説明

本瓦葺型屋根

【課題】 十分な耐久性を確保しつつ軽量な本瓦葺屋根を提供する。
【解決手段】 チタン製の谷瓦11とチタン製の山瓦12とを野地板13に交互に列状に葺いて本瓦葺型屋根が構成されている。この谷瓦11は、チタン金属板を舟形状に成形してなり、上方に湾曲形成された円弧状の立ち上がり部19と、立ち上がり部19の先端を内方向に折り下げて形成されたはぜ溝21とを有している。この谷瓦11と野地板13との間には発砲スチロール製のバックアップ材が列状に介装されている。また、山瓦12は、チタン金属板を横断面半円状に湾曲形成してなり、開口部にはぜ溝21と係合組付するはぜ部28を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形された山瓦と金属成形された谷瓦とを交互に列状に葺いて屋根を構成する本瓦葺型屋根に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、城郭・神社・仏閣などの伝統的な純和風建築物の屋根は、谷瓦と山瓦とを交互に葺いた本瓦葺きが一般的に用いられている。
【0003】
この本瓦葺きの一例を説明すれば、図4に示すように、屋根板1の上面の縦桟木2間毎に谷瓦3を前後に列状に葺き、この谷瓦3の合わせ目に土若しくは漆喰などの固定材4を載置し、かかる固定材4を山瓦5で覆うことにより本瓦葺きが行われている。
【特許文献1】特開平10−8639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、伝統的な純和風建築物では、粘土瓦本葺きの屋根の人気が強いものの、近年、建築物の耐震性能が重視されていることから、屋根材の軽量化が特に要望されている。
【0005】
そこで、本発明は、チタン製の谷瓦とチタン製の山瓦とを用いて、本瓦葺き屋根を構成し、軽量な屋根材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決すべく創作された技術的思想であって、請求項1記載の発明は、金属成形された山瓦と金属成形された谷瓦とを交互に列状に葺いて屋根を構成する本瓦葺型屋根であって、前記山瓦および前記谷瓦を、チタン材料を用いて構成したことを特徴としている。
【0007】
前記山瓦および前記谷瓦を構成するチタン材料は、重量当たりの強度、即ち比強度が優れ、銅板やステンレスよりも比重も軽いことから、軽量かつ耐久性の高い山瓦・谷瓦が提供される。
【0008】
この発明の一態様としては、請求項2記載の発明のように、前記谷瓦が、チタン金属板を舟形状に成形してなり、上方に湾曲形成された円弧状の立ち上がり部と、この立ち上がり部の先端を内方向に折り下げて形成されたはぜ溝とを有する一方、前記山瓦が、チタン金属板を横断面半円状に湾曲形成してなり、開口部に前記はぜ溝と係合組付するはぜ部を有する形態が挙げられる。
【0009】
また、他の態様としては、請求項3記載の発明のように、屋根の野地板と前記谷瓦との間にバックアップ材を介装した形態が挙げられる。このバックアップ材には主に発砲スチロールが用いられている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜3記載の発明によれば、軽量かつ耐久性の高い山瓦・谷瓦を用いて屋根が葺かれることから、建築物の耐震性能が向上する。
【0011】
特に、請求項2記載の発明によれば、バックアップ材によって谷瓦が補強され、断熱効果も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図3は、本発明の実施形態に係る本瓦葺型屋根を示し、図3に示すように、金属成形された谷瓦11と金属成形された山瓦12とを交互に列状に葺いて屋根を構成している。
【0013】
すなわち、屋根の野地板13上には、図1に示すように、杉材あるいは檜材の下地木材14が等間隔に配列されている。この下地木材14間には、前記谷瓦11が列状に葺かれている一方、前記下地木材14の瓦枕15に前記山瓦12が列状に葺かれ、この両者11,12が前記瓦枕15に釘止めされている。この野地板13の側端には、図3に示すように、唐草16が取り付けられる一方、前記瓦枕15の前端部には巴17が取り付けられる。
【0014】
前記谷瓦11および前記山瓦13は、0.3mmの厚さに設定されたチタン金属板を、プレス成形機にて舟形に折曲形成されている。このチタン金属板は、「JIS 1種」の工業用純チタンにより構成されている。
【0015】
具体的には、前記谷瓦11は、図1に示すように、横断面コ字状に形成され、長方形状の本体18から上方に湾曲形成された円弧状の立ち上がり部19と、この立ち上がり部19の中央先端20を内方向に折り下げて形成されたはぜ溝21と、前記立ち上がり部19の前後部を外方向に向かって折曲した釘止め代22と、前記本体18の前端部に縦断面L字状に折曲された折下部23と、前記本体18の後端部に縦断面L字状に折曲された折上部24とを有している。
【0016】
このうち前記はぜ溝21は、前記立ち上がり部18の長手方向に沿ってはぜ幅15mmに形成されている。また、前記折下部23および前記折上部24は、前記本体18の前後端部の長手方向に沿って形成され、前記本体18から垂直に折下げ、あるいは折り上げられた後に、内方向に向かって前記本体18と水平に折り返され、雨水などの浸入を防止しつつ、粘土瓦と同等の厚さを確保して、長手方向の強度を向上させている。
【0017】
このような前記谷瓦11は、前記チタン金属板を、図2に示すように、テーパ状の略長方形に溝板25に裁断し、かかる溝板25をプレス成形機によって前記形状に成形されている。この溝板25は、長手方向の長さが307mmに設定され、幅方向の長さが315mmに設定されており、図2に示すように、両側端部および後端部に一対の切欠溝26,29が形成され、前端部30が湾曲状に形成されている。
【0018】
そして、図1の矢印A〜Eに示すように、前記溝板25の両側端部を湾曲状に折曲して前記立ち上がり部19を形成した後に、前記立ち上がり部19の中央先端を前記切欠溝26に沿って内方向に折り下げて前記はぜ溝21を形成し、前記立ち上がり部19の前後部を外方向に折曲して釘止め代22を形成し、前端部を縦断面L字状に折り下げて前記折下部23を形成する一方、後端部を前記切欠溝29に沿って折り上げて前記折上部24を形成して、前記形状の前記谷瓦が成形されている。
【0019】
また、前記谷瓦11と前記野地板13との間には、発泡スチロール製のバックアップ材27が介装されている。このバックアップ材27は、長手方向の長さが1500mm・幅方向の長さが140mmの長方形状に形成され、長手方向の250mm毎に15mmの段差が形成され、矢印Fに示すように、屋根の葺き方向に沿って敷き詰められている。このバックアップ材27の上面に前記谷瓦12が、矢印Gに示すように、列状に葺き上げられている。したがって、前記谷瓦12は、0.3mmと薄く設定されているものの、バックアップ材27に補強され、かつ屋根の断熱効果も向上している。
【0020】
一方、前記山瓦11は、横断面半円状に湾曲形成され、開口部に前記はぜ溝21と係合組付するはぜ部28を有し、長手方向および幅方向の長さが300mmの正方形状に切断された前記チタン金属板をプレスして成形されている。すなわち、矢印Hに示すように、開口部先端を内方向に折り返して前記はぜ部28を形成するとともに、前後端部を折り返して内周面に当接させて成形されている。
【0021】
この成形後の前記山瓦12は、長手方向の長さが290mmに設定され、開口部間の距離が274mmに設定されている。また、前記はぜ部28は、開口部の長手方向に沿ってはぜ幅13mmに形成され、組付後の毛細管現象による雨水の進入を防止している。
【0022】
そして、前記はぜ部28を前記はぜ溝21に組付けつつ、矢印Iに示すように、前記山瓦12を前記瓦枕15に沿って被せて葺き上げられている。この後に前記山瓦12同士を長手方向の40mm毎に重ね合わせて釘を打ち込むとともに、前記山瓦12の外側から釘を前記谷瓦11の釘止め代22の位置に打ち込んで、両者11,12が前記瓦枕15に固定され、これによりチタン製の本瓦型屋根が施工される。
【0023】
【表1】

【0024】
表1は、「JIS 1種」の工業用純チタン(厚さ0.5〜15mm未満)の機械特性試験と、同工業用純チタン(厚さ0.5〜5mm未満)の曲げ試験の結果を示している。この機械特性試験には引張強度と伸び率の結果が示され、曲げ試験には曲げ角度と内側半径の結果が示されている。
【0025】
表1によれば、前記工業用純チタンは、引張強度「210−410N/mm2」と示され、耐性「165N/mm2以上」と示され、伸び率「27%以上」と示され、曲げ角度「180°」と示され、内側半径が「厚さ2倍」と示されている。
【0026】
そうすると、前記谷瓦11および前記山瓦12は、「JIS 1種」の工業用純チタンにより構成されているから、鋼と同程度の強度を持ち、重量当たりの強度、即ち比強度が優れていることが確認できる。
【0027】
【表2】

【0028】
表2は、本実施形態に係るチタン製の本瓦型屋根と、粘土本瓦屋根の1m2値の質量表を示している。ここでは両屋根の谷瓦および山瓦の質量(1m2値)と、両屋根の下地木材の質量(1m2値)とが示されている。
【0029】
表2によれば、山瓦および谷瓦の質量(1m2値)について、前記チタン製の本瓦型屋根では「2.86kg」と示され、粘土本瓦屋根のでは「50.00kg」と示されている。
【0030】
また、下地木材の質量(1m2値)について、前記チタン製の本瓦型屋根では「10.25kg」と示され、粘土本瓦屋根では「3.70kg」と示されている。
【0031】
さらに、前記チタン製の本瓦型屋根の総質量(1m2値)は「10.25kg」と示され、粘土本瓦屋根の総質量は「53.70kg」と示されている。
【0032】
したがって、本実施形態に係るチタン製の本瓦型屋根によれば、粘土本瓦屋根よりも、山瓦・谷瓦の重量が約1/20に軽減されるばかりか、総重量が1/5に軽減されている。これにより十分な強度を確保しつつ、軽量な本瓦屋根が提供され、屋根構造に対する荷重負荷が軽減され、この点で社寺仏閣などの建築物の耐震性能が向上し、施工も容易となる。
【0033】
【表3】

【0034】
表2は、チタンと、ステンレス(SUS304.SUS316)と、鉄と、銅と、アルミニウムとの比重とを示している。ここではチタンの比重(4.51)は、ステンレスの比重(7.93,8.0)、鉄の比重(7.9)、銅の比重(8.9)の約半分であることが示されている。
【0035】
そうすると、前記谷瓦11および前記山瓦12は、JIS 1種」の工業用純チタンにより構成されているから、粘土製瓦のみならず、ステンレス・銅・鉄製の山瓦・谷瓦よりも重量が軽減され、この点でも屋根構造に対する荷重負荷を小さくできる。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば前記谷瓦11および前記山瓦12を「JIS 1種」の工業用純チタンのみからず、「JIS 2種」や「JIS 3種」の工業用純チタンや、その他のチタン合金を用いて成形することもできる。また、前記谷瓦11と前記山瓦12とを、前記はぜ溝21と前記はぜ部28のはぜ組みではなく、他の組付構造を用いて組付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る本瓦葺型屋根の組付図。
【図2】同 溝板の平面図。
【図3】同 葺き上げ後の斜視図。
【図4】従来の本瓦葺屋根の部分拡大図。
【符号の説明】
【0038】
11…谷瓦
12…山瓦
13…野地板
19…立ち上がり部
21…はぜ溝
27…バックアップ材
28…はぜ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形された谷瓦と金属成形された山瓦とを交互に列状に葺いて屋根を構成する本瓦葺型屋根であって、
前記山瓦および前記谷瓦を、チタン材料を用いて構成したことを特徴とする本瓦葺型屋根。
【請求項2】
前記谷瓦が、チタン金属板を舟形状に成形してなり、上方に湾曲形成された円弧状の立ち上がり部と、この立ち上がり部の先端を内方向に折り下げて形成されたはぜ溝とを有する一方、
前記山瓦が、チタン金属板を横断面半円状に湾曲形成してなり、開口部に前記はぜ溝と係合組付するはぜ部を有することを特徴とする請求項1記載の本瓦型葺屋根。
【請求項3】
前記谷瓦は、屋根の野地板上に列状に葺かれ、
前記谷瓦と前記野地板との間にバックアップ材を介装したことを特徴とする請求項1または2いずれか記載の本瓦型葺屋根。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−35912(P2009−35912A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200304(P2007−200304)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(504452158)株式会社小野工業所 (1)