説明

木質材の塗装方法

【課題】素材表面の木目を形成する夏材部と春材部に異なる色を着色して木目模様を鮮明化すること。
【解決手段】塗装面となる木質材の素材表面の凹凸を前処理として紙ヤスリ等の削り具で平滑化する前処理工程と、前処理工程で前処理した木質材の素材表面の全面を木目に沿って所要の色の塗料を刷毛塗りする刷毛塗り工程と、刷毛塗り工程で刷毛塗りした塗料が木質材の素材に浸透するのを一定時間放置することで待ち、木質材の素材表面の全面を布等の拭き取り具で拭き取る拭き取り工程と、拭き取り工程で塗料を拭き取った木質材を一定時間放置し、その後、所要の色の塗料をスプレー塗りするスプレー塗り工程と、スプレー塗り工程でスプレー塗りした木質材を一定時間放置して、スプレー塗りした塗料を乾燥させ、木質材の素材表面の全面に下地塗料を塗布して、下地塗料が塗料膜化し、さらに、塗料膜が硬化するまで乾燥させる下地処理工程と、有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材の素地の表面を塗装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質材の塗装方法(着色方法)の一形態として、特許文献1に開示されたものがある。すなわち、特許文献1には、着色用の木質材の素地表面にウッドステインを塗布した後で、この素地表面に高圧・高速の空気を吹き付け、導管部以外の余分なウッドステインを除去することにより、木質材の素地表面を均一に着色した後、塗装仕様にしたがって塗装する木質材の着色方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2645627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記したウッドステインを除去する作業は、風速80/秒の高速空気をカーテン状に吹き付け、毎分5mの速度で移動させることで、ウッドステインを飛散させるもので、かかる作業は所要の装置を必要とする上に、煩雑なものである。そのため、かかる木質材の着色方法は作業効率が良くないという不具合がある。
【0005】
ところで、通常、温帯から寒帯の木の断面には同心円状の模様、つまり年輪が形成される。この年輪が輪状に見えるのは、春期には幹の肥大成長が盛んで細胞壁が疎になり、夏期には幹の肥大成長がゆっくりとなって細胞壁が密になるためである。その結果、年輪は、春期に形成された色の薄い部分(春材部)と夏期に形成された色の濃い部分(夏材部)とで形成される。このような年輪を有する木材を長手方向に切断すると、春材部と夏材部とで木目が現出される。
【0006】
ここで、木目の夏材部は細胞壁が密であるため、夏材部は塗料を吸い込まない。そのため、木目部分を鮮明に着色するのは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、素材表面の木目を形成する夏材部と春材部に異なる色を着色することで、木目模様を鮮明化することができる上に、かかる作業を簡単かつ迅速に行うことができる木質材の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の発明にかかる木質材の塗装方法は、塗装面となる木質材の素材表面の凹凸を前処理として紙ヤスリ等の削り具で平滑化する前処理工程と、前処理工程で前処理した木質材の素材表面の全面を木目に沿って所要の色の塗料を刷毛塗りする刷毛塗り工程と、刷毛塗り工程で刷毛塗りした塗料が木質材の素材に浸透するのを一定時間放置することで待ち、木質材の素材表面の全面を布等の拭き取り具で拭き取る拭き取り工程と、拭き取り工程で塗料を拭き取った木質材を一定時間放置し、その後、所要の色の塗料をスプレー塗りするスプレー塗り工程と、スプレー塗り工程でスプレー塗りした木質材を一定時間放置して、スプレー塗りした塗料を乾燥させ、木質材の素材表面の全面に下地塗料を塗布して、下地塗料が塗料膜化し、さらに、塗料膜が硬化するまで乾燥させる下地処理工程と、有することを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明にかかる木質材の塗装方法は、請求項1記載の木質材の塗装方法であって、スプレー塗り工程の後に、所要の色の塗料をさらにスプレー塗りする第2スプレー塗り工程、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、次の効果を奏する。すなわち、木質材の素材表面を形成する木目の夏材部と春材部にそれぞれ異なる色を着色することで、木目模様を鮮明化することができる。しかも、木目の夏材部と春材部の色をそれぞれ多種類から選択することができる上に、適宜組み合わせることができる。そして、その色の組み合わせによって高級感や斬新さ等を醸し出すことができる。そのため、例えば、家屋の外壁を形成する木質材を塗装する場合に、上記したように需用者の好みに適合した色で木目模様を鮮明化させることができるとともに、個性化や差別化が図れて、需用者の満足度を高めることができる。そして、景観も高めることができる。また、かかる塗装作業は簡単かつ迅速に行うことができる。そのため、木質材の塗装作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】塗装工程の説明図。
【図2】前処理工程で前処理した木質材の斜視図(a)と正面図(b)。
【図3】刷毛塗り工程の斜視説明図(a)と刷毛塗り後の木質材の正面図(b)。
【図4】拭き取り工程の斜視説明図(a)と拭き取り後の木質材の正面図(b)。
【図5】スプレー塗り工程の斜視説明図(a)とスプレー塗り後の木質材の正面図(b)。
【図6】後処理工程の斜視説明図(a)と塗装を完了した木質材の正面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1に示す工程図は、本実施形態にかかる木質材Wの塗装工程Kを示すものである。この木質材Wの塗装工程Kは、前処理工程K1、刷毛塗り工程K2、拭き取り工程K3、スプレー塗り工程K4、及び後処理工程K5を有している。
【0013】
前処理工程K1は、塗装面となる木質材Wの素材表面の凹凸を前処理として紙ヤスリ(ペーパー)等の削り具(図示せず)で平滑化する工程である。
【0014】
刷毛塗り工程K2は、前処理工程K1で前処理した木質材Wの素材表面の全面を木目に沿って所要の色の塗料Phを刷毛塗りする工程である。ここで、木目は細胞壁が密の夏材部Wnと細胞壁が疎の春材部Whとから形成されている。Hは刷毛である。
【0015】
拭き取り工程K3は、刷毛塗り工程K2で刷毛塗りした塗料Phが木質材Wの素材に浸透するのを一定時間放置することで待ち、木質材Wの素材表面の全面を布等の拭き取り具Fで拭き取る工程である。
【0016】
スプレー塗り工程K4は、拭き取り工程K3で塗料Phを拭き取った木質材Wを一定時間放置し、その後、所要の色の塗料Psを温風ガンスプレーGによりスプレー塗りする工程である。この際、スプレー塗りする塗料Psは、刷毛塗り工程K2で刷毛塗りした塗料Phとは異なる色の塗料Ps、望ましくは白色、灰色等の薄めの色を採択して、刷毛塗りして春材部Whに浸透させた塗料Phに散布することで、残春材部Whの塗料Phの色を薄める(変色させる)ことができる。ここで、拭き取り工程K3で春材部Whの素材に浸透した塗料Phは完全に乾いていないため、刷毛Hで塗装すると、単に色が混合して一色の塗料Pが木質材Wの素材表面の全面を覆い尽くすことになる。しかし、スプレー塗装することで、夏材部Wnにおけるスプレーした塗料Psの色と、春材部Whにおける浸透させた塗料Phの色とスプレーした塗料Psの色との合体色(変色)Pcを明確かつ鮮明に色別化して、高級感や斬新さ等を醸し出すことができる。
【0017】
また、スプレー塗り工程K4は、第1スプレー塗り工程K4aと第2スプレー塗り工程K4bの二段階の工程を設けることができる。第1スプレー塗り工程K4aの後に、所要の色(例えば、黄色)の塗料をさらにスプレー塗りする第2スプレー塗り工程K4bを設けることもできる。第2スプレー塗りを行うと、第1スプレー色を有する夏材部Wnに部分的に第2スプレー色が発現して、色彩の多様化を楽しむことができる。この際、部分的に発現する第2スプレー色の場所と範囲は、木質材Wの夏材部Wnの材質等によるため、発現する色調の意外性を楽しむこともできる。
【0018】
後処理工程K5は、下地処理工程K5aと上塗り工程K5bからなる。下地処理工程K5aは、スプレー塗り工程K4でスプレー塗りした木質材Wを一定時間放置して、スプレー塗りした塗料Psを乾燥させ、木質材Wの素材表面の全面に下地塗料Puを温風ガンスプレーGによりスプレー塗装して、下地塗料Puが透明に塗料膜化し、さらに、塗料膜(図示せず)が硬化するまで乾燥させる工程である。そして、塗料膜が硬化したら、紙ヤスリ等で塗料膜を滑らかになるまで削ることで、仕上がりの見栄えをよくする。上塗り工程K5bは、下地処理工程K5aで下地処理した木質材Wの素材表面の全面に上塗り塗料(保護塗料)Poを温風ガンスプレーGによりスプレー塗装する工程である。かかる上塗り工程K5bで塗料膜が硬化したら完成である。したがって、かかる上塗り工程K5bが最終工程である。
【実施例】
【0019】
次に、図1〜図6を参照しながら本実施例を具体的に説明する。
【0020】
〔前処理工程K1において〕
削り木材である木質材Wの素材表面を、紙ヤスリ180番で削ることで荒目をなくして滑らかに仕上げた。さらに、180番より細かい紙ヤスリ320番でもう一度木目に沿って細かく凹凸を削った。
【0021】
〔刷毛塗り工程K2において〕
主剤と硬化剤を体積比9:1の割合で混合した二液型のウレタン樹脂塗料である商品名「エバーロックウレタン」(ロックペイント株式会社製)を、シンナーで薄めた(塗料とシンナーを体積比3:7の割合で調合)。この薄めた塗料Phを木質材Wの素材表面の全面に染み込ませるように塗った。ここで、刷毛塗りする塗料Phの色として緑色を採択した。
【0022】
〔拭き取り工程K3において〕
刷毛塗り工程K2で塗料Phを塗った木質材Wを常温下で5分間放置して、木質材Wに塗料Phが浸透するのを待った。拭き取り具としての布Fで木質材Wに塗った塗料Phを拭き取った。この際、布Fは木目に沿わせて拭き取り摺動させた。そして、夏材部Wnは塗料Phを吸い込まないため、夏材部Wnに塗料Pが残らないように、再度、きれいな布Fで拭き取った。
【0023】
〔スプレー塗り工程K4において〕
拭き取り工程K3で塗料Phを拭き取った木質材Wを常温下で5分間放置した。その後、スプレー塗りする塗料Psの色として白色を採択した。その結果、夏材部Wnは白色で、春材部Whは合体色(変色)Pcとして薄緑色になった。この際、夏材部Wnの白色と春材部Whの薄緑色のコントラストで、木目を鮮明化することができた。そして、木目を堅実に保護、つまり、撥水性、防カビ性、耐久性を良好に確保することができた。
【0024】
〔下地処理工程K5aにおいて〕
スプレー塗り工程K4でスプレー塗りした木質材Wの塗料を常温下で約6〜10時間程度乾燥させた。その後、木質材Wの素材表面の全面に下地塗料Puとしてのウレタン樹脂塗料である商品名「エバーロック」(ロックペイント株式会社製)を、温風ガンスプレーGで塗料膜化するまで吹き付けた。そして、4時間程、塗料膜が硬化するまで乾燥させた。塗料膜が硬化したところで、紙ヤスリ320番で塗料膜を表面が滑らかになるまで削って見栄えをよくした。
【0025】
〔上塗り工程K5bにおいて〕
木質材Wの素材表面の全面に下地処理した塗料膜に、上塗り塗料(保護塗料)Poとして商品名「エバーロック」(ロックペイント株式会社製)を、温風ガンスプレーGで斑のないように吹き付けた。塗料膜化して塗料膜が硬化したところで完了とした。その結果、素材表面の木目模様が鮮明化した木質材Wを得ることができた。
【符号の説明】
【0026】
W 木質材
K 塗装工程
K1 前処理工程
K2 刷毛塗り工程
K3 拭き取り工程
K4 スプレー塗り工程
K5 後処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装面となる木質材の素材表面の凹凸を前処理として紙ヤスリ等の削り具で平滑化する前処理工程と、
前処理工程で前処理した木質材の素材表面の全面を木目に沿って所要の色の塗料を刷毛塗りする刷毛塗り工程と、
刷毛塗り工程で刷毛塗りした塗料が木質材の素材に浸透するのを一定時間放置することで待ち、木質材の素材表面の全面を布等の拭き取り具で拭き取る拭き取り工程と、
拭き取り工程で塗料を拭き取った木質材を一定時間放置し、その後、所要の色の塗料をスプレー塗りするスプレー塗り工程と、
スプレー塗り工程でスプレー塗りした木質材を一定時間放置して、スプレー塗りした塗料を乾燥させ、木質材の素材表面の全面に下地塗料を塗布して、下地塗料が塗料膜化し、さらに、塗料膜が硬化するまで乾燥させる下地処理工程と、
を有することを特徴とする木質材の塗装方法。
【請求項2】
スプレー塗り工程の後に、所要の色の塗料をさらにスプレー塗りする第2スプレー塗り工程、
を有することを特徴とする請求項1記載の木質材の塗装方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate