説明

未成熟な単球性樹状細胞の活性化を誘導するための組成物および方法

本発明は、未成熟樹状細胞(DC)の成熟を誘導する方法および樹状細胞成熟因子を使用しないで未成熟樹状細胞を活性化する方法を提供する。この活性化されたDCは抗原特異的T細胞応答を誘導するために用いることができる。本発明の方法はまた、得られた応答においてTh−1および/またはTh−2バイアス(bias)を誘導するためにインターフェロンガンマなどの指向性成熟因子の添加を含むこともできる。本発明はまた、抗原特異的T細胞の活性化および抗原特異的T細胞の誘導に有用な樹状細胞集団を提供する。同様に活性化された抗原特異的T細胞集団およびこれらの作製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、米国仮出願第60/748,885号(この全体が、参考として本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
抗原提示細胞(APC)は、有効な免疫応答を誘発するのに重要である。これらの細胞は、抗原特異的T細胞受容体を有するT細胞に抗原を提示するだけでなく、T細胞の活性化に必要なシグナルも提示する。これらのシグナルはまだ完全には解明されていないが、種々の細胞表面分子ならびにサイトカインまたは成長因子が関与している。ナイーブT細胞の活性化および分極化に必要な因子は、記憶T細胞の再活性化に必要とされる因子と異なる可能性がある。抗原提示およびT細胞活性化シグナル伝達の両方を行うAPCの機能は、一般にアクセサリー細胞機能と呼ばれる。単球およびB細胞がコンピテントなAPCであることが示されたにもかかわらず、in vitroでのこれらの細胞の抗原提示能力は、既に感作されたT細胞の再活性化に限定されるようである。したがって、単球およびB細胞は機能的にナイーブであるかまたは未感作のT細胞集団を直接に活性化することができない。またこれらの細胞は、誘導された免疫応答または誘導される免疫応答を分極化できるシグナルを伝達できない。
【0003】
樹状細胞(DC)は、ナイーブT細胞および記憶T細胞の両方を活性化できると考えられている免疫系の専門的な抗原提示細胞である。樹状細胞は免疫療法で、特に癌の免疫療法で使用するために、ex vivoで次第に調製されるようになってきている。最適な免疫賦活性特性を有する樹状細胞の調製には、ex vivoでの培養に関するこれらの細胞の生物学の知識と活用が必要である。それぞれのプロトコルに基づく、種々の利点を有するこれらの細胞培養に関する種々のプロトコルが記載されている。最新のプロトコルには、無血清培地の使用および所望の免疫賦活性特性を培養細胞に与える成熟条件の使用が含まれる。
【0004】
樹状細胞の活性化は、皮膚ランゲルハンス細胞に表現型が類似する未成熟DCを、リンパ節に遊走できる成熟した抗原提示細胞に転換する過程を開始する。この過程は、未成熟樹状細胞を特徴づける強力な抗原取り込み能力の徐々で進行性の喪失、ならびに共刺激細胞表面分子および種々のサイトカイン発現のアップレギュレーションを生じる。種々の刺激はDCの成熟を開始することができる。この過程は複雑で完成まで少なくともin vitroにおいて48時間もかかることがある。もう1つの他の成熟の結果は、in vivoにおける細胞の遊走特性の変化である。たとえば成熟は流入領域リンパ節のT細胞領域に細胞を導くCCR7を含むいくつかのケモカイン受容体を誘導し、ここで成熟DCはクラスIおよびクラスII MHC分子に関連してDC表面上に提示された抗原に対してT細胞を活性化する。用語「活性化」および「成熟」、ならびに「活性化された」および「成熟している」とは、未成熟DC(抗原を取り込む能力により部分的に特徴づけられる)から、成熟DC(新規のT細胞応答を効果的に刺激する能力により、部分的に特徴づけられる)への移行を誘導して完了する過程を記載する。この用語は典型的には、当該技術分野で相互に交換可能に使用される。
【0005】
既知の成熟化プロトコル(maturation protocol)は、抗原に曝露中または曝露後にDCが遭遇すると考えられているin vivoの環境に基づいている。この方法の最も良い例は、細胞培養培地として単球馴化培地(MCM)を用いることである。MCMは単球を培養することによりin vitroで作成され、成熟因子の供給源として使用される。(たとえば、特許文献1を参照のこと、これは参考として本明細書に援用される。)成熟に関与するMCMの主要な成分は、(プロ)炎症性サイトカインインターロイキン1ベータ(IL−1β)、インターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)であることが報告されている。
【0006】
したがってDCの成熟は、多数のシグナル伝達経路を介して作用する多数の異なる因子により誘発される。したがって単一の成熟経路または単一の結果は存在しないが、それぞれそれ自体が異なった機能的特徴を有する多数の成熟DC段階が実際に存在する。概念的には、免疫系が応答しなければならない身体に対する種々の脅威は多種多様であり、種々の攻撃戦略を必要とするのでこれは道理にかなっている。一例として、細菌感染は特異的抗体で補充された活性化されたマクロファージにより良好に除去されるが、ウイルス感染症は事実上ウイルス感染細胞を殺傷する細胞障害性T細胞により良好に攻撃される。癌細胞の殺傷には典型的には細胞障害性T細胞、ナチュラルキラー細胞および抗体の組合せが含まれる。
【0007】
したがって、in vitroにおけるDCの成熟は、免疫系を誘導して別のタイプの免疫応答よりも1つのタイプの免疫応答を好むように、すなわち免疫応答を分極化させるように設計できる。DCの指向性の成熟とは、成熟過程の結果が成熟したDCを用いた処置によって生ずる後に続く免疫応答のタイプを指令する概念を説明する。その最も単純な形態では、指向性の成熟はTh1−タイプまたはTh2−タイプの応答のいずれかに分極化したT細胞応答を指示するサイトカインを産生するDC集団を生じる。DCは9つまでの異なるToll様受容体(TLR1〜TLR9)を発現し、これらの各々は成熟を誘発するために用いることができる。意外ではないがTLR2およびTLR4と細菌産物との相互作用は、DCの指向性成熟を生じ、細菌感染に対処するのに最も適切な分極化した応答を生じる。これとは反対にTLR7またはTLR9により誘発された成熟は、さらに抗ウイルスタイプの応答を生じるようである。さらに別の例として、インターフェロンガンマ(IFN−γ)を大部分の成熟化プロトコルへ添加することにより、成熟DCによるインターロイキン12の産生を引き起こし、これはTh1−タイプの応答を指令する。これとは反対に、プロスタグランジンE2の含有は逆の効果を有する。
【0008】
したがって活性化されたDCの指向性成熟に用いることができる因子は、たとえばインターロイキン1ベータ(IL−1β)、インターロイキン6(IL−6)、および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)を含むことができる。他の成熟因子には、プロスタグランジンE2(PGE2)、ポリdIdC、血管作働性腸管ペプチド(VIP)、細菌性リポ多糖(LPS)、ならびにマイコバクテリアまたは特異的な細胞壁構成要素などのマイコバクテリア成分が含まれる。別の成熟因子には、たとえばイミダゾキノリン化合物、たとえばイミダゾキノリン−4−アミン化合物、たとえば4−アミノ−2−エトキシメチルα、α−ジメチル−1H−イミダゾール[4,5−c]キノリン−1−エタノール(R848と呼ばれる)または1−(2−メチルプロピル)−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−4−アミン、およびこれらの誘導体(特許文献2、その開示全体が参考として本明細書中に援用される)、合成二重鎖ポリリボヌクレオチド、たとえば、poly[I]:poly[C(12)U]などToll様受容体(TLR)のアゴニスト、たとえばTLR3、TLR4、TLR7および/またはTLR9、DCの成熟を誘導することが知られているメチル化されていないCpGのモティーフを含む核酸の配列などが含まれる。さらに上記のいずれかの因子の組合せを樹状前駆細胞の成熟の誘導に使用できる。
【0009】
完全に成熟した樹状細胞は、定性的にも定量的にも未成熟DCとは異なっている。一旦完全には成熟すると、DCはMHCクラスIおよびクラスII抗原ならびにT細胞共刺激分子、すなわちCD80およびCD86をより高いレベルで発現する。これらの変化は細胞表面上で抗原密度ならびにT細胞上の共刺激分子の対応物、たとえばCD28などを介するT細胞活性化シグナルの強度を増加させるので、T細胞を活性化する樹状細胞の能力を増強させる。さらに成熟DCはT細胞応答を刺激して分極化させる多量のサイトカインを産生する。
【0010】
一般にex vivoでDCを産生する方法は、患者由来のDC前駆細胞に関して富化された細胞集団を得た後、患者に再導入する前にin vitroでDC前駆細胞を成熟DCに分化させることを含む。DCは最終分化状態にしなければならず、そうでなければDCは再び単球/マクロファージに脱分化し、その免疫増強能の多くを失うだろうと考える人達もいる。単球から産生されたDCのEx vivoでの成熟は、上記の方法および因子を用いて首尾良く達成された。
【0011】
典型的には、未成熟樹状細胞(DC)を産生するために、最初に他の混入細胞タイプから単球前駆体を精製または富化しなければならない。単球は、たとえばリンパ球およびナチュラルキラー(NK)細胞などの末梢血に認められる他の細胞よりもプラスチックに固着する傾向がより大きいので、これはプラスチック(ポリスチレン)表面へ単球前駆体を付着させることによって一般的に行われる。強く洗浄して混入している細胞を十分に除去した後、単球前駆体を未成熟DCに変換するかまたは直接成熟DCに変換するサイトカインと共に培養する。単球前駆細胞を未成熟DCに分化させる方法は、未成熟DCへ単球の分化を誘導するためにサイトカインGM−CSFおよびIL−4を使用したSallustoとLanzavecchiaにより最初に記載された(J. Exp. Med.、179巻:1109〜1118頁、1994年、参考として本明細書中に援用される)。最も典型的にはサイトカインのこの組合せが使用されるが、種々の他の組合せ、たとえばIL−4をIL−13またはIL−15で置換する組合せが同じ目的を達成するために記載されている。この過程の最終結果は、T細胞共刺激分子および高いレベルの主要組織適合複合体(MHC)分子を発現するが樹状細胞成熟マーカーCD83を発現しない「ベール」細胞である。これらの細胞は皮膚のランゲルハンス細胞に類似しており、その主要な生理機能は侵入してくる微生物を捕捉することである。
【0012】
この方法の変形には、たとえばタンジェンシャルフロー濾過(TFF)またはビーズに付着させた抗体を単球上の表面分子に結合することにより単球を精製する異なる方法が含まれる。混入している細胞を洗浄して除去した後、単球をビーズから溶出できるように結合した細胞を有するビーズをカラムまたは磁石表面上で濃縮する。樹状細胞前駆体を得るさらに別の方法では、血液(特許文献3、参考として本明細書中に援用される)または骨髄いずれかからの幹細胞マーカーCD34を発現している細胞が精製される。これらの細胞は、必須のサイトカインGM−CSFと共に培養して未成熟DCに分化させることができる。これらのDCは、単球から産生された未成熟DCと非常に類似した特徴および機能的特性を明らかに有している。
【0013】
未成熟DCは抗原取り込みおよびプロセシングする高い能力を有するが、免疫応答を開始する能力は限られている。免疫応答を開始する能力は未成熟DCの成熟により獲得される。この成熟はDCを活性にするまたはDCの活性化とも呼ばれる。成熟過程は上述のように、成熟誘導サイトカイン、細菌産生物またはウイルス成分などとの接触によって開始される。
【0014】
これらの方法で成熟DCを産生することができるが、DCの成熟に組換え分子および細胞上清を用いることには不利な点がある。これらは、これらの試剤のロット毎にむらのある品質および収量を含み、プロセシングのために単球性樹状細胞前駆体への輸送に関して所望の抗原と競合する可能性のある大量の外来性のタンパク質の導入を含んでいる。外来性のタンパク質は患者に投与した場合、毒性であるかまたは自己免疫を生じる可能性もある。またそのような試剤は、産生するには高くつき、免疫療法の費用を極めて高価にする可能性がある。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0160430号明細書
【特許文献2】国際公開第00/47719号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,994,126号明細補
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(要旨)
前に記載された方法および組成物が、未成熟樹状細胞(DC)の活性化の誘導および抗原特異的免疫応答に対してこれらの細胞を準備刺激のために提供される。1つの態様において、組織培養基質(tissue culture substrate)と樹状細胞の付着、および活性化された樹状細胞に関して富化された細胞集団を形成するのに十分な時間での未成熟樹状細胞のin vitro培養に適した培養条件下で、未成熟樹状細胞を組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子を有する培地と接触させることにより、活性化された樹状細胞に関して富化された細胞集団を産生する方法が提供される。記載された方法では、樹状細胞集団の活性化を誘導するために樹状細胞成熟因子を添加する必要がない。組織培養表面と未成熟樹状細胞を接触させるその前に、その間にまたはその後に、未成熟樹状細胞は所定の抗原と接触できる。この所定の抗原は、たとえば腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド抗原(たとえば、合成ペプチド抗原)、または単離した抗原であってもよい。さらにこの抗原は可溶性抗原または粒子状抗原であってもよい。特定の実施形態では、抗原は患者腫瘍または腫瘍細胞系から抽出した細胞溶解物または膜調製物であってもよい。
【0016】
ある実施形態では、この方法はさらに単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団を得ること、および未成熟樹状細胞の集団を形成するために単球性樹状細胞前駆体細胞の分化を誘導できる因子の存在下で、前駆体を培養することを任意に含んでもよい。適切な樹状細胞分化因子には、たとえばGM−CSF、インターロイキン4、GM−CSFとインターロイキン4の組合せ、またはGM−CSFならびにインターロイキン13もしくはインターロイキン15が含まれる。単球性樹状細胞前駆体は、ヒト被験体から単離された細胞として得ることができる。
【0017】
他の態様では、活性化された樹状細胞に関して富化された細胞集団を産生する方法が提供される。この方法は一般に、未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団を提供すること、および組織培養基質と樹状細胞の付着および未成熟樹状細胞のin vitro培養に適した培養条件下で、未成熟樹状細胞を組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子を有する培養培地と接触させることを含む。活性化された成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団を形成させるのに十分な時間、細胞を培養する。この得られた活性化された成熟樹状細胞集団を哺乳動物に投与した場合、その哺乳動物に抗原特異的免疫応答をもたらすことができる。この未成熟樹状細胞集団を、付着に適した条件下で組織培養基質と接触させる前に、その間にまたはその後に所定の抗原と接触させることができる。この所定の抗原は、たとえば腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド抗原(たとえば、合成ペプチド)、または単離した抗原であってもよい。この抗原は可溶性抗原または粒子状抗原であってもよい。特定の実施形態では、抗原は患者腫瘍または腫瘍細胞系から抽出した細胞溶解物または膜調製物である。DCの成熟を導いてTh1および/またはTh2応答に対する応答にバイアスをかけることができる因子、たとえばインターフェロンガンマ(IFNγ)を添加することもできる。
【0018】
ある実施形態では、この方法は場合によっては、さらに単球性樹状細胞前駆体を得ること、および未成熟樹状細胞を形成するために分化因子の存在下でin vitroで前駆体を培養することを含むことができる。適切な分化因子には、たとえばGM−CSF、インターロイキン4、インターロイキン13、インターロイキン15、またはこれらの組合せが含まれる。単球性樹状細胞前駆体は、治療を必要とするヒト被験体または組織適合性が整合した個体から単離することができる。
【0019】
さらに別の態様では、T細胞を活性化するための組成物が提供される。この組成物は、組織培養基質に対する樹状細胞の付着および活性化に適した条件下で、組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子との接触により活性化されて成熟した樹状細胞集団、ならびに所定の抗原を含むことができる。この樹状細胞集団は、従来の方法により産生された成熟樹状細胞集団により誘導された抗原特異的免疫応答に類似した抗原特異的免疫応答をもたらすことができる。樹状細胞集団は、事前の培養培地から未成熟樹状細胞を単離し、サイトカインを添加し、樹状細胞成熟因子の添加を伴わない組織培養基質へのDCの付着に適した条件下で組織培養基質と単離した未成熟樹状細胞とを接触させることにより産生する。組織培養基質への樹状細胞の付着に適した条件下で組織培養基質と接触後、樹状細胞は誘発されて活性化および成熟を経て活性成熟樹状細胞への過程をたどる。未成熟樹状細胞と共に同時に組織培養基質に添加したか、もしくは成熟過程の間、すなわち活性化後だが成熟完了前に添加した所定の可溶性または粒子状抗原は、取り込まれ、樹状細胞によりプロセシングされ、抗原特異的免疫応答を誘導するためにT細胞と接触したときに利用できる適切な細胞表面受容体に関連して提示することができる。
【0020】
他の態様では、単離して活性化された樹状細胞集団が提供される。この細胞集団は、組織培養基質と樹状細胞の付着を誘導する条件下で、既に組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触して成熟し活性化された単球性樹状細胞を含み、これらの細胞に関して富化されている。得られた活性化された樹状細胞は、抗原を取り込みプロセシングすることができ、in vitroでの連続培養後、成熟樹状細胞の細胞表面表現型を獲得することができる。細胞集団は、場合によっては所定の抗原および/または単離したT細胞、たとえばナイーブT細胞を含むことができる。T細胞は、場合によっては単離したリンパ球調製物中に存在することができる。
【0021】
また活性化されたT細胞を産生する方法も提供される。この方法は一般に、単離した未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団を提供すること、未成熟樹状細胞を所定の抗原と接触させること、および組織培養基質に対する未成熟樹状細胞の付着を誘導する条件下で、未成熟樹状細胞を組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触させることを含む。未成熟樹状細胞の活性化を誘導して活性化された樹状細胞を形成するのに十分な時間、細胞を培養する。活性化された樹状細胞はナイーブT細胞と接触して、活性化された抗原特異的T細胞を形成することができる。適切な抗原には、たとえば腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物(腫瘍細胞溶解物を含む)、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド抗原(たとえば、合成ペプチド抗原)、または単離した抗原を含むことができる。所定の抗原は可溶性抗原または粒子状抗原のいずれであってもよい。DCの成熟を導いてTh1および/またはTh2応答に対する応答にバイアスをかけることができる因子、たとえばインターフェロンガンマを添加することもできる。
【0022】
未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団は、所定の抗原および組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と同時に接触することができるか、またはこの細胞は組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触させる前に、その間にもしくは同時に、もしくはその後に、所定の抗原と接触されることができる。ある実施形態では、この方法はさらに、単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団を得ること、および未成熟樹状細胞の形成を誘導するために、樹状細胞分化誘導因子の存在下でin vitroで前駆体を培養することを含むことができる。適切な分化誘導因子には、たとえばGM−CSF、インターロイキン4、インターロイキン13またはインターロイキン15、またはこれらの組合せが含まれる。単球性樹状細胞前駆体は、場合によってはヒト被験体から得ることができる。特定の実施形態では、単球樹状前駆細胞、未成熟樹状細胞、および/またはT細胞は互いに自己由来である。
【0023】
活性化された抗原特異的T細胞は、抗原特異的免疫応答の刺激を必要とする動物、特に哺乳動物に投与することができる。適切な抗原には、たとえば腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド抗原(たとえば、合成ペプチド抗原)、または単離した抗原が含まれる。特定の実施形態では、細胞溶解物および/または膜調製物は、患者の腫瘍または腫瘍細胞系に由来する。未成熟樹状細胞は、場合によっては、所定の抗原および組織培養基質、樹状細胞分化誘導因子と同時に接触することができるか、または未成熟樹状細胞を新しい未使用の汚染されていない組織培養基質に接触する前に、所定の抗原と接触させることができる。
【0024】
ある実施形態では、この方法はさらに単球性樹状細胞前駆体を動物から分離すること、および未成熟樹状細胞を形成するために、分化因子の存在下でin vitroで前駆体を培養することを含むことができる。分化因子は、たとえばGM−CSF、インターロイキン4、インターロイキン13、インターロイキン15、またはこれらの組合せであってもよい。
【0025】
単球性樹状細胞前駆体未成熟樹状細胞集団および/またはT細胞は、動物に対して自己由来、または動物に対して同種異系であり得る。あるいは単球性樹状細胞前駆体、未成熟樹状細胞および/またはT細胞は、動物と同じMHCハプロタイプを有し得るか、またはMHCマーカーを共有し得る。ある実施形態では、動物はヒトであり得るか、またはヒト以外の動物であり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(詳細な説明)
本発明は、未成熟樹状細胞(DC)集団の活性化および成熟を誘導するかまたは誘発する方法ならびに抗原特異的免疫応答に対してこれらの細胞集団を準備刺激する方法を提供する。未成熟樹状細胞集団は、たとえば分離培地、培養培地などを含む調製培地から得ることができ、未成熟単球性樹状細胞に関して富化された細胞集団は、樹状細胞成熟因子の添加を伴わない組織培養基質へのDCの付着に適した条件下で、組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触される。DCによる取り込みプロセシングおよび提示に適切なin vitroでの細胞培養条件下で、未成熟樹状細胞は所定の抗原と接触できる。所望の抗原との接触は、活性化開始の間、その前またはその後であり得る。あるいは既に抗原に露出された(たとえば、in vivoで)未成熟単球性樹状細胞を得て、同様に適切な細胞培養条件下で組織培養基質と接触されることができる。得られた活性化された成熟樹状細胞は、所望の抗原を提示し、抗原特異的応答へとT細胞の活性化を刺激する。応答の方向、すなわちTh−1またはTh−2応答を優勢にする応答のバイアスは、たとえばインターフェロンガンマ(IFNγ)などの指向性成熟因子(directional maturation agent)の添加により影響を受け得る。
【0027】
他の態様では、単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団を、被験体またはドナーから得ることができる。この細胞集団は未成熟樹状細胞を得るために、樹状細胞分化誘導因子、たとえば1つまたは複数のサイトカイン(たとえば、限定するものではないが、GM−CFS、ならびにGM−CSFおよびIL−4、GM−CSFおよびIL−13、GM−CSFおよびIL−15の組合せなど)と接触されることができる。次いで未成熟樹状細胞を、樹状細胞を活性化および/または部分的に成熟させるために、組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子またはサイトカインもしくは他の指向性成熟因子と組み合わせて所定の抗原と接触されることができる。成熟した樹状細胞を、被験体において抗原特異的免疫応答を誘導するために、直接使用することができるか、または細胞をT細胞における抗原特異的免疫応答を誘導するために使用することができる。ある実施形態では、MHCクラスI抗原プロセシングが刺激され、これは所定の抗原を表示する細胞に対するCTL応答を誘発するのに有用である。誘導された応答の方向は、インターフェロンガンマなどの指向性成熟因子の添加により影響を受け得る。本明細書で用いる指向性成熟因子とは、成熟DCの最終的な状態に影響を及ぼすことができるが、単独で用いた場合DCの成熟を誘導しない因子である。たとえば指向性成熟因子は、Th−1応答の方をTh−2応答より好むようにまたはその逆にDC集団の成熟を分極化することができる。
【0028】
樹状細胞は、種々のリンパ系および非リンパ系組織に認められる抗原提示細胞の多様な集団である。(Liu、Cell 106巻:259〜262頁(2001年);Steinman、Ann. Rev. Immunol.9巻:271〜296頁(1991年))。樹状細胞は、脾臓、表皮のランゲルハンス細胞、および循環血液中のベール細胞のリンパ系樹状細胞を含む。集合的に、樹状細胞は細胞の形態、高いレベルの表面MHC−クラスII発現、ならびにT細胞、B細胞、単球、およびナチュラルキラー細胞上で発現される特定の他の表面マーカーの欠如に基づきグループとして分類される。特に、単球由来樹状細胞(単球性樹状細胞とも呼ばれる)は、通常CD11c、CD80、CD83、CD86を発現し、HLA−DRであるが、必ずしもではないが典型的にはCD14である。
【0029】
対照的に、単球性樹状細胞前駆体(典型的には単球)は通常CD14であり、全く存在しないかまたは低いレベルのHLA−DR、CD83、およびCD86を発現する。単球性樹状細胞前駆体は、それらが存在する任意の組織から、特に脾臓、骨髄、リンパ節および胸腺などのリンパ系組織から得ることができる。単球性樹状細胞前駆体は、循環系からも得ることができる。末梢血液は、単球性樹状細胞前駆体のアクセスしやすい供給源である。臍帯血は、単球性樹状細胞前駆体のもう1つの供給源である。単球性樹状細胞前駆体は、免疫応答を誘発し得る様々な生物から得ることができる。そのような生物は、ヒトならびにヒト以外の動物、たとえば霊長類、他の哺乳動物(イヌ、ネコ、マウスおよびラットを含むがこれに限定されない)、トリ(ニワトリを含む)、ならびにこれらのトランスジェニック種などの動物を含む。
【0030】
ある実施形態では、単球性樹状細胞前駆体および/または未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団は健常な被験体、または別法では免疫刺激を必要とする被験体、たとえば癌患者(たとえば、脳、乳房、卵巣、肺、前立腺、結腸、その他の癌)または細胞免疫刺激が有益であり得るかもしくは望まれる別の被験体(すなわち、細菌またはウイルス感染症など有する被験体)から得ることができる。樹状細胞前駆体および/または未成熟樹状細胞はまた、免疫刺激を必要とするHLA適合被験体への投与のために、HLAが適合した健常者から得ることができる。
【0031】
樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞
血液および骨髄を含む種々の供給源から樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団を分離する方法は当分野で公知である。たとえば、樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞に関して富化された細胞集団は、ヘパリン添加血液の採取によって、除去療法または白血球搬出法によって、バフィーコートの調製、ロゼット形成、遠心分離、密度勾配遠心分離(たとえば(FICOLLを使用する)(たとえばFICOLL−PAQUE(登録商標))、PERCOLL(登録商標)(透析可能でないポリビニルピロリドン(PVP)で被覆したコロイドシリカ粒子(直径15〜30mm))、シュークロースなど)、細胞の差次的溶解、濾過などによって得ることができる。ある実施形態では、白血球集団は、たとえば被験体から血液を採取し、血小板除去のために繊維素を除き、赤血球を溶解させることにより調製することができる。樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞は、たとえばPERCOLL(登録商標)勾配などの密度勾配物質中での遠心分離によって、場合によっては単球性樹状細胞前駆体に関して富化することができる。
【0032】
樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞に関して富化された全ての集団は、場合によっては、たとえば密閉した無菌システム中で調製することができる。本明細書で用いる用語「密閉した、無菌システム」または「密閉したシステム」とは、非滅菌の周囲または循環する空気または他の非滅菌状況に対する曝露が最小限にされるかまたは排除されるシステムを意味する。樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞を得るための密閉したシステムは、一般に上部開口チューブ中での密度勾配遠心分離、外気中での細胞の移動、組織培養プレートでの細胞培養または密閉されてないフラスコなどを除外する。典型的な実施形態では、密閉したシステムは滅菌されていない空気に曝すことなく、最初の採集容器から密封可能な組織培養容器への樹状細胞前駆体および未成熟樹状細胞の無菌的移動を可能にする。
【0033】
ある実施形態では、単球性樹状細胞前駆体は、WO03/010292で開示されるように単球結合基質への単球の付着によって得られ、その開示を参考として本明細書中に援用される。たとえば、白血球の集団(たとえば、白血球搬出法によって単離した)を、単球性樹状細胞前駆体付着基質と接触されることができる。白血球の集団がこの基質と接触される場合、白血球集団中の単球性樹状細胞前駆体が選択的にこの基質に付着する。他の白血球(他の潜在的な樹状細胞前駆体を含む)は、基質に対する低下した結合親和性を示し、これにより単球性樹状細胞前駆体を基質表面上で選択的に富化できるようにする。
【0034】
適切な基質は、たとえば容積に対して大きな表面領域比率を有する基質を含む。そのような基質は、たとえば粒子または線維基質であってもよい。適切な粒状基質には、たとえばガラス粒子、プラスチック粒子、ガラスで被覆したプラスチック粒子、ガラスで被覆したポリスチレン粒子、およびタンパク質吸収に適切な他のビーズが含まれる。適切な線維基質には、ミクロキャピラリーチューブおよび微じゅう毛膜が含まれる。粒子または線維基質は、通常、付着した細胞の生存率を実質的に低下させることなく、付着した単球性樹状細胞前駆体の溶出を可能にする。粒子または線維基質は、単球性樹状細胞前駆体または基質から樹状細胞の溶出を容易にするために、実質的に無孔であり得る。「実質的に無孔である」基質とは、基質中の封入細胞を最小限にするために、基質中に存在する少なくとも大多数の小孔は細胞より小さい基質である。
【0035】
基質への単球性樹状細胞前駆体の付着は、場合によっては結合培地の添加により促進することができる。適切な結合培地には、たとえば、サイトカイン(たとえば、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン4(IL−4)、もしくはインターロイキン13(IL−13))、血漿、血清(たとえば、自己由来もしくは同種異系血清などのヒト血清)、血清アルブミンなどの精製したタンパク質、二価陽イオン(たとえば、カルシウムおよび/もしくはマグネシウムイオン)ならびに基質への単球性樹状細胞前駆体の特異的付着において助けになるか、または基質への非単球性樹状細胞前駆体の付着を妨げる他の分子を、個々にあるいは任意に組み合わせて補充した単球性樹状細胞前駆体培養培地(たとえば、AIM−V(登録商標)、RPMI 1640、DMEM、X−VIVO 15(登録商標)など)が含まれる。ある実施形態では、血漿または血清は熱不活性化できる。この熱不活性化血漿は、白血球に対して自己由来であってもまたは異種性であってもよい。
【0036】
基質へ単球性樹状細胞前駆体が付着後、付着していない白血球を単球性樹状細胞前駆体/基質複合体から分離する。任意の適切な方法を、複合体から付着していない細胞の分離に用いることができる。たとえば、付着していない白血球の混合物および複合体を沈殿することができ、付着していない白血球および培地をデカントするかまたは排出できる。あるいは混合物を遠心分離して、ペレット化された複合体から付着していない白血球を含む上清をデカントするかまたは排出できる。
【0037】
別の方法では、単球性樹状細胞前駆体に関して富化された全ての集団を、タンジェンシャルフロー濾過装置を用いて調製した白血球に関して富化された細胞集団から得ることができる。単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団を得るために有用なタンジェンシャルフロー濾過装置は、クロスフローチャンバ、濾液チャンバおよびこの2つの間に配置したフィルターを有するリムーバーユニットを含み得る。(WO2004−000444を参照のこと、開示全体が参考として本明細書中に援用される。)フィルターは、クロスフローチャンバを有する1つの側面である保留物表面、および他の側面である濾液チャンバを有する濾液表面で液体により連絡している。クロスフローチャンバは、クロスフローチャンバに白血球を含む血液構成成分のサンプルを導入するために適合し、フィルターの保留物表面と平行である入口を有する。出口もまたフィルターの保留物表面の反対側のチャンバ部分の中央に配置したクロスフローチャンバ中に提供される。タンジェンシャルフロー濾過装置に用いるのに適したフィルターは、典型的には約1〜約10ミクロンの範囲の平均細孔サイズを有する。フィルターは約3〜約7ミクロンの平均細孔サイズを有し得る。クロスフローチャンバの入口でサンプルの所定の投入速度を提供する方法およびフィルターを介する濾液チャンバ中に濾液の濾過速度を制御する方法も含まれ得る。濾過速度制御手段が濾過の速度を、フィルターに対し抵抗のない濾過速度よりも低く制限する。血液構成成分を含むサンプルは、白血球搬出装置または白血球搬出装置から採取されたサンプルを含む容器などの供給源装置により提供することができる。
【0038】
樹状細胞前駆体は、分化、成熟および/または増殖のためにin vitroまたはex vivo培養できる。本明細書中で用いられる単離した未成熟樹状細胞、樹状細胞前駆体、T細胞、および他の細胞は、人為的にそれらの本来の生きた環境から離れて存在する、したがって自然の産物でない細胞を意味する。単離した細胞は、精製した形態で、半精製した形態(たとえば、富化された細胞集団)で、または自然でない環境で存在できる。簡単に述べると、ex vivoでの分化は、典型的には1つまたは複数の樹状細胞分化因子の存在下で樹状細胞前駆体または樹状細胞前駆体を有する細胞集団を培養することを含む。適切な分化誘導因子は、たとえば限定するものではないが、細胞成長因子(たとえば、(GM−CSF)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン13(IL−13)、インターロイキン15(IL−15)、および/またはこれらの組合せなどのサイトカイン)であり得る。ある実施形態では、単球性樹状細胞前駆体は、単球由来の未成熟樹状細胞から分化するように誘導される。
【0039】
樹状細胞前駆体は、適切な培養条件下で培養して分化するように誘導することができる。適切な組織培養培地には、たとえばAIM−V(登録商標)、RPMI 1640、DMEM、X−VIVO 15(登録商標)などが含まれる。組織培養培地は、未成熟樹状細胞に細胞分化を促進するために、血清、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、たとえばGM−CSFおよび/またはIL−4、IL−13もしくはIL−15、二価陽イオンなどを補充され得る。ある実施形態では、樹状細胞前駆体はin vitroで無血清培地で培養され得る。そのような培養条件では、場合によっては任意の動物由来の製品を取り除くことができる。典型的な樹状細胞培地における一般的なサイトカインの組合せは、それぞれ約500単位/mlのGM−CSFおよびIL−4を含む。樹状細胞前駆体は未成熟樹状細胞を形成するように分化したとき、皮膚ランゲルハンス細胞に表現型は類似している。未成熟樹状細胞は、典型的にはCD14およびCD11cであり、低いレベルのCD86およびCD83を発現し、特殊なエンドサイトーシスを介して可溶性抗原を獲得することができる。
【0040】
典型的には従来の方法では、未成熟樹状細胞は患者に投与の前にまたはT細胞と接触される前に、in vitroまたはex vivoで成熟して成熟樹状細胞を形成する。これらの方法では、樹状細胞成熟因子が、所定の抗原に先立ちまたは所定の抗原と共に未成熟樹状細胞を含むin vitro培養に添加される。成熟後、DCは少しずつ次第に抗原を取り込む能力を失い、典型的には共刺激細胞表面分子および種々のサイトカインのアップレギュレーションされた発現を示す。詳細には、成熟DCは未成熟樹状細胞より高いレベルのMHCクラスIおよびII抗原を発現し、成熟樹状細胞は一般にCD80、CD83、CD86、およびCD14であると同定される。MHC発現が高くなるとDC表面上の抗原密度の増加を導くが、共刺激分子CD80およびCD86のアップレギュレーションは、共刺激分子の対応物、たとえばT細胞上のCD28を介してT細胞活性化シグナルを強化する。
【0041】
従来の方法と異なり、本発明の方法における未成熟樹状細胞の活性化は、組織培養表面への樹状細胞の付着に適した条件下で、組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と単離した未成熟樹状細胞を接触させることにより開始または誘発される。本発明の典型的な方法では、成熟因子の添加を伴わないで活性化が達成される。未成熟樹状細胞は、事前の培養基質または精製培地から除去され、事前の培養培地から単離される。次いで単離した未成熟樹状細胞を計数して、残りのプロセスのために樹状細胞成熟因子の添加を伴わない新鮮な培養培地と組み合わせてその後に使用するために凍結する。別の方法では、樹状細胞がT細胞応答をTh−1またはTh−2応答に分極化させ得るようにバイアスをかけるために、活性化の間に指向性成熟因子を添加し得る。たとえば使用し得る因子を制限するものではないが、Th−1応答の方へT細胞応答にバイアスをかけるためにインターフェロンガンマを添加し得る。単球性樹状細胞前駆体または未成熟DCに添加されたインターフェロンガンマは、DC分化および/または成熟をそれ自体で誘導しない。
【0042】
本発明の方法において有用な組織培養基質には、組織培養ウェル、フラスコ、ボトル、バッグまたはバイオリアクターで使用される任意のマトリックス、たとえば繊維、ビーズ、プレートなどを含むことができる。典型的には組織培養基質は、プラスチック、たとえばポリスチレン、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)などを含む。免疫療法用の樹状細胞のex vivo培養に最も頻繁に用いられるこれらの組織培養基質には、組織培養フラスコ、組織培養バッグ、またはプラスチックなどの多重積層が含まれるセル画分が含まれる。
【0043】
単離した未成熟樹状細胞は、適切な成熟培養条件において培養して成熟させ得る。適切な組織培養培地には、AIM−V(登録商標)、RPMI 1640、DMEM、X−VIVO 15(登録商標)などが含まれる。組織培養培地には、細胞の成熟を促進するためにアミノ酸、ビタミン、サイトカイン、ヒト血清、たとえば約1%〜約10%のヒトAB血清、二価陽イオンなどを補充し得る。
【0044】
樹状細胞の成熟または活性化は、当分野で周知の方法によりモニターされ得る。細胞表面マーカーは、当該技術分野でよく知られているアッセイ、たとえばフローサイトメトリー、免疫組織化学などで検出され得る。また細胞もサイトカイン産生に関してモニターされ得る(たとえばELISA、FACS、または他の免疫のアッセイにより)。本発明による活性化されるDC集団において、また細胞は典型的な細胞表面マーカーCD83、CD86およびHLA−DRの出現に関してアッセイし得る。CD83の様ないくつかのこれらの抗原は、成熟DC上でのみ発現されるが、他のものの発現は成熟後に著しくアップレギュレーションされる。また成熟DCはピノサイトーシスによる抗原取り込み能力を喪失し、これは当業者によく知られている取り込みアッセイにより分析し得る。抗原で感作したかまたは未感作の樹状細胞前駆体、未成熟樹状細胞、および成熟樹状細胞は、その後の使用のために低温保存され得る。低温保存する方法は、当分野においてよく知られている。たとえば米国特許5,788,963を参照のこと、その開示全体が参考として本明細書中に援用される。
【0045】
抗原
本発明による成熟し活性化された樹状細胞は、T細胞に抗原を提示することができる。成熟し活性化された樹状細胞は、活性化の間にまたはその後のどちらかで所定の抗原と未成熟樹状細胞を接触させることにより形成することができる。あるいは、既に抗原と(たとえば、単離前にin vivoで)接触した未成熟樹状細胞は、組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触して細胞障害性T細胞応答の誘導に対して活性化された成熟樹状細胞を産生し得る。
【0046】
適切な所定の抗原には、T細胞の活性化が望まれる任意の抗原を含むことができる。そのような抗原には、たとえば細菌抗原、腫瘍特異的または腫瘍関連抗原(たとえば、全細胞、腫瘍細胞溶解物、たとえばグリア芽細胞腫、前立腺、もしくは卵巣、乳房、結腸、脳、黒色腫、もしくは肺腫瘍細胞などから由来する溶解物)、腫瘍からの単離された抗原、融合タンパク質、リポソームなど、ウイルス抗原、およびその他の抗原もしくは抗原フラグメント、たとえばペプチドもしくはポリペチド抗原が含まれ得る。ある実施形態では、抗原は、たとえば限定するものではないが前立腺特異的細胞膜抗原(PSMA)、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、または前立腺特異抗原(PSA)であり得る。(たとえば、Pepsideroら、Cancer Res. 40巻:2428〜32頁(1980年); McCormackら、Urology 45巻:729〜44頁(1995年)を参照のこと)。抗原はまた、細菌細胞、細菌溶解物、細胞溶解物由来の細胞膜フラグメント、または当分野で知られているその他の供給源であり得る。抗原は発現され得るかまたは組換えにより産生され得るか、またはさらに化学的に合成され得る。組換え体抗原はまた、宿主細胞(たとえば、細菌、酵母菌、昆虫、脊椎動物または哺乳動物細胞)の表面上で発現し得て、溶解物中に存在し得るか、または溶解物から精製され得る。抗原は、可溶性抗原かまたは粒子状抗原のいずれかであり得る。
【0047】
抗原はまた、被験体由来のサンプル中に存在し得る。たとえば被験体における高増殖性または他の状態からの組織サンプルが抗原供給源として使用し得る。そのようなサンプルは、たとえばバイオプシーまたは外科的切除によって得られ得る。そのような抗原は、たとえば溶解物としてまたは単離した調製物として使用し得る。あるいは被験体(たとえば、癌患者)の細胞の膜調製物、または樹立された細胞系もまた抗原または抗原の供給源として使用され得る。
【0048】
例示的な実施形態では、外科的標本から回収したグリア芽細胞腫腫瘍細胞溶解物が、抗原の供給源として使用され得る。たとえば、バイオプシーまたは外科的切除で得た癌患者自身の腫瘍のサンプルを、樹状細胞へ抗原を提示するためにまたは抗原提示のための細胞溶解物を提供するために直接使用され得る。あるいは癌患者の腫瘍細胞の膜調製物が使用され得る。腫瘍細胞は、グリア芽細胞腫、前立腺、肺、卵巣、乳房、結腸、脳、黒色腫、またはその他のタイプの腫瘍細胞であり得る。溶解物および膜調製物は、当分野では周知である方法によって単離した腫瘍細胞から調製され得る。
【0049】
1つの実施形態では、単球性樹状細胞前駆体を基質上で分離し、基質から溶出してバイオリアクターまたは他の密閉したシステム、たとえば組織培養バッグへ移し得る。適切な組織培養バッグには、たとえばSTERICELL培養容器(Nexell Therapeutics Inc.)またはTEFLON培養バッグ(American Fluoroseal Corp.)などが含まれる。密閉したシステムは、当業者により理解されるように、任意の適切なサイズまたは容量を有することができる。適切な容量は、大きな容量および小さな容量が可能であり本発明の範囲内であるが、たとえば約0.01リットル〜約5リットルまたは約0.01リットル〜約0.05リットルが含まれる。
【0050】
単球性樹状細胞前駆体はまた、基質上で培養され得る。たとえば基質上の単球性樹状細胞前駆体は、バイオリアクター(発酵槽を含む)または組織培養容器、たとえば組織培養フラスコ、バッグまたはプレートで培養され得る。組織培養フラスコ、組織培養バッグまたはプレートは、当業者により理解されるように、任意の適切なサイズまたは容量を有することができる。バイオリアクターは典型的には、大きな容量および小さな容量が可能であり、本発明の範囲内であるが、約0.01〜約5リットル、または約0.01〜約0.05リットルの容量を有する。典型的には、単球性樹状細胞前駆体の培養のために使用されるバイオリアクターは、約0.01〜約0.1リットルの容量を有する。バイオリアクターには、単球性樹状細胞前駆体の任意の適切な量を、たとえば基質のミリリットル当たり約10細胞〜約5×10細胞を接種し得る。基質上の単球性樹状細胞前駆体はまた、密閉された無菌システムで培養し得る。
【0051】
未成熟樹状細胞を得るために、単球性樹状細胞前駆体を培養して分化させる。適切な組織培養培地には、AIM−V、RPMI 1640、DMEM、X−VIVO15などが含まれる。組織培養培地には未成熟樹状細胞へ単球性樹状細胞前駆体の分化を促進するために、アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、たとえば顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および/またはインターロイキン4(IL−4)、インターロイキン7(IL−7)またはインターロイキン13(IL−13)、二価陽イオンなどを補充し得る。典型的なサイトカインの組合せは、それぞれ約500単位/mlのGM−CSFおよびIL−4である。典型的には、基質上で単球性樹状細胞前駆体が培養される場合、基質表面から未付着細胞として回収される成熟樹状細胞の数が、主としての成熟樹状細胞である。単球性樹状細胞前駆体は、任意の適切な時間の間培養され得る。
【0052】
ある実施形態では、未成熟樹状細胞への前駆体の分化のために適切な培養時間は、約4〜約7日であり得る。前駆体から未成熟樹状細胞の分化は、たとえば標識したモノクロナール抗体を用いて細胞表面マーカー、たとえばCD14、CD11c、CD83、CD86、HLA−DRの有無をモニターすることによって、当業者には周知の方法によりモニターし得る。また樹状細胞の表現型を、当分野では周知である方法によって遺伝子形質発現パターンの分析により決定し得る。未成熟樹状細胞に対する典型的な細胞表面表現型は、CD14、CD11c、CD83、CD86、およびHLA−DRであろう。また未成熟樹状細胞は、細胞集団を増殖するためにおよび/またはさらに分化した状態に、すなわち抗原の取り込み、プロセシングおよび提示する状態に未成熟樹状細胞を維持するために適切な組織培養培地で培養され得る。たとえば、未成熟樹状細胞は、GM−CSFおよびIL−4の存在下で維持および/または増殖され得る。
【0053】
未成熟樹状細胞は新規の抗原をプロセシングする能力を保持するので、これらの細胞がいくつかの応用において好ましい場合がある。(たとえば、Kochら、J. Immunol. 155巻:93〜100頁(1995年)を参照のこと)。対照的に、成熟樹状細胞(たとえば、CD14、CD11c、CD83、CD86、HLA−DR)、抗原に暴露しプロセシングし、適切な成熟条件に暴露された成熟樹状細胞は、新規の抗原を有効にプロセシングする能力を典型的に喪失した。成熟樹状細胞は、細胞表面上で提示のためにMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子に結合できるペプチドと接触し得る。
【0054】
培養の間、未成熟樹状細胞を場合によっては所定の抗原に暴露することができる。適切な所定の抗原には、T細胞の活性化が望まれる上記のような任意の抗原を含むことができる。1つの実施形態では、未成熟樹状細胞は癌免疫療法および/または腫瘍増殖阻害のために、腫瘍細胞溶解物、たとえばグリア芽細胞腫、前立腺、肺、卵巣、乳房、結腸、脳、黒色腫、腫瘍細胞溶解物などの存在下で培養される。他の抗原には、たとえば細菌およびウイルス抗原、腫瘍細胞、精製された腫瘍細胞膜、腫瘍特異的または腫瘍関連抗原(たとえば、腫瘍からの単離した抗原、融合タンパク質、リポソームなど)、細菌細胞、細菌抗原、ウイルス粒子、ウイルス抗原、ならびにその他の抗原が含まれ得る。さらに抗原を発現する形質転換したまたはトランスフェクトした宿主細胞の表面上で、または所望の抗原を発現するトランスフェクトしたもしくは形質転換した細胞の精製された細胞膜もしくは細胞溶解物で抗原は発現され得る。
【0055】
腫瘍細胞溶解物などの抗原と接触後、抗原特異的樹状細胞などの集団を増殖するために、細胞を任意の適切な時間培養して抗原の取り込みおよびプロセシングを行わせることができる。また未成熟樹状細胞を、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子に関して抗原を提示する活性化された樹状細胞に成熟することができる。このような成熟は、たとえば他の既知の成熟因子の非存在下で組織培養基質への樹状細胞の付着を誘導する条件下で、組織培養基質上における培養により、樹状細胞分化誘導因子を用いて達成できる。典型的には、樹状細胞分化誘導因子はGM−CSFおよびIL−4、IL−13またはIL−15などである。
【0056】
別の態様によれば、樹状細胞は、所定の抗原および指向性成熟因子に暴露することができる。指向性成熟因子は単独で使用された場合、単球樹状前駆細胞の分化の誘導または未成熟樹状細胞の成熟を誘導しないが、典型的には活性化プロセスと組み合わせた場合、DCの成熟をTh−1またはTh−2応答を誘導できる細胞へと導く。インターフェロンガンマは、Th−1応答の方へ誘導されたT細胞応答バイアスを誘導できる因子の例である。
【0057】
本発明の別の実施形態では、所定の抗原に暴露された未成熟樹状細胞を、in vitroで抗原に対してT細胞を活性化するために用いることができる。樹状細胞は、抗原曝露の直後にT細胞を刺激するために使用することができる。あるいは樹状細胞は、抗原およびT細胞に曝露する前に、サイトカインの組合せ(たとえば、GM−CSFおよびIL−4)の存在下で維持することができるか、または樹状細胞は、その後に使用のために当分野では周知である方法によって低温保存することができる。特定の実施形態では、ヒト樹状細胞がヒトT細胞を刺激するために使用される。
【0058】
T細胞またはT細胞のサブセットを、反応細胞として用いるために種々のリンパ系組織から得ることができる。そのような組織は、脾臓、リンパ節、および末梢血液を含むがこれらに限定はされない。単離したまたは精製されたT細胞は、混合したT細胞集団としてまたは精製されたT細胞サブセットとして、所定の抗原に暴露された樹状細胞と共培養できる。
【0059】
たとえば、精製されたCD8T細胞を、抗原特異的CTL応答を誘発するために抗原に暴露された樹状細胞と共培養することができる。さらにCD8およびCD4T細胞の両方の混合培養において、CD4T細胞を早期に除去することにより、CD4細胞の過成長を阻止することができる。T細胞の精製は、CD2、CD3、CD4、CD6および/またはCD8に対して誘導された抗体の使用を含むがこれに限定されない、ポジティブまたはネガティブ選択によって達成することができる。
【0060】
あるいは、CD4およびCD8T細胞の混合集団を、細胞障害性およびTヘルパー免疫応答の両方を含むある抗原に対して特異的な応答を誘発するために、樹状細胞と共培養することができる。ある実施形態では、活性化されたCD8またはCD4T細胞は、本発明の方法に従って産生することができる。典型的には、抗原反応性で分極化したT細胞を産生するために使用された成熟し感作された樹状細胞は、この樹状細胞を投与しようとする被験体と同系である(たとえば、被験体から得られる)。あるいは、予定されたレシピエント被験体と同じHLAハプロタイプを有する樹状細胞を、HLA適合ドナー由来の非癌性細胞(たとえば、正常細胞)を用いてin vitroで調製することができる。特定の実施形態では、CTLおよびTh−1ヘルパー細胞を含む抗原反応性T細胞は、免疫刺激のための細胞の供給源としてin vitroで増殖される。
【0061】
細胞集団のin vivoにおける投与
本発明の別の態様では、免疫刺激を必要とする被験体に、成熟し感作された樹状細胞または活性化され、たとえば分極化したT細胞、またはそのような細胞を含む細胞集団を投与する方法を提供する。このような細胞集団は、成熟して活性化された樹状細胞の集団および/または活性化された、たとえば分極化されたT細胞集団の両方を含むことができる。ある実施形態では、このような方法は、抗原特異的T細胞応答を誘導するよう感作された成熟し活性化された樹状細胞集団を形成するために、樹状細胞前駆体または未成熟樹状細胞を得て、組織培養基質、樹状細胞分化誘導因子、および所定の抗原との接触によってそれらの細胞を分化させて成熟させることにより実施される。未成熟樹状細胞は、活性化する前に、活性化の間にまたは活性化後に抗原と接触されることができる。成熟したまたは活性化された樹状細胞は、免疫刺激を必要とする被験体に直接投与することができる。
【0062】
関連する実施形態では、リンパ球集団内のT細胞を刺激するために、活性化されたまたは成熟した樹状細胞は被験体由来のリンパ球と接触できる。抗原反応性CD4および/またはCD8T細胞の細胞培養でのクローン増殖に引き続き、場合によっては活性化され分極化されたリンパ球を、免疫刺激を必要とする被験体に投与することができる。ある実施形態では、活性化されて分極化されたT細胞は被験体に対して自己由来である。
【0063】
別の実施形態においては、樹状細胞、T細胞、およびレシピエント被験体は、同じMHC(HLA)ハプロタイプを有する。被験体のHLAハプロタイプを決定する方法は当分野で公知である。関連する実施形態では、樹状細胞および/またはT細胞はレシピエント被験体に対して同種異系である。たとえば樹状細胞は、同じMHC(HLA)ハプロタイプを有するT細胞およびレシピエントに対して同種異系であり得る。同種異系細胞は、典型的には少なくとも1つのMHC対立遺伝子に一致する(たとえば、全てのMHC対立遺伝子ではないが、少なくとも1つを共有する)。より典型的でない実施形態では、樹状細胞、T細胞およびレシピエント被験体は互いに関して全て同種異系であるが、全てが共通して少なくとも1つの共通のMHC対立遺伝子を有している。
【0064】
1つの実施形態によれば、T細胞は、未成熟樹状細胞を得た同じ被験体から得られる。in vitroでの成熟と分極化の後、自己由来のT細胞を被験体に投与して、既存の免疫応答を誘発および/または増大させる。たとえば、T細胞を約10〜約10細胞/mの体表面積の用量で静脈内注入により投与することができる(たとえば、Ridellら、Science 257巻:238〜241頁(1992年)を参照のこと、参考として本明細書中に援用される)。注入は所望の間隔で、たとえば毎月繰り返し得る。レシピエントをT細胞注入の間および注入後に、副作用の何らかの徴候についてモニターし得る。
【0065】
別の実施形態によれば、本発明による新規の、未使用の汚染されていない組織培養基質との接触により成熟した樹状細胞は、直接腫瘍または標的抗原を含む他の組織に注射し得る。このような部分的に成熟した細胞は、抗原を取り込みin vivoでT細胞にその抗原を提示できる。
【実施例】
【0066】
以下の実施例は、単に本発明の種々の局面の例示として提供され、如何なる意味でも本発明を限定するものではないと解釈するべきである。
【0067】
(実施例1:組織培養基質との接触による単球性樹状細胞前駆体の成熟)
この実施例において、前駆体に関して富化された細胞集団における単球性樹状細胞前駆体は、GM−CSFおよびIL−4の存在下で分化して未成熟樹状細胞を形成する。未成熟樹状細胞を組織培養系から採取し、洗浄し計数して新規の汚染されていない組織培養容器中で所定の抗原と組み合わせる。所定の可溶性または粒子状抗原の存在下で、樹状細胞維持のために典型的な条件で、GM−CSFおよびIL−4を補充した典型的な樹状細胞培養培地で細胞を培養する。樹状細胞成熟因子を培地に添加しない。樹状細胞は、成熟樹状細胞に特徴的な細胞表面マーカーの存在を判定することにより、樹状細胞成熟因子の添加を伴わないで成熟したと判定される。
【0068】
簡単に述べると、未成熟DCは1%ヒト血漿を補充したOptiMEM(登録商標)培地(Gibco−BRL)の存在下で、プラスチックと末梢血単球を接触させることによって調製される。結合していない単球は洗浄により除去され得る。結合した単球は、1ミリリットル当たり500単位のGM−CSFおよび500の単位のIL−4の存在下で約6〜7日間、X−VIVO 15(登録商標)培地中で培養され得る。
【0069】
未成熟DCをリンスして採取し、この細胞を培養培地で洗浄する。細胞を計数し、洗浄したDCを、たとえば治療を受けるために患者から外科的に摘出されたグリア芽細胞腫由来の腫瘍細胞溶解物と組み合わせる。上記のようなGM−CSFおよびIL−4を有する培養培地中のDCならびに溶解物を、新規の汚染されていない未使用の組織培養ディッシュに添加し、約12〜約20時間培養する。代わりの実施形態では、応答の促進されたTh−1を誘導するために、インターフェロンガンマを添加し得る。
【0070】
活性化されたDCを採取し、洗浄して患者に投与するために調製する。活性化されたDCのサンプルを、CD14、CD83、CD86およびHLA−DRの各々に特異的な抗体で標識して細胞の表現型を調べるために使用する。標識した細胞をフローサイトメトリーで分析して、細胞の表現型を決定する。活性化されたDCは、ほとんどまたは全くCD14を示さないで、CD83に関しては陽性であり、成熟した樹状細胞に対して予想されるような高いレベルのCD86およびHLA−DR発現する。
【0071】
活性化されたDCの残りの部分を、1回の注射につき1×10細胞〜1×1010細胞の量で患者に投与する。抗原特異的免疫応答の誘導は、MHCテトラマー解析および/またはELISAによる抗原に対する抗体反応よりT細胞応答を測定することによって評価する。
【0072】
(実施例2:成熟因子を伴わないで活性化された単球性樹状細胞前駆体細胞の細胞表面表現型の測定)
この実施例では、単球をプラスチック組織培養容器への付着によって精製し、採取して洗浄し、新たな培養期間の間、新規の組織培養容器に再懸濁した。成熟樹状細胞マーカーであるCD83の細胞表面発現を測定した。
【0073】
未成熟DCを産生するために、単球をプラスチックへの付着によって精製し、GM−CSFおよびIL−4ならびに1%ヒトAB血清を有する樹状細胞培地で約7日間培養した。約7日後に、培地中でほとんど全て遊離して浮遊している細胞を採取し、GM−CSFおよびIL−4ならびに1%ヒトAB血清入りの樹状細胞培地を有する未使用の汚染されていないポリスチレン組織培養フラスコに植え継ぎを行った。倒立顕微鏡下で植え継いだ細胞を目視観測して、大部分の細胞が組織培養表面にしっかりと付着していることを認めた。植え継ぎの20時間後に、細胞はDCマーカーCD83の誘導を示した。以下の表は、単離した単球の種々のサンプルでのCD83の染色を示す。
【0074】
【表1】

(実施例3:成熟因子を伴わずに活性化された樹状細胞の臨床的使用)
この実施例では、樹状細胞分化因子を伴わずに活性化され、患者から調製した腫瘍溶解物と接触した多形性神経膠芽細胞腫患者から得た樹状細胞組成物の安全性および有効性を調べた。
【0075】
腫瘍溶解物は外科的に摘出した腫瘍組織から調製した。単離した腫瘍組織を細かく切り刻み、組織を解離させるコラゲナーゼを含む緩衝液を有する容器に入れた。この混合物を室温度で一夜放置した。組織消化物を確保する濾過の後、遊離された腫瘍細胞を遠心分離してペレットにした。細胞ペレットを小量のRPMI 1640に懸濁し、3サイクルの凍結融解に付した。凍結融解の後、腫瘍溶解物を遠心分離して清澄化し、滅菌のためにタンパク質を含む上清を0.22ミクロンフィルターで濾過した。
【0076】
白血球搬出法の産物をFICOLL勾配に引き続くプラスチックへの付着により精製して、単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団を調製した。付着細胞は、標準的な樹状細胞培養条件下で、hGM−CSFおよびhIL−4の各々500U/mlならびに10%ABヒト血清で補充されたRPMI 1640中で7日間培養した単球性樹状細胞前駆体であった。
【0077】
7日後に分化した未成熟樹状細胞を採取して洗浄し、その後に使用するため凍結するかまたは患者の腫瘍溶解物と混合し、1%〜10%のヒトAB血清ならびにhGM−CSFおよびIL−4の各々500U/mlが存在する新鮮な組織培養フラスコに植え継いだ。DCの最終濃度は50万〜200万細胞/ml(典型的には1×10細胞/ml)であり、腫瘍溶解物の最終濃度は、10〜1000μm/ml(典型的に100μg/ml)であった。
【0078】
最初治験で記載された患者は、自己の培養した腫瘍細胞由来の腫瘍溶解物と接触した樹状細胞を投与された。試験は段階的用量増加試験であり、3つの被験体に1×10DCを投与し、3つの被験体に5×10DCを投与し、6つの被験体に10×10DCを投与した。免疫応答は、遅延型過敏症(DTH応答)、細胞障害性T細胞応答(CTL)を測定することにより、および再発疾患の場合には再手術の間に浸潤性リンパ球の存在を測定することにより評価した。それぞれのアッセイは、誘導された免疫応答の異なる側面を測定する。DTH応答は典型的にはヘルパーT細胞(Th)活性の証拠であるが、CTL応答は、誘導された応答が腫瘍細胞を殺傷する能力を有するT細胞を誘導したかどうかを測定する。反応後腫瘍で検出される浸潤性T細胞は、活性化されたT細胞が腫瘍部位に遊走してin situで腫瘍細胞を殺傷する能力を有するかどうかを測定する。
【0079】
【表2】

浸潤性リンパ球の数を半主観的な評価により記録した
n.a.、手術が実施されなかったため、適用不可能。
【0080】
第IIの治験もまた、1回の注射につき1×10のDCが投与される4つの被験体、1回の注射につき5×10DCが投与される6つの被験体および1回の注射につき10×10DCが投与される6つの被験体を用いる段階的用量増加試験であった。この治験では、腫瘍溶解物はそれぞれ特定の患者から摘出された腫瘍に由来し、この溶解物はその患者に由来するDCと接触した。免疫応答は、ワクチン接種後に抗原特異的CD8T細胞に対するテトラマー染色によりおよび可能である場合には再手術時に、浸潤性腫瘍内T細胞の存在を測定することにより評価した。典型的には、再手術は疾患の再発後にのみ実施した。患者のうちの13例は、新たに多形性神経膠芽細胞腫(GBM)と診断され、2例は再発GBMを有し、一例は再発グレードIII乏突起星細胞腫(oligoastrocytoma)を有していた。
【0081】
抗原特異的T細胞に対するテトラマー染色によって免疫応答を評価することにより、所定の抗原に対して特異的T細胞受容体を発現する循環血中のT細胞の存在を測定することおよびこの細胞の量の定量化が可能になる。このようなT細胞は、CD8も発現する場合、これらの抗原に対しするCTL集団を代表するものと推定される。この治験に選択された抗原は、最初に摘出された腫瘍に存在することが組織学的方法により示された既知の腫瘍抗原であった。反応性を標準的分析法を使用して、Gp100(黒色腫関連の腫瘍抗原、GBMでも認められる)、Trp−2(チロシナーゼ関連タンパク質2)、Her−2(上皮成長因子受容体関連受容体チロシンキナーゼ)、およびCMV(サイトメガロウィルス)を含む腫瘍関連抗原に関して調べた。
【0082】
抗原特異的CD8T細胞に対するテトラマー染色を、7例の患者で試み、陽性反応が5例で検出された。5例の反応性の患者のうち、2例は1×10のDCで免疫し、3例は10×10DCで免疫した。これらの結果は、本発明の方法により成熟したDCは、大多数の患者で免疫応答を誘導できることを示している。ほとんどの場合、その応答は抗原特異的細胞障害性T細胞応答を含んでいた。
【0083】
先の実施例は、例示するために提供されているのであって、本発明の請求の範囲を限定するものではない。本発明の他の変更は当業者には直ちに明白であり、添付の請求の範囲によって限定される。本明細書に引用された全ての刊行物、特許、特許出願、その他の参考文献は、また本明細書中で参考としてその全体が援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化された樹状細胞の富化された集団を含む細胞集団を産生するための方法であって、組織培養基質と未成熟樹状細胞の付着、および該活性化された樹状細胞の成熟に十分な時間での該樹状細胞のin vitro培養に適した条件下で、未成熟樹状細胞の富化された集団を含む細胞集団を、組織培養基質および樹状細胞分化因子を有する培地と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
所定の抗原が、前記組織培養基質と接触される前に、接触すると同時に、または接触後に前記細胞集団と接触される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の抗原が、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド、または単離した抗原である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞溶解物または膜調製物が、脳腫瘍、前立腺腫瘍、前立腺組織、卵巣腫瘍、乳房腫瘤、胸部組織、白血病細胞集団、肺腫瘍、黒色腫、膀胱腫瘍、または腫瘍細胞系から得られる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脳腫瘍が多形性神経膠芽細胞腫または乏突起星細胞腫である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記樹状細胞分化因子がGM−CSF、IL−4、IL−13、IL−15またはこれらの組合せである請求項1から5までのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記未成熟樹状細胞が、単球性樹状細胞前駆体に関して富化された細胞集団に由来する請求項1から6までのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
単球性樹状細胞前駆体に関して富化された前記細胞集団が、樹状細胞分化誘導因子と接触される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記樹状細胞分化誘導因子が、GM−CSF、IL−4、IL−13、またはIL−15、およびこれらの組合せである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記単球性樹状細胞前駆体が、患者に由来するかまたはHLA適合個体に由来する請求項7から9までに記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍細胞および前記樹状細胞が患者に由来する請求項3から9までのいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記未成熟樹状細胞が、指向性成熟因子とさらに接触する請求項1から11までのいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記指向性成熟因子がインターフェロンガンマである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
未成熟樹状細胞を活性化するための方法であって、未成熟樹状細胞のin vitro培養、および組織培養基質に対する該未成熟樹状細胞の付着に適した条件下で、該未成熟樹状細胞を該組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触させる工程を含む方法。
【請求項15】
前記未成熟樹状細胞を前記組織培養基質と接触させる前に、接触すると同時に、または接触後に所定の抗原と該未成熟樹状細胞を接触させることをさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記所定の抗原が、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド、または単離した抗原である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞溶解物または膜調製物が腫瘍組織または腫瘍細胞系に由来する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍組織または腫瘍細胞系が、脳腫瘍、前立腺腫瘍、卵巣腫瘍、乳房腫瘤、肺腫瘍、黒色腫、膀胱腫瘍、または白血病細胞集団から得られる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記脳腫瘍が、多形性神経膠芽細胞腫または乏突起星細胞腫である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記樹状細胞分化誘導因子が、GM−CSF、IL−4、IL−13、IL−15、またはこれらの組合せである請求項14から19までのいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記未成熟樹状細胞が指向性成熟因子とさらに接触する請求項14から20までのいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記指向性成熟因子がインターフェロンガンマである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
T細胞を活性化するための方法であって、
T細胞と、組織培養基質に対する未成熟樹状細胞の付着を誘導する条件下で、該組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子との接触により成熟した樹状細胞集団および所定の抗原とを接触させる工程を含む、方法。
【請求項24】
活性化された抗原特異的T細胞を産生するための方法であって、
単離した未成熟樹状細胞を所定の抗原と接触させる工程;
組織培養基質に対する該未成熟樹状細胞の付着を誘導する条件下で、該単離した未成熟樹状細胞を、該組織培養基質および樹状細胞分化誘導因子と接触させて該未成熟樹状細胞を活性化する工程;ならびに
該活性化された樹状細胞をナイーブT細胞と接触させて活性化された抗原特異的T細胞を形成する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記所定の抗原が、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、腫瘍細胞、細菌細胞、抗原を発現する組換え細胞、細胞溶解物、膜調製物、組換え産生された抗原、ペプチド抗原、または単離した抗原である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞溶解物または膜調製物が、脳腫瘍、前立腺腫瘍、前立腺組織、卵巣腫瘍、白血病細胞集団、肺腫瘍、乳房腫瘤または膀胱腫瘍から得られる請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記脳腫瘍が、多形性神経膠芽細胞腫または乏突起星細胞腫である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
最初の工程として、前記未成熟樹状細胞を形成するために分化誘導因子の存在下で、単球性樹状細胞前駆体を培養する工程をさらに含む請求項24から27までのいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記分化誘導因子が、GM−CSF、インターロイキン4、GM−CSFおよびインターロイキン4の組合せ、またはインターロイキン13である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記単球性樹状細胞前駆体がヒト被験体から分離される請求項28および29に記載の方法。
【請求項31】
前記未成熟樹状細胞およびT細胞が互いに自己由来である請求項30に記載の方法。

【公表番号】特表2009−518045(P2009−518045A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544561(P2008−544561)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/047083
【国際公開番号】WO2007/067782
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508170014)ノースウエスト バイオセラピューティクス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】