説明

木質系床材及び建物

【課題】仕上材がスギなどの軟質木材であっても、その耐磨耗性及び耐傷性を向上させると共に、仕上げ面が傷ついた場合であっても復元が容易な木質系床材、及び、耐久性の高い建物を提供する。
【解決手段】木質基材10と、木質基材に塗装された木質基材強化保護層40と、木質基材強化保護層に塗装された表面保護層50と、を含む木質系床材100であって、木質基材強化保護層40が、平均繊維長300〜2000μmのセルロース構造の木材繊維を0.5〜25重量部を含んだ下地樹脂塗料により形成されている。また、木質床材により床を構成した建物は、木質基材10がスギなどの軟質木材であっても、その耐磨耗性及び耐傷性を向上させると共に、仕上げ面が傷ついた場合であっても仕上げ状態の復元が容易で耐久性の高い建物となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐磨耗性及び耐傷性に優れた木質系床材及びこれを用いた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の床材には、樹脂系や木質系の材料が使用されている。木質系床材は直接接触する面として、触感・意匠性・断熱性の点で、樹脂系の床材に優れ、居住性が求められる住宅や学校などの用途の建物に使われている。また、木質系床材としては、一枚の板材からなる単層板材とともに、複数の合板を重ね合わせた上に、表層に0.25〜4.0mmの木製単板を仕上板として張った複層板材も用いられている。
【0003】
従来から、単層板材の樹種としては、椅子や家具などを移動させても傷がつきにくいことから、なら、かば、ぶな、チーク、花梨などの無垢の硬質の板材が用いられてきた。一方、複層板材は、表層の木製単板の厚さを超える損傷が発生した場合には、著しく見栄えが低下し、床材の一部を取り替える必要が生じるという欠点があるにも関わらず、価格面や施工性が優れていることから、表層に上記単層板材の樹種の仕上げに似せた木製単板を張ったものが使用されてきた。
【0004】
そして、学校の教室や体育館などのように、学習机や体育器具などの移動が日常的に行われ、仕上げ表面が傷つきやすい用途の居室では単層板材が使用され、家具の移動などが少ない住宅の居室などでは複層板材が使用され使い分けられてきた。ところが、スギなどの針葉樹はその繊維質が柔らかいため、家具を載せたり、引きずったりする用途の居室の床材としては、その表面に傷がつき易く、磨耗し易いことから、上述のような体育館や教室の床では使うことができないという問題があった。
【0005】
一方、地域で生産された原材料を活かして用いるという地産地消のニーズから、国内の多くの地域で生産されているスギやヒノキなどを床材料として使うことを可能にする技術が開発されている。まず、スギなどの木材を圧縮して硬化した上で、その表面に硬化皮膜を形成する技術があるが、木材を圧縮硬化する技術は、加工コストが高価であるため普及が進んでいない。また、樹種の表面に硬化皮膜を形成させる技術としては、例えば、木質基板の表面に、アミノアルキッド樹脂液に炭化珪素やホワイトアルミナなどの無機質充填剤を配合し混合させた下塗り塗料を塗装し、この上に上塗り塗料を塗装して、耐磨耗性を向上させる技術が知られている。
【0006】
しかしながら、この従来技術によった場合には、木質基板の下塗り塗料に配合される上記無機質充填剤の比重が大きいため、下塗りの塗装工程において無機質充填剤が沈殿し均一に分散されないことがあり、これにより表面における耐磨耗性にばらつきが生じ、耐傷性は確保できるものの、耐磨耗性が十分に得られない場合があるという課題があった。
【0007】
更に、特開平1−105861号公報には、木質基板の表面に下塗り塗料により下塗膜層を形成し、この下塗膜層に無機質充填剤を含有する中塗り塗料により中塗膜層を形成し、この中塗膜層の上に粉末樹脂系ワックスを含有する上塗り塗料により上塗膜層を設けた木質床材に関する技術が開示されている。この技術は、中塗膜層には耐磨耗性及び耐傷性を確保し、更に上塗膜層により耐磨耗性を向上させるものである。
【0008】
また、木質系材料に硬化皮膜を形成する別の従来技術としては、木質系材料に紫外線硬化型塗装をするという技術がある。この技術は、溶剤を用いず、紫外線照射により短期間で塗膜が硬化し、価格も安価であることから普及が進んでいる。しかし、その効果は塗装の厚さの範囲内にとどまり、その塗膜は木材が持っている伸縮性に追従することができず、塗装に微細なひび割れが入り易く、傷がついた場合には、傷周辺において美観が損なわれた状態となり易く、傷が木質材に及びやすく、その復元が困難であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−105861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、スギやヒノキなどの軟質の木質材料を使用した耐磨耗性及び耐傷性に優れた床材、及びこれを用いた建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の発明は、木質基材と、前記木質基材に塗装された木質基材強化保護層と、前記木質基材強化保護層に塗装された表面保護層と、を含む木質系床材であって、
前記木質基材強化保護層が、少なくとも前記木質基材の室内面側に、平均繊維長300〜2000μmのセルロース構造の木材繊維を0.5〜25重量部を含んだ下地樹脂塗料を塗装したことにより形成されている、ことを特徴としている。
【0012】
本発明の木質系床材は、木質基材に繊維長300〜2000μmのセルロース構造の木材繊維を含んだ下地樹脂塗料により塗装されて木質基材強化保護層が形成されている。下地樹脂塗料に含まれている木材繊維の平均繊維長が300〜2000μmであるため、塗装面に耐磨耗性及び耐傷性を付与する。平均繊維長が300μm未満の場合は、十分に表面硬度を上げることができず、塗装面に十分な耐磨耗性及び耐傷性を付与することが困難であり、平均繊維長が2000μmを超えると凸凹が大きくなり平滑性が劣ることになる。また木材繊維が下地樹脂塗料に対して0.5重量部未満である場合には床材としての表面硬度を確保することが困難になり、木材繊維が下地樹脂塗料に対して25重量部を超える場合には塗装表面の平滑性が劣ることになる。
【0013】
木質基材強化保護層に含まれる木材繊維は変形に対応可能であるため木質基材の変形に追従して木質基材の表面を覆い、木質基材の節を脱落させることもなく、木質基材の節が脱落して穴があくことを防止する。また木質基材強化保護層には、表面保護層が塗装されているため、下地樹脂塗料に含まれている木材繊維により木質基材強化保護層に凸凹ができても、それを表面保護層が平滑に保ち、高い意匠性を保持する。
【0014】
これにより、木質系床材に高い耐磨耗性及び耐傷性を付与することができる。また、木質系床材が節を含んだ床材である場合であっても、硬い節だけが残り柔らかい部分だけが減ることがなく、美しい状態で木質系床材が長期間耐用可能となる。
【0015】
また、木質基材強化保護層には表面保護層が形成されているため、表面保護層に擦り傷がついた場合であっても、木質基材は強化保護層により保護され擦り傷がつきにくい。そして、所定の年月が経過し、表面保護層の一部が擦り減り、表面保護層の美観が低下した場合には、表面保護層の擦り減った劣化部分を研磨して削除して、再度、表面保護層を塗り足すことにより、美観を復元するとともに、木質系床材を長期間使用可能とする。
【0016】
本発明の第2の発明は、第1の発明の前記木質系床材において、下地樹脂塗料がウレタン樹脂系塗料であることを特徴としている。ウレタン樹脂系塗料としては、例えば、OH基を持つポリエステル、アルキド、アクリルなどのポリオール樹脂を主成分とする塗料主剤に、NCO基を持つポリイソシアネート樹脂を主成分とする硬化剤を混合することによりウレタン結合を形成し、常温で硬化乾燥する2液型ポリウレタン樹脂塗料によると好適である。これにより、安価に且つ容易に耐磨耗性及び耐傷性に優れた塗膜を形成することができる。
【0017】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明の前記木質系床材において、前記木質基材強化保護層の乾燥状態膜厚さが250〜400μmであることを特徴としている。すなわち、塗膜厚さが200μm未満となると、スギなどの軟質木材を床材として使用するに十分な表面硬度を確保するのが困難となるおそれがある。また、塗膜厚さが400μmを超えると、塗装作業工程上、多大な時間を要したり、コストアップになるとともに塗膜内に気泡を発生させるおそれもある。すなわち、乾燥状態膜厚さを250〜400μmとすることにより、木質基材に効率的に高い耐磨耗性及び耐傷性を備えた塗装をすることが可能になる。
【0018】
本発明の第4の発明は、第1乃至第3の発明の前記木質系床材において、前記木質基材強化保護層が少なくとも2層からなることを特徴としている。木質基材強化保護層が複層で構成されることにより、気泡の発生の可能性を抑えて、作業効率を向上させ、所定の厚さの木質基材強化保護層を構成することが容易になる。
【0019】
本発明の第5の発明は、第2乃至第4の発明の前記木質系床材において、前記表面保護層がウレタン樹脂系塗料であり、乾燥塗膜厚さが60〜100μmであることを特徴としている。表面保護層が木質基材強化保護層と同一材質のウレタン塗装であるため、層間の馴染みがよく、塗装が一体化し、基材強化保護層と表面保護層とが同一の変形性を有する。木質系床材の美観を保つ乾燥塗膜厚さが木質基材強化保護層よりも薄く形成され、耐磨耗性及び耐傷性の高い塗装を少量の塗料で、高い作業効率で実現することができる。
【0020】
本発明の第6の発明は、第1乃至第5の発明の前記木質系床材において、前記木質基材が、無垢板であることを特徴としている。第6の発明においては、木質基材は無垢板としている。スギなどの針葉樹のように柔らかい木質の無垢板、又は節が多く散在する間伐材の無垢板に本発明を適用すれば、それらの柔らかい樹種の無垢板を耐磨耗性及び耐傷性に優れた単層床材として使用することができる。これにより、建物に使用する床材の木質基材が、建物建設地に近い場所で伐採された柔らかい樹種の針葉樹からなっている場合であっても、それを用いて、柔らかいけれども割れにくい耐磨耗性及び耐傷性に優れた単層床材が提供できる。
【0021】
本発明の第7の発明は、第1乃至第5の発明の前記木質系床材において、前記木質基材が、複数の木質部材を貼り合わせた木質基材であることを特徴としている。第7の発明においては、木質基材は複層板材又は集成材から成る。複層板材は、ラワン材などに代表される南洋材やマツ材、スギ材、ヒノキ材などからなる合板を、繊維方向が異なるようにして、複数層重ね合わせて形成し、その表層に仕上げ突板を張設した合板である。また、集成材は、断面寸法の小さい木材を再構成したものである。これらの木質基材の表層に本発明を適用し、表層に基材強化保護層と表面保護層を設けるだけで所定の耐磨耗性及び耐傷性に優れた木質系床材を提供することができる。これにより複層板材の間に硬化層を形成するなどの複雑な構成をすることなく、安価に簡単な工程で耐磨耗性及び耐傷性に優れた複層床材を提供することができる。
【0022】
本発明の第8の発明は、第1乃至第7の発明の前記木質系床材を用いた建物である。耐磨耗性及び耐傷性の高い木質系床材を使用しているので、例えば、学校の教室又は体育館のように、机などを日常的に移動する用途に使う居室の建物に使用した場合でも、床が傷つきにくく且つ擦り減りにくい。長期間の使用によって、木質系床材の表面保護層が擦り減った場合には、表面保護層を塗り足していけば床の張替えを必要としない。これにより木質の柔軟性、木質の風合いの意匠性に加えて、耐磨耗性及び耐傷性の物性に優れた床を備えた、耐久性の高い維持管理の容易な建物を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
木質系床材が軟質のものであっても、木質系床材に高い耐磨耗性及び耐傷性を付与することができる。また、木質系床材が節を含んだ床材である場合であっても、節などの硬い部分だけが残り柔らかい部分だけが減ることがなく、所定の期間毎に表面保護層を塗り足すことにより、美観を復元するとともに、木質系床材を長期間使用可能とする。また、本発明の木質床材により床を構成した建物は、床仕上材がスギなどの軟質木材であっても、その耐磨耗性及び耐傷性を向上させると共に、仕上げ面が傷ついた場合であっても仕上げ状態の復元が容易で且つ耐久性が高い建物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、単層木質基材を説明する断面図である。
【図2】図2は、木質系床材と塗装塗膜を説明する要部断面図である。
【図3】図3は、単層木質系床材の斜視図である。
【図4】図4は、複層木質系床材を説明する断面図である。
【図5】図5は、スギを木質基材とした耐磨耗性試験の結果の写真である。
【図6】図6は、スギを木質基材とした耐傷性試験の結果の写真である。
【図7】図7は、ヒノキを木質基材とした耐磨耗性試験の結果の写真である。
【図8】図8は、ヒノキを木質基材とした耐傷性試験の結果の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、木質系床材としてスギ板、ヒノキ板を木質基材とした本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1の木質系床材100は、木質基材10として無垢のスギ板を用いて長尺の単層床板としている。実施例1について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は断面図を示し、図2は木質系床材の木質基材と塗装部の要部断面図を示し、図3は斜視図を示している。
【0026】
まず、図1、図3を参照して実施例1の木質系床材100を詳細に説明する。木質基材10は、幅が約70〜90mm、長さが約1.8〜3.6m、厚さが約15〜18mmであり、一本のスギ材から切り出された板材である。表層には、硬い木質11と柔らかい木質12が交互に年輪として形成され、板目又は木目といわれる木質基材の模様が表れている。また、木質基材には、幹から伸びていた枝の跡が節13として、木質基材本体の所々に散在している。
【0027】
節13は、木質基材本体より硬く、木質基材本体と連続性もないため、樹木の乾燥により脱落して穴を形成することがある。大きな節がある木質基材は製品としては使用されず、小さな節が脱落した穴はパテ処理により穴埋めされ、小さく且つ脱落していない節は、木質基材10に含まれたまま、単層木質系床板100として加工される。(図3参照)
【0028】
ここで図1を参照して木質基材10の断面形状を説明する。木質基材10の断面形状は、その基材長辺の側面には、一方の側面に沿って雄ざね20(図3参照)が、他方の側面には雌ざね30(図3参照)が形成されている。木質基材の雄ざね20は、その隣に並べられた木質基材の雌ざね30と嵌め合わされて建物の床を構成する。雄ざね20は木質基材10の厚さ方向において、その厚さの略半分よりも下方に形成され、木質基材の側面から断面視において台形形状に凸部として突出している。雄ざね20の下方の切り立ち部21は、雄ざねの上方の切り立ち部22よりも外方とされている。これにより、釘を打設した際に雄ざね部が割れることを防止することができる。
【0029】
また、雄ざねの上方の切り立ち部22の下方には、窪み溝23が形成されて、木質系床材を床下地材に固定する釘24の釘頭25の格納空間とされている。これにより、その釘頭25が前記格納空間に格納されるように、木質基材10を図示しない根太などの下地材に釘24を斜めに打ち込むことができる。釘24が斜めに打ち込まれているため、床の上を人が移動して、床が上下に変形しても木質基材20が床下地材から弛んで外れることがなく、また釘頭25が格納空間に格納されているため、隣に並べられた木質基材10の雌ざね部30と干渉することがなく、高い精度で所定の位置に木質基材10を敷き並べることができる。
【0030】
また、雌ざね部30は前記雄ざね部20の台形凸部形状と整合するように凹溝31が形成されている。雄ざね部の凸部と雌ざねの凹溝は傾斜面を介して当接しているため、所定の位置に敷き並べられる際に、後から敷き並べられる木質基材の側方から軽打して加力することにより、隙間なく密着して敷き並べられる。また、雄ざね上部の切り欠き部22の傾斜と雌ざね上部の傾斜32は、雄ざねと雌ざねの頂部近傍で密着し、雄ざね凸部の裾部33で離間するように、各々の切り欠き部に傾斜が形成されている。また、木質基材の突合せ頂部には、木質基材の接合部がささくれ立たないように面取り34が形成されている。
【0031】
また、木質基材10の少なくとも室内面に、木質基材強化保護層40及び表面保護層50が塗装されている。なお、塗装範囲は塗装方法により異なってもよく、少なくとも室内の居室用途側に面する木質系床材100の表面に塗装されていればよい。
【0032】
次に、実施例1で木質基材に塗装される塗料について説明する。
木質基材強化保護層をなす下地樹脂塗料としては、例えば、2液型ポリウレタン樹脂塗料とする。2液型ポリウレタン樹脂塗料以外では、湿気硬化型ポリウレタン樹脂塗料、油変性ポリウレタン樹脂塗料、不飽和ポリエステル樹脂塗料、UV硬化型塗料、フタル酸樹脂塗料、酸硬化型アミノアルキド樹脂塗料、水性塗料などを用いることができる。しかし、2液型のポリウレタン樹脂塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする塗料主剤に、ポリイソシアネート樹脂を主成分とする硬化剤を混合することによりウレタン結合を形成し、常温で硬化が進行し、安価なうえ非常に強固で強靭な塗膜を形成することから好適である。
【0033】
さて、木材繊維としては、セルロース構造の木材繊維を有するものであればよく、例えば、木材から直接削りだした木粉、漂白処理した白色の木材繊維などを使用することができる。木材繊維の平均繊維長は300〜2000μmであり、木材繊維直径は15〜40μmである。なお、木材繊維の精製は、特に必要ではない。木材繊維の原料となる木質材としては、樹種や形状に特に制限はなく、木粉、木材繊維、木材チップなどの木材を粉砕したものや、セルロース、パルプなどの植物繊維を粉砕したものなどを挙げることができる。
【0034】
下地樹脂塗料に含まれている木材繊維の平均繊維長が300〜2000μmであるため、塗装面に耐磨耗性及び耐傷性を付与する。平均繊維長が300μm未満の場合は、十分に表面硬度を上げることができず塗装面に十分な耐磨耗性及び耐傷性を付与することが困難であり、平均繊維長が2000μmを超えると凸凹が大きくなり平滑性が劣ることになる。また木材繊維が下地樹脂塗料に対して0.5重量部未満である場合には床材としての表面硬度を確保することが困難になり、木材繊維が下地樹脂塗料に対して25重量部を超える場合には塗装表面の平滑性が劣ることになる。また、木材繊維直径は15〜40μmであるため、容易に平滑で硬質の塗膜を形成することができる。
【0035】
木質基材強化保護層40は、前記下地塗料を3層塗りしている。塗装は、カーテンフローコーター又は吹付塗装のいずれによってもよい。乾燥塗装厚さが250〜400μmとなるように3層41,42,43に分けて塗装される。この乾燥塗膜厚さが確保されれば、塗り分けの回数に制限はないが、作業性と、塗膜に発泡を生じさせないことから3層とするのが好適である。
【0036】
表面保護層50は、下地樹脂塗料と同じ樹脂塗料とするのが好適であり、実施例1では2液型ポリウレタン樹脂塗料により表面保護層50を塗装している。表面保護層50は、2液型ポリウレタン樹脂塗料を2層塗り51,52している。1層目の下塗り52はカーテンフローコーターにより、木質基材強化保護層を形成した木質基材全体に、偏りなく塗装される。これにより、基材強化保護層40に含まれている木材繊維によって生じた表面の僅かな凸凹があっても、それを均一な面とすることができる。2層目の仕上げ塗り52の塗装方法については、刷毛、ロールコーター、フローコーター、あるいは吹付けなどのいずれの塗装方法によってもよい。
【0037】
ここで、スギ及びヒノキを単層木質基材について、本発明の塗装を適用した木質系床材と、従来の紫外線硬化型塗料(以下UV塗装という。)又は2液性ウレタン樹脂系塗料(以下ウレタン塗装という。)を塗装した木質系床材とを形成して、その一部を試験体として比較・実施した耐磨耗性及び耐傷性試験について説明する。耐磨耗性試験としては、複合合板用の規格試験であるJAS(日本農林規格)フローリング規格磨耗性試験A試験とJASフローリング規格磨耗性試験B試験とを、前記の単層板材を木質基材とし木質系床材に適用して実施した。また、耐傷性試験としては、前記木質系床材に、JIS(日本工業規格)K5600に基づく鉛筆硬度試験と、デュポン衝撃試験により耐衝撃性試験を行った。
【0038】
前記A試験とB試験について、簡単に紹介すると以下のとおりである。
・A試験:
定められた試験装置の回転盤に試験体を水平に固定し、研磨紙(JIS−A1453)#180ペーパーを巻きつけたゴム製円盤2個で500回転を行い磨耗試験を行い、500回転後の表面状態が試験前と著しく変化していない事と、100回転あたりの減磨耗量が0.15gr以下であることが合格の条件である。(通常は突板・単板が削れ、台板のベニアが露出するところを終点としているが、本試験では木質基材が露出したところを終点とした。)
・B試験:
定められた試験装置の回転盤に試験体を水平に固定し、研磨紙(JIS−A1453)#180ペーパーを巻きつけたゴム製円盤2個で100回転を行い磨耗試験を行い、100回転後の表面状態が試験前と著しく変化していない事が合格の条件である。
【0039】
具体的に説明すると、厚さ15mmのスギの無垢板を木質基材として、本発明の前記塗装を適用した木質系床材の実験結果の状態を、耐磨耗性について図5、耐衝撃性について図6に示し、厚さ15mmのヒノキの無垢板を木質基材として、本発明の前記塗装を適用した実験結果の状態を、耐磨耗性について図7、耐衝撃性について図8に示し、これらを参照して説明する。各図(a)図は、本発明を適用した試験体の実験結果の状態を、各図(b)図は従来技術によるウレタン塗装を行った試験体の実験結果の状態を写真で示したものである。
【0040】
まず、スギを木質基材とした木質系床材について説明すると、耐磨耗性試験については、前記従来技術例のウレタン塗装をした試験体は40回転の時点で、UV塗装をした試験体は70回転の時点で、木質基材が露出する状態となりB試験不合格となった。これに対して、本発明を適用した試験体は、500回転の時点でも木質基材が露出することなく、100回転時点の磨耗減量が0.082grとなりA試験合格であった。また、前記鉛筆硬度試験については、前記従来技術例のウレタン塗装及びUV塗装の試験体は6B以下でも凹みができるのに対して、本発明を適用した試験体は5Hまでは異常が無い状態であった。デュポン衝撃試験については、前記従来技術例の試験体は塗装に割れが発生したが、本発明の適用試験体については異常がなかった。(図5、図6参照)
【0041】
次に、ヒノキを木質基材とした木質系床材について説明すると、耐磨耗性試験については、前記従来技術例のウレタン塗装をした試験体は30回転の時点で、UV塗装をした試験体は100回転の時点で、木質基材が露出する状態となりB試験不合格となった。これに対して、本発明を適用した試験体は、800回転の時点でも木質基材が露出することなく、100回転時点の磨耗減量が0.086grとなりA試験合格であった。また、前記鉛筆硬度試験については、前記従来技術例のウレタン塗装及びUV塗装の試験体は6B以下でも凹みができるのに対して、本発明を適用した試験体は5Hまでは異常が無い状態であった。デュポン衝撃試験については、前記従来技術例の試験体は塗装に割れが発生したが、本発明の適用試験体については異常がなかった。(図7、図8参照)
【0042】
上記の試験の比較結果をまとめて下記表1に示した。表1にまとめたように、本発明を適用した試験体は、従来技術によるウレタン塗装及びUV塗装をした試験体と比較して、耐磨耗性及び耐傷性いずれの点においても優れた結果が得られた。
【表1】

【0043】
(実施例2)
実施例2では、表層仕上単板61を下地合板62〜66に張り付けた複層木質系床材60を、図2及び図4を参照して説明する。合板としては、たとえば、ラワン材などに代表される南洋材やマツ材、スギ材、ヒノキ材などからなる合板を挙げることができ、繊維方向が異なる単板を一層毎に複数層、たとえば、3層、5層、7層を配置したものであって、表層の繊維方向が合板の長手方向と平行に構成されたもの、あるいは、表層の繊維方向が合板の長手方向と直交する方向に構成されたものの、いずれであってもよい。実施例2では5層を配置した例を示している(図4参照)が、層数に限定がないことは勿論のことである。
【0044】
実施例2においては、表層の突板61は2.5mmの厚さであり、下地合板を成す5層62〜66の各層も2.5mmであり、木質基材の厚さとしては15mmである(図4参照)。その木質基材に、木質基材強化保護層40と表面保護層50を形成している点については、実施例1と同様である。実施例1と同様に、図2に参照されるように、表層仕上単板に3層の木質基材強化保護層41,42,43と2層の表面保護層51,52を塗装により形成している。塗料の材質、木質繊維などの構成についても実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
(実施例3)
実施例3では、学校の体育館の床材に、実施例1で説明した木質系床材100を張っている。学校の体育館の床は、生徒が体育授業において跳び箱を移動させ、行事の際に椅子を配置し移動させるため傷がつきやすい。しかし、本発明を適用すれば、床は傷つきにくく、且つ擦り減りにくく耐久性が向上する。そして、その使用状況に応じて、例えば3年毎に表層塗装50を塗り足すことにより、床の意匠性も維持することができる。
【0046】
(その他の実施例)
・上記の実施例は、床材として説明したが、床に限定するものではなく、例えば人が出入りし、物を搬入する際に擦り傷を発生させる可能性のある壁に使用することもできる。
・上記の実施例は、スギ、ヒノキの実施例で説明したが、木質基材を成す樹種は針葉樹に限定する必要はなく、硬質の木質基材である場合には、更に木質基材に耐磨耗性及び耐傷性を付与するのは勿論のことである。
・実施例2の複層床材の木質基材に、中密度繊維板(MDF)やパーティクルボードなどの他の木質基材と積層した複合板を用いることもできる。また、垂直方向に木片を積層した集成材であってもよい。
・実施例3では体育館の床に使用する実施例を説明したが、体育館に限定されず教室の床、住宅の床や商店など、建物の用途に限らず本発明が適用できることは勿論のことである。
・なお、本発明は上記各実施例に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施例は適宜変更され得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0047】
100…木質系床材、
10…単層木質基材、
40…木質基材強化保護層、
50…表面保護層、
60…複層木質基材、
20…雄ざね部、
30…雌ざね部、
11…硬い木質、12…柔らかい木質、13…節、
21…下方の切り立ち部、22…上方の切り立ち部、23…窪み溝、
24…釘、25…釘頭、
31…凹溝、32…雌ざね上部の傾斜、33…裾部、
34…面取り、
41,42,43…木質基材強化保護層の各層、
51,52…表面保護層の各層、
61…表層の突板、62,63,64,65,66…合板の各層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質基材と、前記木質基材に塗装された木質基材強化保護層と、前記木質基材強化保護層に塗装された表面保護層と、を含む木質系床材であって、
前記木質基材強化保護層が、少なくとも前記木質基材の室内面側に、平均繊維長300〜2000μmのセルロース構造の木材繊維を0.5〜25重量部を含んだ下地樹脂塗料を塗装したことにより形成されている、
ことを特徴とする木質系床材。
【請求項2】
前記下地樹脂塗料がウレタン樹脂系塗料である、ことを特徴とする請求項1に記載の木質系床材。
【請求項3】
前記木質基材強化保護層の乾燥状態膜厚さが250〜400μmである、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木質系床材。
【請求項4】
前記木質基材強化保護層が少なくとも2層からなる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の木質系床材。
【請求項5】
前記表面保護層がウレタン樹脂系塗料であり、乾燥塗膜厚さが60〜100μmである、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の木質系床材。
【請求項6】
前記木質基材が無垢板である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の木質系床材。
【請求項7】
前記木質基材が、複数の木質部材を貼り合わせた木質基材である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の木質系床材。
【請求項8】
前記請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の木質系床材を用いた、ことを特徴とする建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−62650(P2012−62650A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206276(P2010−206276)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(506423073)中部フローリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】