説明

有機顔料微粒子の製造方法、有機顔料微粒子、及びそれを用いた顔料インク

【課題】製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた顔料微粒子を製造することができる。
【解決手段】
複数種類の溶液を混合場20内において液相法により反応させると共に、複数種類の溶液のうち1以上を高圧ジェット流で混合場20内に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機顔料微粒子の製造方法、有機顔料微粒子、及びそれを用いた顔料インクに係り、特に、塗料、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルタ等に用いられる有機顔料微粒子の製造方法、有機顔料微粒子、及びそれを用いた顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インクや塗料等に使用される顔料としては、粗大な顔料粒子を粉砕することにより微粒子化したものがある。顔料粒子の色再現性を得るために、粉砕後の顔料粒子のサイズを均一化させることが課題であり、これまで顔料粒子の粉砕方法に関して種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、上記粉砕方法の一つとして、ビーズミルによる粉砕方法が挙げられる。この粉砕方法は、ビーズ(メディア)を充填したベッセル(容器)の中へ原料を投入し、中央の回転軸を回転させてビーズを流動させて原料を摺りつぶし、粉砕及び分散させる方法である。しかし、ビーズミルによる粉砕方法では、コンタミネーションが多く、原料との分離が困難(特にビーズが小径である場合)である上、ビーズに摺り潰されない原料があるため粒度分布がブロード化し、原料の粘性も上がりやすい等の問題があった。
【0004】
また、その他の粉砕方法として衝突粉砕法が挙げられる。この粉砕方法は、粒子同士を衝突させて微粒子化する方法である。例えば、顔料分散液を高速流として噴出させて衝突させて粉砕し微粒子化する方法(特許文献1)や、顔料を含有する混合液を100〜1000m/秒でオリフィスを通過させた後、混合液中に噴出させる高圧乳化により微粒子化する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、衝突粉砕法では、粒子に与えられる運動エネルギーのばらつきが粒子サイズの不均一化を生じやすく、また、衝突が確率論的に行われるため均一な粒子サイズを得るためには、繰り返し衝突させる必要があるといった問題があった。
【0005】
これらを解決するための手段として、ビルドアップ法という微粒子の製造方法が提案されている。このビルドアップ法は、粒子を粉砕するのではなく、化学反応により分子から粒子を製造する方法である。この方法では、化学反応場を均一にすることが、粒子サイズを均一化する上で重要となる。
【0006】
特許文献3には、ミニリアクターにおいて顔料微粒子を製造する方法が提案されている。これによれば、化学反応場を小さくすることで、反応場を均一化することができるとされている。
【0007】
特許文献4には、マイクロジェット混合器内において、複数の反応液を気相中にノズルで噴霧してアゾ着色剤を製造する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−36738号公報
【特許文献2】特開2003−20427号公報
【特許文献3】特表2003−524033号公報
【特許文献4】特開2002−129050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3示されるような従来のビルドアップ法では製造した微粒子がリアクター内に堆積し閉塞を引き起こす(製造適性が低い)という問題があった。また、特許文献4では反応室内にガスを入れることにより上記のような閉塞を防止しているが、その後の工程で気液分離する必要があるため、工程が複雑となり製造適性が低くなるという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる有機顔料微粒子の製造方法、有機顔料微粒子、及びそれを用いた顔料インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、複数種類の溶液を混合場内において液相法により反応させると共に、前記複数種類の溶液のうち1以上を高圧ジェット流で前記混合場内に供給することを特徴とする有機顔料微粒子の製造方法を提供する。
【0011】
請求項1によれば、複数種類の溶液を混合場内において液相法により反応させると共に、複数種類の溶液のうち1以上を高圧ジェット流で混合場内に供給して反応させるようにした。これにより、混合場内で高せん断場を形成でき、複数種類の溶液同士を瞬時に混合するので反応を均一化でき、且つ混合場の内壁面への堆積物の付着を抑制できる。従って、製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた顔料微粒子を製造することができる。ここで、液相法とは、混合室へ供給される流体がすべて液体、又は液体に気泡又は粒子が懸濁された液体である反応法を意味する。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記反応が、析出反応であることを特徴とする。
【0013】
このように、析出反応では析出物が生成することによる混合場の閉塞が生じやすく、本発明が特に有効である。
【0014】
ここで、析出反応とは、主に、ある物質の溶液又は溶解液等から固体が生成する反応であり、例えば、温度変化、pH変化、溶媒の量・混合比の変化等によって、その化合物の溶解度が下がることによって起こるものが多く、再結晶や再沈殿等も含まれる。
【0015】
請求項3は請求項2において、前記析出反応が、溶解度変化及び/又はpH変化による析出反応であることを特徴とする。
【0016】
このように、溶解度変化及び/又はpH変化による析出反応を利用する有機顔料微粒子の製造方法において、本発明が特に有効である。上記のような析出反応としては、例えば、アルカリ性または酸性の水性媒体、より好ましくはアルカリ性の水性媒体に均一に溶解した有機顔料溶液と、有機顔料を溶解しない水性媒体とを混合させ、両溶液の水素イオン指数(pH)を変化させて有機顔料微粒子を析出させる方法等が挙げられる。
【0017】
請求項4は請求項1〜3の何れか1において、前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出圧力が、1MPa〜200MPaであることを特徴とする。
【0018】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の流速が、50m/秒〜700m/秒であることを特徴とする。
【0019】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出口近傍におけるレイノルズ数Reが、2100〜150000であることを特徴とする。
【0020】
請求項4〜6は、複数の溶液間における混合性能を確保し且つ過剰な発熱等を抑制するための高圧ジェット流の好ましい運転条件を規定したものである。
【0021】
上記の範囲とすることにより、製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた顔料微粒子を製造することができる。
【0022】
請求項7は請求項1〜6の何れか1において、前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出口の円相当径dと、前記混合場の円相当径Dとの比D/dが、5〜30であることを特徴とする。
【0023】
請求項7は、複数の溶液間における混合性能を確保するための高圧ジェット流を形成するための装置構成を規定したものである。
【0024】
請求項8は請求項1〜7の何れか1において、少なくとも1の高圧ジェット流と該高圧ジェット流以外の溶液との衝突角が、0°〜90°であることを特徴とする。
【0025】
少なくとも1の高圧ジェット流と該高圧ジェット流以外の溶液との衝突角が、0°〜90°となるように混合させるので、高い混合性能を確保することができる。
【0026】
従って、製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた顔料微粒子を製造することができる。
【0027】
請求項9は請求項1〜8の何れか1において、前記複数の溶液のうち1が高圧ジェット流であることを特徴とする。
【0028】
請求項9によれば、1ジェット方式とすることで、請求項4〜6と同様に複数の溶液間における混合性能を確保し且つ過剰な発熱等を抑制し、単分散性に優れた有機顔料微粒子を生成できる。また、ジェット流を1液に限定することで、ジェット流による装置の壊食を防止するための設計上、操作上の課題がなくなり、設備コストを低減できる。
【0029】
請求項10の有機顔料微粒子は、請求項1〜9の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0030】
請求項10によれば、単分散性に優れた有機顔料微粒子を得ることができる。
【0031】
請求項11は請求項10において、前記有機顔料微粒子の粒度分布Mv/Mnが1.55以下であることを特徴とする。ここで、Mvは体積平均粒径であり、Mnは個数平均粒径である。Mv/Mnは粒度分布の指標として用いられ、値が1に近づくほど単分散性が高いことを示す。
【0032】
請求項11によれば、請求項1〜9の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法によって作成される単分散性に優れた有機顔料微粒子を得ることができる。
【0033】
請求項12の顔料インクは、請求項10又は11の有機顔料微粒子を用いたことを特徴とする。
【0034】
請求項12によれば、分散性に優れ、色再現性のある顔料インクを得ることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、製造適性があり、ビルドアップ法により単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付図面に従って、本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法、有機顔料微粒子、及びそれを用いた顔料インクの好ましい実施の形態について説明する。
【0037】
先ず、本発明に係る有機顔料微粒子を析出させる反応及び各種材料について説明する。また、有機顔料微粒子の形成させる反応は、本実施形態に限定されるものではない。
【0038】
有機顔料微粒子は、有機顔料を溶解した有機顔料溶液と、有機顔料を溶解しない液(例えば、水性媒体等)とを接触させて、溶解できなくなった有機顔料を有機顔料微粒子として析出させる方法(いわゆる共沈法(再沈法))などにより得ることができる。
上記析出反応としては、具体的にはpH変化による析出反応や溶解度変化による析出反応等が挙げられる。また、上記の析出方法において、いずれかの溶液に分散剤を共存させることにより安定な微粒子を製造する方法もある。
【0039】
本実施形態では、pH変化と溶解度変化とを伴う析出反応、即ちアルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解した有機顔料溶液と、有機顔料を溶解しない水性媒体とを混合場内に供給し、その過程で両溶液の水素イオン指数(pH)を変化させて有機顔料微粒子を析出させる方法について説明する。
【0040】
具体的には、有機顔料の均一溶液(溶液L1)と、中性、酸性またはアルカリ性の水、またはそれらに分散剤を溶解した水溶液(溶液L2)とを混合場内にそれぞれ導入し、両液を接触させることにより有機顔料を含む溶液の水素イオン濃度、即ち水素イオン指数(pH)を中性(pH7)の方向に変化させる。
【0041】
このように、溶液L1と溶液L2を混合することで、溶液L1の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化する。顔料は、低いアルカリ性または低い酸性では水性媒体に溶解しにくくなるため、水素イオン指数(pH)が中性方向に変化することで微粒子として析出する。
【0042】
水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリ性水性媒体に溶解した顔料から有機顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH16.0から5.0の範囲内での変化であり、pH16.0から10.0の範囲内での変化であることが好ましい。酸性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH1.5から9.0の範囲内での変化であり、pH1.5から4.0の範囲内での変化であることが好ましい。変化の幅は有機顔料溶液の水素イオン指数(pH)の値によるが、有機顔料の析出を促すのに十分な幅で良い。
【0043】
有機顔料微粒子を製造する場合の混合場における反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが好ましいが、−20℃〜90℃であることが好ましく、0℃〜50℃であることがより好ましい。
【0044】
混合場を流れる基質(有機顔料やその反応成分)の濃度範囲は、通常、0.5質量%〜20質量%であり、1.0質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0045】
次に、上記の有機顔料微粒子の析出反応に使用される各種材料について説明する。
【0046】
本実施形態に用いられる有機顔料としては、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料等が挙げられる。具体的な例としては、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンまたはイソビオラントロン系顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料等を使用することができる。
【0047】
更に具体的には、例えば、 C.I.ピグメントレッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメントレッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメントバイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメントレッド194(C.I.番号71100)等のペリノン系顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(C.I.番号73900)、 C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメントレッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメントレッド209(C.I.番号73905)のキナクリドン系顔料、C.I.ピグメントレッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメントオレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン系顔料、C.I.ピグメントイエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン系顔料、C.I.ピグメントブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメントバイオレット32(C.I.番号12517)、 C.I.ピグメントイエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメントイエロー181(C.I.番号11777) 、C.I.ピグメントオレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメントレッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン系顔料、C.I.ピグメントイエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメントイエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメントイエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメントイエロー128(C.I.番号20037)、 C.I.ピグメントイエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメントオレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメントオレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメントオレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166(C.I.番号20730)、 C.I.ピグメントレッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメントレッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメントレッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合系顔料、C.I.ピグメントイエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメントイエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメントイエロー188(C.I.番号21094) 等のジスアゾ系顔料、 C.I.ピグメントレッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメントレッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメントイエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメントレッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメントレッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメントオレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメントレッド247(C.I.番号15915)等のアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン系顔料、C.I.ピグメントグリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメントグリーン36(C.I.番号74265)、ピグメントグリーン37(C.I.番号74255)、ピグメントブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメントブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくは15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン系顔料、C.I.ピグメントブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメントブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム系顔料、C.I.ピグメントバイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン系顔料、C.I.ピグメントレッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメントレッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメントレッド264 、C.I.ピグメントレッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール系顔料、C.I.ピグメントレッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ系顔料、C.I.ピグメントイエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメントオレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン系顔料、C.I.ピグメントイエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメントレッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン系顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31(60010)等のイソビオラントロン系顔料等を使用することができる。
【0048】
有機顔料は、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料であることが好ましく、キナクリドン、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料であることがより好ましい。尚、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体または有機顔料と無機顔料の組み合わせも使用することができる。
【0049】
有機顔料は、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解されなければならないが、酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは対象とする顔料がどちらの条件で均一に溶解し易いかにより選択される。一般に、分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性が用いられ、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性が用いられる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合系顔料はアルカリ性で溶解され、フタロシアニン系顔料は酸性で溶解される。
【0050】
アルカリ性で溶解させる場合に用いられる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウム等の無機塩基、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシド等の有機塩基であるが、無機塩基であることが好ましい。
【0051】
使用される塩基の量は、有機顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、顔料に対して1.0モル当量〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3モル当量〜20モル当量であることがさらに好ましい。有機塩基の場合は顔料に対して1.0モル当量〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20モル当量〜100モル当量であることがさらに好ましい。
【0052】
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸であるが、無機酸であることが好ましく、硫酸であることがより好ましい。
【0053】
使用される酸の量は、有機顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、顔料に対して3モル当量〜500モル当量であることが好ましく、10モル当量〜500モル当量であることがより好ましく、30モル当量〜200モル当量であることがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態に用いられる水性媒体としては、アルカリ又は酸で顔料を溶解し、さらに水と可溶な溶媒である。具体的には、水単独または水に可溶な有機溶媒である。
【0055】
水に可溶な有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール等に代表される1価のアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
有機溶媒は、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、アルカリ性の場合は含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸系溶媒であることがより好ましい。アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)であり、酸性の場合はメタンスルホン酸であることがさらに好ましい。
【0057】
水性媒体として、水と有機溶媒の混合溶媒を用いる際、水と有機溶媒の混合比は均一溶解できれば良い比率であり、特に限定されない。アルカリ性の場合には水/有機溶媒=0.05〜10(質量比)であることが好ましい。酸性の場合で無機酸を用いる場合は、有機溶媒を使わず、例えば硫酸単独で用いるのが好ましい。有機酸を用いるときは有機酸自身が有機溶媒であり、粘性と溶解性を調整するために複数の酸を混合したり、水を添加したりする。水/有機溶剤(有機酸)=0.005〜0.1(質量比)であることが好ましい。
【0058】
本実施形態では、均一に溶解した溶液を混合場に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布がブロードな顔料微粒子になったりする。また、容易に混合場を閉塞することもある。「均一に溶解」の意味は、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本実施形態では、1μm以下のミクロフィルタを通して得られる溶液、または1μmのフィルタを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液であることが好ましい。
【0059】
また、本実施形態では、有機顔料を含む溶液の中、または/および水素イオン指数(pH)を変化させるための水溶液(水性媒体)の中に分散剤を添加することができる。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。
【0060】
このような分散剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の低分子、または高分子分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0061】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0064】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤である。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0066】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体等が挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これらの高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
分散剤の配合量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1質量部〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1質量部〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10質量部〜250質量部の範囲であることがさらに好ましい。
【0068】
以上のように、調製した溶液L1と溶液L2とを、混合場において混合及び反応させることにより、有機顔料微粒子を析出させる。本実施形態では、複数の溶液L1、L2の少なくとも一つの溶液を高圧ジェット流で混合場に供給する高圧混合法で実施することにより、微小サイズで単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造するようにした。
【0069】
次に、本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法及び装置について説明する。
【0070】
有機顔料微粒子の製造方法においては、上述した2液の混合性能が重要である。高い混合性能を得るための高圧混合法の種類としては、1)ワンジェット混合法、2)T字型・Y字型混合法、3)平行流混合法、を好適に使用することができ、以下各混合法について説明する。
【0071】
1)ワンジェット混合法
図1は、ワンジェット混合法を実施する静的混合装置12の構造を示した好ましい概念図である。
【0072】
図1に示されるように、静的混合装置12は、溶液L1と溶液L2とを混合して反応させる筒状の混合室20(混合場)が形成された混合器22の一端側開口に、溶液L2を混合室20に導入する第1の導管24が接続されると共に、他端側開口に混合室20で混合反応された反応液の排出管26が接続されている。また、混合器22の側面側で第1の導管24の出口近傍に、溶液L1を混合室20に導入する第2の導管28が接続されている。第1の導管24の先端内部には、第1のオリフィス30が形成されている。これにより、第1の導管24には、乱流の液体を噴射する第1ノズル34が形成される。
【0073】
図1では、第1の導管24から溶液L2を導入し、第2の導管28から溶液L1を導入するようにしたが、両液を逆にすることができる。また、排出管26の接続位置は、混合器22の他端側近傍であれば、混合器22の側面部に接続してもよい。
【0074】
また、混合器22の外周には、水やオイル等の熱容量が比較的大きな熱媒体が流れるジャケット21が巻回され、ジャケットの熱媒体流入口23Aと熱媒体流出口23Bとが図示しない熱媒体供給装置に接続されることが好ましい。
【0075】
熱媒体供給装置からは、混合器22内における溶液L1、L2との反応温度を−20℃〜90℃の範囲に制御可能な温度の熱媒体がジャケット21に供給され、再び熱媒体供給装置に循環される。反応温度は、溶液L1、L2の反応の種類によるが、既述した有機顔料微粒子を製造する場合の混合場における反応温度と同様に設定することが好ましい。また、反応温度を10〜60℃に設定することがより好ましく、25〜50℃に設定することが更に好ましい。
【0076】
また、混合器22内で混合反応される溶液L1、L2の量との兼ね合いもあるが、ジャケット21を巻回しただけでは、設定した反応温度まで上昇させることが難しい場合には、溶液L1、L2を調製する図示しない調製タンクに温度調整装置を設けることもできる。
【0077】
ブロック状のオリフィス材23に、第1のオリフィス30を穿設加工する方法としては、金属、セラミックス、ガラス等のオリフィス材23に100μm程度の噴出孔を精密に開ける加工方法としてマイクロ切削加工、マイクロ研削加工、噴射加工、マイクロ放電加工、LIGA法、レーザー加工、SPM加工等を好適に使用することができる。
【0078】
オリフィス材23の材質としては、加工性が良く、硬度がダイヤモンドに近い材質のものが好ましい。従って、ダイヤモンド以外の材質としては、種々の金属や金属合金に焼入れ、窒化処理、焼結処理等の硬化処理したものを好適に使用できる。また、セラミックスも硬度が高く、ダイヤモンドよりも加工性が優れているので好適に使用することができる。
【0079】
尚、本実施形態では、第1ノズル34の絞り構造としてオリフィスの例で説明するが、乱流の液体を噴射する機能を有するものであれば、オリフィスに限らず他の方法を用いることができる。
【0080】
また、第1の導管24には、図示しない加圧手段が設けられ、溶液L1が第1ノズル34に加圧供給される。
【0081】
液体に高圧力をかける加圧手段としては、種々の手段が知られており何れの手段も使用可能であるが、比較的入手し易く安価な手段としては、プランジャーポンプや増圧ポンプのような往復ポンプを使用することが好ましい。また、往復ポンプほど高圧を発生することはできないが、ロータリポンプの中にも高圧発生型のものがあるので、このようなポンプも使用することができる。
【0082】
静的混合装置12を構成する部材の材質としては、強度が高く、腐食防止性があり、原料流体の流動性を高くするものが好ましい。例えば、金属(鉄、アルミ、ステンレス鋼、チタン、その他の各種金属)、セラミックス(シリコン等)などが好ましく使用できる。
【0083】
また、金属材料の耐腐食性を更に高めるために、溶液と接する面に、樹脂(フッ素樹脂、アクリル樹脂等)、ガラス(石英等)をコーティング(ライニング)した部材を用いることもできる。
【0084】
本実施形態における有機顔料微粒子の析出反応は、図2に模式的に示されるように、乱流の高速な高圧ジェット流の溶液L2に同伴される同伴流に、溶液L2に対して略直交方向から流入される溶液L1を巻き込むことにより、溶液L2と溶液L1とが混ざり合って高性能な混合及び反応を得るものである。従って、静的混合装置12の上記した混合室20及び第1ノズル34は次の関係を有するように形成される。
【0085】
即ち、図1に示されるように、混合室20の断面積の円相当径Dが第1ノズル34のオリフィスの断面積の円相当径dよりも大径に形成される。円相当径とは、断面形状が円ではない場合において、同じ断面積に相当する円の直径をいう。特に、第1ノズル34のオリフィスの円相当径dに対する混合室20の円相当径Dの寸法比D/dは、5〜30の範囲であることが好ましい。
【0086】
混合室20の円相当径Dは、10mm以下であることが好ましく、1mm〜5mmがより好ましい。また、オリフィスの円相当径dは、0.1mm〜1mmが好ましい。
【0087】
また、混合室20の長さLを確保する必要があるが、長すぎると反応液LMが混合室20で層流状態となり、粒子析出が発生しやすくなる。従って、混合室20の長さLは20mm〜100mmが好ましい。
【0088】
尚、混合室20の縦断面やオリフィスの縦断面の形状は、円形以外に矩形、台形、半円形などが採用できる。
【0089】
溶液L1と溶液L2とによる高性能な混合及び反応を得る上で、第1ノズル34から混合室20へ噴出される高圧ジェット流の噴出圧力は、1MPa〜200MPaの範囲であることが好ましい。
【0090】
また、第1ノズル34から混合室20へ噴出される高圧ジェット流の流速は、50m/秒〜700m/秒の範囲であることが好ましい。
【0091】
また、混合室20へ噴出される高圧ジェット流の第1ノズル34の噴出口近傍におけるレイノルズ数Reは、2100〜150000の範囲であることが好ましい。
【0092】
また、図2に示されるように、高圧ジェット流(同図では溶液L2)と該高圧ジェット流以外の溶液(同図では溶液L1)との衝突角θが、0°〜90°であることが好ましい。
【0093】
上記のような高圧ジェット流や装置構成の適正な範囲は、流動解析ソフトとして既に日本で市販されているアールフロー社製の数値解析ソフト、R−Flowを用いて予めシミュレーションを行うことによって把握することができる。
【0094】
第1ノズル34から混合室20へ噴出される高圧ジェット流の噴出流形状は、第1ノズル34に設けた第1のオリフィス30により規制され、この噴出流形状は混合性能に影響する。これより、反応の目的に応じて、糸線状、円錐状、スリット状、扇状等の噴出流形状を形成する第1のオリフィス30を適宜使用することが好ましい。
【0095】
例えば、ミリ秒オーダーの非常に反応速度の速い反応の場合には、糸線状の噴出流形状を形成する第1のオリフィス30が好ましい。また、反応速度が比較的遅い場合には、薄膜な噴出流形状を形成する第1のオリフィス30が好ましい。本実施形態のように、ミリ秒オーダーの非常に早い反応速度と比較的遅い反応速度との中間的な反応速度の場合には、円錐状の噴出流形状を形成する第1のオリフィス30が好ましい。
【0096】
図3〜図6は糸線状、円錐状、スリット状、扇状の各噴出流形状を形成するための第1のオリフィス30を図示したものである。このうち、各図における(a)はオリフィスを先端側から見た図であり、(b)はオリフィスの縦断面図であり、(c)はオリフィスの横断面図である。
【0097】
図3は、糸線状の直進流Aを混合室20に噴出するための第1のオリフィス30であり糸線状に形成される。図4は、円錐状の直進流Aを混合室20に噴出するための第1のオリフィス30であり、先端部が開いたラッパ管状に形成される。図5は、薄膜の直進流Aを混合室20に噴出するための第1のオリフィス30であり矩形なスリット状に形成される。図6は、扇状な薄膜の直進流Aを混合室20に噴出するための第1のオリフィス30であり、先端部が扇状に拡径して形成される。
【0098】
次に、図2を用いて、静的混合装置12の作用について説明する。
【0099】
先ず、図2に示されるように、第1ノズル34から顔料を溶解しない液(溶液L2)が高圧ジェット流として噴射され(矢印A)、混合室20において乱流を形成する。また、第2の導管28から有機顔料溶解液(溶液L1)が、溶液L2に対して略直交する直交流として混合室20に供給される(矢印B)。
【0100】
この場合、溶液L2が溶液L1に対して90°の角度で完全に直交しなくても、直交する速度ベクトル成分を主成分とするものであればよい。また、溶液L2を第1ノズル34から高圧ジェット流として混合室20内に噴射させ、溶液L1を第2の導管28より混合室20内に供給させてもよい。また、混合器22に巻回したジャケット21及び/又は溶液L1、L2を調製する調製タンクの温度調整装置によって、混合器22内における反応温度を5℃〜80℃の範囲に制御することが好ましい。
【0101】
これにより、溶液L1と溶液L2とが適切な温度条件下で瞬時に且つ効率的に混合及び反応して有機顔料微粒子を析出し、有機顔料微粒子を含有する反応液LM(有機顔料微粒子分散液)が生成される。そして、反応液LMは排出管26から直ちに排出される。
【0102】
これにより、粒度分布Mv/Mnが1.55以下を満足する、単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【0103】
次に、図1の静的混合装置12の変形例について説明する。図7及び図8は、図1の静的混合装置12の変形例の構造を示した概念図である。各図において、ジャケット21の記載は省略する。
【0104】
図7の静的混合装置12は、混合室20の第1の導管24の出口近傍が排出口方向へ先端部が開いたラッパ管状、即ち流線型にしたこと以外は、図1と同様に構成されている。
【0105】
このような形状とすることにより、溶液L1、L2の滞留を抑制することができる。
【0106】
図8の静的混合装置12は、混合室20の第1の導管24の出口近傍が排出口方向へ先端部が開いたラッパ管状即ち流線型にし、高圧ジェット流以外の溶液を供給する導管の数を2本にしたこと以外は、図1と同様に構成されている。
【0107】
これにより、溶液L1、L2の滞留を抑制すると共に、高圧ジェット流とそれ以外の溶液との混合性能及び反応効率を向上させることができる。
【0108】
また、図1、図7及び図8において、混合する溶液の種類が2以上ある場合は、さらに溶液を導入する導管を複数本設置してもよい。
【0109】
なお、ワンジェット混合法を実施する静的混合装置12は上述した図1、図7及び図8に限定するものではなく、溶液L1と溶液L2とをそれぞれのノズルから該ノズルの口径よりも大径な混合場に噴出して反応させると共に、反応液を混合場の径よりも小径な排出口から排出する静的混合装置を使用し、溶液L1と溶液L2の少なくとも一つの溶液を1MPa〜200MPaの高圧ジェット流且つ混合場に流入する時のレイノルズ数Reが2100〜150000の範囲で混合場に噴出し、残りの溶液を高圧ジェット流よりも低い圧力で供給することのできるものであればよい。
【0110】
本実施形態では、高圧ジェット流を第1のオリフィス30で形成するワンジェット方式の例について説明したが、高圧ジェット流以外の溶液L2も第2のオリフィスから噴出させて2ジェット方式としてもよい。また、3以上の複数の高圧ジェット流を形成させる3ジェット方式、マルチジェット方式等として構成してもよい。
【0111】
2)T字型・Y字型混合法
図9及び図10は、T字型・Y字型混合法を実施する静的混合装置40の好ましい一態様の構造を示した概念図である。このうち、図9はT字管の静的混合装置40であり、図10はY字管の静的混合装置40である。
【0112】
図9及び図10に示されるように、T字管やY字管のような非常に細い配管の交点(混合場)で、溶液L1と溶液L2とを上述した噴出圧力の範囲を満たす高圧ジェット流で衝突させることにより、両液を瞬時に混合及び反応させ、反応液LMを排出管から短時間で排出させる。
【0113】
即ち、第2の添加配管46から溶液L2を上述の噴出圧力の範囲を満たす高圧ジェット流で混合場44に噴出させると共に、第1の添加配管42から溶液L1を上述の噴出圧力の範囲を満たす高圧ジェット流で混合場44に噴出させて両溶液を衝突させる。衝突によるエネルギーで混合及び反応された反応液LMを排出管48から短時間で排出させる。
【0114】
なお、溶液L1と溶液L2の圧力は上述した噴出圧力の範囲であれば、同じでも異なっていてもよい。また、第1の添加配管42、第2の添加配管46、及び排出管48の外周にはジャケット43が巻回され、図1で説明したと同様に、混合場44における溶液L1、L2との反応温度が制御される。この場合も、溶液L1、L2を調製する図示しない調製タンクに温度調整装置を設けることができる。尚、図9、図10の符号43Aはジャケット43の熱媒体入口であり、符号43Bは熱媒体出口である。これにより、溶液L1と溶液L2とは適切な反応温度条件下で瞬時に且つ効率的に混合及び反応させ、有機顔料微粒子を含有する反応液LMが形成される。
【0115】
これにより、有機顔料微粒子の粒度分布Mv/Mnが1.55以下を満足する、単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【0116】
図11は、溶液L1と溶液L2を対向する方向から上述の噴出圧力の範囲を満たす高圧ジェット流で、該L1溶液とL2溶液を噴出するノズル径よりも大径な混合室20(混合場)に噴出して衝突させて混合させ、反応液LMを混合室20の径よりも小径な排出管26から排出させるものである。尚、図1及び図2と同じ部材や現象は、同符号を付して説明する。
【0117】
図11の静的混合装置10は、溶液L1と溶液L2とを混合して反応させる筒状の混合室20が形成された混合器22の一端側開口に、溶液L1を混合場20に導入する第1の導管24が接続されると共に、他端側開口に溶液L2を混合室20に導入する第2の導管28が接続される。また、混合器22の中央部開口には、混合室20で混合されて反応した反応液LMを該混合室20から排出させる排出管26が接続される。
【0118】
第1の導管24と第2の導管28の先端内部には、それぞれ第1のオリフィス30と第2のオリフィス32が設けられ、これにより、第1の導管24と第2の導管28には乱流の直進流A1、A2を噴射する第1ノズル34と第2ノズル36が形成される。尚、本実施の形態では、第1ノズル34から溶液L1を噴出し、第2ノズル36から溶液L2を噴出する例で説明するが、逆にしてもよい。
【0119】
また、混合器22の外周にはジャケット21が巻回され、図1で説明したと同様に、混合器22内における溶液L1、L2との反応温度が制御される。この場合も、溶液L1、L2を調製する図示しない調製タンクに温度調整装置を設けることができる。
【0120】
混合室20の円相当径D、第1ノズル34のオリフィスの円相当径d1及びこれらの寸法関係はワンジェット混合法の場合と異なっていてもよい。また、第2ノズル36のオリフィス径d2は第1ノズル34のオリフィス径と異なってもよい。混合室20の長さLもワンジェットの場合と同様である。更に、第1及び第2のオリフィス30、32を形成する方法、オリフィス材23の材質、加圧手段もワンジェット混合法で説明したのと同様である。また、直進流A1、A2の形状は糸線状、円錐状、スリット状、扇状の各噴出流形状を形成することができる。
【0121】
そして、図11、図12に示すように、第1ノズル34と第2ノズル36から溶液L1と溶液L2とを高圧ジェット流で混合室20の一方端と他方端から噴出し、対向する直進流A1、A2として混合室20で衝突させる。この2本の直進流A1、A2によって溶液L1と溶液L2とを適切な反応温度条件下で瞬時に反応させて、有機顔料微粒子を含む反応液LMを形成させる。これにより、粒度分布Mv/Mnが1.55以下を満足する、単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【0122】
このように、直進流A1と直進流A2の液液界面での接触効率を大きくして混合性能を向上させるだけでなく、直進流A1と直進流A2が衝突することによる液液摩擦に伴う発熱を抑制することもできる。
【0123】
なお、T字型・Y字型混合法を実施する静的混合装置10、40は、上述した図9〜図12のものに限定するものではなく、混合場において、溶液L1と溶液L2の全てを噴出圧力が上述の範囲を満たす高圧ジェット流で衝突させることができるものであればよい。
3)平行流混合法 図13は、平行流混合法を実施する静的混合装置50の好ましい一態様の構造を示した断面図である。
【0124】
図13に示されるように、静的混合装置50は、内管52と外管54とで同心円状の2重円筒管構造に形成される。これにより、内管52内に狭隘な内流路56が形成されると共に、内管52と外管54との間に環状の狭隘な環状外流路58が形成される。また、内管52の出口52Aは外管54の出口54Aよりも幾分奥に引っ込み、これにより形成される空間に混合場60が形成される。また、内流路56の流入口56Aに第1の供給管62が接続されると共に、環状外流路58の流入口58Aに第2の供給管64が接続される。
【0125】
また、外管54の外周にはジャケット51が巻回され、図1で説明したのと同様に、混合場60における溶液L1、L2との反応温度が制御される。この場合も、溶液L1、L2を調製する図示しない調製タンクに温度調整装置を設けることができる。尚、図11の符号51Aはジャケット51の熱媒体入口であり、符号51Bは熱媒体出口である。
【0126】
そして、第1の供給管62から溶液L2を導入し、第2の供給管64から溶液L1を導入すると共に、溶液L1及び溶液L2が混合場60に流入する時のレイノルズ数Reが上述の範囲を満たすようにする。これにより、混合場60において溶液L1と溶液L2とが適切な反応温度条件下で瞬時に且つ効率的に混合及び反応し、有機顔料微粒子を含有する反応液LMが形成され、反応液LMは混合場60の出口66から直ちに排出される。
【0127】
尚、溶液L1と溶液L2の供給管は逆にしてもよい。これにより、粒度分布Mv/Mnが1.55以下を満足する、単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【0128】
平行流混合法を実施する静的混合装置50は2重円筒管構造に限定されるものではなく、例えば、複数の溶液を溶液L2と混合させる場合には、溶液の数に相当する数の多重円筒管構造とするとよい。
【0129】
図14は、溶液L1と溶液L2の一方を内管52から混合場にレイノルズ数Reが上述の範囲を満たす糸線状の噴出流形状で、他方の液を外管54から混合場にレイノルズ数Reが上述の範囲を満たす環状の噴出流形状で、これらの溶液を噴出するノズル径よりも大径な混合室(混合場)に噴出して、反応液LMを混合場の径よりも小径な排出管26から排出するものである。なお、図13と同じ部材は同符号を付して説明は省略すると共に、図1で示したと同じ部材には同符号を付して説明する。
【0130】
図14の静的混合装置70は、図9に示した外管54の先端に、該外管54の径よりも大径な円筒状の混合室20(混合場)を連設すると共に、混合室20の先端に混合室20の径よりも小径な排出管26を設けた構造である。また、外管54及び混合室20の外周にはジャケット53が巻回され、図1で説明したと同様に、外管54及び混合器22内における溶液L1、L2との反応温度が制御される。この場合も、溶液L1、L2を調製する図示しない調製タンクに温度調整装置を設けることができる。尚、図14の符号53Aはジャケット53の熱媒体入口であり、符号53Bは熱媒体出口である。
【0131】
そして、第1の供給管62から溶液L1を導入し、第2の供給管64から溶液L2を導入すると共に、溶液L1及び溶液L2が混合場60に流入する時のレイノルズ数Reが上術の範囲を満たすようにする。なお、溶液L1と溶液L2の供給管は逆にしてもよい。
【0132】
従って、溶液L1と溶液L2とを適切な反応温度条件下で瞬時に且つ効率的に反応して有機顔料微粒子を含有する反応液が形成され、反応液LMは排出管26から直ちに排出される。
【0133】
このように、一方の溶液を混合室20に環状に噴出すると共に、その環状の中心に他方の溶液を糸線状に噴出させることにより、溶液L1と溶液L2とを瞬時に且つ効率的に混合及び反応し、有機顔料微粒子を含有する反応液が形成される。これにより、粒度分布Mv/Mnが1.55以下を満足する、単分散性に優れた有機顔料微粒子を製造することができる。
【0134】
なお、図13、14において、混合室20、60の筒径D(外管の内径)、内管の内径d及びこれらの寸法関係はワンジェット混合法の場合の筒径Dとオリフィスd1との関係と同様である。また、混合室20、60の長さもワンジェット混合法の場合と同様である。更に、第1及び第2のオリフィス30、32を形成する方法、オリフィス材23の材質もワンジェット混合法で説明したのと同様である。
【0135】
また、平行流混合法を実施する静的混合装置50、70は、上述した図13や図14のものに限定するものではなく、混合及び反応させると共に反応液を混合場から排出し、複数種の溶液が混合場に流入する時のレイノルズ数Reが上述の範囲を満たすようにすることができるものであればよい。
【0136】
以上、本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法の各実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0137】
例えば、混合場内の温度制御は、混合場を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。
【0138】
次に、本発明に係る有機顔料微粒子を用いた応用例として、顔料インク組成物について説明する。
【0139】
インク組成物、例えばインクジェット記録用インク組成物は、親油性媒体や水性媒体中に本発明を適用して製造した有機顔料微粒子を溶解及び/又は分散させて作製することができる。特に、水性媒体を用いることが好ましい。また、必要に応じてその他の添加剤を含有することが好ましい。
【0140】
水溶性有機溶媒は、乾燥防止や湿潤促進、粘度の調整等の目的で使用される。また、乾燥防止剤は、インクジェット記録方式におけるノズルのインク噴射口において好適に使用され、インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する。
【0141】
水溶性有機溶媒の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。なお、水溶性有機溶媒は、単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0142】
その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合は、インクに直接添加する。
【0143】
主に、インクの記録媒体への定着性及び塗布面の耐擦性を向上させることを目的として、ポリマー微粒子がインクに添加されてもよい。このようなポリマー微粒子は、ポリマーラテックスとして水および、含水有機溶媒に分散されているものが好ましい。
【0144】
ポリマーラテックスとしては、スチレン系ラテックス、アクリル系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス等種々のラテックスを用いることができ、特に、スチレン系ラテックスが好ましい。スチレン系ラテックスとしては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンーイソプレン共重合のラテックスが好ましく、アート紙やコート紙に塗工されているスチレン−ブタジエン共重合体がより好ましい。
【0145】
ポリマーラッテクスは、スチレン、ブタジエン以外のモノマーを共重合したものでもよく、共重合モノマーとしては共重合可能なモノマーであればいずれでもよい。このようなポリマーラテックスとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸であることが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸であることがより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸であることがさらに好ましい。ポリマー微粒子の添加量は、インクに対して0.5〜20質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0146】
乾燥防止剤は、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。乾燥防止剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。このうち、乾燥防止剤は、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても、2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤は、インク中に、10〜50質量%含有されることが好ましい。
【0147】
浸透促進剤は、インクを記録媒体(印刷用紙)により良く浸透させる目的で、好適に使用される。浸透促進剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。これらの浸透促進剤は、インク組成物中に、5〜30質量%含有されることで、充分な効果を発揮する。また、浸透促進剤は、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で、使用されることが好ましい。
【0148】
分散剤としては、前述の分散剤が使用できる。
【0149】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0150】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0151】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00重量%使用するのが好ましい。
【0152】
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤はインクジェット用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット用インクがpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0153】
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
【0154】
表面張力調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、インクの表面張力を20mN/m〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20mN/m〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25mN/m〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。
【0155】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
【0156】
上記の表面張力調整剤は消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等も使用することができる。
【0157】
以上、本発明を適用した応用例として顔料インクについて説明したが、上記に限定されることはなく、各種塗料、印刷インク、電子写真用トナー、カラーフィルタ等の有機顔料微粒子を使用する各種用途に適用可能である。
【実施例】
【0158】
次に、実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。図1に示される静的混合装置12を使用して、有機顔料、分散剤等を溶解した溶液L1と水性溶媒L2と混合させて、ビルドアップ法により有機顔料微粒子を製造した。
【0159】
(原料溶液の調製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)及び苛性カリを混合し、室温下で攪拌しながらジメチルキナクリドン顔料を加えて攪拌した後、0.45μmのフィルタにて不純物等を取り除き、1質量%のジメチルキナクリドン溶液(溶液L1)を調製した。
【0160】
また、蒸留水を溶液L2とした。なお、溶液L1の密度は1.1g/mLであり、溶液L2の密度は1.0g/mLであった。
【0161】
(有機顔料微粒子の製造条件)
図1に示される静的混合装置12において、円相当径Dが4mmであり、長さLが90mmである混合室20に、オリフィスの円相当径dが0.2mmであるダイヤモンドオリフィスから溶液L2を10MPaの圧力で噴出させた(実施例1)。溶液L2は、混合室20において糸線状の高圧ジェット流となり、乱流渦を形成した。溶液L2は25℃に温度調整をしたものを混合室20内に噴出させた。この溶液L2の高圧ジェット流の流速は141m/sであり、Re数は2.8×10 4であった。
【0162】
次いで、溶液L1の流量が溶液L2の約1/6となるように、溶液L1を第2の導管28から供給した結果、混合室20内で糸線状の高圧ジェット流を形成する溶液L2と混合し、有機顔料微粒子が析出した。溶液L1の温度も溶液L2と同様に、25℃に温度調整をしたものを用いた。この有機顔料微粒子を含む反応液を排出管26より捕集した。このときの反応液の流量は、230mL/分であった。これは、20g/時間の有機顔料微粒子を製造することができることに相当する。
【0163】
捕集した有機顔料微粒子を含む反応液の粒度分布を、日機装(株)製マイクロトラック粒度分布測定装置で測定した結果、図15(a)に示されるように、Mv/Mnが1.2であり、有機顔料微粒子の平均粒径は約20nmであった。
【0164】
一方、比較例1として、有機顔料溶液L1と、蒸留水である溶液L2とをそれぞれ20μL/分の送液速度で送液させた。混合場20内では溶液L1、L2はいずれも層流を形成し、有機顔料微粒子を含む反応液が得られたが、時間がたつにつれ装置内に粒子が堆積し、閉塞に至った。これより、本発明を適用する実施例1の方が、製造適正に優れ、且つ粒子サイズも微小であることを確認できた。
【0165】
また、比較例2として、ビーカー内にて溶液L1、L2を400rpmにて攪拌混合して有機顔料粒子を含む溶液を調製した。そして、上記と同様に粒度分布を測定した結果、図15(b)に示されるように、Mv/Mnが1.59であり、平均粒径が約30nmであった。
【0166】
以上のように、本発明に係る有機顔料微粒子の製造方法を適用することにより、微小サイズで、且つ粒度分布Mv/Mnが1に近い単分散性に優れた有機顔料微粒子を安定に得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本発明の一実施形態であるワンジェット混合法を実施する静的混合装置の構造を示した概念図である。
【図2】ワンジェット混合法において溶液L1と溶液L2を混合する作用を説明する説明 図である。
【図3】糸線状の噴出流形状を説明する説明図である。
【図4】円錐状の噴出流形状を説明する説明図である。
【図5】スリット状の噴出流形状を説明する説明図である。
【図6】扇状の噴出流形状を説明する説明図である。
【図7】ワンジェット混合法を実施する静的混合装置の別態様の構造を示した概念図である。
【図8】ワンジェット混合法を実施する静的混合装置の別態様の構造を示した概念図である。
【図9】T字型混合法を実施する静的混合装置の一態様の構造を示した概念図である。
【図10】Y字型混合法を実施する静的混合装置の一態様の構造を示した概念図である。
【図11】T字型混合法に渦粘性の概念を加味した静的混合装置の一態様の構造を示した概念図である。
【図12】T字型混合法において溶液L1と溶液L2を混合する作用を説明する説明図である。
【図13】平行流混合法を実施する静的混合装置の一態様の構造を示した概念図である。
【図14】平行流混合法に静的混合装置の一態様の構造を示した概念図である。
【図15】実施例におけるグラフ図である。
【符号の説明】
【0168】
10、12、40、50、70…静的混合装置、20…混合室(混合場)、22…混合器、23、43、51、53…ジャケット、24…第1の導管、26…排出管、28…第2の導管、30…第1のオリフィス、34…第1ノズル、36…第2ノズル、A…直進流、B…直交流、42…第1の添加配管、44…交点(混合場)、46…第2の添加配管、48…排出管、52…内管、54…外管、56…内流路、58…環状外流路、60…混合場


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の溶液を混合場内において液相法により反応させると共に、前記複数種類の溶液のうち1以上を高圧ジェット流で前記混合場内に供給することを特徴とする有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応が、析出反応であることを特徴とする請求項1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記析出反応が、溶解度変化及び/又はpH変化による析出反応であることを特徴とする請求項2の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出圧力が、1MPa〜200MPaであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の流速が、50m/秒〜700m/秒であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出口近傍におけるレイノルズ数Reが、2100〜150000であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記混合場内に供給される前記高圧ジェット流の噴出口の円相当径dと、前記混合場の円相当径Dとの比D/dが、5〜30であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1の高圧ジェット流と該高圧ジェット流以外の溶液との衝突角が、0°〜90°であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記複数の溶液のうち1が高圧ジェット流であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1の有機顔料微粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする有機顔料微粒子。
【請求項11】
前記有機顔料微粒子の粒度分布Mv/Mnが、1.55以下であることを特徴とする請求項10の有機顔料微粒子。
【請求項12】
請求項10又は11の有機顔料微粒子を用いたことを特徴とする顔料インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−262162(P2007−262162A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86462(P2006−86462)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)