説明

木材の加工方法および圧縮木製品

【課題】木材を用いた製品の一部に光を透過する部分を設ける場合であっても、部品点数および作業工数が少なくて済み、経済的な木材の加工方法および圧縮木製品を提供する。
【解決手段】木材を圧縮して所定の3次元形状に加工するにあたって、圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となる部分が含まれるようにすることで、当該部分が光を透過する性質を具備させる。かかる圧縮は、一対の金型によって行い、圧縮率が他の部分よりも小さい箇所に対しては、少なくとも一方の金型に突起部を設けることによって上述した圧縮率を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を3次元形状に加工する木材の加工方法および木材を圧縮して形成した圧縮木製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことのできる素材として木材が注目されており、その加工技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来、かかる木材の加工技術として、吸水軟化した1枚の木材を圧縮し、その木材を圧縮方向と略平行に切断して板状の一次固定品を得た後、この一次固定品を加熱吸水させながら所定の3次元形状に成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、軟化処理した状態で圧縮した一枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって型成形する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。これらの技術では、木材の個体差や種類、加工後の木材の強度やその用途などを含むさまざまな点を考慮して、木材の肉厚や圧縮率が決められる。
【0004】
【特許文献1】特許第3078462号公報
【特許文献2】特開平11−77619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の如く形成された木材の一部に光を透過させる部分を設ける場合、該当する部分を切削して開口部を形成し、この形成した開口部に光を透過する性質を有する別部材を取り付けるのが一般的である。かかる別部材を取り付ける際には、木材を傷つけたり、接着剤が見えたりして木材を含む製品全体の美観を損なわないように取り付けを行わなければならなかった。このため、部品点数が多い上に作業工数も多く、必ずしも経済的ではなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、木材を用いた製品の一部に光を透過する部分を設ける場合であっても、部品点数および作業工数が少なくて済み、経済的な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、木材を圧縮して所定の3次元形状に加工する木材の加工方法であって、圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上である部分が含まれることを特徴とする。
【0008】
本発明における圧縮率とは、圧縮による木材の肉厚の減少分ΔRとその木材の圧縮前の肉厚Rの比の値ΔR/Rを意味する。ここで、圧縮率の定義域は、0≦(ΔR/R)<1である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.80以上である部分が含まれることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記木材は、一対の金型によって挟持されて圧縮力を受けることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記一対の金型の少なくともいずれか一方は、前記木材を圧縮する際に前記木材に当接する部分に他の部分よりも突起した突起部を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記突起部は、曲面から成る斜面を有することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、木材を圧縮することによって所定の3次元形状に加工された圧縮木製品であって、当該圧縮木製品の少なくとも一部をなす木材に光を透過する部分が含まれることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記光を透過する部分は、当該部分の肉厚方向の圧縮率が0.75以上となるように圧縮することによって形成されたことを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記光を透過する部分は、当該部分の肉厚方向の圧縮率が0.80以上となるように圧縮することによって形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木材を圧縮して所定の3次元形状に加工するにあたって、圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上である部分が含まれるようにすることで、当該部分が光を透過する性質を備えることができる。したがって、木材を用いた製品の一部に光を透過する部分を設ける場合であっても、部品点数および作業工数が少なくて済み、経済的な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、実施の形態と称する)を説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品の一適用例を示す図であり、具体的には、本実施の形態1に係る圧縮木製品から形成されるカバー部材によって外装されたデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ100は、撮像レンズを含む撮像部101、フラッシュ102、およびシャッターボタン103を備え、二つのカバー部材1および2によって外装されて成る。このデジタルカメラ100の内部には、撮像処理等に関する駆動制御を行う制御回路、CCDやCMOS等の固体撮像素子、音声の入出力を行うマイクロフォンやスピーカ、および制御回路の制御のもと各機能部材を駆動する駆動回路を含み、デジタルカメラ100の機能を実現する各種電子的部材および光学的部材(図示せず)が収納される。
【0019】
図2は、デジタルカメラ100の前面側(撮影時の被写体側)を外装するカバー部材1の概略構成を示す斜視図である。また、図3は図2のA−A線断面図である。これらの図に示す圧縮木製品としてのカバー部材1は、略長方形の表面をなす平板状の主板部1aと、主板部1aの長手方向に沿うとともにその主板部1aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部1bと、主板部1aの短手方向に沿うとともにその主板部1aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部1cとを備え、全体として略椀状をなす。
【0020】
主板部1aには、その内側面(図3の上面側の側面)から円錐台状に窪んで成り、その肉厚が主板部1aの他の部分の肉厚よりも小さい薄肉部11、撮像部101を表出する円筒形状の開口部12、およびフラッシュ102を表出する直方体形状の開口部13が形成されている。また、側板部1bには、半円筒形状の切り欠き14が設けられている。このうち、薄肉部11は、木材としての性質が失われる程度にまで圧縮されており、カバー部材1の他の部分とは異なり、光を透過する性質を有している。このため、デジタルカメラ100では、薄肉部11の内側にセルフタイマー用のLED(Light Emitting Diode;図示せず)が配置されており、そのLEDの点滅が薄肉部11を介してデジタルカメラ100の外部に透過されるようになっている。
【0021】
デジタルカメラ100の背面側(撮影時の撮影者側)を外装するカバー部材2は、カバー部材1と略同形をなす。このカバー部材2にも、デジタルカメラ100の内部から必要な部材を表出させるための開口部や切り欠きが適宜形成される。例えば、デジタルカメラ100を組み立てたときにカバー部材1の切り欠き14と対向する位置には、切り欠き14と同じ半円筒形状の切り欠きが設けられており、この切り欠きがカバー部材1の切り欠き14と組み合わさってシャッターボタン103を表出する開口部を形成する。
【0022】
なお、カバー部材1または2には、上述した開口部や切り欠き以外にも、ファインダ取付用の開口部や、操作指示信号の入力を受け付ける入力キー表出用の開口部を設けてもよいし、外部機器との接続用インタフェース(DC入力端子やUSB接続端子等を含む)を表出する開口部または切り欠きを設けてもよい。さらに、カバー部材1または2には、デジタルカメラ100内部のスピーカが発生する音声を出力する音声出力用孔部を設けてもよい。
【0023】
次に、本実施の形態1に係る木材の加工方法を説明する。まず、カバー部材1の原材料となる木材を、原木である無圧縮状態の無垢材から形取る(形取工程)。この際には、形取る木材の容積が、後述する圧縮工程によって減少する分の容積を予め加えた分の容積となるようにする。無垢材としては、檜、檜葉、桐、杉、松、桜、欅、黒檀、竹、チーク、マホガニー、ローズウッドなどの中から、カバー部材1の用途などに応じて最適なものを選択すればよい。
【0024】
また、無垢材から形取る木材として、柾目材、板目材、追柾材、木口材などの中から圧縮木製品の用途に応じて最適なものを選択して用いることが可能である。この点に鑑みて、添付図面で木材を記載する際には、木目を省略して記載している。
【0025】
続いて、形取った木材を圧縮する(圧縮工程)。この圧縮工程に際し、その木材を高温高圧の水蒸気雰囲気中に所定時間放置することによって水分を過剰に吸収させて軟化させる。ここでいう高温高圧とは、温度が100〜230℃、より好ましくは180〜200℃程度であり、圧力が0.1〜3MPa(メガパスカル)、より好ましくは0.45〜2.5MPa程度の状態を指す。なお、上述した水蒸気雰囲気中で木材を放置する代わりに、例えば木材をマイクロウェーブの如き高周波の電磁波によって加熱してもよい。
【0026】
この後、軟化させたときと同様の水蒸気雰囲気中で木材を一対の金型によって挟持し、所定の圧縮力を加える。図4は、この圧縮工程の概要を示す図である。同図において、木材41の上方から圧縮力を加える金型51は、木材41の主板部41aから側板部41bおよび41cに向かってそれぞれ湾曲する内側面に嵌合する形状をなす凸部52を有する。この凸部52の底面には、図5の斜視図に示すように、円錐台状の突起部53が突起している。なお、図5は、図4に示す金型51の左右方向(y軸方向)を回転軸として180度回転し、図の上下を逆転させたものであり、図5のB−B線(突起部53をx軸方向と平行に通過)は図4のB−B線と同じである。
【0027】
図6は、図4のB−B線断面図である。この図6に示すように、木材41の内側面のうち主板部41aから側板部41cに湾曲する曲面41ac内側面の曲率半径をRIとし、凸部52のうち曲面41acに当接する曲面の曲率半径をRAとすると、この二つの曲率半径の間には、RI>RAという関係がある。
【0028】
これに対し、図4や図6において木材41の下方から圧縮力を加える金型61は、木材41の主板部41aから側板部41bおよび41cに立ち上がって湾曲する外側面を嵌入する凹部62を有する。木材41の外側面のうち曲面41ac外側面の曲率半径をROとし、凹部62のうち曲面41acの外側面に当接する曲面の曲率半径をRBとすると、この二つの曲率半径の間には、RO>RBという関係がある。
【0029】
なお、主板部41a、側板部41b、突起部53を通過し、かつ図4のB−B線断面と直交する断面であって、図4の+x方向側から−x方向側を見た断面における金型51および61の形状やそれらの金型の木材41との位置関係は、寸法の違いを除けば図6とほぼ同様である。また、主板部41aから側板部41bに立ち上がって湾曲する曲面の内側面の曲率半径は、この内側面に当接する金型51の曲面の曲率半径よりも大きく、主板部41aから側板部41bに立ち上がって湾曲する曲面の外側面の曲率半径は、この外側面に当接する金型61の曲面の曲率半径よりも大きい。
【0030】
図7は、金型51および61によって木材41を挟持、圧縮している状態(木材41の変形がほぼ完了した状態)を示す図であり、図6と同じ切断面を有する縦断面図である。図7に示すように、木材41は圧縮されることによって金型51と金型61との隙間に相当する3次元形状に変形する。この際、主板部41aのうち突起部53が当接している部分は、他の部分よりも高い圧縮率で圧縮される。本実施の形態1では、この突起部53によって圧縮される部分の圧縮率(圧縮による肉厚の減少分ΔRと圧縮前の肉厚Rとの比の値ΔR/R)は0.75以上、より好ましくは0.80以上である。この結果、当該部分の圧縮後の比重は1.4程度となり、一般的な木材細胞壁実質部の比重である1.5に近い値をとるようになる。なお、圧縮率の定義域は、0≦(ΔR/R)<1である。
【0031】
木材は、上述したような高温高圧の水蒸気雰囲気中において比重が1.5に近くなるまで圧縮されると、変質を起こして木材としての性質が消失し、例えば木目などが消滅して流動化現象を生じることが知られている(例えば、北澤、北村、渋谷、小島著、「圧密限界近くまで圧密されたスギ圧縮木材の永久固定現象」、日本木材加工技術協会第21回年次大会要旨集(2003)を参照)。このように変質を生じた木材は実質的に樹脂となり、圧縮によってべっ甲の如き色合いを有しつつも、光を透過する性質を有するようになる。したがって、従来のように透明性を有する別部材を用いることなく、一体の木材の中で光を透過可能な部分を形成することができる。
【0032】
図7に示す状態で所定時間放置した後、金型51と金型61を離間させて圧縮を解除し、上記水蒸気雰囲気を解いて木材41を乾燥させることにより、カバー部材1の原型が完成する。この圧縮工程の結果、主板部1aの肉厚r1は、薄肉部11を除いてほぼ均一となる。薄肉部11を除く主板部41aの肉厚方向の圧縮率C1=(R−r1)/Rは、0.40〜0.70程度、より好ましくは0.50〜0.70程度である。
【0033】
ここで、具体的な数値例を挙げる。圧縮前の主板部41aの肉厚Rを3.2mmとし、圧縮後の主板部1aの肉厚r1を1.6mmとすると、薄肉部11を除いた主板部の圧縮率C1の値は0.50となる。これに対して、薄肉部11の肉厚r2を0.80mmとすると、薄肉部11の圧縮率C2=(R−r2)/Rは0.75となる。なお、強度的に問題がない範囲でさらに圧縮することが可能な場合には、薄肉部11の肉厚を0.40〜0.50mm程度まで小さくすることもでき、薄肉部11における光の透過性を一段と向上させることができる。また、光の透過性を向上させるという意味では、薄肉部となる部分の肉厚を予め他の主板部の肉厚よりも小さく形取っておき、この部分に対して圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮してもよい。
【0034】
以上説明した圧縮工程において金型51を金型61に対して相対的に上下動させる際には、しかるべき駆動手段を用いて金型51および61の少なくともいずれか一方を電気的に駆動させるようにしてもよいし、金型51と金型61とをねじで連結し、このねじを手動または自動で締めることによって金型51を金型61に対して上下動させるようにしてもよい。
【0035】
本実施の形態1に係る圧縮木製品は、デジタルカメラ以外の電子機器、例えば、携帯電話、PHSまたはPDA等の携帯型通信端末、携帯型オーディオ装置、ICレコーダ、携帯型テレビ、携帯型ラジオ、各種家電製品のリモコン、デジタルビデオなどの外装材としても適用可能である。このような小型の携帯用電子機器の外装材として圧縮木製品を適用する場合、例えば圧縮後の肉厚を1.6mm程度とすればよい。また、これらの電子機器の発光部材を薄肉部の内側に配設することで、光を透過する別部材を用いることなく、発光部材によって発せられた光を外部に透過させることができる。
【0036】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、木材を圧縮して所定の3次元形状に加工するにあたって、圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上である部分が含まれるようにすることで、当該部分すなわち薄肉部が光を透過する性質を備えることができる。したがって、木材を用いた製品の一部に光を透過する部分を設ける場合であっても、部品点数および作業工数が少なくて済み、経済的な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態1によれば、光を透過する部分が他の部分と混在した状態で同じ素材から一体的に形成されるため、例えば電子機器の外装材として適用する場合には、別部材を用いる場合と比較して内部の密閉性を高めることができ、部材の間から毛細管現象によって電子機器の内部に水分が侵入するのを防ぐことができる。
【0038】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法に適用される金型の構成を示す底面図である。また、図9は図8のC−C線断面図であり、図8と同じ座標系におけるz軸の正の向きが鉛直上方を指向するようにして見たときの縦断面図である。本実施の形態2においては、無圧縮状態の無垢材から形取った木材は、上記実施の形態1と同じく木材41であるとする。また、圧縮によって形成される圧縮木製品は、カバー部材1と略同形をなしてデジタルカメラを外装するものとする。
【0039】
図8および図9に示す金型71は、上記実施の形態1で用いた金型51と同様に、木材41の主板部41aから側板部41bおよび41cに向かってそれぞれ湾曲する内側面に嵌合する形状をなす凸部72を有する。この凸部72の底面には、二つの突起部73が突起している。突起部73は、星型をなす底面部73aと、この底面部73aと相似であって底面部73aよりも面積が大きい星型をなし、突起部73と凸部72の底面との境界をなす外縁部73bと、底面部73aと外縁部73bとの間に介在してなだらかな曲線をなす斜面73cと、を備える。
【0040】
図10は、金型71と金型61とを用いて圧縮成形された圧縮木製品としてのカバー部材の構成を示す斜視図である。また、図11は図10のD−D線断面図である。これらの図に示すカバー部材3は、カバー部材1と同様、略長方形の表面をなす平板状の主板部3aと、主板部3aの長手方向に沿うとともにその主板部3aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部3bと、主板部3aの短手方向に沿うとともにその主板部3aに対して所定の角度をなして延出する二つの側板部3cとを備え、全体として略椀状をなす。
【0041】
主板部3aには、他の箇所よりも肉厚が小さく表面が星型形状をなす二つの薄肉部31と、これら二つの薄肉部31の中間に位置し、撮像部101を表出する円筒形状の開口部32と、フラッシュ102を表出する直方体形状の開口部33とが設けられている。また、側板部3bには、半円筒形状の切り欠き34が設けられている。
【0042】
薄肉部31は、金型71の突起部73が当接し、金型61の凹部62との間で圧縮されることによって形成され、上記実施の形態1で説明した薄肉部11と同様に、光を透過する性質を有している。本実施の形態2では、金型71に形成された突起部73の斜面73cがなだらかな曲面をなすため、薄肉部31で最も薄肉である底面部31aから外縁部31bに達するまでの斜面31cの肉厚が徐々に厚くなっている。したがって、底面部31aから斜面31cを介して外縁部31bに到達する部分の木材の圧縮率は、底面部31aが最も大きく、外縁部31bに近づくにつれて徐々に小さくなる。具体的には、底面部31aの圧縮率は0.75以上、より好ましくは0.80以上であり、外縁部31bの圧縮率は、他の主板部41aの圧縮率と同じで0.40〜0.70程度、より好ましくは0.50〜0.70程度である。
【0043】
以上の構成を有する薄肉部31に光を透過させると、底面部31aから外縁部31bまで徐々に色合いが変化していき、例えば底面部31aの肉厚が最も薄いために光を最も透過し、外縁部31bに近づくにしたがって徐々に透過率が減少していき、暗くなっていく。このような光の透過率の変化と、圧縮によって濃色化されたべっ甲の如き色合いの肉厚に応じた変化とが相俟って、薄肉部31の星型模様に微妙なグラデーションを生じさせることができる。このグラデーションに関しては、圧縮する際の水蒸気雰囲気の温度と圧力の値を調整することにより、多様なグラデーションを実現することができ、個々の圧縮木製品に対して一段と個性的な味わいを付与することができる。
【0044】
ところで、本実施の形態2は、圧縮によって樹脂状態に変質した部分と木質状態にある部分とが一つの製品の中で連続的に存在するような加工を行い、その製品の意匠性を向上させることを主眼としている。このため、樹脂状態に変質した部分が、上記実施の形態1で樹脂状態に変質した部分と同程度の光の透過性を有する必要はない。この意味で、例えばカバー部材3の底面部31aの肉厚は、カバー部材1の薄肉部11の肉厚ほど小さくなくてもよい。
【0045】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様に、木材を用いた製品の一部に光を透過する部分を設ける場合であっても、部品点数および作業工数が少なくて済み、経済的な木材の加工方法および圧縮木製品を提供することが可能となる。
【0046】
また、本実施の形態2によれば、金型の突起部がなだらかな曲線から成る斜面形状を有するようにすることで、圧縮された木材の薄肉部に明暗のグラデーションをつけることができ、圧縮木製品の意匠性を高めることができる。この意味で、本実施の形態2に係る木材の加工方法は、電子機器外装材以外の圧縮木製品、例えば、めがねケースやコンパクト等の筐体やアクセサリー類などを加工する場合にも好適である。
【0047】
なお、金型に形成する突起部の形状や個数は、加工後の圧縮木製品の形状、用途、使用する木材の種類等の各種条件に応じて最適な形状や個数がそれぞれ設定されることは勿論である。
【0048】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品である花瓶の構成を示す図である。同図に示す花瓶21は圧縮木材から成り、その側面には、図12で鉛直上下方向に沿って光を透過する性質を有する薄肉部211が形成されている。この薄肉部211は、肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように木材を圧縮することによって形成されたものである。
【0049】
本実施の形態3においては、上述した構成を有する薄肉部211を備えたことにより、花瓶21内部の水の量を外部から目視することが可能となる。また、本実施の形態3において、薄肉部211が花瓶21の本体部分と一体的に形成されるため、透明な別部材を接着したときのような接合部分が存在しないので、内部の密閉性を高めることができ、花瓶21内部の水が外部に漏れ出すのを防ぐことができる。
【0050】
なお、図12では、薄肉部211が側面形状と同様に下方に行くにしたがって幅が狭くなるテーパ形状をなしているが、これはあくまでも一例に過ぎない。すなわち、薄肉部は花瓶が保持する水の量を目視することができればよく、その形状は任意である。
【0051】
図13は、本実施の形態3の一変形例に係る圧縮木製品であるじょうろの構成を示す図である。同図に示すじょうろ22は、圧縮木材から成る本体部221、取っ手222、持ち手223、および注ぎ口224を備える。本体部221には、略葉型をなして光を透過する性質を有する薄肉部225が、花瓶21の薄肉部211と同様に形成されており、この薄肉部225を介して本体部221が収容している水の量を外部から目視することができる。なお、取っ手222、持ち手223、および注ぎ口224は木材以外の材料(金属または合成樹脂等)を用いて形成してもよい。
【0052】
本実施の形態3の他の変形例に係る圧縮木製品として、ポット本体部を外装する外装体であって、ポット装着時にそのポットの内部に収容されている水量を示す水量計の外周部分を薄肉部として形成した外装体を形成することもできる(図示せず)。このとき、ポット本体部全体が透明な材料から構成されていてもよいし、水量計のみが透明な材料から形成されていてもよい。いずれの場合にも、薄肉部を介してポット内部の水量を目視することが可能となる。
【0053】
ところで、本実施の形態3に係る圧縮木製品は、上記実施の形態1および2と同様、高温高圧の水蒸気雰囲気中で加工後の最終形状に応じた金型を用いることによって圧縮成形することができる。この点については、後述する実施の形態4〜8についても同じことがいえる。
【0054】
(実施の形態4)
図14は、本発明の実施の形態4に係る圧縮木製品である調味料入れの構成を示す図である。同図に示す調味料入れ23は、塩やコショウなどの粉状の調味料を入れるものであり、一端が開口端をなす筐体状の圧縮木材から成る本体部231と、本体部231の開口端に装着され、複数の孔部を有する頭部232とを備える。頭部232は、金属または合成樹脂を用いて形成される。
【0055】
本体部231の側面には、図14で鉛直方向上下に沿って光を透過する性質を有する薄肉部233が形成されている。この薄肉部233は、肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように木材を圧縮することによって形成されたものであり、かかる薄肉部233を介して、本体部231で収容する調味料の残量を外部から目視することができる。
【0056】
なお、頭部232の代わりに液体の注ぎ口を有する頭部を本体部231に装着することにより、しょうゆや酢などの液状の調味料を入れる調味料入れを構成することも可能である。
【0057】
また、薄肉部233を鉛直方向上下に沿って形成する代わりに本体部231の略全周に沿って水平方向に形成すれば、楊枝入れとすることもできる。この場合には、頭部232の孔部の径を楊枝の径よりも若干大きく形成すればよい。
【0058】
(実施の形態5)
図15は、本発明の実施の形態5に係る圧縮木製品であるテーブルランプの構成を示す図である。同図に示すテーブルランプ24は、上端に電球を保持する電球カバー(図示せず)を有する支持台241と、圧縮木材から成り、支持台241の上方から支持台241に装着される傘型のランプシエード242とを備える。支持台241は、木材を加工して形成してもよいし、金属や合成樹脂等を用いて形成してもよい。なお、図15では、電球および電球に対して電源を供給する電源コードの記載を省略している。
【0059】
ランプシエード242は、肉厚が略均一となるように原木から形取った木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮成形され、支持台241に取り付けられた電球が発する光を透過する。例えば、ランプシエード242を構成する木材の肉厚方向の圧縮率が、図15で上方から下方に行くにしたがって徐々に大きくなるように金型を構成しておけば、図15で上方から下方に行くにしたがって徐々に明るくなるように光を照射させることができる。このように木材を圧縮成形してランプシエード242を形成する際の圧縮率を場所ごとに変化させることにより、外部に照射する電球の光に明暗のグラデーションをつけることが可能となる。なお、圧縮率を図15で上方から下方に行くにしたがって圧縮率を徐々に小さくするように金型を構成してもよい。
【0060】
ランプシエード242を形成する際には、上記の如く均一の肉厚を有する木材の形取りを行う代わりに、原木から木材を形取る段階で木材の肉厚が徐々に変化するように形取りを行い、圧縮後の肉厚が略均一となるようにしてもよい。また、ランプシエード242として適用する木材の種類によっては、全ての部分の圧縮率が0.75以上であると強度的に問題が生じる恐れもあるので、このような場合には、一部の圧縮率が0.75より小さくなるようにして加工後のランプシエード242の強度を保つようにしてもよい。
【0061】
(実施の形態6)
図16は、本発明の実施の形態6に係る圧縮木製品であるガーデンランプの構成を示す図である。同図に示すガーデンランプ25は家の外観形状をなし、電球が収容可能な筐体状の圧縮木材から成る本体部251と、本体部251の上方に装着される屋根部252と、本体部251の側面に設けられた窓状の薄肉部253とを備える。なお、図16では、電球および電球に対して電源を供給する電源コードの記載を省略している。
【0062】
薄肉部253は、肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮することによって形成されたものであり、光を透過する性質を有している。したがって、この薄肉部253を介して、本体部251の内部に設置された電球の光が外部に透過して周囲を照射する。なお、屋根部252は木材から構成してもよいし、金属や合成樹脂等を用いて構成してもよい。
【0063】
本実施の形態6によれば、夜間に庭園の植物を適度に照らし出す照明としての機能を果たすことができる。また、薄肉部253が本体部251と一体的に成形されているため、庭園の植物に水を散布する場合にも、本体部251の内部に水分が侵入するのを防止することができる。
【0064】
図17は、本実施の形態6の第1変形例に係る圧縮木製品である常夜灯の構成を示す図である。同図に示す常夜灯26は圧縮木材から成り、上述した薄肉部253と同様に形成された薄肉部261を介すことにより、常夜灯26内部に収容された電球によって発せられた光を外部に透過する。常夜灯26の電源はコンセントによって供給してもよいし、バッテリや電池によって供給してもよい(いずれも図示せず)。
【0065】
図18は、本実施の形態6の第2変形例に係る圧縮木製品であるアロマポットの構成を示す図である。同図に示すアロマポット27は、圧縮木材から成る本体部271と、陶器等から成る受け皿部272とを備える。本体部271は中空状をなし、その中空状の内部にろうそくを配置し、この配置したろうそくを灯すことによって受け皿部272に注がれた精油(エッセンシャルオイル)を温める。この際、ろうそくの光が薄肉部273を介して外部に透過するため、温められた精油が発する匂いと薄肉部273から透過してくる光との相乗効果によってより一層のリラクゼーション効果を得ることができる。
【0066】
(実施の形態7)
図19は、本発明の実施の形態7に係る圧縮木製品であるテーブルの構成を示す図である。同図に示すテーブル28は、圧縮木材から成る天板281と、天板281を載置する載置台282と、載置台282を支持する脚283とを備える。天板281の一部(本実施の形態7では中央部)には薄肉部284が形成されている。薄肉部284は、肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮することによって形成されたものであり、光を透過する性質を有している。したがって、載置台282の中央部付近、すなわち天板281を取り付けたときに薄肉部284の下方に位置する部分に電球等を埋め込むことができる構成とすれば、その埋め込んだ電球をテーブル28の照明として機能させることが可能となる。
【0067】
以上の構成を有するテーブル28においては、薄肉部284が天板281と一体的に成形されているため、天板281上で水分等をこぼしても薄肉部284の下方に達することがない。このため、そのこぼれた水分等を天板281の上で拭き取るだけで済み、メインテナンスが容易であるとともに、衛生的である。
【0068】
なお、天板の形取りを行う際、肉厚を不均一に形取り、圧縮前の肉厚が最も大きい部分の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮成形してもよい。これにより、圧縮後の天板に対して光を透過する部分と透過しない部分とが混在したマーブル状の模様を形成することができ、載置台282に設けられた電球等によって天板上に明暗のグラデーションをつけることが可能となる。
【0069】
(実施の形態8)
図20は、本発明の実施の形態8に係る圧縮木製品であるドアノブの構成を示す図である。同図に示すドアノブ29は、一端が開口端である中空円筒形状の圧縮木材から成り、閉端をなす円形の底面に薄肉部291が形成されている。薄肉部291は、肉厚方向の圧縮率が0.75以上、より好ましくは0.80以上となるように圧縮することによって形成されたものであり、光を透過する性質を有している。この薄肉部291の内部にLED等の電球を収容して点灯することにより、夜間等で周囲が暗くてもドアノブ29の位置を周囲に明示することができる。
【0070】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を実施の形態1〜8として詳述してきたが、本発明はそれら8つの実施の形態によってのみ限定されるべきではない。すなわち、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品を外装材として適用したデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る圧縮木製品(デジタルカメラの前面側を外装するカバー部材)の構成を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の圧縮工程の概要を示す説明図である。
【図5】木材の上方から圧縮力を加える金型の構成を示す斜視図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【図7】圧縮工程における木材圧縮時の状態(木材の変形がほぼ完了した状態)を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品を形成する際に適用される金型の構成を示す図である。
【図9】図8のC−C線断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る圧縮木製品(カバー部材)の構成を示す斜視図である。
【図11】図10のD−D線断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る圧縮木製品(花瓶)の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態3の一変形例に係る圧縮木製品(じょうろ)の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態4に係る圧縮木製品(調味料入れ)の構成を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態5に係る圧縮木製品(テーブルランプ)の構成を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態6に係る圧縮木製品(ガーデンランプ)の構成を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態6の第1変形例に係る圧縮木製品(常夜灯)の構成を示す図である。
【図18】本発明の実施の形態6の第2変形例に係る圧縮木製品(アロマポット)の構成を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態7に係る圧縮木製品(テーブル)の構成を示す図である。
【図20】本発明の実施の形態8に係る圧縮木製品(ドアノブ)の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1、2、3 カバー部材(圧縮木製品)
1a、3a、41a 主板部
1b、1c、3b、3c、41b、41c 側板部
11、31、211、225、233、253、261、273、284、291 薄肉部
12、13、32、33 開口部
14、34 切り欠き
21 花瓶(圧縮木製品)
22 じょうろ(圧縮木製品)
23 調味料入れ(圧縮木製品)
24 テーブルランプ(圧縮木製品)
25 ガーデンランプ(圧縮木製品)
26 常夜灯(圧縮木製品)
27 アロマポット(圧縮木製品)
28 テーブル(圧縮木製品)
29 ドアノブ(圧縮木製品)
31a、73a 底面部
31b、73b 外縁部
31c、73c 斜面
41 木材
41ac 曲面
51、61、71 金型
52、72 凸部
53、73 突起部
62 凹部
100 デジタルカメラ
101 撮像部
102 フラッシュ
103 シャッターボタン
221、231、251、271 本体部
222 取っ手
223 持ち手
224 注ぎ口
232 頭部
241 支持台
242 ランプシエード
252 屋根部
272 受け皿部
281 天板
282 載置台
283 脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を圧縮して所定の3次元形状に加工する木材の加工方法であって、
圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.75以上である部分が含まれることを特徴とする木材の加工方法。
【請求項2】
圧縮による前記木材の肉厚方向の圧縮率が0.80以上である部分が含まれることを特徴とする請求項1記載の木材の加工方法。
【請求項3】
前記木材は、一対の金型によって挟持されて圧縮力を受けることを特徴とする請求項1または2記載の木材の加工方法。
【請求項4】
前記一対の金型の少なくともいずれか一方は、前記木材を圧縮する際に前記木材に当接する部分に他の部分よりも突起した突起部を備えたことを特徴とする請求項3記載の木材の加工方法。
【請求項5】
前記突起部は、曲面から成る斜面を有することを特徴とする請求項4記載の木材の加工方法。
【請求項6】
木材を圧縮することによって所定の3次元形状に加工された圧縮木製品であって、
当該圧縮木製品の少なくとも一部をなす木材に光を透過する部分が含まれることを特徴とする圧縮木製品。
【請求項7】
前記光を透過する部分は、当該部分の肉厚方向の圧縮率が0.75以上となるように圧縮することによって形成されたことを特徴とする請求項6記載の圧縮木製品。
【請求項8】
前記光を透過する部分は、当該部分の肉厚方向の圧縮率が0.80以上となるように圧縮することによって形成されたことを特徴とする請求項7記載の圧縮木製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2007−69592(P2007−69592A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10228(P2006−10228)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】