可能にすることができる。
【0035】正孔輸送層3aの膜厚は、通常、10〜300nm、好ましくは30〜100nmである。このような膜厚の薄い正孔輸送層を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法を採用するのが好適である。
【0036】また、正孔注入効率を更に向上させ、かつ、有機層全体の陽極2への付着力を改善する目的で、図4に示す如く、正孔輸送層3aと陽極2との間に正孔注入層3cを形成することも行われている。正孔注入層3cに用いられる材料としては、イオン化ポテンシャルが低く、導電性が高く、更に陽極2上で熱的に安定な薄膜を形成し得る材料が望ましく、フタロシアニン化合物やポルフィリン化合物(特開昭57−51781号公報、特開昭63−295695号公報)が用いられる。このような正孔注入層3cを介在させることで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果が得られる。正孔注入層3cもまた、正孔輸送層3aと同様にしてアクセプタをドープすることで導電性を向上させることが可能である。
【0037】正孔注入層3cの膜厚は、通常、2〜100nm、好ましくは5〜50nmである。このような膜厚の薄い正孔注入層を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法を採用するのが好適である。
【0038】正孔輸送層3aの上に形成される電子輸送層3bは、電界が与えられた電極間において、陰極からの電子を効率よく正孔輸送層3aの方向に輸送することができる化合物で構成される。
【0039】電子輸送層3bに用いられる電子輸送性化合物としては、陰極4からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、更に安定性に優れ、製造時や使用時にトラップとなる不純物が発生しにくい化合物であることが要求される。
【0040】このような条件を満たす材料としては、テトラフェニルブタジエンなどの芳香族化合物(特開昭57−51781号公報)、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ペリノン誘導体(特開平2−289676号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報、同3−791号公報)、クマリン化合物(特開平2−191694号公報、同3−792号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3−33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3−37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3−37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)などが挙げられる。
【0041】これらの化合物を用いた電子輸送層3bは、一般に、電子を輸送する役割と、正孔と電子の再結合の際に発光をもたらす役割とを同時に果たすことができる。
【0042】正孔輸送層3aが発光機能を有する場合は、電子輸送層3bは電子を輸送する役割だけを果たす場合もある。
【0043】素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J.Appl.Phys.,65巻,3610頁,1989年)等も行われているが、本発明においても、上記の有機電子輸送性材料をホスト材料として各種の蛍光色素を10-3〜10モル%ドープすることにより、素子の発光特性をより一層向上させることができる。
【0044】電子輸送層3bの膜厚は、通常、10〜200nm、好ましくは30〜100nmである。
【0045】電子輸送層も正孔輸送層と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
【0046】なお、図2に示すような機能分離を行わない単層型の有機発光層3としては、先に挙げたポリ(p−フェニレンビニレン)(Nature,347巻,539頁,1990年他)、ポリ [2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン] (Appl.Phys.Lett.,58巻,1982頁,1991年他)、ポリ(3−アルキルチオフェン)(Jpn.J.Appl.Phys,30巻,L1938頁,1991年他)等の高分子材料や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に発光材料と電子移動材料を混合した系(応用物理,61巻,1044頁,1992年)等が挙げられる。
【0047】陰極4は、有機発光層3に電子を注入する役割を果たす。陰極4として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が好適である。陰極4の膜厚は、通常、陽極2と同程度である。
【0048】低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、この陰極上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することにより、素子の安定性を増すことができる。この目的のための金属層には、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が用いられる。
【0049】なお、図2〜4は、本発明で採用される素子本体の一例を示すものであって、本発明は、図示のもの以外に、以下に示すような層構成の素子本体に適用することができる。
【0050】陽極/正孔輸送層/電子輸送層/界面層/陰極、陽極/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/陰極、陽極/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/界面層/陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子輸送層/界面層/陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子輸送層/他の電子輸送層/陰極上記層構成で、界面層は陰極と有機層とのコンタクトを向上させるためのもので、芳香族ジアミン化合物(特開平6−267658号公報)、キナクリドン化合物(特開平6−330031号公報)、ナフタセン誘導体(特開平6−330032号公報)、有機シリコン化合物(特開平6−325871号公報)、有機リン化合物(特開平6−325872号公報)、N−フェニルカルバゾール骨格を有する化合物(特願平6−199562号)、N−ビニルカルバゾール重合体(特願平6−200942号)等で構成された層が例示できる。界面層の膜厚は、通常、2〜100nm、好ましくは5〜30nmである。界面層を設ける代わりに、有機発光層及び電子輸送層の陰極界面近傍に上記界面層の材料を50重量%以上含む領域を設けてもよい。
【0051】また、他の電子輸送層は、有機電界発光素子の発光効率を更に向上させるために、電子輸送層の上にさらに積層形成されるものであり、この電子輸送層に用いられる化合物には、陰極からの電子注入が容易で、電子の輸送能力が更に大きいことが要求される。このような電子輸送性材料としては、オキサジアゾール誘導体(Appl.Phys.Lett.,55巻,1489頁,1989年他)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系(Appl.Phys.Lett.,61巻,2793頁,1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、又は、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。この他の電子輸送層の膜厚は、通常、5〜200nm、好ましくは10〜100nmである。
【0052】前述の如く、このような素子本体は、有機電界発光素子の安定性及び信頼性を向上させるために、その全体を封止する必要がある。
【0053】本発明においては、封止層の接着剤として、下記(イ),(ロ)の条件を満たすもの、好ましくは、上記規定の100%引張応力が30kgf/cm2 以下かつ透湿度が24時間で10g/m2 以下の二液硬化型ポリウレタンを用いる。
【0054】(イ) JIS K6301で規定された100%引張応力が50kgf/cm2 以下(ロ) JIS Z0208で規定された条件Aにおける透湿度が24時間で20g/m2 (200μm)以下このポリウレタンとしては、吸湿性の良い炭化水素系ポリオールを主成分として、イソシアネート化合物をNCO基/OH基=0.8〜1.3、好ましくはNCO基/OH基=0.9〜1.1となるような配分比で混合して硬化せしめた二液硬化型ポリウレタンが好ましい。
【0055】ポリオールの原料であるポリヒドロキシポリブタジエンとは、1分子中に1個以上、好ましくは1.8〜5.0個のヒドロキシ基を有するポリブタジエンポリマーであり、平均分子量は通常500〜50,000、好ましくは1,000〜20,000である。その製造方法は、特に制限されず、公知の種々の方法が採用できる。
【0056】例えば、ブタジエンの重合に際して、過酸化水素、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、官能基を有するアゾビス系化合物、例えばβ,β’−アゾビス(β−シアノ)−n−プロパノール、δ,δ’−アゾビス(δ−シアノ)−n−ペンタノール等のヒドロキシ基を含むラジカル重合開始剤を用いてアルコール、ケトン、エステル等の溶媒中でラジカル重合する方法、脂肪族アゾジカルボン酸またはそのエステル等のラジカル重合開始剤により同様に重合した後、カルボキシル基又はそのエステル部を還元してポリヒドロキシポリブタジエンを得る方法などを採用することができる。また、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ金属と多環芳香族化合物との錯体を触媒としてアニオン重合し、次いでアルキレンオキシド、エピクロルヒドリン等で官能化を行う方法でもよい。アニオン重合に使用する触媒は具体的にはリチウムのナフタリン錯体、アントラセン錯体、ビフェニル錯体のようなリチウム錯体、又は、1,4−ジアルカリ金属ブタン、1,5−ジアルカリ金属ペンタン、1,10−ジアルカリ金属デカン、1,4−ジアルカリ金属1,1,4,4−テトラフェニルブタンのようなジアルカリ金属炭化水素が挙げられる。
【0057】さらに、かかるアニオン重合を円滑に進行させるために、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒が使用される。但し、触媒としてアルカリ金属を使用する場合には、上記溶媒と、比較的極性の低いジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル等のルイス塩基を使用することが好ましい。
【0058】このようにして得られたリビングポリマーに常法に従ってエポキシ化合物を反応させ、次いで塩酸、硫酸、酢酸等のプロトン酸で処理することによりポリヒドロキシポリブタジエンを得ることができる。
【0059】ここで使用するエポキシ化合物としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル等のモノエポキシ化合物;ビスフェノール−Aのジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ブタジエンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、リモネンジエポキサイド、エチレングリコールのビスエポキサイド等のポリエポキシ化合物;エピクロルヒドリン、エピフロムヒドリン、メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシ化合物を使用することができる。より好ましくは、ポリエポキシ化合物、ハロエポキシ化合物である。
【0060】エポキシ化合物の使用量は、モノエポキシ化合物の場合にはポリマーに対して等モル比、特に2モル比以上が好ましい。
【0061】リビングポリマーとモノエポキシ化合物との反応により得られる生成物は、リビングポリマーの両末端にはエポキシ化合物が開環して結合し、かつ開環したヒドロキシ基の水素原子がアルカリ金属で置換された状態で結合していると考えられる。
【0062】一方、ポリエポキシ化合物、ハロエポキシ化合物を使用する場合には、得られるポリマーの用途、即ちポリマーの分子量及びヒドロキシ基の数により適宜選択されるが、通常、リビングポリマーに対して0.5〜2モル比、好ましくは0.6〜1.7モル比とする。
【0063】このリビングポリマーとポリ又はハロエポキシ化合物との反応により、エポキシが開環した後、主としてリビングポリマー同士が結合され、アルカリ金属で置換されたヒドロキシ基を有するエポキシ化合物を介して数分子結合したポリマーが得られる。
【0064】また、高分子量のポリブタジエンポリマーをオゾン分解又はその他の方法によって得た酸素を含むポリマーを還元する方法によってもポリヒドロキシポリブタジエンを得ることができる。
【0065】ポリヒドロキシポリブタジエンは、上記の種々の方法により製造されるが、得られたポリマーのミクロ構造としては、その製造方法によって、1,2結合と1,4結合を種々の割合で有するポリマーが得られる。例えば、ラジカル重合法を用いて製造されたポリヒドロキシポリブタジエンのミクロ構造は、シス−1,4結合が5〜30%、トランス−1,4結合が50〜80%、1,2結合が15〜30%であり、通常、1,4結合の多いミクロ構造となる。また、アニオン重合法においても、使用する触媒や溶媒の種類を選択することにより、1,4結合を多く有するポリマーを得ることができる。この1,4結合の多いポリヒドロキシポリブタジエンの水添物をポリイソシアネートで硬化した得られるポリウレタンは、1,2結合の多いものに比較して、その引張り強度や、伸び等の機械的物性が、ゴム的に優れており、更にその耐熱劣化性、耐酸化性、耐オゾン性、耐光性及び耐候性等の物性が一般により良好である。従って、本発明においては、ミクロ構造において、1,4結合が1,2結合より多いポリヒドロキシポリブタジエン、即ち、1,4結合が50%以上のものが好ましく、特に70%以上のものが一層好ましい。
【0066】ポリオールは、このようにして製造されたポリヒドロキシポリブタジエンをヒドロキシ基を保持した状態で、主鎖及び/又は側鎖の二重結合をルテニウム触媒により98%以上水素添加することによって得られる。
【0067】ルテニウム触媒は、金属それ自体又は担体に担持された不均一系触媒として、或いは、金属を可能塩となした均一系触媒として用いられる。担体としては、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ケイソウ土、炭酸バリウム、炭酸カルシウム等が使用される。この場合、担体上の上記金属の担持量は、通常0.01〜50重量%の範囲であり、好ましくは0.2〜15重量%である。
【0068】ポリヒドロキシポリブタジエンは、そのままでルテニウムを触媒として水素と反応させ得るが、溶媒を使用することにより、より良好な水添反応を行うことができる。この溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル或いはこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0069】水添に際して使用されるルテニウム触媒の量は、触媒の種類、水添形式等により異なるが、例えばルテニウム触媒を用い、懸濁方式で水添を行う場合、該ルテニウムのポリヒドロキシポリブタジエンに対する比率は、0.01〜1.00重量%の範囲で用いられる。
【0070】反応温度は、20℃〜150℃が好ましい。反応温度が高温になると、水添速度を増大させることができるが、ヒドロキシ基の切断が無視し得なくなるので好ましくない。
【0071】使用する水素は、常圧のフロー系で用いても高圧で用いてもよく、水添反応は固定床、懸濁方式等いかなる反応形態でもよい。
【0072】以上の様な水添条件により、ポリヒドロキシポリブタジエン中の主鎖及び/又は側鎖の二重結合が水添される。
【0073】ポリウレタンを製造するには、該ポリマー中の二重結合がほぼ完全に水添されていることが必要で、水添前のポリマー中の二重結合の98%以上、好ましくは99%以上、更に好ましくは実質的に二重結合が残存しなくなるまで、水添されたポリヒドロキシポリブタジエンを、ポリオールとして用いるのがよい。
【0074】ポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、ウレタン工業で使用されている種々のものをいずれも使用でき、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、クロロフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、イソプロピルベンゼン−1,4−ジイソシアネート及び1,3,6−ヘキサントリイソシアネート等が使用される。
【0075】イソシアネート化合物の使用量は、前記ポリオールに対し、等モル程度が好ましく、重合反応形式は、ワンショット法、プレポリマー法のいずれでも採用できる。
【0076】上記重縮合に際して使用される反応促進剤としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等の第3級アミン及びジメチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート等の有機金属化合物が好ましい。
【0077】また、本発明に好適な二液硬化型ポリウレタンの条件を満たす他の例としてはヒマシ油系ポリオールを主成分とし、上記炭化水素系ポリオールと同様の条件で硬化せしめたポリウレタンが挙げられる。
【0078】また、上記炭化水素系又はヒマシ油系ポリオールの一部を他のポリエステル系、ポリエーテル系等のポリオールと置換することも可能である。この場合、置換割合は、ポリオール全体の0〜49%が好ましい。この範囲を超えると、炭化水素又はヒマシ油系ポリオールの特徴であるところの非吸湿性が損なわれるおそれがある。
【0079】また、作業性、安全性を考慮し、上記イソシアネート化合物は予めポリオールの一部と反応させたプレポリマーの形で用いることが好ましい。
【0080】更に必要に応じて各種の可塑剤を併用し、硬化前の接着剤の粘度及び硬化後の硬さを調節することができる。
【0081】本発明においては、封止層としての効果を更に高めるために、フィラーとしてシリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、活性炭、ナイロン及びポリビニルアルコール等の1種又は2種以上の吸湿剤を上記の接着剤に混合することができる。この場合、上記吸湿剤の含有量は、10〜50重量%の範囲が好ましい。
【0082】本発明においては、封止層6を設けるに当り、陰極4にかかる応力を緩和し、更に、封止層6に用いられる接着剤の化学成分と素子本体との反応を抑制して素子本体に対するダメージを防ぐ目的で、陰極4と封止層6との間に保護層5を設けることが必要である。保護層5の材料としては、電気絶縁性を有しかつ膜形状が安定で素子にダメージを与えない材料であれば無機材料でも有機材料でもよい。保護層5の材料の具体例としては、金属の酸化物(特開平4−212284号公報、特開平4−73886号公報、特開平5−335080号公報)、金属のフッ化物(特開平4−212284号公報)、金属の硫化物(特開平4−212284号公報)、金属の窒化物(特開平4−73886号公報)、高分子材料(特開平4−137483号公報、特開平4−206386号公報、特開平4−233192号公報、特開平4−267097号公報、特開平4−355096号公報)、プラズマ重合膜(特開平5−101886号公報)、有機シリコン化合物、有機電界発光素子の有機組成物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】本発明においては、有機電界発光素子本体の陰極4上に上記保護層5を設け、その後、封止層6を設けた後、素子本体を外気から遮断する外気遮断材層7を適当な接着剤8を用いて基板1に貼り合わせる。
【0084】外気遮断材層1には基板1と同様にガスバリア性のあることが要求される。このため、通常は電気絶縁性ガラス板や、緻密なシリコン酸化膜等が設けられた電気絶縁性の樹脂板やフィルムが使用される。
【0085】接着剤8としてはガスバリア性を有するものであればよく、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、変性シリコーン系弾性接着剤等が挙げられる。
【0086】本発明において、保護層5の膜厚は、通常、50nm〜10μm、好ましくは100nm〜1μmである。
【0087】また、封止層6の厚さは特に限定されないが、通常1μm〜2mmであり、外気遮断材層7の厚さは特に限定されないが、通常10μm〜5mmである。
【0088】このような封止方法を実際の素子作製に適用する際には、素子が短絡する場合が有り得る。これは、例えば、有機発光層3における空隙欠陥や作製時のゴミによる欠陥等が存在すると、その欠陥近傍にある陰極4が封止層6からの力で空隙空間内に陥没し、結果として陰極4と陽極2が短絡することによる。しかしながら、陰極4の膜厚が有機発光層3の膜厚より小さい場合は、陰極4は陥没時に断線を起こし短絡とはならない。従って、陰極4の膜厚は、有機発光層3の膜厚より薄いことが好ましい。この短絡現象は陽極2の表面粗さにも関係しており、陽極2に山谷状のうねりがあると、例えば、陽極2の山の斜面上では、有機発光層3は基板1に対して垂直に堆積されるが、陽極2の山の斜面に対して垂直な方向で見ると、実際上斜面の傾き分だけ有機発光層3の膜厚は減少することになる。このことから、陽極2の表面粗さは基板1の表面粗さ程度に抑えられていることが望ましく、10点平均粗さRz(JISで定義される)が10nm以下であることが好ましい。
【0089】本発明の有機電界発光素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造の素子のいずれにも適用することができる。
【0090】
【実施例】次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0091】実施例1成分Aの製造三菱化学(株)製「ポリテールHA」(数平均分子量約2,000、水酸基当量0.907meq/gのポリオレフィンポリオール)100g、「アデカクォドロール」(旭電化社製4官能ポリオール、水酸基当量13.7meq/g)19.8g、パラフィン系プロセスオイル「P−200」(共同石油社製)110g、及び、MD化成社製「UL−22」(スズ系ウレタン化触媒)138mgを50℃で均一に混合して成分Aを得た。成分Aの粘度は、25℃で1800cpsであった。
【0092】成分Bの製造「ポリーテルHA」100g、パラフィン系プロセスオイル「P−200」116gをセパラブルフラスコ中にて室温で均一に混合した。次いで、2,4−トリレンジイソシアネート14.2gを添加し、80℃で6時間反応させて成分Bを得た。成分Bの粘度は、25℃で3800cpsであった。
【0093】封止層用接着剤の物性の測定このようにして作成した成分A液と成分B液を重量比5:1で混合し、真空脱泡を行った後、100℃で1時間成型してプレスシートを得た。
【0094】このシートの機械的物性をJIS K6301に従って測定したところ、100%引張応力3kgf/cm2 、引張強度7kgf/cm2 であった。また、JIS Z0208で規定された条件Aにおける透湿度は、厚さ200μmのフィルムにおいて24時間で5g/cm2 であった。
【0095】有機電界発光素子の作製まず、図4に示す構造を有する有機電界発光素子本体を以下の方法で作製した。
【0096】ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を厚さ120nm堆積したもの(ジオマテック社製電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を陽極基板とした。このものは、触針式表面粗さ計(ランクテーラーホブソン社製「タリステップ」)によりITO表面の十点平均粗さRz(JIS B0601)を測定したところ7.4nmであった。このITOガラス基板を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。
【0097】パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。
【0098】上記装置内に配置されたモリブデンボートに入れた以下に示す銅フタロシアニン(H1)(結晶形はβ型)を加熱して蒸着を行った。蒸気は、真空度1.1×10-6torr(約1.5×10-4Pa)、蒸着時間1分で行い、膜厚20nmの正孔注入層3cを形成した。
【0099】
【化1】


【0100】次に、上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた、以下に示す4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビスフェノール(H2)をるつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して正孔注入層3cの上に積層した。この時のるつぼの温度は、230〜240℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度8×10-7Torr(約1.1×10-4Pa)、蒸着時間1分50秒で膜厚60nmの正孔輸送層3aを形成した。
【0101】
【化2】


【0102】引き続き、発光機能を有する電子輸送層3bの材料として、以下に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体:Al(C96 NO)3 (E1)を上記正孔輸送層3aの上に同様にして蒸着した。この時のるつぼの温度は310〜320℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は9×10-7Torr(約1.2×10-4Pa)、蒸着時間は2分40秒で、膜厚75nmの電子輸送層3bを形成した。
【0103】
【化3】


【0104】なお、正孔注入層3c、正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0105】正孔注入層3c、正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを形成した基板を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように密着させて設け、別の真空蒸着装置内に設置して各有機層の蒸着時と同様にして装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで排気した。続いて、陰極4として、マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって膜厚100nmとなるように蒸着した。蒸着はモリブデンボートを用いて、真空度1×10-5Torr(約1.3×10-3Pa)、蒸着時間3分10秒で行った。また、マグネシウムと銀の原子比は10:1.2とした。さらに続いて、装置の真空を破らないで、アルミニウムをモリブデンボートを用いて100nmの膜厚でマグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極4を完成させた。アルミニウム蒸着時の真空度は2.3×10-5Torr(約3.1×10-3Pa)、蒸着時間は1分40秒であった。以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0106】この様にして、2mm×2mmのサイズの有機電界発光素子本体が得られた。この素子を蒸着装置から取り出した後、図1に示す構造で封止を行った。
【0107】まず、既述の有機層蒸着装置に再び上記素子本体を設置した後、前述の方法と同様にして、化合物(E1)を膜厚200nmで陰極4の上に積層して、保護層5とした。この時の真空度は1.5×10-6Torr(約2.0×10-4Pa)、蒸着時間は3分50秒、基板温度は室温であった。
【0108】次に、素子を上記装置より大気中に取り出して、窒素グローブボックス中に入れて以下の作業を行った。
【0109】即ち、前記成分A液と成分B液を重量比1:5で混合し、全重量に対して約30重量%のシリカゲル粉末(粒径50〜300μm)をフィラーとして加えた後、保護層5の上に厚さ約1mmで塗布した。これを室温で1時間硬化させて封止層5とした。
【0110】次いで、外気遮断材層7として厚さ1.1mmのガラス板を、接着部分8にエポキシ樹脂(チバガイギー社製、商品名「アラルダイト」)を用いて貼り合わせ、素子の封止を完了させた。
【0111】有機電界発光素子の特性の評価このようにして得られた有機電界発光素子を大気中で室温に保存して、陽極2にプラス、陰極4にマイナスの直流電圧を印加して発光させ、発光特性とダークスポットの発生の経時変化を測定した。ダークスポットの測定は、素子の発光面をCCDカメラにより撮影した後、画像解析により2値化して定量化を行った。
【0112】5Vの電圧を素子に印加した時の発光輝度の経時変化を図5に示す。図5より明らかなように、30日間の大気保存後でも発光輝度は初期輝度の495cd/m2 に対して432cd/m2 と殆ど低下がない。また、ダークスポットは30日後でも全発光面積の1%未満であった。
【0113】実施例2実施例1で用いた「ポリテールHA」100gと「サンニックスTP−400」(三洋化成社製3官能ポリオール、水酸基当量6.93meq/g)10gを50℃で均一に混合して成分A’を得た。
【0114】成分B’としては、液状変性MDI「Isonate143L」(MD化成社製、NCO当量6.92meq/g)をそのまま使用した。
【0115】この成分A’液と成分B’液を重量比4:1で混合し、実施例1と同様にしてプレスシートを作製し、同様に物性を測定したところ、100%引張応力は28kgf/cm2 、引張強度は60kgf/cm2 であり、透湿度は7g/m2 であった。
【0116】封止層の材料として、上記成分A’液と成分B’液の混合液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして素子を作製し、得られた素子のダークスポットの発生状況を調べたところ、大気中保存30日後においてもダークスポットの発生は全発光面積の1%未満であった。
【0117】比較例1封止層6の材料としてエポキシ樹脂(チバガイギー社製、商品名「アラルダイト」)を用いたこと以外は実施例1と同様にして素子を作製した。なお、該エポキシ樹脂はゴム状弾性を示さなかった。このエポキシ樹脂について、実施例1と同様にして物性を測定したところ、100%引張応力は約180kgf/cmであり、透湿度は16g/m であった。
【0118】得られた素子に直流8Vを印加した時の発光輝度の経時変化を図5に示す。図5より明らかなように、30日間の大気保存後では発光輝度は初期輝度の282cd/m2 に対して142cd/m2 と半減した。また、ダークスポットは30日後では全発光面積の25%にも達した。
【0119】比較例2封止層6の材料として、シリコーンオイル(信越シリコーン社製、商品名「KF−54」)中にシリカゲル粉末を混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして素子を作製した。
【0120】得られた素子を大気中において保存したところ、14日後でダークスポットは全発光面積の50%に達した。
【0121】
【発明の効果】本発明の有機電界発光素子及びその製造方法によれば、特定の物性を有する接着剤で封止することにより、大気中での保存や駆動の際のダークスポットの発生が抑制され、長期に亘って安定した発光特性を示す有機電界発光素子を得ることができる。
【0122】従って、本発明による有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、演奏ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が期待され、その技術的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機電界発光素子の一実施例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明に係る素子本体の一実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明に係る素子本体の他の実施例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明に係る素子本体の別の実施例を示す模式的断面図である。
【図5】実施例2及び比較例1における有機電界発光素子の大気中保存時の発光輝度(初期輝度を1とした)の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 有機発光層
4 陰極
3a 正孔輸送層
3b 電子輸送層
3c 正孔注入層
5 保護層
6 封止層
7 外気遮断材層
8 接着部
10,10A,10B 素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、少なくとも、陽極、有機発光層及び陰極が積層され、この積層物の外表面に、内側から順に保護層、封止層及び外気遮断材層が形成されてなる有機電界発光素子であって、前記封止層が下記(イ)、(ロ)の条件を満たす接着剤を主成分とすることを特徴とする有機電界発光素子。
(イ) JIS K6301で規定された100%引張応力が50kgf/cm2 以下(ロ) JIS Z0208で規定された条件Aにおける透湿度が24時間で20g/m2 (200μm)以下
【請求項2】 前記接着剤が炭化水素系ポリオールを主成分とするポリウレタンよりなる請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】 前記接着剤がヒマシ油系ポリオールを主成分とするポリウレタンよりなる請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】 前記封止層にシリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、活性炭、ナイロン及びポリビニルアルコールよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の吸湿剤が含有されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】 前記外気遮断材層が電気絶縁性ガラス又は電気絶縁性高分子からなる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】 前記陰極の膜厚が前記有機発光層の膜厚より小さい請求項1ないし5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】 前記陽極はインジウム・スズ酸化物よりなり、かつ、その表面粗さが10nm以下である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】 基板上に、少なくとも、陽極、有機発光層及び陰極を積層し、この積層物の外表面に保護層を形成した後、下記(イ)、(ロ)の条件を満たす接着剤を主成分とする封止層を形成し、次いでこの封止層の外側に外気遮断材層を形成することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の有機電界発光素子の製造方法。
(イ) JIS K6301で規定された100%引張応力が50kgf/cm2 以下(ロ) JIS Z0208で規定された条件Aにおける透湿度が24時間で20g/m2 (200μm)以下

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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