説明

有機EL表示装置

【課題】サブフレームを用いて階調制御を行い、かつ回路システムを増大させることなく簡易なシステムで階調のリニアリティーを実現できる有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL素子とトランジスタとを備える複数の画素を有し、1フレームをN個(Nは2以上の整数)に分割したサブフレーム毎にトランジスタをON/OFFして階調を表示する有機EL表示装置であって、N個のサブフレームそれぞれにおける画素の積算光量比は1:2:4:8:・・・:2N-1を満たし、かつN個のサブフレームそれぞれにおけるトランジスタのON期間比は1−Δt:2−Δt:4−Δt:8−Δt:・・・:2N-1−Δt(0<Δt<1)を満たすことを特徴とする有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を用いた表示装置に関し、特に1フレームをN個(Nは2以上の整数)に分割したサブフレームを用いてNビット階調表示を行う有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置において1フレームを複数個に分割したサブフレームを用いて階調制御を行う技術として特許文献1に記載の技術がある。この技術は、1フレームが発光期間長の異なる複数のサブフレームに分割された有機EL表示装置において、発光させるサブフレームを適宜選択すると共に順次選択駆動することで階調制御を行う技術である。具体的には1フレームを例えば4個の第1〜第4サブフレームに分割し、第1〜第4サブフレームの各期間Tilm0〜Tilm3を、Tilm0:Tilm1:Tilm2:Tilm3=1:2:4:8となる時間比に設定する。そして第1〜第4サブフレームのうち発光させるサブフレームを選択することで16通りの発光期間を設定することができるため16通りの階調表示を可能にしている。
【0003】
ところで、図5のような一般的な画素回路を用いて有機EL表示装置を駆動すると、発光期間の終了時に発光パルスの立下りが尾を引いて残光が生じてしまい、所望の発光期間で駆動できない場合があった。図5を用いて説明すると、図5の画素回路ではMOSトランジスタTr2と有機EL素子ELの間に寄生容量Cpが存在しており、MOSトランジスタTr2をOFFした後も寄生容量Cpの電荷によって有機EL素子ELに電流Ipが流れる場合があった。この場合、発光パルスは図2(b)のような形状になった。これは、図2(b)のA部のように発光パルスの立下りにおいて残光が生じ、この残光が積算光量として重畳されたためである。図5の画素回路を用いて4個のサブフレームに分割された特許文献1の有機EL表示装置を駆動すると、階調レベル(Gradation Level)と輝度(L)の関係は図6のようになった。最小パルス幅による輝度を10としたところ、残光の輝度は7であった。図6より、階調のリニアリティーが損なわれ、階調レベルによっては輝度の大小が逆になっている部分もあることが分かる。階調のリニアリティーが損なわれると、高画質の階調表示を実現することができない。ここでいう輝度とは、1フレームの積算光量を1フレーム時間で割った値である。
【0004】
よって、サブフレームを用いた有機EL表示装置の階調制御において階調のリニアリティーを実現する技術が求められる。階調のリニアリティーを実現する技術としては、階調を増加させたときに輝度が単調増加となるよう並び替える変換テーブルを作成し、そのテーブルを用いて画像データを変換して表示する技術(特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−259530号公報
【特許文献2】特開平08−146914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術を用いた場合、変換テーブルのためのメモリが必要となるため回路システムを増大させてしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、サブフレームを用いて階調制御を行い、かつ回路システムを増大させることなく簡易なシステムで階調のリニアリティーを実現できる有機EL表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、有機EL素子と該有機EL素子への電流供給を制御するトランジスタとを備える複数の画素を有し、1フレームをN個(Nは2以上の整数)に分割したサブフレーム毎に前記トランジスタをON/OFFして階調を表示する有機EL表示装置であって、
N個の前記サブフレームそれぞれにおける前記画素の積算光量比は1:2:4:8:・・・:2N-1を満たし、かつN個の前記サブフレームそれぞれにおける前記トランジスタのON期間比は1−Δt:2−Δt:4−Δt:8−Δt:・・・:2N-1−Δt(0<Δt<1)を満たすことを特徴とする有機EL表示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各画素において、N個のサブフレーム毎に、残光による光量の増加分だけ、残光が生じない理想的な場合よりも発光パルス幅を削減する。これにより、残光が生じない理想的な場合と同様に、サブフレーム毎の積算光量比1:2:4:8:・・・:2N-1を満たし、かつ画像データに応じて予め決められた輝度値で発光させることができると共に2N通りの階調数を実現できる。よって、階調のリニアリティーを実現できる。更に、発光パルス幅の削減は、サブフレーム毎の駆動電源から有機EL素子への電流供給を制御するトランジスタのON期間比を、残光が生じない理想的な場合のON期間比から一律Δt(定数)を引いたON期間比とすることにより実現できる。よって、定数Δtを用いるだけでON期間比を決定できるため、回路システムを増大させることなく簡易なシステムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有機EL表示装置の全体概略図である。
【図2】有機EL素子の発光パルス形状の説明図である。
【図3】本発明の有機EL表示装置に用いられる画素回路の動作の説明図である。
【図4】本発明の有機EL表示装置の階調レベルと輝度の関係を示す図である。
【図5】一般的な画素回路を示す図である。
【図6】従来の有機EL表示装置の階調レベルと輝度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の有機EL表示装置の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の有機EL表示装置の一例を示す全体概略図である。図1の有機EL表示装置は、表示領域1、水平駆動回路2、垂直駆動回路3、接続端子部4を備えている。表示領域1には、赤(R)、緑(G)、青(B)を1画素とする複数の画素がマトリクス状に配置されている。各画素には赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する有機EL素子と色毎に図5の画素回路が配置されている。水平駆動回路2はデータ信号を出力する回路であり、データラインDLと接続されている。垂直駆動回路3は選択信号、消灯信号を出力する回路であり、選択ラインSL、消灯ラインTFLと接続されている。接続端子部4は水平駆動回路2、垂直駆動回路3にクロック信号、画像データ信号等を入力する端子であり、配線(不図示)によって水平駆動回路2、垂直駆動回路3と接続されている。
【0013】
図2は有機EL素子の発光パルス形状を説明する図である。図2(a)は理想的な場合の発光パルス形状、即ち発光パルスの立下りにおいて残光が生じることなく画像データに応じて予め決められた輝度値で発光する場合の発光パルス形状である。図2(b)は発光パルスの立下りにおいて残光が生じた場合の発光パルス形状であり、図2(b)の輝度は残光が生じた分だけ図2(a)の輝度よりも大きくなる。図2(c)は本発明の場合の発光パルス形状であり、発光パルス幅をΔt(以下、「削減量Δt」ということもある)だけ削減している。このとき、Δtの値は図2(a)と図2(c)の積算光量が同一になるような値に決定する。積算光量は発光パルス形状の積分値(面積)で算出できるため、図2(a)と図2(c)の発光パルス形状の積分値が同一になるようにΔtの値を決定する。尚、Δtの値は実験的に求めた値としても良い。
【0014】
ここで、本発明の有機EL表示装置に用いられる図5の画素回路について説明する。図5において、Tr1、Tr2、Tr3はMOSトランジスタ、Cは保持容量、DLはデータライン、SLは選択ライン、TFLは消灯ライン、ELは有機EL素子である。VELは有機EL素子の駆動電源、CGNDは有機EL素子のカソード電位、VCは任意の固定電位である。MOSトランジスタTr1のソース端子はデータラインDLに接続され、MOSトランジスタTr1のドレイン端子は保持容量Cの一方の端子、かつMOSトランジスタTr2のゲート端子と接続されている。MOSトランジスタTr1のゲート端子は選択ラインSLに接続されている。保持容量Cの他方の端子は固定電位VCに接続されている。MOSトランジスタTr2のソース端子は駆動電源VELに接続され、MOSトランジスタTr2のドレイン端子は有機EL素子ELのアノード端子に接続されている。MOSトランジスタTr2は駆動電源VELから各画素が備える有機EL素子への電流供給を制御する。MOSトランジスタTr3のソース端子は駆動電源VELに接続され、MOSトランジスタTr3のドレイン端子はMOSトランジスタTr2のゲート端子に接続され、MOSトランジスタTr3のゲート端子は消灯ラインTFLに接続されている。有機EL素子ELのカソード端子はカソード電位CGNDに接続されている。
【0015】
図5ではMOSトランジスタとしてPMOSを用いているが、NMOSを用いても良い。また、MOSトランジスタとしては、シリコンウェーハ上に形成したトランジスタを用いても良いし、ガラス基板上に形成した薄膜トランジスタを用いても良い。
【0016】
次に、本発明の有機EL表示装置の動作について図3を用いて説明する。
【0017】
図3(a)は書き込み動作を示す。データラインDLを点灯用のデータ信号Vonとし、選択ラインSLをLレベルとすると、MOSトランジスタTr1はON状態となり、データ電圧VonがMOSトランジスタTr2のゲート端子に印加される。データ電圧VonのときMOSトランジスタTr2はON状態となるように動作し、駆動電源VELから電流Iが有機EL素子ELに供給され発光を開始する。このとき消灯ラインTFLをHレベルとしているためMOSトランジスタTr3はOFF状態である。尚、有機EL素子ELを点灯させない場合はデータラインDLを消灯用のデータ信号Voffとしておく。
【0018】
図3(a)の動作後、図3(b)のように選択ラインSLをHレベルとすると、MOSトランジスタTr1はOFF状態となるが、保持容量Cはデータ電圧Vonを保持する。よってMOSトランジスタTr2のゲート端子はデータ電圧Vonのままであり、MOSトランジスタTr2はON状態を継続するため有機EL素子ELは発光を継続する。このとき消灯ラインTFLはHレベルのままであるためMOSトランジスタTr3はOFF状態である。
【0019】
図3(c)は消灯動作を示す。図3(b)の動作後、消灯ラインTFLをLレベルとすると、MOSトランジスタTr3がON状態になる。このとき駆動電源VELがMOSトランジスタTr2のゲート端子に接続され、MOSトランジスタTr2のソース端子とゲート端子が同電位となるためMOSトランジスタTr2はOFF状態となるように動作し、駆動電源VELから電流Iが遮断される。しかしながら、上述したようにMOSトランジスタTr2と有機EL素子ELの間には寄生容量Cpが存在しており、MOSトランジスタTr2がOFF状態となっても寄生容量Cpの電荷によって有機EL素子ELに電流Ipが流れて残光が生じてしまう。
【0020】
図3(c)の動作後、図3(d)のように消灯ラインTFLをHレベルとすると、MOSトランジスタTr3はOFF状態となるが、保持容量Cは駆動電源VELと同電位を保持するためMOSトランジスタTr2はOFF状態を継続する。この間においても、寄生容量Cpの電荷が残っているならば、放電し終えるまで有機EL素子ELには電流Ipが流れて残光が生じてしまう。
【0021】
本発明では、サブフレーム毎に、残光による光量の増加分だけ、残光が生じない理想的な場合よりも発光パルス幅を削減する。これは、サブフレーム毎に、図3(a)の書き込み動作から図3(c)の消灯動作までの期間、即ちMOSトランジスタTr2のON期間を削減することにより実現できる。
【0022】
続いて、本発明の有機EL表示装置をマトリクス表示する場合の動作について説明する。表示としては1つの画像を表示する1フレームを複数個に分割したサブフレームを用いて階調を表現するサブフレーム階調制御によって行う。サブフレーム毎に1行ずつ順次選択しながら全ての行について書き込み動作を行って画素回路に点灯用のデータ信号Vonを書き込み、MOSトランジスタTr2をON状態にする。また、全ての画素について1行ずつ順次消灯動作を行い、MOSトランジスタTr2をOFF状態にする。
【0023】
サブフレーム毎に消灯動作を行うタイミングを制御してMOSトランジスタTr2のON期間を異ならせることでサブフレーム毎の積算光量を変えることができ、階調レベルに応じて点灯させるサブフレームを選択することで階調制御が可能となる。本実施形態のように各画素に三色の有機EL素子を備える場合には、例えば各画素において、サブフレーム毎に、三色同時に書き込み動作を行い、三色同時に消灯動作を行うようにMOSトランジスタTr2のON期間を設定する。
【0024】
ここで、サブフレーム数を4個とし、各画素において、サブフレーム毎の積算光量比1:2:4:8を満たし、かつ画像データに応じて予め決められた輝度値で発光させる場合を考える。残光が生じない理想的な場合には、MOSトランジスタTr2のON期間と有機EL素子の発光期間が等しくなるため、サブフレーム毎のON期間比を1:2:4:8とすれば16通りの階調数を実現できる。しかし、実際には残光による光量増加分があるため、上述した削減量Δtを用いてサブフレーム毎のON期間比を1−Δt:2−Δt:4−Δt:8−Δtとする。削減量Δtは残光による光量増加分に相当する。寄生容量Cpの電荷によって有機EL素子ELに流れる電流Ipは、MOSトランジスタTr2のON期間長に関係なく一定であるため、残光が生じない理想的な場合の上記ON期間比から一律Δt(0<Δt<1)を引いたON期間比とする。このON期間比とすることにより、残光が生じない理想的な場合と同様に、画像データに応じて予め決められた輝度値で発光させることができると共に16通りの階調数を実現できる。
【0025】
図4は本発明の有機EL表示装置における階調レベル(Gradation Level)と輝度(L)との関係を示している。図6に示した従来の有機EL表示装置の場合と比較して階調のリニアリティーが改善していることが分かる。
【0026】
本実施形態ではサブフレーム数を4個とした場合について説明したが、これに限らずサブフレーム数を更に増やして階調数を増加させて駆動する場合にも本発明は有効である。例えばサブフレーム数をN個(Nは2以上の整数)とした場合を考える。この場合、サブフレーム毎のMOSトランジスタTr2のON期間比を1−Δt:2−Δt:4−Δt:8−Δt:・・・:2N-1−Δtとすれば画像データに応じて予め決められた輝度値で発光させることができると共に2N通りの階調数を実現できる。
【0027】
また、本実施形態では図5の画素回路を用いた有機EL表示装置について説明したが、これに限らずトランジスタをON/OFFして駆動電源から有機EL素子への電流供給をON/OFFする画素回路であれば適用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
Tr1、Tr2、Tr3:MOSトランジスタ、C:保持容量、DL:データライン、SL:選択ライン、TFL:消灯ライン、EL:有機EL素子、VEL:有機EL素子の駆動電源、CGND:有機EL素子のカソード電位、VC:保持容量が接続される固定電位、1:表示領域、2:水平駆動回路、3:垂直駆動回路、4:接続端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL素子と該有機EL素子への電流供給を制御するトランジスタとを備える複数の画素を有し、1フレームをN個(Nは2以上の整数)に分割したサブフレーム毎に前記トランジスタをON/OFFして階調を表示する有機EL表示装置であって、
N個の前記サブフレームそれぞれにおける前記画素の積算光量比は1:2:4:8:・・・:2N-1を満たし、かつN個の前記サブフレームそれぞれにおける前記トランジスタのON期間比は1−Δt:2−Δt:4−Δt:8−Δt:・・・:2N-1−Δt(0<Δt<1)を満たすことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記Δtの値は前記トランジスタをOFFした後に生じる前記有機EL素子の残光による光量に基づく値であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−247485(P2012−247485A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116836(P2011−116836)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】