説明

未加硫ジエン系ゴム凝固物およびその製造方法、未加硫ゴム組成物、ならびに空気入りタイヤ

【課題】アンモニウム塩の含有量が低減された未加硫ジエン系ゴム凝固物およびその製造方法を提供すること、該未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物の加硫ゴムおよび空気入りタイヤの接着性、発熱性、および補強性を大幅に向上すること。
【解決手段】天然ゴムラテックスを主成分とするジエン系ゴムラテックスに微細気泡を添加し、前記ジエン系ゴムラテックス中に含まれるアンモニアを除去することにより、前記ジエン系ゴムラテックスを凝固する工程を有することを特徴とする未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫ジエン系ゴム凝固物およびその製造方法に関し、具体的にはアンモニウム塩が殆ど残存しない未加硫ジエン系ゴム凝固物およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、該未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物、および該未加硫ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するゴム組成物を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、天然ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている(例えば、下記特許文献1)。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、天然ゴムラテックスと、を液相で混合し、その後、ギ酸や硫酸などの強酸や塩化アルミニウムなどの塩からなる凝固剤を用いて、天然ゴムラテックスを凝固する凝固工程を経て、最終的に脱水・乾燥するものである。かかる凝固工程では、天然ゴムラテックス中にて、ラテックスの安定剤として作用するアンモニアを凝固剤により中和して、アンモニウム塩として析出させることにより、天然ゴムラテックスを凝固させるのが一般的である。得られる天然ゴム凝固物中には、析出したアンモニウム塩が含まれるため、天然ゴム凝固物を繰り返し洗浄することにより、アンモニウム塩を除去する必要がある。かかる洗浄が不十分であると、天然ゴム凝固物を原料とした加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性に悪影響を及ぼすことが問題となっていた。一方、洗浄を十分に行うことは、加硫ゴムの物性を考慮すると好ましいが、多くの時間と労力を費やすため、生産性の悪化に繋がる。また、洗浄後の廃液は強酸を含有するため、廃棄の際、環境への悪影響が懸念されていた。
【0003】
下記特許文献2では、導電性充填材が配合されたラテックス組成物に、該ラテックス組成物を凝固させない気体を添加し、これらを機械的撹拌することにより、導電性発泡材を製造する方法が記載されている。しかしながら、かかる特許文献に記載の製造方法では、未加硫ゴム組成物の原料となり得る未加硫ジエン系ゴム凝固物が製造できるわけではない。
【0004】
また、下記特許文献3では、機械的に発生させた高速流によるせん断力を利用して、酸などの凝固剤を使用することなく、充填材を含有する天然ゴムラテックスを凝固する方法が記載され、高速流の補助流体として大気ガスを導入しても良い点が記載されている。しかしながら、かかる特許文献に記載の方法では、補助流体を含む高速流が循環しないため、未加硫ジエン系ゴム凝固物の回収率が悪く、さらに充填材の分散度合いが不均一なため、得られる未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物中の充填材の分散性が悪化し、最終的な加硫ゴムの補強性が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−99625号公報
【特許文献2】特開2004−202989号公報
【特許文献3】特表2000−507892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アンモニウム塩が殆ど残存しない未加硫ジエン系ゴム凝固物およびその製造方法を提供すること、該未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物の加硫ゴムおよび空気入りタイヤの接着性、発熱性、および補強性を大幅に向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法は、天然ゴムラテックスを主成分とするジエン系ゴムラテックスに微細気泡を添加し、前記ジエン系ゴムラテックス中に含まれるアンモニアを除去することにより、前記ジエン系ゴムラテックスを凝固する工程を有することを特徴とする。
【0008】
上記製造方法によれば、ジエン系ゴムラテックスに添加された微細気泡の圧壊(キャビテーション現象)による衝撃波とジエン系ゴムラテックスへの微細気泡高充填によるガスの高濃度化により、ジエン系ゴムラテックス中に安定剤として存在するアンモニアとの接触面積が増加し、アンモニアが揮発・除去される。これにより、ギ酸や硫酸などの強酸や塩化アルミニウムなどの塩からなる凝固剤を使用することなく、ラテックスの安定剤として作用するアンモニアを除去することができるため、ジエン系ゴムラテックスを凝固することができる。その結果、従来の凝固剤を使用する方法では問題となっていたアンモニウム塩が殆ど残存しない未加硫ジエン系ゴム凝固物を製造することができる。なお、上記製造方法によれば、ジエン系ゴムラテックスを凝固する工程において、アンモニウム塩が殆ど発生しないため、従来の凝固剤を使用する方法では必要であった、未加硫ジエン系ゴム凝固物の洗浄工程も不要となる。
【0009】
上記製造方法において、前記微細気泡の平均気泡径が、100μm以下であること、前記微細気泡の平均個数が、50000個/ml以上であること、さらには前記微細気泡が、空気または二酸化炭素を主成分とする気体からなる微細気泡であることが好ましい。かかる構成によれば、未加硫ジエン系ゴム凝固物をより確実かつ簡便に製造することができる。
【0010】
前記いずれかの製造方法により製造された未加硫ジエン系ゴム凝固物は、アンモニウム塩が殆ど残存しない。したがって、かかる未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物は、接着性、発熱性および補強性が要求される空気入りタイヤ、特にはスチール用トッピングゴムの原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法は、天然ゴムラテックスを主成分とするジエン系ゴムラテックスに微細気泡を添加し、ジエン系ゴムラテックス中に含まれるアンモニアを除去することにより、ジエン系ゴムラテックスを凝固する工程(凝固工程)を有する。
【0012】
天然ゴムラテックスを主成分とするジエン系ゴムラテックスとして、具体的には、固形分(ゴム成分)比で、天然ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴムラテックスを使用する。天然ゴムに由来するゴム物性を維持するためには、天然ゴムを70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。なお、ジエン系ゴムラテックス中に含まれる固形分(ゴム成分)濃度は特に限定されるものではないが、1〜60質量%程度が例示される。
【0013】
天然ゴムラテックスは、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。
【0014】
天然ゴムラテックス以外に含有しても良いジエン系ゴムラテックスとしては、ポリイソプレンゴムラテックス、ポリブタジエンゴムラテックス、ポリスチレンブタジエンゴムラテックスなどが挙げられる。これらのジエン系ゴムラテックスとしては、市販品も好適に使用可能であり、具体的には例えば、ポリイソプレンゴムラテックスとしてIR100K(住友精化社製)、ポリブタジエンゴムラテックスとしてSR−113(日本A&L社製)、ポリスチレンブタジエンゴムラテックスとしてSR−117(日本A&L社製)などが挙げられる。
【0015】
微細気泡を構成する気体としては、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン、酸素またはヘリウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。上記の中でも、空気または二酸化炭素を使用した場合、未加硫ジエン系ゴム凝固物をより確実かつ簡便に製造することができるため好ましい。
【0016】
ジエン系ゴムラテックス中に微細気泡を添加する方法としては、当業者に公知の手法により行うことができる。例えば、機械的撹拌を行い、ジエン系ゴムラテックス中に渦を発生させることにより微細気泡を発生(添加)する方法、あるいは円周方向に水を送流し発生する旋回流の旋回中心が負圧になることを利用して空気を自吸し気相を引きちぎる旋回液流式、ガイドベーンにより気液2送流を螺旋状に誘導し、管内部に固定されたキノコ状突起により破砕するスタティックミキサー式、気体と液体が共存する状態を乱流にして、気体をせん断するように気泡として分離するエジェクター式、絞り部に気液を同時に流し、液流速の急激な変化により精製した衝撃波で大気泡が破砕されるベンチュリー式、加圧した水中に一旦気体を溶かし、急激に減圧することで発生する加圧溶解式、微細孔を通して圧縮空気を液体中に送り出す細孔法式、ローターを外周部のステーターの中で高速回転させることによりガスを自吸させ発生する回転式、気泡を加振させて水分子が引き離され、空洞発生することにより発生する超音波式、窒素と水蒸気の混合蒸気をノズルで吹き込むことで、水蒸気が凝縮し、凝縮しない窒素の気泡生成する蒸気圧縮式、水の電気分解により酸素と水素の微細気泡発生する電気分解式により、微細気泡を添加する方法などが挙げられる。
【0017】
ジエン系ゴムラテックス中に微細気泡を添加する方法としては、市販の微細気泡発生装置を好適に使用することができる。微細気泡発生装置として、具体的には例えば、ニクニ社製マイクロバブルジェネレーターMBG20ND07Z−1HH000型、ルーツ社製Pilot Plantシリーズ9000型、バイ・クリーン社製YJ−07型、オーラテック社製タイプ1,3などが挙げられる。本発明においては、これらの装置を含む循環系プラントを製造し、例えばジエン系ゴムラテックスを40L/min程度で循環させつつ、これらの装置により微細気泡を発生(添加)することが好ましい。
【0018】
ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固し、かつ得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物の加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性を向上するためには、ジエン系ゴムラテックス中に添加する微細気泡の平均気泡径は100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。なお、微細気泡の平均気泡径が小さいほど、ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固でき、かつ得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物の加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性が向上するため、微細気泡の平均気泡径の下限は特に限定されるものではない。
【0019】
さらに、ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固し、かつ得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物の加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性を向上するためには、ジエン系ゴムラテックス中に添加する微細気泡の平均個数は50000個/ml以上であることが好ましく、70000個/ml以上であることがより好ましく、100000個/ml以上であることがさらに好ましい。なお、微細気泡の平均個数が多いほど、ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固でき、かつ得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物の加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性が向上するため、微細気泡の平均個数の上限は特に限定されるものではない。
【0020】
微細気泡の平均気泡径および平均個数の算出方法としては、例えば所定の倍率(例えば10〜1000倍)にて微細気泡の写真画像を撮影し、この画像処理により一定面積当りの微細気泡の平均気泡径を算出(あるいは一定面積当りの個数から換算した平均個数を算出)する方法が挙げられる。
【0021】
ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固するためには、固形分(ゴム成分)を60質量%含有するジエン系ゴムラテックス1Lに対して、微細気泡を25L(27℃、1気圧での体積)以上使用することが好ましい。なお、微細気泡の使用量が多いほど、ジエン系ゴムラテックスを確実に凝固でき、かつ得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物の加硫ゴムの接着性、発熱性、および補強性が向上するため、微細気泡の使用量の上限は特に限定されるものではない。
【0022】
本発明に係る製造方法においては、ジエン系ゴムラテックス中に微細気泡を添加しつつ、必要に応じてジエン系ゴムラテックスを混合してもよい。混合方法は特に限定されるものではなく、主として推力を与えるプロペラ型等の攪拌羽根を備えたものを用いることができるほか、ブレード型の羽根からなるチョッパーのように、主としてせん断力を与える破砕羽根を備えたものを用いることも可能である。また高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法も挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を10〜100℃に温調してもよい。
【0023】
凝固工程の後、必要に応じて未加硫ジエン系ゴム凝固物を脱水・乾燥することにより、未加硫ジエン系ゴム凝固物を製造する。脱水方法としては、メッシュや遠心分離などを利用した公知の手法により、ジエン系ゴムラテックス凝固物を含むラテックス溶液から、ジエン系ゴムラテックス凝固物と水分とを分離する方法が挙げられる。乾燥方法としては、ジエン系ゴムラテックス凝固物を必要に応じて機械的に撹拌しつつ、加熱する方法が挙げられる。乾燥時の加熱温度としては、ジエン系ゴムラテックス凝固物を未加硫状態に保ちつつ、水分率を十分に低減可能な温度、具体的には100〜150℃が好ましい。乾燥後の未加硫ジエン系ゴム凝固物の水分率は、1.5%以下とすることが好ましい。
【0024】
本発明に係る未加硫ジエン系ゴム凝固物は、アンモニウム塩が殆ど残存しない。具体的には、未加硫ジエン系ゴム凝固物中、アンモニウム塩が0.4質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下に低減されている。したがって、かかる未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物は、接着性、発熱性および補強性が要求される空気入りタイヤ、特にはスチール用トッピングゴムの原料として有用である。
【0025】
本発明に係る未加硫ゴム組成物は、未加硫ジエン系ゴム凝固物に加えて、必要に応じてカーボンブラック、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を配合しても良い。
【0026】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0027】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係る未加硫ゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6.5質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、2〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0028】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、1.5〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、2〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明に係る未加硫ゴム組成物は、未加硫ジエン系ゴム凝固物に加えて、必要に応じて、カーボンブラック、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0031】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【実施例】
【0032】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。使用原料および使用装置は以下のとおりである。
【0033】
(使用原料)
a)天然ゴムラテックス
天然ゴム濃縮ラテックス;レヂテックス社製(DRC(Dry Rubber Content)=60%)
天然ゴムフィールドラテックス;Golden Hope社製(DRC=30.5%)
b)カーボンブラック「N326」;「シースト300」(東海カーボン社製)
c)微細気泡を構成する気体
大気ガス(空気)
二酸化炭素ガス(大陽日酸社製)
d)老化防止剤 6PPD(モンサント社製)
e)酸化亜鉛 3号亜鉛華(三井金属社製)
f)レゾルシン 「スミカノール620」(住友化学社製)
g)メラミン誘導体 「サイレッツ963L」
h)硫黄 「クリテックス OT−20」(アクゾ社製)
i)加硫促進剤 N,N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド 「ノクセラーDZ」(大内新興化学社製)
j)凝固剤
ギ酸(一級85%を、10質量%溶液に希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
【0034】
実施例1〜9
天然ゴムラテックスをサタケ社製ポータブルミキサー(A510−0.2AI:0.2kw、50Lタンク)で撹拌しながら、ニクニ社製マイクロバブルジェネレーターMGB20ND07Z−1HH000型を通して循環処理させつつ微細気泡を発生(添加)させることにより、天然ゴムラテックスを凝固させた(凝固工程)。実施例1〜7、実施例9では微細気泡を構成する気体として大気ガス(空気)を使用し、実施例8では微細気泡を構成する気体として二酸化炭素ガスを使用した。なお、表1中の微細気泡の量は、ラテックス1L当りに添加した微細気泡(L)を意味する。
【0035】
凝固工程で得られたジエン系ゴムラテックス凝固物を含むラテックス溶液を、130℃に加熱しつつ、スエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型を使用して水分率が1.5%以下となるまで脱水・乾燥することにより、実施例1〜9に係る未加硫ジエン系ゴム凝固物を製造した。
【0036】
得られた未加硫ジエン系ゴム凝固物と、カーボンブラックおよび各種添加剤とを、表1に記載の配合比にて、バンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、未加硫ゴム組成物を製造した。
【0037】
比較例1
微細気泡を添加することに代えて、凝固剤としてギ酸を添加してジエン系ゴムラテックスを凝固させたこと以外は、実施例1〜9と同様の方法により未加硫ジエン系ゴム凝固物を製造した。なお、ギ酸(10質量%溶液)の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分(ゴム成分)量に対し、3質量%の割合とした。
【0038】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0039】
(加硫ゴムの発熱性)
JIS K6265に準じて、製造した加硫ゴムの発熱性を、損失正接tanδにより評価した。なお、tanδは、UBM社製レオスペクトロメーターE4000を使用し、50Hz、80℃、動的歪2%の状態で測定し、その測定値を指標化した。評価は、比較例1を100としたときの指数評価で示し、数値が低いほど発熱性が低く、良好であることを意味する。結果を表1に示す。
【0040】
(加硫ゴムの補強性(破断時伸び))
JIS K6251に準じて、製造した加硫ゴムの補強性を、破断時伸びにより評価した。評価は、比較例1を100としたときの指数評価で示し、数値が高いほど補強性が高く、良好であることを意味する。結果を表1に示す。
【0041】
(加硫ゴムの接着性)
未加硫ゴム組成物を2枚のシート状に成型し、一方のシートに黄銅メッキ処理したスチールコードを12本/25mm間隔で並べて配置し、他方のシートで挟み込んだ状態で加硫接着した(150℃−30分間加硫)。次に、スチールコードを挟み込んだ2枚のゴムシートを105℃−100%RHで96時間湿熱老化させ、その後、2枚のゴムシートを引き剥がし、スチールコードに対するゴムの被覆率(%)を目視にて評価した。評価は、被覆率が高いほど接着性が良好であることを意味する。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、比較例1の未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物の加硫ゴムに比べて、実施例1〜9の未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物の加硫ゴムでは、発熱性、補強性、および補強性が向上することがわかる。特に、湿熱劣化後の接着性については、比較例1に比べて飛躍的に向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスを主成分とするジエン系ゴムラテックスに微細気泡を添加し、前記ジエン系ゴムラテックス中に含まれるアンモニアを除去することにより、前記ジエン系ゴムラテックスを凝固する工程を有することを特徴とする未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法。
【請求項2】
前記微細気泡の平均気泡径が、100μm以下である請求項1に記載の未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法。
【請求項3】
前記微細気泡の平均個数が、50000個/ml以上である請求項1または2に記載の未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法。
【請求項4】
前記微細気泡が、空気または二酸化炭素を主成分とする気体からなる微細気泡である請求項1〜3のいずれかに記載の未加硫ジエン系ゴム凝固物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造された未加硫ジエン系ゴム凝固物。
【請求項6】
請求項5に記載の未加硫ジエン系ゴム凝固物を含有する未加硫ゴム組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の未加硫ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。
【請求項8】
請求項6に記載の未加硫ゴム組成物をスチール用トッピングゴムに用いた請求項7に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−158716(P2012−158716A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20972(P2011−20972)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】