説明

木質材のアルカリ汚染の防止方法

【課題】木質材のアルカリ汚染を簡便且つ経済的に防止することのできる、木質材のアルカリ汚染の防止方法及びアルカリ汚染防止剤を提供すること。水に濡れてもアルカリ汚染が生じにくいアルカリ汚染防止木質材を提供すること。
【解決手段】木質材のアルカリ汚染の防止方法は、木質材を、2価の鉄イオンの存在下に過酸化水素水で処理することを特徴とする。木質材のアルカリ汚染防止剤は、過酸化水素水と該過酸化水素水に混合される硫酸第1鉄とからなる。アルカリ汚染防止木質材は、硫酸第1鉄を混合した過酸化水素水で木質材を処理して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材のアルカリ汚染の防止方法、木質材のアルカリ汚染防止剤及びアルカ汚染防止木質材に関する。
【背景技術】
【0002】
合板は、水に濡れると、表面に黒色ないし茶色のしみ状の汚れが生じることがある。例えば、木造建築の床パネル用の合板が雨に濡れるとその表面にしみ状に黒色ないし茶色の変色部分が生じる。この現象は、アルカリ汚染と呼ばれるもので、合板等の木質材を製造する際に使用する接着剤であるフェノール樹脂系接着剤からアルカリ性の成分が溶け出し、その成分が木材の成分と反応してしみ状の変色部分を生じさせるものである。
合板等の木質材にアルカリ汚染が生じると、強度等の物性に影響はないものの、美観が損なわれることで商品価値が大きく損なわれる。このようなアルカリ汚染を防止することは、木質材が人の目に見える用途に使用される場合に有益であることは勿論、木質材が、木造建築の床下地材、化粧板の基材等、最終的には目に見えない用途に使用される場合にも、途中の段階で人の目に触れる可能性があることを考慮すれば有益である。
【0003】
アルカリ汚染の防止方法として、特許文献1には、フェノール樹脂系接着剤を使用して製造された木質基材と木質化粧単板とからなる化粧板を製造するに際し、木質基材と木質化粧単板との間にポリサンド紙を介在させる方法が記載されている。
しかし、この方法は、フェノール樹脂系接着剤を使用して製造された木質材を、その表面を化粧材等で被覆しないで用いる場合には使用することができない。また、ポリサンド紙を挟み込むことによる製造工程の複雑化やコスト増の問題もある。
【0004】
また、アルカリ汚染の防止方法として、撥水剤などによる木質材の処理も行われているが、効果が一時的であり、水分を長時間接触させた場合には、該水分が浸透してアルカリ汚染が生じてしまい、根本的な解決方法とはなっていない。
また、木材のしみ消しや色の統一のために、木材を過酸化水素水で処理することが知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法は、しみ等が生じたときの対処法にすぎない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−211674号公報
【特許文献2】特開昭60−176718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、木質材のアルカリ汚染を簡便且つ経済的に防止することのできる、木質材のアルカリ汚染の防止方法、及びアルカリ汚染防止剤を提供することにある。
また、本発明の目的は、水に濡れてもアルカリ汚染が生じにくいアルカリ汚染防止木質材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、木質材を、2価の鉄イオンの存在下に過酸化水素水で処理することを特徴とする、木質材のアルカリ汚染の防止方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
また、本発明は、過酸化水素水と該過酸化水素水に混合される硫酸第1鉄とからなる、木質材のアルカリ汚染防止剤を提供することにより前記目的を達成したものである。
また、本発明は、硫酸第1鉄を混合した過酸化水素水で木質材を処理して得られるアルカリ汚染防止木質材を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルカリ汚染の防止方法及びアルカリ汚染防止剤よれば、木質材のアルカリ汚染を簡便且つ経済的に防止することができる。
本発明のアルカリ汚染防止木質材は、水に濡れてもアルカリ汚染が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明においては、木質材を、2価の鉄イオンの存在下に過酸化水素水で処理する。
2価の鉄イオンの供給源としては、強酸の鉄塩が好ましく用いられ、特に硫酸第1鉄が好ましく用いられる。硫酸第1鉄としては、無水塩、一、四、五、七水塩等を用いることができ、コスト等の観点から、硫酸鉄(II)七水塩〔FeSO4・7H2O〕を用いることが好ましい。
【0010】
過酸化水素水は、過酸化水素の濃度が2〜25質量%であることが、アルカリ汚染の防止及び処理コストの抑制の点から好ましく、より好ましくは8〜20質量%であり、更に好ましくは10〜15質量%である。
2価の鉄イオンは、硫酸第1鉄を過酸化水素水に混合して供給することが好ましい。過酸化水素水に対する硫酸第1鉄の好ましい配合量は、硫酸鉄(II)七水塩の添加量で示したときに、過酸化水素水100gに対して、10〜100mgであることが好ましく、より好ましくは30〜80mgであり、更に好ましくは50〜70mgである。
【0011】
過酸化水素水による木質材の処理は、2価の鉄イオンの供給源である硫酸第1鉄等の鉄塩を過酸化水素水に混合し、その混合液を木質材に塗布することが好ましい。塗布方法としては、木質材に処理液を付着できれば良く、刷毛塗り、ロールコーター、スプレーコーター、浸漬等の各種公知の方法を特に制限なく用いることができる。また、木質材に、硫酸第1鉄の水溶液を塗布した直後に過酸化水素水を塗布することもできる。
【0012】
本発明のアルカリ汚染防止剤は、過酸化水素水と該過酸化水素水に混合される硫酸第1鉄とからなる。硫酸第1鉄に含まれる2価の鉄イオンは、過酸化水素により酸化されると酸化鉄になる。従って、液状の過酸化水素水と、固体の硫酸第1鉄又はその水溶液とを別にしておき、使用時に、硫酸第1鉄を過酸化水素水に混合して用いることが好ましい。硫酸第1鉄を過酸化水素水に混合してから、木質材の処理に使用するまでの時間は、24時間以内であることが好ましい。
【0013】
過酸化水素水に硫酸第1鉄を混合する方法としては、各種公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、過酸化水素水に硫酸第1鉄を添加し、手やスターラー、各種の攪拌機でかき混ぜたり、過酸化水素水を収容した容器に硫酸第1鉄を添加した後、蓋を閉めて振っても良い。また、過酸化水素水には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分が混合されていても良いし、過酸化水素水に、硫酸第1鉄と共に他の成分を混合しても良い。硫酸第1鉄以外に加える成分としては、防カビ剤、防腐剤、撥水剤等が挙げられる。また、硫酸第1鉄は、粉体等の固体として混合することができる他、硫酸第1鉄の水溶液を過酸化水素水に添加しても良い。
【0014】
本発明で使用する木質材としては、合板、LVL(単板積層材)、パーティクルボード、OSB、繊維板(MDF等)等が挙げられる。本発明は、フェノール樹脂系接着剤を含む木質材の場合、特にフェノール樹脂系接着剤を用いて製造した合板又はLVLの場合に好ましく用いられる。フェノール樹脂系接着剤を含む木質材の場合、その木質材自体から、アルカリ汚染を生じさせるアルカリ性の成分がしみ出すので、アルカリ汚染を生じ易いからである。但し、水分によりコンクリートやモルタル等の塩基性材料から塩基性物質が染みだし、その塩基性材料に隣接ないし接触していた木質材にアルカリ汚染が生じる場合もある。そのため、フェノール樹脂系接着剤を含まない木質材であっても本発明を適用する利点がある。
【0015】
木質材を、硫酸第1鉄を混合した過酸化水素水で処理することにより、水分に触れてもアルカリ汚染が生じにくいアルカリ汚染防止木質材が得られる。木質材の処理は、合板等の板状の木質材の片面のみに行っても良いし、両面に行っても良い。また、板状の木質材の片面の一部のみを処理することもできる。硫酸第1鉄を混合した過酸化水素水を塗布した後の木質材は、天然乾燥あるいは人工乾燥することが好ましい。処理後の木質材は、人が通常目にする用途に使用しても良いし、木造建築物の床や壁、天井の下地材、化粧板の基材等、最終的には人の目に触れなくなるような用途に使用しても良い。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0017】
〔実施例1〜5〕
濃度が異なる5種類の過酸化水素水100gに、それぞれ、硫酸鉄(II)七水塩61mgを添加し、攪拌して溶解させた。得られた液を、実施例1〜5の処理液とした。使用した過酸化水素水の過酸化水素の濃度は、10質量%(実施例1)、8質量%(実施例2)、6質量%(実施例3)、4質量%(実施例4)、2質量%(実施例5)とした。
【0018】
〔比較例1〜5〕
下記濃度の過酸化水素水100gを、硫酸鉄(II)七水塩等を添加することなく、そのまま、比較例1〜5の処理液とした。10質量%(比較例1)、8質量%(比較例2)、6質量%(比較例3)、4質量%(比較例4)、2質量%(比較例5)とした。
【0019】
〔比較例6〕
過酸化水素を含まない水100gをそのまま比較例6の処理液とした。
【0020】
実施例1〜5及び比較例1〜6の処理液を、それぞれ、縦横各50mm、厚み12mmの合板からなる試験片の表裏面に塗布し、次いで温度25℃の条件下に72時間放置して乾燥させた。そして、処理後の合板を、トレーに入れ、試験片の上から水をかけて全体を濡らした後、試験片の下半分ほどを水に浸漬した状態で2日間放置した。2日間の放置後、各試験片を、温度25℃の条件下に72時間放置して乾燥させた。
【0021】
乾燥後の試験片を目視にて観察したところ、実施例1〜2の試験片には、しみ状の黒色ないし茶色の変色模様(アルカリ汚染)は生じておらず、実施例3〜5の試験片には、しみ状の黒色ないし茶色の変色模様(アルカリ汚染)が僅かに生じていた。これに対して、比較例1〜2の試験片には、しみ状の黒色ないし茶色の変色模様(アルカリ汚染)が生じており、比較例3〜6の試験片には、しみ状の黒色ないし茶色の変色模様(アルカリ汚染)が著しく生じていた。
図1に、実施例1の処理液で処理したときの試験片の表面の変化を示し、図2に、実施例1及び比較例6の処理液で処理したときの試験片の表面の変化を示した。
【0022】
乾燥後に各試験片の色差を測定し、その結果を表1に示した。
〔色差の測定方法〕
色差の測定には、色彩色差計(CR−400、ミノルタ(株)製)を使用し、まず処理液を塗布、乾燥後の色を測定し、次に2日間水に浸漬、乾燥後の色を測定した。色はL***表色系により値を表わし、次式(1)により色差(ΔE)を算出した。
【数1】

尚、実施例及び比較例のそれぞれについて9枚の試験片を用い、それぞれについての測定値からΔEを算出した。それらの平均値(n=9)を表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示す結果から、過酸化水素水に硫酸第1鉄を添加することにより、色差が少なくなり、アルカリ汚染が効果的に防止されたことが判る。尚、硫酸第1鉄の混合によりアルカリ汚染の防止性が向上する理由は、水中に溶けだして来たタンニンなどの木材成分がアルカリ下で反応して黒色ないし茶色化するのを、硫酸第1鉄の混合による過酸化水素の反応性の向上によって、効果的に阻害しているためと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1の処理液で処理したときの試験片の表面の変化を示す写真であり、(a)は処理液塗布前の試験片(乾燥状態)、(b)は処理液塗布後、水に2日間浸漬した後の試験片(未乾燥状態)、(c)は(b)の試験片の乾燥後を示す。
【図2】比較例6の処理液で処理したときの試験片の表面の変化を示す写真であり、(a)は処理液塗布前の試験片(乾燥状態)、(b)は処理液塗布後、水に2日間浸漬した後の試験片(未乾燥状態)、(c)は(b)の試験片の乾燥後を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材を、2価の鉄イオンの存在下に過酸化水素水で処理することを特徴とする、木質材のアルカリ汚染の防止方法。
【請求項2】
硫酸第1鉄の混合により前記鉄イオンを含有させた過酸化水素水で前記木質材を処理することを特徴とする請求項1記載の木質材のアルカリ汚染の防止方法。
【請求項3】
過酸化水素水と該過酸化水素水に混合される硫酸第1鉄とからなる、木質材のアルカリ汚染防止剤。
【請求項4】
硫酸第1鉄を混合した過酸化水素水で木質材を処理して得られるアルカリ汚染防止木質材。

【図1】
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【図2】
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