説明

木材ブロックの拘束装置

【課題】津波時などによる木材ブロックの浮遊移動を経済的に拘束する。
【解決手段】地中に設置した地中ロープと、地中ロープに取り付けた上掛けロープとによって木材ブロックを拘束する構成である。地中ロープの一部はアンカーに取り付ける。このアンカーは、木材ブロックの浮上と引っ張りによって一定以上の引き抜き力が作用した場合に、容易に引き抜けるように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材ブロックの拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海外から船舶によって日本へ輸入される原木は、港湾のヤードに山積みして貯蔵する。
この木材を積み上げた木材ブロックは、一定期間ごとにトラックなどの陸上輸送手段によって製材所やパルプ工場へ搬出される。
このように短期間で木材の搬入や、搬出が繰りかえされるので、複雑な手数を要する拘束手段によって拘束することができず、ワイヤーロープ1本で陸上に固定しているのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した従来の木材ブロックの拘束装置にあっては、次のような問題点がある。
<1> このような状況の港湾に津波が来襲してきて、海水が木材ブロックに達すると、山積みになった木材ブロックが崩壊し、押し寄せる波に乗って陸上に乗り上げる。
<2> この木材群が家屋に衝突して家屋を倒壊させ、人にも甚大な被害を与えたことが、多くの津波事故として報告されている。
<3> さらに最近の調査報告によると、津波そのものでは家屋を倒壊させるほどの被害をもたらすものではなく、津波によって運ばれる小さい船舶や木材群の衝突が家屋破壊の原因であるといわれている。
<4> さらに、津波の後に、陸上あるいは海上に散乱した木材群を回収する作業に多数の人力を要し、多くの費用がかかる。
<5> また、海上に散乱して浮遊している木材群は、航行する船舶の運航を著しく阻害するだけでなく、船舶を利用した避難者の救済にも大きな支障をきたす原因となっている。

【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために本発明の木材ブロックの拘束装置は、
地中に設置した地中ロープと、地中ロープに取り付けた上掛けロープとによって木材ブロックを拘束する構成であり、かつ地中ロープの一部はアンカーに取り付け、このアンカーは、木材ブロックの浮上と引っ張りによって一定以上の引き抜き力が作用した場合に、容易に引き抜けるように構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の木材ブロックの拘束装置は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1>簡単な構成で、木材ブロックを効率よく拘束することができるので、日常の搬入、搬出作業に影響を与えない。
<2>津波が木材ブロックに到達して、木材ブロックが浮き上がっても、その自由な移動を拘束しているので、陸上の家屋に到達しがたく、被害の発生を最小限で抑えることができる。
<3>津波の去ったのちには、木材群はバラバラにならず、ブロック状態で海上を漂流しているので、その回収が極めて容易である。
<4>小規模な津波や高潮の際には、木材ブロックを拘束するアンカーに大きな引張力が作用しないから、経済的な設計で木材ブロックを拘束することができる。
<5>大規模な津波が来襲した場合には、アンカーは、木材ブロックの引張力で引き抜かれる程度の強度で設置してあるので、経済的な設計で木材群のブロック化を図ることができる。
<6>アンカーが引き抜かれても、木材ブロックはアンカーを引きずって移動するので、アンカーが地上のガードレールなどにひっかかり、移動を拘束されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の木材ブロックの拘束装置の実施例の説明図。
【図2】津波などで浮上した木材ブロックの拘束状態の説明図。
【図3】津波などで浮上した木材ブロックが拘束状態で移動している状態の説明図。
【図4】複数の木材ブロックを連結した状態の説明図。
【図5】木材ブロックを1か所のアンカーで拘束した状態の説明図。
【図6】木材ブロックの周囲をネットで拘束した状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下図面を参照にしながら本発明の木材ブロックの拘束装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
<1>基本的構成。(図1)
本発明の木材ブロック4の拘束装置は、地中ロープ1と上掛けロープ2とから構成する。
この地中ロープ1と上掛けロープ2によって木材ブロック4を上下から拘束して一体のブロックを形成するものである。
【0009】
<2>地中ロープ。
地中ロープ1は、地中に配置したワイヤーロープである。
この地中ロープ1の上に木材を集積して山状に積み上げてブロックを形成する。木材を海岸線と平行する方向に向けて並べる場合には、地中ロープ1は海岸線と直交する方向に向けて配置する。
地中ロープ1は、地盤を直線状に掘削して側溝のようにU字状のコンクリートやチャンネル材を敷設し、その溝8の内部にワイヤーロープを配置して構成する。
地中ロープ1を地中に配置するのは、地表面を走行するフォークリフトや他の運搬装置によって切断されることを阻止するためである。
したがってコンクリートやチャンネル材で溝8を形成することが不可欠ではなく、単に地中に埋め込んだワイヤーロープによって構成することもできる。
【0010】
<3>アンカー。
地中ロープ1は単に地中に配置するだけではなく、その一部をアンカー3によって地盤に固定する。
アンカー3は、地中に設置した定着部材である。
たとえば地盤を円柱状に掘削し、その内部に鉄筋を配置し、コンクリートを打設して構成することができる。
このアンカー3の上端にU字状の鉄筋を突設して、前記した地中ロープ1の両端、あるいは中間を取り付ける。
アンカー3は、その形状や寸法によって、地中ロープ1に対して、地盤から得られる反力を設定することができる。
アンカー3と地中ロープ1との取り付けは、図1に示すように地中ロープ1の両端をアンカー3に取り付ける構成、あるいは図5に示すように、地中ロープ1の一部をアンカー3に取り付ける構成を採用することができる。
【0011】
<4>上掛けロープ。
上掛けロープ2は木材ブロック4の上に配置するワイヤーロープであり、その両端を前記の地中ロープ1に取り付ける。
木材ブロック4の上に掛け渡すものであるから、木材の出し入れ作業に支障をきたすことがないよう、中間にフックなどを介在させて簡単に切り離し、再接合ができる構成とする。
木材ブロック4は、その下部分を地中ロープ1で、上部分を上掛けロープ2で包囲され、上掛けロープ2を引き締めることによって一体的に拘束される。
【0012】
<5>アンカーによる拘束。(図2)
上記のように木材ブロック4は、その上下を上掛けロープ2と地中ロープ1によって包囲されて拘束される。
拘束された木材ブロック4が、津波や異常高潮によって浮き上がった場合にその浮力によって地中ロープ1は溝8の内部、あるいは地中から引き出される。
その地中ロープ1の上向きの引張力は、地中ロープ1の両端、あるいはその一部を固定したアンカー3に作用する。
その場合に、どの程度の津波に対抗させるかを事前に決定してアンカー3の設計を行う。
そして、一定値以下の津波や高潮による引き抜き力にはアンカー3で抵抗して木材ブロック4の移動を拘束する。
【0013】
<6>アンカーの引き抜き。(図3)
上記のように、一定値以下の津波や高潮による引き抜き力にはアンカー3で抵抗して木材ブロック4の移動を拘束できるが、それ以上の大きな津波の力に対しては抵抗しないアンカー3として設置する。
このように、本発明の装置は大きな津波に対してはアンカー3が抵抗しないから、経済的な条件下でアンカー3の設置を行うことができる。
一定値以上の津波の力に抵抗しないアンカー3は、木材ブロック4の浮力によって地中ロープ1の端部に取り付けた状態で、引き抜ける。
そして津波に乗って浮遊する木材ブロック4とともに、アンカー3は地表面をズルズルと引きずられて移動を続ける。
するとアンカー3は、地表面のガードレール7や電柱、その他の構造物にひっかかって、木材ブロック4の移動の抵抗となる。
その状態は、ちょうど停泊中の船舶と錨の関係と同じであり、さほど大きな直径の地中ロープ1でなくとも、数千トンの木材ブロック4の移動を拘束することが可能となる。
こうしてアンカー3自体に大きな定着抵抗を期待せず、引き抜き後には地表面の既存構造物を抵抗体として作用させるから、経済的、実用的なアンカー3を採用することができる。
アンカー3がガードレール7などに係合しやすくするために、長い地中ロープ1を地中に折りたたんで設置しておくこともできる。
さらにアンカー3がガードレール7などに係合しやすくするために、アンカー3を単なる円柱ではなく、周囲にフックなどを突設した、船舶の錨のような形状に構成しておくこともできる。
【0014】
<7>木材ブロックの連結。(図4)
以上の説明は、単独の木材ブロック4の浮遊作用に関するものであった。
このような木材ブロック4と木材ブロック4とを、連結ロープ5で連結しておくことも可能である。
その連結ロープ5も、地中ロープ1と同じように地中に設置しておく。
ただし、連結ロープ5は、地中ロープ1とは直交する方向に配置しておき、津波時の木材ブロック4の浮力によって地中から引き出されて、ひとつの木材ブロック4と隣の木材ブロック4との間をゆるく拘束する。
前記したように、地中ロープ1が海岸線と直交する方向に配置した場合には、連結ロープ5は海岸線と平行する方向に向けて配置することになる。
このように木材ブロック4と木材ブロック4との間を連結ロープ5で連結しておくと、津波による木材ブロック4の移動が相互に拘束しあって、急激な移動の抵抗となる。
また津波の引き上げた後にも、複数の木材ブロック4が接近して浮遊するからその回収も容易である。
【0015】
<8>ネットによる拘束。(図6)
以上の説明は、木材ブロック4を地中ロープ1と上掛けロープ2とによって拘束する構造であった。
その際に、さらにネット6を利用し、そのネットを木材ブロック4の上から被せれば、木材のブロック化がより確実である。
ただし前記したように木材は頻繁に搬入、搬出があるから、木材ブロック4の全体をネットで被覆するような構成は実用的ではない。
そのために、たとえば木材ブロック4の四隅の稜線だけをネット6で被覆するような構成を採用して、日常の作業の障害にならず、かつ木材群のブロック化が確実であるような構成とする。
【0016】
<9>浮遊構造の整理。
以上説明したように、本発明の木材ブロック4の拘束装置は、津波、高潮による水位の上昇によって木材ブロック4の浮遊を許容するものである。
そして浮遊に際して、一定以下の津波の力では、アンカー3が引き抜けず、一定以上の津波の力でアンカー3が引き抜けるように構成してある。
アンカー3が引き抜けて木材ブロック4が浮遊する場合に、木材ブロック4が単一である構成、あるいは複数の木材ブロック4を連結ロープ5で連結する構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1:地中ロープ
2:上掛けロープ
3:アンカー
4:木材ブロック
5:連結ロープ
6:ネット
7:ガードレールなどの地上構造物
8:溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設置した地中ロープと、
地中ロープに取り付けた上掛けロープとによって木材ブロックを拘束する構成であり、
かつ地中ロープの一部はアンカーに取り付け、
このアンカーは、木材ブロックの浮上と引っ張りによって一定以上の引き抜き力が作用した場合に、容易に引き抜けるように構成した、
木材ブロックの拘束装置。
【請求項2】
地中に設置した地中ロープと、
地中ロープに取り付けた上掛けロープと、
木材ブロックの隅の稜線部分を包囲するネットによって木材ブロックを拘束する、
請求項1記載の木材ブロックの拘束装置。
【請求項3】
ひとつの木材ブロックと、
隣接する木材ブロックとの間を、
連結ロープによって連結して構成した、
請求項1記載の木材ブロックの拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184753(P2010−184753A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28488(P2009−28488)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)