有機EL素子
【課題】 リーク電流やクロストークの発生を招くことがなく、しかも素子に悪影響を及ぼすことがないとともに封入の際の取扱が容易な乾燥手段を有し、長期にわたって安定した発光特性を維持する有機EL素子を提供する。
【解決手段】 化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段8とし、この乾燥手段8を、互いに対向する一対の電極3,5間に有機発光材料層4が挟持されてなる積層体6から隔離して気密性容器内に封入する。
【解決手段】 化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段8とし、この乾燥手段8を、互いに対向する一対の電極3,5間に有機発光材料層4が挟持されてなる積層体6から隔離して気密性容器内に封入する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種情報産業機器のディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機EL(電界発光)素子に関し、特に長期にわたって安定した発光特性を維持する有機EL素子に関する。
【0002】
【従来の技術】互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持され、この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して発光する有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、視認性および耐衝撃性に優れるととともに、有機発光材料層を形成する有機物の発光色が多様である等の利点を有することから、例えば各種情報産業機器用の各種ディスプレーや発光素子等に好適に用いられる。
【0003】一方、有機EL素子は、一定期間駆動すると、発光輝度、発光の均一性等の発光特性が初期に比べて著しく劣化するという欠点を有している。このような発光特性の劣化を招く原因の一つとしては、有機EL素子の構成部品の表面に吸着している水分や有機EL素子内に侵入した水分が、一対の電極とこれらにより挟持された有機発光材料層との積層体中に陰極表面の欠陥等から侵入して有機発光材料層と陰極との間の剥離を招き、その結果、通電しなくなることに起因して発光しない部位、いわゆる黒点が発生することが知られている。
【0004】そこで、この黒点の発生を防止するためには有機EL素子の内部の湿度を下げる必要がある。従来、素子の内部が高湿状態になるのを防止する手段を設けた有機EL素子としては、例えば、陽極、有機発光材料層、陰極を積層してなる構造体の外側に、さらに乾燥剤を含有する保護層および封止層を積層した構造を有するもの(特開平7−169567号公報参照)、対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体を気密ケース内に収納し、この積層体から隔離して気密ケース内に五酸化二リン(P2 O5 )からなる乾燥手段を配設することにより気密ケース内に積層体と乾燥手段とを中空封止してなるもの(特開平3−261091号公報参照)などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、一対の電極間に有機発光材料を挟持してなる構造体上に乾燥剤入りの保護層を直接に積層してなる上記の有機EL素子においては、保護層を形成することでリーク電流やクロストークが発生し易くなり、発光特性に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0006】一方、対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体を気密ケース内に収納し、この積層体から隔離して気密ケース内にP2 O5 からなる乾燥手段を配設した構造を有する上記の有機EL素子においては、リーク電流やクロストークが発生し易くなるという問題はないもののP2 O5 が、大気中の水蒸気を吸収してその水に溶け(潮解)、リン酸となり、このリン酸が積層体に悪影響を及ぼすうえ、P2 O5 からなる乾燥手段を封入する際の方法が著しく限られることから、実用的ではないという欠点がある。
【0007】本発明は、かかる事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、リーク電流やクロストークの発生を招くことがなく、しかも素子に悪影響を及ぼすことがないとともに封入の際の取扱が容易な乾燥手段を有し、長期にわたって安定した発光特性を維持する有機EL素子を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明の有機EL素子は、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、前記乾燥手段が化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により形成されている構成とし、特に、前記乾燥手段を形成する化合物が、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩および有機物のいずれかである構成とした。
【0009】本発明の有機EL素子は、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とする。このような化合物を乾燥手段に用いるのは、物理的に水分を吸着する化合物は、一旦吸着した水分を高い温度で再び放出してしまうため、黒点の成長を十分に防止することができないからである。また、吸湿しても固体状態を維持する化合物を乾燥手段に用いるのは、吸湿により液化してしまう化合物であると、素子に悪影響を及ぼすとともに封入の際の取扱が容易ではなく、封入方法が著しく制限されて実用的ではないからである。このように、本発明の有機EL素子では、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とし、この乾燥手段を、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体から隔離して気密性容器内に配置し、封止しているので、リーク電流やクロストークの発生を招くことがない。したがって、本発明の有機EL素子においては、一定期間駆動した後も黒点の発生が確実に防止され、長期にわたって安定した発光特性が維持される。
【0010】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように、この実施形態の有機EL素子1は、ガラス基板2、ITO電極3と有機発光材料層4と陰極5との積層体6、ガラス封止缶7、乾燥手段8および封止材9により構成されている。なお、図1に示す積層体6は、ITO電極3と有機発光材料層4と陰極5との3層構造であるが、これらの層の他に電子輸送層、正孔輸送層を有していてもよく、またこれらの層が多層であってもよい。
【0011】さらに具体的には、ガラス基板1上に、ITO電極3、有機発光材料層4、陰極5がこの順に積層された積層体6が形成され、この積層体6から隔離して乾燥手段8が配置され、積層体6と乾燥手段8とは、ガラス基板1とガラス封止缶7とが封止材9により気密的に接着されて形成された気密性容器内に封止されている。
【0012】そして、この気密性容器内には乾燥した不活性ガスが封入されている。この有機EL素子においては、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により乾燥手段8が形成されている。
【0013】乾燥手段8を形成する化合物としては、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものであればいずれも使用可能である。このような化合物としては、例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩、有機物が挙げられる。
【0014】前記アルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(Na2 O)、酸化カリウム(K2 O)が挙げられ、前記アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)が挙げられる。
【0015】前記硫酸塩としては、硫酸リチウム(Li2 SO4 )、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )、硫酸カルシウム(CaSO4 )、硫酸マグネシウム(MgSO4 )、硫酸コバルト(CoSO4 )、硫酸ガリウム(Ga2 (SO4 )3 )、硫酸チタン(Ti(SO4 )2 )、硫酸ニッケル(NiSO4 )などが挙げられる。これらの硫酸塩は無水塩が好適に用いられる。
【0016】前記金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム(CaCl2 )、塩化マグネシウム(MgCl2 )、塩化ストロンチウム(SrCl2 )、塩化イットリウム(YCl3 )、塩化銅(CuCl2 )、ふっ化セシウム(CsF)、ふっ化タンタル(TaF5 )、ふっ化ニオブ(NbF5 )、臭化カルシウム(CaBr2 )、臭化セリウム(CeBr3 )、臭化セレン(SeBr4 )、臭化バナジウム(VBr2 )、臭化マグネシウム(MgBr2 )、よう化バリウム(BaI2 )、よう化マグネシウム(MgI2 )などが挙げられる。これらの金属ハロゲン化物は無水塩が好適に用いられる。
【0017】前記過塩素酸塩としては、過塩素酸バリウム(Ba(ClO4 )2 )、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO4 )2 )が挙げられる。これらの過塩素酸塩も無水塩が好適に用いられる。
【0018】さらに、これらの無機化合物のほか、乾燥手段8には有機物を用いることもできる。ただし、その場合も、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものでなければならない。
【0019】乾燥手段8の封入方法としては、例えば、上記の化合物を固形化して成形体とし、この成形体をガラス封止缶7に固定する方法、上記の化合物を通気性を有する袋に入れてガラス封止缶7に固定する方法、ガラス封止缶7に仕切りを設け、この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法、さらには真空蒸着法、スパッタ法あるいはスピンコート法等を用いてガラス封止缶7内に成膜する方法など種々の方法を採用することができる。
【0020】このように、この有機EL素子は、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段8とするので、封入の際の取扱が容易であり、より簡便なあるいは機能的な封入方法の採用が可能である。
【0021】
【実施例】次に本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明についてさらに具体的に説明する。
実施例1酸化バリウム(BaO)を乾燥手段8とし、この乾燥手段8を用いて図1に示す構造の有機EL素子を作成した。なお、この乾燥手段8は粘着材を用いてガラス封止缶7に固定することにより封入した。
【0022】この有機EL素子の発光部について封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。次に、この有機EL素子を温度85℃の条件で500時間保存した後、発光部について封入直後と同様にして拡大写真を撮影した。
【0023】これらの拡大写真を比較観察したところ、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例2前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて酸化カルシウム(CaO)を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0024】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例3前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて硫酸カルシウム(CaSO4 )を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0025】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例4前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて塩化カルシウム(CaCl2 )を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0026】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
比較例1前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えてシリカゲルを用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0027】その結果、黒点(ダークスポット)の成長が著しいことが確認された。
【0028】
【発明の効果】以上に詳述した通り、本発明は、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とするとともに、この乾燥手段を、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持されてなる積層体から隔離して気密性容器内に封入する構成としたので、乾燥手段が吸湿した後も素子に悪影響を及ぼすことがないとともに封入の際の取扱が容易であり、しかもリーク電流やクロストークの発生を招かないことから、本発明の有機EL素子においては、長期にわたって安定した発光特性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
3…ITO電極
4…有機発光材料層
5…陰極
6…積層体
8…乾燥手段
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種情報産業機器のディスプレーや発光素子等に好適に用いられる有機EL(電界発光)素子に関し、特に長期にわたって安定した発光特性を維持する有機EL素子に関する。
【0002】
【従来の技術】互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持され、この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して発光する有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、視認性および耐衝撃性に優れるととともに、有機発光材料層を形成する有機物の発光色が多様である等の利点を有することから、例えば各種情報産業機器用の各種ディスプレーや発光素子等に好適に用いられる。
【0003】一方、有機EL素子は、一定期間駆動すると、発光輝度、発光の均一性等の発光特性が初期に比べて著しく劣化するという欠点を有している。このような発光特性の劣化を招く原因の一つとしては、有機EL素子の構成部品の表面に吸着している水分や有機EL素子内に侵入した水分が、一対の電極とこれらにより挟持された有機発光材料層との積層体中に陰極表面の欠陥等から侵入して有機発光材料層と陰極との間の剥離を招き、その結果、通電しなくなることに起因して発光しない部位、いわゆる黒点が発生することが知られている。
【0004】そこで、この黒点の発生を防止するためには有機EL素子の内部の湿度を下げる必要がある。従来、素子の内部が高湿状態になるのを防止する手段を設けた有機EL素子としては、例えば、陽極、有機発光材料層、陰極を積層してなる構造体の外側に、さらに乾燥剤を含有する保護層および封止層を積層した構造を有するもの(特開平7−169567号公報参照)、対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体を気密ケース内に収納し、この積層体から隔離して気密ケース内に五酸化二リン(P2 O5 )からなる乾燥手段を配設することにより気密ケース内に積層体と乾燥手段とを中空封止してなるもの(特開平3−261091号公報参照)などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、一対の電極間に有機発光材料を挟持してなる構造体上に乾燥剤入りの保護層を直接に積層してなる上記の有機EL素子においては、保護層を形成することでリーク電流やクロストークが発生し易くなり、発光特性に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0006】一方、対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体を気密ケース内に収納し、この積層体から隔離して気密ケース内にP2 O5 からなる乾燥手段を配設した構造を有する上記の有機EL素子においては、リーク電流やクロストークが発生し易くなるという問題はないもののP2 O5 が、大気中の水蒸気を吸収してその水に溶け(潮解)、リン酸となり、このリン酸が積層体に悪影響を及ぼすうえ、P2 O5 からなる乾燥手段を封入する際の方法が著しく限られることから、実用的ではないという欠点がある。
【0007】本発明は、かかる事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、リーク電流やクロストークの発生を招くことがなく、しかも素子に悪影響を及ぼすことがないとともに封入の際の取扱が容易な乾燥手段を有し、長期にわたって安定した発光特性を維持する有機EL素子を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明の有機EL素子は、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、前記乾燥手段が化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により形成されている構成とし、特に、前記乾燥手段を形成する化合物が、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩および有機物のいずれかである構成とした。
【0009】本発明の有機EL素子は、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とする。このような化合物を乾燥手段に用いるのは、物理的に水分を吸着する化合物は、一旦吸着した水分を高い温度で再び放出してしまうため、黒点の成長を十分に防止することができないからである。また、吸湿しても固体状態を維持する化合物を乾燥手段に用いるのは、吸湿により液化してしまう化合物であると、素子に悪影響を及ぼすとともに封入の際の取扱が容易ではなく、封入方法が著しく制限されて実用的ではないからである。このように、本発明の有機EL素子では、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とし、この乾燥手段を、有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体から隔離して気密性容器内に配置し、封止しているので、リーク電流やクロストークの発生を招くことがない。したがって、本発明の有機EL素子においては、一定期間駆動した後も黒点の発生が確実に防止され、長期にわたって安定した発光特性が維持される。
【0010】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように、この実施形態の有機EL素子1は、ガラス基板2、ITO電極3と有機発光材料層4と陰極5との積層体6、ガラス封止缶7、乾燥手段8および封止材9により構成されている。なお、図1に示す積層体6は、ITO電極3と有機発光材料層4と陰極5との3層構造であるが、これらの層の他に電子輸送層、正孔輸送層を有していてもよく、またこれらの層が多層であってもよい。
【0011】さらに具体的には、ガラス基板1上に、ITO電極3、有機発光材料層4、陰極5がこの順に積層された積層体6が形成され、この積層体6から隔離して乾燥手段8が配置され、積層体6と乾燥手段8とは、ガラス基板1とガラス封止缶7とが封止材9により気密的に接着されて形成された気密性容器内に封止されている。
【0012】そして、この気密性容器内には乾燥した不活性ガスが封入されている。この有機EL素子においては、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により乾燥手段8が形成されている。
【0013】乾燥手段8を形成する化合物としては、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものであればいずれも使用可能である。このような化合物としては、例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩、有機物が挙げられる。
【0014】前記アルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(Na2 O)、酸化カリウム(K2 O)が挙げられ、前記アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)が挙げられる。
【0015】前記硫酸塩としては、硫酸リチウム(Li2 SO4 )、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )、硫酸カルシウム(CaSO4 )、硫酸マグネシウム(MgSO4 )、硫酸コバルト(CoSO4 )、硫酸ガリウム(Ga2 (SO4 )3 )、硫酸チタン(Ti(SO4 )2 )、硫酸ニッケル(NiSO4 )などが挙げられる。これらの硫酸塩は無水塩が好適に用いられる。
【0016】前記金属ハロゲン化物としては、塩化カルシウム(CaCl2 )、塩化マグネシウム(MgCl2 )、塩化ストロンチウム(SrCl2 )、塩化イットリウム(YCl3 )、塩化銅(CuCl2 )、ふっ化セシウム(CsF)、ふっ化タンタル(TaF5 )、ふっ化ニオブ(NbF5 )、臭化カルシウム(CaBr2 )、臭化セリウム(CeBr3 )、臭化セレン(SeBr4 )、臭化バナジウム(VBr2 )、臭化マグネシウム(MgBr2 )、よう化バリウム(BaI2 )、よう化マグネシウム(MgI2 )などが挙げられる。これらの金属ハロゲン化物は無水塩が好適に用いられる。
【0017】前記過塩素酸塩としては、過塩素酸バリウム(Ba(ClO4 )2 )、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO4 )2 )が挙げられる。これらの過塩素酸塩も無水塩が好適に用いられる。
【0018】さらに、これらの無機化合物のほか、乾燥手段8には有機物を用いることもできる。ただし、その場合も、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものでなければならない。
【0019】乾燥手段8の封入方法としては、例えば、上記の化合物を固形化して成形体とし、この成形体をガラス封止缶7に固定する方法、上記の化合物を通気性を有する袋に入れてガラス封止缶7に固定する方法、ガラス封止缶7に仕切りを設け、この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法、さらには真空蒸着法、スパッタ法あるいはスピンコート法等を用いてガラス封止缶7内に成膜する方法など種々の方法を採用することができる。
【0020】このように、この有機EL素子は、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段8とするので、封入の際の取扱が容易であり、より簡便なあるいは機能的な封入方法の採用が可能である。
【0021】
【実施例】次に本発明の実施例および比較例を挙げ、本発明についてさらに具体的に説明する。
実施例1酸化バリウム(BaO)を乾燥手段8とし、この乾燥手段8を用いて図1に示す構造の有機EL素子を作成した。なお、この乾燥手段8は粘着材を用いてガラス封止缶7に固定することにより封入した。
【0022】この有機EL素子の発光部について封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。次に、この有機EL素子を温度85℃の条件で500時間保存した後、発光部について封入直後と同様にして拡大写真を撮影した。
【0023】これらの拡大写真を比較観察したところ、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例2前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて酸化カルシウム(CaO)を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0024】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例3前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて硫酸カルシウム(CaSO4 )を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0025】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
実施例4前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えて塩化カルシウム(CaCl2 )を用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0026】その結果、黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。
比較例1前記実施例1において、酸化バリウム(BaO)に代えてシリカゲルを用いて乾燥手段8としたほかは、前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに、封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。
【0027】その結果、黒点(ダークスポット)の成長が著しいことが確認された。
【0028】
【発明の効果】以上に詳述した通り、本発明は、化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とするとともに、この乾燥手段を、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持されてなる積層体から隔離して気密性容器内に封入する構成としたので、乾燥手段が吸湿した後も素子に悪影響を及ぼすことがないとともに封入の際の取扱が容易であり、しかもリーク電流やクロストークの発生を招かないことから、本発明の有機EL素子においては、長期にわたって安定した発光特性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
3…ITO電極
4…有機発光材料層
5…陰極
6…積層体
8…乾燥手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、前記乾燥手段が化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】 前記乾燥手段を形成する化合物がアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】 前記乾燥手段を形成する化合物が硫酸塩である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項4】 前記乾燥手段を形成する化合物が金属ハロゲン化物である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項5】 前記乾燥手段を形成する化合物が過塩素酸塩である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項6】 前記乾燥手段を形成する化合物が有機物である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項1】 有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と、この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において、前記乾燥手段が化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】 前記乾燥手段を形成する化合物がアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】 前記乾燥手段を形成する化合物が硫酸塩である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項4】 前記乾燥手段を形成する化合物が金属ハロゲン化物である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項5】 前記乾燥手段を形成する化合物が過塩素酸塩である請求項1記載の有機EL素子。
【請求項6】 前記乾燥手段を形成する化合物が有機物である請求項1記載の有機EL素子。
【図1】
【公開番号】特開平9−148066
【公開日】平成9年(1997)6月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−306143
【出願日】平成7年(1995)11月24日
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【公開日】平成9年(1997)6月6日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)11月24日
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
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