木工用鋸
【課題】木材に対して、例えば「天秤差し」「蟻差し」のような継ぎ手構造を作製しようとする際に、そのホゾ穴が「奥側が広がった台形状」の場合、従来は熟達者が鋸とノミを駆使して切削するしかなく、そうした伝統的継ぎ手構造を作製するのに適した木工用鋸を提供する。
【解決手段】柄2と複数枚の刃板3とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有するもの。
【解決手段】柄2と複数枚の刃板3とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有するもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蟻継ぎにおけるある種のホゾ穴に見られる、奥側が広がった台形状の切欠を作製するのに適した木工用鋸の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の継ぎ手構造には多種のものがある。例えば「天秤差し」「蟻差し」と呼ばれる仕口は、いずれも伝統的継ぎ手構造の一つであり、接着や釘留めに比して、緩みというものがないので確実強固であり、また見た目も良い仕上がりを呈するが故に、板材を直角に接合する場合、或いは箱物すみを納める手法としてしばしば採用されている。
【0003】
図9は、そうした構造の一例を示すものである。即ち、適宜間隔で並ぶ突起Xを端面に有する凸側板材8と、該突起Xそれぞれを収納する部分として、奥側が広がった台形状の切欠Yを有する凹側板材9とによって形成されるものである。両板材を嵌め込むようにして組合せ建具や家具を作製する。
【0004】
この切欠Bの形状は台形状を成す。凹側板材9のみを示す図10(a)(b)に基づいて述べれば、凹側板材9の端部側開口(該台形の短辺側の底)が、「天秤差し」の場合には同図(a)の如く極端に薄く(短く)、「蟻差し」の場合には同図(b)の如くそれほどでもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして切欠Yの形成は、鋸だけでは不可能若しくは殆ど不可能であり、ノミに頼るものであった。詰まり、例えば図11に示すように切欠部分Zの中の二本の罫91については鋸挽きで間に合うが、奥側に位置する罫92については鋸は採用できない。従って、ノミに持ち替えて作業しなければならなかった。そしてこの作業も、罫91と罫92との成す角度θが鋭角の場合、熟達を要する煩わしいものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者はこの点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、柄と複数枚の刃板とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有する点にある。
【0007】
即ち本発明は、通常であれば一枚の刃板にて構成される鋸において、同形の刃板を複数枚積層しこれを一つの柄で固定したことを最大の特徴とするものである。またこれら全ての刃板は、その一端近傍を軸として可回動であり、且つ、各刃板を僅かずつ回動させた状態で固定できる締め具を有している。
【0008】
ここで刃板の枚数については特に限定するものではないが、本発明者が試作実験した範囲では、厚さ0.5mm程度の刃板であれば10枚前後が好適であった。また、柄側の把持構造に余裕を持たせ、刃枚数を増減しても対応できるようにすれば、より好ましい。
【0009】
これら複数の刃板は、その一端近傍を軸として可回動に柄に取設されている。更に、僅かずつ回動させた状態で、強固にその状態を固定できるように、締め具を具備している。但し、可回動とするための具体的な構造、回動状態を固定するための締め具の具体的な構造、等に関しては特に限定するものではない。なお回動角度に関しては、数値で限定はしないが、厚さ0.5mm程度の刃板を10枚前後積層したものの場合で言うと、5°以下で充分である。即ち、回動させるとは言え扇子を広げるような回動ではない。従って例えば、刃板の自由端側に切り込みを入れ、この切り込みに別部材を嵌め込んでねじるようにしても可能である。
【0010】
こうした構造の本発明木工用鋸を使用する場合には、まず全刃板を僅かずつずらして回動させ、その状態を締め具にて固定する。この時、積層された複数の刃板の稜同士を結ぶ線と刃板との成す角度は、柄側付近では直角に近く、先端に従って小さくなっている。従って、切削する切り欠きの角度(図9における「角度θ」)に相当する部分は、この刃板の開きを5°程度とするだけで、あとは刃板の適当な箇所を選ぶだけで良く、特に精確に測定して固定するといった必要はない。更に、本発明鋸を挽く際、最初から全ての刃が木材に接当しているよりも、挽き始めは1枚だけが木材に接し、挽いてゆくに従って次々と隣の刃が切削に貢献してゆくという形の方が作業性は高い。よって作業は、精確な角度位置に相当する刃位置よりも前方の位置で切削作業を開始し、最後にこの精確な角度位置で終了するという手法を採った方が良い。但し、本発明鋸の使用方法に関しては本発明において限定するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木工用鋸は、以下述べる効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 鋸だけでは切削困難であった例えば「天秤差し」「蟻差し」におけるほぞ孔を、鋸だけで簡単確実に切削できる。
(2) 特別な技能を必要とせず、切削作業が簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明に係る木工用鋸1(以下「本発明鋸1」という)の一例を示すものであり、図より明らかなように本発明鋸1は、柄2と刃板3とをネジで連結して構成されるものであるが、刃板3が多数(図では10枚)束ねられたものであるという点で通常の鋸とは大きく異なるものである。刃板の厚さは約0.5mmであるので、集合体としての刃の厚さは約5mmとなる。
【0014】
図2は、本例で使用している刃板3の形状を示すものである。本例刃板3は、替え刃タイプの構造が採用されたものであって、柄2側に取り付けられた2本のネジA、Bによって該柄2に固定一体化されるように、C字状突出部31と円形孔32とを有している。このC字状突出部31の内面をネジAに渡し掛けるようにし、更に円形孔32にネジBを挿入して固定することになる。刃板3は使用時僅かずつずらすことになるが、ネジBが回動の中心となり、刃板3はネジAから少しずつ離反してゆく形となる。また、本例の刃板3はその刃部分33の前後に直線部分(先側直線部分34と元側直線部分35)とを有しており、先側直線部分34と元側直線部分35とは同一直線上にあり、刃部分33はこの高さよりも僅かな距離dだけ低く形成されている。従って平坦な面にこの刃板3の刃側をあてがっても、その刃部分33は該平坦な面に接することはない。但し、本発明においてこの構造の刃板3の使用は好適であるが不可欠ではなく、通常の刃板を使用しても良い。
【0015】
図3は、図1で示した本発明鋸1の刃板3を広げた状態を示すものである。等角度ずつ広げられていることが判る。広げられたこれら複数の刃板の刃板面と稜線同士を直角に結んだ線との成す角度が、図中三箇所の拡大図からも明らかなように、手元側ではほぼ直角であり、先端側では角度が小さくなっている。
【0016】
図4(a)は、ネジA、Bの形態の一例を示す部分概略底面図である。図示している状態では刃板3は広げられていない。既述したがネジAは、刃板3のC字状突出部31の内面に嵌まり込んだ状態で締め付けられ全ての刃板3を挟持しており、ネジBは刃板3の円形孔32に挿通された状態で同じく締め付けられ全ての刃板3を挟持している。締め付けは本例の場合はネジA、B共、蝶ネジ(ボルトタイプ)を用い、柄2本体に設けたネジ孔に螺合させるようにしているが、ボルトナットの組合せによるもの、締め外しを他の部材(例えばコイン)で行う用にしたもの、等々を採用しても良い。また本例の場合、蝶ネジの翼部分が干渉しないようにこれら2本のボルト互いに逆方向となるように配置しているが、この点についても適宜対応すれば良い。
ところで、ネジA、Bと、C字状突出部31及び円形孔32との組み合わせによって構成されている本例の場合、図4(b)で示すように、ネジBを軸に回動する刃板3の回動域は、ネジAにC字状突出部31の内面が接当することで規制されている。従って刃板3は、全てのネジを緩めても図の鎖線位置を越えて回動することはなく、取扱い容易な構造となっている。
【0017】
図5は、本発明鋸1の使用状態の一例を示すものであり、被加工木材Wの一端部に記された台形状の罫91、92で囲まれた部分を、本発明鋸1によって切削している状態が描かれている。この罫91、92で囲まれた台形は、奥側が広がっている。しかし、刃板3同士が広がっていることで、刃面(切削面)と刃板面が鋭角となっているので、最後まで鋸挽きで切削できる。特に要すれば底面部分をヤスリ掛けしても良いが、本発明者が実験したものでは底面の平滑性は充分確保できており、実際にはヤスリ掛けを必要としないことが多いと思われる。
【0018】
なおここまでは、本発明鋸1の各刃板3を僅かずつ開いた状態で、この状態を保持すべくネジA、Bを強く締め付けた上で、奥側が広がった台形状凹部を切削する手法を説明してきた。しかし使用方法を限定していない本発明においては、他の方法を用いても勿論良いものである。
例えば、治具を用い、且つ一枚刃の鋸を併用することで、相当の初心者でも精度の高い作業が可能となる。図6(a)(b)(c)はそうした治具を使用している状態を示すものであり、被加工木材WをL形に成形されている木材製の溝底治具4で挟持させ、更にバイス5で締め付け保持するという構造である。図では本発明鋸1の刃が溝底治具4の近傍まで進んでいる状態が描出されている。切削作業は基本的に、図の如く手のひらHで刃板3の背側先端付近を押圧しながら行うものである。また、ネジA、Bの締め付け力は本例の場合大きいものではなく、刃板3の刃部分を治具その他に左右方向にずらしながら押し付けると、同図(c)に示すように、刃板3の集合体は自在にずれてゆく。
【0019】
作業順序を図7(a)(b)(c)に基づいて説明する。
まず被加工木材Wに、設計に基づいて罫91、92を予め罫書いておく。そしてこの被加工木材Wを、図6で示した治具に固定する。固定は、溝底治具4の表面高さに罫92を合わせるようにして行うが、図2に示した刃板3を用いた鋸(但し刃板の枚数は1枚である)を用いる場合には、先側直線部分34と元側直線部分35とが溝底治具4表面に接触した段階でも、図2の距離d分だけは切削できないので逆に、溝底治具4表面よりも距離d分だけ高く罫92を配置すれば良い。そして同図(a)に示すように、この1枚刃の鋸(図示せず)によって左右の罫91・91部分を切削する。続いて切削線93・94を切削する。この切削によって、図中斜線部分(イ)(ロ)の木片が切り落とされる。木片(イ)(ロ)の切り落としは本発明鋸1による切削作業を容易にするための作業である。また切削線93・94は適当で良く、予めの罫書きは必要ではないし、精確な直線である必要すらない。
【0020】
こうして木片を切り落とした後に残る、ほぼ三角形状の部分(ハ)の切削に本発明鋸1を使用することになる。切削作業は、図6(b)のように本発明鋸1を構成する刃板集合体をずらし、左右どちらかの罫91(図では左側)に沿って切削を開始し、その後一旦外してから、逆方向に刃板集合体をずらし同様に他方の罫91に沿って切削してゆく。
すると同図(c)のように中央付近に要切削部分(ニ)が残るが、ここも本発明鋸1によって切削してゆく。これらの作業は、実際には殆ど一連で行うことができるし、治具その他の構造から、溝底に関しては切削し過ぎるということがない。従って、木工に関して相当未熟な者であっても比較的容易に作業を進めることができる。
【0021】
最後に図8は、図2の刃構造を持たず刃側全てに刃が刻設された刃板30によって本発明鋸が構成されている場合の例を示すものである。本例では、図6とは異なりバイス等で固定された溝底治具は有しておらず、遊動材41が被加工木材Wの前後に配置される。バイス等に固定される被加工木材Wの罫92と遊動材41の上面高さとを合わしておく。この遊動材41自体は、高さの揃った通常の木材であり、水平面上を自由に滑ることができる。このような治具構造で切削作業を進めてゆくと、図2の刃板3の如く先側直線部分34や元側直線部分35を有していない刃板30の刃部分は、やがて左右いずれかの遊動材41に食い込むことになる。しかし載置面上を自在に滑る遊動材41に食い込んでも切削作業は可能であり、左右の遊動材41共食い込んだ状態では、図2の刃板3の場合とほぼ同様に作業できる。また、刃部分が遊動材41に食い込んでいるとはいえ、鋸を前後動させてもその動きと共動して遊動材41も前後動するため、鋸が遊動材41を切削するということはない。従って食い込んだ状態でも刃板同士をずらしてやることは容易である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る木工用鋸の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る木工用鋸の刃板の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る木工用鋸の刃板を適切に開いた状態の一例を示す平面図である。
【図4】(a)は本発明に係る木工用鋸のネジ付近の構造の一例を明らかにするための、部分概略底面図、(b)は刃板の可動域について説明するための概略平面図である。
【図5】本発明に係る木工用鋸の使用状態の一例を示す概略側面図である。
【図6】(a)(b)(c)は、本発明に係る木工用鋸の使用方法についての他の一例を示すものであり、(a)は概略正面図、(b)(c)は概略側面図である。
【図7】(a)(b)(c)は、図6で示した本発明に係る木工用鋸の使用方法に関して、被加工木材の切削要領を概略的に示す全て側面図である。
【図8】本発明に係る木工用鋸の使用方法についての更に他の一例を示す概略正面図である。
【図9】木材の継ぎ手構造の一例を示す分解斜視図である。
【図10】(a)(b)は、ホゾ穴の例を示すいずれも平面図である。
【図11】ホゾ穴の罫書き線の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 本発明に係る木工用鋸
2 柄
3 刃板
30 刃板
31 C字状突出部
32 円形孔
33 刃部分
4 溝底治具
41 遊動材
5 バイス
8 凸側板材
9 凹側板材
91 罫
92 罫
93 切削線
94 切削線
A ネジ(C字状突出部31対応)
B ネジ(円形孔32対応)
H 手のひら
W 被加工木材
X 突起
Y 切欠
Z 切欠部分
θ 罫91と罫92の成す角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蟻継ぎにおけるある種のホゾ穴に見られる、奥側が広がった台形状の切欠を作製するのに適した木工用鋸の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の継ぎ手構造には多種のものがある。例えば「天秤差し」「蟻差し」と呼ばれる仕口は、いずれも伝統的継ぎ手構造の一つであり、接着や釘留めに比して、緩みというものがないので確実強固であり、また見た目も良い仕上がりを呈するが故に、板材を直角に接合する場合、或いは箱物すみを納める手法としてしばしば採用されている。
【0003】
図9は、そうした構造の一例を示すものである。即ち、適宜間隔で並ぶ突起Xを端面に有する凸側板材8と、該突起Xそれぞれを収納する部分として、奥側が広がった台形状の切欠Yを有する凹側板材9とによって形成されるものである。両板材を嵌め込むようにして組合せ建具や家具を作製する。
【0004】
この切欠Bの形状は台形状を成す。凹側板材9のみを示す図10(a)(b)に基づいて述べれば、凹側板材9の端部側開口(該台形の短辺側の底)が、「天秤差し」の場合には同図(a)の如く極端に薄く(短く)、「蟻差し」の場合には同図(b)の如くそれほどでもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして切欠Yの形成は、鋸だけでは不可能若しくは殆ど不可能であり、ノミに頼るものであった。詰まり、例えば図11に示すように切欠部分Zの中の二本の罫91については鋸挽きで間に合うが、奥側に位置する罫92については鋸は採用できない。従って、ノミに持ち替えて作業しなければならなかった。そしてこの作業も、罫91と罫92との成す角度θが鋭角の場合、熟達を要する煩わしいものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者はこの点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、柄と複数枚の刃板とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有する点にある。
【0007】
即ち本発明は、通常であれば一枚の刃板にて構成される鋸において、同形の刃板を複数枚積層しこれを一つの柄で固定したことを最大の特徴とするものである。またこれら全ての刃板は、その一端近傍を軸として可回動であり、且つ、各刃板を僅かずつ回動させた状態で固定できる締め具を有している。
【0008】
ここで刃板の枚数については特に限定するものではないが、本発明者が試作実験した範囲では、厚さ0.5mm程度の刃板であれば10枚前後が好適であった。また、柄側の把持構造に余裕を持たせ、刃枚数を増減しても対応できるようにすれば、より好ましい。
【0009】
これら複数の刃板は、その一端近傍を軸として可回動に柄に取設されている。更に、僅かずつ回動させた状態で、強固にその状態を固定できるように、締め具を具備している。但し、可回動とするための具体的な構造、回動状態を固定するための締め具の具体的な構造、等に関しては特に限定するものではない。なお回動角度に関しては、数値で限定はしないが、厚さ0.5mm程度の刃板を10枚前後積層したものの場合で言うと、5°以下で充分である。即ち、回動させるとは言え扇子を広げるような回動ではない。従って例えば、刃板の自由端側に切り込みを入れ、この切り込みに別部材を嵌め込んでねじるようにしても可能である。
【0010】
こうした構造の本発明木工用鋸を使用する場合には、まず全刃板を僅かずつずらして回動させ、その状態を締め具にて固定する。この時、積層された複数の刃板の稜同士を結ぶ線と刃板との成す角度は、柄側付近では直角に近く、先端に従って小さくなっている。従って、切削する切り欠きの角度(図9における「角度θ」)に相当する部分は、この刃板の開きを5°程度とするだけで、あとは刃板の適当な箇所を選ぶだけで良く、特に精確に測定して固定するといった必要はない。更に、本発明鋸を挽く際、最初から全ての刃が木材に接当しているよりも、挽き始めは1枚だけが木材に接し、挽いてゆくに従って次々と隣の刃が切削に貢献してゆくという形の方が作業性は高い。よって作業は、精確な角度位置に相当する刃位置よりも前方の位置で切削作業を開始し、最後にこの精確な角度位置で終了するという手法を採った方が良い。但し、本発明鋸の使用方法に関しては本発明において限定するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木工用鋸は、以下述べる効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 鋸だけでは切削困難であった例えば「天秤差し」「蟻差し」におけるほぞ孔を、鋸だけで簡単確実に切削できる。
(2) 特別な技能を必要とせず、切削作業が簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明に係る木工用鋸1(以下「本発明鋸1」という)の一例を示すものであり、図より明らかなように本発明鋸1は、柄2と刃板3とをネジで連結して構成されるものであるが、刃板3が多数(図では10枚)束ねられたものであるという点で通常の鋸とは大きく異なるものである。刃板の厚さは約0.5mmであるので、集合体としての刃の厚さは約5mmとなる。
【0014】
図2は、本例で使用している刃板3の形状を示すものである。本例刃板3は、替え刃タイプの構造が採用されたものであって、柄2側に取り付けられた2本のネジA、Bによって該柄2に固定一体化されるように、C字状突出部31と円形孔32とを有している。このC字状突出部31の内面をネジAに渡し掛けるようにし、更に円形孔32にネジBを挿入して固定することになる。刃板3は使用時僅かずつずらすことになるが、ネジBが回動の中心となり、刃板3はネジAから少しずつ離反してゆく形となる。また、本例の刃板3はその刃部分33の前後に直線部分(先側直線部分34と元側直線部分35)とを有しており、先側直線部分34と元側直線部分35とは同一直線上にあり、刃部分33はこの高さよりも僅かな距離dだけ低く形成されている。従って平坦な面にこの刃板3の刃側をあてがっても、その刃部分33は該平坦な面に接することはない。但し、本発明においてこの構造の刃板3の使用は好適であるが不可欠ではなく、通常の刃板を使用しても良い。
【0015】
図3は、図1で示した本発明鋸1の刃板3を広げた状態を示すものである。等角度ずつ広げられていることが判る。広げられたこれら複数の刃板の刃板面と稜線同士を直角に結んだ線との成す角度が、図中三箇所の拡大図からも明らかなように、手元側ではほぼ直角であり、先端側では角度が小さくなっている。
【0016】
図4(a)は、ネジA、Bの形態の一例を示す部分概略底面図である。図示している状態では刃板3は広げられていない。既述したがネジAは、刃板3のC字状突出部31の内面に嵌まり込んだ状態で締め付けられ全ての刃板3を挟持しており、ネジBは刃板3の円形孔32に挿通された状態で同じく締め付けられ全ての刃板3を挟持している。締め付けは本例の場合はネジA、B共、蝶ネジ(ボルトタイプ)を用い、柄2本体に設けたネジ孔に螺合させるようにしているが、ボルトナットの組合せによるもの、締め外しを他の部材(例えばコイン)で行う用にしたもの、等々を採用しても良い。また本例の場合、蝶ネジの翼部分が干渉しないようにこれら2本のボルト互いに逆方向となるように配置しているが、この点についても適宜対応すれば良い。
ところで、ネジA、Bと、C字状突出部31及び円形孔32との組み合わせによって構成されている本例の場合、図4(b)で示すように、ネジBを軸に回動する刃板3の回動域は、ネジAにC字状突出部31の内面が接当することで規制されている。従って刃板3は、全てのネジを緩めても図の鎖線位置を越えて回動することはなく、取扱い容易な構造となっている。
【0017】
図5は、本発明鋸1の使用状態の一例を示すものであり、被加工木材Wの一端部に記された台形状の罫91、92で囲まれた部分を、本発明鋸1によって切削している状態が描かれている。この罫91、92で囲まれた台形は、奥側が広がっている。しかし、刃板3同士が広がっていることで、刃面(切削面)と刃板面が鋭角となっているので、最後まで鋸挽きで切削できる。特に要すれば底面部分をヤスリ掛けしても良いが、本発明者が実験したものでは底面の平滑性は充分確保できており、実際にはヤスリ掛けを必要としないことが多いと思われる。
【0018】
なおここまでは、本発明鋸1の各刃板3を僅かずつ開いた状態で、この状態を保持すべくネジA、Bを強く締め付けた上で、奥側が広がった台形状凹部を切削する手法を説明してきた。しかし使用方法を限定していない本発明においては、他の方法を用いても勿論良いものである。
例えば、治具を用い、且つ一枚刃の鋸を併用することで、相当の初心者でも精度の高い作業が可能となる。図6(a)(b)(c)はそうした治具を使用している状態を示すものであり、被加工木材WをL形に成形されている木材製の溝底治具4で挟持させ、更にバイス5で締め付け保持するという構造である。図では本発明鋸1の刃が溝底治具4の近傍まで進んでいる状態が描出されている。切削作業は基本的に、図の如く手のひらHで刃板3の背側先端付近を押圧しながら行うものである。また、ネジA、Bの締め付け力は本例の場合大きいものではなく、刃板3の刃部分を治具その他に左右方向にずらしながら押し付けると、同図(c)に示すように、刃板3の集合体は自在にずれてゆく。
【0019】
作業順序を図7(a)(b)(c)に基づいて説明する。
まず被加工木材Wに、設計に基づいて罫91、92を予め罫書いておく。そしてこの被加工木材Wを、図6で示した治具に固定する。固定は、溝底治具4の表面高さに罫92を合わせるようにして行うが、図2に示した刃板3を用いた鋸(但し刃板の枚数は1枚である)を用いる場合には、先側直線部分34と元側直線部分35とが溝底治具4表面に接触した段階でも、図2の距離d分だけは切削できないので逆に、溝底治具4表面よりも距離d分だけ高く罫92を配置すれば良い。そして同図(a)に示すように、この1枚刃の鋸(図示せず)によって左右の罫91・91部分を切削する。続いて切削線93・94を切削する。この切削によって、図中斜線部分(イ)(ロ)の木片が切り落とされる。木片(イ)(ロ)の切り落としは本発明鋸1による切削作業を容易にするための作業である。また切削線93・94は適当で良く、予めの罫書きは必要ではないし、精確な直線である必要すらない。
【0020】
こうして木片を切り落とした後に残る、ほぼ三角形状の部分(ハ)の切削に本発明鋸1を使用することになる。切削作業は、図6(b)のように本発明鋸1を構成する刃板集合体をずらし、左右どちらかの罫91(図では左側)に沿って切削を開始し、その後一旦外してから、逆方向に刃板集合体をずらし同様に他方の罫91に沿って切削してゆく。
すると同図(c)のように中央付近に要切削部分(ニ)が残るが、ここも本発明鋸1によって切削してゆく。これらの作業は、実際には殆ど一連で行うことができるし、治具その他の構造から、溝底に関しては切削し過ぎるということがない。従って、木工に関して相当未熟な者であっても比較的容易に作業を進めることができる。
【0021】
最後に図8は、図2の刃構造を持たず刃側全てに刃が刻設された刃板30によって本発明鋸が構成されている場合の例を示すものである。本例では、図6とは異なりバイス等で固定された溝底治具は有しておらず、遊動材41が被加工木材Wの前後に配置される。バイス等に固定される被加工木材Wの罫92と遊動材41の上面高さとを合わしておく。この遊動材41自体は、高さの揃った通常の木材であり、水平面上を自由に滑ることができる。このような治具構造で切削作業を進めてゆくと、図2の刃板3の如く先側直線部分34や元側直線部分35を有していない刃板30の刃部分は、やがて左右いずれかの遊動材41に食い込むことになる。しかし載置面上を自在に滑る遊動材41に食い込んでも切削作業は可能であり、左右の遊動材41共食い込んだ状態では、図2の刃板3の場合とほぼ同様に作業できる。また、刃部分が遊動材41に食い込んでいるとはいえ、鋸を前後動させてもその動きと共動して遊動材41も前後動するため、鋸が遊動材41を切削するということはない。従って食い込んだ状態でも刃板同士をずらしてやることは容易である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る木工用鋸の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る木工用鋸の刃板の一例を示す平面図である。
【図3】本発明に係る木工用鋸の刃板を適切に開いた状態の一例を示す平面図である。
【図4】(a)は本発明に係る木工用鋸のネジ付近の構造の一例を明らかにするための、部分概略底面図、(b)は刃板の可動域について説明するための概略平面図である。
【図5】本発明に係る木工用鋸の使用状態の一例を示す概略側面図である。
【図6】(a)(b)(c)は、本発明に係る木工用鋸の使用方法についての他の一例を示すものであり、(a)は概略正面図、(b)(c)は概略側面図である。
【図7】(a)(b)(c)は、図6で示した本発明に係る木工用鋸の使用方法に関して、被加工木材の切削要領を概略的に示す全て側面図である。
【図8】本発明に係る木工用鋸の使用方法についての更に他の一例を示す概略正面図である。
【図9】木材の継ぎ手構造の一例を示す分解斜視図である。
【図10】(a)(b)は、ホゾ穴の例を示すいずれも平面図である。
【図11】ホゾ穴の罫書き線の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 本発明に係る木工用鋸
2 柄
3 刃板
30 刃板
31 C字状突出部
32 円形孔
33 刃部分
4 溝底治具
41 遊動材
5 バイス
8 凸側板材
9 凹側板材
91 罫
92 罫
93 切削線
94 切削線
A ネジ(C字状突出部31対応)
B ネジ(円形孔32対応)
H 手のひら
W 被加工木材
X 突起
Y 切欠
Z 切欠部分
θ 罫91と罫92の成す角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄と複数枚の刃板とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有するものであることを特徴とする木工用鋸。
【請求項1】
柄と複数枚の刃板とにより構成される鋸であって、該複数枚の刃板は全て同形であり、また該柄はこれら全ての刃板の一端近傍を可回動に固定しつつ、更に、各刃板を僅かずつ回動させた状態でも固定するための締め具を有するものであることを特徴とする木工用鋸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−93891(P2008−93891A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276368(P2006−276368)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)
【Fターム(参考)】
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