説明

木材の改質方法

【課題】木材の欠点を解消するための化学反応処理を短時間で効率的にしかも安全に行う方法を提供する。
【解決手段】超臨界状態の二酸化炭素中で木材を化学反応処理することを特徴とする木材の改質方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の化学反応処理による改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材の持つ短所、例えば水や湿気によって寸法変化を起こしたり、腐る、シロアリの食害を受けるなどの欠点を解消するため、木材には通常何らかの化学加工処理による改質が施される。薬剤の注入や加熱・水蒸気処理なども化学加工処理の一種であるが、化学反応処理も有効な処理法の一つである。
【0003】
化学反応処理の多くは、木材を構成するセルロースやヘミセルロース、リグニン分子中の水酸基を化学反応用試薬で化学修飾することで、水分に対する寸法安定性や防腐・防蟻性を高め、湿度変動時に生じる木材の強度的性質の変動も抑制される。木材の化学反応処理の主要なところは湊がまとめている(非特許文献1:湊 和也、木材の化学加工処理研究における課題と展望、木材学会誌、Vol.48, No.6, p.399-406 (2002))ほか、非特許文献2(木材工業ハンドブック(丸善株式会社、2004年)の「第13章 化学加工 13.2 化学修飾」(p.866-871))にもまとめられている。
【0004】
例えば、木材中の水酸基をアセチル基に置換するアセチル化処理も化学反応処理の一つであり、非常に有効な改質法であることは広く認知されている。しかし、アセチル化処理には長時間要することや大量の化学反応処理用試薬を使用しなければならない点など、改善すべき問題点も多く抱えており、現在のところ、本格的な実用化には至っていない。
【0005】
従来の木材のアセチル化処理法は液相反応と気相反応の2つに大別される。工業レベルでの液相処理では、生材または気乾状態の木材ブロックをキシレン蒸気で蒸気乾燥したのち、減圧して木材を乾燥し、キシレンで希釈した無水酢酸を反応器内に導入して100〜130℃、約10気圧で8〜16時間アセチル化処理する方法などがある。
【0006】
また、気相処理では、乾燥した木材と無水酢酸を反応器内に入れ、排気して減圧状態とした後に100〜140℃に加熱して8〜16時間反応させる方法などがある。液相反応の場合、断面形状の大きい材でも処理ができる反面、大量の処理薬剤や有機溶媒が必要となり、処理後に未反応の薬剤も含めて廃液としなければならない。また十分なアセチル化処理を行うためには長時間処理が必須となる。
【0007】
触媒を添加して処理時間を短縮する方法もあるが、ピリジンのような人体や環境に有害な触媒を使う必要がある。一方、気相反応では少量の薬剤での処理が可能であるが、木材中への蒸気拡散に時間がかかるため、パーティクルボード用小片の処理などにはある程度有効であるが、木材ブロックの内部まで反応させることは難しく、また、液相反応の場合と同様、処理に長時間を要する。
【非特許文献1】湊 和也、木材の化学加工処理研究における課題と展望、木材学会誌、Vol.48, No.6, p.399-406 (2002)
【非特許文献2】木材工業ハンドブック(丸善株式会社、2004年)の「第13章 化学加工 13.2 化学修飾」(p.866-871)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、木材の欠点を解消するための化学反応処理を短時間で効率的にしかも安全に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、液体並みの高密度ながら気体並の浸透・拡散力を持つ超臨界二酸化炭素を化学反応場とする化学反応処理法を検討し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1) 超臨界状態の二酸化炭素中で木材を化学反応処理することを特徴とする木材の改質方法。
(2) 前記化学反応処理がアセチル化処理であることを特徴とする(1)に記載の木材の改質方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、短時間かつ効率的に、しかもピリジン等の触媒を用いることなく安全に木材を改質することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
二酸化炭素は、31℃、7.4Mpaを臨界点とする。超臨界状態の二酸化炭素は、大きな密度変化を示し、液体並みの高密度ながら気体並の浸透・拡散力を有する。本発明はこのような超臨界状態の二酸化炭素を化学反応場として、木材の化学反応処理を行うものである。
【0013】
超臨界状態の二酸化炭素とする温度・圧力条件は、二酸化炭素が超臨界状態になれば特に限定されないが、31℃、7.4Mpa以上、好ましくは100〜130℃、約10Mpaである。
【0014】
木材の主要構成成分であるセルロースやヘミセルロース、リグニンは水酸基を多数保有しており、この水酸基をアセチル基、エステル基等で置換し、化学反応処理を行う。
【0015】
超臨界状態の二酸化炭素は、高密度で激しく分子運動をしており、アセチル化反応試薬等の化学反応用試薬は、少量で反応し、液相反応のような試薬含浸状態を再現でき、しかもごく短時間で試薬が木材内部の反応サイトまで到達し、化学反応処理される可能性がある。
【0016】
本発明における化学反応処理とは、アセチル化処理、オリゴエステル化処理、エーテル化処理、ホルマール化処理等をいう。
【0017】
アセチル化処理に用いられる試薬は、無水酢酸を挙げることができ、オリゴエステル化処理に用いられる試薬は、無水マレイン酸を挙げることができ、エーテル化処理に用いられる試薬は、プロピレンオキシドを挙げることができ、ホルマール化処理に用いられる試薬は、ホルムアルデヒドを挙げることができる。本発明における化学反応処理用試薬は、これらのものに限定されることはなく、木材の主要構成成分であるセルロースやヘミセルロース、リグニン分子中の水酸基を化学修飾できるものであればよい。
【0018】
本発明の改質方法は以下のように行えばよい。
【0019】
例えば、耐圧容器内に木材と化学反応処理用試薬をいれて密封する。化学反応処理用試薬の量は、重量で比較して木材1に対して0.6〜3.5、好ましくは1.0〜2.0用いればよい。次いで減圧により脱気してから二酸化炭素を充填する。二酸化炭素が超臨界状態となるように加熱、加圧し、所定時間化学反応処理を行えばよい。処理後、減圧操作をすれば、化学反応処理用試薬と二酸化炭素は簡単に分離回収・再利用することができる。
【0020】
本発明方法を実施するための装置は、超臨界状態の二酸化炭素中で木材を化学反応処理できるものであれば特に限定されないが、オートクレーブを用いたバッチ式の反応装置を用いることができる。
【0021】
図1に、本発明方法を実施するための装置の一実施形態を示す。
【0022】
反応容器1は耐圧性のものであり、例えばステンレス製である。反応容器1には、加熱用のヒーター2が設けられている。木材と化学反応処理用試薬は、反応容器1に封入される。バルブ5を開いて、反応容器1を減圧ポンプ3により脱気する。次にバルブ10,11を開いて、二酸化炭素ボンベ6からコンデンサ7、冷水循環器8を介して送液ポンプ9により二酸化炭素を反応容器1に加圧挿入する。送液ポンプ9のヘッド部分は冷水循環器8で循環される冷水により冷却される。反応条件は、圧力計4と温度計14により温度、圧力を計測し、二酸化炭素が超臨界状態を維持するように制御される。所定圧力以上になった場合は、背圧弁13により圧力が調整される。反応温度は、ヒーター2のオンオフにより調整される。木材の化学反応処理が終了した後、ヒーター2をオフして背圧弁13を徐々に開き、ゆっくりと減圧して常圧に戻した後、改質された木材を取り出せばよい。
【0023】
以下アセチル化処理により木材を改質する方法を実施例として詳細に述べるが、実施例により本発明が限定されることはない。
【実施例1】
【0024】
図1に示す装置により、木材のアセチル化処理を行った。
【0025】
実験にはスギ心材試片(5mm(L)×20mm(R)×20mm(T))を用いた。試片はあらかじめエタノール・ベンゼン混合液(v/v=1:2)で96時間、熱水で7時間抽出処理し、その乾燥重量を測定しておいた。
【0026】
容量90mlの耐圧容器内に試片2個と無水酢酸3mlを入れて密閉し、10分間減圧ポンプで脱気させてから二酸化炭素を充填させた。そして、温度を130℃、圧力を10.5MPaに調整し、超臨界状態で試片のアセチル化処理を行った。処理時間は1,3,6,15,24時間の5種類で行った。
【0027】
処理後、試片の乾燥重量を再び測定し、重量増加率を求めた。その結果を図2に示す。図2から明らかなとおり、1時間の短時間処理でも20%近い重量増加率が得られており、アセチル化反応が極めて短時間で進行していることがわかった。また、24時間処理で重量増加率は27%に達し、従来法で得られる重量増加率の最大値に匹敵するか、それ以上の高い値が得られた。
【0028】
次に、アセチル化処理木材の寸法安定性を評価するため、抗膨潤能(以下、ASEと略称する。)の測定を行った。あらかじめ乾燥状態での寸法を測定しておいた試片を水中に沈め、アスピレータで減圧しながら1週間浸漬させた。1週間後、試片を取り出し、寸法を測定して試片の膨潤率を求めた。そして以下の式によりASEを算出した。
【0029】
ASE=(D−D)/D×100(%)
:未処理材の膨潤率
D:処理材の膨潤率
【0030】
アセチル化による重量増加率とASEとの関係を図3に示すが、ASEは76〜81%と、非常に高い値を示した。従来法では20%以上の重量増加率でASEが65〜75%程度であるが、超臨界二酸化炭素処理では従来法を上回る寸法安定性を示した。これはおそらく、従来法では主に木材表面を中心にアセチル化反応が起こっているのに対し、超臨界二酸化炭素処理では木材内部まで均一に反応が進行しているため、寸法安定性に優れたアセチル化木材が得られたものと思われる。
【0031】
以上の結果より、超臨界二酸化炭素を反応場とすることで、従来法と比較して、少量の無水酢酸のみを使用した無触媒反応で、ごく短時間で高性能のアセチル化木材を製造できることが明らかとなった。
(比較例1)
実施例1と同じスギ心材試片を用いて、液相反応によるアセチル化処理を行った。試片2個を100mlの無水酢酸中に浸漬させ、一晩減圧注入を行った後、120℃に加熱した無水酢酸100ml中に移して、1時間または8時間のアセチル化処理を行った。処理後、実施例1と同様の方法で重量増加率とASEを測定した。その結果を図2および図3に示す。20%以上の重量増加率を得るためには8時間の処理が必要であり、また、処理前にあらかじめ無水酢酸を減圧注入する必要もあるので、本発明方法と比べて処理に要する時間がかなり長い。また、試片重量に対して約50〜100倍の無水酢酸が必要であり、薬剤を大量消費することになる。
(比較例2)
実施例1と同じスギ心材試片を用いて、気相反応によるアセチル化処理を行った。試片2個と無水酢酸5mlを2リットル容のデシケータに入れ、アスピレータで5分間減圧した。その後、デシケータを120℃に加熱した乾燥器に入れ、1時間または8時間のアセチル化処理を行った。処理後、実施例1と同様の方法で重量増加率とASEを測定した。その結果を図2および図3に示す。気相反応は本発明方法に比べて十分にアセチル化が進行せず、また、処理時間も長時間かかることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明方法により、木材を短時間、効率的かつ安全に化学反応処理をすることができ木材の改質方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明方法を実施するための装置の一実施形態を示すフロー図。
【図2】実施例1のアセチル化反応時間と重量増加率との関係を示すグラフ。
【図3】実施例1のアセチル化による重量増加率とASEとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0034】
1 反応容器
2 ヒーター
3 減圧ポンプ
4 圧力計
5 バルブ
6 二酸化炭素ボンベ
7 コンデンサ
8 冷水循環器
9 送液ポンプ
10、11、12 バルブ
13 背圧弁
14 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態の二酸化炭素中で木材を化学反応処理することを特徴とする木材の改質方法。
【請求項2】
前記化学反応処理がアセチル化処理であることを特徴とする請求項1に記載の木材の改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−216438(P2007−216438A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37401(P2006−37401)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(506054523)
【出願人】(506053261)
【出願人】(506053272)
【Fターム(参考)】