説明

木管楽器用リガチャー

【課題】リードを短時間で手早く交換可能とし、リードの位置を正確に規定して交換できるようにする。
【解決手段】木管楽器用リガチャーについて、リング部15として、一部にて分離した略テーパー状の円筒形状を有するものとし、上記分離部分には、リング部を締め付けてマウスピース12の定位置にリング部15を固定するリング固定部を具備し、上記リング部の、マウスピースの気孔部14に対応する取り付け部位に、リード14を固定するために、リード固定部として、リード挿入時に幅方向のぶれを最小限に抑えて所定位置に配置するために、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅にてリング部の内側に形成した側面案内部21、22と、リードの上面に接触してリードをマウスピースに押さえ付けるためにリング部の内側に配置するリード押さえ部材23と、リング部に螺合により取り付けた固定子24を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースに取り付けられるリードを、マウスピースの外周を取り巻く形状を有するリング部によって固定するようにした木管楽器用リガチャーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、シングルリードの木管楽器に属するクラリネットにおいては、リガチャーと呼ばれる、マウスピースの外周を取り巻く金属枠より成る部材を使用して、リードをマウスピースに取り付けている。従来のリガチャーは、リードを取り替える際にマウスピースから取り外さねばならず、時間が掛かるとともに、リードの取り付け位置もその都度調整する必要がある。この作業は、熟練した演奏者にとっては何と言うこともないことであろうけれども、慣れない演奏者にとっては、時間も掛かり、取り付け位置や、締め付け強度も一定し難く、負担である。
【0003】
リガチャーに関する出願例には、例えば、特開2006−163382号があるが、これは、従来の金属製リガチャーにおいて完全には抑制できなかったリガチャー自身の共振を有効抑制しようとする発明であり、また、特開2005−513578号も略同様の目的の下になされている。また、特開平11−259064号は、リングの金属がマウスピースを完全に被覆するのを阻止して、リードの締め付けをより平均的とし、より自然な音響を得ることを目的とする。しかしながら、リード交換における上記の問題を解決しようとする技術的提案は見当たらない。
【0004】
【特許文献1】特開2006−163382号
【特許文献2】特開2005−513578号
【特許文献3】特開平11−259064号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題は、リードを短時間で手早く交換できるようにすることである。また、本発明の他の課題は、リードの位置を正確に規定して交換できるようにすることである。また本発明の他の課題は、慣れない演奏者においても、リードを交換の前後で略一定の状態に管理できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明は、マウスピースに取り付けられるリードを、マウスピースの外周を取り巻く形状を有するリング部によって固定するようにした木管楽器用リガチャーについて、一部にて分離した略テーパー状の円筒形状を有するリング部を具備するものとし、上記分離した部分には、リング部を締め付けて、マウスピースの定位置にリングを固定するリング固定部を有するものとし、さらに、リング部の、マウスピースの気孔部に対応する取り付け部位に、リードを固定するリード固定部を設定し、リード固定部として、リード挿入時に幅方向のぶれを最小限に抑えて所定位置に配置するために、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅にてリング部の内側に形成した側面案内部と、リードの外面に接触してリードをマウスピースに押さえ付けるためにリング部の内側に配置するリード押さえ部材と、上記リード押さえ部材をリードに対して押さえ付けまた緩めるために、リング部に螺合により取り付けた固定子、を備えて構成するという手段を講じたものである。
【0007】
本発明の対象となる木管楽器は、マウスピースの気孔部に配置したリード、という構成から、クラリネット、サキソフォンなどのシングルリード楽器である。この種の楽器のリードは、演奏者の唇に触れる先端部で幅が広く、マウスピースに固定する基端部の幅が狭いテーパー形状を有し、楽器の種類及び音域の相違による差はあるが、特定の楽器については夫々一定の形状及び寸法を有する。従って、マウスピースにおけるリガチャーの位置が一定であれば、新たに交換するリードの位置も、交換前のリードの位置と同じに保たれる。本発明はこの関係を前提になされている。
【0008】
本発明におけるリング部としては、一部にて分離した略テーパー状の円筒形状を有し、上記分離した部分には、リング部を締め付けて、マウスピースの定位置に固定するリング固定部を有していることが必要である。リング部が一部にて分離していることは、着脱のために必要であり、略テーパー状の円筒形状を有することは、同形状を有するマウスピースの外形にリング部を密着させるために必要である。なお、略テーパー状の円筒形状については、文字通り円筒壁面で囲まれた形態のものの他、略テーパー状の円筒形状に適合する枠だけから成るものを含んでも良い。
【0009】
さらに、リング部の、マウスピースの気孔部に対応する取り付け部位に、リード固定部を設定する。マウスピースの気孔部は、リードによってほぼふさがれる開口部分であり、気孔部に対応する部位とは、上記のように開口部分すなわち気孔部をふさぐためにリードを配置して固定すべき所定の位置、という意味である。略テーパー状の円筒形状を有するリング部の上記部位に、リードを固定するために必要な構成を設けるものであり、リード固定部は、その構成の全体の総称である。
【0010】
具体的にはリード固定部は、リード挿入時に幅方向のぶれを最小限に抑えて所定位置に配置するために、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅にてリング部の内側に形成するものである。リードとリード固定部の左右側面とは、接触可能であり、かつリードを所定位置に案内するためにリング部の内側に設けた左右の側面案内部と、リードの外面に接触してリードをマウスピースに押さえ付けるためにリング部の内側に配置するリード押さえ部材と、上記リード押さえ部材をリードに対して押さえ付け、また緩めるために、リング部に螺合により取り付けた固定子、を備えて構成される。なお、接触可能とは、リードとリード固定部の左右側面が余裕(隙間)を有しながら、接触する状態を限度として、リードを所定位置へ案内する状況をいうするもので、常に接触すると言う意味ではない。一方、ぶれが極小である場合を考えると、左右の側面案内部の幅とリード幅とはほとんど一致するので、所定位置への配置が完了したときに、リードとリード固定部の左右側面が接触していることもあり得る。
【0011】
左右の側面案内部は、リードを左右側面において案内することにより、マウスピース上におけるリードの位置を所定の位置に案内する役割を負う部分である。夫々一定の形態やサイズを有しているリード同士を交換したときに、どのリードについてもほぼ同じ条件で左右側面と対向する位置を取り接触可能な部分である。従って、リング部を特定の木管楽器に取り付けた状態では、左右の側面案内部間の間隔はほぼ一定である。この側面案内部は、リードの左右側面とだけ接触可能である。
【0012】
リード押さえ部材は、側面案内部によって既に位置決めがなされているリードの外面に接触し、リードをマウスピースに押さえ付けるための手段である。故に、接触の形態は、リードをマウスピースに音響的に問題を生じない形態で押さえ付けることができる形態であれば自由に決めることができる。一つの例では、リードの外面の形状に適合する略円弧状の形態を有し、また、リードの長手方向に伸び、リードの外面に接触する複数個の凸条を有しているものは(請求項2記載の発明)、音響的に望ましい形態であると言える。
【0013】
上記リード押さえ部材をリードに対して押さえ付けまた緩めるために、リング部に螺合により、固定子を取り付ける。固定子は、リング部の雌ねじに螺合する雄ねじと、雄ねじを操作するための部分を有する。固定子はリード押さえ部材の中央部に1個設ければ必要最小限度の目的は果たされるが、リード押さえ部材のブレを防ぐために、ブレ止め機構を設けることができる。なお、固定子を長手方向に2個以上取り付ければ、それがブレ止め機構となる。また、リード押さえ部材は、リング部の内側に設けた側面案内部の外方に、リード押さえ部材に収容部を設けてそこに配置され、上記側面案内部に配置した弾性材により、マウスピースの気孔部に対応する取り付け部位から離して、リードの取り付けスペースをあけるように構成することができ(請求項3記載の発明)、これによりリードの挿入が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、リード固定部における固定子の操作により、リード押さえ部材を緩めるとともに、古いリードを外して新たなリードを差し替え、リード押さえ部材を締め付ければ良いので、リードの交換時間を著しく短縮することができる。すなわち、リング部はリング部固定部によって常時固定され、リードのみを交換すれば良いので、リードの位置を正確に規定することができる。従って、本発明によれば、慣れない演奏者においても、リードを交換の前後で略一定の状態に管理できることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図示の実施形態を参照しつつ本発明に係る木管楽器用リガチャーをより詳細に説明する。各図は、木管楽器10に、本発明におけるリガチャー11を適用した一例を示すもので、リード14は、マウスピース12の先端近くに開口している気孔部13を覆うように配置する。リード14は、演奏者の唇の触れる先端部において幅が広く、マウスピース12に固定する基端部では幅が狭いテーパー形状を有しており、所定のサイズを有していて、マウスピース12の外周を取り巻く形状を有する、リガチャー11によって固定される。
【0016】
リガチャー11を構成するリング部15は、略テーパー状の円筒形状を有するマウスピース12の外形に適合した、略テーパー状の円筒形状を有しており、かつ、略テーパー状の円筒形状の一部にて分離し、その分離した部分には、リング部15を締め付けて、マウスピース12を定位置に固定する手段としてリング固定部を有している。例示のリング固定部は、上記リング部15の側面にて分離している部分に、外方へ突き出すように設けた分離端16、17と、リング部15を閉じるために両分離端16、17に形成した、ねじ孔18に螺合するねじ部19を有する、リング固定ねじ19aとによって構成されている(図2参照)。
【0017】
リング部15を、マウスピース12の定位置に取り付けた状態において、リード14の着脱を可能にするために、マウスピース12の気孔部13に対応するリング上の部位に、リード固定部を設定し、そこに外方への張り出し部分20を形成する。リード固定部は、リード14の左右側面14l、14rを案内して定位置に固定する側面案内部21、22と、リード14の外面に接触して、リード14をマウスピース12に押さえ付けるリード押さえ部材23と、上記リード押さえ部材23をリード14に対して押さえ付け、また緩めるために、リング部15に螺合により取り付けた固定子24を備えている。
【0018】
側面案内部21、22は、リード挿入時に幅方向のぶれを最小限に抑えて所定位置に配置するために、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅にてリング部の内側に形成するもので、リード14の左右側面14l、14rと接触可能でもある。また、側面案内部21、22は、マウスピース上におけるリード14の位置を規定する役割を負う部分として、必要十分な長さを有している。図4。また、この側面案内部21、22はリード14の左右側面14l、14rに向けて相互に突出するように、リング部15の内側に設けられている。なお、リング部15を特定の木管楽器10のマウスピース12に取り付けた状態において、側面案内部21、22間の間隔は、リード14をスムーズに受け入れられるように、リード幅よりも僅かに大きく設定されている。
【0019】
図示のリング部15の場合には、側面案内部21、22の外方に外方への張り出し部分20を形成し、その部分の内側で側面案内部21、22よりも外方の空間をリード押さえ部材収容部25とし、そこに、リード押さえ部材23を配置している。リード押さえ部材23は、リング部15の内側に設けた側面案内部21、22の外方のスペースに両側を配置し、そこに弾性材26を組み込むことにより、マウスピース12の気孔部に対応する取り付け部位から離しておけるようにし(図5参照)、それにより、リード14の取り付けスペースを空けている。
【0020】
リード押さえ部材23は、側面案内部21、22によって既に位置決めされているリード14の外面に接触してマウスピース12に押さえ付けるための手段として、リード14の外面の形状に適合する、略円弧状の形態(正確には略テーパー状の円弧面の形態)を有し、かつ、その円弧面にリード14の長手方向に伸びてその外面に接触する、複数個の凸条27を有している。
【0021】
上記リード押さえ部材23をリード14に対して押さえ付けまた緩めるために、リング部15の外方への張り出し部分20に、固定子24を螺合により取り付ける。また、固定子24の取り付け手段として、上記外方への張り出し部分20に雌ねじ28を形成し、それに螺合する雄ねじ29を固定子24に具備している。さらに、固定子24はガード30によって保護されており、ガード取り付けねじ31は、下方へ突出してリード押さえ部材23と切り欠き部32にて係合し、リード押さえ部材23のブレを防ぐブレ止め機構を形成している。
【0022】
このように構成された本発明に係る木管楽器用リガチャー11を使用するには、図1に示す夫々分解された状態から、リード14とリング部15をマウスピース12に取り付ける。本発明の目的は、リード14の交換を容易にすることにあり、リング部15は取り外さないのが前提である。しかし、最初に木管楽器10に取り付ける場合には、リード14の位置を正確に決定しておくことが重要であるので、このような場合には、リード14とリング部15を同時並行的に取り付けることになる。なお、リング部15の位置を調整するには、リング固定ねじ19aを緩めて前後させ、締め付けて位置を決定する。
【0023】
一旦、リード14とリング部15の取り付け位置が決定されたなら、次からは、リード14のみを交換すれば良い。固定子24を緩めると、リード14を図7に実線で示す先端方向にずらして外すことができ、また、新たなリード14を図7に破線で示すように差し込むことができる。すなわち、リード14をとりつけるには、その左右側面14l、14rが、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅に形成されているリング部15の左右側面案内部分21、22に対して、隙間(余裕)33を有しながら、幅方向のぶれを最小限に抑えて接触可能な状況において、所定の位置に配置することができる。リード14が所定位置に配置された後は、固定子24を締め付ければ良い。これで、図6に示す使用可能な状態になるから、後は、交換の都度、固定子24の緩め締めを繰り返すだけで、リード14を正しい位置に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る木管楽器用リガチャーの一例をリード及びマウスピースとともに示す分解斜視図。
【図2】同上のものにおいて、リガチャーをリードとともにマウスピースに取り付けた状態を示す横断面図。
【図3】同じく縦断面図。
【図4】同じく平面図。
【図5】同じく拡大して示す横断面図。
【図6】本発明に係るリガチャーを木管楽器に取り付けた状態を示す部分側面図。
【図7】同上のものにおいて、リードを交換する状態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0025】
10 木管楽器
11 リガチャー
12 マウスピース
13 気孔部
14 リード
15 気孔部
16、17 分離端
18 ねじ孔
19 ねじ部
20 外方への張り出し部分
21、22 側面案内部分
23 リード押さえ部材
24 固定子
25 リード押さえ部材収容部
26 弾性材
27 凸条
28 雌ねじ
29 雄ねじ
30 ガード
31 ガード取り付けねじ
32 切り欠き部
33 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスピースに取り付けられるリードを、マウスピースの外周を取り巻く形状を有するリング部によって固定するようにした木管楽器用リガチャーであって、一部にて分離した略テーパー状の円筒形状を有するリング部を具備し、上記分離した部分には、リング部を締め付けて、マウスピースの定位置にリングを固定するリング固定部を有するものとし、さらに、リング部の、マウスピースの気孔部に対応する取り付け部位に、リードを固定するリード固定部を設定し、リード固定部として、リード挿入時に幅方向のぶれを最小限に抑えて所定位置に配置するために、リード幅寸法に対して僅かな余裕を持った幅にてリング部の内側に形成した側面案内部と、リードの外面に接触してリードをマウスピースに押さえ付けるためにリング部の内側に配置するリード押さえ部材と、上記リード押さえ部材をリードに対して押さえ付けまた緩めるために、リング部に螺合により取り付けた固定子、
を備えて構成された木管楽器用リガチャー。
【請求項2】
リード押さえ部材は、リードの外面の形状に適合する略円弧状の形態を有し、また、リードの長手方向に伸び、リードの外面に接触する複数個の凸条を有している請求項1記載の木管楽器用リガチャー。
【請求項3】
リード押さえ部材は、リング部の内側に設けた側面案内部の外方に、リード押さえ部材収容部を設けてそこに配置され、上記側面案内部に配置した弾性材により、マウスピースの気孔部に対応する取り付け部位から離して、リードの取り付けスペースをあけるように構成された請求項1又は2記載の木管楽器用リガチャー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−233250(P2008−233250A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69369(P2007−69369)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(307006332)