説明

木材の加工方法

【課題】多様な木目模様を実現しつつも、成形が容易な木材の加工方法を提供する。
【解決手段】高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程(ステップS1)と、この曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程(ステップS2)と、この形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程(ステップS4)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を圧縮することによって所定の形状に加工する木材の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然素材である木材が注目されている。木材はさまざまな木目を有するため、原木から形取る箇所に応じて個体差が生じ、その個体差が製品ごとの個性となる。また、長期の使用によって生じる傷や色合いの変化自体も、独特の風合いとなって使用者に親しみを生じさせることがある。これらの理由により、合成樹脂や軽金属を用いた製品にはない、個性的で味わい深い製品を生み出すことのできる素材として木材が注目されており、その加工技術も飛躍的に進歩しつつある。
【0003】
従来、かかる木材の加工技術として、吸水軟化した1枚の木材を圧縮し、その木材を圧縮方向と略平行にスライスして板状の一次固定品を得た後、この一次固定品を加熱吸水させながら所定の3次元形状に成形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、軟化処理した状態で圧縮した1枚の木材を仮固定し、この木材を型に入れて回復させることによって型成形する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。これらの技術では、木材の個体差や種類、加工後の木材の強度やその用途などを含むさまざまな点を考慮して、木材の肉厚や圧縮率が決められる。
【0004】
【特許文献1】特許第3078452号公報
【特許文献2】特開平11−77619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、同じ形状を有していても多様な木目模様を実現し、製品ごとの個体差を出すためには、例えば湾曲した表面を有するような形取りを行う必要も生じる。しかしながら、そのような形取りを行うと、圧縮によって変形する度合いが大きくなり、成形が困難になってしまうことが多かった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、多様な木目模様を実現しつつも、成形が容易な木材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、木材を圧縮することによって所定の形状に加工する木材の加工方法であって、高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程と、前記曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程と、前記形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、上記発明において、前記原材は平板状をなし、前記曲げ工程は、前記原材のいずれかの表面に沿って曲げを加えるとしてもよい。
【0009】
また、上記発明において、前記原材は丸太であり、前記曲げ工程は、長手方向が交差し、かつ径方向に積層された複数の原材に対して一括して曲げを加えるとしてもよい。
【0010】
また、上記発明において、前記圧縮工程は、前記ブランク材を挟持可能な複数の金型によって前記ブランク材に対して圧縮力を加えるとしてもよい。
【0011】
また、上記発明において、前記圧縮工程は、前記ブランク材を、曲面を含む3次元的な形状に成形するとしてもよい。
【0012】
また、上記発明において、前記形取工程は、前記ブランク材の少なくとも一つの表面が、前記原材で曲げが加えられた部分の複数の木目と交差するように形取るとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程と、前記曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程と、前記形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程と、を有することにより、多様な木目模様を実現しつつも、成形が容易な木材の加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面はあくまでも模式的なものであって、同じ物体を異なる図面で示す場合には、寸法や縮尺等が異なる場合もある。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の概要を示すフローチャートである。本実施の形態1では、まず、加工対象である木材の原材1に曲げを加える(ステップS1)。図2は、本実施の形態1で使用する原材の構成を示す斜視図である。また、図3は、図2の矢視A方向の側面図である。図2および図3に示す原材1は、平板状をなす板目材である。この原材1は、例えば無圧縮状態の無垢材から削り出され、長手方向と略平行な繊維方向Lを有する。原材1の表面の木目Gは概ね長手方向に沿っている。また、原材1の繊維方向Lと略直交する側面(図2の左下方の側面)の木目Gは年輪状をなしている。なお、原材1を削り出す無垢材は、ヒノキ、ヒバ、桐、杉、松、桜、欅、黒檀、紫檀、竹、チーク、マホガニー、ローズウッドなどの中から木材の用途等に応じて最適なものを選択すればよい。
【0016】
図4は、原材1に対する曲げの加え方を模式的に示す図であり、図3と同じ方向(図2の矢視A方向)から見た図である。図4に示す場合、原材1の長手方向の中心を通り、原材1の短手方向に平行な直線を折り目とし、原材1の長手方向の両端部をその長手方向の中心部に対して曲げている。したがって、原材1は、図2の矢視A方向から見て「への字」型に変形する。これに伴って、木目Gも図4の中心付近で「への字」型に折れ曲がる。このようにして原材1に対して曲げを加える際には、例えば梃子などの治具を用いることによって、折り目としたい部分を支点として、両端部を図4に示す矢印方向に曲げればよい。なお、曲げを加える際の折り目の位置は、原材1の木目Gの走り方や原材1から形取る木目模様などに応じて決めればよい。また、図4とは逆の方向に曲げて「逆への字」型としてもよい。
【0017】
より一般に、本実施の形態1においては、平板状をなす原材1の表面に沿って曲げを加えることができる。例えば、原材1の長手方向にそれぞれ正および負の曲率を有する上型および下型を用意し、これらの間で原材1を一定時間挟持することにより、上型および下型の各曲率に倣った形状に原材1を曲げることもできる。この場合、曲げの程度は図4に示す場合より小さくなるが、ブランク材を原材1から形取るとき、その形取位置によらず曲げによって変化した木目を得ることができるという利点がある。
【0018】
以上述べた原材1の曲げの加え方に共通するのは、曲げ工程の前後で原材1の体積がほとんど変化しない点である。この意味において、本実施の形態1における曲げ工程は、圧縮作用を実質上有しない変形工程ということもできる。
【0019】
ところで、ステップS1において、原材1は、上記の如く曲げ応力が作用しても割れ等を生じない程度に軟化していなければならない。そのため、このステップS1では、原材1が高温かつ湿潤状態に置かれた状態で行われる。ここでいう高温かつ湿潤状態は、例えば温度が60〜160℃、湿度が60〜100%の雰囲気である。本実施の形態においては、曲げ工程を行うに先立って、前述した雰囲気に原材1を20〜120分放置することにより、原材1を軟化させておく。なお、雰囲気の温湿度や放置時間は、原材1の種類、大きさ、形状、曲げを加える方向などを考慮して定めればよい。
【0020】
原材1を上記同様の高温かつ湿潤状態とする方法としては、他にも、原材1を煮沸する方法、水分を含んだ原材1にマイクロウェーブを照射する方法等、周知の方法を採用することができる。
【0021】
次に、ステップS1で曲げ加工を行った原材1から所定の形状をなすブランク材を切削等によって形取る(ステップS2)。図5は、このステップS2の形取工程の概要を模式的に示す図である。図5では、原材1から皿状をなすブランク材2を切削等によって形取る場合を模式的に示している。この形取りを行う際には、原材1の曲げが加わった箇所の一部を含むようにブランク材2を形取る。より具体的には、ブランク材2の表面が、原材1の木目Gの曲率よりも概ね大きい曲率で湾曲し、原材1の複数の木目と交差する皿状をなすように形取る。この意味で、図5において原材1の側面の内部に記載されている円弧形状(斜線部)は、同図右下部のブランク材2のD−D線断面に相当している。このステップS2で形取られたブランク材2の容積は、後述するステップS4の圧縮工程で減少する分の容積を予め加えた容積を有する。ここでいう「皿状」とは、椀状、シェル状、箱状、船形状等の曲面を含む3次元的な形状一般を意味するものであり、図5に示す形状はあくまでも一例に過ぎない。なお、形取工程では、平板状をなすブランク材を原材1から形取ってもよい。
【0022】
続いて、ブランク材2を、大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で所定時間放置し、水分を過剰に吸収させることによって十分に軟化させる(ステップS3)。ここでいう高温高圧とは、温度が100〜230℃、より好ましくは180〜230℃、さらに好ましくは180〜200℃程度であり、圧力が0.1〜3.0MPa(メガパスカル)、より好ましくは0.45〜2.5MPa、さらに好ましくは1.0〜1.6MPa程度の状態を指す。なお、このステップS3では、上述した水蒸気雰囲気中でブランク材2を放置して軟化させる代わりに、例えばマイクロウェーブの如き高周波の電磁波によってブランク材2を加熱して軟化させてもよい。
【0023】
この後、ステップS3で十分に軟化したブランク材2を圧縮する(ステップS4)。図6は、圧縮工程の概要を示す図であり、ブランク材2については図5と上下を逆転して記載している。また、図7は、金型51がブランク材2に当接し、ブランク材2に金型51および61からの圧縮力が加わり始めた状態を示す図であり、図6に示すブランク材2、ならびに金型51および61のE−E線断面に相当する縦断面を示す図である。これらの図でブランク材2の上方から圧縮力を加える金型51は、ブランク材2の窪み部分に相当する曲面(内側面)に当接可能な凸部52を備えたコア金型である。これに対し、図6および図7においてブランク材2の下方から圧縮力を加える金型61は、ブランク材2の突出部分に相当する曲面(外側面)に当接可能な凹部62を備えたキャビティ金型である。
【0024】
このステップS4では、軟化工程と同じ水蒸気雰囲気中で金型51および61の少なくとも一方を他方に対して移動することによってブランク材2を挟持して圧縮力を加えることにより、ブランク材2を所定の3次元形状に成形する。本実施の形態1では、金型51を下降させて金型61へ近づけていく場合を説明する。
【0025】
図7に示す状態から金型51を下降させていくと、ブランク材2は金型51および61からの圧縮力によって徐々に変形していく。その結果、ブランク材2の上面は金型51の凸部52の表面と密着した状態になる一方、ブランク材2の下面は金型61の凹部62の表面と密着した状態となる。図8は、この密着した状態を示す図であって、圧縮工程におけるブランク材2の変形がほぼ完了した状態を示す図である。図8に示すように、ブランク材2は、金型51と金型61との隙間に相当する3次元形状に変形する。
【0026】
圧縮後のブランク材2の肉厚は、圧縮前のブランク材2の肉厚の30〜50%程度であれば好ましい。換言すると、ブランク材2の圧縮率(圧縮による木材の肉厚の減少分ΔRとその木材の圧縮前の肉厚Rの比の値ΔR/R)は、0.50〜0.70程度であれば好ましい。
【0027】
なお、ステップS4において、金型51および61の少なくとも一方を他方に対して移動する際には、適当な駆動手段を用いて金型51および/または61を電気的に移動させることにより、ブランク材2に加わる圧縮力を調整するようにすればよい。また、金型51と金型61とをねじで連結し、このねじを手動または自動で締めることによって金型51を金型61に対して上下動させるようにしてもよい。
【0028】
ステップS4でブランク材2に所定時間(1〜数十分、より好ましくは5〜10分程度)圧縮力を加えた後、上記水蒸気雰囲気を解いてブランク材2を乾燥させる(ステップS5)。その後、金型51と金型61を離間させる。この結果、ブランク材2は、その形状が固定されることとなる。以下、ステップS5の後に形状が固定されたブランク材2のことを「木材3」と称する。
【0029】
図9は、木材3の構成を示す斜視図である。また、図10は、図9のF−F線断面図である。これらの図に示す木材3は、略長方形状の表面を有し平板状をなす主板部3aと、主板部3a表面の長手方向に略平行な2辺の各々から主板部3aに対して立ち上がるように延出する二つの側板部3bと、主板部3a表面の短手方向に略平行な2辺の各々から主板部3aに対して立ち上がるように延出する二つの側板部3cとを備える。側板部3bおよび3cの各端面は互いに連なっており、これらの端面が全体として周回して閉じた形状をなしている。また、木材3の肉厚は、ほぼ均一である。なお、図9のH−H線断面は、寸法や若干の形状の違いなどを除いて、図10(図9のF−F線断面)と同様である。
【0030】
続くステップS6では、木材3に切削または穿孔等の処理を施すことによって木材3を整形する(ステップS6)。図11は、ステップS6で整形された木材3の適用例であるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。同図に示すデジタルカメラ100は、ステップS6の整形工程において、木材3に適当な開口部や切り欠きを形成することによって形成されたカバー部材4および5によって外装されて成り、撮像レンズを含む撮像部101と、フラッシュ102と、シャッターボタン103とを備える。デジタルカメラ100の内部には、撮像処理等に関する駆動制御を行う制御回路、CCDやCMOS等の固体撮像素子、音声の入出力を行うマイクロフォンやスピーカ、および制御回路の制御のもと各機能部材を駆動する駆動回路を含み、デジタルカメラ100の機能を実現する各種電子的部材および光学的部材が収納されている(図示せず)。
【0031】
なお、木材3を整形することによって得られる外装体を適用可能な電子機器としては、デジタルカメラ100の他にも、携帯電話、PHSまたはPDA等の携帯型通信端末、携帯型オーディオ装置、ICレコーダ、携帯型テレビ、携帯型ラジオ、各種家電製品のリモコン、デジタルビデオなどがある。これらの携帯用小型電子機器に適用する場合の外装体の肉厚は、1.6〜2.0mm程度が好適である。
【0032】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程と、前記曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程と、前記形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程と、を有することにより、多様な木目模様を実現しつつも、成形が容易な木材の加工方法を提供することができる。
【0033】
また、本実施の形態1によれば、予め曲げが加えられた原材からブランク材を形取るため、曲げを加えないでブランク材を形取る従来例と比較した場合、同じ木目模様を出すために、従来例ほど無理な形状のブランク材を形取る必要がない。そのため、圧縮工程でのブランク材の変形量を最小限に止めることができる。この結果、圧縮による割れ等の発生をより確実に防止することができ、歩留まりの向上を実現することができる。
【0034】
なお、本実施の形態1に係る木材の加工方法における曲げ工程は、必ずしも上述したものに限られるわけではない。図12は、曲げ工程の別な例(第2例)を示す図である。図12では、原材1の短手方向の両端部をその短手方向の中心部に対して曲げた場合を示しており、図2の矢視B方向から見た曲げ工程の概要を模式的に示している。
【0035】
また、図13は、曲げ工程のさらに別な例(第3例)を示す図である。図13では、原材1の長手方向の両端部をその長手方向の中心部に対して曲げた場合を示しており、図2の矢視C方向から見た曲げ工程の概要を模式的に示している。
【0036】
このように、原材1に対しては、さまざまな方向に曲げを加えることが可能であり、その曲げ方に応じて木目の密度の粗密を調整したり、木目模様をゆがめたりすることができる。したがって、本実施の形態1に係る木材の加工方法によれば、従来例では得ることができないような個性的な木目模様を有する圧縮木製品を形成することが可能となる。なお、図4、図12、および図13で上下逆方向へ曲げを加えることも可能であるし、それらの曲げ工程の中から複数の曲げ工程を組み合わせて行ってもよい。
【0037】
本実施の形態1において、板状をなす原材に曲げを加える代わりに、削り出す前の丸太の状態の原木に対して曲げを加えてもよい。
【0038】
また、本実施の形態1において、圧縮後の木材の形状が平板状をなすようにしてもよい。
【0039】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法は、原材である複数の丸太を径方向に積層し、一括して曲げを加えることを特徴とする。
【0040】
図14〜図16は、本実施の形態2に係る木材の加工方法の曲げ工程を説明する図である。本実施の形態2では、曲げ工程を行うに際して、図14に示すように、複数の丸太7を長手方向に平行に並べて一つの層を形成し、この層を構成する丸太7と隣接する層を構成する丸太7とに関して、互いの長手方向が交差し、かつ径方向に沿うように複数の層を積層した状態にしておく。図14に示す場合、丸太7の積層方向(図14の鉛直方向)に隣接する層同士では、各層を構成する丸太7の長手方向が互いに直交している。また、長手方向が互いに平行な層のうちもっとも近い二つの層同士では、各層を構成する丸太7が、積層方向に沿って重ならないように配置されている。このように複数の丸太7を配置することにより、丸太7に圧縮をほとんど加えない状態でその丸太7の曲げだけを容易に行うことができる。
【0041】
図15は、上記の如く積層した複数の丸太7の曲げ工程の概要を示す図であり、複数の丸太7に曲げを加える前の状態を示す部分断面図である。複数の丸太7は、所定の保持室81の内部に配置されており、上記実施の形態1と同様の高温かつ湿潤状態にある。図15の丸太7の部分は、図14の矢視I方向から見た図に相当している。この状態で、複数の丸太7の上方から、積層された複数の丸太7の一つの層の外縁がなす面積よりも大きい表面積を有するプレス用部材91を徐々に下降させていく。プレス用部材91は、適当な駆動手段によって鉛直上下方向に駆動される。
【0042】
図16は、プレス用部材91が下降して複数の丸太7に曲げが加えられた後の状態を示す部分断面図である。プレス用部材91から力を受けた複数の丸太7は、徐々に曲げられ、長手方向に沿って略波形をなすように変形する。ここでプレス用部材91が丸太7に加える力は、丸太7の径が曲げ工程の前後で大きく変わることがない程度の力であることが望ましい。なお、図示はしないが、図14において中央の層を構成する丸太7の曲げが加えられた後の長手方向の形状も、その上下に隣接する層の丸太7の長手方向の形状(図16を参照)と同様に略波形をなしている。
【0043】
ところで、図16に示す場合、最上層と最下層にそれぞれ位置する丸太7は大きな曲げによる変形は受けにくいが、図16の水平方向に若干の曲げが加わることもある。最上層と最下層にそれぞれ位置する丸太7を、中間層に位置する丸太7と同程度に曲げる場合には、プレス用部材91と最上層との間、および保持室81の底面と最下層との間に丸太7が曲がることのできる隙間を設けた上で、曲げ工程を行うようにすればよい。
【0044】
図17は、本実施の形態2に係る木材の加工方法の形取工程の概要を示す図である。形取工程では、上記の如く曲げが加えられた丸太7に対し、その長手方向中心軸を含む略中央部から平板71をスライスし、この平板71からブランク材を形取る。また、曲げが加えられた丸太7の径方向周縁部に近い部分から平板72をスライスし、この平板72からブランク材を形取ってもよい。なお、ブランク材の形状によっては、丸太7の上記以外の部分からブランク材を形取ることも可能である。また、曲げを加えた丸太7から、曲面を含む3次元形状をなすようなブランク材を形取ってもよい。
【0045】
形取工程で形取った後のブランク材を用いた軟化、圧縮、乾燥、整形の各工程は、上述した実施の形態1に係る木材の加工方法と同じである。
【0046】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程と、前記曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程と、前記形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程と、を有することにより、多様な木目模様を実現しつつも、成形が容易な木材の加工方法を提供することができる。
【0047】
また、本実施の形態2によれば、複数の丸太を一括して曲げるため、曲げ工程に要する時間を短縮することができる。
【0048】
なお、本実施の形態2において、複数の丸太7のうち積層方向に隣接する層同士では、各層を構成する丸太7が直交している必要はなく、交差しているだけでもよい。また、同じ層を構成する丸太7同士の長手方向が平行でなくてもよい。このように複数の丸太7を不規則に積層して曲げを加えることにより、一段と多様な木目模様を実現することが可能となる。
【0049】
ここまで、本発明を実施するための最良の形態を説明してきたが、本発明は、上述した二つの実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、本発明で適用する原材は板目材以外でもよく、柾目材、追柾材、または木口材などでもよい。加えて、原材から形取るブランク材も板目材でなくても構わない。このように、本発明において加工対象の木材を原木からどのように形取るかは、その木材を用いて加工された結果物としての圧縮木製品の用途や、その圧縮木製品に対して要求する強度の他、圧縮木製品に付与すべき木目模様を考慮した上で決定すればよい。
【0050】
また、本発明に係る木材の加工方法によって加工された圧縮木製品は、上述した電子機器の外装体以外の用途にも適用することが可能である。例えば、本発明に係る木材の加工方法によって加工された圧縮木製品を食器として適用することも可能であるし、各種筐体として適用することも可能である。また、建材として適用することも可能である。
【0051】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲によって特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】ブランク材の原材の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の矢視A方向の側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の曲げ工程の概要を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の形取工程の概要を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の圧縮工程の概要を示す図である。
【図7】圧縮工程において圧縮を開始した時点の状態を示す図である。
【図8】圧縮工程において木材の変形がほぼ完了した状態を示す図である。
【図9】圧縮成形後の木材の構成を示す斜視図である。
【図10】図9のF−F線断面図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法によって形成された木材の適用例であるデジタルカメラの外観構成を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の曲げ工程の概要(第2例)を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態1に係る木材の加工方法の曲げ工程の概要(第3例)を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法で使用する原材(丸太)の曲げ工程を行う際の原材の組み方を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法の曲げ工程の概要(曲げを加える前の状態)を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法の曲げ工程の概要(曲げを加えた後の状態)を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る木材の加工方法の形取工程の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 原材
2 ブランク材
3 木材
3a 主板部
3b、3c 側板部
4、5 カバー部材
7 丸太(原材)
51、61 金型
52 凸部
62 凹部
71、72 平板(ブランク材)
81 保持室
91 プレス用部材
100 デジタルカメラ
101 撮像部
102 フラッシュ
103 シャッターボタン
G 木目
L 繊維方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を圧縮することによって所定の形状に加工する木材の加工方法であって、
高温かつ湿潤状態に置かれた加工対象である木材の原材に曲げを加える曲げ工程と、
前記曲げ工程で曲げが加えられた原材から、該原材の中で曲げが加わった箇所の一部を少なくとも含むブランク材を形取る形取工程と、
前記形取工程で形取ったブランク材に対して大気よりも高温高圧の水蒸気雰囲気中で圧縮力を加える圧縮工程と、
を有することを特徴とする木材の加工方法。
【請求項2】
前記原材は平板状をなし、
前記曲げ工程は、前記原材のいずれかの表面に沿って曲げを加えることを特徴とする請求項1記載の木材の加工方法。
【請求項3】
前記原材は丸太であり、
前記曲げ工程は、長手方向が交差し、かつ径方向に積層された複数の原材に対して一括して曲げを加えることを特徴とする請求項1記載の木材の加工方法。
【請求項4】
前記圧縮工程は、前記ブランク材を挟持可能な複数の金型によって前記ブランク材に対して圧縮力を加えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項5】
前記圧縮工程は、前記ブランク材を、曲面を含む3次元的な形状に成形することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の木材の加工方法。
【請求項6】
前記形取工程は、前記ブランク材の少なくとも一つの表面が、前記原材で曲げが加えられた部分の複数の木目と交差するように形取ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の木材の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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